武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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後半他者視点


97 覇極陣

ちょっとした死地から大脱出。

これまで、ジッと息を殺して待機していた隊員たちのもとへ。

 

「準備はいいか?」

 

「はい。……その面はしたままで?」

 

「何か問題が?」

 

「…いえ、副長には…」

 

今すぐ沈めるぞ。

 

さて、そろそろ風が変わりそうな気配。

空手天狗の鋭敏なる感覚がそう告げている。

 

火計こそ呉の華。

仮にも呉に属する俺としても、そこに加担せざるを得ない。

 

天狗面を付けたまま、絶壁の上に立つ。

眼下には密集した魏の船団。

 

お、夏侯淵が俺に気付いたな。

凄い形相でキリキリと弓を引き絞るのがよく見える。

もうすぐ放たれる、か……よし。

 

「放て!」

 

俺の横合いからポーンと放られる大量の壺。

中には大量の油。

 

知ってるか、える、油壺に、フタはない。

 

ほぼ同時に飛来する夏侯淵の矢。

 

「極限流……覇極陣」

 

構えながら、右腕で抱える大きな袋。

この中にもたっぷりと油が入っている。

 

待ち構える俺に接触する矢。

切欠、此処に来たり。

 

いざ、極限サンタクロース!

 

素直に船で来てくれた、魏の皆へのプレゼントだよ~。

その中身は大量の油。

存分に受け取ってくれたまえ。

 

「ちぇいやぁーーっ!」

 

飛び道具を受け止め、即座に下降攻撃へと入る。

油袋を持ったまま、先に落ちた壺を手刀で叩き割りながら。

 

大量の油が船団の上に散布される。

当然自分も油塗れになるが、そんなの関係ねえ!

 

落下のスピードと、油に塗れたせいで手からプレゼント袋がすっぽ抜けた。

多少強めに口を結っていても、空気抵抗には逆らえない。

哀れ、空中でぶわっと開けて大量の油が雨となって落ちて来る。

 

ヒャッハー!

汚物は消毒だぁーッ

 

ピィーーーーッッ!!

 

戦場に響き渡る鏑矢の音。

 

同時に放たれる大量の火矢。

 

火計・改!

プレゼンテッド、ばい、俺!!

 

油 全力全壊 俺。

合図 鏑矢 シャオ。

トドメ 火矢 由莉。

 

「火ァーッ!」

 

そのまま夏侯淵の乗る船にズガーンッと勢いよく着弾する俺。

 

「な、一体何が…」

 

うろたえる魏兵に、容赦なく降り注ぐ油の雨と火矢の霰。

船団の前衛と中衛の中央部分は、ほぼ全てが炎に包まれた。

 

「秋蘭様、これ以上は危険です。後退を!」

 

「クッ!…総員、退避!」

 

余りに勢いよく着弾したせいで、船上から船底まで一気に穴を開けてしまったようだ。

船底にしがみ付いてみたが、確かに沈みそうだから意味ないな。

上の方から夏侯淵たちが撤退する音が響いてくる。

 

全身油まみれだし、ここらで沐浴するのも良いかもな。

 

よし、いくぜぇ……極限スイマー!

 

 

* * *

 

 

水中を泳ぎながら周囲を確認。

視界に入った中で、転落した知り合いは居なさそうだ。

 

燃え盛る炎を尻目に、横合いに停泊している船に上がる。

 

「ぷはあっ」

 

ふぅ、ひぃ。

胴着とは言え、着衣水泳は疲れるな。

気と油で覆われていた分、抵抗も少し大きかった気がするし。

 

「……おや、お帰りなさい」

 

あら、この声は?

 

「…また、そのような格好をして。…次はないと、申した筈ですが…?」

 

「お、おお。由莉!」

 

おふ、旗艦だったか。

偽装の纏気は上がった時点で解除してたが、仮面はそのままだった。

慌てて外すと、見上げた先には我が副長殿の姿。

 

あ、水面近くから見上げたせいでお胸さんが……。

 

「戦いは概ね決着しました。魏軍は撤退を選ぶ模様です」

 

「そ、そうか。うん、良かった」

 

詳しく聞いてみると、火計・改が全てを覆したらしい。

良い感じに風も吹いたようだし、俺の全力全壊が功を奏したようでなによりだ。

 

「黄蓋は?」

 

「周泰様に聞いたところ、問題なさそうとのことです」

 

そっか、無事で何より。

…ん?

 

「周泰が来たのか?」

 

「はい。……隊長は何時も通り、戦場を駆け回っているとお伝えしておきました」

 

「そ、そうか。済まんな」

 

危ない。

アリバイが崩れてしまうところだった。

 

あとは……何だっけ?

 

「小蓮様は何処へ?」

 

「おっと、忘れてた。急いで回収しないと!」

 

隠密精鋭の隊員たちもな。

危険はないだろうが、此処にシャオが居ないと分かれば雪蓮たちに怒られてしまう。

 

「ところで隊長」

 

「なんだい?」

 

急いで現場へ向かおうと気力充実を行っていると、由莉がぽそっと呟いた。

 

「横抱き、いいですよね」

 

「……後でな」

 

「はい」

 

空手天狗の件は、これでチャラになりそうな気配。

だったら安いものだ。

誰にもばれなければな……。

 

 

* * *

 

 

無事にシャオを回収。

隊員たちには、後ほど各自帰還するよう通達。

 

戻る際、シャオから再度アトラクションを要求された。

急ぎだし、元よりそのつもりではあったのだが…。

そうして到着した際の、由莉の微笑がとても不気味だった。

 

シャオを船に下ろし、立たせたところにシュバッと周泰登場。

 

「呂羽さん、いますか!」

 

「ああ、いるぞ。どうした?」

 

「はい!雪蓮様が、集合せよとのことです。小蓮様も!」

 

「えぇ~。またシャオも?もう疲れたよぉ」

 

アトラクション疲れですね、分かります。

そんなこと言わんと、ほら行くぞ。

 

「あ!そうだリョウ、また抱えて行ってよ!」

 

いかにも名案思い付いた、とばかりに笑顔で抱き着いてくるシャオ。

おい、彼女たちの前でそれは…。

 

「へ?…は、はわわっ…小蓮様と、呂羽さんがっ」

 

「落ち着け周泰。ほら、さっさと行くぞ」

 

由莉の笑みが深くなっている。

これ以上はデッドライン。

 

 

 

* - * - * - *

 

 

ズキン、ズキン……。

ギリギリ、ギリギギギィ……。

 

定軍山の頃から続く、頭痛と頭蓋に響く鈍い音。

 

秋蘭は無事に帰って来た。

華琳も含め何かに対して怒り心頭だったが、ともかく無事で良かった。

華琳に進言した時よりも、秋蘭が戻って来た時の方が少し楽になってたのは謎だけど。

 

でも赤壁について考え、呉の計略を暴露した辺りで痛みが急激に悪化した。

 

頭が割れそうな程の痛み。

噛み合わない歯車を、無理矢理回しているかのような鈍い音。

どちらも俺の存在を消し去ろうとしているみたいで…。

 

だが俺は、歯を食いしばって耐えるのみ。

全ては華琳、そして支えてくれる皆のため。

 

連環の計は、真桜に工作を頼むことで回避が可能。

これが崩れれば、火計も自ずと崩れる。

 

お陰で真桜の目が、死んだ魚のように。

 

この戦いに勝利した時、俺は……。

だが、後悔はない。

ただまっすぐ、前を見据えるのみだ!

 

 

戦いが始まり、予想通り黄蓋は裏切った。

いや、元から裏切って無かった。

そうすると、もっと早くから魏に降ってた孫静も偽降の一環と見るべきか。

まあこちらは戻ってから、華琳たちが対処するだろう。

 

前線から火の手が上がる。

が、密集していた船団が切り離される様子が遠望出来た。

真桜はしっかりやってくれたらしい。

 

着々と消火活動は進み、一時騒然とした場はすぐ沈静化した。

固く繋がれたはずの鎖は容易に外され、連環の計は崩壊。

続く火計も完全に崩された!

 

華琳と流琉は前線に出て行っている。

恐らく、黄蓋に降伏を呼びかける為だろう。

相変わらず過ぎて笑みを浮かべ……ようとして、余りの頭痛に蹲る。

 

「くぅ……華琳……っ」

 

ズキンッズキンッ……ギリギリギリィ……。

 

目を閉じ両手で頭を抱え、意識が刈り取られそうになるのを必死で耐える。

まだだ、ちゃんと全部見届けないと!!

 

「───……ッ!……っ……!」

 

誰かの指示が飛び、誰かが応える。

終わりが近い。

そう直感し、目を開ける。

 

目の前には華琳の背中。

…ああ、どうやら俺の最後の希望は果たせそう、かな?

 

小さくも、とても大きいその背中を見ながら消えることが出来る。

 

そっと目を閉じ、受け入れようとした時。

 

……カチン……。

 

歯車が噛み合い、スムーズに動き出す音が聞こえた気がした。

そして、これまで響いていた割れんばかりの頭痛が綺麗スッキリ収まった。

一体何が?

 

再び目を開くと、そこには驚愕の光景が広がっていた。

 

轟々と燃え広がる、魏の船団。

 

「何があった!!」

 

「前衛は壊滅!中衛にも炎が上がり、維持出来ません!!」

 

華琳の怒号が響くが、帰ってくる答えは悲惨な事実のみ。

何故…?

 

「…やられたわね…」

 

絞り出すような、華琳の声。

まさか、魏が負ける……?

 

「一度退く。秋蘭たちが戻るまで、何とか持ち堪えて」

 

「御意!」

 

全く理解が追い付かないが、体調が回復したなら蹲っては居られない。

すぐに撤退の準備を始めなければ。

 

「流琉、手伝ってくれ!」

 

「はい、兄様!」

 

身体は動くが、頭は酷く混乱している。

俺が消えない理由は何か?

それは魏が、歴史通りに負けたせいだろう。

 

俺たちは呉蜀の計略を全て見破り、崩壊させた。

なのに負けた。

一体何故…。

まさか、歴史の修正力ってのが働いたとでも言うのだろうか?

 

 




・覇極陣
KOF13カラテの必殺技。
当身技ですが、その本領発揮はEX版で飛び道具を受け止めた時だと思います。
直後、上空から毘瑠斗圧覇の下降モーションで急降下攻撃するのですから。
本編ではこれを流用しました。
極限流星群(油付)!

流れで言えば、今回は他者視点詰め合わせの回。
でも終わりが近いことですし、後半だけ北郷君のを載せて見ました。

誠に遺憾ながら、ギリギリ3月中に終わらないかも知れません。
4月頭も3月に含めていいよね!

96話誤字報告を適用しました。
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