武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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93 滅鬼斬空牙

周瑜が元気になってから幾日か経過した頃、俺は孫策に呼び出された。

 

「失礼する」

 

「うむ。良く来た」

 

「うん、ちゃんと一人で来たわね」

 

呼ばれた部屋で出向くと、孫策と周瑜のみが待っていた。

ちなみに今回は、由莉も白蓮も、最近何かと一緒に居ることが多いシャオも連れずに来ている。

必ず一人で来いと言われたからだ。

さて、何の用だろうか。

 

「今回はな、余人に構わずお前自身の意見を聞きたいと思ってな」

 

「貴方だって結構鋭いし、考えるのは苦手じゃないでしょ?」

 

苦手です。

いやまあ、蓄えた知識と経験は伊達じゃないと思うけども。

全てが通用する訳でもないし、頭が良い訳でもない。

だったら、優秀な奴に頼る方が良いに決まってる。

 

「それで、何を聞きたいんだ」

 

「ふむ。雪蓮?」

 

「ええ。……呂羽」

 

何時になく真剣で、背後にゴゴゴと擬音を背負ってる風な孫策が口を開く。

 

「呉に仕えなさい」

 

「断る」

 

「んなぁっ!?」

 

この遣り取り、何度目だ。

深く考えずに脊髄反射で断ってしまったよ。

 

「まあ呂羽、落ち着いて考えろ。お前にも目的があるのだろうが、それは此処では叶わないものか?」

 

「それは……。叶わなくはない、な」

 

正直、どこに居ても頑張り次第だとは思う。

ただ、やはり自由は必要だ。

その旨を伝える。

 

「ふむ、自由か。確かに仕官すれば指揮系統で縛られはするが、それは客将でも同じだろう?」

 

「そうだが。多少の問題だな」

 

しかし孫策の様にただ仕えろと言われるのではなく、こうして少しずつ理詰めで来られると辛い。

はっ!

まさかこれを狙って俺を一人に?

汚い、流石呉の軍師汚い!

 

「これから我らは魏との決戦に向かう。その時、お前を戦力として数えていいのかどうか」

 

あ、これが本題か。

客将に対して開示する内容かはギリギリのところ。

それを聞いてくるってことは、かなり本気だな。

 

「状況による」

 

だが、今はそうとしか答えられない。

いっそのこと、呉を出て独自勢力として動くのも視野に入れた方がいいかも知れん。

 

俺の答えは予想と違ったのか、周瑜は難しい顔をして考え込んでしまった。

 

一方で孫策は目を閉じて、黙考の様子。

しかし突然、カッと目を開き、ダンッと机を叩いて立ち上がり言い放った。

 

「呂羽、貴方に我が真名を預ける。受け取りなさい!」

 

「はっ?」

 

唐突過ぎてついていけない。

いやいや待て待て。

今はその前段階の話じゃないのか。

 

「雪蓮よ。…拒否は許さないわ」

 

「ええっ」

 

「雪蓮……」

 

ほら、周瑜も呆れて絶句してるじゃないk

 

「そうだな。呂羽、私は冥琳だ。受け取るがいい」

 

「……え?」

 

「そもそも私と冥琳にとって、貴方は命の恩人なの。真名を預ける理由には十分よね」

 

「ああ。まあ無理して呼べとは言わぬし、他者との交換も無理強いしない。ただ、我らの気持ちは汲んで欲しい」

 

そうきたかー。

これ、あれだろ。

真名を預ける理由ってさ、二人が言った事実は事実としてある。

でもそれとは別に、信頼の証を提示してって……なぁ。

 

「はあ、分かった。俺はリョウ。宜しく頼む」

 

でも信頼されて悪い気はしないし、むしろ嬉しく思う。

それに曹操様や董卓軍の時と違い、今後敵対する予定もない。

差し当たって拒否する理由はないか。

 

「うむ、宜しく頼むぞ」

 

「ええ!ふふ、シャオの驚く顔が目に浮かぶわぁ」

 

孫策、もとい雪蓮が悪い顔に。

止めて!

シャオもそうだが、孫権こそ凄い顔になるのが目に浮かぶよ。

 

 

「さて、リョウ。これから先、どうなると思う?」

 

えっ、いきなり真面目な話?

いやもう、深くは考え切れんよ。

 

「分からん」

 

「少しは考えなさいよ」

 

「いくら考えても分からんものは分からん。だからこそ、全力を尽くすのみさ」

 

「ふ、そうだな。分らないからこそ最善を目指す。当然のことだ」

 

何やら周瑜…冥琳が深く頷いてるが、それほど含蓄のある言葉じゃないと思う。

当たり前のことを当たり前にやる。

確かに難しいことだが、努力は欠かせない。

 

「ふっふーん。やっぱり私の目に狂いはなかったわね!」

 

「…リョウよ、しばらく呉に仕えよとは言わん。だが、信頼しているぞ?」

 

「ああ。任せろ!……って、しばらくかよ!?」

 

そこは、もう言わないってところじゃないのか。

はははって冥琳の良い笑顔に、まあ免じて許してやるが。

 

 

二人の下を辞去し、屋敷に戻る道中で考えていた。

戦いの機運は高まっている。

舞台は恐らく赤壁。

 

そこでのポイントは四つ程あった気がする。

一つは黄蓋の偽降の計。

一つは連環の計。

一つは火計。

一つは風の計。

 

風については分からんが、他については考えることが出来る。

北郷君が対策してくることを、どう対処するか。

 

…まあ、当然のように何も思いつかん。

帰って知恵袋に相談しよう!

 

 

* * *

 

 

この頃は何かと考えることが多く、準備するべき項目も多岐に渡る。

そんな中、俺が冥琳の信頼を勝ち得た事はかなりプラスに働いていた。

物資の融通的な意味で。

 

とりあえず、大量の油を要望した。

これを俺が使うのか、誰かに任せるのかはまだ決めてない。

まあ火計にも必要だろうし、無理しない程度に準備して貰おう。

備蓄って大事だよね。

 

そんなことやら諸々含め、色んな事を話し合う会議。

ちょくちょく行われるその場において、事件は起こった。

 

 

冥琳と黄蓋が睨みあっているんだ。

酒に関するいつものじゃれあいでない、本気の睨み合い。

 

事の発端は、冥琳が告げた呉の方針。

 

そんな大事な場に、客将たる俺が参加していいのかはともかく。

また、俺が二人と真名を交換していたと言う事実でも一悶着あったが割愛する。

 

冥琳は、呉の方針を天下三分だと公式に唱えた。

 

これに黄蓋が反発。

先代の孫堅が掲げた宿願は天下統一。

呉の目指す平和は統一でしか成しえない、と。

 

しかし冥琳は何を今更と一蹴、口論に発展してしまった。

 

「祭殿、これは決定事項です」

 

「何を言うか。こんな消極的な策で、天下を取れるものか!」

 

会議室を満たすのは、不機嫌そうな冥琳が醸し出す張り詰めた緊張感。

そして、黄蓋による烈火の如き怒りだ。

 

「何度も言うが、私達は天下を取りにいく訳ではない。魏を倒す事に全力を注ぐ!それが、我々の未来を切り開く唯一の策だ」

 

「呉の悲願はそんなものではない!今までは黙っていたが、もう我慢ならん!…堅殿が聞いたら、さぞ落胆するであろう…」

 

ヒートアップし、口調も荒々しく睨み合う二人。

周囲は落ち着きを保つ者と、慌てながら二人を落ち着かせようとする者に別れた。

 

俺はもちろん傍観者。

でもいざとなれば、虎煌撃で制止する用意はある。

 

「二人とも、いい加減にして!」

 

そこに雪蓮の一言。

流石は呉の王、喧騒がピタリと止んだ。

 

「今はそんな事を討論する場合じゃないわ。ほら冥琳、報告を続けなさい」

 

珍しく厳しい口調で二人を咎める雪蓮様。

それを受け冥琳は不機嫌さを隠さず報告を続け、黄蓋も似たような表情で黙り込む。

 

やがて報告が終わると、雪蓮は会議の終了を宣言。

 

終始無言を貫いた黄蓋は、乱暴に戸を開け足音高く去っていった。

彼女を見送る周囲は静まり返り微妙な空気が漂うが、やがて皆言葉少なに解散していく。

 

俺も言葉を発することなく会議室を後にしたが、内心ドキドキ。

恐らく偽降の計なんだろうけど、真剣過ぎて良く分からん。

ガチだったら嫌だなぁ。

 

あ、シャオとか周泰とかが泣きそうになってる。

少しフォローしておくか。

 

 

* * *

 

 

「さあ掛かって来い!」

 

「意味分かんないよ!」

 

「ほら、周泰も遠慮しないで」

 

「えっと……」

 

まずは身体を動かし、嫌な気分を吹っ飛ばそう。

シャオと周泰を誘った先は練兵場。

二人まとめて相手してやるぜ。

 

フォロー?

これがフォローだ間違いない。

 

「んもう!いいよ明命、ぎったんぎったんにしちゃお!」

 

「え、あ、はい!」

 

うむ、そうこなくては。

さあ存分に来い。

 

 

「滅鬼」

(芯!)

 

二人とも身軽に飛び跳ね、多彩な攻撃を仕掛けて来る。

シャオの動きに周泰が合わせる形だが、良い連携だ。

 

しばらく攻防を続けて良い汗をかいた頃、そろそろ終わりにしようと技を繰り出した。

 

「斬空牙!」

(ちょうアッパー!)

 

心の声が示す通り、多少ふざけて力を抜く。

それでもシャオを捉え、周泰を巻き込む当たりは当たり。

彼女たちは吹っ飛んでいった。

 

 

「ねえリョウ。呉は大丈夫かな?」

 

「大丈夫だろ」

 

「…即答するんだね」

 

「うむ」

 

手合わせの後、シャオの表情は若干だが明るくなっていた。

フォローした甲斐があったな。

 

「呉の皆が誇る、王と将たちの絆。これを信じておけ」

 

そうシャオたちには伝えておいた。

実態は分からないが、俺たちに出来ることは信じることだからな。

これが力となる日も来ることだろう。

 

 

黄蓋が呉を出奔したと聞いたのは、それから間もなくのことだった。

また一つ時代が動く、か。

 

 




・滅鬼斬空牙
KOFユリの超必殺技。
芯!ちょうアッパーの方が通りが良いかも知れません。
性能はいわゆる真・昇龍拳。強い!

この調子だと、ギリギリ百話以内で収まるかな~?と言う感じです。
まもなく決戦ですが、いつも通り軽く流すと致しましょう。

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