武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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19 空中覇王翔吼拳

反董卓連合が結成された。

 

各地の諸侯に檄文が飛ぶ。

帝を操り、悪政を敷いて民を苦しめる董卓を討て、と。

 

発起人は袁紹。

高笑いで有名な、ないすばでぇのクルクル金ピカさんだ。

 

 

* * *

 

 

「皆、聞け!」

 

戻ってきた華雄姉さんにより、隊員たちが集められた。

 

「我ら誇り高き華雄隊は董卓様の御為、出陣することとなる」

 

淡々と、歴戦の将らしく語る姉さん。

 

反董卓連合が結成されたこと。

連合の首魁は袁紹であろうこと。

そして、来るとしたら東から。

 

「泗水関という堅固な関がある。我らはそこに詰め、袁紹らを打ち破るのだ!」

 

よって洛陽の警固は賈駆隊と交代する、とも。

 

「仕掛けてきたのは奴らの方。一切の容赦は不要だ!」

 

そう言って締めるや、皆も鬨の声を上げて意気軒高だ。

俺も少し高揚してるのを自覚する。

 

落ち着かせるつもりで、賈駆っちから貰った情報を付け足す。

 

「有力な諸侯はまず袁紹。次いで袁術、曹操と馬騰に公孫賛。それに孫策。あとは、最近力を付けてきた劉備だな」

 

兵力は十三万から十五万と言ったところ。

すげぇなぁ。

 

薙ぎ払い甲斐がありそうだ。

 

ちなみに華雄姉さんは一言も言わなかったが、俺が貰った方針書には籠城とある。

時間を稼ぎながら戦うのが定石と言うことなんだろう。

 

華雄隊だけなら突撃、粉砕、大喝采!だよね。

 

賈駆っちも当然分ってるのだろう、関の主将に張遼を指名していた。

華雄姉さんは副将になる。

 

あと何故か今回、俺も一隊を預かることになった。

仮称・呂羽隊。

 

旗を掲げるほど立派なもんじゃない、華雄隊の中の一部隊だけどな。

俺が指導してきた奴らの中で、希望者が集って出来た烏合の衆だ。

烏合の衆は言い過ぎだけど、今の俺に集団行動の指導なんて出来ないからな。

 

まあ、基本的には華雄隊副長としての仕事がメインだ。

その傍ら一部隊を指揮してみろってことだろう。

初めての経験だが、せっかくの機会だし頑張ってみるとしよう。

 

そうそう、虎牢関には呂布と陳宮が詰めるみたいだ。

多分華雄姉さんは突撃するだろうから、危なくなったら逃げる算段も必要かと思われる。

地図をよくよく確認しておこう。

 

 

その夜。

城の中庭で簡単な酒宴が催された。

各隊の将も兵も入りまじり、楽しみ騒いでいる。

 

俺も仮称・呂羽隊に配属された隊員らと飲んでいた。

 

「副長、いつか絶対あんたを超えて見せる!」

 

そんな熱い奴もいたり、

 

「あの時のこと、絶対に忘れません。きっと、復讐を…」

 

なんて呟く奴もいたり。

皆と親睦を深めつつ、次なる戦へ向けて英気を養っていた。

 

中庭の奥、賈駆っちの近くに儚げな少女が一人。

あれが董卓ちゃんか。

心優しく、配下の皆が傷つくのを好まないと聞いた。

 

そして、華雄姉さんが武を捧げてる主である。

なら俺は、その華雄姉さんを支えることで、間接的ながら幾許かでも負担を和らげるよう努めよう。

 

 

* * *

 

 

張遼隊、華雄隊は泗水関に着陣。

数はおよそ四万。

仮称・呂羽隊も含まれる。

 

連合軍側も徐々に集結しつつある。

開戦まで、もう間もない。

 

戦いの方針は、まずは籠城。

 

よって、まずは補給の確認と城壁や門の補修。

そして攻城軍への主たる攻撃方法、即ち弓矢や落石の準備を整えた。

 

基本的な戦略として、門を開けるのは負けた時だけ。

戦う手段は弓や投石といった、飛び道具に限る。

そう、賈駆っちの方針を噛み砕いて説明した。

 

猪突を行う華雄に、それを抑える張遼。

そんな図式が念頭にあったが、付き合ってみるに張遼だって余裕で戦闘狂だ。

一騎打ちとかも大好きだった。

 

俺も大好きだ。

 

みんな大好き。

 

やばいな、これ……。

 

だからこそ、自制して上記の通り門を開けちゃダメですよーっと言ってるんだ。

しかし華雄姉さんの自制心が切れた時、その時は俺も一緒に出て行く。

むしろ、俺が率先して出て行くつもりだ。

張遼には負けないぞ。

 

 

そして、ついに接敵。

先方は劉備軍と孫策軍。

 

「よし、敵が出て来たな。門を開モガ」

 

「アホ!話聞いとらんかったんか。時間稼いでくっちゅー話やったやろうが!」

 

「何を言う!ジッとしてるだけじゃ勝てんのだぞ!?」

 

そして端から籠城のつもりがない華雄姉さんと、すぐさま抑えにかかる張遼。

せっかく遠距離攻撃準備したのに、使う前からそれは流石にないよね。

 

敵の動き次第で判断すべきだと思うのだが。

 

「まあまあ、二人とも。まだ準備も整ってなさそうだし、少し落ち着こうぜ」

 

宥めると、とりあえずは矛を収めてくれた。

先が思いやられると張遼がぼやいていたが、激しく同感です。

 

華雄姉さんはここに居ても仕方ないと思ったのか、気まぐれ巡回を始めた。

密偵対策にいいかも知れないな。

 

 

翌日、遂に劉備軍と孫策軍が進撃し始めた。

 

そして始まる激しい口撃。

舌戦じゃない。

ただの罵詈雑言だ。

 

言ってるのは主に関羽さん。

声が良く通るのね。

 

次にやって来たのは多分孫策さん。

 

あ、やばっ

 

「我が母、孫堅に敗れた華雄に告げる!」

 

後ろで燃え上がる激情。

迸り連鎖するパトス。

 

「我が誇りを傷つけ、思い上がった愚か者に鉄槌を!全軍、突撃準備ッ」

 

あ、もう鎮火出来ないな。

とりあえず張遼と虎牢関に使者を出しておこう。

 

そして俺も、気を練り上げて備えることにした。

 

「華雄将軍」

 

「なんだ呂羽!止めるなよ!?」

 

言っても止まらないでしょうに。

 

「違う。開幕の合図は俺に任せてくれ」

 

そう言って既に開門しつつある門の前に立つ。

弓隊と投石隊には、関の上から援護射撃するように指示しておこうか。

 

さて、気はいい感じに纏えているな。

 

「じゃ、俺の合図で突撃してくれ」

 

僚友たちに言葉をかけ、眼前を注視。

スッと身体全体の力を抜き、両腕を交差。

 

「覇王ぉ……」

 

交差させた腕の向こうで、視界が開けた。

 

「翔吼拳ッ」

 

一瞬だけ腰溜めに引き、すぐさま両手を前に突き出す。

青く大きな気弾が放出され、同時に姉さんが突撃を指示。

大きなうねりとなって動き出した。

 

俺はそれを尻目に一旦門の上に駆け上がり、両足に気と力を込めた。

 

再度両腕を前に掲げ、気を集約。

右側腰部に両手の掌で圧縮するように溜め、全力で地面を蹴り跳躍。

 

狙うは劉備軍や孫策軍の更に先。

袁紹軍の牙門旗。

 

「覇王翔吼拳!!」

 

反動で後ろに吹き飛ばされながら、目で軌道を確認。

よし、いける。

開幕ぶっぱ(二発目)で旗を吹っ飛ばしてやるぜ!

 

 

 




18話でも誤字報告適用しました。いつもありがとうございます。

最近のトレンドは喉と熱。

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