武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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82 飛車落とし

むぅ、…ここはどこだ?

 

「……」

 

「おわっ」

 

ふと気付くと、目の前に呂布ちんが佇んでいた。

彼女は黙って俺を見詰めている。

 

「えーっと…。あ、そうだ。先日は巻き込んで悪かったな」

 

仮面騒ぎの時、前のめりで追っかけて来たのは記憶に新しい。

どんな理由で全力を出したのかは分からないが、巻き込んでしまったのは事実だろう。

だから謝っておかねば。

 

「……別にいい」

 

「そっか。まあ今度、飯でも奢るよ」

 

そう言うと、目を輝かせてコクコク頷いてくれる。

うん、癒される。

今までまともに会話したことがほとんどなかったからな。

これからもちょくちょく話したり、真っ当な勝負をしていきたいものだ。

 

おや?

呂布ちんが、変わらずじぃーっと見詰めてくる。

 

「どした?」

 

「あの仮面……」

 

「ん?」

 

仮面…とは、この天狗面のことか。

取り出して見せると、コクコク頷く。

 

「これがどうかしたのか?」

 

「欲しい」

 

まじか、物好きだな。

いやまあ、別にいいけどさ。

そう思い手渡そうとすると…

 

『それを手放すなんて、とんでもない!』

 

「えっ?」

 

何かが響いて来て、思わず辺りを見回すが何もなし。

しかも、手渡そうとした腕が動いてくれない。

ぬぅ、面妖な……一体何だ?

 

「??」

 

「あっと、すまない。どうも、これは渡せないらしい」

 

良く分からないが、そんな気がする。

そう伝えると、残念そうにシュンとして俯いてしまう。

何だか凄く申し訳ない気持ちになった。

 

「えっと、代わりにこれから…」

 

飯でも、と言いかけたところで異変に気付く。

呂布ちんは目を閉じているが、ゴゴゴゴとその内から凄まじい勢いでプレッシャーが湧き上がってくるのが分かった。

 

「ど、どうかしたのか?」

 

恐る恐る声を掛けると、呂布ちんはスッと目を開いた。

何やら戦闘モードのような緊張感を感じる。

 

「……殺してでも、奪い取る……」

 

シュランと何処からともなく槍を取り出し、そのまま大きく振りかぶって…

 

「え。ちょ、まっ!?あっーー!」

 

 

* * *

 

 

「隊長?」

 

はっ!?

カッと目を開けば由莉の顔。

 

おおー……?

ああ、なんだ夢か。

 

まさか呂布ちんが、あんなこと言う訳ないもんな。

うんうん、本当に良かった…。

 

不思議そうな由莉をおいて、一人胸を撫で下ろす。

そこにずずいっと入り込んでくるシャオ。

 

「ねえねえリョウ。呉から返信あったんだけど、見た?」

 

「いや、見てないが」

 

あまり見たくもない。

と言うかシャオ、何だか久しぶりだな。

黄忠をおばさん扱いした後、どこかへ連れて行かれていたが無事だったのか。

 

「ふ、ふん!シャオにかかれば、あんなの……」

 

「口は災いの元」

 

あ、由莉がぼそっと囁いたらシャオが黙ってしまった。

まあこれで一つ学んでくれたら幸いだ。

 

「で、呉からはなんて?」

 

「現状維持で良いそうです」

 

流石我らが副長殿。

ちゃんと把握してくれてた。

 

「それより隊長。軍議の内容、ちゃんと覚えてますか?」

 

「……え?」

 

軍議……?

 

正面で由莉が盛大な溜息をついた。

いや、ちょっと待ってくれ。

すぐに思い出すから!

 

「何となくボンヤリしてるなとは思ったが、大丈夫なのか」

 

「白蓮……。俺、起きてたか?」

 

改めて確認してみると、周りの皆からジトッした目で見詰められて困惑する。

どうも寝てたらしい。

 

此処はどうやら会議室。

朝から軍議があって参加したはいいものの、日夜を問わず反省し続けてたせいで眠気に負けたみたいだ。

腕を組み、深く座して瞑目してた俺の様子が目に浮かぶ。

 

一見して寝てるとは思われなかったかな?

希望的観測かな?

 

「ところで隊長。関羽殿と趙雲殿と呂布殿、それに黄忠殿から話があるそうです」

 

ダメだったようだ。

関羽は間違いなくお叱りだろう。

笑顔の関羽さんが目に浮かぶ。

元々笑顔と言うのは威嚇する表情だったんだよとか何とか。

 

趙雲は先日のことかな。

黄忠さんと呂布ちんは、何だろうね。

 

「それで軍議の内容だが。南蛮が攻めて来たらしく、将兵を送るそうだ」

 

「あとねー、魏の動きも活発になってるみたいだよー」

 

「我々も動くことになると思われます」

 

呆れたりしながらも、しっかり要点だけ教えてくれる。

良い仲間たちを持って俺は幸せだ。

 

「では隊長。外で関羽殿たちがお待ちですので」

 

……あっ

 

 

* * *

 

 

まず話したのは趙雲。

中身は概ね予想通りで、華蝶仮面の正体について釘を刺された。

あれでばれないと思うのと、実際ばれてない事実が凄いよね。

 

 

続いて関羽との話とは、こちらも予想通りにお叱り。

ただ内容は、先ほどの事ではなく先日の仮面武闘会のことだった。

なんで俺ってばれたんだ?

少なくとも、囲まれた時にはまだ気付かれて無かったはず…。

 

頑なにシラを切り通そうとしたが、後ろに居た由莉の殺気が高まったので諦めた。

どうやら由莉にとって、あの姿はお気に召さないものらしい。

 

今後一層の蜀へ奉公。

客将なんて関係ないねってレベルでの奉仕を求められ、やむなく了承。

どうせ俺に出来ることは高が知れてる。

それに、いざとなれば有耶無耶に……。

 

あと華蝶仮面についても聞かれたが、釘を刺されたばかりで言う訳にも行かず。

元より言うつもりもなかったが、趙雲がどこか焦ってたのはこの為か。

知らんと言い張ると、憤りながらも引いてくれた。

 

 

そして呂布ちん。

ただ一言、「仮面」と呟いたことに思わず戦慄。

慌てて先日のことを詫びて、昼飯を奢ることを約束したら目を輝かせて頷いてくれた。

話を遮る形になったが、今はまだ夢の恐怖が残っている。

所詮は夢。

関係ないとは思うが、な。

 

 

最後に黄忠さん。

娘さんを助けてくれたことへのお礼と、そこから身バレしたことが判明。

あー、あの人質になってた少女。

どこかで見たことあると思ったら、璃々ちゃんだったのか。

 

しかしよく俺だと分かったな。

華蝶仮面は分からん癖に…。

まあ、世界的仕様なら仕方ないかぁ。

 

さらに黄忠さん。最後に…

 

「私は紫苑と言います。感謝の気持ち、どうぞ受取って下さい」

 

なんて言いながらススッと腕を組んできた。

ほわぁっ!?

 

直後、背後で高まる殺気に身の危険を感じたところでっ

ぼひゅんと飛んできた気弾を、咄嗟の飛車落としで打ち消した。

 

「チッ」

 

蹴り出したポーズで舌打ちする由莉。

あれ、何か昔の雰囲気に戻ってるような。

 

「あらあら、お盛んですわね。では私はこれで。…夜討ちには、気を付けて下さいね?」

 

ピリピリしだした場に、おっとりとした声が響く。

黄忠さん、…真名は紫苑さんか。

彼女はそう言って、微笑みながら去って行った。

 

しかし真名だが、預かるとも断るとも言えなかった。

でも今更断れないよなぁ。

 

真名の押し売り。

クーリングオフとか出来るのか?

 

後ろを振り返ると、由莉と白蓮は渋い表情。

シャオは……遠くの柱の陰からこちらを窺っているのが見えた。

流石に怖がりすぎだろ。

 

 

「あ、それと」

 

「うおっ?」

 

「数日後、私と蒲公英ちゃん。それと皆さんで北へ向かう予定ですので、どうぞ宜しく…」

 

気配を感じさせずにサッと戻り、すぐまた消える。

周泰も驚きの忍び技に、戦慄を禁じ得なかった。

 

済まないシャオ。

さっきのは撤回する。

確かに怖い。

物陰に隠れて様子を窺うのも仕方ないね…。

 

 




・飛車落とし
KOFタクマの特殊技。
飛び道具を打ち消すことが出来ますが、その用途で使用した記憶はありません。


ふと思いついたネタは書かねば済まない。
悪癖と言う名の、不治の病です。

25話、41話、81話の誤字報告適用しました。

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