武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

86 / 109
86 毘瑠斗圧覇

 

対人地雷と化した俺たちの前方にからやって来るのは、前情報通りに夏侯淵。

あと典韋。

相変わらず頭のリボンがとってもキュート。

そして、彼女たちに率いられた決して多くはない兵士たち。

 

まだ少し距離があるが、頃合いだろう。

そろそろ始めようか。

 

「呂羽、私はどうすればいい?」

 

仮面を付けたところで、姉さんが聞いてきた。

おっと忘れてた。

今、俺は一人じゃないんだった。

 

「姉さん。実は俺、彼女たちを追い返すつもりなんだ」

 

「む。迎え撃ち、殲滅するのではなかったのか?」

 

「うん。まあ、本来の計画ではそうなんだけどね…」

 

「…お前もちゃんと考えているのだろう。よし、私は何も言わんぞ!」

 

ありがとう、そしてごめん。

そこまで深くは考えてないんだ。

 

でも大丈夫。

なんたって俺は極限ファイター。

ミスター・カラテ風の空手仮面なのだから!

 

…どうにも、天狗面を手に取った時からテンションがおかしい。

前回と違って、素面のハズなんだが。

パブロフのワンコみたいな感じ?

まあ特に問題はない気もするし、このまま行ってしまおう。

 

「しばらく待機しておいてくれ。迎撃が始まったら宜しく頼む」

 

「うむ、任せておけ!」

 

姉さんと隊員たちを残し、俺は素早く移動を開始した。

仮面を付けて、気を纏えば準備万端。

 

ぬぅぅーーんっ

気力充填、髪と胴着をオーラで覆う。

前回やったことをなぞるだけの、簡単なお仕事です。

 

無駄に器用なことをと思ったが、気の鍛錬には良い感じだった。

何事も無駄にはならんと言うことだ。

 

…うむ。

どこからどう見ても、立派な空手仮面。

 

さて、傾くか。

 

 

* * *

 

 

眼下には粛々と行進する魏軍の皆さま。

ちなみに俺は、一本杉のてっぺんで腕を組んで立っている。

 

イメージするのは常に最強のカラテ。

 

では、往くとしよう。

 

ぐぐっと膝を曲げてバネを使って高く舞う。

 

ぬぅおぉーー、毘瑠斗圧覇ァッ!

本来は打ち上げから打ち下ろし叩き付けまでが一連の技だが、今回は派手なモーションで魅せることを優先した。

 

ある程度の高さから、目標目掛けて手刀を掲げつつ急降下。

鋭気に勘付いた夏侯淵が咄嗟に弓を構えるが、木々が邪魔をする上にもう遅い。

 

「ちぇすとぉぉーーーっっ!!」

 

ズドォーン!と衝撃波を発生させつつ、派手に着地した。

夏侯淵たちの眼前に。

 

「くっ!?…何が起きたっ」

 

懐かしのクールボイス。

おおっと、冷静になってはいけない。

心は熱く、しかし今の俺もといワシは空手仮面なのだ!

 

「此処から先はワシの領域。通ること罷りならぬ。疾く、去れ」

 

無駄に高圧的に、自信満々を心がける。

本当のミスター・カラテはそんな存在じゃないが、今は気にしない。

 

「…貴様、何者だ」

 

「ふっ…、その言葉。そっくりそのまま返そうではないか、侵入者よ」

 

「ッ!!」

 

定軍山への侵入者と言う意味で言ったんだけど、蜀領へと言う意味で捉えられたかな?

別にどっちでもいいけど。

 

全員が殺気立つのが分かった。

典韋まで厳しい表情で武器を構えてる。

 

「ふむ。退かぬか?ならば仕方ない」

 

ぬぅおぉーんと、周囲にも分かるように気を高める。

夏侯淵の弓が引き絞られた。

 

「実力行使と行こう!」

 

虎煌撃。

ズバァーンと地面に気弾を打ち込み、土煙を舞わせる。

林間での視界不良。

弓や大型の武器にとっては難儀だろう。

 

これを合図として、横合いやや後方から姉さんが突っ込んできた。

森林破壊もなんのその。

流石は姉さんだが、典韋も同じこと出来るんだよな。

 

「はぁぁぁーーーっっ!!」

 

精鋭とは言え一般兵。

意図して気を扱えるようになった姉さん相手じゃ、明らかに分が悪い。

 

錐揉み回転して吹っ飛ぶ一般兵の皆さん。

ひょっとして、姉さん根に持ってたか?

背中を冷たい汗が流れるが、今はそれどころじゃない。

 

「くっ、待ち伏せか…総員退避!流琉、走れ!!」

 

「で、でも秋蘭様!?」

 

「あとで合流する。はやく!」

 

「は、はいっ」

 

俺一人だと警戒しつつも相手になるが、伏兵がいたら話は別。

まあ冷静な判断だと感心するが、どこもおかしくはないな。

 

さて、退避と言いつつ事実上の撤退を選んだ魏軍の皆さん。

しかし追い返すにしても、山からは確実に追い出さねばならない。

そこに妥協はないぜ!

 

典韋が兵の大半を連れて退いて行くのを見ながら、俺は夏侯淵に迫る。

姉さんは典韋を追うようだ。

そっちは任せたぞー。

 

「暫烈拳」

 

ぎゃりぎゃりぎゃりーーッ、土煙の中から出て来て連打される拳。

防ぐ夏侯淵だが、往なし切れず後退する。

 

「くぅッ」

 

「ふむ、近接は苦手か」

 

実際はそうでもないんだろうけど、咄嗟の一撃が良く効いてるっぽい。

続けて行くぞ。

 

「飛燕疾風脚」

 

至近からの疾風脚が刺さり、横回し蹴りもヒット。

しっかりとしたガードが間に合わず、身体が浮いてしまう夏侯淵。

 

「覇王……至高拳」

 

浮いた彼女に非情の追撃。

地に足が付かぬ状態では守りもままならない。

それでも必死にもがいて、諦めない姿勢は尊敬に値する。

流石は曹魏の夏侯姉妹だなぁ。

 

とは言ってもね。

 

覇王至高拳を浮いた状態で、割と至近距離で食らっては無事ではすまない。

例え、スピード重視で多少勢いが削がれてたとしてもだ。

 

派手な炸裂音を響かせ、覇王至高拳は彼女にヒットした。

 

「---っ!」

 

吹っ飛ぶ夏侯淵。

近くに木にぶつかり、そして崩れ落ちた。

 

……うむ、やりすぎたか?

 

しばらくその場に佇むも、動く者はいない。

周囲を見回しても立っているのは俺だけ。

 

隊員が数名、駆け寄って来るのが遠目に確認できた。

 

「ふむ、終わったか」

 

聞こえるように独り言を呟くが、反応する者はおらず。

どうやら夏侯淵含め、魏の兵士たちはみんな気絶してしまったようだ。

 

最低限の警戒はしつつ、倒れ伏す彼女に近付く。

そして気付いた。

気付いてしまった……!

 

覇王至高拳を受けた影響なのか、夏侯淵の衣服に異常がみられる。

簡単に言えば、派手に破れていた。

 

どのくらい?

下着が見えるくらい。

 

……黒、だと……っ?

 

イメージカラーから、てっきり青系だと思ってた。

しかし違和感はないな。

うむ、よく似合ってる。

 

じゃなくて!

 

誰も居なくて良かった?

確かにそうだ。

由莉とか居たら、きっと怒られる。

 

誰も居ないと困る?

困ってる。

白蓮とか居ないと、対応し兼ねる。

 

うおー!誰か、誰かぁーー!?

 

 

駆け寄って来た隊員の中に女性が居てくれたので、何とか助かった。

その時、彼女の目が少し冷たかったのを追記しておく。

 

そして副長に報告を……なんて聞こえるように呟く奴は間違いなく悪魔。

くっ…何が望みだ!?

 

なに、酒を浴びる様に飲んでみたい?

戻ったら溺死するくらい飲ませてやるわ!!

 

 

* * *

 

 

布で包んだ夏侯淵をお姫様抱っこで運ぶ。

気付かれたら何を言われるか分かったもんじゃないが、気絶したままだから問題ない。

一応、念のために両手は縛ってある。

 

縛る時、隊員の目は氷点下のようで…。

お、俺は悪くねぇ…。

気付かない振りをせざるを得ない。

 

そして隊員の案内で向かった先には、姉さんが佇んでいた。

 

「む…。夏侯淵を生け捕るとは、流石だな」

 

そう言ってくれるも、少しテンションが低い。

何かあったのだろうか。

 

「敵将たちはこの先に居るが、その更に向こう側に後詰が居るようなのだ」

 

そっちを警戒して追撃の手を緩めたらしい。

典韋が率いる兵の数は、元の半分以下にまで打ち減らしたようだが。

 

後詰、か。

北郷君手配のものだろう。

さて、誰が居るのかな?

 

 




夏侯淵さん、脱衣KOしちゃうの巻。
バレると不味い状況プライスレス。

・毘瑠斗圧覇
KOFタクマのNEO MAX超必殺技。
ビルトアッパーで画面外まで上昇し、急降下して叩き付ける技。
潰し技としては優秀ですが、リーチは短め。
さらに外れても技は最後まで出すので、隙が大きくなります。

今回は見た目、某豪鬼の禊風に使ってみました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。