武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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64 天地上下の構え

城を囲む曹操軍、そして城を守る孫静軍の間で使者の往来があったようだ。

形ばかりの降伏勧告と、儀礼的な返答云々。

 

まあ時間稼ぎをしたい孫静側と、それを看破して戦に移行したい張遼。

当然のように交渉は早々に決裂。

物別れに終わった。

 

それを遠目に確認しつつ、今か今かと逸る気持ちを抑えつけていたがもう限界。

急ぎ後ろを振り返る。

由莉と目が合い、頷いたのを確認。

 

よっしゃー!

 

いざ、ぶっぱ装填ンンッ

 

「覇王翔吼拳!!」

 

自分を抑えつけている間、溜めに溜め続けた気を思い切って発奮。

修行の成果もあり、今までより縦幅も横幅も大きい気弾を射出することが出来た。

 

虎っぽい残像と若干ビーム状になりかけている覇王翔吼拳は、袁の旗を容易く飲み込み進む。

それどころか、戦場にあった全ての旗に何らかの傷を付けることに成功した。

 

ふぅぅーーー

 

瞑目、残心。

 

カッと目を開け、叫んだ。

 

「ガンガン行こうぜ!」

 

いつも通りだね。

軽く見渡すと、韓や張の旗も丸っと消え去ったけど些細なことだよな。

 

良く見てみると、いくつか残った旗もある。

ここまで来たら乗り掛った船だ。

袁家の旗じゃないけど、後で全部撃ち落としておこう。

 

 

* * *

 

 

奇襲は成功と言えば成功。

失敗と言えば失敗。

 

城とは別の方向からぶっとい気弾が飛んできて、旗などを薙ぎ払ったのだ。

 

明確な敵意と共に、奇襲を受けた烏合の衆たる袁術残党。

恐慌をきたして右往左往。

こいつらは問題なく蹴散らすことが出来るだろう。

 

一方で、正規軍は規律を保った。

当初は流石に動揺したが、将が強靭な張遼隊なんて馬首が既にこっちを向いてる。

韓浩隊の方は、若干ぐらついているようだが。

 

まあ、なんだな。

張遼だったら普通に気付くよな、覇王翔吼拳。

つまり、俺が居ることがばれた訳だ。

 

眼前には、猛然と迫り来る張遼の姉御。

迎え撃つのは極限流。

 

由莉率いる呂羽隊は、袁術残党を蹴散らしに行かせた。

白蓮の白馬義従は、横合いから韓浩隊に向かう手筈だ。

 

韓当隊も動いており、一部は既に韓浩隊と激突。

大部分、多分韓当自身もこっちだろうが、張遼隊の方へ向かっているようだ。

遠からず接敵することだろう。

 

戦場を俯瞰するのはここまで。

目の前には、獲物を前にして舌なめずりする肉食獣が居る。

 

「呂羽!こんなとこで、奇遇やなぁっ」

 

ギラギラした目と釣り上った口の端。

掲げられた刃が、振り下ろされるのは時間の問題か。

 

「久しぶりだな張遼。元気そうで何よりだ」

 

旧交を温める言葉を投げつつも、同時に気を巡らせ身体も温める。

先ほどの覇王翔吼拳の余韻も残ってるし、良い塩梅だ。

 

互いに、様子見の加減など既に不要な相手。

最初から全力をお見舞いしてやろう。

 

「せっかくこうして出会うたんや。ならやるべきことが何か、分かるやろ?」

 

わからいでか。

拳を握りしめて、その時に備える。

 

「何時でも来い!」

 

言うと同時に、シャアーッと勢いよく振り下ろされる刃。

単純な振り下ろしではなく、斜めに切り捨てるような軌跡を描く。

 

まあ、どんな軌跡を描こうとも関係ない。

 

「無影疾風!」

 

体を預けるように、懐に入り込む。

本来なら胸部を痛打したいところだが、一歩足りないのでまずは利き腕で我慢だ。

 

「重段脚ッ」

 

軽く前方に跳躍しながらの左回転蹴りで張遼の利き腕を弾く。

更に前に進みながらの右旋風脚。

 

「ちぃっ」

 

咄嗟に身体を捻り、回避を試みる張遼。

逃がさんぞ!

 

「はぁぁぁ!」

 

中空で幻影脚のような蹴りを放ち、彼女の胴や肩へ連撃を浴びせる。

最後に一歩地面を踏み、蹴り上げの龍斬翔を打ち放った。

 

「ッつぁ」

 

よし、我ながら綺麗に入ったな。

張遼相手に初撃がこれなら、いい線行ってるんじゃないかと自画自賛。

 

軽く残心をしながら思う。

とりあえず、張遼をこの場に留めておけば寿春の負けはないだろうと。

ついでに、このまま打ち負かすノリと勢いで行っても大丈夫なんじゃないかと。

 

「どうした、この程度か?」

 

無影疾風重段脚の後半が綺麗に入った分、ダメージも結構蓄積されているだろう。

と言う訳で、たたらを踏んで少し後退する張遼を挑発してみた。

 

「あぁん?誰に言うとんのや!」

 

おっと効き過ぎた。

激昂して凄んで見せる張遼がちょっと怖い。

 

思えば彼女とも本気で試合、ならぬ死合いをするのは初めてだな。

昔日の僚友、正確には上司の僚友と本気で戦わなければならないとは…。

いやまあ、それほどの感傷はない。

 

昨日の敵は今日の友。

逆もまた然り。

だったら今を、精一杯楽しむのみさ!

 

張遼が新たな構えを見せた。

ここに来て、いっそう思い切り突っ込んできそうな感じ。

 

「いくでっ、疾風張来!」

 

「らあっ、暫烈拳ッ」

 

 

* * *

 

 

シュバン、ガキンッと響き渡る剣戟。

俺の場合は拳と蹴りだが。

 

当初はカウンター気味に無影疾風重段脚が入ったことで、こっち優位に進めることが出来た。

しかし流石は張遼、見切りが凄い。

 

「虎煌拳ー」

 

「おっと」

 

牽制で放つ気弾なんて、ひょいっと軽く避けられる始末。

そういや、良く凪と組手をしてるとか言ってた。

 

てことは、気弾に対する慣れがあるのか。

かつて俺とも同陣して、試合も結構やってた名残もあるかも知れんけど。

 

「どしたぁ、もうしまいかぁ?」

 

にやにやしながら挑発してくる張遼。

ぬぅ、意趣返しか。

 

さて、どうしようか。

打ち倒す気満々で臨んだが、やはり強い。

生半可な技じゃ簡単に対応されてしまう。

 

とっておきを繰り出さないとダメかね。

具体的には、孫策とのリベンジにと改良を重ねて来た龍虎乱舞の類。

温存してる余裕はなさそうだ。

 

「仕方ないな。ならば、俺のとっておきを見せてやろう」

 

「ほう?そらええわ。帰って凪に自慢したろ」

 

余裕綽々で返してくるが、身体はしっかり構えに入っている。

こういうところが怖いんだよなー。

そして、面白いところでもある。

 

「そうしろ。無事に帰還出来れば、だがな」

 

「あぁっ?」

 

ニヤニヤする相手に挑発をかます。

すると一気に険しい表情へ。

 

いや、険しい反応だが口の端は上がりっぱだ。

これは余裕がどうとかじゃなくて、楽しんでるんだな。

戦いに対する欲求と渇望が強い彼女らしい。

 

それなら仕方がない。

俺だって全力で楽しんでるんだから、人のことは言えないぜ。

 

「手加減無用やで。ほら、受けて立つからさっさと掛かってきぃ!」

 

「言われずとも、加減はしない。見事、受け切って見せろ!」

 

いくぞ、極限流奥義……ッ

 

「天地上下の構え!」

 

 




63話誤字報告適用済。感謝の極み。

・天地上下の構え
NBCで超必殺技として装填された構え。
単体でもアーマー状態になると言う特性がありますが、効果時間が…。
むしろ、その後の繋ぎがメインでしょう。

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