武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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28 飛燕足刀

ようやく華雄隊と合流。

 

俺、頑張ったよ。

 

「今まで、どこほっつき歩いてたんですか」

 

なのに韓忠からは鋭く攻め立てられる。

最初に距離置いたのオマエじゃないか。

 

とは思うものの、それを是として深入りに深入りを重ねたのは俺だから。

小言くらいは甘んじて受け入れよう。

 

華雄隊が無事でよかった。

韓忠もな。

 

「状況は?」

 

「…よくありませんね」

 

 

呂布ちんと俺をはじめとする華雄隊は、戦場を暴れまわって大いにかき回した。

連合側を慌てさせることは出来たが、それだけだったとも言える。

 

張遼は夏候惇を退けるも曹操様に捕えられ、呂布ちんは行方不明。

いや、あの遠くででっかい土煙たってる辺りにいそうではあるが。

ともあれ連絡はつかずじまい。

 

やむなく賈駆っちは撤退を選択。

華雄隊も続くよう言われたそうだ。

 

「副長がいませんでしたので、ここで待機しておりました」

 

しかし責任者たる俺がいなかったので、戻って来るのを待っていたと。

上位権限者たる賈駆っちの言葉なら、俺を無視して帰還しても問題はなかったと思うけどね。

この危険な戦場でさ。

 

俺はもう、嬉しくなって思わず韓忠を…

 

「かくなる上は早く戻りましょう。さあ、早く指示を」

 

はい、戻りましょう。

冷徹とも言えるほど冷え切った言葉を受けてしまっては仕方がない。

 

「全軍撤収。ガンガン退こうぜ!」

 

「二度目ですね、それ」

 

お気に入りなんだ。

 

華雄隊は整然と虎牢関へと撤退していった。

俺は韓忠とともに殿に残り、群がる金色その他(泥まみれ)を蹴散らしてこれを守った。

 

「先に戻っててもいいんだぞ?」

 

「いえ。またどこかに行かれても困りますので」

 

お目付役ですか。

苦笑をひとつこぼし、守り守られ無事に撤収が完了した。

 

 

* * *

 

 

「戻ってきたわね」

 

「今、戻りました」

 

虎牢関には賈駆っちが一人。

いや、華雄姉さんと牛輔もいる。

 

「呂羽、貴様が居ながら……くぅっ」

 

「華雄将軍。無理しないで下さい」

 

姉さんはまだ本調子じゃなさそうだ。

抑えきれなかったことに激昂しかけたが、首筋を抑えて蹲る。

 

慌てて傍にいた牛輔が介抱してる。

 

「華雄。呂羽のせいじゃないわ」

 

賈駆っちがそう取り成してくれるけどね。

確かにもっと上手く立ち回れば、例えば張遼の近くにいれば。

あるいは彼女が捕えられるのを防げたかも知れない。

 

反省すべき点は多々ある。

 

「ぐ…、すまん。戦場にも出れない私が言うことではなかった」

 

「いや、反省点が多かったのは事実だから」

 

「反省点が多いのはボクも同じ。……もうダメね、持たない」

 

「では、どうするので?」

 

「華雄と呂羽は兵をまとめて離脱しなさい」

 

「なっ!……そうだ、呂布はどうなってる?」

 

「恋は、ねねから少し前に使者が来たわ。もう離脱してる頃でしょう」

 

「ぬぅ。賈駆はどうする」

 

「ボクは洛陽まで下がって、月と一緒に」

 

虎牢関に籠って戦うと言う選択肢がないのは、将兵の数が足りないからだ。

先の出撃で、少なからず損失を出したのは痛かった。

 

賈駆っちは一人洛陽に戻り董卓ちゃんを伴い逃げると言う。

 

「ならば私も!」

 

華雄姉さんが申し出るが。

 

「悪いけど、華雄は呂羽と一緒に逃げて。将と一緒だと目立つから」

 

そう言って断られた。

姉さんが負った傷のことも考えての発言だろう。

 

しかし、賈駆っちだけで董卓ちゃんの下に行かせるのも心許無い。

 

「大将。この牛輔がお供しますよ!」

 

そんな時、牛輔が賈駆っちの護衛を買って出た。

 

「姫のことも、命を賭して守ってやるぜ!」

 

相変わらず熱い奴だ。

しかし牛輔の個人の力量は、少なくとも賈駆っちよりは上。

将として目立ってもなかったと思うし、護衛としては有りかも知れない。

 

「そうだな。じゃあ牛輔、頼んだぞ」

 

「応。任せておけ!」

 

ちなみに姫ってのは董卓ちゃんのことらしいよ。

親戚が故にやり易いとこもあるだろうし、頼んでしまおう。

 

「それから賈駆殿。洛陽に戻ったら、どうするので?」

 

「……どこに逃げても追手が掛るのは間違いない。ならばいっそ…」

 

まさか自害…なんてことはないよな。

うん、目が死んでないから大丈夫。

 

よかった。

暗い声色に一瞬焦ったよ。

 

「功績や風評を得ることを求めてて、義の心を持った諸侯に売り込むといいかも」

 

そんな訳で老婆心を一つ。

 

「ッ。呂羽、あんた…」

 

「劉備、孫策、曹操。あとは公孫賛あたりですかね?」

 

曹操様と公孫賛はちょっと厳しいだろうけど。

 

「……その線で行くと、劉備か孫策ね」

 

流石賈駆っち。

原作的知識が無くても余裕ですね。

これ以上、変に口出ししない方が上手くいきそうだ。

 

その後は方針を兵たちに伝え、離脱を指示。

賈駆隊と張遼隊の生き残りは解散。

投降すれば殺されはしないだろう。

 

元の華雄隊は華雄姉さんと行動を共にすると主張し、牛輔を除く呂羽隊も同様だった。

かなり減ったとはいえ、まあまあの数が残ったな。

 

 

「じゃあ将軍、とりあえず北へ向かいましょうか」

 

「分かった。大軍で動くには、南は適さぬからな」

 

華雄隊はまだ本調子でない姉さんに代わり、俺が指揮を執り続けることになった。

あと呂羽隊も解散せず、韓忠が正式に副長として指揮することに。

 

指揮権、横ズレしまくりだな。

 

 

* * *

 

 

夜陰に紛れて虎牢関から脱出。

途中まで賈駆っちを護衛し、洛陽の前で別れた。

 

俺たちもすぐに抜けたいところだが、まだ周囲には連合軍がわんさかしている。

しばらく様子見してから、連合の動きが落ち着く頃を見計らって脱出することにした。

 

「こっち側にも数は少ないけど、ちゃんと兵を回してたんだな」

 

「始末しますか?」

 

そうだな。

袁紹あたりに報告されても面倒だし、始末しとこう。

 

「ちぇいやぁー!」

 

踏み込み回し蹴りを叩き込む。

敵兵は錐もみ回転しながら吹っ飛んだ。

 

飛燕足刀。

 

使う機会がなかったので、出番を捻りだしてみた。

 

俺の先制攻撃を合図として、韓忠ほか十数名が殺到。

たむろしてた連合の兵士たちを駆逐していった。

 

 

物見から、連合の大部分が洛陽に入ったとの報せがあった。

賈駆っちたちは、無事に果たせているだろうか。

彼女たちの無事を祈りつつ、俺たちも北へ向かって脱出することにした。

 

 

 




これにて洛陽編も終了。
次からは……未定です。
放浪編かな?

27話の誤字報告適用しました。孫作って誰だよ…。ありがとうございました。

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