武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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92 大刀

建業の街に居る医者。

大陸でも名医と評判らしい。

 

昨夜の宴の後、周瑜に声を掛けて本日朝一で出掛けることにした。

別にデートではない。

だから孫策と孫権とシャオ、あと由莉と白蓮はそんな目をするな。

 

 

「私もあまり暇ではない。用事とやらはすぐ済むのか?」

 

「何事も無ければ、すぐ済むと思うよ」

 

極限虎咆を放って滞空してた時、ふと思い出したんだ。

周瑜って病魔に蝕まれてたんじゃなかったっけ?

詳しくは覚えてないが、そんな記憶が無いでもない。

 

だけど名医なら、見ればどっちかすぐ分かるだろう。

問題なければそれでいい。

何かあったなら、その時はきっと解決してくれるはず。

 

昨日感じた、違和感の正体も気になる。

見当違いだったら諦めるが、いずれにしてもすぐに判明するだろう。

 

普段の周瑜は、その地位からして多忙を極める。

本当なら、こんな感じに連れ出すことも難しい。

まあそこは適当に言い包めて、な。

 

蜀への派遣業務の褒美代わりにとお願いしたら、了承を得られた次第。

 

近くで話を聞いてた奴らの表情は凄かった。

特に孫策と由莉。

何度も言うが、デートじゃないからな!

 

「おっと、ついたな」

 

「此処は……」

 

考え事をしていたらあっという間に到着。

テントを張って、病人や怪我人の治療に当たっているらしい。

周泰に聞いた通りだ。

 

「呂羽、何を考えている?」

 

「すぐ済むよ。多分」

 

おっと周瑜の目が険しくなってきたぞ。

これは当たりか?

 

「はい次の人。…ふむ、どちらだ?」

 

「ああ、こちらを頼む」

 

おお、やはり某勇者ロボのような技を持つあの人。

色んな意味で凄い漢(おとこ)、華佗だ。

 

「おい呂羽、私は……」

 

「何も無ければすぐ済む。いいから大人しくしてろ」

 

この期に及んで往生際が悪いぞ。

焦る周瑜を気にせず椅子に座らせ、華佗に診察を促す。

 

「ふむ…ふむ…。むっ、これは!」

 

淡々と観察する華佗は、何かに気付いたかのように表情を険しくする。

 

「何かあったか?」

 

「うむ……。済まないがお嬢さん、身体を横たえてくれないか」

 

医者に言われ、渋々ながら寝台に横たわる周瑜。

こちらを見る目はとても厳しい。

でも気にしない。

 

「……やはり、病が身体を蝕みつつある」

 

「……っ」

 

「治せるか?」

 

「ああ。やってみよう」

 

華佗は周瑜を前に、静かに佇み気を高めている。

おお、凄い気の量だ。

 

「見えた!」

 

カッと目を見開き、気を纏った腕を掲げる。

彼の背景に、炎が燃え盛っている様を幻視した。

いや、膨大な量の気功が立ち昇り揺らめいているのだから幻じゃない。

 

「いくぞ!…我が身、我が鍼と一つなり!一鍼同体、全力全快っ!輝け金鍼…っ、うおおおっ!」

 

彼がもし、俺のような修行をしたら覇王翔吼拳も夢ではないだろう。

そう思わせる程の昂ぶりを感じた。

 

「我が金鍼に全ての力、賦して相成るこの一撃!もっと輝けぇっ!五斗米道ォォォォッ!」

 

凄い!(小並感)

 

「病魔覆滅!げ・ん・き・に・なぁれぇぇぇぇぇっ!!」

 

 

* * *

 

 

華佗による治療は無事に終わり、周瑜は穏やかな表情で眠っている。

女性の寝顔を見るのはマナーに反するが、治療の副次効果だから許して欲しい。

 

「もう少し発見が遅ければ危ういところだったが、もう大丈夫だ」

 

「おお、そうか!良かった、ありがとう」

 

「なに、患者を救うのが医者である俺の仕事だ。礼には及ばん」

 

そう言って華佗は、次の患者の下へ去って行った。

いやぁ、間近で見ると半端ねえな。

 

改めて周瑜の姿を確認。

……うん、特に違和感はない。

どうやら無事に解決したようだ。

 

「…むっ…」

 

「お、起きたか」

 

「ここは?……いや。私は」

 

「病は治ったそうだ。良かったな」

 

「そうか……。何故分かった」

 

深く頷き瞑目した……後に、ギロリと睨まれる。

何故ってなにさ。

 

「何故、お前が病の事を知っていた?」

 

すっごい不審げな顔。

ああ、まあそうだよな。

 

明確に他人である俺が、当人の病を知ってるはずがない。

だと言うのに、わざわざアポまで取って連れ出して、医者の下へ連れて行く。

治ったのは良かったが、不信感を抱くのも仕方がないか。

 

「何、たまたま違和感を感じたのさ。軍師殿の気に揺らぎが、な」

 

概ね本当のことだ。

違和感とほんのりとした記憶、そして偶々このタイミングで華佗が呉に居た。

 

「まあ運が良かったな」

 

これに尽きる。

 

「ふむ。…少々釈然としないが、治ったのは事実。礼を言おう」

 

「ああ。いやまあ、治療したのは華佗だけどな」

 

今後のことを考えると、周瑜には万全の状態で居て貰わねば困る。

そう考えると、我ながらこれはファインプレーなんじゃないかな。

 

「承知している。彼にも相応の礼をしよう」

 

そこで周瑜はようやく表情を和らげた。

 

「お前には借りばかりが増えて行く。どうやって返せばいいのだろうな?」

 

「それほど貸しを作った覚えはないが」

 

「ふふ、そうか」

 

あ、今まで向けられたことがないタイプの笑み。

柔らかい笑みっていいよね!

 

 

「では、そろそろ戻るとしよう」

 

「ああ。だが今日くらいは休んだ方がいいぞ」

 

「ふ、承知しているさ」

 

おお、とても柔らかくて良い雰囲気。

こうなったのは、前に感じた違和感のお陰。

良い仕事をしてくれた、偉いぞ!

 

「では、後は私にお任せ下さい!」

 

「ふむ、では頼む」

 

シュバッと現れる周泰。

久々に忍者娘の才覚を見た。

 

突然現れたのには驚いたが、特に引き留める要素もない。

大人しく見送る。

 

「周瑜様は問題なさそうです。では隊長、これから暇ですね?」

 

「…まあ暇だが。どこから出て来た」

 

周泰に先導されて帰路につく周瑜を見送っていると、何時からいたのか由莉の姿。

 

「久しぶりに乱取り稽古とかどうですか」

 

ランドリー・ケイコとな。

確かに乱取りは最近やってないが、提案されるのは珍しい。

 

「では行きましょう」

 

「行こう!」

 

ガシッと両側から腕を掴まれる。

いや、絡まれる?

 

「シャオまで、何時の間に」

 

「まあ細かい事は気にするな。さっさと行くぞ」

 

白蓮もいたのか。

何だか良く分からないが、練兵場へドナドナされた。

 

 

* * *

 

 

「とぉやっ、とおぉっ!」

 

稽古となれば躊躇はない。

いつぞや感じた鬱憤も軽く乗せ、踵落とし蹴りから大刀に繋ぎ打つ。

踵落としから中段回し蹴りの連携は、存外見切られ難いようだ。

 

シャオも由莉も、ガードが間に合ってない。

白蓮には咄嗟に引いて避けられたが。

 

「もー、ちょっとは手加減してくれてもいいじゃん!」

 

膨れてプイッと横を向くシャオ。

それじゃ稽古にならんだろ。

 

「隊長は大分加減してると思います」

 

冷静に分析する由莉。

本気だったら軽く吹っ飛ばせるしな。

 

「まあ、気弾も何も使って無いようだしな」

 

苦笑が板についてきた白蓮。

覇王翔吼拳を使うまでもない!

 

「三人とも、まだまだだな」

 

勿論、十分成果は上がってると見ていい。

特にシャオなどは護身術程度と考えてたが、何時の間にやら結構なレベルに。

しかしそうであれば、尚更まだまだと考えてしまう。

修行は続くよ何処までも。

 

「ふぅ~。でも、ちょっと楽しいかも?韓当の気持ちも少し分かるかな」

 

「意外だな。こういうのは好まないと思ったが」

 

白蓮の意見に由莉も頷いている。

俺も同じく。

 

「うーん。確かに普段はそうかもねー。でも……」

 

チラリと俺を見て…

 

「うん。リョウが居るからかな!」

 

「…ええ、そうでしょう」

 

「ああ、なるほど」

 

良く分からんが、楽しいのなら何よりだ。

 

「でも、そのせいで韓当は弓を全くやらなくなっちゃったし、粋怜…程普には妬まれちゃったね」

 

シャオは弓は止めないし、お姉ちゃんくらいしか妬む人は居ないよって続けるが…。

妬む奴居るじゃん。姉じゃん?ダメじゃん!

 

それよりも、だ。

え、なに韓当って弓もやれたの。

あと程普が会う度めっちゃ睨んでたのは警戒かと思ったが…。

妬み?何で?

 

「それでも姉様は決めたみたいだから、大丈夫だよ。それに、シャオもついてるし!」

 

「そうですね。隊長には私がついてますし」

 

「ああ。私がついてるからな」

 

ふふふ。

仲良し三人組の癖して、唐突に修羅場を発生させるのは止めてくれ。

せめて誰か説明を……。

 

 




・大刀
二代目Mr.KARATEの特殊技。
踵落とし蹴りから派生する中段回し蹴り。
使い道?……きっと想像通りですよ。

書きたいこと、盛り込みたいことを只管積み込んでいくスタイル。
私も元気にして欲しい。

91話誤字修正しました。

◆呂羽の仕官について賛否投票結果(非公式)
賛成:孫策、孫尚香、周瑜、黄蓋、韓当、陸遜、周泰
保留:孫権、甘寧、呂蒙
反対:程普

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