マスクドライバーエグゼイド! アポロンの獏   作:ホシボシ

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第8話 アポロンの獏(前編)

 

音楽が始まった瞬間、今までの歓声が嘘のように止んだ。

光が照らすのは三つのシルエット。後ろを向いて、体を揺らしている。

 

そしてイントロが終わった瞬間、激しいダンスが始まった。満席になっているのはUTXの体育館ステージ。

黒を基調とした衣装を纏ったアライズは持ち歌である『Shocking Party』にて観客のハートをわし掴みにする。

 

ツバサがウインクを決めた。

アライズはモータスの一件があり、ライブライブは棄権したが、何も活動をやめたわけでは無い。

怪我も治ったと説明し、今までどおり積極的に活動を行っていた。

 

しかし今回はいつものライブとは少し違う。体育館でライブを行っているアライズたち。

一方で屋上の四角形のステージには四人の男達がそれぞれ東西南北の位置を取って立っていた。

季節も季節だ。既に辺りは暗く、紫や黄色のライトが照らすステージで男達は目を細める。

 

 

「もう一度確認しておくけど、勝った学年がドラマのエキストラ、それも、台詞つきだから」

 

 

北の方向に立つのは石神エム。

 

 

「役はメイド喫茶の店員だ。貴様らも分かっていると思うが、ことり君はミナリンスキーとして働いていた実績がある。誰が適役なのかは、分かるな?」

 

 

南の方向に立つ羽水ヒイロ。

 

 

「アホぬかしてろ。絢瀬の美貌と、東條の胸、矢澤のラブリーさがあれば主役のゴリ押し女優なんざ完全に食っちまうだろうよ」

 

 

東の方向に立つ鋼タイガ。

 

 

「メイドさんは可愛いさが大事なんだよね? だったら、一年生で決まりだと思うけど」

 

 

西の方向に立つ火馬キリヤ。

 

 

「おーおー、言うようになったじゃねぇか後輩くん。それはつまり他の学年が可愛くないと?」

 

「そんな事……。ただボクは凛ちゃんが一番。花陽ちゃんと真姫ちゃんが二番。他の人が三番なだけだよ」

 

「そもそもこんな事でゲームを始めようって言うのが愚問だぜ。想像してみろよ、ことりちゃんの脳トロボイス。恥じらいながらも奉仕してくれる海未ちゃん。元気いっぱいで励ましてくれる穂乃果ちゃん。これほどメイドに相応しい人材がいるか? いないよな? ね? 会長」

 

「申し訳ないが、俺は興味ないな」

 

「はい嘘ー。どうせ園田のメイド服でも想像してギンギンなんだろ?」

 

「バカ言えよ部長。会長は人間ができてるんだ。おれの方が恥ずかしいね、申し訳ない会長」

 

「ああ。俺はバニー派だ」

 

「うん……、あのッ、これッ、ボクらどういうリアクションすればいいの?」

 

 

そこで下からアライズの歌声が聞こえてくる。

 

 

「さて、はじめるか」

 

 

エムは黄緑ベースにピンクのレバー、エグゼドライバーを装備する。

ヒイロは淡い青ベースに赤のレバー、ブレイブドライバーを装備する。

タイガは黒に近いグレーベースに、ピンクに近い赤のレバー、スナイプドライバーを装備する。

キリヤはクリーム色ベースにオレンジ色のレバー、レーザードライバーを装備する。

 

 

「………」

 

 

アライズの歌を聴きながら無言でガシャットを起動させる男達。

 

 

『マイティアクションエーックス!』

 

 

エムは一同を睨みながら。

 

 

『タドルクエスト!』

 

 

ヒイロは目を細め、淡々と。

 

 

『バン! バン! シューティング!』

 

 

タイガは不適な笑みを浮かべて。

 

 

『爆走バイク!』

 

 

キリヤは覚悟を表情に宿し。

 

 

「変身ッ!」

 

 

エムは左斜め上にガシャットを持っていくと、次に左手でそのガシャットを掴み取り、振り下ろすようにドライバーにセットする。

 

 

「変身!」

 

 

ヒイロは左手に掲げたガシャットを右に振り払い、そのまま真横に振るう。そしてそのままドライバーにセット。

 

 

「変身」

 

 

タイガはガシャットを銃に見立て、まず一回転、そして硝煙を吹き消すように銃口部分へ息をフッと吹きかける。

そのまま(ガシャット)を回しながらドライバーへセットした。

 

 

「変ッ身!」

 

 

キリヤは左腕を旋回させつつ右腕は前へ突き出し、ガシャットを装填する。

さらに今回は特別にレバーロックが解除されている。四人は地面を蹴ってすぐに装甲を吹き飛ばした。

 

丁度そこでアライズがサビの部分に到達する。同時に背後にあったモニタが屋上の映像を中継する。

ますます盛り上がる一同。アポロンTVの放送により、マスクドライバーの知名度もどんどん上がってきている。

今日はアライズとのコラボで、バトルショーを披露する事になったのだ。もちろんこれもテイパーゲームであることにはかわりない。

担当学年のため、四人は生き残りをかけたサバイバルゲームに挑む。

 

 

「ほいしょーッ!」

 

 

地面を蹴って前宙を決めるスナイプ。

そのままレーザーのシートに飛び乗り、アクセルグリップをひねる。

 

 

「うおッ!」

 

「チッ!」

 

 

左右に避けるエグゼイドとブレイブ。そこを猛スピードでレーザーが通過した。

事前に話を合わせていたらしい。サバイバルルールにおいても不利であるスナイプとレーザー。

どうやら手を組む事にしたようだ。

 

 

『ガシャコンマグナム!』

 

『ガシャコンソード!』

 

『ガシャコンブレイカー!』

 

 

それぞれ武器を出して仕切りなおしだ。

アライズが歌って跳ねているバックの映像ではエグゼイド達が武器を打ちつけあっている。

時にアライズのアップ、時にエグゼイド達のアップ、カメラが激しく切り替わり、ライブを演出していく。

切りかかるエグゼイドとブレイブ。しかしレーザーは高速でそれを回避、さらに上に乗っているスナイプが敵を射撃する。

 

 

「うはぁ!」

 

 

銃弾を受けて倒れるエグゼイドと、盾でそれを防ぐブレイブ。

 

 

「甘いッ!」【A】『ズ・キューン!』

 

 

ライフルモードに変えると、高火力の弾丸をブレイブの盾ど真ん中に命中させる。

ビリビリとした衝撃。腕が麻痺する。さらにもう一発。

歯を食いしばるブレイブ。一方そのままレーザーたちはブレイブへ突撃。

普通ならば盾で受け止められていたかもしれないが、今のブレイブは直前の弾丸で怯んでいるため、突撃を防御しきれずに通してしまった。

 

 

「グッ!!」

 

「会長!」

 

 

平行に吹っ飛び、そのまま地面を滑るブレイブ。

エグゼイドはスナイプたちの背後に距離をつめ、そのまま切りかかる。

だが寸前、スナイプは地面に足をついてハンドルを大きく上に引っ張った。

持ち上がるレーザーの前輪。そのまま急旋回する事で、ガシャコンブレイカーの刃を弾き飛ばす。

 

 

「ハァアア!」

 

 

さらにレーザーの前輪をエグゼイドの肩に乗せるスナイプ。意味を理解したのか、レーザーは自分の意思で前輪を高速で回転させる。

まるでそれは回転するノコギリ。エグゼイドの肩から火花が上がっていく。

 

 

「イデデデデデデッッ!!」

 

「消えとけ!」

 

「ぐっはッッ!!」

 

 

前輪を外すと、クイックスピンでエグゼイドを吹き飛ばす。

現在、前方には倒れているブレイブが見えた。素早く構築する作戦プラン、であればここでまずブレイブを轢いておく。

そして――

 

 

(レーザーを"切る"!)

 

 

仮面の裏で黒い笑みを浮かべるスナイプ。

そう、いつ裏切ってやろうか。それをレーザーに乗りながら考えていた。

搭乗していると言う事は、それだけ近い位置にいると言うこと。いかなる攻撃とてクリーンヒットだろう。

ブレイブに一撃を与えた上で即レーザー攻撃にシフトする。それがスナイプの考えであった。そしてアクセルグリップを捻ろうと――

 

 

「お?」

 

 

動かない。なんだ? 故障か?

いや、違う。レーザーがロックしたのだ。

つまり、先に動いたのはレーザーだった。

 

 

「うぉッとぉ!」

 

 

急ブレーキをかけてレーザーは後輪を上げる。さらにシートのロックを解除。

空中へ放り投げられるスナイプ。ステージを転がり、うめき声を上げる。

 

 

「あッ! テメェ! 裏切る気か!」

 

「ごめんッ! でもそういう勝負だよね!!」

 

 

スナイプとブレイブを纏めて轢こうと走り出すレーザー。

しかし素早く言葉が割り入る。

 

 

「酷いぜ後輩君ッ! オレはお前の事、本当に信じてたのに!!」

 

「う゛ッ!」

 

 

スナイプの目がウルウルと震える。

罪悪感で思わず減速するレーザー。

 

 

「はいうそー」【A】『バ・キューン』【B】

 

 

銃弾変更、ペイント弾。カラフルなインクが銃口から発射され、レーザーの目にベチャリと張り付く。

 

 

「うわぁ! 見えない!」

 

「ダハハハハ! ワリィな後輩くん! こういうゲームだからコレ!」

 

「最低だよこの人ッ! ちっくしょぉぉおお!!」

 

 

構わず加速するレーザー。

しかしスナイプは銃弾をアンカーとワイヤーに変えて、後ろで転がっているブレイブを自身のもとへ引き寄せる。

 

 

「貴様ッ! 離せ!」

 

「ああ、いいぜ!」

 

 

掴んだブレイブを前に立たせると、尻を蹴る。

すると前のめりになって前進していき、レーザーとぶつかった。

その衝撃でレーザーはブレイブを巻き込んだまま減速。

 

一方スナイプは側宙でバックステップを行い、目に付いたブロックやドラム缶を破壊。

出てきた中で一番良いと思うエナジーアイテムを撃ち抜き、獲得する。

 

 

「攻撃力アップ!!」【B】

 

 

そして銃弾をマシンガンに変えると、無数の光弾をブレイブとレーザーに浴びせていく。

 

 

「うわぁああぁああ!!」

 

「グゥウウッッ!!」

 

 

強化された銃弾の雨を受け、ブレイブとレーザーの体から次々と火花が上がった。

しかしそこで特徴的なジャンプ音。エグゼイドが跳躍でスナイプのもとへ距離を詰める。

スナイプは振り下ろされる刃を右に体を逸らして回避。次は真横に大きく振るわれる刃をバク宙で回避。

その間に銃弾を連射。しかしエグゼイドも地面を左に転がり、弾丸を交わすと、剣を思い切り突き出した。

だがスナイプは攻撃力が上がっている状態だ。ガシャコンマグナムのグリップで刃を簡単に弾くと、回し蹴りでエグゼイドの肩を打った。

 

 

「チィッ!」

 

 

大きく仰け反るエグゼイド。だがすぐに体勢を整え反撃に――

 

 

「ん」

 

「!?」

 

 

スナイプが懐から取り出したのは穂乃果の水着写真である。

健康的な肌色が目につき、エグゼイドは思わず剣を振り上げたまま固まる。

 

 

「えッ! あっ! うぅッ!」

 

「クソ童貞が」

 

「ぎゃああああああああああああ!!」

 

 

スナイプは写真を投げ捨てると、マシンガンをエグゼイドの胴体に浴びせていく。

火花を上げて倒れるエグゼイド。その隙にスナイプは銃をライフルモードに変え、ドライバーにあるガシャットを抜き取り、ガシャコンマグナムへ装填した。

 

 

『キメワザ!』

 

 

スナイプはゲージが溜まりやすく、既にゲージが50を超えていた。

故に発動できる大技。銃口に光がたまり、エグゼイドを狙う。

 

 

「終わりだ!」

 

「クソッ! ナメんなよ!」

 

 

引き金を引くスナイプ。しかしエグゼイドは反応し、地面を蹴って跳躍する。

直後、真下を通り抜ける弾丸。回避には成功し――

 

 

「あ、やべッ」

 

 

背後を見る。

するとそこには、倒れているブレイブとレーザーが見えた。

 

 

「「ぎゃあああああああああああ!!」」

 

 

着弾、爆発。吹き飛び、ステージから放り出されるブレイブとレーザー。

攻撃力アップは継続中なので、必殺技の威力もそれだけ跳ね上がっている。

それをまともに受けたのだ。ライダーゲージは共にゼロとなり、ブレイブとレーザーは消滅、カメラに映らない位置にヒイロとキリヤが転がっていく。

 

 

「部長――ッ! これを狙ってたのか!」

 

「戦いはココが大事だぜ? な! エ・グ・ゼ・イ・ド!」

 

 

スナイプは頭を指でトントンと叩く。

 

 

「クソ!」

 

「フッ!」

 

 

走るエグゼイド。スナイプは銃を構え、後退しながら弾丸を放っていく。

エグゼイドは弾丸を剣を盾にして防いでいくが、やはり有利なのはスナイプと言った印象を受ける。

 

 

「いつつッ!」

 

「やれやれ」

 

 

体を起こすキリヤとヒイロもその光景を確認。

 

 

「今回は鋼先輩かな?」

 

「ペースが向こうにあるからな。悔しいが、スナイプの射撃は的確だ」

 

 

そこでふと、火花散らしたエグゼイドがポツリ。

 

 

「部長、ところでアンタは童貞じゃないのか?」

 

「………」

 

「「………」」

 

「はははははははぁ? ちちちちッ! ちげーしゅ!」

 

 

撃ちまくるスナイプだが弾丸は全てあさっての方向に飛んでいく。

 

 

「ばばばばばばばばば馬鹿にしゅんなしゅ!」

 

 

撃ちまくるスナイプ。エグゼイドはゆっくりとスナイプのほうへ歩いていく。

 

 

「全然、的確じゃなくなったね」

 

「なんて低俗な……」

 

 

幸いアライズ達のライブを盛り上げる形で参加しているため、会話の音声は全く拾われない。と言うか拾われたら完全に炎上である。

一方、破壊するドラム缶。すると中からスピードアップのアイテムが。エグゼイドはそれをゲットすると、すぐさまスナイプを切りまくる。

 

 

「フッ! ハァ!」

 

「いでッ! あでででで!」【HIT!】【HIT!】【HIT!】

 

 

完全にペースを乱されたスナイプは完全にエグゼイドに翻弄されていく。

そしてがら空きになった背後を思いきり切り上げられる。

 

 

「うぉおお!?」

 

 

空中に浮き上がったスナイプ。

そこをエグゼイドは空中コンボである。ストレート、アッパー、ジャンプキャンセル。

パンチパンチ切り上げ、ジャンプキャンセル、斬りつけ斬りつけ、ジャンプキャンセル切り上げ、ライダーアーツ、叩き落し。

などなど、要するに流れるような攻撃。地面に叩きつけられるスナイプと華麗に着地するエグゼイド。

 

 

「勝ったな」

 

 

メガネを整え、目を閉じるヒイロ。

 

 

「決まりみたいですね」

 

 

キリヤも肩を竦めた。

二人の視線の先では剣を振り上げるエグゼイドが。

 

 

「……ッ」

 

 

しかし、その時だった。

 

 

「―――」

 

 

エグゼイドの動きが完全に止まった。

 

 

「馬鹿な野郎だ」

 

 

我に返ったとき、エグゼイドの目に銃口が映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、お疲れ様」

 

 

メロンソーダのグラスをかざすエム。

 

 

「ああ。お疲れ」

 

 

エムの右隣に座るヒイロはサイダーを。

 

 

「お」

 

 

ヒイロの向かいに座るタイガはコーラを。

 

 

「はい、お疲れさまです」

 

 

エムの向かいに座るキリヤはオレンジジュースのグラスを当てた。

チン、と音がして一同はグラスを引き寄せ、喉に流し込む。

 

 

「うまいねぇ、勝った後のコークはよ!」

 

 

ニタニタ笑いながらタイガは鴨そばをズゾゾゾゾと啜っていく。

 

 

「調子に乗るなよ。そもそもアレはどう考えてもエムくんが勝っていた勝負だ」

 

 

天ざるを頼んだヒイロは、まず蕎麦をつゆに漬けずに食べていた。

 

 

「そうだよ、ボクも絶対石神先輩が勝つと思ったなぁ」

 

 

てんぷら蕎麦の汁を飲むキリヤ。

 

 

「………」

 

 

エムは無言で天丼をつついている。

 

 

「当ててやろうか、石神ぃ」

 

「な、なにを」

 

「なんでお前が、あそこで止まったのかをだよ」

 

 

携帯を取り出すタイガ。あるページを表示させ、テーブルの上に放る。

 

 

「アポロン社のホームページだね」

 

「ああ。なんか気づかないか?」

 

 

それは、ミューズ総選挙のページだった。

 

 

「フッ、海未くんが二位だ」

 

「あッ、凄い! ボク、テイパーゲームで負けてばっかりなのに真姫ちゃん結構上位だ!」

 

「ちげーよ! 一位を見ろ一位を!」

 

「一位? って、あ!」

 

 

そこには『高坂穂乃果』の文字が。

 

 

「特集が組まれてたな。穂乃果ファンがいっぱいテレビに映ってたぜ?」

 

「………」

 

「石神ぃ、お前、わざと負けたな?」

 

「!」

 

 

箸を止めるエム。

プルプル震えると、箸をおいてヒイロに頭を下げる。

 

 

「ごめんッ! 会長! おれが悪かった!」

 

「?」

 

「部長の言うとおり――、かもッ、しれない」

 

 

なにも本当にわざと負けたわけじゃないが、まあ結果的に考えると意図的に負けてしまった部分はあるのかもと。

 

 

「どういう事だ?」

 

「わッかんねーのかよ会長さん。つまりコイツは、本気で高坂に惚れて・ん・だ・よ!」

 

「それは何となく知っているが、ゲームで負ける事となんの関係が?」

 

「くぁー! コイツはッ、くぁー! 教えてやりな後輩くん」

 

「ジェラシーだよね? うん、嫉妬ですよ、嫉妬」

 

 

テイパーゲームで勝つという事は裏で情報操作が行われ、結果としてはそれが人気に繋がっていく。

現に今まで勝った回数が一番多い二年生が上位になっているように、それがくり返されればより多くの人の目に穂乃果は触れるだろう。

さらにエキストラとは言え、全国放送のテレビに映れば尚更だ。

つまりエムは本能的に、穂乃果ファンがたくさんできるのが嫌だと思ってしまったのだ。

 

 

「仕方ねぇ野郎だな石神。でもな、改めて言っておくけど、諦めたほうがいいぜ? おーん」

 

 

ズゾゾゾゾと蕎麦を啜るタイガ。

エムは複雑そうに表情を歪める。

 

 

「それは――……」

 

 

「確かに、エムくんの恋とあれば応援してやりたいのは山々だが、相手が穂乃果くんであるなら話は変わってくるな」

 

「か、会長まで!」

 

「ボクは分かりますよ、石神先輩の気持ち」

 

 

正直に言えば、キリヤも凛が好きだった。一人の異性としてだ。

しかし、もう『今は』違うともいえる。キリヤが好きなのは画面の向こうにいた凛と気づいたからだ。

それを画面の外でも望むのは、凛に申し訳ない。それに、ステージの上で浮かべる笑顔を好きになったのだから、と。

 

 

「なんだよ、みんなぁ」

 

 

疎外感を感じたエムは天丼をかきこみ、ついてきたミニかけ蕎麦を啜る。

喉に詰まらせそうにしながら、それらを水で流し込んだ。

 

 

「会長だって、本当は海未ちゃんと付き合いたいでしょ?」

 

「確かに俺は海未くんと何度かデートをした事がある。映画に行ったり、ショッピングをしたり。妄想で」

 

「最後の一言で気持ち悪さ100倍だわ」

 

「黙れ。しかしなんだったら同じような妄想を9人全員で行った事がある。フフフ」

 

「いやいやいや怖い怖い怖い。こんなのが生徒会長とか音乃木坂の未来は暗いな」

 

「ほざいてろ。だが、まあ他言されればこういうリアクションをされる事は分かっている。だから言わない。もちろん本人達には」

 

 

そして、果たしてこれは、マイノリティな発言なのだろうか?

 

 

「俺はそうは思わないが?」

 

「………」

 

 

クロトの発言が頭の中をグルグルと。

 

 

「そして妄想は妄想。幻想は形の無いものでしかない。現実とは似て非なる夢のようなものだ」

 

 

それでいいんだ。その先は無い。

 

 

「もしも奇跡が起こり、海未くんが俺を好きだと言ってくれても、交際する事は絶対にない」

 

「ど、どうして?」

 

「ミューズのためだからだ」

 

 

勘違いしてはいけない。ミューズは一人じゃない。9人の人間が合わさってミューズになるんだ。いやそれだけじゃないとヒイロは言う。

 

 

「ミューズの『キャッチコピーはみんなで叶える物語』だ。当然その『みんな』が何を指しているのか、分からないワケじゃないだろう?」

 

 

中には掟を破りたいと思うものもいるかもしれない。だが『赤信号、みんなで渡れば怖くない』か?

いや違う。ダメだ。赤信号は渡っちゃいけないんだ。そのモラルは持ち続けなければならない。

以前、ヒイロは『我々は我々でなければならない』との言葉を残した。

みんなで叶える物語ではあるものの、ミューズはミューズ、9人である事にはかわりない。そして、『みんな』は『みんな』だ。

 

 

「ノイズは入れないほうが良い。ミューズは10人になってはいけなんだよ」

 

「……それは」

 

 

そこでタイガも口を開く。

 

 

「オレはハッキリ言うぜ? アイドルに恋人ができたら、ソイツはアイドルとしては終わりだ」

 

 

タイガはキリヤの丼から海老のてんぷらを奪い取ると、思い切り咥えてみせる。

 

 

「!?」

 

 

驚愕の表情を浮べるキリヤと、唇から海老の尻尾だけを見せるタイガ。

 

 

「他人の物になった『(アイ)人形(ドール)』なんてのは偶像(アイドル)にはなれねぇんだよ」

 

 

噛まずに海老を引っ張るタイガ。衣が口の中に入っていき、ちゅぽんとむき出しになった海老が口から出てくる。

いるか? そう言って海老をキリヤの丼の中に戻そうとするタイガ。

 

 

「ひぃぃ! いらないよぉぉお!」

 

 

涙目になって丼を庇うキリヤ。

タイガは頷くと、キリヤの海老をガブガブと食べていく。

 

 

「まあこういう事だ」

 

「「………」」

 

「いッで!!」

 

 

エムとヒイロは無言で一度手を叩き、そのままタイガの頭を同時に叩く。

そしてタイガの丼から鴨の肉をキリヤの丼に移していき、エムとヒイロはおまけで自分の海老天をキリヤの丼に放った。

結果的にてんぷらが増えたことでキリヤはニコニコと食事を続ける。一方ネギだけが浮かぶ『かけそば』を食らいながら、タイガは話を続けた。

 

 

「とにかくッ! 別にこれはスクールアイドルに限定された話じゃねぇが、彼氏はNGだろ! 穂乃果の人気にはどう足掻いても落ちるし、それはミューズにも影響が出る」

 

「でも……! 部長だって矢澤先輩と仲いいじゃないか!」

 

「まあ確かに何も知らない人間から見ればそうかもしれない。だがオレは絶対にアイツと付き合わないし、そもそも異性としては見てない」

 

 

続きは口にしなかったが、どうしてもツインテールを見ると妹を重ねてしまうからだ。

だからヒイロと同じだ。たとえ告白されたとしても絶対に付き合わない。興味が無い。それがNGだと分かる。この二つの理由は絶対である。

つまりは付き合わない、付き合えないではなく、付き合ってはいけないのだ。

 

 

「路傍の石ころは、こうやってアホな妄想で盛り上がってればいいんだよ」

 

「そ、そうなのかなぁ」

 

「あったりめぇだろ。あのな、それに女なんて山ほどいるんだよ。しかも音乃木坂の圧倒的な男女比率を見ろよ。なんでわざわざミューズの一人を選ぶ。もっと良い女がいるって」

 

 

しかしそこでヒイロがお茶を飲みながら呟く。

 

 

「しかし、どうしてもと言うのなら諦める必要はないんじゃないか?」

 

「どういう事です? 会長」

 

「スクールアイドルが人気なのは、そこに線香花火や桜の様な儚さと美しさを持ち合わせているからだろう」

 

 

もう二度と戻る事ができない青春や、限られた時間の中でラブライブを目指す精神。

要するにスクールアイドルと他のアイドルとの違いは、文字通り、『スクール』の場所にある。

 

 

「まあ確かに、そこがポイントだな」

 

 

つまり、穂乃果が卒業する所を狙えば『ワンチャン』があるのではないかと。

 

 

「確かにスクールアイドルは卒業したり終わりだもんね」

 

「で、でもさ! その後も続けるかもしれないじゃん!」

 

「だったら終わるまで待てよ。女のアイドルなんてせいぜい30代まで続けばいいところさ」

 

「ま、まあそれは……」

 

「いずれにせよミューズは今年か来年には終わるだろう」

 

 

真姫は病院を継ぐとか言う話しだし、ことりだってファッションの勉強をしに海外にいくかもしれない。

ましてや穂乃果も和菓子屋があるし。

 

 

「ああ、確かにそうだな。もうちょっと待ってろよ石神。高坂が卒業する日に告白すればいい。ぶっちゃけ、アイツは割とお前に気があるぞ」

 

「そ、そうかな!」

 

「ああ、それは俺も思っていた。生徒会の都合でよく海未くんとことりくんと一緒になるが、そこで話を聞く」

 

「ど、どんな?」

 

「穂乃果くんはよくエムくんの話をしているそうだ」

 

 

するとキリヤもウンウンと頷いていた。

 

 

「ボクも凛ちゃんとか花陽ちゃんから聞きますよ。高坂先輩が石神先輩の話をよくしてるって」

 

「ま、まじっすか……!」

 

「そもそもよ、オレ達と話してるより、お前と話してる時の高坂は目の輝き方が違う」

 

「!」

 

 

思わずニヤけそうになるエム。

 

 

「しかし幼馴染と言うだけであそこまで大きな好意を抱くものだろうか?」

 

「もしかしたら何かあるのかもな『大きな理由が』よ」

 

 

とは言え、エムには思いつかない。

一方、キリヤは少し寂しげな表情を浮べた。

 

 

「でもこう考えると、ミューズももうすぐ終わりなんですね」

 

「終わりが分かっているからこそ、悔いのないように生きられるのかもしれない」

 

 

そしてその先の道もまた同じくだ。卒業しても活動を続ける者たちもいれば、すっきり終わらせる者もいる。

中には、スクールアイドルで成功してもプロになれば惨めに失敗していく者もいる。そういう世界だ。泡沫のように儚い世界。

 

 

「それに、オレ達だってもうすぐ終わりだろ?」

 

 

モータスが消えた今、未回収のガシャットはコラボスを残すだけになった。

と言う事は、それを回収、もしくは破壊すればエム達の役目は終わりとなる。

エグゼイドもまた現実に干渉できる力を持っている筈だ。だからこそ、この力は終わらせなければならない。

 

 

「正直、少しもったいない気もしますけど……」

 

 

爆走バイクのガシャットを見つめるキリヤ。

これがあったから変われたのは事実だ。持っているだけで、もっと強くなれそうな気がする。

 

 

「でも、力に呑まれるのは怖い」

 

「大丈夫だよ。なあ会長、部長」

 

「ああ。何か嫌な事があったら俺に言え。必ず守ってやる」

 

「復讐ならオレに任せな。ケツの穴まで撮ってネットにアップしてやるよ」

 

「は、はぃ」

 

「それに――」

 

 

エムはガシャットを見つめる。

 

 

「こんなものなくたって。おれ達の生活には何の影響も無いよ」

 

 

強くなるのにだって、ガシャットはいらない。

そう、エグゼイドなんて、必要ないんだ。

 

 

「ところで、俺も一つ気になる点があるんだが……」

 

 

ヒイロはタドルクエストのガシャットをテーブルに置く。

 

 

「どうしたんですか会長?」

 

「俺達が変身するのはマスクドライバーだ」

 

 

クロトは仮面を被ったラブライバーであると説明を行った。

しかし胸のゲージの名前がライダーゲージ。他にもライダーアーツなど、『ライダー』と言う単語が目立つ。

 

 

「間違えたんじゃねーの? ライダーとライバーなんて一字違いだ」

 

「ライダーって、バイクの運転手だろ? キリヤくんのレーザーもあるし……」

 

 

確かに言われてみれば少し気になる。とは言え、少し気になる程度だ。

結局答えは出ぬまま、四人は蕎麦屋を出て行く。

 

 

「ふあぁー。今週は忙しくなるぜ。お前ら休むなよ」

 

「お前が言うな」「お前が言うな」「お前が言うな」

 

「こ、後輩くんまで……!」

 

 

そう、忙しくなる。

それはそうだ、ミューズはラブライブ本戦のメンバーに選ばれたのだ。

まあもともと確定していたような物だったが、いざ選ばれるとやはりそれだけの注目と仕事が舞い込んでくる。

 

イベントだの、ライブだの、活動はより活発に。

そんな中、我李奈にこんな事を持ちかけられた。

 

 

「アポロンTVによりエグゼイド達の人気もある程度は確立されました。そろそろ、もっと前に出てみるのはいかがでしょうか」

 

「と言うと?」

 

「マスコットキャラクターですわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、エグゼイドだティ! みんなの為に、頑張るマイ!」

 

「ブレイブだブレ」

 

「レーザーですザー」

 

「我輩はスナイプ大魔王でおじゃる」

 

(なにやってんだおれ達は……)

 

 

冷め切ったエグゼイドだが、目の前にいるミューズは皆瞳を輝かせてコチラを見ている。

交流会と称されたそのイベントは、文字通りしばらくの間、マスクドライバーがミューズの活動にお邪魔する事だ。

6秒ほどで考えたキャラ付けではあるが、穂乃果たちは特に気にすることはなく、むしろ笑みを浮かべて近づいてきた。

 

 

「はぁぁあ! かわいいねぇ!」

 

 

ことりが猫なで声でエグゼイド達を撫でくりまわしている。

一方で部室に姿を見せる我李奈。内容は今からの様子を撮影させてほしいと言うものだった。

何、別に特別な事はしなくていい、普段どおりのミューズを撮影させてほしいと言うだけだ。

そういう事ならばと、ミューズ達はオッケーを。

早速部室でゆるきゃら達を囲んで盛り上がっている。

 

 

「こういうのを書いているんです」

 

「ああ、良いと思う。とても詩的で素敵な言葉遣いだ。とくにこの一文は静寂と美しさを感じるよ」

 

「あ、ありがとうございます。なんだか照れますね」

 

「ねえねえブレイブくん! 今度考えてる衣装なんだけどね!」

 

「南さんはセンスがいいね。僕はこの星のブローチがとてもかわいいと思うよ」

 

「ありがとぉ、私もそこは気に入ってるんだぁ!」

 

 

海未とブレイブは歌詞の事について話し合っている。

 

 

「レーザーくん! この前聞いたよ! リン達のために頑張ってくれたんだよね! ありがとにゃー!」

 

「う、うん! いいよ全然。気にしないで」

 

「ねえねえレーザーくん。お菓子あるよ、食べる?」

 

「ちょっと花陽! どうやって食べてもらうつもりよ!」

 

「え? あ! そっか! 背中にチャックとか――」

 

「チャック言わないで! もっとボカしなさいよ! ファンタジーとか、イリュージョンとか!」

 

「あ、大丈夫かも」

 

「「え?」」

 

 

クッキーを受け取るレーザー、

そして口の近くに持っていくと、シュポン! と音がして、クッキーが口に吸い込まれる

 

 

「すごいにゃあー!」

 

「「………」」

 

 

無表情のレーザー。中からボリボリと音が聞こえてくる。軽いホラーに汗を浮かべている真姫と花陽。

とまあレーザーは一年生に囲まれながら恥ずかしそうにうろたえている。

一方、肘をついて手を枕にしながら横寝しているスナイプ。キャラ付けにも動くのにも飽きたのか、ひたすら無言と無表情で寝転んでいる。

 

 

「な、なんだかふてぶてしいヤツね……!」

 

「あ、お尻かいてる!」

 

「ただモンやなさそうやね!」

 

 

タロットカードを取り出す希。

 

 

「?」

 

 

しかし、希は訝しげな表情を浮べる。

 

 

「どうしたの?」

 

「最近、よく視えないんよ」

 

「ああ、占い?」

 

「うん。えりちとか、にこっち達は視えるんやけど、タイガっちは視えんかったし。石神くんとかもダメなんや」

 

「男は視えないんじゃないのー?」

 

「んなッ!」

 

 

真っ赤になる希を見てニヤニヤとにこ。

そんな中、エグゼイドは穂乃果と共にいた。

 

 

「ねえねえ、ありがとうねエグゼイドくん! この前は凛ちゃんを助けてくれて」

 

「う、うん。別に。おれ以外もみんな頑張ったから」

 

「またまたー、謙遜しちゃってぇ!」

 

 

興味があるのかグイグイ近づいてくる穂乃果。

一方それだけエグゼイドは距離をとろうと離れていく。

 

 

「すごいよねエグゼイドくん! またピョンピョン跳んで戦ったんでしょ!?」

 

「ま、まあ。うん」

 

「へえ! かっこいいなぁ! 本当に王子様みたいだねぇ!」

 

「髪型のこと?」

 

「ううん、ちがうよ。ピンチになったら助けに来てくれるところとか!」

 

「………」

 

 

ダメだと分かっていても、自制は欲望によって壊れていく。

エグゼイドは小さな声で、呟くように問いかけた。

 

 

「そういう人がいてくれるといいよね」

 

「え?」

 

「いないの? 穂乃果ちゃんには……?」

 

「あー、えっとぉ」

 

 

すると穂乃果は頬を赤くして、エグゼイドから目を逸らす。

 

 

「き、来て欲しい人なら……ね?」

 

「それは――」

 

 

聞いてはいけないと、心が叫ぶ。

しかし、エグゼイドはそれを無視した。無視してしまったのだ。たった一つの感情、恋心に負けて。

 

 

「それは、どういう人なの?」

 

「………」

 

 

穂乃果は照れた様に笑う。

 

 

「ゲームが、好きなんだよ」

 

「!」

 

「………」(あの馬鹿)

 

 

スナイプは立ち上がると、ミューズに聞こえる様に声を上げた。

 

 

「おい、今後のライブについてのプランでも考えよーぜ」

 

 

了解する一同。

皆がそれぞれの場所に座っていく中で、スナイプはエグゼイドに声をかけた。

 

 

「気をつけろ。傷が増えるだけだぜ」

 

「……ッ、ごめん」

 

 

丁度それぞれの位置につくミューズ。部屋の端っこでエグゼイド達は並んで座るという奇妙な状態になる。

とは言え、今はミューズたちも本戦行きが確定した事が嬉しいのか、話はすぐに脱線へ。

 

 

「そういえばもうすぐクリスマスだよね!」

 

「そうだねっ、みんなは予定あるの?」

 

 

首を振る一同。

 

 

「リン、真姫ちゃんのお家でクリスマスパーティしたいニャあ」

 

「あ、いいわね。みんなでプレゼントとか買って」

 

「えぇッ!? 冗談でしょ!?」

 

「そういえば真姫は、あの別荘で家族と過ごすのですか?」

 

「ま、まあね。毎年そうしてきたわ」

 

「あぁ、あのサンタさんが来るって言う煙突の?」

 

「ふふん、そうよ。今年もサンタさんのために煙突を綺麗にしておかなくちゃ」

 

 

髪を弄りながら笑う真姫。

ほほえましいなぁ、エグゼイド達はニコニコとしながらその光景を観察していた。

 

 

「サンタなんているわけねぇだろカス」

 

 

笑いながらスナイプ一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

「セイッ! セイッ! セイッ!」『ガシャコンブレイカー!』

 

「こンの糞馬鹿がァア!」

 

「それを言っちゃおしまいだろうがぁあ!!」

 

「ぎゃああああああああああああああ!!」

 

 

【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】

【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】

【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】

 

 

エグゼイド、ブレイブ、レーザーに囲まれてボコボコにされているスナイプ。

幸いなのは真姫には聞かれていなかった点だろう。

 

 

「ま、まあまあ聞こえてなかったんやし」

 

 

希が止めると、エグゼイド達は渋々スナイプから離れていく。

 

 

「だ、大丈夫? スナイプくん」

 

「いつつッ、ああ、悪いな」

 

 

ムクリと体を起こしたスナイプ。

前にあったお茶を啜ると、空になった湯飲みを希に渡す。

 

 

「おお。デブ、お茶」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラオラオラァア!」『ガシャコンブレイカー!』

 

「舌の根も乾かぬうちに良くそんな事が言えたな貴様は!」

 

「アンタはマジで何考えてんだァア!!」

 

「セイッ! ゼイッッ!!」

 

「ぎゃあああああああああああああああ!!」

 

 

エグゼイド、ブレイブ、レーザー、希に囲まれてボコボコにされているスナイプ。

なんか一人混ざってるが、気にしてはいけない。

 

 

【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】

【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】

【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】

 

 

「おい誰ださっきからケツばっかり叩いてくるヤツッッ!!」

 

 

希の気が済んだときにはスナイプは白目をむいて倒れていた。

何をしているんだ。エグゼイドが首を振ると、穂乃果の声が聞こえてきた。

 

 

「あれ? そういえば写真部のみんなは?」

 

「そういえば遅いね。いつもはもう来てるのに」

 

「!!」

 

 

目を見開くエグゼイド達。素早くアイコンタクトを取り、スナイプを担ぎ上げる。

 

 

「ちょ、ちょっと水分補給行ってきます!!」

 

「え? あッ、ちょ!」

 

 

部室を飛び出していくエグゼイド達。

にこはやれやれと両手を上げる。

 

 

「忙しい連中ね」

 

「仕方ありません。きぐるみは大変だと聞きますし」

 

「バラエティーでも途中で退場したりしてますしね」

 

 

すると部室の扉が勢い良く開き、エム達が流れ込んでくる。

 

 

「や、やあ! みんな、どうもッ、ハハハ……!」

 

「エム君!」

 

「ハァ! ハァ……!」

 

「か、会長? どうなされたのですか? なんだか息が――」

 

「あ、ああ。少し走ってきたんでね」

 

「ッ? タイガ、アンタなんでお尻なんて押さえてるのよ」

 

「かッ、関係ねぇだろ! ちょっとハンマーが――ッ。いやなんでもねぇ」

 

「ねえねえキリヤくん聞いて聞いて。今ね、レーザー君たちがね――」

 

「へ、へえ! そ、そッ、そうなんだ!」

 

 

エムたちは部屋の端に座り込むと、差し出されたお茶をゴクゴクと飲み干していく。

 

 

「あッ! そうだ! エグゼイド君たちに控え室案内するの忘れてた!」

 

「!」

 

「迷ってないか心配だなぁ。わたしちょっと見てくるね!」

 

 

立ち上がる穂乃果。いかん、控え室はちょうど真上の教室。

当然そこにエグゼイドはいないので、穂乃果はエグゼイドを探しに行くだろう。

しかし当然どれだけ探してもエグゼイドは見つかるわけが無いので、面倒な事になるのは想像に難しくない。

ゆえに、反射的にエムが立ち上がる。

 

 

「お、おれ達が行くよ!」

 

「え? でも――」

 

「いいからいいから! ほ、穂乃果ちゃんは座ってて!」

 

 

教室を飛び出すエム。

ヒイロ達も頭を抑えて出て行く。

とりあえず変身音が聞こえないところまで猛ダッシュ。そしてレベルワンに変身すると、再び部室まで走る。

 

 

「あッ、やばいつっかえた!」

 

「いッだい! 詰まってる詰まってます!」

 

「どけよアホども!」【HIT!】

 

「尻を蹴るな!」

 

「抜けたからいいだろ!」

 

 

部室に転がり入るエグゼイド達。

 

 

「あれ? エグゼイドくん!?」

 

「あ、ああ、えっと、エムくんに控え室のことを聞いてね!」

 

 

部屋の端に並んで座るエグゼイドたち。

しばし沈黙。すると海未が首をかしげた。

 

 

「あれ? では会長たちはどこに――?」

 

「―――」

 

 

一勢に立ち上がるエグゼイド達。

 

 

「ごめんちょっとトイレ!」

 

「え? あ、ちょ! 行っちゃった……」

 

「た、ただいまぁぁ」

 

「あ! エム君!」

 

「「………」」

 

「エグゼイドくんトイレ長くない?」

 

「行ってきまーす!」

 

「え?」

 

「ただいまぁ!」

 

「あ! エグゼイドくん! あれ? エムくんは――」

 

 

以下もろもろループ。

結局我李奈に助けてもらうまで地獄のシャトルランを続け、現在エグゼイド達は部室上の控え室に用意された教室で転がっていた。

 

 

「やはり、写真部との併用は無理がありましたか? 適当に理由を見つければよかったのに」

 

「そこまで考え付かなくて……」

 

 

エグゼイドらがいればエム達がおらず、エムがいればエグゼイドらがおらず。

結局、我李奈は写真部に仕事を頼んだと説明。そしてエグゼイド達は控え室に待機と言う風に段取りを取った。

 

 

「少し休憩したらPV撮影に行きましょう。エグゼイド達はミューズを盛り上げるバックダンサーとしては十分魅力的ですわ」

 

「はいはい、分かりましたよ……」

 

 

ぐったりと倒れているエグゼイド。

しかしそんな中、ブレイブがムクリと立ち上がる。

 

 

「我李奈さん。聞いてもいいか?」

 

「はい?」

 

「コラボスの居場所は分かったのか?」

 

「申し訳ございません。現在も調査中です」

 

 

そこでふと気づくエグゼイド。

 

 

「殺人事件とかは?」

 

「それは考えました。しかし調べた限りでは、目立った事件は起きていないのです。ただ、気になる証言がチラホラとあります。現在そちらの方を調査していますので、情報が入り次第お伝えいたしますわ」

 

「お願いします」

 

「ええ、では私はコレで」

 

 

部屋を出て行く我李奈。

出番がくれば穂乃果達が呼びに来てくれるらしいので、今からはフリータイムである。

 

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「暇だな」

 

「ああ」「おお」「ですね」

 

「「「「………」」」」」

 

 

一方、控え室に迫る影。

 

 

「ね、ねえ、やっぱり戻ろうよ」

 

「えー? 大丈夫だって」

 

「そうよそうよ、何してるのか気になるじゃない」

 

 

凛を先頭にし、花陽とにこは足音を消しながら控え室に迫る。

 

 

「あわよくば中の人見れちゃうかもねぇ」

 

「どんな人なんだろー? レーザーくんの中身が気になるにゃぁ」

 

「そりゃあんだけ動くんだから筋骨隆々のマッチョでしょ?」

 

「でもでもっ、案外女性かもしれませんよ!」

 

「あー、あるわね。ボイスチェンジ使ってるのを見ると可能性は高いかも」

 

 

そう言いながら三人は控え室の前に。

 

 

「いい? そーっとよ、そぉーっと」

 

「分かってるにゃあ。じゃあ、行くよ?」

 

 

ゆっくりと扉を開く凛。

なんだかんだ花陽もノリノリなのか、エグゼイド達のご尊顔を――

 

 

「「「「………」」」」

 

「―――」

 

 

ピシャリと扉を閉じる凛。

 

 

「い――ッ、今のは……?」

 

 

凛だけではなく花陽とにこも汗を浮かべて固まっている。

 

 

「ゆ、夢なの?」

 

「も、もう一度見てみましょう!」

 

 

再びドアの隙間からエグゼイドを確認する凛たち。

するとそこには、間違いない。カセットコンロを囲んで座るエグゼイド達の姿が。

左手に茶碗、右手に箸。そしてコンロの上にはグツグツと音を立てるものが。

 

 

(((鍋してるぅうううううううううううう!!?!?!!?)))

 

『なッ! なんでアイツら学校で鍋してんのよ!』

 

『し、しかもきぐるみって暑いんじゃないの!?』

 

『しかも無言にゃ! みんな鍋しか見てないニャ!!』

 

『そもそもなんでマスクドライバーのままなの!?』

 

 

小声で意見を交わす三人。

一方で不動のエグゼイド達。みな正座して鍋を凝視している。しかし頃合と見たか、スナイプが箸を鍋に入れてみる。

 

 

『め、めっちゃ手、震えてる』

 

 

レベルワンの太い指じゃ箸もまともに持てない。

その上で絹ごし豆腐を狙うスナイプ。もはや自殺行為だ。

なんとか挟み込む事はできたものの、やはり豆腐は豆腐、ぐしゃりと箸がめり込み、グシャグシャに崩れ落ちてしまう。

 

 

『miss!』

 

(煽られてる……)

 

 

エフェクトに怒ったのか箸を投げ捨てるスナイプ。

 

 

「なんで鍋なんてしなきゃいけねーんだよ!」

 

「お前がしたいって言うからだろ!!」

 

「フン、そもそも掴みづらい豆腐を行くからこうなるんだ」

 

「そうそう、肉とか白菜でいいんだよ。見てろ部長」

 

 

エグゼイドはプルプル震える箸で白菜を掴むと、口の近くに持っていく。

するとシュポっと吸い込まれる白菜。

 

 

「あっぢぃぃい!!」

 

 

ポピュンと音がしてエグゼイドの口から白菜が飛び出て、鍋の中にスロットイン。

 

 

「汚いわい!」

 

「エムくん、ばっちぃぞ!」

 

「あでッ!」【HIT!】

 

 

スナイプとブレイブがエグゼイドを叩く。

しかしその衝撃でエグゼイドの大きなヘッドが鍋の端に直撃、てこの原理で跳ね上がる鍋、そのままレーザーの頭に降りかかる。

 

 

「ぎゃあああああああああ!!」

 

「なにしてんのよアイツら……」

 

 

完全にヤバイ集団である。

にこ達はいそいそと部室へ戻っていった。

 

 

「おかえり、どうだった?」

 

「鍋してた」

 

「……え?」

 

 

固まる絵里と、席につくにこ達。

結局とそのまま時間が来て、穂乃果たちはエグゼイド達を呼びに行く事に。

 

 

「エグゼイドくんー? 出番だよー!」

 

 

ガラリと扉を開く穂乃果。

 

 

「「「「………」」」」

 

 

見えた光景。

エグゼイドを中心にして左にスナイプ、右にレーザーがそれぞれ手を繋いで組み体操の扇を作っている。

そしてエグゼイドの肩に足を置いて直立し、腕を組んでいるブレイブレベルツー。

 

 

「どういう状況よ……」

 

 

真姫が呆れた様に呟くと、エグゼイド達はポツリと呟いた。

 

 

「こっちが教えて欲しいです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でしたー!」

 

 

頭を下げる穂乃果。

PV撮影はまあ可もなく不可もなくと言った所だろうか?

ミューズが踊る後ろで、エグゼイド達がレベルワンで踊る。

ティーンエイジャーを中心としたターゲット層をさらに下の年齢まで拡大する試みである。

 

これからも何度かこうしたイベントをやっていきたいと我李奈は語っていた。

さて、とりあえずと今日の撮影は終わりだ。変身を解除したエム達も穂乃果と合流し、アポロンのスタッフに挨拶を行っていく。

 

 

「よし、じゃあ私達も軽く後片付けして帰りましょうか」

 

 

絵里の言葉に頷く一同。

 

 

「えぇ!? 祖母ちゃんが! ち、ちくしょう! すぐ行かなきゃ! じゃあなお前ら、後は任せたぞ!」

 

「手伝え」

 

 

三年生引きずられていくタイガ。

 

 

「衣装運ぶの手伝うよ」

 

「ふふ、ありがとキリヤくん」

 

「大丈夫? 結構重いわよ」

 

「だ、大丈夫。ボクもちょっとは鍛えたから」

 

「えへへ、頼もしいね!」

 

 

一年生もそれぞれの場所に。

エムたちは撮影の為に使ったカラーコーンを片付けようと台車を持ってくる。

しかしそこでヒイロと海未、ことりが話し合っているのが見えた。

 

 

「どうしたの海未ちゃん。ことりちゃん」

 

「あ、穂乃果ちゃん。ちょっと生徒会の事で会長さんに相談があって。後で生徒会室寄ってもいいかな?」

 

「あ、だったら片付けはわたし達がやっておくから。みんなは先に生徒会室に行ってよ」

 

「ですが……」

 

「カラーコーンもそんなにないし、おれと穂乃果ちゃんだけで大丈夫だよ」

 

「フム、じゃあお言葉に甘えようか」

 

 

別れる二年生。ヒイロ、海未、ことりは生徒会室に。

エムと穂乃果は台車に詰んだコーンを倉庫に戻しにいく。

なに、別に何も難しい話じゃない。ものの三分ほどで全てのコーンを戻し、台車を倉庫において二人は外に出る。

 

 

「ふぅ、これでよしだね!」

 

「会長達のところに行こうか」

 

 

肩を並べて、歩き出した二人。

すると、エムは足を止める。

 

 

「は……?」

 

「エム君? どうし――」

 

 

穂乃果も確認する。

視線の先に、ガチャガチャと音を立てて歩く人型の『何か』が見えた。黒と銀の体に赤い強化装甲。

あれは、間違いない。ヴィラン、コラボスの姿であった。

 

 

(ヴィラン――ッ!)

 

 

コラボスは文字通りロボットのように規則正しい歩幅で歩いている。

そして口にするのは――

 

 

「フンガ。フンガ。フンガ」

 

 

なんだ? 何か様子がおかしい。

まるで感情が無いように歩いていく。

 

 

(コイツ――ッ、それにゲームエリアが無い!)

 

 

ガシャットを起動しつづけ、現実に適応したのだろう。

そう、変身したまま。コラボスは一度もガシャットを解除する事はなく歩き続けた。

現実世界に適応できてからも歩き続けた。もはや理性はない。殺意もない。コラボスは完全にガシャットの力に精神を浸食され、コラボスと言うロボットになったのだ。

 

 

「フン――」

 

 

そんな中、コラボスが動きを止めた。そして、穂乃果を見る。

 

 

「ゥ」

 

「?」

 

「ミューズ!」

 

「え?」

 

「ミュゥウウウウウウズゥゥウウッッ!!」

 

「んなッ!?」

 

 

突如蒸気を上げて激高しはじめたコラボス。

すると全身から白い突起が姿を見せる。なんだ? 一瞬思考が停止する。

だがそれら突起がコラボスの体が分離――、いや、『発射』された瞬間、エムの全身に冷たいものが駆け抜ける。

 

 

(ミサイルだと!?)

 

 

煙を上げてエムと穂乃果に向かってくる四本のミサイル。

当然ゲームエリアが発生していない以上、これは現実の攻撃となっている筈だ。

エムは目を丸くして固まっている穂乃果の肩を抱くと、思い切り走ってミサイルから離れていく。

すると上昇しながらエム達を軽く追尾するミサイル群。それらはエム達の頭上を通り越すと、すぐ後ろにあった校舎の壁に直撃し、爆発を起こす。

 

 

「ぐッッ!」

 

 

コンクリートが吹き飛び、瓦礫が落ちてくる。

同時にコラボスはコラボスマッシャーと呼ばれるアームを発射する。つまりロケットパンチでエムと穂乃果を狙う。

世界がスローになった。上からは大きな瓦礫。前からは迫る鉄の塊。

どうすればいい? どうしようもない。無理だ、避けられない。ましてやこのままだと穂乃果は――、いや、自分は。

 

 

「―――」

 

 

一つだけある。何とかする方法が。

しかし――、でも――、いや。

 

 

 

 

 

 

無理だ。

 

 

 

 

 

 

『マイティアクションエーックス!』

 

「え?」

 

 

穂乃果は見る。エムがガシャットを取り出したのを。

ガシャットを起動させたのを。レンガブロックを出現させて瓦礫やミサイルから守ってくれたのを。

そして、ガシャットを装填したのを。

 

 

「変身ッ!」

 

『レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッチャネーム!?』

 

 

回転するキャラクターアイコン。

エムは左手でノックするようにアイコンを左に弾いた。

 

 

『アイム ア エグゼイド!』

 

「うそ……」

 

 

穂乃果は立ち尽くす。

その前で、エグゼイドはガシャコンブレイカーでコラボスマッシャーを弾き返していた。

 

 

「あ、あなたが……」

 

(ヤバい――ッ!)

 

「あなたが――ッ! 王子様(エグゼイド)だったの!?」

 

「ぐッ! うぉおお!」『ガッチャーン! レベルアーップ!』

 

 

装甲が弾け飛び、電子音と共にエグゼイドはコラボスに接近する。

ヤバイ、見られた。どうしよう。その不安と緊張の中、とにかくとコラボスを倒す事に集中する。

アリアドネを起動し、我李奈や他の適合者達に情報を与えつつ、コラボスにハンマーを打ちつける。

 

 

「フンガーッッ!」

 

「うわっ! グはァア!」

 

 

だがそこで腹部に衝撃、コラボスマッシャーが分離し、ロケットパンチとなってエグゼイドを打つ。

飛行する拳がエグゼイドを押し出し、ダウンさせる。

地面を滑り転がるエグゼイド。一方で腕を戻し、コラボスは再び歩き出す。

 

 

「くっ!」

 

 

素早く立ち上がり、地面を蹴るエグゼイド。

空中でジャンプでコラボスを翻弄するが、今のコラボスに心はない。

頭部にあるコンピューターでエグゼイドの動きを分析し、次に向かうだろう場所に再びロケットパンチを打ち込んだ。

 

 

「ぐあぁあ!!」【HIT!】

 

 

撃墜され、地面に落ちるエグゼイド。

だがその時、エンジン音が聞こえ、コラボスの体が真横に吹き飛んだ。

 

 

石神先輩(エグゼイド)! 大丈夫!?」

 

「レーザー(キリヤ)くん!」

 

 

ボイスチェンジにより名前はマスクドライバー名に変更される。だから穂乃果にレーザーがキリヤだとバレる心配は無いが――。

いけない。とにかく今はコラボスだ。エグゼイドは素早くレーザーに搭乗し、作戦を説明。一旦停止してアクセルを吹かす。

 

 

「ぅぅう! フンガアア!!」

 

 

一方立ち上がったコラボスは再びロケットパンチを発射。

同時に発進するエグゼイド。レーザーは真横にジャンプ。向かってきた拳を交わすと、そのまま猛スピードでコラボスへ距離を詰める。

さらにレーザーの固有能力は搭乗者にテンションゲージを分け与えられる事。変身時には25程度はあるので、二人合わせて即必殺技を発動する事ができる。

 

 

「ボクのゲージ使って!」

 

「ああ、助かる!」

 

 

爆走バイクのガシャットを抜き取り、ガシャコンブレイカーへ装填する。

 

 

『キメワザ!』『爆走! クリティカルフィニッシュ!!』

 

「ハァアアア!!」

 

 

爆発的な加速を味方につけ、エグゼイドは黄色に光るハンマーをコラボスの胴体に打ち込んだ。

 

 

「ゴガァァァアアアア!!」

 

 

手足をバタつかせて後方へ吹き飛んでいくコラボス。地面に叩きつけられると、直後爆発を起こして砕け散った。

 

 

『ゲィムクリア!』【GAME CLEAR!!】

 

「やったぁ! これで全てのガシャットを破壊できたんですね!」

 

「あ、ああ……」

 

「っ? どうしたの石神先輩?」

 

 

レーザーから降り、振り返るエグゼイド。

すると、穂乃果が駆け寄ってくるのが見えた。

興奮しているのか、頬を上気させ、目を輝かせている。

 

 

「す、すごい……! どうして言ってくれなかったの!?」

 

「え?」

 

「凄い! 凄いよ! まさかッ、エムくんだったなんて……! わたし、全然気づかなかったよぉ!」

 

『ごめん、バレた』

 

「ッ!!」

 

 

アリアドネの脳内会話で事情を説明する。

いや、もはやそれも無意味か。エグゼイドは確かに頷くと自分を指し示す。

 

 

「そう、そうだよ、おれがエグゼイドなんだ!!」

 

 

笑みを浮かべる穂乃果。

レーザーは冷静に考える。たしか、マスクドライバーである事がバレてしまえば、適合者を降ろされる契約だった。

とは言え、もともとエムたちは全てのガシャットを破壊すればマスクドライバーをやめるつもりだった。だったら別に問題はない――、はず。

 

 

「ずっと守っててくれたんだね!」

 

「そうッ。ああ、そうだよ。だって――」

 

 

一方エグゼイドも焦りで暴走しているのか、膨れる想いを制御できないでいる。

 

 

「穂乃果ちゃん……! おれは――ッ! キミの事が!!」

 

 

言うのか! レーザーは思わず身構え、ギュッと目を閉じる。

 

 

「あららららら。いけないねぇ、エグゼイドォ」

 

「!!」

 

 

声が聞こえた。

一同が上を向くと、影が落ちてくる。

衝撃、ゆっくりと顔を上げるのは、グラファイトだった。

 

 

「ッ、なんだお前……!」

 

「グラファイト」

 

 

そして背中にある竜の牙を模したダブルブレードを取る。

柄頭同士を合わせ、連結させると、直後、グラファイトは容赦なくそれをふるってエグゼイドに攻撃を仕掛けた。

 

 

「!」

 

 

一振り目は反射的にかわす事ができたが、二振り目は回避できずにその身で受けてしまう。

火花を散らして転がるエグゼイド。戸惑い、うろたえ、レーザーはレベルワンに戻ると銃を発射しながらエグゼイドをかばう様に立つ。

 

 

「お前、ヴィラン!?」

 

「さあ、どうだろうな!」

 

 

剣で銃弾を弾き、グラファイトはレーザーの頭部を掴むと、横に投げ飛ばす。

すぐに立ち上がるレーザーだが、グラファイトは距離を詰めて、双刃を振るっていく。

 

 

「ッ、キリヤくん!」

 

 

立ち上がるエグゼイド。間違いない、ヴィランだ。

すぐにレーザーを助けようと走り出すが――

 

 

「エムくん!!」

 

 

穂乃果の声が聞こえる。

直後、エグゼイドの背から火花が散った。

 

 

「ぐッ!!」

 

 

焼けるような痛みが走る。

振り返ると、そこにいたのはバグヴァイザーを構えて歩いてくる黒いエグゼイドの姿であった。

 

 

「お前――ッ!!」

 

「プログラムで構成されているのは何もゲームだけじゃない」

 

 

走り出す黒いエグゼイド。光弾を連射しながら距離をつめ、直後激しい蹴りや拳でエグゼイドを翻弄する。

なんとかしなければ。同じくして肉弾戦に挑むエグゼイドだが、まるで雲を掴むように攻撃がすりぬけていく。

何をしようとしているのかが分かっているのではないかと言うほど、黒いエグゼイドの回避は的確で、反対にエグゼイドの肉体には次々と拳や蹴り、光弾が当たっていく。

 

 

「ぐぅぅッッ!」

 

「人間も同じだ。心臓や肺、脳や骨、赤血球や白血球と言う要素で構成されている」

 

「な、なんなんだお前は! マスクドライバーなのか!?」

 

「そして同じくしてバグがある」

 

「話を聞けよ! どうして攻撃するんだ!!」

 

「恋愛感情だ」

 

「ッ!」

 

「一番厄介なバグだよ。不思議だとは思わないか?」

 

 

光弾を撃ちながら前進する黒いエグゼイド。

 

 

「動物にとって交尾は子孫を残す本能的行動だ。それは魚も虫も変わらない」

 

 

しかし人間は人を愛すると言う行動を取る。子を作るのではなく、愛しあうという理由で交尾行動を行う。

他者の為に動く。他者の為に自分を落とす事もある。そして他者の為に精神を揺さぶられる。

 

 

「神でさえ堕落させ、殺す感情、それこそが愛だ」

 

「ぐぅうッ!」

 

 

エグゼイドの首を掴み上げる黒いエグゼイド。

声が濁っている。男なのか女なのかも分からない。

 

 

「恋愛感情は厄介なバグだ。バグはいらない。恋するアイドルはいらないんだよ」

 

「なん――ッ! ぐッッ!」

 

「そして、それを作ってしまった原因にはバツを与えなければならない」『ギュ・イーン!』

 

 

首を離すと、黒いエグゼイドは刃をむちゃくちゃに振るい、エグゼイドを切り刻まんとする。

激しく振るわれる刃。エグゼイドは抵抗しようとするが、それを拒む連続攻撃。

 

 

「フンッ!」

 

「ウグァア!!」

 

 

蹴りが腹部に入り、エグゼイドは地面を転がる。

 

 

「グラファイト」

 

「はいはい」

 

 

一方で双刃を振るってレーザーを吹き飛ばすグラファイト。

 

 

「グッ! うぐぅぁ!」

 

 

グラファイトは煙を上げながらフラついているエグゼイドを見る。

表情は分からないが、緑色のドラゴンはニヤリと笑った気がした。

 

 

「さあ、デリートの時間だ」

 

 

双刃を振るう。すると赤い稲妻が纏わりついた。

 

 

激怒(げきど)――ッ!」

 

「!」

 

 

迫る、圧倒的な殺意。

それは何も知らない、何も分からない穂乃果にも分かった。

本能が告げるシグナル。あのグラファイトは、エムを殺そうとしている。それが嫌と言うほど分かってしまった。

 

 

竜牙(りゅうが)!」

 

 

双刃で『X』の文字をなぞる。するとクロスの斬撃が発射され、エグゼイドに向かっていった。

 

 

「石神先輩ッッ!!」『レベルアーップ!』

 

 

叫ぶレーザー。

レバーを展開し、レベルツーに変わると、全速力で走り出す。

火事場の馬鹿力とでも言えばいいのか、火花を上げながらレーザーはタイヤを回転させ、エグゼイドの前に滑り込んだ。

 

 

『ガッチョーン』

 

 

そしてレベルワンに戻ると、エグゼイドを突き飛ばし軌道から逸らす。

 

 

「レーザー!」

 

「―――」

 

 

その瞬間だ。赤い斬撃がレーザーに直撃したのは。

 

 

「大丈夫かエグゼイド!」

 

「おい! アイツは黒い――ッ!」

 

 

丁度その時、連絡を聞きつけたのか、ブレイブとスナイプが共にレベルツーでやって来る。

やはり注目するのは見たことの無いグラファイトと、以前から聞いていた黒いエグゼイド。だが両者そこで足と言葉を止めた。

見えたのは煙を上げて倒れるレーザー。どうしていいか分からず、目を見開いて立ち尽くしている穂乃果。そして叫びながらレーザーに駆け寄るエグゼイドだった。

 

 

「キリヤくんッ! おれ――ッ! ぁぁあ! ごめんッッ!!」

 

「い、いいんだよ石神先輩……! 怪我は無い?」

 

「ああ! ああ!! だってキリヤくんが守ってくれたんだ!!」

 

 

レーザーの装甲は至るところがひび割れており、そこからバチバチとエネルギーが漏れている。

体力を現すライダーゲージも完全に破壊されており、数値が全く分からない。全身から上がる煙が、エグゼイドの心に不安を齎す。

だがその中で、レーザーはしっかりとエグゼイドの手を握った。

 

 

「無事で……良か――ッ」

 

 

そこまでだった。

破裂音が。爆発音が響く。衝撃で後ろへ倒れるエグゼイド。

『何か』が爆発した。空を見上げるようにして倒れたエグゼイド。視界に何かの『破片』が見えた。

世界がまた、スローモーションに変わる。フラッシュバックする光景。レーザーが爆炎に包まれた。

いや、違う。レーザーが爆炎になったのか。

 

 

「――ァ」

 

 

エグゼイドがゆっくりと体を起こす。

その手には、まだ、レーザーの手があった。

レーザーの、手だけが握られていた。

 

 

「うそだろ?」

 

 

スナイプが呟く。

レーザーはどこにもいなかった。

レーザーの破片なら、周囲に散らばっていたが。

 

 

「キリヤッッ!!」

 

 

スナイプが叫び、走り出す。

だがもう遅い。レーザーは粉々に砕け散っていた。足が落ちていた。指が落ちていた。頭部の一部が転がっていた。

それは紛れもない、『死』を表していた。スナイプも否応無しに伝えられた死を理解したのか、足を止めて沈黙する。

一方、無言なのは黒いエグゼイドとグラファイトも同じだった。

黒いエグゼイドは、頭を押さえ、呆れた様に首を振る。

 

 

「グラファイト……」

 

「これは――ッ、失礼を」

 

「やれやれ。修正は?」

 

「大丈夫です。レーザーは変身した回数、時間が最も短く、培養率も低いので」

 

「修復率は?」

 

「高くはありません。保持範囲は一年前後です。しかし、記憶や知識は補正を掛けますので、それほど問題はないかと」

 

「まあいい。とりあえず、頼むよ」

 

 

バグヴァイザーを投げる黒いエグゼイド。

グラファイトは画面をタッチすると、ホログラム化させて拡大。なにやら複雑な操作を行うと、直後銃口から何かオレンジ色の粒子を発射する。

その時だった。散らばっていたレーザーの破片が光に変わり、一箇所に収束する。すると光が弾け、そこから無傷の火馬キリヤが姿を見せる。

 

 

「……え?」

 

 

誰もが言葉を失う中、キリヤは自分の頬をなでる。

彼自身、自分がどうなったのか、分からないワケじゃない。あの痛み、苦痛、そして終わりの瞬間は紛れも無いリアルだった。

だが今、傷はない。痛みはない。腰に巻かれたレーザードライバーと、ポケットの中には爆走バイクのガシャット。まるで時間が戻ったようだ。

けれども、恐怖だけは確かにその心の中に。

 

 

「なん……、だよ、これ」

 

 

エグゼイドは呟く。

 

なぜ?

 

なぜだ?

 

なぜなんだ?

 

どうして、なんで、分からない。

 

なぜ、たった今、目の前で死んだ筈のレーザーが、火馬キリヤが生きているのか。

 

 

「キリヤくん……ッ?」

 

「!」

 

 

声がする。気配が増える。

今まで物陰に隠れていたのだろうが、そこから現われたのは星空凛だった。

いや、凛だけじゃない。凛と一緒にいた花陽と真姫もそこにはいた。

 

 

「なによこれ……」

 

 

さらに物音を聞いてやってきたのだろう。にこが、希が、絵里がいる。

さらに三年の後ろには海未とことりがいた。

つまり、ミューズが今の光景を見ていたのだ。

 

 

「気配が察知できなかった」

 

 

黒いエグゼイドが言う。

 

 

「バグの影響でしょう。ココ最近は増えてきた」

 

 

グラファイトが言う。

 

 

「あーあ、下手な真実なら、知らないほうが良かったのに」

 

 

黒いエグゼイドは戸惑う面々を見て、淡々と呟いた。

 

 

「しかし、フム。見られたか……」

 

「どうしますか?」

 

 

二人の会話が続く。しかしその間もエグゼイド達はただ戸惑いに沈黙するだけしかできなかった。

なんだ? 何なんだ? 何が起こっているんだ?

脳が働いてくれない。混乱が靄となる。

 

 

「やむをえん。一度、終わらせるか」

 

「思ったよりも早いですね」

 

「仕方ないさ。9人全員の記憶を弄るのは好ましくない」

 

「それに、クリスタルの事もありますし?」

 

「その通り。あぶりだすのも悪くないだろう」

 

「ましてや、これもまた、大いなる運命を決めることに繋がる」

 

「ああ、はじめようじゃないか。ゼロデイを」

 

 

ゼロデイ。その言葉に異様なる恐怖を感じた。

 

 

「な、なんなんだお前達は……」

 

 

ポツリと、ブレイブが思わず後退しながら呟いた。

すると笑う黒いエグゼイド。本来ならば説明はしない。何も分からないまま終わらせるつもりだった。

しかし、黒いエグゼイドは一から全てを説明してくれるという。なぜか? 決まっている。そこにミューズの9人がいるからだ。

 

 

「この計画は女神達の全ての感情を引き出す事にある。もちろんそれは絶望もだ」

 

 

ゆえに、決めた。

そしてエム達に知ってもらうこともまた、大いなる運命を決める手となるかもしれない。だからこそ、黒いエグゼイドは変身を解除した。

グラファイトもまた、同じくして。

 

 

「お前が――ッ、黒いエグゼイド……!?」

 

 

エグゼイド達の前に立っていたのは、いつものように貼り付けたような笑みを浮かべている『雷山クロト』だった。

そしてその隣には、タブレットを抱えた秘書の『我李奈』が立っている。

 

 

「やっぱりテメェかよ、何となく怪しいとは思ってが……!」

 

「おや、バレバレだったかな?」

 

「どういう事か、説明していただこうか」

 

「――ゲンムだ」

 

「ッ?」

 

「黒いエグゼイドの名前だよ。エックスレコードにはそう記されていた」

 

「エックスレコード?」

 

「私のココにある。記憶にして記録さ」

 

 

自分の頭を指し示すクロト。さらにそこで、我李奈がメガネを整えながら前に出る。

変化は明らかだった。いつも黒いスーツを身に着けている我李奈だが、今は違う。スーツもメガネも真っ白なものを着用していた。

 

 

「改めまして、こんにちは。私、財団(ざいだん)X(エックス)の我李奈と申しますわ」

 

「ざ、ざいだん……?」

 

「ええ、そしてコチラが――」

 

 

我李奈を制したクロト。そのまま横を見る。

すると、アポロン社が見えた。

 

 

「キミ達はミューズを侍女に持つアポロンが、何を司る神様なのか知っているかい?」

 

 

会社の名前にもなっているアポロンの元ネタは神話に登場する神様だというのは以前も話したことだ。その時に、それとなく聞いた気がする。

いや、そもそも芸術を司るミューズを侍女にしているのだから、想像に難しくは無い。

 

 

「そう、そうだ、アポロンもまた芸術の神様だよ。でもね、まだある」

 

 

アポロンは神話の中でも多くの物を司っている神だ。

たとえば、そう、クロトは上を見る。

 

 

「太陽」

 

 

太陽神として信仰されたアポロン。

 

 

「太陽は皆を照らす存在だ。まるで、アイドルのようだね」

 

 

ニコリと微笑むクロト。

なんの感情も感じられなかった。

 

 

「そしてもう一つ――、何か分かるかな?」

 

 

もったいぶるようにクロトは問いかけた。

エグゼイド達は答えない。答えられない。言葉を失っているからだ。

クロトは小さくため息をつくと、自分の胸に手を置いた。まるで、自らを指し示すように。

 

 

「医療だよ。アポロンは、医術を司る神だ」

 

 

そして我李奈は頷き、再び口を開く。

 

 

「コチラは、ドクター雷山ですわ。アポロン社、社長は、仮の姿ですのよ?」

 

「ど、ドクターって……」

 

「ああ。医者だよ。私はテレビ局の人間じゃない。ただのしがない医者なのさ」

 

 

意味が分からなかった。つまり話を纏めると、雷山クロトと言う男はアポロンの社長ではなく、ただの医者。

我李奈は秘書ではなく、財団Xと呼ばれる組織の人間であると――?

だがアポロンTVは確かに放送されているわけで、アポロンの会社はあそこにあって、社長室にクロトは座っていて……。

意味が分からない。分からない。分からない……。

 

 

「これは失礼。混乱は増すばかりか。ならば順を追って説明しよう」

 

 

指を鳴らすクロト。すると我李奈が頭を下げる。

 

 

「まず皆様が気になっているのは、何故死亡した火馬キリヤがそこに存在しているのかでしょう?」

 

 

そうだ。レーザーは爆発して粉々になった。どう見ても生きているようには見えなかった。なのに今、キリヤはココにいる。

答えは簡単だ。ここからはクロトが続ける。

 

 

「答えは簡単。そもそもキミ達は、初めから生きてなんていなかったんだから」

 

「……は?」

 

「物事の多くには主とするエネルギーが存在している」

 

 

火を灯す燃料。

明かりを灯す電力。

もっと言えば噴水は水分が無ければ成立しない。凧は風がなければならない。

 

何かをするには他の何かが必要だというのは当たり前の話だ。

特にエネルギー源は大きな要素になってくる。ゲーム機だってそうだ、いろいろな機械が組み合わさってできているが、コンセントがないとどうしようもない。

携帯機ならば充電がないとどうしようもない。もっと言えば画面が無ければ。

アイドルだってそう。マイクがなければ? 衣装がなければ? 曲がなければ?

 

 

「それはガシャットにも言えることだ」

 

 

ゲームエリアを展開し、マスクドライバーに、ヴィランに変身して戦う。

それを可能にする主エネルギーとはなにか? ホログラム? ならば電力か?

いや違う。火花や爆発を発生させる燃料? それも違う。

 

 

「きっとキミ達には分からないだろう。なにせ、この世界にとっては未知なるエネルギーなのだから」

 

 

いわば、オーパーツ。

それは一つのウイルスだという。

 

 

「その名も、バグスターウイルス」

 

 

それが、マスクドライバー達を構成する主なエネルギーだ。

相変わらず沈黙し続けるエグゼイド達。何を言っているのか欠片も理解できなかった。ウイルス? それが身をつくるとは――?

 

 

「バグスターウイルスを変異させる事で装甲や攻撃を出力している」

 

 

しかし一つ申し訳ない事をしたとクロトは語る。

バグスターウイルスはとても大きな力を持っているが、同時にそれは人体にとっては有害な作用を齎すとも言う。

ウイルスと名がついているのだ、それは想像に難しくはないだろう。

 

 

「まあいろいろあるんだけどね、簡単に言うと、死ぬんだよ」

 

 

思い出してほしい、ヴィランへの変身方法。

マスクドライバーへの変身方法。

 

 

「まさか――」

 

 

ブレイブが呟く。その仮面の下は、真っ青になっていた。

 

 

「そう、ガシャットには大量のバグスターウイルスが存在している。それを直接、もしくはドライバーを介して流し込む事により培養。マスクドライバーの場合、ドライバーの力でウイルスの力を増幅させて装甲に変えている」

 

 

まあいろいろといえるが、大事なのはたった一文でいい。

なぜ希がエム達の未来を視ることができなかったのか――? 簡単だろう? 未来の無い者を視ても、なにも見えない。

 

 

「つまりキミ達は一番初めに変身したその時点で、バグスターウイルスに全身を侵されて死亡しているんだよ」

 

「ば、馬鹿な!!」

 

「フム。正確に言えば死亡と言うよりは、変異と言った方がいいか」

 

 

それが今尚エグゼイド達が存在している理由である。

バグスターウイルスに呑み込まれたものは、『バグスター』になる。つまり今のエムたちは人間ではなく、バグスターウイルスなのだ。

 

 

「我々はバグスターウイルスをある程度データとして管理下においている。キリヤくんを蘇生できたのは運が良かった。我々が把握しているデータだけでなんとか修復できたんだからね」

 

 

とは言え、完璧ではないが。

 

 

「試しにキリヤくん。一年前の事を覚えているかい? なんでもいい、そう、なんでも」

 

「………」

 

 

頭を抑えるキリヤ。

汗が額に浮かび、そして、首を振る。

 

 

「だろうね、修復できたのは最近のキミだから」

 

「ど、ど、どういう事ですか……」

 

「それだけのデータで修復した。ああ、安心してくれ、単語や知識、人についての情報は引き継いでいるから」

 

 

まるでゲームのセーブやロードのように言って見せる。

 

 

「まあ、とは言え、もう意味もなくなるか」

 

「その通りですわドクター雷山。世界はゼロになる。それが、ゼロデイですもの」

 

「フム。マスクドライバーの諸君、今の情報はなかなかショッキングだったろうが、安心してくれ」

 

 

クロトは、当たり前のように言い放った。

 

 

「そもそも、この世界に存在している生命など、ただの11しかない」

 

「……ッ!?」

 

「私、我李奈。そして高坂穂乃果、園田海未、南ことり、星空凛、小泉花陽、西木野真姫、絢瀬絵里、矢澤にこ、東條希」

 

 

以上、11人。

それ以外は全てフェイク。

 

 

「幻想なんだよ、全部」

 

 

バグヴァイザーを受け取るクロト。

すると真上、つまり空に向けて光弾を発射してみせる。天高く上っていく光の弾丸。するとしばらくして『空にぶつかった』。

一滴、水面に雫を落としたように波紋が空に広がっていく。それは、ドーム状に見えた。大きな、大きな、ドームで囲まれている気がした。

 

 

「ラブラブライブ」

 

「――?」

 

「そういう名前にしようと思ったんだけど、我李奈に怒られてね。ダサいんだって、酷い人だ」

 

 

だから名前を変えた。

ミューズは神話から来た名前だ。アポロンもそう。だから、神話から取ることにした。

 

 

「愛の神イナンナの名を借り、こういうのはどうかと」

 

 

クロトは初めて笑みを消した。

そして目を見開き、一同にその名を示す。

 

 

「イナンナの鳥篭(とりかご)。それが、このゲームのタイトルだよ」

 

 

空に波打つ波紋は、紛れも無い、ゲームエリアを指し示していた。

 

 

「この世界は現実世界じゃない、仮想世界、つまりゲームの中なんだよ」

 

 

全てだ。人も、草も、花も、鳥も、虫も、犬も、猫も。

 

 

「なにもかもがフェイク」

 

 

ゲストはミューズ。それ以外は全てゲームの存在。

生きてなどいないのだ。

 

 

「つまりキミ達は最初からゲームオーバーだったと言うワケさ」

 

 

変身しようがしまいが、そもそも生きていない。

 

 

「人間じゃないんだ」

 

 

バグヴァイザーを操作するクロト。すると光が迸り、マスクドライバーの変身が一勢に解除された。

 

 

「タイガ!」

 

「か、会長だったのですか!!」

 

「え、エムくん!?」

 

 

驚く声が聞こえる。

その中で、適合者たちはみな打ちのめされた表情をしていた。

 

 

「石神エムくん、羽水ヒイロくん、鋼タイガくん、火馬キリヤくん。キミ達は、私がつくったゲームのキャラクター。つまり、AIが生み出したただのNPCだ」

 

 

ノンプレイヤーキャラクター。データの集合体。

 

 

「感謝してる。キミ達をバグスターウイルスにより文字通り『バグ』に変える事はデータ収集に大いに貢献してくれたからね」

 

 

バグヴァイザーを操作するクロト。

 

 

「私の目的は世界を創生する事だ。しかし中々うまくいかなくてね。いろいろな失敗があったよ」

 

 

操作する。

 

 

「特に本物であるミューズたちに干渉する事はなかなか難しかった。とは言え、私が目指すゴールには絶対に乗り越えなければならないハードルでもある」

 

 

操作する。

 

 

「世界の開拓には予期せぬ化学変化が必要だ。閉鎖された空間だけを規則的に生きるNPCでは私の望むバグは起こせない。しかしバグスターウイルスにより私も把握しきれていない存在になったキミ達は、私が望むデータをいくつもと提供してくれた」

 

 

操作する。

 

 

「おかげで少しは女神達にも手が届くようになった。今、実験してみせよう」

 

 

設定完了。クロトはバグヴァイザーの銃口を穂乃果に向ける。

 

 

「もともと彼女は分かりやすい性格なのか、私の『干渉』に抵抗する能力が低くてね」

 

「―――」

 

 

目には見えないが、何かが発射されたはずだ。穂乃果は背筋を伸ばし、固まる。

そして目を見開き、衝撃に声を漏らす。

 

 

「ぁう……ッ」

 

「さあ、穂乃果さん。エムくんを見てくれ」

 

「え……?」

 

 

言われた通り、穂乃果はエムを見る。

 

 

「変化はわかるかな? まあこんな状況だ。心情の変化を具体的に把握する事は難しいか」

 

 

頷くクロト。

 

 

「いい、私が説明しよう」

 

 

今、バグヴァイザーにて行った事を説明してくれるらしい。

 

 

「そもそも私は、はじめから穂乃果くんにある設定を施していた」

 

 

ある人物を見れば性的欲求に軽くブーストがかかるようになり、嫉妬や執着力が上がる。

プラス、心臓の動機が早くなるように。

さらにはよく言われている『心の痛み』や『心の安らぎ』を同時に与えたり、調整には少し苦労したという。

 

 

「そう、恋心だよ」

 

「――やめろ」

 

 

エムが消え入りそうな声で呟いた。

クロトは笑みを浮かべ、肩を竦める。

 

 

「そうだよ。キミへの恋心だ」

 

 

前に、蕎麦屋で話したことがフラッシュバックする。

 

 

『そもそもよ、オレ達と話してるより、お前と話してる時の高坂は目の輝き方が違う』

 

『しかし幼馴染と言うだけであそこまで大きな好意を抱くものだろうか?』

 

『もしかしたら何かあるのかもな『大きな理由が』よ』

 

 

大きな理由。

そう、コレだ。

 

 

「簡単に言えば、私は設定したんだ。高坂穂乃果は石神エムに好意を持っていると」

 

「――え?」

 

 

放心するように、穂乃果は固まる。

 

 

「今、その恋心に近づけた感情を全て消した。さあ穂乃果さん、石神エムを見てくれ、何か感じるか?」

 

「………」

 

 

穂乃果は、ゆっくりとエムを見る。

 

 

「感じるわけないよな? 全ては、幻想だったんだから」

 

 

正直に言おう、穂乃果は、エムが好きだった。

エムを見るとドキドキした。エムと少しでも長く一緒にいたかった。それを必死に隠した。ミューズがあるから。

でもエムへの気持ちも本当で、ゲームの大会には少しでも顔を見せたかった。なぜ? だって、好きだったからだ。

なんて――、思っていた。

 

しかし、今、その全てを穂乃果は忘れた。

 

エムを見ても以前のような感情を、ドキドキは全くこなかった。

それはそうだ。はじめからそんな物は無かった。あったように、思っていただけだ。そうクロトに植えつけられていただけだ。

正直に言おう。穂乃果は今、石神エムに何の興味もなかった。

まるで、初めて会った人みたいに思った。幼馴染、はい、それだけ。

 

 

「………」

 

 

ワケが分からない。穂乃果は、とりあえずエムを心配させまいと笑ってみせる。

しかしその心遣いが答えだ。エムの心に大きな痛みが走る。

 

 

「フッ、悪くない。なかなか干渉はできているようだ」

 

 

その時、真姫がうめき声をあげて崩れ落ちた。

 

 

「真姫ちゃん! どうしたのッ!」

 

「真姫! 大丈夫!?」

 

「ううぅッ! 頭が――ッ、ちょっと……!」

 

 

電流の様な頭痛が走る。

真姫は地面に膝をつき呻き声をあげた。同時に思い出す。記憶が、景色が、フラッシュバックしていく。

 

真姫は息を切らしながら走っていた。

長い廊下の先に広がるのは闇。走れども走れども終わりが見えてこない。

8bitの電子音を背中に受けながら、真姫は額に汗を浮かべている。

 

 

『お前は人を構成するモノがなにか分かるか?』

 

『自尊心、アイデンティティ、自我だ。それが満たされたとき、人は絶大な快楽を得ることができる』

 

『そしてそれを最も簡単に得られる方法は一つ――』

 

 

真姫は、確かに聞いた。

 

 

『愛だ』

 

 

その言葉を口にした者は――、真姫の後ろから歩いてきたのは紛れもない、ゲンムだ。

 

 

「真姫さんは――、思い出したようだね」

 

 

クロトは全てを話し始めた。何が起きて、何があってこうなったのか。

そして、ここに至ったのかを。

 

 

「キミ達はパラレルワールドと言うものを知っているかい?」

 

 

目線を下に落とし、クロトは語る。

並行世界。Aと言う世界とは次元の壁を隔ててBと言う世界があることだ。

 

 

「真姫さんたちがいる世界をAとするなら、私はBの世界の人間だった」

 

「なにを……」

 

「少し覚えておいて欲しいと思ってね。さて、話を続けようか」

 

 

雷山と言う男は、ただの医者だった。

いや、若くして多くの実績を残し、不可能と言われた手術をも短時間で成功させた雷山は、いつしか天才ドクターとして持て囃されるようになった。

雷山も自らの実力、才能に自信を持っており、各地を転々としながら多くの命を救ってきた。

 

そんな中、友人の頼みで雷山はある病院に勤務することになった。

それが、全ての始まりだった。

 

その病院は一般的な外来も担当し、内科や耳鼻科なども存在しているが、そのメインとしている機能は『ホスピス』である。

つまりターミナルケア。人生、生活の質、クオリティオブライフ(QOL)を維持することを目的した施設であった。

末期の癌や難病を抱えた者が多く出入りし、さらには近くに学校があるためなのかは知らないが、自殺未遂を行う人間も入ってくる。

その様子から、ネットでは死神が巣食う病院とまで言われたほどだ。

 

雷山は嘆いた。そして救おうと思った。全ての人間をだ。

 

 

「私には自信があった。しかし、そう甘くは無かったよ」

 

 

末期は末期だ。その時雷山は始めて思い知らされた。

天才は神ではない、神にはなれない。人命を左右するのは期間、状況、すぐれた施設、道具だ。

全てが手遅れだった。そして人の心もまた同じくして。

手術はしたくない。怖い。辛い。私が私じゃなくなるのは嫌だ。放っておいてくれ。

 

 

「初めてだった。人を救えないと実感するのは」

 

 

取りこぼしていく命。指を間を抜ける砂のように人が死んでいく。

一度、死ぬために飛び降りた少女を助けた事がある。少女の退院際、雷山は微笑みかけた。

 

 

『命は、大切にね』

 

 

少女は頷いた。

一週間後だった、その少女が練炭自殺で死んだと聞いたのは。

 

 

「はじめての感覚だった。無力感と、どうしようもない怒りを感じたのは」

 

 

何がいけないのだ。人を救うのは医学ではないのか。なのに何故命は消えていく?

雷山は考えた。考え、考え、それでもまだ答えは出ない。だから考えた。自宅にあるアポロンの絵画を見つめながら、雷山は考えた。

 

 

「その日からだ。私はある夢を見るようになった」

 

 

不思議な夢だった。ココとは違う、まさにパラレルワールドを見ているようだった。

そこでは未知の病原菌による病が発生しており、それと戦うドクター達がいた。

雷山はその中で、一人の男に注目した。いろいろなドクターがいる中で、彼は、患者のストレスを削減する方法を主としていた。

結果的にはそれが患者を救うことに繋がっている。

 

少年と笑い合うドクターが見えた。

その時、雷山は目が覚めた。二つの意味で。

 

 

「私は今まで医学とは病を治すものだと思っていた。しかし本当に癒さなければならないのは人の心だと気づいたのさ」

 

 

まるでそれはアポロンが教えてくれたようだった。

そして雷山は考える。心の救済とは何か。人は、何を以ってして救われるのか。

 

 

「自尊心、アイデンティティ、自我、それが人を構成するものだ」

 

 

人は大きな病を患ったとき、自分が何者であるかをよく考える。

自分の人生を振り返る事、自分が何者かを考える事、自分の意味を考える事。雷山はそれを多くの患者と関わる中で知った。

そして、ある状態になった時、人は同じことを考える。

 

 

「恋に落ちた時だ」

 

 

自分の価値を知らしめてくれる。

スカスカのアイデンティティを埋めてくれる。それが、愛だ。

 

 

「その答えにたどり着いたとき、またも、アポロンの加護が起こった」

 

 

雷山の前に、我李奈が現れたのだ。

 

 

「我々財団の目的は、優れた人間や企業に資金援助および技術提供を行う事ですわ」

 

 

我李奈は雷山と話をし、そして可能性を見出した。

 

 

「故に私は、ドクター雷山の目指す世界を実現するため、力を貸したのです」

 

「我李奈の持っていた技術は、私の望みを叶える力を持っていた」

 

 

我李奈は雷山と出会う前、『C.O.M』と言う企業に力を貸していた。

そしてその技術、およびつくった装置の残骸を回収していたのだ。

 

 

「皆様は、ミューズの母親の名前を知っていますか?」

 

 

ヘーシオドスによる9姉妹、文芸を司る女神達。

カリオペー、クレイオー、エウテルペー、タレイア、メルポメネー、テルプシコラー、エラトー、ポリュムニアー、ウーラニアー。

彼女達を生んだのは、ゼウスと交わりし、記憶を司る女神――

 

 

「ムネモシュネ!!」

 

 

それは、我李奈が『C.O.M』から回収した装置の名前でもあった。

 

 

「夢を見た。夢では、ドクターたちはライダーと呼ばれていた」

 

 

正式名称はよく分からない。記憶に靄が掛かる。

しかしそれでも、雷山は望んだ。欲しい、救う力。求めた。手を伸ばした。

そして目が覚めたとき、手に、ガシャットがあった。

 

 

「全てはアポロンの加護だ」

 

 

雷山はそう信じている。

自らの祈りが力を齎してくれたのだと。

 

 

「その時、私の中に電流が走った」

 

 

これが、使命なのだと。

自らの運命であると。だから雷山は夢で見たゲームマスターを名乗る男の名を借りた。

いや、それが『名前』になった。もはや、元の名前は思い出せない。雷山と言う苗字と、自らの夢でみたシンパシーを感じた男の名、『クロト』。

 

 

「私は雷山クロト」『マイティアクションX!』

 

 

夢で手に入れたガシャットを起動させる。

身に付けたるは、黒ベースに紫のレバーがあるゲンムドライバー。

 

 

「ガシャットにはバグスターウイルスのデータがあった」

 

 

それを我李奈が解析し、ムネモシュネの破片やデータとあわせ、新しい装置を生み出した。

 

 

「変身――」『ガシャット!』

 

『レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッチャネーム!?』

 

 

回転するキャラクターアイコン。その中で、クロトは指を鳴らす。

すると頭上にハテナマークのアイコンが出現し、そこに黒いエグゼイドの絵柄が浮かび上がる。

 

 

『アイム ア ゲンム!』

 

『マイティジャンプ! マイティキック!』

 

『マイティィイイアクショーン! X!』

 

 

ゲンムはレベルワンが存在しない。自動的にレバーが展開し、レベルツーで変身が完了される。

さらにゲンムは黄金のガシャットを取り出す。

 

 

「これが、神の力だ」『アポロンアーマー!』

 

 

太陽から一筋の光が降りてくる。

 

 

『ガシャット!』

 

 

もう一つのスロットにアポロンアーマーのガシャットを差し込むゲンム。

そしてキメワザスロットホルダーにある銀のボタンを押す。

すると光が弾け、ゲンムの背後にクロトが我李奈の――、財団の力を借りてつくりあげた装置が、『アポロン』が姿を現す。

 

高さは約13~15メートルほどだろうか。頭部にはセミを模した王冠を被った狼が見える。

頭部には鹿の角を生やしており、体は黄金の甲冑に黄金の蛇が巻き付いている。下半身はイルカのそれであった。

 

さらに背には三対の翼があった。

上部右はカラス、上部左はニワトリ、中央は両翼とも白鳥。下部右はタカ、下部左はハゲワシの翼である。

いずれもが黄金に染まっており、眩い光を放つ。

 

 

「アポロンは仮想世界を作る力を持っている」

 

 

そして我李奈は世界を移動する力を持っていた。

 

 

「そして私は、この世界にやって来た」

 

 

そこでミューズを見つける。

アポロンの侍女であるミューズ、そして世界を構成する力を持っていたミューズ。

クロトの目指す理想郷にはピッタリの要因だ。

 

 

「私はミューズの9人を、この仮想世界、イナンナの鳥篭に連れ去った」

 

 

そして住人として洗脳したのである。世界を完成させるためだ。世界は人の記憶によって構成される。

だがアポロンは所詮残骸で作った装置、まだまだ欠落品だ。完全な仮想世界はつくれない。

だからこそミューズの9人の心や感情をエネルギーとして人を作り、物を作り、より世界を現実に近づけていく。

さて、しかしそもそも世界を創ってどうしようと言うのか。

 

 

「キミ達はアニマルセラピーと言うのを知っているか? 動物介在療法、動物と触れ合う事で人の精神に潤いと癒しを齎す医療だ」

 

 

それをクロトは『人』で行う。

少し難しいか。では簡単に言おう。

 

 

「私は、究極の恋愛ゲームを作るつもりなんだよ」

 

 

人のアイデンティティを満たしてくれるのは愛だ。

人は愛に生きる。愛される事で自らの存在に意味と価値を見出せるのだ。愛し、愛される事で、人は救われる。愛されるために人は日々を生きている。

自らが無価値ではないと。そしてもたらされる甘美なる快楽により、人は一切の苦痛を忘れる事ができるだろう。

 

まずはヒロインは9人から始めよう。

偉大なる先駆者にして――、『生贄』の名前は。

 

 

「ミューズ」

 

 

クロトは穂乃果達を見る。

 

 

「9人も個性的なメンバーが集まっているんだ。ある程度の性的嗜好は全て満たしてくれるだろう」

 

 

苦痛は感じなくていい。

皆、眠ればいい。皆、幸せな夢を見ればいい。

大丈夫、事前に勉強はしておいた。本当は女子高の音乃木坂を共学の設定にして、穂乃果を幼馴染にする事でスムーズにミューズとの関われる位置を主人公とする。

 

 

「エグゼとは拡張子。自らの存在を示すもの」

 

 

苦痛を忘れて眠りなさい。

幸せな夢の中で生きればいい。夢の中で、女神たちが待っている。

 

 

「そして、エグゼとは、数字の『10』を現す言葉でもある」

 

 

9+1=10

 

 

「助けても助けても減らない患者。助けたのに自殺する患者。少しでも不備があれば訴えると言うモンスター」

 

 

いけないな。そんなのは。

なによりも、救われない人間。

 

 

「人は全ての苦痛から解放され、電脳世界で自尊心を磨けばいい」

 

 

それを叶えるのは、ドクターの使命だ。

 

 

「リボルくんは死を以ってして娘に救いを与えようとした。しかしそれは違う。死は終わりであって、救いではない」

 

 

世界を作るために、より多くのバグをつくり、世界に変化と衝撃を与える。

その為に、夢で見たあのドライバーを真似て作った。

 

 

「カウントダウンをゼロにする事が救済なのではなく、ゼロに至るまでの過程にどれだけ幸福な幻と夢を与えられるかだ」

 

 

女神達にいろいろな表情を出し、世界を作るファクターを生み出すマスクドライバー。

天才外科医が使っていたのを模したブレイブドライバー。

闇医者が使っていたのを模したスナイプドライバー。

軽い調子の監察医が使っていたのを模したレーザードライバー。

そして、大切な事を教えてくれた男が使っていたのを模したエグゼドライバー。

 

 

「そうだ、人は幸福なる『幻夢』の中で生きていけばいい。終わりがくる、その(とき)までね」

 

 

両手を広げるゲンム。

我李奈もまた、USBのような道具を取り出して起動させた。

 

 

『グラファイト!』

 

 

それ、"ガイアメモリ"を首に突き刺し、我李奈はグラファイトに変身する。

 

 

「そしてそれを与えるのは自尊心の獲得。分かりやすいのが恋と愛だ。それを提供する事が、救えなかった私の使命なんだよ」

 

 

仮想世界で(アイ)玩具(ドール)に愛されろ。

永遠の夢の中で、幸せであり続けろ。愛されるから、愛せるから、自己顕示欲は確実に満たされる。お前の価値は、ミューズが証明してくれる。

死ぬまでな。

 

 

「それが――、究極の終末医療、"エグゼイド"のあるべき姿だ」

 

 

Extreme(究極の)Aid(救助)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

EX-AID

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実際の人間をゲームの中にいれ、永久に愛し、愛される事を続ける」

 

 

それを患者に提供する。

 

 

「さて、今回集めたデータは次に活用させてもらう。デバックされた次の世界で、また新しいデータを収集するよ」

 

 

アポロンを起動させるゲンム。

眩い光が世界を包む。バグを使用して世界を作る。しかしバグが増えれば世界はメチャクチャになる。

それはいけない。だからデータのバックアップを取った上で、世界を終わらせ、また新しい世界でよりリアルな世界の創造を目論む。

 

 

「ゼロデイの始まりだ。石神くん達とは残念ながらココでお別れになる!」

 

 

その時、エムたちは紛れも無い、絶望の表情を浮べていた。

 

 

「次はそうだな……、石神エルにしようか。もう少し好戦的な性格にしてみるのもいいかもしれない」

 

 

ゲンムは、穂乃果を見た。

 

 

「そういうわけだ。エルくんもキミの幼馴染として設定するから、ぜひ仲良くしてあげてくれ」

 

 

あぁ、と言っても記憶は消させてもらうから、別に覚えなくてもいいけれど。

 

 

「では、お大事に」

 

 

消えるゲンムとグラファイト。一方で天に昇るアポロン。

 

光が世界を包んだ。

 

崩落の日が始まる。

 

 

世界は、ゼロになるのだ。

 

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