武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
ちょっとした死地から大脱出。
これまで、ジッと息を殺して待機していた隊員たちのもとへ。
「準備はいいか?」
「はい。……その面はしたままで?」
「何か問題が?」
「…いえ、副長には…」
今すぐ沈めるぞ。
さて、そろそろ風が変わりそうな気配。
空手天狗の鋭敏なる感覚がそう告げている。
火計こそ呉の華。
仮にも呉に属する俺としても、そこに加担せざるを得ない。
天狗面を付けたまま、絶壁の上に立つ。
眼下には密集した魏の船団。
お、夏侯淵が俺に気付いたな。
凄い形相でキリキリと弓を引き絞るのがよく見える。
もうすぐ放たれる、か……よし。
「放て!」
俺の横合いからポーンと放られる大量の壺。
中には大量の油。
知ってるか、える、油壺に、フタはない。
ほぼ同時に飛来する夏侯淵の矢。
「極限流……覇極陣」
構えながら、右腕で抱える大きな袋。
この中にもたっぷりと油が入っている。
待ち構える俺に接触する矢。
切欠、此処に来たり。
いざ、極限サンタクロース!
素直に船で来てくれた、魏の皆へのプレゼントだよ~。
その中身は大量の油。
存分に受け取ってくれたまえ。
「ちぇいやぁーーっ!」
飛び道具を受け止め、即座に下降攻撃へと入る。
油袋を持ったまま、先に落ちた壺を手刀で叩き割りながら。
大量の油が船団の上に散布される。
当然自分も油塗れになるが、そんなの関係ねえ!
落下のスピードと、油に塗れたせいで手からプレゼント袋がすっぽ抜けた。
多少強めに口を結っていても、空気抵抗には逆らえない。
哀れ、空中でぶわっと開けて大量の油が雨となって落ちて来る。
ヒャッハー!
汚物は消毒だぁーッ
ピィーーーーッッ!!
戦場に響き渡る鏑矢の音。
同時に放たれる大量の火矢。
火計・改!
プレゼンテッド、ばい、俺!!
油 全力全壊 俺。
合図 鏑矢 シャオ。
トドメ 火矢 由莉。
「火ァーッ!」
そのまま夏侯淵の乗る船にズガーンッと勢いよく着弾する俺。
「な、一体何が…」
うろたえる魏兵に、容赦なく降り注ぐ油の雨と火矢の霰。
船団の前衛と中衛の中央部分は、ほぼ全てが炎に包まれた。
「秋蘭様、これ以上は危険です。後退を!」
「クッ!…総員、退避!」
余りに勢いよく着弾したせいで、船上から船底まで一気に穴を開けてしまったようだ。
船底にしがみ付いてみたが、確かに沈みそうだから意味ないな。
上の方から夏侯淵たちが撤退する音が響いてくる。
全身油まみれだし、ここらで沐浴するのも良いかもな。
よし、いくぜぇ……極限スイマー!
* * *
水中を泳ぎながら周囲を確認。
視界に入った中で、転落した知り合いは居なさそうだ。
燃え盛る炎を尻目に、横合いに停泊している船に上がる。
「ぷはあっ」
ふぅ、ひぃ。
胴着とは言え、着衣水泳は疲れるな。
気と油で覆われていた分、抵抗も少し大きかった気がするし。
「……おや、お帰りなさい」
あら、この声は?
「…また、そのような格好をして。…次はないと、申した筈ですが…?」
「お、おお。由莉!」
おふ、旗艦だったか。
偽装の纏気は上がった時点で解除してたが、仮面はそのままだった。
慌てて外すと、見上げた先には我が副長殿の姿。
あ、水面近くから見上げたせいでお胸さんが……。
「戦いは概ね決着しました。魏軍は撤退を選ぶ模様です」
「そ、そうか。うん、良かった」
詳しく聞いてみると、火計・改が全てを覆したらしい。
良い感じに風も吹いたようだし、俺の全力全壊が功を奏したようでなによりだ。
「黄蓋は?」
「周泰様に聞いたところ、問題なさそうとのことです」
そっか、無事で何より。
…ん?
「周泰が来たのか?」
「はい。……隊長は何時も通り、戦場を駆け回っているとお伝えしておきました」
「そ、そうか。済まんな」
危ない。
アリバイが崩れてしまうところだった。
あとは……何だっけ?
「小蓮様は何処へ?」
「おっと、忘れてた。急いで回収しないと!」
隠密精鋭の隊員たちもな。
危険はないだろうが、此処にシャオが居ないと分かれば雪蓮たちに怒られてしまう。
「ところで隊長」
「なんだい?」
急いで現場へ向かおうと気力充実を行っていると、由莉がぽそっと呟いた。
「横抱き、いいですよね」
「……後でな」
「はい」
空手天狗の件は、これでチャラになりそうな気配。
だったら安いものだ。
誰にもばれなければな……。
* * *
無事にシャオを回収。
隊員たちには、後ほど各自帰還するよう通達。
戻る際、シャオから再度アトラクションを要求された。
急ぎだし、元よりそのつもりではあったのだが…。
そうして到着した際の、由莉の微笑がとても不気味だった。
シャオを船に下ろし、立たせたところにシュバッと周泰登場。
「呂羽さん、いますか!」
「ああ、いるぞ。どうした?」
「はい!雪蓮様が、集合せよとのことです。小蓮様も!」
「えぇ~。またシャオも?もう疲れたよぉ」
アトラクション疲れですね、分かります。
そんなこと言わんと、ほら行くぞ。
「あ!そうだリョウ、また抱えて行ってよ!」
いかにも名案思い付いた、とばかりに笑顔で抱き着いてくるシャオ。
おい、彼女たちの前でそれは…。
「へ?…は、はわわっ…小蓮様と、呂羽さんがっ」
「落ち着け周泰。ほら、さっさと行くぞ」
由莉の笑みが深くなっている。
これ以上はデッドライン。
* - * - * - *
ズキン、ズキン……。
ギリギリ、ギリギギギィ……。
定軍山の頃から続く、頭痛と頭蓋に響く鈍い音。
秋蘭は無事に帰って来た。
華琳も含め何かに対して怒り心頭だったが、ともかく無事で良かった。
華琳に進言した時よりも、秋蘭が戻って来た時の方が少し楽になってたのは謎だけど。
でも赤壁について考え、呉の計略を暴露した辺りで痛みが急激に悪化した。
頭が割れそうな程の痛み。
噛み合わない歯車を、無理矢理回しているかのような鈍い音。
どちらも俺の存在を消し去ろうとしているみたいで…。
だが俺は、歯を食いしばって耐えるのみ。
全ては華琳、そして支えてくれる皆のため。
連環の計は、真桜に工作を頼むことで回避が可能。
これが崩れれば、火計も自ずと崩れる。
お陰で真桜の目が、死んだ魚のように。
この戦いに勝利した時、俺は……。
だが、後悔はない。
ただまっすぐ、前を見据えるのみだ!
戦いが始まり、予想通り黄蓋は裏切った。
いや、元から裏切って無かった。
そうすると、もっと早くから魏に降ってた孫静も偽降の一環と見るべきか。
まあこちらは戻ってから、華琳たちが対処するだろう。
前線から火の手が上がる。
が、密集していた船団が切り離される様子が遠望出来た。
真桜はしっかりやってくれたらしい。
着々と消火活動は進み、一時騒然とした場はすぐ沈静化した。
固く繋がれたはずの鎖は容易に外され、連環の計は崩壊。
続く火計も完全に崩された!
華琳と流琉は前線に出て行っている。
恐らく、黄蓋に降伏を呼びかける為だろう。
相変わらず過ぎて笑みを浮かべ……ようとして、余りの頭痛に蹲る。
「くぅ……華琳……っ」
ズキンッズキンッ……ギリギリギリィ……。
目を閉じ両手で頭を抱え、意識が刈り取られそうになるのを必死で耐える。
まだだ、ちゃんと全部見届けないと!!
「───……ッ!……っ……!」
誰かの指示が飛び、誰かが応える。
終わりが近い。
そう直感し、目を開ける。
目の前には華琳の背中。
…ああ、どうやら俺の最後の希望は果たせそう、かな?
小さくも、とても大きいその背中を見ながら消えることが出来る。
そっと目を閉じ、受け入れようとした時。
……カチン……。
歯車が噛み合い、スムーズに動き出す音が聞こえた気がした。
そして、これまで響いていた割れんばかりの頭痛が綺麗スッキリ収まった。
一体何が?
再び目を開くと、そこには驚愕の光景が広がっていた。
轟々と燃え広がる、魏の船団。
「何があった!!」
「前衛は壊滅!中衛にも炎が上がり、維持出来ません!!」
華琳の怒号が響くが、帰ってくる答えは悲惨な事実のみ。
何故…?
「…やられたわね…」
絞り出すような、華琳の声。
まさか、魏が負ける……?
「一度退く。秋蘭たちが戻るまで、何とか持ち堪えて」
「御意!」
全く理解が追い付かないが、体調が回復したなら蹲っては居られない。
すぐに撤退の準備を始めなければ。
「流琉、手伝ってくれ!」
「はい、兄様!」
身体は動くが、頭は酷く混乱している。
俺が消えない理由は何か?
それは魏が、歴史通りに負けたせいだろう。
俺たちは呉蜀の計略を全て見破り、崩壊させた。
なのに負けた。
一体何故…。
まさか、歴史の修正力ってのが働いたとでも言うのだろうか?
・覇極陣
KOF13カラテの必殺技。
当身技ですが、その本領発揮はEX版で飛び道具を受け止めた時だと思います。
直後、上空から毘瑠斗圧覇の下降モーションで急降下攻撃するのですから。
本編ではこれを流用しました。
極限流星群(油付)!
流れで言えば、今回は他者視点詰め合わせの回。
でも終わりが近いことですし、後半だけ北郷君のを載せて見ました。
誠に遺憾ながら、ギリギリ3月中に終わらないかも知れません。
4月頭も3月に含めていいよね!
96話誤字報告を適用しました。