武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
「申し上げます!魏側より、複数名の人影が向かっているのが確認されました!」
重大な報告が入ったのは、紫苑と馬岱を送り出そうとしているまさにその時だった。
タイミングが悪いな。
「あらあら、これでは退けませんわね。流石に悪いですし」
「向こうも運がないね。よーし、たんぽぽとシャオの可憐な連携技を見せてあげよう!」
何時の間に真名交換したし。
それよりも可憐な連携技って…、まあ見なくても分かる。
絶対可憐じゃない。
「リョウ?またシャオに言えないような、変なこと考えてるでしょ!」
考えてr…いやいや…。
しかし良く分かるな、これも乙女の勘って奴か?
「いや、特に。それより二人は戻ってくれても構わないぞ」
侵入者の規模にもよるが、少数精鋭だろうし囲い込みに問題はないと思う。
弓の戦いにも興味はあるけど、ごった返すのも問題だ。
「御心配には及びませんわ。むしろ、此処で退く方が将として問題かと」
「陽動かも知れないし、戻って警戒したり注進する者も必要じゃないか?」
「それなら、たんぽぽの隊から何人か出せば問題ないよ?」
ぬぅ馬岱め、的確な正論を述べよってからに。
「リョウ、何を考えてるの?」
シャオが俺の目を覗き込んでくる。
水晶のように青く透き通った、美しい目だね。
いやいや、別に不穏な事は考えてないよ。
嘘だ、少し考えてる。
でも言えない。
「いや何。配置の問題がな、少し気になるだけさ」
「ふぅ~ん…?」
疑いの眼差しを向けて来るシャオ。
何かを勘付いているような由莉と白蓮は、しかし何も言わない。
姉さんは腕組みして瞑目、興味なさそう。
「追加報告です。敵将は夏侯淵と思われます!」
「わーお、随分と大物が来たねー」
知識通りだが、ちょっと心配になる。
色々な事象がふんだんに盛り込まれたイベントだったはず。
だから何が起こるか分からない。
だがまあ、本気で動く必要があるとは思っていた。
極限ファイターの力、思い知るがいい!
「でしたらやはり、皆で力を合わせて掛らねばなりませんわね」
「だよねー。それでリョウ、どうするの?」
だよねー、くさいよねー。
何時の間にか暫定トップに就任した俺に、今後の判断が委ねられる。
せっかくだから上手く活用し、目論見通りになるよう頑張ろう。
「俺が先行しよう。姉さん、ついて来てくれ」
「うむ、任せろ!」
由莉には隊の差配を任せる。
若干不服そうな顔をしたけど承諾してくれた。
何時もの事ながら済まないな。
今回は重要案件なんだ。
白蓮は広場の近くに布陣。
馬岱とシャオはその反対側に。
紫苑は最奥で、弓隊を指揮してくれ。
「先行するのは良いが、無茶はするなよ。ちゃんと誘い込むように動くんだぞ」
皆頷いてくれたが、白蓮から心配した保護者のような発言。
大丈夫、無茶と無謀が違うってことは弁えてるから!
うむ、弁えてはいるとも。
「大丈夫に思えないよ…」
俺だから諦めてくれ。
これもまた、今更という奴だ。
「じゃ、ちょっくら行って来る!」
「はい。御武運を」
由莉に見送られながら、姉さんたちを引き連れて山間に分け入った。
ひゃっはー!
極限無双の時間だぜぇっ
* * *
斥候に案内されつつ、気も読みながら進む。
師匠として、隊長として。
何より極限流の先達として、気の扱いについては由莉にも負けられん!
密かに鍛錬を続けて、大分掴めるようになってきた。
でもまだ、由莉には敵わないことが分かっている。
ぬぅ、師匠の威厳が…っ
「さて呂羽。お前の真意はどこにある?」
「姉さん?」
じんわりと危機感を感じて居たところ、姉さんが唐突に聞いてきた。
「舐めるなよ。私とて、それなりの時を共に過ごしたんだ。お前が何かを考えてるのは分かる」
おお、姉さんからそんな言葉が聞けるとは。
ちょっと違うけどデレっぽいよね!
「まあ恐らく皆も、ある程度は気付いてるだろうがな」
ばればれでしたかー!?
腹芸が得手じゃないのは自覚してたが、そんな分かり易かったかねぇ。
まあいいか。
別に不利益を被らせようとか、そんな大それたことじゃないし。
「姉さんを裏切ったりはしないよ」
「そんなことは知っている。馬鹿にするな」
すんません。
しかしどう言おうか。
そもそも話してしまって良いものか。
「ふむ。悩むならば、無理して言う必要はない。お前のことは信頼しているからな」
「あー…うん、ありがとう」
なんだこれ、凄く嬉しい。
姉さんってこんなキャラだったっけ?
超武闘派な印象が強いけど、そういや部下思いで慕われてるんだった。
俺が姉さんって呼んでるのもその一端だしな。
「まあとりあえず、横で見ててくれ」
「うむ」
隠すことはしないが、どう話したものか分からない。
まあまずは移動だ。
足先殺しで背丈の低い枝葉を折りながら、道なき道を行く。
向こうが辿り着く前に、先に思い描いた通りの配置に付かないとな。
そして皆には言って無い、裏の行動もちょっとだけしようと思う。
ちなみに表向き、定軍山伏兵隊(仮称)の作戦はこうだ。
見通しの悪い森や林の中で待ち伏せ、奇襲。
俺と姉さんで見通しの良い広場に追い込む。
そこを、広場の最奥から紫苑率いる弓兵で強襲。
更に両側から、白蓮と馬岱の騎馬隊による囲い込み。
良く分からないが、馬岱とシャオの可憐な連携技も唸ることだろう。
恐らく一般兵はこれでほとんど殲滅出来る。
敵さんは偵察と言うことで少数精鋭。
数が多くないと言うことは、こちらが多ければそれだけ有利になると言うことだ。
情報から推測したところ、俺たちの兵数は向こうの三倍近い。
順当に行けば負ける要素はないわな。
だけども、ほぼ間違いなく順当には行かない。
どちら側からのイレギュラーによるものかは、まだ分からんがなぁ。
そんで、俺の人には言えない裏の作戦。
まあ作戦って程のもんじゃない、保険みたいなもんだ。
連れて来た隊員数名を、山の魏領側に配置。
何かあったらすぐ連絡が来るように。
本当は姉さんもそっちに置いときたかったが、横で見てろって言っちゃったからな。
まあ要は、北郷君が何かしらの手当てをしてくるんじゃないかって危惧。
夏侯淵が来るってんなら、絶対誰かが追加で来るだろう。
これは曹操様の可能性が大きい。
そうすると、ただの遭遇戦が戦端を開く切欠にならんとも限らん訳だ。
だから夏侯淵さんたちには、穏便にお引き取り願うのさ。
しかし、顔が割れてる俺では色々と問題があるかも知れない。
そこで、ユニークアイテムに頼ろうと思う。
ミスター・カラテに、俺はなる!(二度目)
わざわざ由莉を置いてきた理由は主にそれ。
姉さんには見られてないし、丁度良いよね。
さて、無事に配置についた。
懐から例のアイテムを取り出す。
これを持ってるせいで、呂布ちんに狙われるいわくつきの品。
「む、なんだその……妙に心惹かれる面は?」
えっ
ね、姉さん…?
まさかの恐怖、再びか!?
定軍山遭遇戦。
遂に山場を迎えます。山だけに。
・足先殺し
二代目Mr.KARATEの特殊技。
いわゆるローキックのような踏み付け攻撃です。
使い道?
ないよ、そんなの。
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