武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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他者視点詰め合わせ


33 砕破

連合が解散してこちら、国力の拡充や人材確保に腐心しつつ諸侯の動向を調査させている。

すると幾つか面白い情報が入ったので、一刀たちと確認することにした。

 

「どうやら、袁紹が公孫賛に仕掛けるようです」

 

中でも大きなものとして、早くも麗羽が動くらしい。

連合の時、董卓軍から受けた傷はかなり大きい物だったはず。

なのにもう動けるとは、流石と言うべきかしらね。

 

「華琳様。この機を捉え、一挙に攻め入るべきです!」

 

桂花が具申してくる。

確かに軍師としての、その考えは理に適っているのでしょう。

でも、それはないわ。

 

「我が覇道に、漁夫の利を得るような真似は許されない。分かるでしょ?」

 

「……はい」

 

理解しつつも言わずにはおれないのだろう。

ふふ、シュンとした桂花もいいわね。

久しぶりに可愛がってあげようかしら。

 

「そう言えば、呂羽はどうなったのかしら」

 

我が旗に傷をつけるという、許し難い蛮行をなしたあの男。

秋蘭など、珍しく激怒して必ず討ち取るだなんて息まいてたわね。

 

時間がたった今、逃がしたその才が非常に惜しく感じる。

以前も私の誘いを断った男だけど、いずれ必ず跪かせてみせましょう。

 

「……あの男は、公孫賛の勢力下に入ったようです」

 

へぇ、公孫賛の。

私が駄目で華雄が良くて、そして公孫賛でもいい。

その理由、詳しく問い質したいわね。

 

「公孫賛のところに呂羽がいるなら、麗羽とも良い勝負をするかしら?」

 

「いくら華雄などの兵を吸収しても、全体の勢力が違いすぎますので……」

 

まあ、普通に考えたらそうよね。

あの男に普通が通じるなら、だけど。

 

「まあ、お手並み拝見。と言ったところかしらね」

 

 

なんて、軽く考えていたのだけれど……。

まさか公孫賛が麗羽を退け、あまつさえその二人で連合を組むとは。

 

傘下に呂羽たちが居るとはいえ、公孫賛にそこまでの英雄たる資質があるとは思わなかった。

完全に予想外だったわ。

 

「はぁっ!?」

 

報告を聞いた際の、一刀の余りの驚愕っぷりに少し引いた。

確かに驚きだけど、そこまで?

 

でも麗羽と公孫賛の連合軍、か。

我が天下取りへの試金石になるのは間違いないでしょうね。

 

こちらも勢力の拡大を図るべきかしら。

 

頭の中で周辺の勢力図を整理する。

そこに、ひとつの点が浮かび上がった。

 

劉備。

 

元々は、吹けば飛ぶような義勇軍でしかなかった彼女たち。

それが今や、一国を差配する身代。

やはり彼女も英雄の資質を持っている。

 

周囲は巨大な勢力に囲まれているので、一見伸び代は無いように見える。

でも、こんなところで終ることはないでしょう。

期待を裏切らないで欲しいものね。

 

私が麗羽とぶつかるのは、短く見積もって一年は後。

あちらも公孫賛との戦いでの消耗が酷かったようだし、万全を期そうとするはず。

 

そうそう、公孫賛を降せば呂羽もついてくるのよね。

いい景品だわ。

 

「そういえば、凪の調子はどう?」

 

呂羽とまた会った時、今後は後れを取らないように技量を磨くと気合が入っていた。

 

「何やら砕破とか言う、気を使った技の精度を高めているようです」

 

凪は呂羽の教えを受けていた。

そのお陰か、最近になってもどんどん力量を上げている。

明確な目標となり得る存在が居ると、こんなにも違うものなのか。

手元に置くことが出来れば、彼女は更に伸びるのでしょうね。

 

激してた秋蘭も、多少は落ち着くはず。

彼女たちのためにも、絶対に降してみせるわ。

 

 

* * * *

 

 

呂羽の一言が切っ掛けとなり、劉備の保護を得ることが出来た。

紆余曲折はあったけど、ボクも月も無事だ。

一応、護衛のアイツもね。

 

劉備は徐州を任され、ボクたちは裏向きの侍女として仕えることになった。

元軍師としては思うところもあるけど、月は楽しそうに日々過ごしてる。

それだけで、ボクは満足だ。

 

小耳に挟んだところ、呂羽と華雄は公孫賛の傘下に入ったらしい。

あの時の会話から、ひょっとするとココで合流出来るんじゃないか…。

なんて、少しだけ期待したけど……。

 

旧董卓軍は、そのほとんどが散り散りとなってしまった。

恋とねねは行方知れずだし、霞は曹操のところ。

そして華雄は、呂羽と一緒に公孫賛の所に身を寄せたと。

 

ここの軍師たちも、諸侯の動向には神経を尖らせている。

袁紹、袁術、曹操など錚々たる面子に囲まれてるのだから当然だろう。

でもその中に、呂羽と言う名前が挙がったのには驚いた。

 

呂羽はもともと華雄隊の副長でしかない。

それがいつの間にか、こんなに注目される大きな存在になってしまった。

 

使えそうな奴だとは思ってたけど、正直想像以上だ。

華雄に影響されたのか、やたらと袁紹を目の敵にしてたしね。

 

「詠ちゃん、聞いた?」

 

そんなことを考えていると、護衛を連れて月がやって来ていた。

その表情は、困惑と驚嘆をない交ぜにしたようなものだった。

 

「どうしたの?」

 

「大将がやってくれたぜ!」

 

ボクは月に聞いたの。

なんで護衛のアンタが答えるのか。

 

「大将って呂羽のことよね?何をやったっていうのよ。」

 

「華雄と呂羽さんがね、袁紹軍を退けたんだって。」

 

「は?」

 

少し興奮気味に話す月の姿はとても可愛らしい。

が、聞き捨てならない。

呂羽と華雄が、袁紹を退けたですって?

 

「どういうこと!?」

 

 

話を聞いてみると、詳細は不明ながら事実であることは分った。

 

袁紹が公孫賛を攻め、公孫賛がこれを退けた。

さらに公孫賛と袁紹が連合。

一連の立役者は呂羽と華雄である、と。

 

彼らが元気だったのは嬉しいが、変な勢力が生まれてしまって困惑する。

 

公孫賛と袁紹が連合?

あり得ない。

呂羽と華雄がいながら……って、まさか!

 

「それで大将と将軍は、公孫賛の下を離れたって話だぜ」

 

護衛のくせにやたら情報通なコイツ。

なるほど、そういうこと。

 

ならあいつらは、どこへ行こうというのか。

ひょっとすると……。

 

駄目ね。

楽観的な想像は軍師として最低だ。

いや、もう軍師じゃないんだけど……。

 

「そうそう、呂布ちんが近くにいるらしいぜ?」

 

「……なんですって?」

 

「ちょっと離れたとこの砦に陣取ってるって、さっきみんなが対応協議してた」

 

その報告に驚愕する。

恋が近くに?

いや、それなら引き入れるべきだ。

 

ボクは急いで劉備たちがいる、軍議の間へ飛び込んだ。

ビックリした月を置いてけぼりにしちゃった……あとで謝らないと。

 

「恋……呂布のことなら、ボクに任せて!」

 

視線が集中し、ボクが凄く慌てていたことを自覚させられる。

うっ……負けるもんか!

 

「呂布の下に使者を出して!…ううん、ボクを説得に行かせて!」

 

「それは……」

 

軍師たちが難色を示す。

 

「呂布ならきっと、ボクが説き伏せてみせるから。お願い!」

 

一度別れたとは言え、月のために戦ってくれた恋たち。

出来るだけ、敵対したくない。

 

「うん、そうだよね。じゃあ任せるね?」

 

思い切り頭を下げたボクに困惑した軍師たち。

彼女たちを余所に、劉備がそう笑顔で言ってくれた。

この笑顔に救われる。

 

「あ、ありがとう…」

 

急に照れくさくなり、お礼を言うのにどもってしまった。

 

「あの呂布さんが加わってくれるなら、大きな力になりますね!」

 

皆がワイワイはしゃぎだすのを横目に、これからのことに想いを馳せる。

 

恋、ねね。

月は無事よ。

だからまた、どうか一緒に……!

 

 




使い所が難しい技を無理矢理ねじ込んで行くスタイル。

25話の誤字報告適用しました。
32話で指摘を受けた誤字を修正しました。

独自路線とか、そういうタグを付けた方がいいのでしょうか。

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