武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

25 / 109
他者視点詰め合わせ


25 気力溜め

一体全体、どう言う事ですの!?

 

関の方から、何やら大きく輝くものが飛んできたと思いましたら。

わたくしの牙門旗を飲み込み、あっという間に遥か彼方へ消え去ってしまいました。

 

三国一の名家であるこのわたくしを象徴するが如き、優雅で華麗な我が牙門旗。

それが、なんと見るも無残な姿に。

 

ゆ、許せませんわ!

一体誰が、このような野蛮なことを!?

 

「猪々子さん、斗詩さん。下手人を討ち取っておやりなさい!」

 

「あいよ!…斗詩ぃ、下手人って誰?」

 

「も~!麗羽様も文ちゃんも、ちゃんと考えて下さいよー!」

 

あらあら。

袁家の二枚看板のお二人に掛れば、下賤なものなど一捻りですわよ。

ええ。

 

三国一の名家であるわたくしの軍勢も当然、三国一。

さあ、全軍前進しなさい!

雄々しく!勇ましく!華麗に!

 

 

「あ、麗羽様!先陣は劉備隊ですが、どうしましょう?」

 

「何か問題が?劉備さんたちが、よりいっそう勇ましく進んで頂ければ済む話ですわ。」

 

「ええー…」

 

さて、野蛮な下手人のことはこれで良いでしょう。

問題は、あの優雅で華麗な旗を失ってしまったということ。

 

しかし!

三国一の当主であるわたくしは、この程度のことでは狼狽えませんわ!

 

こんなこともあろうかと、備えは万全ですわ。

さあ、次なる旗を掲げなさい!

 

おーっほっほっほっほ!

 

 

* * *

 

 

わたくしが動けば、泗水関を破ることなんて容易いものでしたわね。

次は虎牢関でしたか。

こちらも、すぐにわたくしの威光の前に跪くことになるでしょう。

 

いかに堅牢な関であろうと、わたくしの下に集った者たちが一気に掛れば一巻の終わり。

その為の布石は万全です。

 

劉備さんと孫策さん、それに白蓮さんは先の戦いで頑張って頂きました。

だから今回は、後方で英気を養って頂くことにしましたわ。

 

遂にわたくしの、三国一優雅な袁家の軍勢が先頭となるのです。

無様な真似はできませんことよ。

 

美羽さんと華琳さんを従えての先陣。

ふふ、まるで王者の行進。

気持ちいいですわ!

 

さあ皆さん!

開戦は近いですわよ?

準備を万端に整えるのです!

 

 

…あら。

門の上にどなたか立ってらっしゃる?

 

舌戦かしら。

いいわ、どんな野蛮なことを言うのか見物させてもらいましょう。

 

 

少し待っても何も始まらない。

だんだんとイライラしてきましたわ。

 

もういいですわ。

猪々子さん、ちょっとお水を……。

 

その瞬間、前にも見た大きく輝いた何かが放たれました。

それは上空をものすごい速さで進み、あっという間に後ろの方へ消え去っていきました。

 

あらあら、なんですの。

不発かしら?

 

そう言って笑おうとしましたが、出来ませんでした。

 

だって…。

 

「…姫ぇ。また…、旗が……」

 

そう、旗がなくなっていたのですもの。

またも、中ほどから上がぽっきりなくなっており、あまりのことに呆然としてしまいました。

 

慌てて周りを見回すと、美羽さんや華琳さんのところの旗にも被害があるようでしたわ。

 

流石のわたくしとしても、二度目ともなれば激情を抑えかねます。

これは、わたくしへの挑戦ですわね。

 

「みなさん!あの不埒者を、捕えて切り捨てなさい!」

 

絶対に、許しませんわ!

 

 

* * * *

 

 

「旗が……」

 

思わず呆然と呟いた。

俺が見上げる先には、つい先ほどまでそこに誇らしげにあったはずのものがない。

 

軍勢の中に複数ある、一軍を務める将の名を冠した牙門旗。

この一部に損傷、というか最も大事な旗の部分が消し飛んでいる。

 

そんな大それたことをやらかしたのは、虎牢関の上に立つあの人。

遠目でも分かる、特徴的な姿。

戦場とは思えないほどの軽装で、先の泗水関でも大いに活躍したらしい。

 

呂羽さん。

黄巾党の乱の後に旅立ち、洛陽に向かうらしいとは聞いたけど、まさか董卓軍に入っていたとは。

皆、特に凪は驚いていたなあ。

 

あ、でも華琳は喜んで見つけたら捕えるよう指示してた。

秋蘭も、どこか嬉しそうだった気がする。

 

泗水関の時は、袁紹軍が押し込まれた時に凪が向かって行ったけど取り逃がした。

華琳も咎めなかったし、凪も次こそはと意気込んでいた、のだが。

 

まさか、こんなことになるなんて。

 

泗水関を落とし、虎牢関に陣取ったその日のこと。

俺たちは袁紹軍の後ろに詰め、どう動くかを検討していた。

 

すると、関の方を警戒してた兵士が急いで入ってきて

 

「門の上に人影。動きがありそうです!」

 

と言ったから、一旦軍議は中止。

外の動きを確認していたんだ。

 

ふと、遠くで何かが光ったと思った次の瞬間。

ゴウンッと大きな音をさせながら、空中を光の塊が駆け抜けて行った。

 

近くに居た凪が、

 

「あれは、覇王翔吼拳…?」

 

と呟いていたから、例の覇王翔吼拳という技なんだろう。

泗水関の時は見えなかったしな。

まさかあそこまでのものだとは、思いもしなかった。

 

そして虎牢関の前面にあった袁紹、袁術、陶謙と言った有力諸侯の主な牙門旗が消滅。

少し離れた俺たち曹操軍と、馬騰軍や孫策軍にも被害が及んでいた。

 

孫策軍は少しダメージが入った程度で済んだが、こっちはそれどころじゃない。

メインである華琳のではないにしても、一つの旗が吹き飛ばされてしまったんだ。

 

これを知った華琳は激怒。

さっきまでは余裕の笑みで捕えて扱き使ってやる、なんて笑っていたもんだが。

眦を吊り上げ、秋蘭と凪に手荒く叩きのめせと言っていた。

 

秋蘭なんかも、討ち取ってくるなんて言ってたけど、流石に冗談だよな?

目が笑ってなかった気がしたけど……。

華琳もそのまま送り出しちゃうし。

 

呂羽さん。

なんであんなことしちゃったんですか。

流石に庇いようないですよ。

 

いや戦場だから仕方ないってのは分かる。

敵味方であるってことも。

 

でも華琳を本気で怒らせるのは、とても危ないと思うんだ。

流石に討ち取るなんてことはしないと思うけど、いやでも時代と世界を考えたら……。

 

呂羽さん、南無。

 

 

さて、呂羽さんの冥福を祈るのはここまでにして、俺は俺のやるべきことをしよう。

 

しかし最後にふと思う。

今回、董卓軍は全軍を放出してきている。

 

最強と名高い呂布。

神速の張遼。

そして、華雄軍に属している呂羽。

 

華琳は張遼を欲し、春蘭をそっちに回した。

呂羽さんの方に秋蘭を遣って、同時捕獲を試みてるようなんだが、上手くいくだろうか。

 

いや、別に彼女たちの力を信じてない訳じゃないんだ。

 

ただ、軍勢の旗だって一か所にまとまってあったわけじゃない。

いくら門の上から見渡せるからって、気弾一つでまとめて吹き飛ばせるなんて思いもしない。

それをやってのける呂羽という武将の力量。

 

その力が俺たちに向いた時、どうなるのだろうか。

秋蘭と凪だけで止められるのか、一抹の不安が過っていた。

 

 

 




・気力溜め
SVCの本気カラテの専用特殊動作。
必殺技じゃないとは思いますが、一応必殺技コーナーにクレジットされていたので。

24話の誤字報告適用しました。いつも助かります。

12月に入ってしまいました。
一応年内完結の予定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。