武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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21 旋燕連舞脚

「暫烈拳!」

 

「幻影脚!」

 

研ぎ澄まされた拳と蹴りが交差し、昂じた気により火花が散るかのよう。

実に心が躍る。

一隊を率いたり副長として補佐に努めたりしていたが、やはり俺の根底にあるのは格闘家としてのそれだった。

 

相対する凪も、随分と強く鋭くなっていた。

正直想像以上だ。

 

繰り出す一手が上手く躱され、予測した一手が来ずに初動に遅れが生じる。

一々考えていては対応できないほどに、激しい攻防。

 

これは、奥義を繰り出すのも惜しくはない。

 

そう思ってしまう程だ。

しかし、それは叶わない。

 

俺が立つ今の立場、戦況、時間などから断念せざるを得なかった。

 

華雄隊の動きが予想以上に鈍い。

韓忠に退くよう伝えさせたはずだが、上手くいって無いようだ。

 

こうなっては泥沼になりかねない。

早めに直言して撤退させねば。

 

だからと言って、凪は何もせずに逃がしてくれるような甘い相手じゃない。

そこで、ひとつ区切りとすべき行動を起こした。

 

 

凪の呼吸を読み、踏み込む一歩のタイミングに合わせて俺も無呼吸で踏み込む。

体勢を低くして懐に潜り込むように入り、溜めなしで下から宛がう様に左アッパーを叩き込む。

そこから右ボディブロー、左サイドキックと連続で繋げて、最後に右ジャンプハイキックで吹っ飛ばした。

 

うむ、綺麗に入ったな。

 

「今の連撃は旋燕連舞脚。参考にしてくれよな」

 

もっと色々言いたいこともあったし、凪も言いたいことはあっただろう。

残念ながらここは戦場で、今は一刻を争う時だった。

諦めるしかない。

 

吹っ飛ばされた先で荒い息を吐く凪を見詰め、そして言った。

 

「修行して強くなれ!俺はそれ以上の修行をして強くなってやる!」

 

俺は身を翻し、華雄姉さんの下へ急いだ。

 

 

* * *

 

 

敵味方入り交る戦場を進む。

その中に、見覚えのある姿を発見。

 

韓忠が、誰かに押し切られかけていた。

技量で劣るのに粘れているのは、少なからず気を扱えるからだろう。

 

「虎煌拳ッ」

 

しかしそれも限界がある。

あわやと言うところで、横槍を入れて助けた。

 

「誰や!」

 

「おっと、李典か」

 

「なんっ…兄ちゃん!?」

 

まともに戦う李典の姿を見るのはえらい久しぶりだ。

そりゃ流石に李典が相手じゃ、韓忠ではまだ厳しかろう。

 

「無事か?それで、将軍は」

 

「ありがとう、ございます。華雄将軍は更に深く進んでおりまして…」

 

辿り着けてないところに李典に捉まった、か。

だとしたら、華雄姉さんのとこに居るのは于禁かな。

 

「やっぱ兄ちゃんやったんやな、袁紹の旗ぶっ飛ばしたんは」

 

そういや李典は覇王翔吼拳を知ってるもんな。

 

「華琳様もエライ驚いててな、すぐさま凪に兄ちゃんを捕えるよう命令してたで」

 

「ちゃんとお披露目出来て良かったぜ。凪とは、あっちの方でやりあってきたぞ」

 

「ちゃんとて…。でもそか、やっぱ凪だけじゃキツかったかぁ」

 

「だがとても強くなっていた。それでも負ける訳には行かないがな」

 

「ホンマは、ウチら三人であたる予定やったんけどな。それでも結果は変わらんかったかもな」

 

いや、流石に三対一は厳しいかも知れないぞ。

凪が一人で行くと、そう言ってくれたお陰で助かった訳か。

 

「まあ、それはともかく」

 

「言いたいことは分かるが、断る!」

 

李典がドリルのような武器を構えて言いかけるが、機先を制して断った。

 

ある意味、李典を韓忠で抑えていたとも言える状況。

于禁だけなら華雄姉さんも問題ないはず。

しかし袁紹軍は数だけは多いし、まあまあ優秀な武官もいた。

 

言っちゃ悪いが、李典や于禁に構ってる暇はない。

 

「李典、構えろ」

 

「ん?そら戦いやし構えとるけど…って、おわぁっ!?」

 

天地覇煌拳。

 

どごんっと思い切り腰を落とした正拳突きを放ち、李典を吹っ飛ばした。

以前夏候惇に披露した時よりは気の練りを甘くしたから、ダメージは然程でもないだろう。

 

「よし、韓忠。退路を確保しとけ!」

 

韓忠に指示を出して、俺は再び駆け出した。

 

 

* * *

 

 

華雄姉さんの下に辿り着くころには、結構な時間が経っていた。

どんだけ深く入り込んでんだよ。

 

到達するまでに、一般兵はもちろん袁紹軍の武将たちを随分吹っ飛ばしてきたってのもあるけど。

皆金ぴかで、ほとんど顔も名も知らぬ奴らだったが。

 

そしてようやく、華雄姉さんの真後ろに辿り着いた。

 

「はぁーーーーーーっ!」

 

金剛爆斧を振り回し、袁紹軍の兵士を吹き飛ばす姉さんの図。

まだ余裕がありそうだが、やはり近くに于禁もいた。

 

凪、李典と来て次は于禁か。

三人仲良く吹っ飛ばそう。

 

「于禁」

 

「へ?あ、…きゃあっ」

 

一声かけてからの虎咆疾風拳。

ボコンっと一撃。

 

不意打ちで悪いが、時間がないのよ。

 

「華雄姉さん」

 

「おお、呂羽か!」

 

「潮時です。退きましょう」

 

「なにぃ!?」

 

「このままだと押し込まれる。今なら退路の確保も出来てるから、さあ早く!」

 

「チッ……退くぞ!」

 

猪武者と称される姉さんだけど、まだ冷静でいてくれ良かった。

 

「おーっほっほっほっ!三国一の名家であるこのわたくしから、逃げられるとお思い?」

 

なんか聞こえたが、無視して反転撤収の準備を進める。

とりあえずの殿は俺が勤めよう。

 

華雄姉さんに率いられ、本隊が関の方へ戻って行く。

それを見た袁紹軍が、ここぞとばかりに攻勢をかける姿勢を見せた。

 

簡単には越えさせないぜ?

本日三発目となるが、覇王翔吼拳で後顧の憂いを少しでも減らしてから、な。

 

両手に気を回す。

腕の節々に、少し痺れてるような感覚がある。

 

ちょいとばかり無理をし過ぎたかな。

でも倒れる訳にはいかないし、やるっきゃない。

 

「はおぉーぅ……」

 

おぉぉ、力が抜ける……ぬぅぅぅっ

俺は負けん!

 

「翔吼拳っ」

 

ズバァッと、でっかい見慣れた気弾が袁紹軍目掛けて吸い込まれて行く。

パッと見はいつもの覇王翔吼拳だが、気の練りが全然ダメだった。

まだ一日経ってないってのにこの体たらく。

今後は、気力充足の修行も積まないとダメだな。

 

まあ今回は、こんなんでも問題なかったみたいだ。

疲れてるのは相手も同じ。

俺が思う以上にバタバタと倒れる範囲が狭かったが、それでも足を止めるには十分だった。

 

 

* * *

 

 

「大将!劉備軍が動くぞっ」

 

泗水関に戻る華雄隊の殿を務めていると、警戒させていた牛輔から一報が入った。

実に効果的で、嫌なタイミングだ。

幼女軍師の力量に間違いはない、か。

 

「分かった。俺は前に行くから、後方は任せるぞ」

 

「ああ、任せろ!」

 

とても嫌な予感がするので、華雄隊の一番前に行くことにした。

必死に追いついた俺の目に飛び込んできたのは、関羽さんの刃が華雄姉さんの首に吸い込まれそうになっている瞬間だった。

 

 

 




・旋燕連舞脚
初出はKOF99でまたもやロバートの技。
極限流連舞脚と違い、いつでも出せる場合が多い。

熱はともかく、喉と咳がヤバいので病院に行ってきました。
薬飲んで、とっとこ寝て治すのが一番なのでしょうね。

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