武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
曹操様の下を辞した俺たち。
今は意気揚々と南下している。
そう。
目的地は、何の捻りもなく揚州とした。
曹操様には目的地を告げてないが、まあ益州か揚州と思われてるんじゃないかな。
普通に考えれば、劉備ちゃんたちが向かった益州になるんだろうけど。
差し当たり、まずは孫呉の興隆を見届けたい。
益州にはその後、機会を見て行くことになるだろう。
あと涼州は、正直食指が動かなかった。
白蓮が騎馬と言う観点から馬一族に興味を持っていたようだが、強く主張することは無かった。
遠いしね。
まあ俺も、多少は興味があるぜ。
けどそれも、平和になったら華雄姉さんたちと一緒に旅行で行ってみたいと思う程度だ。
そして揚州へ向かう道すがら。
ゆっくり過ぎるのは色んな点から問題だが、特別急ぐ必要もない。
だから呂羽隊と白馬義従の連携を確認したり、由莉や白蓮と組手をしながらの移動となっていた。
「はぁーっ」
「そう!そこで上手く、相手の胸倉を掴んでだな…」
今は由莉を相手に、技の伝授を試みている。
例によって極限流に武器はないので、足技以外は素手状態でのものになる。
武器を使ってのアレンジ云々は、後々本人に任せることにした。
地面を滑るように相手に近付き、胸倉を引っ掴んで往復びんたを食らわす技。
本当に極限流の技だと胸を張って言えるか、なんて言われると少し悩むところだ。
「百烈びんたか……。こりゃまた痛烈だな。ところで、びんたってどういう意味なんだ?」
微妙に悩んでいると、白蓮から訊ねられた。
そういや確か、びんたって割と新しい日本語の、しかも俗語が元だったっけか。
こっちじゃ伝わらないのかー。
適当に張り手云々と流しておく。
「しかも、別に百烈でもないですね」
「そう言うな。まともに入れば、普通に殴るよりも強烈なんだから」
仮にも極限流空手師範代の使う技。
ただの往復びんたな訳がない。
地面を滑るように近付く歩法には勿論、掴む腕、張る掌。
全てに上手く気が込められているのだ。
それこそ、場合によっては相手を昏倒させることだって可能だ。
相手が武器を持っていた場合、どう抑えるかが問題だが。
まあ、細かいことはいいんだよ!
そう伝えると、由莉からはジトっとした眼差しを。
白蓮からは苦笑を送られるのだった。
「ほ、ほら。次は白蓮。打ち合うぞ!」
「うん?ああ、分かった。宜しく頼む」
* * *
鍛錬をしつつも行程は順調。
そろそろ揚州に入った頃だろう。
斥候を放って、ちょくちょく様子見しながら進んでいるんだが。
まだ何も引っかからないな。
風の噂では、孫策が袁術から独立云々と聞いたんだが。
具体的な時期とか知らんからなー。
まあ、表現は悪いが行き当たりばったりでいいだろ。
なんてぼんやり考えていると、隊員の間で少し慌てるような気配。
「隊長…」
おっと、由莉が真剣な表情だ。
白蓮も居るし、こりゃ何かあったかな。
「リョウ。斥候が戻ってきたが、どうも少し先に軍勢が居るようだ」
「ほう。旗は?」
「紀、とあるようですが」
……誰?
「袁術の軍かな?」
「恐らく。…確か、袁術の配下に紀霊という将がいたかと」
相変わらず博識で頼もしい副長だ。
いやしかし、紀霊とな。
きれい、キレイか…。
どっかの邪悪な愉悦師を思い起こす名前だが、こっちでは知らないなぁ。
蹴散らしていいかな。
「ふーむ。まずは様子見か?」
「それが良いかと。隊長、すぐに人員を…」
あら、久しぶりに暴れられるかと思ったがまだダメらしい。
そりゃそうだよ、ちゃんと確認しないと。
孫策軍だったら目も当てられない。
いや、そうでもないか?
あ、やっぱりダメか。
何だかごちゃごちゃしてきたぞー。
隊を率いる者として、一旦落ち着かねば。
「じゃあちょっと行ってくる!」
「隊長?」
「行くって、どこに行くんだ?」
「いや、せっかくだから斥候に…」
「「はっ?」」
怒られた。
結果として、謎の紀軍は散々に撃破。
斥候からの報告で、奴らが略奪をしていたと分かったからだ。
政治的な思惑やらその他諸々、問題が色々出る可能性もあったが、今の俺はただの旅人。
細かいことは知らん。
それよりも罪なき村々から略奪するなんざ、断じて許せねえ。
ぶん殴ってやる!
という建前を叫んで蹴散らしてやった。
まあ建前とは言え、本心でもあるから問題ないだろ。
ただ、殴り散らしたいと言う欲求の方が強かっただけで。
ともあれ略奪していた物資を取り戻し、奪われた村々へ届けることに。
物資は魅力的だが、ネコババしたら一味だもんな。
訪ねた村々では、小なりとはいえ見慣れぬ軍勢がやって来たことで戦々恐々としていた。
宥め透かして落ち着いたのは、事情を話して物資を戻して漸くといったところ。
中には破壊された箇所もあったので、修復を手伝ったりして慰撫に務めた。
ある程度は気を許してもらえたかな。
別に長居するつもりはないし、完全に心を開いてもらう必要はないのだが。
それでも常に恐れられっぱなしとか、敵愾心に満ちた状態なのは頂けない。
身に覚えのないことなら尚更だ。
そうした努力の結果、幾つか情報を得ることが出来た。
村々を襲った軍勢ってのは、やはり先ほど蹴散らした袁術配下の奴らだったようだ。
この辺りは袁術の勢力圏だったが、最近は斜陽で駆逐されつつあると。
袁術と言うと、先ごろ袁紹に援軍として派兵していた。
そこには孫策もいたな。
曹操様にズタボロに打ち破られ、袁家の旗は地に落ちた訳だが。
そんな頃、孫家の当主・孫策は援軍として赴いていたが、留守居の衆が隙をついて独立。
派兵された袁術軍も撤退中に孫策に襲われたらしく、勢力の衰退が急速に進行中らしい。
まだ完全には駆逐されてないようだが、巻き返しを図る袁術軍は非道を行う。
例えば今回のように、勢力圏の村から略奪するとかで風評と規律の低下に歯止めが掛からない。
完全に駆逐されてしまうのも、時間の問題だろうな。
「これは、中々良い折りに駆けつけることが出来ましたね」
由莉が言う。
今回みたいに、袁術に組する勢力を削ぎ落として行く。
そして無辜の民を救う。
こうして良い風評を積み重ね、孫策軍への手土産とする。
確かにそういう道もあるだろう。
しかし…。
「うーん」
「む、あまり乗り気じゃないみたいだな?」
いや、どうにもしっくりこないんだ。
孫策とは戦場で二度戦い、いずれも退けた。
二回目の時には誘いも受けたが断っている。
断らざるを得ない状況だったのはともかく。
俺の欲求としては、孫策とはまた本気で戦いたい。
仲間になりたいとかは、今はあんまり…。
そこんところ、どうにか良い塩梅に折り合いがつかないものか。
なんて思うのだ。
「我がままですね…」
さーせん。
さてさて、どう動くとしようかねぇ。
お久しぶりです。
何とか一月中には間に合いましたが、中々に時間が…。
毎日更新は多分無理ですが、ぼちぼち進めようと思います。
完結まで、今しばらくお付き合い下さい。
そして、今回から揚州編が始まります。
シレッと百烈びんたを消化。
ご指摘により発覚しましたが、KOF12以降のロバ・タクマの必殺技が残ってました。
いつものように、ごり押しで消化に走ろうと思います。