武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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69 振り回し蹴り

しかし、暗殺者なあ。

こっちに来てから始めて見た。

 

「曹操……、見損なったわ」

 

襲撃してきた奴らのことを考えていると、孫策が冷たく言い捨てる。

ん?なんで曹操様が?

 

「こいつらの鎧。黒く塗ってあるけど、間違いなく曹操軍の鎧よ」

 

言いながら、抜き放った剣の先で襲撃者の鎧を削る。

よくよく見ると、なるほど確かに。

 

しかし、あの曹操様が暗殺を考えるとは思えない。

部下の独断専行か?

そうは言っても、此処は建業に程近い森。

ただの端兵が容易く入り込めるような場所じゃない。

 

「内通者か?」

 

思わず呟くと、ギョッとしたようにしょこたんが俺を見る。

 

「……かも知れない。だが、いずれにしろ曹操め……」

 

孫策は否定せず、されど無表情のまま口を噤み何事かを考えているようだ。

 

今や彼方にあって薄い記憶にこの状況。

孫策が毒を身に受け、倒れて孫権が後を継ぐ。

そんなストーリーもあったような気がする。

 

図らずも、阻止出来たということか。

 

原作とは場面が違う気もするけどな。

確認しようがないし、今は今だ。

 

「ねえ呂羽」

 

考えに沈む俺に対し、しょこたんが腕を取って声をかけて来る。

孫策についてはそっとしておくことにしたようだ。

 

「呂羽って凄いね。お陰で助かっちゃった」

 

「うん?…ああ、まあ。無事なら良かった」

 

孫静から頼まれてるし。

何より周泰の胃痛軽減のためにも、多少はな。

 

「うん!ねね、今度からシャオのことはシャオって呼んで?」

 

「…ん?」

 

「しょこたんって、何か気に入らないもの。だから、ね?」

 

ね?って小首を傾げながらの上目遣い。

あざとい。

流石しょこたん、あざとかわいい!

 

「えっ…ちょ、ちょっとシャオ!」

 

お、衝撃からか孫策が普通の孫策に戻って来た。

慌ててるから普通じゃないかも知れんが。

 

少し戻ってシャオと呼べとな。

それよりも、しょこたんが気に入らないだと!?

 

いやそうじゃなくて。

 

「それって真名だよな。いいのか?」

 

正確には真名の小蓮を基にしたアダナ、みたいなものか。

 

「いいも何も、シャオのお願い!ね!」

 

しょこたんが末っ子気質を全開にしている。

あれ、しょこたんってこんな可愛かったっけ?

いや可愛いんだろうけど、何か、こう…。

 

「隊長!」

 

悶々としていると、軽い足音とともに聞き覚えのある声が。

それに答えようとして…っ

 

「たあっ」

 

カウンターの振り回し蹴りで由莉を迎撃する。

当たり前のようにトルネードキック、もとい竜巻蹴りで突進してくるんだもん。

思わず迎撃しても已む無しだろう。

 

「不穏な気配がしたもので」

 

何も言っていませんが。

 

 

* * *

 

 

此処で戦闘があった気配を感じ取った由莉が、隊を率いてやってきた。

気の使い方に磨きが掛かってるなぁ。

凄いね!

 

そして俺は、しょこたんこと孫尚香の真名を預かることになった。

一方的に預かるだけなのもどうかと思うし、交換することに。

由莉が凄く睨んできたが、別に俺は悪くないはず。

 

「互いに遠慮のない関係……きゃっ!」

 

両手で頬を挟んでいやんいやんするしょこたん、もといシャオ。

ちょっと待ちたまえ、唐突に何言ってんだ。

ほら、由莉の目がどんどん冷やかになっているぞ。

 

「えー。だって呂羽が、もう遠慮しないことに決めたって言ったじゃーん」

 

やだもー!

なんて言いながら腕をバシバシ叩いてくるシャオ。

 

「隊長?」

 

いや確かに言った。

言ったがしかし、あれはっ

 

「はいはい。色々気になるけど、今はそれどころじゃないでしょ?」

 

ぱんぱんと手を叩き、妙な空気を断ち切るのは我らが孫策さん。

流石お姉さんだぜ!

 

しかし落ち着いた雰囲気を醸し出しつつも、ちょっと何かが漏れ出してる。

漏れ出る黒い何かは触れてはいけない何かだ。

直感に従い、素直に頷く。

 

「ひとまず城に戻r」

 

「姉様!!」

 

孫策の言葉を遮って現れたのは、孫策に良く似た風貌の少女。

や、少女と言っては失礼かな。

紛うことなき孫策の妹、孫権だった。

 

孫呉の姉妹がこんなところに揃うとはね。

聞いてないけど、あの墓は恐らく彼女らの親だろう。

孫堅かな?

だとすれば一家団欒。

異物は早々に退去すべきそうすべき。

 

「姉様、また勝手に抜け出して!私や冥琳たちが、どれだけ探したことか…」

 

「わーかった、分かったってば!悪かったわよー」

 

クドクドと説教というか愚痴を零す孫権に、辟易したように遮る孫策。

麗しき姉妹の姿がそこにある。

うむ、眼福なり。

 

「しょこたん…シャオは入らなくていいのかい?」

 

しょこたんと言ったら睨まれたので、急いで言い直す。

結構好きなんだけどな、しょこたん…。

ま、本人が嫌がってんなら仕方ない。

モノローグ的にも封印するとしよう。

 

「あ!…ねぇリョウ、シャオを連れてここから逃げてっ」

 

ふと、シャオが何かに気付いた。

そして何故か焦り出し、この場を離れようと小声で催促。

腕を取ってグイグイ引っ張る姿はぷりちーだが、多分無駄な事だろう。

 

「…シャオ。なんで貴女が此処に居るのかしら?」

 

だって背後に鬼姉が居るんだもの。

孫策は苦笑するばかり。

間に挟まれる孫権の苦労がしのばれる。

 

その目がついとこちらを向く。

 

「それで、貴方は誰?」

 

「俺h」

 

「お姉ちゃんも知ってるでしょ?姉様を打ち倒したって言う噂の人、リョウ。シャオの良い人だよ!」

 

瞬間、周囲から濃密な殺気が突き刺さった。

お、俺は悪くねぇ…。

 

 

* * *

 

 

曹操様が本隊を率いてやってきたらしい。

しかし建業には、寿春からは変わった連絡は届いてない。

 

つまり張遼たちの別働隊は、まさしく抑えと陽動を上手に果たした訳だ。

張遼本人は不満だろうけどな。

荒れて酒に浸る姿が目に浮かぶぜ。

 

それはともかく、曹操軍が出現したことに建業は騒然。

いくら準備を進めて来たとしても、兵力差は大きい。

場が荒れるのは仕方がない。

 

そんな時に、孫呉の王たる孫策が居ない。

そりゃ怒るよね。

 

普段であれば、冷や汗をかいた孫策が周瑜とじゃれるのが見られるのだとか。

でも今はそんな暇すら惜しい時。

 

何より、孫策が地味に切れてる。

切れてる相手が曹操様だから、こっちに被害が余りないと言うだけで。

 

 

「あ、呂羽。シャオのことはまた後で、じっくりと。お話しましょうね!」

 

「…呂羽とか言ったな。今は置いておくが、後で詳しく話を聞かせてもらうぞ」

 

「隊長……」

 

 

あの時の由莉の、ハイライトが消し飛んだ目は中々に怖かった。

 

そう、今はまだ被害を被ってないだけだ。

願わくは、このまま済し崩しになることを…。

 

でも、やっぱり俺は悪くないと思うんだ。

 

白蓮が居れば、仲裁してもらえたのに……。

なんて思ったが、苦笑するだけで終わるのが目に浮かぶ。

 

まあ、怒った女性には不用意に反論するもんじゃない。

精神修行の一環と捉えれば、多少は…ね。

 

話と意識が逸れまくったが、曹操軍と孫策軍がぶつかるのは今からのようだ。

図らずもその時に間に合った訳だが。

さてさて、どう動こうかねぇ。

 

 




・振り回し蹴り
KOF94と95におけるロバートのカウンター攻撃。
言う程振り回してないと思う。
「振り」「回し蹴り」なのか「振り回し」「蹴り」なのかでも違うけど。

中々佳境に入りませんね。
恐らく二月中には終わりません。

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