武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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68 真・鬼神撃

寿春から建業まではまあまあ離れている。

いくら現地人の案内があったとしても、そんなすぐにはつかないものだ。

 

だから、急ぎの用なら早く出て早すぎることはない。

逆に急がないなら、のんびりゆるゆると進めばいいし、そっちの方が道中楽しめただろう。

 

「で、建業までは?」

 

「あと一昼夜、ってとこかなー」

 

諸般の事情で寿春を離れた俺は、韓当と別れて建業へ向かった。

見ての通りしょこたんも一緒だ。

 

何故かって?

孫静に頼まれたからだ。

 

 

手渡された書簡は、孫静の許可証だった。

しょこたんが、俺と一緒に建業に戻るってことへのな!

 

見ちゃったものは仕方がない。

それらを軍議で披露し、次いで斥候や白蓮からの情報を精査した結果。

韓当が現地で陣を張って抑えに残れば、とりあえず問題なさそう。

そんな空気になったのだ。

 

寿春には周泰もいることだし。

と言うか、周泰放っておいて帰還していいのか?

訊ねると、しょこたんは目を逸らした。

周泰、強く生きろ…。

 

 

そんなこんなで、呂羽隊はしょこたん隊に先導される形で建業に向かっているのだ。

ちなみに白連と白馬義従は請われて現地に残ってる。

韓当と一緒にな。

 

 

* * *

 

 

さて、あの森を抜ければもうすぐ建業らしい。

その時になって、しょこたんが隊を止める。

 

どした?

張遼たちが兵を退いたからって、本隊の侵攻も止んだとは聞いてないんだぞ。

むしろ侵攻の時は迫っていると聞いている。

つまり、時間はあまりないのだ。

 

そうそう、その張遼たちなんだが。

兵を退いたのは、確実に抑えの役割を全うするためらしい。

確かな筋からの情報だって韓当が言ってた。

 

あの時の張遼の様子からちょっと信じられなかったが、白蓮の言葉もあって信用することに。

 

 

「呂羽、ちょっと時間をちょうだい」

 

「何?」

 

普段と違い、落ち込んでいるとは違うが、若干しおらしい感じがする。

しょこたんらしくないぞ。

 

「あの森に用があるの。呂羽、ついてきて」

 

「む、それはいいが。隊はどうする」

 

「んーっと……すぐ済むと思うから、ちょっと休憩してて?」

 

休憩ってお前…なんて思うも、こっちの返事も待たずに歩きだしてしまった。

おーい…。

 

今までに感じたことのない雰囲気だったし、仕方ないか。

一人で行かせる訳にはいかないからな。

孫静にも任されてしまったし。

 

由莉に隊を任せ、隊員数名を連絡係に置きながらしょこたんを追いかけた。

 

 

しばらく森の中を歩いていくと、石碑のようなものが見えて来た。

いや、あれは墓か?

 

そして、誰か居る。

 

「姉様?」

 

隣で無言を貫いていたしょこたんが呟いた。

姉ってことは、孫策か孫権しかいない。

そして見た感じ、見覚えのあるシルエットだから孫策だろうな。

 

「シャオ?」

 

しょこたんの呟きに反応したのか、驚いたように顔を上げる女性。

あ、やっぱり孫策だった。

 

「どうしてここに……って、あなた……」

 

さらにその顔が驚愕に彩られる。

次いで、険しくなっていく。

 

あれ、何か誤解されてる?

 

「あ、姉様。呂羽はいいの。シャオが連れて来たから」

 

剣呑な空気に染まって行きかけたところで、しょこたんが取り成してくれた。

良かったぜ。

危うく、森の清浄な空気が闇に染まるところだった。

 

「……そう。まあ、いいわ」

 

とりあえず俺はしょこたんに連れられて来ただけだ。

よって、何かしらのアクションを起こすつもりはない。

 

ないのだが……。

 

孫呉の姉妹とは別の、異様な気配を微かに感じ取る。

確定ではないが、あまり良くないタイプの気配だ。

 

ふむ、万時備えあれば憂いなし。

 

全身に気を充足させ、何時でも事を起こせるように準備しておく。

 

「呂羽、何を…?」

 

ピリピリとした気配を放ちながら、俺が見詰めている方向には孫呉の姉妹。

それに反応して構えを取る孫策。

 

「姉様っ?ちょっと呂羽、何してるの!?」

 

しょこたんが喚くが、今はそれどころじゃない。

 

「呂羽、此処で変な動きをしたらどうなるか…。分かっているの?」

 

分かってるが、そうも言ってられない気がするのだ。

ほら、もうすぐそこにっ

 

「虎煌拳!」

 

「くっ!?」

 

「ぎゃあっ」

 

 

「へっ?」

 

問題です。

この中に仲間はずれが居ますが、誰でしょう?

 

答え。

 

「飛燕疾風脚ッ」

 

「ぐげっ」

 

今、俺が蹴り落とした奴だ。

名前は知らない。

 

「孫策はしょこたんを頼む!」

 

「えっ?」

 

「それってシャオのこと?」

 

他に誰が居る。

って、やっべぇモノローグが漏れちまった。

 

……細けぇことはいいんだよっ

 

誰とも知れない賊?の数は、ひーふーみー……十人居ない程度だな。

おっと、襲撃の失敗を悟って身を翻して逃げ出してる奴もいる。

素早いその判断は評価できるが、逃がしゃしねえぞっと。

 

「覇王翔吼拳!!」

 

ぼひゅーんと難なく撃ち落とす。

確実に落とすためにと思ったが、軽めに撃ったとは言ってもちょっとやり過ぎたかな。

 

「んなっ!?」

 

お仲間が撃ち落とされて唖然とする気持ちは分かるけども、容赦はしない。

お前の手に持った刃が全てを物語る。

 

フロントステップで懐に入り込む。

賊程度には惜しい技だが、食らいたまえ。

 

「真!」

 

左フックをお見舞いしつつ、軸足に力を入れる。

 

「鬼神撃ッ」

 

横合いから殴りかかって来る奴を、右正拳突きで吹っ飛ばす。

吹っ飛んだ奴から、改めて正面に向き直り、強く踏み込み胴抜きを放つ。

 

「どうだっ!」

 

最後に残心。

 

横に吹っ飛んだ奴は気絶、正面の奴は倒れ伏してピクリとも動かない。

周囲を見渡すと、先端に何かしらの液体が塗られた矢が散らばっている。

毒かね?

 

おっと、しょこたんは無事かな?

 

「呂羽!」

 

声の方を向くと、武器を携えたしょこたんがぴょんぴょん跳ねている。

その隣には無表情になった孫策さんが。

 

何これ、超怖い!

 

 

* * *

 

 

「暗殺者?」

 

「……チッ」

 

無表情になった孫策だが、その矛先は俺じゃなかった。

良かった。

本気で戦いたいとは思っていたが、そんな顔は見たくないからな。

 

そして、賊のような襲撃者は暗殺者だったようだ。

俺に知見はなかったが、矢や刃に塗られた液体は毒らしい。

孫策が無表情で言ってた。

マジで怖かった。

 

追加で全力の舌打ち。

 

「しょこたんや、今の孫策は怒ってるのか?」

 

「あ、やっぱりそれシャオのことだったんだ。うん、凄く怒ってるね」

 

言ってしまったものは仕方がない。

開き直ってそう呼ぶことにしたんだ。

 

しかし孫策さんは、超怒ると無表情になるのか。

一つ学んだ。

今後に生かすとしよう。

 

 

 




鬼神激は龍虎2のタクマ先生。
真・鬼神撃はKOFのタクマ先生。
似た名前だけど中身は全く異なる、ようで似てる箇所もありました。
真っ当な対戦では使えないと言われますが、だからこそ敢えて当てるべし!


ハッピーバレンタイン!
友チョコって要は義理チョコでしょ?
だから超展開をプレゼント。

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