武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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91 踵落とし蹴り

「みんなー、帰ったよー!」

 

「シャオ、おかえりなさい」

 

無事、呉に戻って来た。

此処は建業の会議室。

 

シャオが元気に挨拶し、孫策が笑顔で出迎える。

何も言わないが、孫権も顔が綻んでいた。

 

美しき姉妹の姿が此処にある。

うむ、眼福なり。

 

「呂羽も御苦労だったな」

 

「どう致しまして。結構楽しかったぜ」

 

きゃいきゃいはしゃぐ姉妹を横目で見つつ、周瑜が労ってくれた。

流石は孫呉が誇る最強軍師。

仕事が出来る良い女だ。

 

しかしふと、目の前に立つ周瑜に違和感を覚える。

何かがおかしい、ような気がしないでもない。

どこがどうと言葉に出来る程じゃない、僅かな違和感。

はて…?

 

「詳細は後ほどゆっくり確認するとしよう。書簡も頂いていることだしな」

 

おっと、その書簡は由莉と白蓮の謹製です。

太守経験のある白蓮と、優秀な副長である由莉がまとめた資料はとても使いやすい。

ゆっくり見ていってね!

 

「それじゃ、今夜は宴ね!」

 

「…雪蓮、それまでに決済は終わらせなさいよ?」

 

ひゃっほーと嬉しげに宴の開催を告げる孫策に対し、周瑜が死の宣告を行った。

ビシッと固まる孫策の姿に苦笑いの孫権。

シャオは楽しそうに笑っている。

 

改めて言うが、実に良い光景だ。

この雰囲気は大変宜しい。

 

「そうそう。呂羽、お前の屋敷は以前のままだ」

 

出発前に間借りしてた、孫静の屋敷な。

離れに隠居した孫静が居たが、それでも十分広大な敷地面積を誇る。

白馬義従を含む呂羽隊、全員を詰め込むことも可能な程だ。

すし詰めになるからしないけど。

 

「今回の褒美も兼ねて、正式に下げ渡す。存分に使え」

 

「ありがたく貰っておこう。…ん?孫静はどうなるんだ」

 

離れは例外なのか、孫静が居候の身分になるのか。

俺がそう聞くと、孫権ほか数名が痛みを堪えるかのような表情に。

む、何か起こったのか。

 

「ああ、叔母様は出奔したの。だから気にしなくていいわよ」

 

「…出奔とは穏やかじゃないな」

 

気にしない訳にはいかんだろ、流石に。

詳しく聞いたところ、こっちはこっちで色々あったようだ。

 

孫呉の中枢にまで侵食してきた間者の魔の手。

周瑜や陸遜の手により実行犯は捕えられ、処刑されたり自害したり。

しかし彼らだけで動ける訳がない。

手引した人物がいるはず。

 

足跡を辿っていると、ある一門の姿が浮かび上がった。

それが孫静。

 

証拠となるものを集めて詰問しようとしたところ、発覚と追及を恐れた孫静は素早く逃亡。

すぐさま追手が出されたが、事前に準備されていたらしい伝手を使って逃げ切られてしまったらしい。

周泰が用事で不在だったのも、出奔を許した一因だったようだ。

 

「叔母様が向かった先は魏。曹操を頼ったようね」

 

「おやまあ」

 

時期的には丁度、俺たちが定軍山で……うん、某仮面戦士がね……。

 

そんな魏の首脳陣たちが出払っていた時に、するっと入り込んだ訳ですな。

 

タイミング良すぎじゃね?

話をする孫策や周瑜、陸遜の表情が変わらないのも気になる。

何かしらの意図が働いた結果、か?

 

視線に疑問を乗せて、孫策へ投げかける。

彼女はそれを微笑で受け止めた。

 

「あ、叔母様の私物は一応蔵にしまってあるから大丈夫よ」

 

「そうか、分かった」

 

まあ何れにしろ、対策はバッチリなんだろう。

周瑜や陸遜が何も言わないのは、そういう事とも取れるし。

 

「じゃあ、宴まではゆっくりしてて頂戴。後で使いを出すから」

 

「承知した。では失礼する」

 

色んな思惑が交差する戦国の世。

俺も色んな事を考えないといかんのだろうなぁ。

 

会議室を辞去し、貰った屋敷に向かいながらそんな事を思った。

前も思った気がするな。

 

 

* * *

 

 

勝手知ったる他人の家。

それが何時の間にやら、自分の家にジョブチェンジ。

 

しかも元は一門の屋敷で規模もでかい。

部屋数もたくさんあるよ!

 

隊の上級人員に配賦してもなお余る。

お客様用にしておくか。

下士官は外に分散して駐留するのは以前の通り。

 

俺の部屋は結構広い。

隣には由莉の部屋と、白蓮の部屋がある。

それらの部屋とは、表廊下とは別に専用通路で繋がっていた。

 

執務室を兼ねてるんだろうね。

まあ緊急時以外、使う機会はないだろう。

 

念のために言うが、部屋割したのは俺じゃない。

職権乱用とかじゃないから、誤解しないように。

 

 

「隊長。城から使者の方が参られました」

 

「うぃ、通してくれ」

 

「御意」

 

広くても狭くても、俺の部屋に皆が集まるのは変わらない。

もう全然気にならないぜ。

 

「やっほー、リョウ!」

 

使者の方とはシャオだった。

おい、だったらそう言えよ。

思わず姿勢を正してしまったじゃないか。

 

「なんだシャオか。姉妹愛はもういいのか?」

 

「なんだとは何よ~。せっかく愛しのシャオちゃんが来て上げたのにぃ」

 

愛しのとか言うな。

ほら、両側から圧が掛かって……両側?

 

俺の後ろには由莉と白蓮。

じゃあ前は?

 

「邪魔するぞ」

 

「…孫権か、珍しいな」

 

孫権が俺を睨みつけながら入って来た。

 

いや、俺は何も悪くないよな。

相手がシャオでなければ、踵落とし蹴りでもお見舞いしてやるってのに。

韓当か牛輔か、あるいは北郷君とか近くに居ないかな。

居る訳ないか。

 

「なに、貴様がシャオに不埒な真似をしないか確認をな…」

 

異議あり!

原告は被告にあらぬ疑いを持っています。

弁護士を呼んでくれ。

 

「もう、お姉ちゃんってば。リョウにお礼を言うんじゃなかったの?」

 

「んな!?シ、シャオ……わたしは別に…」

 

お礼?

と言うか、シャオが弁護人だったのか。

王族の仮面が脱げた孫権がとても可愛らしい。

 

「特に礼を言われる覚えはないが」

 

「ううん。お姉ちゃんはねぇ、シャオを守ってくれたリョウにt」

 

「待てシャオ。ちゃんと自分で言う!」

 

にやにやしながらぶっちゃけようとするシャオまじ小悪魔。

だがそこが良い。

 

「コホン。…呂羽、蜀への旅路。御苦労だった。それにシャオのことも守ってくれて…」

 

「ああ、うん。いや、問題ないよ」

 

王族っぽい空気でお礼を言われ、シャオのことについては女の子っぽい喋り口で段々尻すぼみに。

お姉ちゃんとして、妹の無事が確認出来て嬉しい。

だから一応護衛の役割も果たした俺にも、その礼を言おうとした訳だ。

可愛いのう。

 

「それとな。冥琳から言伝だ」

 

周瑜から?

なんだろ。

 

「もし長旅による疲労があるなら、建業の街に腕の良い医者がいるらしいから掛かってはどうか?だそうよ」

 

「ふむ、了解した」

 

腕の良い医者か……。

某名医しか思い浮かばんな。

 

「あとリョウ!宴をやるから来いって、姉様が」

 

ああ、そっちもあったな。

じゃあ準備してから行くとするか。

 

「うん!一緒に行こっ」

 

 

* * *

 

 

そして宴は開かれる。

宴って開催場所によって、結構特徴があるよね。

 

魏では曹操様と北郷君を中心として、ワイワイガヤガヤ。

比較的お上品な感じのことが多かった。

 

董卓軍においては、夜景を肴に静かな飲み会が多かったかな。

俺の相手は主に姉さんだった訳だが。

 

蜀だと皆が和気藹々。

劉備ちゃんをはじめ、酒飲みが多いのも特徴。

出来あがった頃には各処で手合わせが頻発していたなぁ。

 

そして此処、呉はと言うと…。

 

「呂羽、うちに仕官なさい」

 

「断r」

 

フォーンと風を斬って進む刃に見惚れて止まない。

 

普段は静かな、それこそ董卓軍と近い感じな印象だったんだが。

何故か孫策が矢鱈と絡んでくる。

別に酔ってる訳でもなさそうなのに。

 

手合せは手合せで別途やればいいのに、何で宴で?

 

 

「え、呂羽さんって仕官してなかったんですか?」

 

「蜀に出向した時点で呉の将だったのだ。仕官したと見做しても構わんだろう」

 

構うわ!

ってか、何故俺は剣を持った孫策に追い回されているのだろうか。

 

「あははははっ、ほらほらー!てぇーいっ」

 

孫策、謎のハイテンション。

楽しそうで何よりだが、面倒になってきた。

潰してしまおう。

 

「このォ…」

 

物理的にな!

 

「コワッパがァァァーーーッッ!!」

 

極限虎咆が炸裂ゥ。

 

「孫策様が小童なら、隊長は一体…」

 

由莉が後ろで何か呟いたが、細けぇこたぁ気にしねぇ。

 

顎に入って天高く舞い上がる孫策。

それを見ていた数名が俺の前に立ちはだかる。

 

「姉様!?おのれ、よくも姉様を…っ」

 

「よーし、シャオの可憐な必殺技を見せちゃうよーっ」

 

「来るか孫呉の姉妹よ。さあ、見事姉の敵を取ってみせろ!」

 

シャオはノリノリだが、孫権は割と本気だ。

俺が孫策と打ち合い、潰して行くのは今に始まった事じゃないんだが。

 

ちなみに孫策は死んでもないし、気絶すらしてない。

今は周瑜が膝枕。

 

結局、呉の宴もてんやわんやの大騒ぎになった。

こういうのも、嫌いじゃない。

 

おっと、お開きになる前に周瑜に頼みごとをしておこう。

すぐ忘れてしまうから、気になることは早めに解決させねばな。

 

 




・踵落とし蹴り
二代目Mr.KARATEの特殊技。
いわゆる踵落としで中段だけど、ゲーム性能上連続技にはなりません。
使い道?……なくはないけど、連携技でしかないですかね。

・韓当か牛輔か、あるいは北郷君
主人公がツッコミとして踵落としを入れることに躊躇しない順ベスト3人。
尚、試合や戦闘時は誰にでも躊躇しません。

今回より決戦編となります。
少し周辺を彷徨ってから、ドッカンして終了の予定。
尚、予定は変更される場合があります。

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