武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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99 鬼神山峨撃

「はっはっは!流石は呂羽、何時も私の度肝を抜いてくれるっ」

 

「くぅー、痺れるわぁ!相変わらず、魅せてくれよって!」

 

「……お姉様。何か、山が割れたように見えるんだけど……?」

 

「何言ってるんだ、たんぽぽ。そんなこと、ある訳が……」

 

「ははっ、これは流石に予想の斜め上だ。…由莉の心配は的を得ていた訳か」

 

「……これが、極限流の神髄……!」

 

 

覇王獅咬拳を放ち終え、肌蹴た上着と帯を締め直す。

 

目の前に広がるのは、五胡の群れが割れて空いた見通しの良い地帯。

ちなみに言うと、別に山が割れるなんて天変地異は起こってない。

遠近法が狂ったんじゃないか?

 

覇王獅咬拳とは、言わば某巨神兵がΩに向かって放った浄化の炎。

あるいは某天空の城が放った雷と言えるだろう。

 

あ、天空からの雷は獅咬拳で吹っ飛ばす方だったな。

 

さて、半分とは行かずとも三分の一くらいは削れたかな?

流石にそこまではないかな?

 

「どうだった?」

 

「うむ!流石だった。やはり我が夫に相応しい。よし、続けて突撃するぞ!」

 

ん?

今、何か不思議な言葉が聞こえたような……。

 

「よっしゃー、華雄。競争やで!」

 

「……はっ!?お、お姉様。たんぽぽたちも行こう!」

 

「そ、そうだな。この錦馬超、白銀の槍捌きを受けて見ろ!」

 

「おいおい、私たちは先遣隊。あくまで牽制……なんだが、もう無駄か」

 

そうだな白蓮。

常識人だったお前も、今やすっかり俺たちの仲間。

すっぱり諦め、白馬義従を整えて姉さんたちの支援に徹そうとしている。

 

「いいや。由莉のことはもう、全部リョウに任せよう」

 

そう呟き、移動していった。

え、ちょっと待って……どういうこと?

 

「リョウ殿」

 

「お?おお凪、どうだった」

 

釈然としない気持ちで居ると、凪が少し暗い表情で近付いてきた。

返事を待ち、しばらく見詰めていると…。

じわっ…みるみる涙目になる彼女。

 

「ちょ、どうしたんだ!?」

 

「リョウ殿……私は覇王翔吼拳を修めて、良い気になっていました」

 

唐突に始まる、涙ながらの懺悔タイム。

これで俺と肩を並べる事が出来ると、慢心していたとか。

 

いやいや、確かにあの覇王翔吼拳はバッチリだった。

勢いで潰してしまったが、十分合格ラインだったと思うぜ。

 

「ほら、涙を拭け。…極限流に底はない。俺だって、まだ修行中の身だからな」

 

「ですが…」

 

「凪はまだ、もっと伸びる。これからも一緒に修行して行こうぜ!」

 

「…リョウ殿」

 

なんだこの青春劇。

 

「それに前言ったろ。隣に居て欲しいって。今もその気持ちに変わりはない」

 

勢いで言ってからふと思う。

あれ、これって完全にプロポーズじゃね?

 

「あ……はい」

 

……まあいいか。

頬染めて頷く凪、凄く可愛いし。

 

「まあ、まずは…」

 

「そうだな、五胡への対処が先だろう」

 

「あ、秋蘭様」

 

「一途な凪の想いも、遂に報われたか。良かったな」

 

「はい!」

 

……はい。

後続の弓隊が到着したようだな。

 

「じゃあ夏侯淵。牽制の弓隊での牽制指揮、宜しく頼んだ!」

 

ならば俺も、諸々打っちゃって戦場へ向かうとしよう。

凪が後ろに続くのを感じつつ、姉さんたちの下へと急ぐ。

 

尚、夏侯淵の後ろで凄い形相になってる紫苑やシャオ、孫権らの事は全力で無視した。

そして、顕現するほどの揺らぎを背負って微笑んでいる由莉の姿も…。

 

 

* * *

 

 

先遣隊の役割を完全無視し、戦端を開いてしばらく経った頃。

 

「魏の将兵よ!」

「呉の同胞よ!」

「蜀のみんな!」

 

三国の王、それぞれの号令が戦場に響き渡った。

 

「愛しき者達の未来を!」

「散っていった者たちの為!」

「この世界の平和の為に!」

 

それを背中で聞きながら、止まることなく戦場を駆け回る。

 

「乱世の全てに終止符を!」

「血を流す時代はこれで終わる!」

「戦いは、これで最後にします!」

 

どうやら三国共同軍は軍備を整え、布陣が完了したようで。

 

「「「全軍……」」」

 

今、最終決戦の火蓋が。

 

「「「突撃!!!」」」

 

切って落とされた。

 

 

* * *

 

 

五胡の軍勢は、残り少なくなっても進撃を止めない。

ただ只管、何かに急かされるように。

 

だが、それも間もなく終わる。

我が極限流の手によって。

 

「凪、ついでだ。見ておけ」

 

「あ、リョウ殿?」

 

近くで戦ってた凪を下がらせ、気力を充実させる。

 

基本的に、揃いも揃って身体能力の高い五胡の兵。

その中でも気を扱い、こちらの一般兵士では敵わないような、いわゆる武将級の奴がチラホラ居る。

なるべく優先的に潰して回って来たが、ここ等で残りを掃討しよう。

 

向こうが俺に気付き、バールのような物を振り被りながら走り寄ってくる。

 

その姿を視界に収め、冷静に龍虎乱舞始動の構えを取って気力を充填。

沸き立つ気を、炎の様に燃え上がらせ……炎を纏った拳で突進ッ。

一直線に正拳突きを放つ!

 

ズガァン!!

振り下ろされる斧を半身に避け、正拳突きを敵の鳩尾に捻じ込ませる。

そのまま逆手の手刀を敵将の後頭部に振り降ろした。

 

「お前では、俺を倒すことなど出来ん!」

 

振り下ろした手刀を地面に叩き付けると纏った炎気が吹き上がり、まるで火柱のように。

 

鬼神山峨撃。

 

極限流奥義の一つで、単体ダメージでは中々のものだろう。

本当は天狗面被って使いたかったが、無茶は言うまい。

 

「極限流は常に死闘をくぐり抜けて鍛えられた技!負けはしない!」

 

地面にめり込み、動きを止めた相手を一瞥して宣言。

押忍!

 

 

「凄いです。……やはり、まだまだ私は未熟ですね……」

 

凪のキラキラした眼差しと賞賛を受けて、調子に乗ってしまった。

だから、再び気落ちしかけた彼女を慰めるべく声をかけて…。

 

「いや、落ち込む必要はないぞ。赤壁での覇王翔吼拳は中々の……あっ」

 

「……リョウ殿が、何故そのことをご存じで?」

 

失言してしまったでござる。

あの場に居たのは某空手天狗。

俺じゃない、事になってる。

 

久々に向けられる、彼女のジト目。

いや、えっと。これはその、だな?

 

「…ふふっ」

 

「え?」

 

ジトーっとした眼差しにあわわはわわしていると、不意に表情を崩して笑う。

 

「冗談です。…空手天狗、でしたか?それがリョウ殿と、私は知っていますから」

 

「そう…なのか…」

 

困惑気味に答えると、更に笑みを深くして言い放つ。

 

「おや、正解でしたか。…色々と問質したい事は有りますが…、今は置いておきましょう」

 

語るに落ちた。

まさか、あの実直な凪にカマ掛けされるとはっ!?

 

「いずれにしろ、私が未熟なことは事実。リョウ殿、これからも私と共に歩んで頂けますか?」

 

「勿論だとも!」

 

若干混乱した頭で、真面目な表情になった凪の質問に焦って答える。

焦りは混乱を助長する。

 

ありがとうございます、と頬を染める彼女を見て少し落ち着いた。

そして考える。

今の問いって、もしかして……。

 

「隊長!」

 

お、由莉。

沈思黙考していると、我らが副長殿がやって来ていた。

駆けて来たのか、少し息が上がっている。

 

「むっ!」

 

何故か凪が身構えるが、それを無視して近付いて来る由莉。

そういや、決戦はまだ終わって無かったな。

 

「何か起こったか?」

 

「いえ、戦いは終息に向かっています。まもなく、勝利宣言が出されるでしょう」

 

「そうか。…副長も、お疲れ様」

 

「はい。……ところで隊長」

 

この辺りの大敵は、先ほど俺が沈めた奴が最後だったようだ。

さっき韓当と程普が連れ立って前線に向かっていたし、駆逐し終えるのも時間の問題か。

 

「どうした?」

 

皆を労いつつの帰隊に考えを巡らせていた所、由莉から爆弾が投下された。

 

「抱いて下さい」

 

「んなぁっ!?」

 

ファッ!?

 

「き、貴様…韓忠!なんて破廉恥な…っ」

 

「おっと、少し間違えました。隊長、約束を果たして下さい」

 

「約束?あ、あー。赤壁の時のあれか?」

 

横抱き…お姫様抱っこね。

 

「ええ、アレです。…おや、楽進将軍。顔が真っ赤ですよ。お疲れですか?」

 

本陣近くに休憩所が設置されましたので、良ければどうぞ。

この場は私と隊長とで片付けておきますので…。

なんて涼しい顔で仰る由莉。

 

対する凪は、みるみる鬼の形相に。

意外と天狗面が似合いそうだなって思ったのは黙っておこう。

 

「……リョウ殿。あれとは何です?」

 

あ、矛先が。

 

「えっとだな…」

 

「将軍には関係ないことです。私と、隊長だけの約束ですので」

 

ね?って首を傾げて言う由莉。

あざとい。

シャオみたいにあざと可愛い!

 

「……どうやら、貴様とは決着をつけねばならんようだな」

 

「(フッ)私は別に。それより隊長。約束の方、如何です?」

 

鼻で笑い、凪をあしらう由莉。

すっかり肝が太くなって……そこは前からか?

 

「終結宣言が出てからな。あと、あまり煽るな」

 

真っ赤になってぷるぷる震える凪を見ながら、小声で由莉に伝える。

 

これって正妻戦争?

そんな言葉が浮かんできた。

 

由莉を抑え凪を宥めていると、まもなく三国の王たちから正式に勝利宣言が成された。

こうして三国は、平穏の時を手に居れることとなる。

俺の平穏は今から乱されるがな。

 

 

* * *

 

 

「お、呂羽。無事だったか。」

 

「姉さん、お疲れ様」

 

「うむ、お疲れ。さて呂羽、我が夫となれ」

 

「…何だって?」

 

「なに、別に正妻とは言わん。韓忠らの想いは知っているからな」

 

淡々と伝えてくる姉さん。

冷静なその所作に、痺れる憧れるぅぅっ!

 

「あら華雄、ずるいわよ。だったら私も…。やっぱり、璃々にはお父さんが必要なのよね」

 

「ちょっとー、シャオを置いて話を進めないで!リョウの正妻はシャオなんだからねっ」

 

「ははは。モテモテだな、リョウ。…余裕があったら、私も加えてくれ」

 

俺、モテ期到来。

でもさ、ちょっと落ち着こうぜ。

 

「それより隊長。約束を…」

 

「あー。今か?」

 

「はい」

 

いつやるの?今でしょ!

 

仕方ない、約束は約束。

忘れてないなら果たせねばならない。

 

ふぅーーー……

 

意識してしまうと、シャオと違い興奮…もとい緊張する。

男装の時と違い、すっかり女性らしくなっちまったからな。

 

チラッと凪を見ると、射殺す視線が何かを貫く。

由莉はガン無視である。

 

「とりあえず、本陣に戻るか」

 

「そうですね。お願いします」

 

由莉の側に屈み、脇と腿にそっと腕を差し込み抱え上げる。

…思ったより軽いな。

 

「「「あああーーーーー!!!」」」

 

周囲の喧騒を余所に、努めて淡々と事を運ぶ。

シャオは激おこ。

凪の表情は影になって見えない。

 

後が怖いが、まあ無敵の極限流でどうにかなるさ。

いざ、撤収!

 

 




・鬼神山峨撃
KOF13カラテのNEO MAX超必殺技。
リーチは短いがスピードが非常に速く、虎脚キャンセルで拾うことも可能。
格好いいのかそうでもないのか、判断に迷うところでした。

・メインヒロイン
凪か由莉。あるいは姉さん。

・エイプリルフール
最後に脱衣KOするのは誰?
そして主人公の運命とは…
次回、笑劇の最終話!

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