武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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85 足先殺し

「申し上げます!魏側より、複数名の人影が向かっているのが確認されました!」

 

重大な報告が入ったのは、紫苑と馬岱を送り出そうとしているまさにその時だった。

タイミングが悪いな。

 

「あらあら、これでは退けませんわね。流石に悪いですし」

 

「向こうも運がないね。よーし、たんぽぽとシャオの可憐な連携技を見せてあげよう!」

 

何時の間に真名交換したし。

それよりも可憐な連携技って…、まあ見なくても分かる。

絶対可憐じゃない。

 

「リョウ?またシャオに言えないような、変なこと考えてるでしょ!」

 

考えてr…いやいや…。

しかし良く分かるな、これも乙女の勘って奴か?

 

「いや、特に。それより二人は戻ってくれても構わないぞ」

 

侵入者の規模にもよるが、少数精鋭だろうし囲い込みに問題はないと思う。

弓の戦いにも興味はあるけど、ごった返すのも問題だ。

 

「御心配には及びませんわ。むしろ、此処で退く方が将として問題かと」

 

「陽動かも知れないし、戻って警戒したり注進する者も必要じゃないか?」

 

「それなら、たんぽぽの隊から何人か出せば問題ないよ?」

 

ぬぅ馬岱め、的確な正論を述べよってからに。

 

「リョウ、何を考えてるの?」

 

シャオが俺の目を覗き込んでくる。

水晶のように青く透き通った、美しい目だね。

 

いやいや、別に不穏な事は考えてないよ。

嘘だ、少し考えてる。

でも言えない。

 

「いや何。配置の問題がな、少し気になるだけさ」

 

「ふぅ~ん…?」

 

疑いの眼差しを向けて来るシャオ。

何かを勘付いているような由莉と白蓮は、しかし何も言わない。

姉さんは腕組みして瞑目、興味なさそう。

 

「追加報告です。敵将は夏侯淵と思われます!」

 

「わーお、随分と大物が来たねー」

 

知識通りだが、ちょっと心配になる。

色々な事象がふんだんに盛り込まれたイベントだったはず。

だから何が起こるか分からない。

 

だがまあ、本気で動く必要があるとは思っていた。

極限ファイターの力、思い知るがいい!

 

「でしたらやはり、皆で力を合わせて掛らねばなりませんわね」

 

「だよねー。それでリョウ、どうするの?」

 

だよねー、くさいよねー。

何時の間にか暫定トップに就任した俺に、今後の判断が委ねられる。

せっかくだから上手く活用し、目論見通りになるよう頑張ろう。

 

「俺が先行しよう。姉さん、ついて来てくれ」

 

「うむ、任せろ!」

 

由莉には隊の差配を任せる。

若干不服そうな顔をしたけど承諾してくれた。

何時もの事ながら済まないな。

今回は重要案件なんだ。

 

白蓮は広場の近くに布陣。

馬岱とシャオはその反対側に。

紫苑は最奥で、弓隊を指揮してくれ。

 

「先行するのは良いが、無茶はするなよ。ちゃんと誘い込むように動くんだぞ」

 

皆頷いてくれたが、白蓮から心配した保護者のような発言。

大丈夫、無茶と無謀が違うってことは弁えてるから!

うむ、弁えてはいるとも。

 

「大丈夫に思えないよ…」

 

俺だから諦めてくれ。

これもまた、今更という奴だ。

 

「じゃ、ちょっくら行って来る!」

 

「はい。御武運を」

 

由莉に見送られながら、姉さんたちを引き連れて山間に分け入った。

 

ひゃっはー!

極限無双の時間だぜぇっ

 

 

* * *

 

 

斥候に案内されつつ、気も読みながら進む。

師匠として、隊長として。

何より極限流の先達として、気の扱いについては由莉にも負けられん!

 

密かに鍛錬を続けて、大分掴めるようになってきた。

でもまだ、由莉には敵わないことが分かっている。

ぬぅ、師匠の威厳が…っ

 

「さて呂羽。お前の真意はどこにある?」

 

「姉さん?」

 

じんわりと危機感を感じて居たところ、姉さんが唐突に聞いてきた。

 

「舐めるなよ。私とて、それなりの時を共に過ごしたんだ。お前が何かを考えてるのは分かる」

 

おお、姉さんからそんな言葉が聞けるとは。

ちょっと違うけどデレっぽいよね!

 

「まあ恐らく皆も、ある程度は気付いてるだろうがな」

 

ばればれでしたかー!?

腹芸が得手じゃないのは自覚してたが、そんな分かり易かったかねぇ。

まあいいか。

別に不利益を被らせようとか、そんな大それたことじゃないし。

 

「姉さんを裏切ったりはしないよ」

 

「そんなことは知っている。馬鹿にするな」

 

すんません。

しかしどう言おうか。

そもそも話してしまって良いものか。

 

「ふむ。悩むならば、無理して言う必要はない。お前のことは信頼しているからな」

 

「あー…うん、ありがとう」

 

なんだこれ、凄く嬉しい。

姉さんってこんなキャラだったっけ?

超武闘派な印象が強いけど、そういや部下思いで慕われてるんだった。

俺が姉さんって呼んでるのもその一端だしな。

 

「まあとりあえず、横で見ててくれ」

 

「うむ」

 

隠すことはしないが、どう話したものか分からない。

まあまずは移動だ。

足先殺しで背丈の低い枝葉を折りながら、道なき道を行く。

 

向こうが辿り着く前に、先に思い描いた通りの配置に付かないとな。

そして皆には言って無い、裏の行動もちょっとだけしようと思う。

 

 

ちなみに表向き、定軍山伏兵隊(仮称)の作戦はこうだ。

 

見通しの悪い森や林の中で待ち伏せ、奇襲。

俺と姉さんで見通しの良い広場に追い込む。

 

そこを、広場の最奥から紫苑率いる弓兵で強襲。

更に両側から、白蓮と馬岱の騎馬隊による囲い込み。

良く分からないが、馬岱とシャオの可憐な連携技も唸ることだろう。

恐らく一般兵はこれでほとんど殲滅出来る。

 

敵さんは偵察と言うことで少数精鋭。

数が多くないと言うことは、こちらが多ければそれだけ有利になると言うことだ。

 

情報から推測したところ、俺たちの兵数は向こうの三倍近い。

順当に行けば負ける要素はないわな。

 

だけども、ほぼ間違いなく順当には行かない。

どちら側からのイレギュラーによるものかは、まだ分からんがなぁ。

 

 

そんで、俺の人には言えない裏の作戦。

まあ作戦って程のもんじゃない、保険みたいなもんだ。

 

連れて来た隊員数名を、山の魏領側に配置。

何かあったらすぐ連絡が来るように。

本当は姉さんもそっちに置いときたかったが、横で見てろって言っちゃったからな。

 

まあ要は、北郷君が何かしらの手当てをしてくるんじゃないかって危惧。

夏侯淵が来るってんなら、絶対誰かが追加で来るだろう。

これは曹操様の可能性が大きい。

そうすると、ただの遭遇戦が戦端を開く切欠にならんとも限らん訳だ。

 

だから夏侯淵さんたちには、穏便にお引き取り願うのさ。

しかし、顔が割れてる俺では色々と問題があるかも知れない。

 

そこで、ユニークアイテムに頼ろうと思う。

ミスター・カラテに、俺はなる!(二度目)

 

わざわざ由莉を置いてきた理由は主にそれ。

姉さんには見られてないし、丁度良いよね。

 

 

さて、無事に配置についた。

懐から例のアイテムを取り出す。

これを持ってるせいで、呂布ちんに狙われるいわくつきの品。

 

「む、なんだその……妙に心惹かれる面は?」

 

えっ

ね、姉さん…?

 

まさかの恐怖、再びか!?

 

 




定軍山遭遇戦。
遂に山場を迎えます。山だけに。

・足先殺し
二代目Mr.KARATEの特殊技。
いわゆるローキックのような踏み付け攻撃です。
使い道?
ないよ、そんなの。

60話の誤字報告を適用しました。

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