武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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74 鬼車

曹操様から、暗殺実行犯の生首が塩漬けで送られてきたらしい。

謝罪に添えて。

 

律儀なことだが、それで終わるものでもないだろう。

 

流石に言及はしてなかったが、曹操軍の被害は甚大のはず。

国が完全に治まる前に出征したがため、撤退したと言う事実は重い。

 

今後しばらくは袁紹派の豪族たちも活気づき、乱が発生する可能性も高まるだろう。

ちょっと前までの、孫呉の状況と似たような感じだ。

膿を出し切る良い機会と捉えるとこまで、同じような状況かな。

 

いずれにしても、しばらくは遠征に出る余裕なんてとてもないだろう。

孫呉にとっては一息つけると言うことだが。

 

さて、魏の方は良いとしてだ。

本題はこっち。

 

「劉備から手紙が届いたって?」

 

「うむ」

 

正確には、向こうの軍師から呉の軍師宛にだったようだが。

諸葛孔明より周瑜への手紙。

 

今更だが、客将に過ぎないはずの俺がそんな重要な情報を知っているのは何故か。

開催された主要会議に、当たり前の様に召集されたからさ。

 

ここは孫呉の首脳陣が集う執務室。

俺は白蓮を連れて参加している。

 

先日、彼女から色々と各方面の情報をまとめた資料を貰った。

あれは非常に助かった。

多角的な視野に立った情報の精査は、俺の視点では難しいものばかり。

普段は由莉に任せてあるが、資料として読めるとかなり違う。

 

だから労いも兼ねたお礼として、以前露店で買っておいた髪留めを贈ってみた。

そしたら思いの外、凄く喜んでくれたのは記憶に新しい。

 

ちなみにその露店は、何かと珍しいものも色々置いてあった。

中でも鼻が高くて顔が赤い面とか、思わず買ってしまったが後悔はしていない。

使い道は追々考えよう。

 

ともあれ会議だ。

 

「戦勝祝いと、季節の挨拶。そして、今後について書いてあったわ」

 

周瑜が説明を続けている。

益州に進んだ劉備ちゃんたちだけど、まだ統一には至ってない。

特に、南方や西方は奥深く難しい土地柄でもあるとか。

 

ばっちょんこと馬超は合流したのかな?

曹操様が揚州を先に攻めたみたいだから、まだかな。

 

「挨拶は良いとして、戦勝祝いって曹操軍を追い払ったことよね?耳が早いわねぇ」

 

孫策の言には全面的に賛同する。

各地に忍びを放つのは当たり前なのかも知れないが、手足が長くて結構なことだな。

 

「内偵が居るのだろう。可能な限りは排除するが、全ては流石に無理だ」

 

確かに。

目立つ奴や敵性の輩は排除に動くが、泳がせるのも策の一つ。

そこから判断できる情報も、結構沢山あるのだと言っていた。

由莉と白蓮が。

 

へえへえへえ。3へえ。

 

「それで、今後って何なのかってことだけど」

 

「うむ。我らが呉、曹操の魏。そして、益州の統一を進めている劉備の蜀」

 

劉備軍が巴蜀一帯を領土としたことから、蜀と称されることになったと教えてもらった。

 

「現在の有力な勢力はぁ、殆どこの三国に絞られています~」

 

孫策の言葉に周瑜が答え、陸遜が続ける。

…脅威の胸囲たち。

由莉も負けてないけどな!

 

つまり、今後はこの有力な三国が残って相争う関係図になると予想されるんだ。

おたくら、そこんとこどうよ?

なんて聞いて来てる訳か。

 

「全く、迂遠なことだわ」

 

面倒そうに孫策がぼやく。

全面的に同意するが、国同士の付き合いとはそう言うものなのだろう。

俺には無理だな。

 

「それが軍師の仕事だ。相手がいつ敵になるかも知れない故、余計にな」

 

淡々と、でも自信あり気に答える周瑜さん。

由莉と似てるとこあるよね、表情とか纏う空気感は違うけど。

頼りになるってあたりが凄く。

 

「そんな訳で、今後のことを話し合うわ。もっとも、大部分は先に冥琳と決めちゃったけど」

 

つまり事後報告、ないし承諾を得ることと通達がメインか。

まあ白蓮と言うブレーンが付いているとは言え、所詮は俺。

深く考えた所で良い結果が出るとも限らん。

客将だし、指示に従う方向で良いだろう。

 

 

* * *

 

 

そして今、俺は呂羽隊を率いて寿春に向かっている。

寿春に寄って色々確認した後、後続の同行者と共に益州へ赴く予定だ。

 

孫呉の将としてな。

 

いや、客将は客分であって直臣とは違うはずなんだが。

何故か、蜀への書簡にはそう書かれてあったし指示書にもそうあった。

 

白蓮が「孫策め!」なんて苦い顔して言ってた。

由莉は無表情だったな。

 

あ、これひょっとして不味いやつ?

少しくらい意識しとかんと爆発するかもしれんね。

それと、後続の同行者にも要注意だ。

 

やれやれ、考え事が多くて疲れるなぁ。

 

 

 

「師匠!久しぶりだな、会いたかったぜっ」

 

寿春近くに来ると、見知った奴が出迎えてくれた。

相変わらず熱い奴だな、韓当。

由莉が嫌そうな顔してる。

 

「ああ、久しぶり。あと寿春の長官への出世、おめでとう」

 

弟子の出世に対し手紙と祝いの品は送っていたが、会ったら祝辞を述べるも当然だよな。

 

「ありがとな!」

 

ニカッと爽やかな笑顔を浮かべるのが素晴らしい。

謙遜しないで、素直に受け止める度量のある良い奴だ。

 

寿春で後続を待ち、合流してから蜀へ旅立つことになる。

それまでは、久々に韓当と稽古や組手をするのもいいな。

先の戦いで大活躍して、出世したら忙しくなって腕が鈍るとかはないと思うが。

 

 

そんな訳で組手なう。

 

「っしゃらぁー!」

 

「ちぇすとぉーっ」

 

持ち前の武才で極限流を修めつつある韓当。

気弾は扱えないが、虎咆や飛燕疾風脚に暫岩脚などは会得している。

暫烈拳はあともう一押し、と言ったところか。

 

今回の組手では気弾はなしでやっている。

いやぁ、噛み合うな。

実に楽しい!

 

「飛燕ッ」

 

なんてワクテカしていると、韓当がかち上げ気味の膝蹴りを繰り出してきた。

おおっ!?

ガードは間に合ったが、勢い込いの余り持ち上げられる。

 

「疾風脚!!」

 

そのまま跳躍した韓当は、大きく回し浴びせ蹴りで打ち落とすように動く。

俺も、ガードしたまま蹴り落とされた。

 

「かはっ…やるな」

 

相変わらず内気功型のパワーファイターで、一撃が重い。

スピードと手数重視の由莉や凪とも違う、本来の極限流によく合致している。

 

「ははっ、大体は奴はこれで沈むんだぜ!」

 

なんて嬉しそうに言うが、この程度で満足して貰っては困る。

それと、師匠と呼ばれるからにはやられっぱなしとはいかない。

 

すぐに立ち上がってからの、前ステップ。

 

「おお?」

 

「ふんっ」

 

唐突に正面に現れた俺に若干動揺する韓当。

構わず、腕を振り回してラリアットを叩き込む。

 

「ぐはっ」

 

鬼車と称される特殊技で、その場でうつ伏せにダウンを強いるものだ。

後頭部から叩き込む感じになるからな。

 

びたん!なんて擬音が聞こえてきそうな感じに地面へ叩き付けられる韓当。

あまりに唐突過ぎて、驚いて対応出来なかったってとこか?

 

更にここから虎煌撃などで追撃出来るのだが、今回は気弾なしの組手。

稽古の意味を鑑みても、追い打ちは止めておこう。

 

 

 

「いやあ、良い稽古だった。押忍!」

 

どっちのセリフだと思う?

 

韓当でした。

暫く見ない間にすっかり出来上がってしまっている。

いや、前から片鱗はあったか。

 

ともあれ久々の組手は終了。

盛大に負けても一本も取れなくても、爽やかに笑うコイツは本当に逸材だ。

今でも十分強いが、稽古を重ねればもっと強くなるだろう。

楽しみだ。

 

由莉や白蓮も思うところがあったのか、試合を申し出て来た。

刺激を受けたか、良い傾向だな。

 

しかし残念、今日はもう時間切れ。

 

意外と速かったが、待ち人がやって来た。

 

 

「やっほー、お待たせー!」

 

後続の同行者が到着。

同行者と言っても、正式には副使に任じられた俺の方がオマケだがな。

 

正使である彼女と共に数日逗留し、諸々の準備をしてから蜀へ出立する。

呉の将を、客将として蜀に貸し出すと言う誠意ある外交戦略を果たすために。

 

 




・鬼車
KOFタクマの特殊技。
単発で当てると、本文のように相手を強制ダウンさせます。
連続技で当てると仰け反り効果で、更にキャンセル可能。
使い道は色々ありましたが、単発で当てるのは難しいかもしれません。

これにて揚州編は終わりです。
次回からは同盟編として、ラストスパートだぜ!(仮

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