武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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56 猛虎降脚蹴り

寿春。

かつては袁術の本拠であったが、今は既に過去の話。

孫権により落とされ、孫呉の拠点となっている。

 

 

「って聞いたんだけど、本当かな」

 

「誰に聞いたのですか?」

 

「さっきすれ違った行商のおっさん」

 

「まあ、商人は情報を持っているものではあるがなぁ…」

 

物資を差し戻し、概ね情報も出尽くした感のある村々から出立した俺たち。

 

街へ向かう途中、隘路の窪地で難儀していた商隊に遭遇。

助けを求められたので、情報の交換を条件にして応じたのだった。

 

 

「猛虎降脚蹴りッ」

 

窪地で車輪が引っかかっていた大岩を、気を込めた背面後ろ回し蹴りで吹っ飛ばす。

自然物を相手にするのは久しぶりだったが、難なく取り除けて良かった。

 

蹴りで岩が吹っ飛ぶのを見て、おおっと周囲がどよめいたのは少し気分が良かったな。

周囲の事を考えると、若干面映ゆい感じもしたがたまにはいいか。

 

彼らとは既に別れたのだが、お陰で色んな情報を得ることが出来たぜ。

まあ、大部分はいつも通り由莉が中心となって聞き出していたんだけど。

 

俺が手持無沙汰になって周囲の警戒と称してぶらぶらしている時、馬の世話をしていたおっさんと出会ったのだ。

かなり人が良さそうな風貌だったんで、ちょっと話をしてみようかなと軽い気持ちで近付いた。

ちょうど馬がいたから、馬の世話や態度の話題から世間話に入って行ったところ、先ほどのような話があったと言う訳。

 

由莉は冷静な表情だが、何かを考え込んでいる。

 

孫権が城を落したってのは、きっと留守居の衆を率いたってことだろう。

そして孫呉の拠点になってると言うことは、孫策たちもそこにいるのかね。

だとしたら、目指すはそこになるのか?

 

「じゃあ、寿春を目指すのか?」

 

「そう…あ、いえ……」

 

白蓮が尋ねるも、由莉の歯切れは悪い。

何か心配事でもあるのだろうか。

 

「その…。恐らく、孫策殿の本拠は建業かと思われます」

 

あらま。

確かにおっさんは拠点になったらしいとは言ってたけど、本拠地とは言わなかったな。

まあ、それならそれで問題ない。

 

「ですが、とりあえず寿春を目指しましょう」

 

しばらく黙考していた由莉が出した結論。

それは、建業を前にして目的地を変更するものだった。

 

「そっちの方が近いし、通り道ではある。しかし、何故だ?」

 

白蓮が問うが、俺も同じ疑問を持っている。

確かにここからならばそっちの方が近い。

無視して通り過ぎる必要はないし、先に立ち寄ることに問題はないんだが。

 

情報精査は任せているけど、理由は気になるよね。

が、しかし。

 

「まあ、ちょっと思うところがありまして」

 

なんてはぐらかされてしまった。

いいんだけど、珍しい反応だな。

 

「じゃあ、とりあえず寿春を目指すか」

 

「はい」

 

「わかった」

 

 

* * *

 

 

やって来ました寿春の街。

袁術の本拠地だったことはあるようで、かなりでかい。

今いる場所は、まだ街の外郭に過ぎない。

 

とりあえず、突然全員で入ったら警戒される恐れがある。

これまでもまあ、ある程度は警戒されてきてるんだがそれはそれ。

 

村々に対した時とは違い、人数も少しばらけさせてみよう。

差し当たり街に入るのは、俺が率いる呂羽隊のみとする。

白蓮は少し離れたところで様子を見ている。

 

そうした上で、由莉と隊員数名を連れて街へ入ってみた。

特に誰何されることもなく、すんなり入れたな。

 

どこからか鋭い視線が飛んできてるし、今も張り付いているようだが。

ともかく入ることは出来た。

 

隊員に合図を出して、それぞれ街へ入らせる。

白蓮も別の入り口から入っていることだろう。

 

さて、次にすることは何だろうか。

 

「物色ですかね」

 

まあ、そうなんだけど。

ちょっと表現が悪い気がする。

せめて偵察って言おうぜ。

 

改めて偵察がてら、俺は由莉と二人で街中をぶらぶらしてみる。

まあまあ広い街だし、隊員たちにも別のルートを頼んだ。

 

由莉と二人で街ぶら。

お、これってちょっとデートっぽい?

口には出さないが。

 

おっと、強い視線はこっちに来たようだ。

別の気配も隊員たちに付いて行ったが、こっちの方が圧倒的に強い。

 

えっと、確か周泰?

そんなのが居たような気がするね。

 

「あら、あなた……」

 

街の活気を観察していると、横合いから見知らぬ女性に声を掛けられた。

どちら様でしょうか。

 

どことなく孫策に似ているような、むしろ記憶にある孫権に似ているような。

この辺の人はこんな感じなのか?

 

「やっぱりそうだわ!覚えてないかしら、洛陽で一度会っているのだけど…」

 

えっ

こんな美人さん、一度会ったらそうそう忘れないと思うんだが。

 

あ、由莉。

そんな睨まないでくれないか。

特に心当たりはないからさ。

 

「まあ、あの時はバタバタしてちゃって、名乗る暇もなかったものねぇ」

 

仕方ないか、と言ってクスリと微笑む女性。

たおやかな雰囲気を纏っている。

いや、マジで誰?

 

「まずは名乗りましょうか。私の名は孫静。宜しくね、呂羽さん」

 

「え?あ、ハイ。どうも」

 

孫静とな。

知らんぞ、そんな奴。

 

だがここ揚州で孫の姓を持つということは、孫策たちの関係者か?

早計かも知れんが、どことなく面影があるせいかそう思わせる。

 

「ほら。こんなところじゃ何だし、屋敷に招待させて頂戴?」

 

「あ、ああ」

 

「じゃあ早速行きましょう」

 

笑顔のまま促してくる孫静。

孫策とは親族のように似ているが、性格は結構違うな。

何と言うか、穏やかだ。

 

 

由莉と二人してついて行った先には、何やらでっかい門。

 

「さ、どうぞ」

 

促されて入った先も、でっかい庭付きのお屋敷。

思わず呆然としてしまった。

 

「失礼、孫静様。貴女はもしや、孫策様の?」

 

そんな俺に代わって由莉が質問してくれた。

そうそう、それ聞きたい!

 

「ええ。雪蓮は私の姉の娘、つまり姪にあたるわね」

 

なんとぉーっ!?

超・重要一門じゃないですかっ

 

なんでそんなのがあの時、あの洛陽にいたんだ。

偵察か?

 

「あ、そうそう。呂羽さんのお仲間も呼んでいいわよ?」

 

「ッ…む、ではお言葉に甘えて」

 

一瞬だが。

これまでの穏やかで、たおやかな雰囲気が消し飛んだ気がした。

笑顔の奥に光る鋭い眼差し。

 

やはり孫策の一族か。

心中動揺したが、言葉には出さずに済んだと思うがどうだろう。

 

すぐさま由莉に、呂羽隊と白蓮たちと孫静屋敷に呼び寄せる手配を指示した。

 

失礼しますと出て行く由莉を見届けると、唐突に孫静は笑顔の質を変化させる。

そして、一歩近づきながら囁いた。

 

「ねぇ。私の下に付かない?」

 

 

 




揚州編は、独自解釈的な要素がこれまで以上に増えます。
ご注意ください。

・猛虎降脚蹴り
KOF94、95の地上吹っ飛ばし攻撃。
リーチが長いようで、少し上体を反らすせいでそこまでじゃないと言う。
とりあえず置いておく感じで使ってました。

55話誤字報告適用。本年もありがとうございます。
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