ごめんちゃい。
関係ないけど、冬将軍にはさっさと日本をお立ち退き願いたいものです。
ではでは・・・
生と死の境目というものを実感したのかもしれない。
初号機は飲み込まれた。
あと少し穴に気づくのが早ければ、助かったかも・・・
だが私はすぐに、後悔というものが何の武器にもならないことを知った。
差し伸べた手はもぎ取られた鳩の羽のごとく、絶望の中をもがいている。
人が一人目の前で「殺された」のにもかかわらず、冷静さを保ち、かっこつけようと努力している自分に腹がたつ。
しかし皮肉なことに、そんなクールなもう一人の自分があたしの目を醒まし、避難誘導を行った。
手持ちのウェポンで、ずるずると引きずりこまれていく高層ビルをえぐり、足場にする。
じきに吸い込まれるのだから対症療法だと思っていたが、ビルの上に登ったことでこの憎い使徒から最短で逃げ果せるルートが見つかった。
おかげでなんとか距離を取ることができた。
弍号機が足をくじいたが、そんなのに構っている余裕はあろうはずがなかった。
「アスカ、大丈夫?」
モニターにはミサトの心配そうな顔。
言葉が出ない。
出てたまるものか。
そう心では思っていたが、喉から出てきたのはあいつへの罵詈雑言だった。
バカ、アホ、間抜け、自業自得、弱すぎ、努力不足・・・
自分の中で二極の対立が激しさを増す。
自分で自分が壊れたと思った。
あたしは逃げた。現実から、使徒から、ネルフから、シンジから、そして自分から・・・
***
「アスカ、アスカ!」
自分の声が彼女の心に響くどころか届いてさえいないことがわかっていながら、叫ぶ。
だが、司令室を反射して帰ってくる声は、一層自分を虚しくさせた。
自分の頭が、ついさっきまでいたシンジ君が今きっと死んでしまっているであろう事実を必死に拒んでいる。
「まだ生きているかもしれない!ディラックの海の中をサーチすることはできないけど、なんとかなる!」
しかし周囲の人々はうなだれ、それが不可能であることを間接的に伝える。
「使徒の殲滅が最優先だ、パイロットに構っている暇はない。冬月、レイを出せ。」
自分の息子に対してこんな仕打ちをするとは。
怒りでも悲しみでもない、言葉に言い表しがたい感情に包まれた。
だが、使徒の殲滅が重要なのは事実だ。
周りは数ヶ月ぶりに食事にありついた旅人のようにその話題に食いつき、脳みそからシンジ君を消滅させようとしているように見える。
「パイロットの命はそんなに軽いものですか。」
声を絞り出す。
「シンジ君を助け出そうとは思わないのかと聞いているんですッ!」
私は異端論者だ。
でもそれでいい。
火あぶりになろうが自分の意思を貫くことは美しいことだと思っているからだ。
シンジ君を何としてでも奈落の淵から助け出す!
そう思った。
だがそんな思考をサイレン音がぶっつりと分断した。
「目標に高エネルギー反応!」
「なんですって?」
「浮遊体が地面に接近!タスクA実行中!」
部下を押しのけモニターを食いいるように見つめる。
白黒の球体が、諸悪の根源である黒い影へと吸い込まれてゆく。
何が起こっているんだ?
額からの汗が机に落ちた瞬間、そこには何もなくなっていた。
影も、球体も、そしてシンジ君も。
***
穴は順調に空を埋め尽くす。
幻想郷史上こんな異変があっただろうか。
「この異変の犯人をとっとと見つけて倒さないと!」
「やめてください霊夢さん!今のにとりさんの説明を聞いたでしょう?あそこは未知なんです!ほとぼりが冷めてから・・・」
「あなた、冷めるまで待つつもり?私は冷ましに行くのよ。止めないで。」
すると突如穴は苦しそうに白と黒のマーブル模様の球を吐き出した。
「あの球ね・・・ついにおいでなすったか。」
「待って!霊夢!あのボールは物質じゃあない!」
「何?幻覚でも見てるっていうの。」
「違う!あれは空中に投影された光と影!首謀者なんかじゃない。首謀者が現した何かよ!迂闊に触らないほうがいい。」
「じゃあ犯人は穴の向こうにいるってわけね、情報ありがとう。」
「ありがとうじゃないです!さっきまでは穴の大きさもエネルギーも小さかったですが、今はもう違う!」
「それに霊夢さん、今のこの状況について一番詳しく知っている人から話を聞くのが先じゃないですか?」
「どういうこと?椛。」
「さっきの少年ですよ。あの穴から落ちてきたんですよ、一番知っていておかしくはないです。」
「せ、正論ね・・・わかったわ」
***
「冬月、来い。例の老人どもが呼んでいる。」
「これは面倒なことになったな。碇。」
しばらく沈黙が続く。
碇の後に続き、老人との会議室へ向かう。
私は静かなのが好きだ。
年のせいかもしれないが、雄弁は銀沈黙は金という言葉が気に入ってしまった。
できれば面倒なことには関わりたくはない。
だが使徒が消えていなくなったとなれば、ゼーレも黙ってはいないだろう。
また面倒ごとが一つ増えてしまった。
「碇君。どういうことだね?第12の使徒がこんなことになるというのは。」
「裏死海文書にはそんなこと書いていないじゃあないか、なぜEVAで倒す前に消滅するんだ。」
「そもそも原罪を解放せしめるために、すべての使徒の処刑が必要なのだ。」
「左様、こんな事態は想定外だ。」
「君の監督が不行き届きなのではないのか?」
「そのようなことはございません。」
「笑わせるな。君の新しいシナリオなぞいらん。」
「事実無根であります。すべてはゼーレのシナリオ通りに。」
モノリスが一斉に消える。
一瞬、誰もいない部屋で独り言を言っていたかのような、妙な感覚に襲われる。
「碇。老人が今ので納得するとは思えないぞ。」
「大丈夫だ、問題ない。処刑台から逃げたのなら、つれ戻すまでだ。」
「どうやってつれ戻すつもりだ?」
「使徒の運命、裏死海文書の通りだ。」
長年仕事のパートナーであるにもかかわらず、不気味だと感じるゲンドウの笑いが狭い会議室を震わす。
ゼーレなんて老人の集会じゃないか、貧弱、貧弱ゥッ!!
というのは嘘です。
ゲンドウとあそこら辺ってラスボスっぽいよね。