武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
色々話を聞いてみて分ったことは次の通り。
黄巾党が村に向かって進軍している。
村に門は三つ。
目の前の少女たちは義勇軍を率いている、と。
真面目なのが凪こと楽進。
ビキニで関西弁が真桜こと李典。
もう一人、なのなの言葉な于禁の三人。
ちなみに于禁は村に入って、説明を聞いてる最中に合流した。
そして俺も自己紹介をしたのだが。
郷に入れば郷に従え、ってことでリョウと名乗ることにした。
おっと間違い。
姓を呂(リョ)
名を羽(ウ)
呂羽(リョウ)と名乗ることにした。
これで違和感なくリョウとして活動できる。
ナイスだ、俺!
流れで字に相当するなら坂崎になるが、こっちは面倒なので省略。
代わりに真名をリョウと言うことにすれば、常にリョウと呼ばれることになる。
なんと素晴らしい!
それはそうと、この乱れた世の中にあって、三人は義勇軍を組織して黄巾党の大軍から村を守ることにしたらしい。
だから真面目な楽進は特にピリピリして最初は俺を警戒したし、李典も関係ないなら離れろと助言してくれたと言う訳だ。
うぅ、なんて良い娘たちなんや。
しかしやはり予想は当たりの様だね。
ならば、是非とも助力せねばなるまい。
この世界で人を相手にするのは初めてだが……。
なに、前の世界でも武器を持った奴の相手なぞ別に珍しくはなかった。
それに、遂にアレを使うことが出来る。
「なら俺も手伝うよ」
「いや、危険やで?」
「そうです。賊とはいえ数千人規模です。命の保証は出来ません」
「でも凪ちゃん。手は多い方が良いと思うの~」
「む、しかし……」
「お兄さん、一人で旅をしてたの。だったら身を守る術くらい知ってるはずなの!」
「ああ、言われてみると確かにそやなあ」
「そういうこと。門も三つあるし、多少は腕に自信もある。手は多い方がいいだろ?」
「……分りました。宜しくお願いします」
いやあ、凪は真面目だなあ。
だがそこがいい。
おっと、いくら心中とは言え真名は許されてないんだった。
間違ってポロッと出ちゃうと目も当てられないし、気を付けよう。
そんな訳で凪もとい楽進、確か気功の使い手なんだよね。
気弾を撃ったりしてた気がする。
思い出した俺の興味は、俄然そちらに引き寄せられる。
とは言え、もっと余裕が出来てからだよな。
その辺のことは自制出来るつもりだ。
* * *
とりあえず、三つある門を守るべく突貫工事を行う。
防衛用の柵に、逆茂木やら土塁やら空堀やらを可能な限り。
なお、逆茂木と土塁と空堀は俺の発案。
木材には限りがあるので、空堀と土塁を組み合わせて対策とすればーなんて思ってね。
逆茂木も、相手は徒歩だと思うけど大軍相手ならむしろ有りかなと。
もっとも、時間との兼ね合いでまだ南門と西門にしか設置できてない。
東門はこれからだ。
「報告!」
「どうした!」
楽進のもとに見張りが息せき切って走り込んできた。
もしや、もう接敵か?
「陳留より、援軍です!」
と思ったら違った。
援軍のお知らせか。
報告の瞬間、わあっと場が明るくなった。
やっぱ目に見える安心材料があると違うってことか。
それと陳留って確か、曹操様のとこだよな。
おおなるほど、これが勝利フラグか。
「じゃあ楽進、出迎え宜しく」
「はい!」
「よし李典、東門の作業を続けよう。于禁は村長に連絡してきてくれ」
「おう!」
「了解なの~」
あれ、なんでいつの間にか俺が仕切ってんだ?
「兄ちゃん、はよ設置してしまうで!」
「あ、ああ。そうだな…」
うん、まあいいか。
この場を切り抜ける方が大事だもんな。
* * *
「虎煌撃!」
虎煌拳を地面に打ち付ける技、虎煌撃。
あまり使用することはない技だが、まさかこんなところで役立つとは。
「おー、流石やな兄ちゃん!っと、大体こんなもんでえーやろ」
俺が虎煌撃で土を散らし、李典が掻き上げて土塁にする。
西門でも南門でもやってきたから、慣れたもんだが流石に疲れた。
気の練度は問題ないが、気分的な疲労感はあるよね。
そういえば南門での作業中、楽進が真剣な目でずっとこっちを見てたなあ。
少し気になるが、今はそれどころじゃないか……。
「援軍ってのは、どんなもんだろうなぁ」
「そやなぁ、一旦凪たちのとこ戻ろか」
そうだな。
どうやら向こうもこちらを呼んでいるようだし。
使いと思われる者がこちらに向かっているのが遠目に見えていた。
「軍議とか、するのかな?」