武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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96 空中龍虎乱舞

極限流の盛装である、天狗面を装着。

落ち着け、これは盛装じゃないし正装でもない。

 

眼下では後世、赤壁の戦いと呼ばれるものが繰り広げられている。

 

 

魏軍は江陵を落とし、此処赤壁までやって来た。

凄い規模の船団だが、見た感じちゃんと船は繋がってる。

黄蓋は無事に入り込めたようだ。

このままであれば問題なく風が変わり、火計も成功するんだろうが…。

 

魏の船団、その先陣を率いる見覚えのある将。

呉蜀に向かって進む、その舳先に居ることに違和感がありまくりの黄蓋その人だ。

 

 

「行くぞォォ!!」

 

ちょっと遠目で分かりずらいが、黄蓋が大音声を上げた。

同時に率いる部隊が火矢を放つ。

 

辺りは火のついた船団のせいで、煌々と明るくなっている。

これは黄蓋隊の、命の炎そのものと言えよう。

 

しかし魏の船ではすぐに消火活動が行われ、間に合わない場合は沈めてしまうようだ。

何らかの細工が為されていたのだろう、船同士を繋いでいたはずが容易に切り離されて行く。

黄蓋の策が破綻した瞬間だった。

 

いよいよ、出番が近い。

 

 

さて、シャオには鏑矢を任せよう。

どこかで弓腰姫の異名を取ってた気がするし、その腕前は定軍山でも確認した。

放つタイミングさえ間違わなければ問題ない。

忘れないうちに教えておくか。

 

「大事な役目だ。頼んだぜ」

 

「まっかせて!…それより、ホントにその仮面で行くの?」

 

「ああ、変か?」

 

「うん。変!」

 

…そうか。

由莉にも不評だったし、関羽も嫌そうな顔をしてたな。

定軍山では魏の面々も微妙な顔をしてた気がする。

 

呂布ちんの食いつきは例外としても、白蓮や華雄姉さんは平気そうだった。

十人十色だが、どうにも不評率が高い。

 

「まあ、変装用だ。大目に見てくれ」

 

「う~ん。まあ、夫を立てるのも妻の役目だもんねぇ。うん、分かった!」

 

夫婦じゃない。

いやはや、すっかり懐かれたもんだな。

一体何が琴線に触ったのだろうか。

 

おっと、遊んでる暇はない。

雪蓮に宣言した通り、全力で行こう。

 

「じゃあ行って来るが、シャオも油断はするなよ?」

 

「分かってるって!リョウ……祭のこと、お願いね?」

 

「承知した」

 

やはり不安なんだな。

信じていても、いや信じているからこそ。

 

だから俺は、全力全壊。

このふざけた運命をぶっ壊す!

 

ミスター・カラテ、三度爆誕ッ

 

とうっ!

 

 

* * *

 

 

対岸から見る船上には、夏侯淵と対峙する黄蓋の姿。

策が露見し、追い詰められた黄蓋は肩から血を流して満身創痍。

呉の船は未だ遠い。

 

「祭!助けに来たわよっ」

 

「祭殿、早くこちらへ!!」

 

雪蓮と冥琳が叫ぶが、既に傷を負った黄蓋は覚悟を決めた様子。

 

「黄蓋!我が軍に降りなさい!」

 

おや、曹操様?

こんな前線にまで、御苦労さまです。

骨太の将を欲する、人材コレクターの性は健在でしたか。

 

「断る!儂は魂まで呉に尽くす。今更余所に移るなど、ありえんわ!」

 

肩を抑えながら、ニヤリと笑い断言する黄蓋。

 

「……そう、残念ね」

 

曹操様は諦め、背を向けて去って行った。

二人の男を上げる名シーンだな。

両名とも女だが。

 

「儂の命は此処で終止符を打たれる。最後に聞くが良い、孫呉の若者共!」

 

黄蓋、最後の大公演。

空気を読んだ夏侯淵は矢を構えたまま、ジッと待っている。

流石はクールビューティの名を欲しいままにする夏侯淵。

戦場の華ってもんを心得てる。

 

しかし空気の読めない奴ってのはどこにでも居るもんだ。

この場合、それは俺。

いや、ワシのことじゃな。

 

ふぅおおおぉぉーーーっっ!!

 

三度目ともなれば実に慣れたもの。

ぶわっと気を纏い、色を変えた髪を逆立てさせる。

 

「ふっふっふ!…黄蓋よ、少し頭冷やそうか」

 

いくぞぉっ

ぬん!

 

両手を前に交差、両足に気を流し一挙に爆発。

 

空中龍虎乱舞!

 

此方から彼方までは、海を隔ててまあまあの距離。

一気に空中を駆け抜ける。

 

全てを言い終え、終焉を受け入れようとする黄蓋。

彼女に向かって矢を引き絞る夏侯淵。

 

その彼女たちの丁度真ん中に吶喊!

ドグワッと木端が舞い散る。

しかし船舶が相手だから、乱舞に移行出来ないでござる。

 

「ぬ?」

 

「くっ、何だ!?」

 

「ふっふっふ!少しお邪魔するぞ?」

 

「なっ!き、貴様はっ!?」

 

瞬間沸騰する夏侯淵と、呆気に取られる黄蓋。

二人とも、戦場でそれは命に関わるぞ。

 

「覇王至高拳」

 

二人を無視して黄蓋の足元に至高拳を放つ。

 

「んなぁっ!?」

 

吹っ飛ぶ黄蓋。

シュバッと周泰ばりの跳躍。

そのまま吹っ飛んだ黄蓋を掴み抱え、三回ほど宙を蹴って最寄の呉船に辿り着く。

 

「祭!?……貴方、何者?」

 

「こ奴は預ける。しかし今は戦時、油断すまいぞ!」

 

せっかく黄蓋を運んできたのに、雪蓮も冥琳もめっちゃ警戒しとるがな。

 

そう言えば、シャオ以外で呉の皆に見せるのは初めてか。

まあ正体が露見しないのは良いことだ。

由莉も呂羽隊を率いて別のとこに居るしな。

 

傷ついた黄蓋をそっと下ろし、すぐさま踵を返す。

実は彼女の傷って、至高拳を放ったり空中で掴んだりした時に出来た奴もあるんだよね。

追及されると困るので逃げてみました。

 

 

* * *

 

 

再び跳躍して魏の船に戻って来た。

近くに陸地が無いのだから仕方がない。

三角飛びで、然程赤くない壁に張り付いてみてもいいのだが。

 

「また会ったな、変質者め!」

 

「はて、どこかで会ったかな?」

 

激怒する夏侯淵を往なしつつ、戦場を見回す。

炎はほとんど鎮火してしまったようだ。

せっかく黄蓋が頑張ったのにな。

 

「はああぁぁぁーーっ!」

 

「おっと」

 

聞いた覚えのある声が突進してきた。

凪か。

 

「……此処で会ったが百年目。覚悟して頂こう」

 

「えっ?」

 

凪ってば、何時かのように激昂してる気がするよ?

でも冷静だ。

ちゃんと経験を生かしているんだな。

 

しかし夏侯淵はともかく、凪から恨まれることはそんなに無いと思うんだが。

 

「何を怒っておる?」

 

「…問答無用!」

 

「凪!合わせろ!」

 

「はいっ」

 

夏侯淵と凪の二人に攻め立てられるが、まあ余裕はあるな。

我ながら良い感じに成長したものだ。

 

「せえぇぇぇい!」

 

ブォンッと風を切って何かが頬を掠める。

ふむ、二人から三人になったか。

 

夏候惇が参戦し、凪が一歩下がる。

凪は気弾で支援に回るのかな。

 

おや、あの構えは?

 

「はぁぁぁ……春蘭様、お下がり下さい!」

 

「む、分かった!」

 

バックステップで距離を取る夏候惇。

夏侯淵が連続射出でその支援を行う。

流石姉妹は呼吸が合ってるなぁ。

 

「覇王翔吼拳!!」

 

でっかい、赤みがかった気弾が俺に迫る。

おお!こんな光景を見ることが出来ようとは…。

酷く感慨深い気持ちになりかけるが……此処は戦場。

感傷に浸る時間はない。

 

スゥゥーーっと大きく息を吸い込んで。

腰を落とし、脇を締める。

 

「小賢しいわァッ!!」

 

パッコーン!!

 

「なっ!?」

 

良い音を響かせ、気を込めた正拳突き…無頼岩で掻き消してやったわ。

 

「な、な……なんっ」

 

見事成功した凪の覇王翔吼拳。

それをあっさり打ち消された彼女は驚愕の表情。

 

いやはや、やり方を伝授したとはいえ、ほぼ自力でここまで成し得た努力は尊敬に値する。

…だが!

 

「覇王翔吼拳を会得したところで、ワシに勝つことなどできぬわ!」

 

前と言ってることが違う。

我ながら、とても大人気ない。

 

そして、言われて若干涙目の凪がとても可愛い。

 

シュカカカン!っと足元に刺さる矢。

おっと、凪に見惚れていると命が危うい。

 

一本だけ、夏侯淵とは別の方向から飛んできた矢があった気がする。

気にしないようにしよう。

 

黄蓋を助けたが、まだ呉蜀の優位には傾いていない。

と言う訳で、ここから次のステージ。

 

「さあて、遊びは此処までだ」

 

さあ、フィナーレだよ!

 

 




・空中龍虎乱舞
KOF94ではバグ技。KOF95で公式に技として登録。
CPU相手なら面白いようにヒットしました。
今回船にぶつかったシーンは、ガードされた場面を想像してもらえれば良いかと。

・少し頭冷やそうか
一発変換で「火やそうか」と出て、むしろPCを冷やすべきだと思いました。

今更ですが、由莉には妹ポジションに居て貰った方が良かったかも。
キングっぽい容姿に真名が後付けだったのが残念な点。
ホント、今更ですが。

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