マスクドライバーエグゼイド! アポロンの獏   作:ホシボシ

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一応と今回で本編ラストでございます。

そして一番長い(´・ω・)

そしてここに来て作風変わります。
ライダー詳しくない人いたらゴメン( ;´・ω・`)

まあ細かい事はきにしなはんな! 全てを感じてくれ!
そう、ひとっ走り付き合ってくだされな( ^ω^ )



最終話『??? ? ???????』

 

 

これまでの――、ディケイドは!

 

『ムネモシュネの件について、財団Xがまだ動いているらしい』

 

『あれは俺達が破壊したはずだが……?』

 

『欠片を回収されたんだ。もちろん修復したとしても以前のような脅威になるとは考えにくいけれど……、放っては置けないだろう?』

 

『おまけに向こうは世界を移動する力を持ってる。ましてや仮想世界でも造られれば俺達じゃどうしようもできねぇ』

 

『観測者の力を借りて、世界座標は割り出したよ』

 

『おのれディケイドぉおおおおおおおおッ!!』

 

『あ? なんだ? なんか窓の外がうるせぇな』

 

『気にするな。それで、俺に動けと? まさか便利屋から依頼されるとはな』

 

『あのな、こればっかりは仕方な――、おいちょっと待て! 便利屋じゃねぇ、探ッ偵ッだッ!』

 

『それに、少し面倒な事が起こっているらしい。キミのせいで』

 

『……どういう事だ?』

 

『さあ、どういう事だろうねぇ』

 

 

 

 

 

 

………

 

 

 

 

 

「……ハァ」

 

 

混乱が辺りを包んでいる。

それを巻き起こした張本人であるディケイドは、ゆっくりと深呼吸を行い、辺りを見回す。

倒れているエム、戸惑う穂乃果、グラファイト、ゲンム――……。

 

 

「さっぱり分からん」

 

 

すると未だに空に浮かぶ魔法陣から一冊の本が落ちてきた。

それはディケイドの前に落ちると、同時に通話マシン、『ケータッチ』を鳴らす。ディケイドはそれを取ると、会話を開始した。

 

 

『やあディケイド。無事にゲームの中に入れたみたいだね。さすがのキミでも混乱すると思って、今まで起こった事を纏めておいたよ』

 

「なるほど。助かる」

 

 

ディケイドは落ちた本をつかみ取ると、パラパラパラと確認。300ページほどある本を4秒ほどで閉じると、そのまま投げ捨てる。

 

 

「だいたい分かった」

 

『絶対ウソ。絶対ウソだ。絶対ウソだよ。キミは読んでない。絶対まともに読んでない。聞いてくれよ翔太郎、彼は絶対に読んでないぞ! ディケイド、君は絶対に読んでな――』

 

 

ケータッチの通話を終了させて、しまう。

 

 

「ちゃんと読んださ。目次だけな」

 

 

全八章での構成。

エグゼイドライバー、ズリエルの嘲笑、勇者の権、虚像のメタトロン、涙、血まみれのイデオ、ライバーライダーによろしく。

そして、アポロンの獏。中身も少しだけ読んだ。三秒ほどだが。

 

 

「ここまでだ、雷山クロト。アポロンは俺が破壊する」

 

「……キミは?」

 

「破壊者さ。ただの」

 

 

ライドブッカーと言う剣を抜き、歩き出すディケイド。

一瞬エムと目があったような――、気がする。仮面を付けているからよく分からない。

しかしそこで銃声。ディケイドの足元に火花が散り、制止させる。

どうやらグラファイトと大事していた青年、海東(かいとう)大樹(だいき)が持っていた銃を使ったようだ。

 

 

「おいおい士。やめてくれよ。こんなに素晴らしいお宝を破壊するなんて、どうかしてる」

 

「お前の脳みそよりはマシだろ」

 

 

呆れた様に首を振るディケイド。

それを見て海東は嬉しそうに笑った。

 

 

「酷いなぁ。まあとにかく、コレは僕が頂くから。邪魔はしないでくれたまえ」

 

 

その前に、と、海東は銃口を再びグラファイトに向ける。

 

 

「キミのライドゲートを頂くよ」

 

「貴様ッ! 既に奪っておいてよくもまあ!」

 

「確かに一度は奪ったけど、キミがしつこい追いかけてくるせいで落としちゃってね」

 

 

世界を移動する事ができる台座。

仮想世界ではバグとして認識されているようで、目視でしか探す事ができなかった。

まさか虎太郎が持っているとは思わなかった。どうやら海東とグラファイトがもみ合っているときに、矢澤家のベランダに落ちてしまったらしい。

 

 

「今度こそ、僕が頂く」『カメンライド――』

 

 

銃を展開させ、海東は一枚のカードを装填した。

そして銃――、ディエンドライバーを真上に向けると、引き金をひく。

 

 

「変身!」『ディッ! エーンドッッ!!』

 

 

装甲に包まれる海東。銃からはシアンのプレートが発射され、そのまま仮面に突き刺さっていく。

銃声が響くと、装甲にもシアンが行き渡り、ディエンドと呼ばれる姿に変わった。

マスクドライバー? 一瞬エム達はそう思ったが、すぐに違う事を察する。

そのようなレベルではない。そのような領域ではないのだ。

 

 

「最近よくニュースで、美術館や博物館の展示物が盗まれる事件が取り上げられていた」

 

「海東、お前そんな事してたのか。人の物を取るのは泥棒だぞ」

 

「僕は泥棒じゃない。トレジャーハンターさ。それに、あんな物はただの暇つぶしだよ」

 

「?」

 

「どうせこの世界はデータの集合体。存在しているのは全てデータのフェイク、お宝なんて盗んでも、すぐに消え去る」

 

「その通り。だからこそ異物は排除しなければならない」

 

 

ゲームマスターであるクロトはもちろん海東の存在を把握していた。

一方でそのバグがただのバグではないことも分かっている。世界を超える力があると言う事は、他の世界から何らの影響を受けるかもしれないという事だ。

事実、クロトは穂乃果達が住んでいた世界とは別の世界からやって来た。そういう事がこれからも少なくない頻度で起こるかもしれないというのは頭の中にあった。

 

そして今、目の前にはそのディエンド達が立っている。

他世界からの侵略者とでも言えばいいか。それは当然ゲンムにとっては喜ばしくない存在だ。

 

 

「それでも私は、私の信念を貫く!」【INFECTION!】

 

 

バグヴァイザーを取り出すと、データを入力し、ウイルスを散布させる。

 

 

『レッツゲーム! バッドゲーム! デッドゲーム! ワッチャネーム!?』

 

 

ウイルスたちは一箇所に収束すると、人型のシルエットを作り、直後はじけた。

 

 

【The・BAGSTER――……!】

 

 

現われたのは三体のヴィラン。

いや、バグスターウイルス。

 

 

「フフフ……!」

 

 

ソルティ、帽子のデザインが少し変わっている。

 

 

「フッ!」

 

 

アランブラ。顔を覆うフードが追加されていた。

 

 

「ムゥンッ!」

 

 

リボル。頭部に追加パーツがついていた。

 

 

「ソルティは破壊者を、リボルはディエンドを潰せ。アランブラは――」

 

 

振り返るゲンム。

その視線は、ミューズを捉えていた。

 

 

「人質をつくろうか」

 

「ククク! いいだろう!」

 

 

杖を振るうと、アランブラの姿が消えて穂乃果達の前に現れる。ワープだ。

助けなければ! 手に力を込めるエムたち。しかしその想いとは裏腹に、既に立ち上がる力すら残されていない。

 

 

「んん!?」

 

 

しかしそこでエンジン音。

すると一台のバイクが飛び出し、アランブラの視界にフェードイン。そのまま轢き跳ばすと、華麗に着地を決める。

 

 

「ぐぉぉお!」

 

 

地面を転がるアランブラ。

バイクに乗っていたのは二人だった。後ろに乗っていた少女は、バイクから飛び降りると、穂乃果達のほうへと向かっていく。

 

 

「大丈夫ですか! 怪我はありませんか!?」

 

「は、はい! あなたは――ッ」

 

「私は(ひかり)夏海(なつみ)です! とにかく今はココから離れてッ!」

 

「え? あ――ッ」

 

 

促されるままに夏海に連れられてディケイドから、エム達から離れていくミューズ。

一方でバイクから降りた青年はヘルメットを投げ捨てると、両手の掌を腰へかざした。すると光が迸り、青年の腰にベルトが装備される。

左手を右腰につけ、小指と薬指を折った右手を左斜め上に強く突き出す。

そのまま右腕を左から右に平行移動。左手も同じくスライドさせて左腰へ。

 

 

「変身ッ!」

 

 

右手を左手の上に置いて押し込む。

するとベルトが回転を始め、青年の――、小野寺(おのでら)ユウスケの体が赤い装甲に包まれた。

 

 

「フッ、ハァア……ッ!」

 

 

拳をグッと握り締め、ファイティングポーズを取る。

戦士の名前はクウガ。地面を蹴ると、そのまま前方に跳び、今まさに立ち上がったアランブラを殴りつける。

 

 

「うぉお!」

 

 

その勢いのまま一緒に倒れるクウガ。スピードを利用してアランブラをさらに投げ飛ばした。

 

 

「グッ! モ・エール!」

 

「わ! な、なんだぁ!?」

 

 

突如足元に広がった魔法陣。嫌な予感がする。反射的に地面を転がるクウガ。すると直後魔法陣から炎が噴き出した。

 

 

「わ、あッぶね! あちちち!」

 

 

一度目は回避できたものの、すぐに地面に広がっていく無数の魔法陣。

 

 

「回避できるものでは無いぞ! さあ、黒焦げになれ!」

 

「冗談じゃない! 超変身!」

 

 

地面を蹴るクウガ。すると赤い装甲が青く染まる。

驚くべきはその跳躍力だ。一つのジャンプで魔法陣を全て飛び越え、巻き上がる炎さえも届かぬ位置まで上昇。そしてアランブラの背後に着地する。

 

 

「お、おぉ!?」

 

 

焦ったように杖を振るうアランブラ。

するとクウガはその杖をつかみ取り、まさに流水のような動きで絡め取る。

すると光が発生。クウガの手に移動したアランブラの杖が、光と共に形を変えたのだ。

 

 

「ハァアア!」

 

 

クウガは周囲の物を自分の武器に変える事ができる。

アランブラの武器を『ドラゴンロッド』へと変化させると、ロッドを存分に振るい、シャンシャンと音を鳴らしながら胴体へ打ち込んでいく。

 

 

「チィイ! キ・エール!」

 

「え? って、うわッ!」

 

 

透明になるアランブラ。ロッドが空を切り、すぐに周囲を確認するものの、姿を捉える事はできない。

するとクウガの背中から火花が散る。どうやらアランブラは腕力を強化させて肉弾戦に移行したらしい。

 

ならば、クウガは地面を転がると再び超変身。青い装甲が緑に染まり、呼吸を落ち着ける。

ペガサスフォーム、ありとあらゆる感覚が研ぎ澄まされ、クウガは虚空を見回した。

 

 

「―――」

 

 

耳が足音を拾った。目が微妙な空間の歪みを捉えた。何かが迫る感覚がする。

それらを全てつなぎ合わせると――

 

 

「ハッ!」

 

「ッ! 何ッ! 馬鹿な!!」

 

 

拳を受け止めるクウガ。

右斜め後ろから奇襲を仕掛けたアランブラは思わず声を上げてしまった。

いくら透明になろうとも足音や気配が消えるわけではない。

クウガはアランブラの腕を弾くと、フックで怯ませ、その腹部に連続で拳を打ち込んでいく。

そしてフィニッシュは蹴り上げ、アランブラはダメージで実体化し、地面に墜落した。

 

 

「ぐぅうッ! おのれぇえ!!」

 

 

アランブラ掌から光弾を連続で発射。

 

 

「超変身!」

 

 

重厚な電子音が響くと、クウガが紫色の鎧に包まれた。

タイタンフォーム。高い防御力を持つ鎧は光弾を次々に弾きとばし無効化していく。

 

 

「こうなれば――ッ、我が最大の魔法! クダケ・チールにて消し飛べェエ!!」

 

 

両手を上に上げるアランブラ。すると巨大な光球が出現し、凄まじいエネルギーを放出する。

 

 

「その鎧では防げないぞ!」

 

「!」

 

「イェアアアア!!」

 

 

アランブラは大きく振りかぶり、それを投げ飛ばす。

クウガは避けない、避けられないのか、避けなかったのか。とにかく光球はクウガに直撃すると凄まじい爆発を巻き起こした。

 

 

「ククク! これで終わ――」

 

 

しかしその時だった。まるで映像を巻き戻したかのように爆発が収縮していく。

まさに吸収と言った方がいいのか。巻き起こる激しいスパーク。雷が迸り、爆炎から一つのシルエットが浮かび上がる。

 

 

「な、なんだッ!」

 

 

凄まじい力の波動を感じ、思わず後ずさっていくアランブラ。

一方でクウガ・ライジングアルティメットは、左手に炎を宿すと、すくい上げるようにして振るった。

すると地面を伝う爆炎。地を這う紅は一瞬でアランブラに到達すると、その身に直撃。

 

 

「グアァアアアアア!」

 

 

凄まじい爆発を巻き起こして塵にしてみせる。

 

 

「ふぅ、なんとかなったな」

 

 

一方コチラはディケイド。

アームを振り回すソルティの攻撃をいなしながら自身も剣を振るって火花を散らしていく。

 

 

「くらえェエッ!」

 

 

隙を見たか、ソルティがアームから大量の電撃を放出する。

縦横無尽に辺りに散らばる電撃、ディケイドは剣を盾にしていたが、防ぎきれるものではない。体の至る所に命中していき、舌打ちを零しながら後退していく。

 

 

 

「さて、だったら――」

 

 

カードを抜き取る。

 

 

「新しい力、使ってみるか!」『カメンライド――』

 

 

ディケイドはドライバーを展開し、カードを放り投げる。

そして地面を蹴って走り出した。一方で電子音と共にディケイドライバーからオレンジと黒を基調としたパーカーが射出された。

 

 

「変身!」『ゴースト!』

 

 

パーカーがディケイドにかぶさると、その姿が変化。

マッシブな体型に一本角が特徴的な『ゴースト』と呼ばれる形態に変身する。

ゴーストとは、それ即ち幽霊であり、その名の通り、地面を蹴ったディケイドはオレンジ色に発光しながら空中を不規則な動きで飛びまわる。

まさにゴーストを攻撃するようにすり抜けていく電撃。一方でディケイドはライドブッカーを剣から銃に変えると、ソルティの周りを飛びまわりながら銃弾を浴びせていく。

 

 

「おのれちょこざいなァ! こうなったら私の塩で貴様を清めてやろう!」

 

「おぉ、そりゃこわい」『フォームライド』『ゴースト! サンゾウ!』

 

 

着地と同時に新たなるパーカーを着込むディケイド。

西遊記に登場するお坊さん、三蔵法師をイメージしているようだ。

ディケイドは流れるような手さばきで一枚のカードを抜き取ると、再びドライバーの中に装填していく。

 

 

『アタックライド』『サル! ブタ! カッパ!』

 

 

ディケイドから文字通りサルとブタとカッパを模した兵士が出現、特徴的な鳴き声を挙げてソルティに向かっていく。

 

 

「む! なんだ貴様らは! うわぁあ!」

 

 

アクロバティックな動きでソルティを翻弄していく三体。

ディケイドはそれを確認すると、別のカードを装填する。

 

 

「変身」『カメンライド』『ウィザード!』

 

 

パンパンと手を叩き合わせる。その後、掌を前に出すとそこへ赤い魔法陣が出現。

魔法陣はひとりでに移動し、ディケイドを通り過ぎると、その装甲を『ウィザード』と呼ばれるものに変える。

力は完全に分離されているのか、ディケイドの形態が変わってもサルブタカッパは消えていない。三体がソルティを押さえている間に、ディケイドはさらなるカードを。

 

 

『フォームライド』『ウィザード! ウォータードラゴン!』

 

 

竜の咆哮が聞こえると姿が変化。青いローブを纏った強化形態に。

 

 

『アタックライド』『ドラゴタイマー!』

 

 

タイマーがついた腕輪が装備され、ディケイドは素早くそれを発動させていく。

 

 

『セットアップ! スタート!』『フレイムドラゴン!』

 

 

赤い魔法陣から現在のディケイドと色だけ違う分身が出現。

タイマーの針が赤から青を通り抜け、さらに緑に入る。

 

 

『ハリケーンドラゴン!』

 

『ランドドラゴン!』

 

 

あっという間にディケイドの周りに三人の分身体が出現する。

 

 

「ショータイムと行こうぜ!」『ファイナルアタックライド』『ウィウィウィウィザード!』

 

 

ライドブッカーを剣に変えて刃をなぞる。

同時に走り出す分身たち。するとサルブタカッパ達が煙に変わり、ディケイドの分身達に吸い込まれていった。

 

サルの力を得たフレイムドラゴンは引っかくように剣を振るう。

赤い斬撃がソルティに刻まれ、悲鳴が上がった。

さらにブタの力を得たランドドラゴンも飛び込むように黄色い閃光を刻む。

そしてカッパの力を得たハリケーンドラゴンもジャンプ切りでソルティの背中を切った。

 

 

「ヤァアアアアアアア!!」

 

「ぐあぁああああああああッッ!!」

 

 

そして最後はディケイドがライドブッカーで青い一閃を決める。

四色の残痕が刻まれたソルティは、エネルギーを撒き散らしながらアームを天に掲げ、仰向けに倒れる。直後爆散。

 

 

「ま、余裕だったな」

 

 

ディケイドはそれを確認すると、分身を消滅させ、ウィザードの変身を解除してディケイドへと戻った。

 

 

「フフフッ!」

 

 

つま先を地面にトントンと打ちつけたディエンドは、直後高速で移動を開始する。

リボルが放つ無数の弾丸を回避していきながらディエンドは裏拳をリボルに打ち込み怯ませる。

 

 

「遅いね!」

 

「グッ!」

 

 

銃弾を放つリボルだが――、既にそこにディエンドの姿はない。

 

 

「どこを見ている!」『カメンライド――』『オウジャ!』

 

 

背後に回り、『王蛇』と呼ばれる戦士を召喚。

紫色のコブラをイメージした戦士は唸り声を上げてサーベルをリボルに打ちつける。

火花が散り、後退していくリボルと、蛇のような唸り声をあげて走っていく王蛇。

さらにディエンドは二枚のカードを銃に装填し、引き金をひく。

 

 

「行け」『カメンライド』『ドレイク!』『アクセル!』

 

 

トンボをイメージした戦士と、バイクをイメージした赤い戦士がリボルに向かっていく。

 

 

「グアァアアアア!」

 

「フフフ」

 

 

サーベルを無茶苦茶に打ちつける王蛇。

高速移動で周囲を駆け巡りながら銃弾を浴びせていくドレイク。

キュルキュルとタイヤが擦れる音を響かせながら切りまくっているアクセル。

まさにリンチである。リボルバグスターも何もできずに悲鳴を上げて吹き飛んでいった。

一方でそれを腕を組んで観察しているディエンド。頃合と見たか、カードホルダーから一枚のカードを抜き取ると、それを銃に装填した。

 

 

『アタックライド』『クロスアタック!』

 

 

カードを発動させると、一瞬発光する三体の戦士。

一番初めに動いたのは王蛇だった。倒れるリボルに向かって両手を広げながら走ると、その背後に巨大なコブラが出現する。

 

 

『ファイナルベント』

 

 

舞い上がる王蛇。すると強力な酸を纏った連続蹴りが放たれた。

ベノクラッシュ。立ち上がったリボルが一番初めに見たのは王蛇の『足裏』である。

気づいた時にはもう遅い。一発、クリーンヒット、二発目で体が浮いた。三発目で意識が飛び、四発目で終わりを察する。

そして五発目の蹴りでリボルは後方に吹き飛んだ。

 

 

『エンジン!』『マキシマムドライブ!』

 

 

変形し、文字通りバイクに変わるアクセル。

凄まじい加速力で一瞬でトップスピードに到達する。

さらに特筆するべきはその背にドレイクを乗せていると言う点だ。銃を構えるドレイク、その銃口に光が収束していく。

 

 

『Rider Shooting!』

 

 

アクセルのスピードは放物線を描いて飛んでいくリボルを上回った。

そしてその墜落地点に先回りする。一方で銃口を天に向けるドレイク。つまり、リボルが降ってくる場所の先にあるのが銃の――、口。

 

 

「ガァアアア!」

 

 

引き金をひくドレイク。光弾が発射され、リボルを打ち上げる形で空に昇っていく

そして小さくなった所で爆散。空に小さな花火が一つ生まれる。

さて、ほぼ同時に消え去った三体のバグスター。残骸のデータ痕と、ウイルスの破片が宙に漂う。それを見ながらゲンムは小さく息を吐いた。

 

 

「素晴らしい力だ。ぜひ研究したいところだよ」

 

 

他世界の可能性には震えるばかりだ。そして存在していると言う事は、アポロンにて再現が可能ということになる。

常識がある。現実はは人は手から炎を出せない。人は自らの力で空は飛べない。しかし、仮想世界ならば別だ。

一方で並び立つディケイド、ディエンド、クウガ。

 

 

「士、どういう状況だコレ?」

 

「だいだい分かれ。とにかく今はアイツを倒してアポロンを破壊する」

 

「だから言っただろ。このお宝を破壊するなんて――」

 

 

するとそこで、三人とゲンムたちの間に灰色のオーロラが出現する。

 

 

「いい加減にしてくださいディケイド」

 

「!」

 

「また、新たな世界を巻き込むつもりですか?」

 

 

オーロラから一人の青年が姿を見せる。茶色い髪、白い服に白いマフラーをなびかせていた。

 

 

「やれやれ、また新しいバグが。今日は忙しい」

 

(灰色のオーロラ。噂には聞いていたが……)

 

 

うんざりしたように首を振るゲンムと、怯んだように後ろへ下がるグラファイト。

一方で現われた青年、(くれない)(わたる)もまた、うんざりしたようにディケイド達を睨んでいた。

 

 

「言ったでしょう。世界を破壊するならばともかく、守るなどと」

 

「いけないのか?」

 

「もちろんです。既に貴方が関わりを持ってしまったことで、この世界(ものがたり)が侵食されてしまった。そして貴方はこの世界を破壊する気がない」

 

 

周囲を見回す渡。

夏海の後ろにいるミューズを見ると、表情はより険しくなる。

 

 

「あなたがいる事で、彼女達のような被害者が生まれてしまったとは思いませんか?」

 

「酷いな。俺でも傷つくぞ」

 

「心にもない事を……」

 

 

軽い様子のディケイドに渡は鼻を鳴らす。

 

 

「それに、エグゼイドにはまだ物語がありません。完結していない本に、あなたは落書きをしようとしている。それは許されないんですよ」

 

「おいおい、ちょっと待て。お前がダブル達に肩入れしたから俺はココに来たんだぞ」

 

「たしかに彼らは貴方にコンタクトを取ったようですが、僕はそのつもりで情報を与えたのではありません。アポロンが作り出した仮想世界の座標を割り出してもらう、ただそれだけの理由です」

 

「俺達くらいだろ。ゲームのなかに入れるのなんて」

 

「……言ったでしょう? エグゼイドにはまだ物語がない。余計な真似をされては困るんです」

 

 

だからこそ、この世界はエグゼイドが完結させなければならない。

 

 

「僕が介入を許します」

 

「エグゼイド? あいつらか?」

 

 

エム達を見るディケイド。

首を振り、指を鳴らす渡。すると倒れているエム達の少し離れた前方にオーロラが現れた。

 

 

「アレはエグゼイドではありません。フェイクの種。ただの影です」

 

 

だからこそ、連れて来た。

 

 

「!」

 

 

オーロラから四つのシルエットが現われた。

そして消え去るオーロラ。露になる来訪者。それは白衣を着た三人のドクターと、ジャケットを着た男であった。

 

 

「説明の通りです。頼みましたよ」

 

 

渡は、黄色いシャツに赤いズボン、その上に白衣の青年に声を掛けた。

 

 

宝生(ほうじょう)永夢(えむ)

 

 

そして水色のシャツにネクタイ。その上に白衣を着た男を見る。

 

 

(かがみ)飛彩(ひいろ)

 

 

髪の一部が白く染まった男を見る。

 

 

花家(はなや)大我(たいが)

 

 

アロハシャツの上にジャケットを羽織り、サングラスをつけている男を見る。

 

 

九条(くじょう)貴利矢(きりや)

 

 

四人の男達は横並びになると、そこで全てのオーロラが消滅した。

 

 

「ッ! お前達は!!」

 

 

そして、永夢達を見たゲンムは明らかにその様子を変える。

無理もない、ゲンム――、雷山クロトがずっと夢に見ていた光景。

エックスレコードの中で見たドクター達がそこにはいたのだから。

 

 

「彼らが本物のエグゼイドです」

 

 

渡は強く、そう言いはなった。

 

 

 

 

 

 

 

「――っ」

 

 

遠くに見える背中を見つめながら、エムは崩れ落ちた。

腕が透けている。先程まではかろうじて皮膚の色を強く確認できたが、今はハッキリと向こうの景色が確認できる。

既にゲンムにより構成データのほとんどが引き剥がされたのだろう。ジワリジワリと解離していくウイルスたち。

その中で目まぐるしく変わっていく展開。もはや疎外感を覚える事すらない。それは先程の台詞で決定的になった。

 

そうだ、全ては――、夢だった。

いつか、モータスに口にした言葉。夢から覚める時間がきたのだ。

エムはニヤリと笑い、ゆっくりと目を閉じた。

意識がゆっくりと沈んでいく。

 

 

「いいのか?」

 

「!」

 

 

声が間近に聞こえた。エムが目を開けると、そこにはカメラを持った青年が立っていた。

世界がスローに変わる。青年は持っていたカメラを使い、倒れているエム達を撮影していく。

 

 

「あなたは……」

 

門矢(かどや)(つかさ)

 

「――ッ」

 

 

戸惑うエムに、士はもう一度言葉を続ける。

 

 

「いいのか? これは――、お前の物語だろう?」

 

 

士はエムの次にヒイロを見る。

 

 

「お前の――」

 

 

次にタイガを見る。

 

 

「お前の――」

 

 

そして、キリヤを見る。

 

 

「お前のだ」

 

 

そこでカメラから出てきた写真を見る。

 

 

「ボヤボヤしてると、あいつ等に取られちまうぞ?」

 

 

他に一切の音もない。

 

 

「ああいや、このままなら俺が取る――、壊すのか」

 

 

士の声が脳に響いた。

 

 

「――何が問題なんですか?」

 

「?」

 

「全部コレでいい。だよな、皆」

 

 

後ろを見るエム。ヒイロも、タイガも、キリヤも、些細な差はあれど、皆同じように透けている。

それはまもなく消滅する事を意味していた。いや、アポロンを破壊しても消滅する。遅かれ速かれの違いだろう。この『問題』を終わらせるということ。

 

いや、違う。もっと――、もっと根本的な問題。

穂乃果達を助けるには、穂乃果達が安心して暮らすには、アポロンを破壊する。

だったら、それを達成すれば後はどうでもいい。それが唯一の理由だった。

 

 

「全部、終わるじゃないか」

 

 

正直今も良く分かっていない。けれど、それで良い。

よく分からないピンクの戦士が、自分たちよりもずっと前からクロト達の企みに気づいていて――

 

 

「マゼンタだ」

 

「あぁ、あの……、ごめんなさい」

 

 

それで、自分達は『繋ぎ』だった。

でも、それで良いじゃないか。自分達はデータの塊だった。ただの夢の一部だった。

まもなく消えるけど、全部なかった事になるけど、必死に戦ったこともウソになるけど、生まれた意味も無かったけど。

今――、こうして向こうには『本物』たちが立っているんだ。

 

 

「何が問題なんですか……? ほら、全部――ッ、うまくいってる」

 

「………」

 

「おれ達はただのデータ。もうすぐ消える。それだけですよ」

 

「確かに、お前達はカラッポかもな」

 

 

撮影した写真を投げる士。エムの前に刺さったソレ。

写真には、"何も写っていなかった"。それを見て乾いた笑いを浮べるエム、士はさらにヒイロ達を撮った写真を投げる。

もちろんそのいずれもが『無』を映していたのは言うまでもない。

エムはヘラヘラと笑ったまま写真を取ると、言い聞かせるように呟いていく。

 

 

「おれは……、エグゼイドじゃなかったんだ」

 

「………」

 

「そうさ、所詮は偽者だったんだ。でもそれでいいじゃないか。きっと今から本物があいつ等をぶっ倒してくれるんだから――」

 

写真を握り締めるエム。

そうだ、ソレでいいんだ。穂乃果ちゃんも助かるんだ。世界も救われるんだ。クロトたちも倒されるんだ。

だからそれでいいじゃないか。自分達が消えたとしても全部解決できるんだから本望じゃないか。

 

 

「だから……」

 

 

穂乃果の笑顔がフラッシュバックする。

 

 

「だから――」

 

 

皆でライブの準備をしている光景が浮かぶ。

ヨッシーくん、山岸さん、穂乃果ちゃん、海未ちゃん、ことりちゃん。

真姫ちゃん、凛ちゃん、花陽ちゃん。絢瀬先輩、東條先輩、矢澤先輩。

ぜんぶ、ぜんぶ、偽者だったけど、ミューズは本物だったから。

 

 

「だから――ッ」

 

 

笑い合う、ヒイロが、タイガが、キリヤが視えた。

 

 

「だから――……ッッ」

 

 

ソウタが。"守れなかった"男の子が見えた。

自分は何もできなかったけど、きっと士や本物である永夢なら何とかしてくれるんだろう。

もしかしたらソウタも助かるかもしれない、或いは奇跡が起こって自分達も助かるかもしれない。

 

そうだ、そうじゃないか、任せよう。

全部お願いしよう。奇跡が起こるのを待とう。自分が起きなくても、消えてしまえば全部なくなるから、それでいいじゃないか。

 

 

「それで、いいんだ……ッッ!!」

 

 

視界は濁りきっていた。

声が震える。どんなに強く、強く、堪え様としても涙がボロボロと目から溢れてきた。

 

 

「それで……、いい筈なんだ――ッッ!!」

 

 

俯くエム。そして泣いているのは彼だけではなかった。

キリヤもまたすすり泣き、ヒイロですら声は殺しているが、目の端に涙を滲ませている。

タイガは涙こそ流していなかったが、グッと、強く強く虚無が映っている写真を握り締めている。涙は流していなかったが、彼もまた泣いていたのだ。

 

悔しい。ただそれだけだった。

はじめは穂乃果たちさえ無事なら、守れればそれでいいと思っていた。

たとえ消滅しようが、その最後の瞬間まで穂乃果達のために食らいついてやろうと思っていた。

だが今ハッキリと分かった。きっと自分達は期待していたのだ。こんな理不尽な真実を突きつけられて、せめてもの抵抗に願ってしまったのだ。

 

せめて、カッコよく死にたいと。

 

なによりも心のどこかに優越感や強い自尊心はあった。

それはエグゼイドに依存する事だ。適合者に選ばれ、自分は特別だという想い。穂乃果たちのために戦える喜び。

なのに、全ては夢だった。いや、夢ですらなかった。全てはゼロ。穂乃果たちへの思いも、穂乃果たちからの思いも、そして、エグゼイドですらも。

 

もうすぐ消える。何も成せず、何もできず、何の証さえも残せずに。

それはある意味、死ぬよりも辛い事だった。穂乃果達の記憶にでも残れればまだ救いはあっただろうに。

あのね、知ってる? 私を守ってくれたヒーローがいたの。そう後世で語り継いでくれたら、きっと自分は最高にカッコいい男として消える事ができた。

それはあまりにも幸せな事だ。永遠に穂乃果の心に残り続けることが出来る優越感。しかしそんなものはまやかしだ。実際はただ巻き込まれた先で出会った偽りの記憶。

 

ただそれだけ、はいおしまい、お疲れ様でした。

下らない物語など、ゴミ箱に捨ててしまいましょう。おわり。

 

 

(そんなのは――ッ、嫌だッッ!!)

 

 

しかしだからと言ってどうなる? どうする?

なにもない。なにもできない。だからエムは俯いて涙を流した。

 

 

「………」

 

 

悔しげに肩を震わせるエムを見て、士は口を開く。

 

 

「その涙は、『本物』じゃないのか?」

 

「――え?」

 

 

顔を上げるエム。

すると別の声が聞こえた。見えたのは、前のめりになって走ってくる白衣の青年だった。

 

 

「だっ、大丈夫ですか!?」

 

 

宝生永夢はそこで『何か』に躓いて盛大にこけると、エムの真正面に頭から突っ込んでみせる。

 

 

「いッ! いづづづ!!」

 

 

立ち上がった永夢。視線が二人に集中する。

と言うよりも、飛彩たちはそこで始めて自分の後ろにエム達が倒れているのに気づいた。なにせオーロラはエム達の前に出現し、そこから永夢達が姿を見せたのだから。

 

 

「研修医、何をしている!」

 

「だってッ! この子たち、ゲーム病ですよ!」

 

 

目を見開く永夢だが、大きく手を振るう渡。

 

 

「エグゼイド! 何をしているんです! 早く変身を!」

 

「でもッ! 患者さんを見捨てるなんてできません!!」

 

「はぁ!?」

 

「早くストレスの原因を見つけて取り除かないとッ! 進行が早まってしまいます!」

 

 

思わず前のめりになる渡。何を言っているんだと表情が語っている。

一方で顎を動かす士。

 

 

「ユウスケ!!」

 

「はいはい、分かりましたよっとッ!」

 

 

全速力で駆け出すクウガ。

一直線に向かうはゲンムの前。すぐに交差する拳。クウガの胴体から火花が上がり、一方で踏みとどまるゲンム。

 

 

「かってぇ!」

 

「なるほど。良い実験データが取れる!」

 

 

走り出すゲンム。クウガとの戦闘が開始された。

さらにそこでディエンドがアンカーとワイヤーを発射。ライドゲートをキャッチすると、引き寄せてキャッチ。

すると肩を震わせるグラファイト。

 

 

「脇が甘いんだよ。落ちてるものは、すぐに拾わないと」

 

「か、返せ!!」

 

 

剣を構え走るグラファイト、ディエンドもまた抵抗に銃弾を乱射する。

その中、永夢とエムは目を合わせる。薄れいく意識、掠れる体、しかれどもエムの目には永夢の姿がハッキリと映った。

 

 

「名人、話聞いてなかったろ?」

 

「え?」

 

「ミューズって娘たち以外、人間はいないって言ってたっしょ?」

 

 

ヘラヘラと笑いながら口にする貴利矢。

 

 

「じゃあ、この子達は――」

 

「症状はほぼ同じだが、ゲーム病ではない。内臓するバグスターウイルスが剥がれ落ちているんだろう」

 

 

当然のように飛彩が語る。そもそも渡からだいたいの事情は聞いた。

アポロン、巻き込まれた穂乃果、仮想世界、石神エム、適合者。

そして、四本のドライバーと適合者。

 

 

「もう虫の息じゃねぇか。くだらねぇ」

 

 

興味なさげに鼻を鳴らす大我。いや彼だけじゃない。飛彩も貴利矢も何の事はなく踵を返し、再びゲンムを見やる。

しかしその中で、永夢だけはまだエムを見つめていた。

 

 

「見捨てるんですか……?」

 

「馬鹿を言うな。人間ならともかく、彼らはただのデータだろ? 惑わされるな研修医」

 

「でも生きてるッ!」

 

「!」

 

 

目を見開くエム。

すると、手が、そこに見えた。

宝生永夢は、石神エムに手を差し伸べた。

 

 

「そうだよね?」

 

「……!」

 

「聞こえたよ、キミの声!」

 

 

ニコリと、永夢は笑顔を向けた。

 

 

「だから悔しいんだよね?」

 

「え……?」

 

「悔しいって気持ちは、生きているから思うんだ」

 

 

気持ちは分かる。例えばずっと自分がプレイしたゲームを、ラスボスの手前で他人に奪われる事がどれほど悔しい事か。

エンディングを見せてもらえずにデータを消されて売られることがどれほど怒りを覚えることなのか、永夢にはよく分かっている。

 

なにより、声が聞こえた。

感情を押し殺して涙を堪える声が聞こえた。だから振り返った。

そしたら、零れる涙が見えたじゃないか。

 

ソレでいい。コレでいい。

エムはしきりにつぶやいていた。

ならば何故涙を流す? 納得しているなら、浮べるのは笑顔のはずだ。

 

 

「悔しいからでしょ?」

 

「それは……!」

 

「キミ、名前は?」

 

「石神エム……」

 

「エム――ッ! じゃあ適合したドライバーは――」

 

「え、エグゼイド……」

 

「凄い! ぼくと同じだ……!」

 

 

だったら丁度いいと永夢はもう一度笑う。

そして差し出した手を、より前に、よりエムに近づけた。

 

 

「一緒に行こう!」

 

「えッ!」

 

「キミが決着をつけるんだ!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

思わず周囲にいた人間の表情が歪む。

 

 

「血迷ったか研修医」

 

「ココまで来ると芸術的な馬鹿だな」

 

「………」

 

 

呆れた様に首を振る飛彩。うんざりしたような目で見ている大我。貴利矢はニヤリと口角を上げるだけ。

一方で首を振るエム。

 

 

「おれは――、もう、ダメだ。ガシャットはあるけど……! ドライバーが壊れた」

 

 

なにより立ち上がる力がない。

さらに最も難色を示す者が一人。紅渡だ。

 

 

「ふざけないでください。これ以上エグゼイドの物語を汚されるのは僕としても見過ごすワケにはいきません」

 

 

口を開いたのは士だった。

 

 

「だったらどうする? エムを消すか?」

 

「なんですって……?」

 

「宿命の鎖に縛られたまま終わるワケがない。お前が一番知ってるだろ」

 

 

そういう力だ。

 

 

「それに、何もできない無力感なら、痛いほど分かってる」

 

「………」

 

「俺もお前も」

 

 

視線を落とす士。いろいろと思うことがあるようだ。

一方で渡の脳裏に一瞬だけ過去の記憶がフラッシュバックする。抱きしめた体は、ステンドグラスのように鮮やかな色彩を纏い、砕け散った。

 

 

「酷い顔だぜ」

 

「……やめてください」

 

 

シャッターを切る士。二つの意味で歪んだ渡の顔がカメラから出てくる。

首を振る渡。永夢の事を知らないわけじゃない。性格上、ココで食い下がられてグダグダになるのは一番嫌なところだ。

ましてやふと視線を移動させれば、火花を散らして地面を転がるクウガが見えた。

あまり時間は無いか。

 

 

「一つだけ方法があります」

 

「ッ、本当ですか!」

 

「大切なのは『エグゼイド』がこの世界を終わらせる事です。ガシャットと(エム)らはその根本が同質にある。それを組み合わせればいい」

 

 

問題があるとすれば、今のエムたちは既に限界だという事。

まともに立てない人間に、ゲンムを倒せるわけが無い。

 

 

「よって、あなた方の体を使います」

 

「ぼく達の?」

 

「ええ。何か問題は?」

 

 

永夢は首を振り、もう一度エムを見た。

 

 

「キミはどうしたい?」

 

「……ッッ!!」

 

 

方法がある。それをチラ付かされたとき、エムの心に激しい炎が宿った。

なんだよ、なんなんだよお前らは。全てに対する激しい怒りが巻き上がった。

コッチは必死に今まで生きてきたんだ。いっぱい挫折して、いっぱい悩んで、それでも生きてきたんだ。

 

なのになんだよチクショウ。ふざけんなよ。お前らはデータでした? 馬鹿にしてんのか。

ウソだから消えてくれ? 何だよソレはッ! しかもディケイド? ディエンド?

知るかよ! お前らは俺が頑張ってきたものを全部壊す気かよ。

渡? 誰だよ。宝生永夢? 本物? 違うだろ。違うよな。だって、おれはココにいるんだ。

 

 

おれは、おれは――ッ、おれは――ッッッ!!

 

 

「頼む、お願いだ……!」

 

 

声を震わせ、涙を流し、それでも拭い、エムは永夢の手を取った。

 

 

「おれは偽者だ。それでも、今だけで良い……ッッ!」

 

 

涙を拭い、目に光を宿す。

 

 

「おれを、本物(エグゼイド)にしてくれ!!」

 

 

すると、永夢はニコリと笑みを浮かべたまま、確かに頷いた。

 

 

「本物も偽者もないよ。その思いが、キミの答えだよ!」

 

 

手を引きエムを立ち上がらせる永夢。

それを見て、呆れた様な表情を飛彩と大我は浮べている。

しかし一方で貴利矢はニヤついたまま歩き出すと、俯いたまま泣いているキリヤの傍にしゃがみ込む。

 

 

「どうしたよチビくん。男が泣いてちゃ格好がつかないぜ?」

 

「あ、あうぅぅ……!」

 

 

どこからかハワイアンなハンカチを取り出すと、貴利矢はキリヤの顔を少し乱暴にグシグシと拭いてみせる。

 

 

「そう。男が泣くなんて、よっぽどの事が無いとしちゃいけねぇよな?」

 

 

辛いときほど笑って見せなければならない。

相手に知られちゃ、終わりだ。最後のデットヒートで笑うのさ。そしたら相手はビビるぜ?

なんて、言ってみたり。

 

 

「どうして戦ってたんだ? 情けなく泣いてまで」

 

「い、いろいろあるよ。いろいろあります。でも――ッッ!!」

 

 

フラッシュバックする光景。

苛められていたときは辛い日々だった。もう楽しい事なんて無いと思っていた。

でも、それでも、今思い浮かぶのはエムたちと笑いあった日々だ。

 

ヒイロは優しくしてくれた。

何か問題はないかと良く声を掛けてくれた。タイガは少し怖かったけれど、なんだかんだ優しい人だと関わるうちに分かった。

エムもよく話しかけてくれて、一緒にゲームをした日もある。些細なワンシーン。誰も興味が無い部分だろう。

誰も知らない部分だろう。でも、それでも、キリヤにとっては嬉しかった。価値のある時間だった。

 

なによりも、写真部としてミューズ達に関わったときの楽しさは、今でもすぐに思い出せる。

ライブを手伝った事、みんなでご飯を食べた事。観測されていない光景も、確かにあった。

それは、全て、心の中に。

 

 

「だから、守りたかった……ッッ!」

 

 

たとえウソだと言われても、たとえ消えると言われても、それでもキリヤは一番初めにミューズを守るために駆けつけ、戦った。抗った。

 

 

「ボクが皆を守れるかもしれないって、思ったから……!」

 

「………」

 

 

その時、キリヤはサングラスを外すと、胸ポケットにかけ、そして立ち上がる。

 

 

「オーケー。自分、このチビくんに力を貸しちゃおっかな」

 

「監察医、何を言っている!」

 

「あるんだよなぁ、うん。あるのよ。男にはさ、そういうときが」

 

 

マシンから火が吹いてる。

危ないぜ? 分かってる。それでもニヤリと笑うんだ。

たとえマシンが火花を散らしても、煙を上げても、もうすぐ爆発すると分かっていても乗り続けなきゃいけないときがある。

 

 

「自分が死ぬって分かっていても。それでも命を懸けなきゃいけない時があるのよ」

 

「………」

 

 

目を細める飛彩。

するとその脚を掴まれる感覚。下を見るとヒイロがそこにいた。

 

 

「頼む――ッ、貴方が、本物のブレイブなんだろう?」

 

「お前は――」

 

「その格好。医者か。はッ、皮肉だな、俺も将来は医者を目指していた」

 

 

だがそんなものはない。未来など存在しない。

だったら黙って消えるのか? 違う。それが嫌だから足を掴んだんだろう。たとえ惨めな姿を晒そうが。

 

 

「この屈辱は、俺が生きている証だ……!」

 

「データが何を偉そうに」

 

「頼む。俺にも愛するモノがある。それを守るために、力を貸してくれ……ッ!」

 

「………」

 

 

愛。その言葉を聞いた瞬間、飛彩の脳裏に一人の女性の笑顔が浮かんだ。

 

 

「………」

 

 

少し、沈黙する。

そして、ため息を一つ。

 

 

「レプリカ。お前の存在はノーサンキューだ」

 

 

しかし、飛彩は手を差し伸べた。

 

 

「執刀医はお前だが、助手には俺がつく。情けないオペをしたら許さんぞ」

 

「ッ! すまない、感謝する」

 

 

立ち上がるヒイロ。

それを見て地面に倒れこんでいるタイガは思わず笑い声を上げる。

 

 

「なあこの流れでアンタは助けてくれねぇのか?」

 

「は? ふざけんな。テメェはそこでくたばってろ」

 

 

一蹴。呆れたようにタイガはわざとらしいため息を放つ。

 

 

「スナイプってのは捻くれた野郎ばっかりかよ」

 

「俺はさっさと帰りたいんでね。データ野郎に任せるとかありえ――」

 

「笑いのツボ」

 

「ハハハハハハ!!」

 

 

歩いてきた夏海は大我の背後に迫ると首の横を指圧してみせる。すると笑い転げる大我。

交渉条件は簡単。協力しろ。しないと押し続けるぞ。

半ば脅迫じみた内容ではあるが、呼吸も苦しくなるほどに笑い続けるのはさすがに厳しい。

結局と全てのドクターがエムたちに協力する事に。

 

 

「ぐあぁあああああッッ!!」

 

 

黄金の爆炎に塗れ空中を吹き飛ぶクウガ。

超過ダメージを受けたのか、変身が解除されてユウスケは煙を纏いながら地面を転がっていく。

すぐに立ち上がろうとするが、腕に力が入らず崩れ落ちてしまった。

 

 

「くそッ! なんて力だ……!」

 

 

切り札(ライジングアルティメット)をアランブラに使用したのがマズかったようだ。

一方でゲンムは余裕と言った様子で歩き、アーマーについた汚れを払っている。

 

 

「………」

 

 

しかしそこで足を止めた。

顔を横に向けると、そこには四人のドクターが歩いてくるのが見える。周囲にエムの姿は無い。

 

 

(消滅したか。意外と速かったな)

 

 

そしてゲンムは永夢を見た。

 

 

「宝生永夢」

 

「ッ」

 

「キミなら理解してくれると思っていた。私の医療、私のエグゼイドを」

 

 

患者に一切の苦痛を与える事なく、永遠に夢の中で幸せを与えつづける。

それは宝生永夢が目指してきた事と何が違う? 患者のストレスを消すために患者に寄り添い。

そして患者の心を救う。そうやって永夢は今まで何人もの人を助けてきたじゃないか。

 

ゲームがしたい、マリッジブルー、医者が怖い、妹が気になる。

まだある、まだまだあるぞ。会社の事、娘の事、クリスマスの事、恋人の事――……。

 

 

「悩みなど、苦痛など、無限に湧いて出てくる最大の負じゃないか」

 

 

だから全てを忘れる。

全てをウソにする。幸福もウソかもしれないが、苦痛を感じるよりはずっとマシだ。

いや、幸福は本当になる。ミューズに究極の洗脳を施し、さらにはその果てにもっと多くの人間を取り込む。

一億もいればありとあらゆる人間の好みに合わせる事ができるだろう。

 

 

「世界は山ほどある。70億を何乗すればいい? だが私は諦めない。私は全てを救う。全てを救済してみせる」

 

「その結果が、今のコレですか?」

 

「なに……?」

 

「あなたの医療には、たった一つ、大切なものが抜けています」

 

「ッ、では聞かせてもらおうか。その一つを」

 

 

永夢は頷くと、自分の服、胸の辺りを掴んだ。

 

 

「本当の笑顔です」

 

「笑顔――?」

 

「確かに、貴方の医療は人を救う事になるのかもしれません。でも、目に見えた犠牲者の上に成り立つ救いを、人はそう簡単に受け入れられますか?」

 

 

確かに現代医療でもいくつもの先駆者の活躍があってこそ発展されたものかもしれない。

しかしそれは生贄じゃない。努力だ。ましてや、医療とは即ち、それを取り除く。

つまりは元の状態に戻し、元の生活に戻してあげる事ではないのだろうか。

 

にも関わらずクロトが与えようとしている事は紛れもない妥協の道だ。確かに病に苦しむのは辛いかもしれない。

しかしそれを医者が真っ先に諦めてどうするんだ。最後の最後まで治るかもしれない確率に賭けることがドクターの役目じゃないのか?

 

なんの為に投薬がある? 何のために手術がある?

それらは全て病気を、苦痛を治そうという努力の果てにあるものだ。

クロトが目指すのは究極の終末医療。最後の最後でやむなく選ぶかもしれないものを理想とし、信念と掲げた。

 

何故だ。ありとあらゆる病を切除できるメスを開発するのではなく。

なぜ諦めるほうを進化させようとする? その破滅思考の先にあるものはなんだ? それこそ全て夢と幻じゃないか。

今も既に9人の少女が犠牲になろうとしている。未来ある若者を幽閉し、可能性を奪おうとしているじゃないか。

 

穂乃果達の両親はどうなる? 永遠に帰らない娘を待ち続けるのか?

穂乃果達の友人はどうらる? ある日突然友達がいなくなる寂しさと怖さを考えたのか?

穂乃果たちのファンはどうなる? ミューズに励まされた人々は、ミューズがいなくなった事を受け入れられるのか?

 

なにより、本人達はどうなる。

記憶を消せば良い? 洗脳すればいい? 本気で言っているのか?

なによりこれは始まりにしか過ぎない――?

 

 

「あなたは、救いを語る一方でどれだけの人を苦しめるつもりですか! それが本当にドクターのする事なんですか!!」

 

「違う! 断じて違う! それは全て救済のための痛みだ!」

 

「痛みを無くしてあげるのが、ぼく達の仕事でしょう!?」

 

「ッ!!」

 

 

永夢は、飛彩は、大我は、貴利矢は、同時に一つのドライバーを取り出し、腰に持っていく。

するとベルトが巻きつき、自動で装着が完了した。

 

 

「ッ、それは!!」

 

 

前のめりになり、ドライバーを確認するゲンム。

間違いない。文字通り、それは一人の男が夢見た力だった。

黄緑色ベースにピンクのレバーと言うのはエグゼドライバーと同じだ。しかしエグゼドライバーはエックスレコードを元にして作られた模造品。

 

まさに、これがオリジナル。

適合手術を受けたものが使用する事でドクターライダーに変身できる――

 

 

「ゲーマドライバー……ッ!」

 

 

『ダブル・マイティアクションエーックス!』

 

『ダブル・タドルクエスト!』

 

『ダブル・バン! バン! シューティング!』

 

『ダブル・爆走バイク!』

 

 

男達は一声にガシャットを起動させる。背後に広がる四つのタイトル画面。

息を呑むゲンム。ダブル? それは夢で見たガシャットとは似て非なるものだった。

クロトはエックスレコードを元にエグゼドライバー、つまりは『ライダー』と呼ばれていたシステムをまるままコピーした。それは当然ガシャットも同じである。

 

しかし永夢たちが構えたガシャットはクロトが全く知らないものだった。

特徴的なのはその見た目である。通常のガシャットよりもはるかに『分厚い』。

まるでガシャットを二つ重ね合わせたように。

 

 

「まさか……」

 

 

クロトの脳裏に『ある可能性』がよぎる。

その時、電子音を切裂く男の声が響いた。

門矢士は、語り始める。

 

 

「ある所に――、雄雄しく戦った男がいた」

 

 

男は臆病な性格だった。

それを弱さと捉えるのか、優しさと捉えるのかは別だ。

しかし男は変わろうとした。迫り来る恐怖に必死に耐え、大切なモノの為に戦ったのだ。

 

 

「ある所に人生と戦った男がいた」

 

 

男は妹を愛していた。

だからこそどこかで、幻影に取り憑かれたままで良かったと思う心があった。しかし男は幻影を殺した。自らの過ちを認めるために。

 

 

「ある所に勇敢に戦った男がいた」

 

 

見下していた人間が、実は自分よりも大きな存在だったと気づいた時から男は変わろうとしていた。だからこそ男は悩みながらも戦う道を選んだのだ。

 

 

「そして、自由のために戦う男がいた」

 

 

まもなく消え去ると分かっている。

消えたくないと思ってもいる。しかしそれでも、消えるために戦わなければならない。なによりも、それは大切なものをくれた人たちの為に。

 

 

「たとえ自分の存在が消えるとしても、それでも前に進まなければならない理由がある」

 

 

永夢達を見る士。

そして一枚のカードを構える。

 

 

「コイツ等は、それを選んだ」

 

 

ゲンムは理解する『コイツ等』。それは、永夢達を指しているのではないと。

 

 

「雷山クロト。お前は男が世界で一番カッコよくなる瞬間を知ってるか?」

 

「……ッ」

 

「大切なモノの為に、必死になって戦う時だ!」

 

「ッ、お前達は一体――、何者なんだ……!」

 

 

その存在とは何か?

 

 

士はニヤリと笑い、ディケイドライバーを展開する。

 

 

「通りすがりの――」

 

 

言葉を止め、横を見る。

ガシャットを構える飛彩、逆手に持つ大我、クルリとその場で一回転を決める貴利矢。

その時、一陣の風が吹き、永夢の髪を揺らす。すると先程までは優しげだった永夢の雰囲気が変わり、彼はニヤリと笑ってみせる。

 

 

「この世界の。ミューズの運命は! オレが――」

 

 

右手に持ったガシャットを左前に突き出す永夢。

 

 

「いやッ! オレたちが変える!!」

 

 

さらにそのまま両腕を大きく旋回。左手を開いて前に、その後ろにガシャットを構える。

 

 

「変身ッ!」

 

 

チャキっと音がする。

一瞬でガシャットの向きを変え、左手に持ちかえると、一気に下に、ドライバーへ装填する。

 

 

「変身!」

 

「変身」

 

「変――、身!」

 

 

さらに他のドクター達もガシャットをゲーマドライバーに装填。

するとエグゼドライバーと同じく、認証音声が流れた。

 

 

『ダブルガシャット!』

 

 

ドクター達を中心にして回転するキャラクターアイコン。

 

 

『レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム!』

 

「!」

 

『ワッチャネーム!?』

 

 

永夢は手を前に。

 

飛彩は横に。

 

大我は手を銃に見立てて前に。

 

貴利矢は思い切り蹴り飛ばすようにアイコンを弾いた。

 

そして、彼らは変身する。マスクドライバーに?

 

 

いや、違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マスクドライバーエグゼイド! アポロンの獏

 

 

最終話『アイム ア カメンライダー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仮面、ライダー……!」

 

 

その時、曇りかかっていた光景が全て鮮明になる。

エックスレコードの全貌。クロトは身を震わせると、直後、大声で笑い始めた。

 

 

「そうか! 仮面ライダーか! フハハッ! 思い出したぞ!」

 

 

どうやらその思いは、より加速していくようだ。

 

 

「ゲーマドライバー! 素晴らしい! そうか! 仮面ライダーか……!」

 

 

一方でレバーに手をかけるレベルワンたち。

 

 

「キリヤ! ノリノリで頼むぜぇ! 二速!」

 

「タイガ! しくじったらぶっ飛ばずぞ! 第弐戦術!」

 

「ヒイロ。これより、アポロン切除手術を開始する。術式レベル2」

 

「さあ、エム! オレと一緒にレベルアップだ! 大ッ変身!」

 

『ガッチャーン!』『レベルアーップ!』

 

 

一つ、大きな変化が現われた。

エグゼドライバーでのレベルアップは装甲が吹き飛ぶだけに終わったが、本物はそうじゃない。

ドライバーからゲートが射出され、四人はそこに飛び込んでいく。

 

同時に地面を蹴る四人。まずはエグゼイドだ。

なんとゲームエリアが展開し、周囲の景色がまるまま変わっていく。

青い空に平原のステージ。道中にはドーナッツやらマカロンやらがアイテムとして浮かんでいる。

 

 

『マイティジャンプ!』

 

 

突き出した拳に宿るエネルギーエフェクト。

 

 

『マイティキック!』

 

 

突き出した足がエネルギーを拡散する。

 

 

『マイティマイティアクション!』

 

 

装甲が弾け飛び、レベルワンの頭部からニュッと手足が生えるように出てくる。

両手両足を広げているエグゼイドは、一度体をちぢこめて、直後大きく伸びを行った。

 

 

『エーックス!!』

 

 

突き出す右手を天に突き上げ、右ひざを曲げてポーズ。

消失するゲームエリア。エグゼイドはそのまま地面に着地する。

すると一瞬で変わる世界。次はブレイブだ。

 

 

『タドルメグル!』

 

 

両手を広げて上昇していくブレイブ。

周囲には無数の宝箱や扉が出現していく。扉の向こうには違った世界。夜の摩天楼や夕暮れの世界。

 

 

『タドルメグル!』

 

 

荒野、氷河、草原。様々な世界を辿って巡る。

 

 

『タドルクエストォー!』

 

 

装甲が弾け跳ぶ。ブレイブは目の前にある扉を、両手と使って解き放つように開いた。

地面に降り立つブレイブ。すると次の瞬間、世界が夜に変わる。

夜の摩天楼。そこで飛び上がるスナイプ。同時に周囲に無数のターゲットが出現した。

 

 

『ババンバン! バンババン!』

 

 

ガシャコンマグナムを使ってそれらを破壊していくスナイプ。

そして正面のターゲットを打ち抜き、破片を吹き飛ばしながらも自身は装甲を吹き飛ばしてレベルツーへ。

 

 

『(イェア!) バンバンシューティング!』

 

 

そしてライフルモードで天を撃つと、地面に降り立った。

最後はレーザーだ。飛び上がると、そこは長い長いロード。

両手を広げて道路に降り立つと、二つのアームドユニットのタイヤを回転させて走り出す。

 

 

『バクソウ!』『ドクソウ!』『ゲキソウ!』『ボウソウ!』

 

 

無数のライバルを抜き去りながら目指すのは反りあがったジャンプ台。

 

 

『爆走バァイク!』

 

 

飛び出したレーザーの装甲が弾け飛び、持っていた二つの武器が連結。

本当のタイヤとなり、地面に着地する。

並び立つレベルツー。いや、それだけに終わらない。次の瞬間、その瞳が激しい光を放つ。

 

 

『マザルアーップ!』

 

 

それはゲンムも知らない機能であった。

 

 

『マイティマイティマイティマイティアクショーン!』

『マイティマイティマイティマイティアクショーン!』

 

 

通常、レベルツーの背中にあるレベルワンの頭部は『目』の部分が黒く染まっている。

しかし次の瞬間、レベルワンの部分にもオレンジ色の瞳がしっかりと現われた。

 

 

『タドルクェェェエストッ!』

 

 

それは他のライダーも同じだ。

 

 

『ガガンガガガン! ババンバンババン!』

 

『バン! バン! シューティング!』

 

 

皆背中の部分に目が現われていく。

 

 

『バイバイバイババーイク!』

 

『デ・バクソウ!』

 

『ロォーリンウェーイ! ライド爆走バイクゥーッ!』

 

 

再び歩き出す四人のマスクドライバー。

否――、それは。

 

 

「お前は――、誰だ?」

 

 

ゲンムが問いかける。

すると、エグゼイドが顔を上げ、答える。

 

 

「おれは、石神エム」

 

 

かつて、支配された力を自由を取り戻すために使った男がいた。

石神エム達もまた同じである。支配のエグゼドライバーを脱し、ゲーマドライバーにて同種の力を振るうのだ。

ならば、彼もまた、そうなのか。

 

 

「おれは……、仮面ライダー! 仮面ライダー・エグゼイドだ!!」

 

「ッ! やはり、そうか……!」

 

 

永夢達のガシャットにエム達を吸収させ、新たなガシャットを生み出したのだ。

そしてそれによる変身は、その主人格をエム達に移すことができる。

 

 

「………」

 

 

これは予想外にして、よくない事態であった。

エム達と言うバグの前にゲンムが圧倒的に有利でいられたのは、エム達が支配下にあると言う点だ。

 

特にマスクドライバー戦ではそれが顕著に現われていた。

四本のドライバーは全てアポロンの力によって生み出された劣化品だったからだ。

しかし今、エム達の腰にあるのはエグゼドライバーではなく、ゲーマドライバー。本物なのだから。

 

 

「ぐぅう!」

 

 

その時、端の方で戦っていたグラファイト達にも動きがでる。

グラファイトはディエンドの腹部を蹴り飛ばしてライドゲートを奪い取ると、地面を蹴って跳躍。

ゲンムの隣に着地すると、新たなるガシャットを取り出した。

 

 

「社長、ココは少し分が悪いですわ」

 

「そのようだな。ここは勝利を第一優先に考えようか」

 

 

グラファイトからガシャットを受け取るゲンム。

そしてそれを起動させる。

 

 

『マイティアクションエーックス!』

 

『タドルクエスト!』

 

『バンバンシューティング!』

 

『爆走バイク!』

 

 

浮かび上がる四つのタイトル画面。

さらにそれを合図にして上空からアポロンが降ってくる。

着地の衝撃波に怯むエグゼイド達。その隙にゲンムはそのガシャットを、アポロンへ差し込んだ。

 

 

『マイティキック!』

 

 

すると変化は起きた。横たわるアポロン。すると追加パーツが出現する。

獏だ。大きな獏の顔が生まれ、大きな腕が二つ出現する。細長いアームに球体状の関節、そして大きな『手』。

 

 

『タドルメグル!』

 

 

その両手に握られる二本の西洋剣。

一本は炎を纏わせ、一方は冷気を纏わせている。

 

 

『ババンバン!』

 

 

翼が変形、それぞれに銃口が生まれ、文字通り兵器に変わった。

 

 

『ゲキソウ!』

 

 

そして四つのタイヤが出現する。

 

 

『マドルシュッバイクゥー!』

 

 

これこそがアポロンの最終形態。

四輪走行兵器、アポロン・マドルシュバイクなのである。

 

 

「フッ!」

 

 

飛び上がるゲンム。バイクのハンドルがある操縦席に乗ると、グリップを捻り、アクセルを吹かす。

さらにグラファイトも同じように背にあった操縦席に飛び乗ると、直後激しいフラッシュが巻き起こる。

 

 

「人は 永久機関の中で無限の夢を見ていればいい。そうすれば全ての苦痛や不幸から解放されるだろう」

 

「ッ!」

 

 

思わず目を覆う一同。

するとアポロンは火を噴きながらロケットスタート。あっと言う間にエグゼイド達から距離をとる。

 

 

「なッ! 逃げるのか!」

 

「おいおい! ココまで来てかよ!」

 

 

しかしこれはエグゼイド達には一番『利く』方法であった。

なにせいくら永夢達の力を借りようとも、現在の主は石神エム、まもなく消滅する存在にはかわりない。

ゲーマドライバーの力にて多少の余裕はできているが、このまま逃げ続けられれば終わりだ。

エムは消滅し、世界はゼロになり、アポロンに破壊される。

そうすると、おそらくゲンムたちは一旦仮想世界の外に出られるのだろう。

 

そうするとディケイドたちもまずい。

あくまでも仮想世界に降り立ったため、現実世界の座標が分からない。

おそらく崩壊する世界に巻き込まれるので、逃げなければならない。そうするとまた振り出しに戻るのだ。

 

 

「それでも、決めるのはお前らだ。なあ? そうだろ? エグゼイド」

 

 

ディケイドが挑発するように首を傾げる。

 

 

「ああ! キリヤくん!」

 

「うん! 乗って! 石神先輩!」

 

 

なにより、奥に引っ込んだのか、会話でのコンタクトは取れないが、『内』にいる永夢からのエールが聞こえた。

だからこそエグゼイドは諦めない。地面を蹴ると、レーザーの上に飛び乗り、同じくアクセルを吹かす。

 

 

「チッ! オレ達はどうすんだよ!」

 

「足がない以上、やはりエナジーアイテムに頼るしかないか……!」

 

 

すると首を振るディケイド。

 

 

「なに言ってんだ。ライダーなんだから。ほら、ユウスケ」

 

「?」

 

 

頷くユウスケ。

再びクウガに変身すると、近くに停めてあったトライチェイサーを持ってくる。

 

 

『ファイナルフォームライド』『ククククウガ!』

 

「ちょっとくすぐったいぞ」

 

「お――ッ、と……!」

 

 

クウガの背中に手を突っ込み、展開させる。

するとクウガが巨大なクワガタの様なマシンに変わった。

さらに展開するとトライチェイサーと合体。厚い装甲と大きな角が特徴的な、『トライゴウラム』へと変わり、自動操縦でスナイプの前にやって来る。

 

 

『乗ってくれ! えぇっと……』

 

「鋼タイガ。スナイプだ! 感謝するぜ!」

 

 

シートに飛び乗るスナイプ。

トライゴウラムが脳信号を送り、運転方法が頭に叩き込まれる。

 

 

「海東。お前も貸してやれよ」

 

「……は? なぜ?」

 

「色合いがあってる」

 

 

ブレイブを指し示すディケイド。

 

 

「冗談はよしてくれ。せっかく手に入れた僕のマシンを何でどこの馬の骨かも分からないヤツに貸さなきゃいけないんだ」

 

「あ、無理にとは……」

 

「やれやれ、小さい野郎だな。安心しろヒイロ。こうなったら俺のマシンディケイダー(バイク)を貸してやるよ」

 

「待ちたまえ。分かった。僕のマシンディエンダーに乗るといい」

 

「は?」「は?」

 

 

ブレイブの前に、シアンブルーに染まったバイクが一台出現した。

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

「これで僕が士よりも心の広い人間だという事が証明されたね。なにより、士のシートに他の人間を座らせるのはどこか気分が悪い」

 

(((めんどくせぇ……)))

 

 

何人かが同じ事を考えている中で、ブレイブはマシンディエンダーに搭乗する。

操縦方法が脳を駆け巡り、ブレイブはハンドルをしっかりと握り締めた。

 

 

「やれやれ、まったく、なんだかゴチャゴチャしてきた。こういうのは嫌いだ」『アタックライド』『インビジブル!』

 

 

消え去るディエンド。完全に気配が消えた。どうやら飽きてしまったようだ。

一方でもう一度ため息をつくディケイド。

 

 

「さて、確認だが、いいのか?」

 

「え?」

 

「この先に進む事は、仮面ライダーになると言う事だ」

 

 

マスクドライバーの力を使うんじゃない。

ゲーマドライバー。つまり、仮面ライダーの力を使うのだ。

 

 

「呪いの称号だぞ」

 

「………」

 

 

腕を組み、目を細める渡。

エンジン音が響く。その中でエグゼイド達は沈黙した。

 

 

「エムくんッ!」

 

「!」

 

 

声がした。振り返ると、そこには心配そうに見つめてくる穂乃果が見えた。

 

 

「穂乃果ちゃん……」

 

「あのッ、わたし……!」

 

 

言葉を詰まらせる穂乃果。どんな言葉をかけていいのか分からない。

思い出を前に出そうにもそれはウソ。存在を前に出そうにもそれもウソ。

なにもかもがウソに塗れた関係だった。だがそれでも穂乃果は黙っている事ができなかった。

 

 

「行っちゃうの……?」

 

 

そしてどこか分かっている。

これが最期の会話になる事を。

 

 

「うん」

 

 

そしてこの瞬間。エグゼイドは覚悟を持った。

正直、今の今まで穂乃果達の、ミューズの存在を忘れていた人がほとんどではないのだろうか。

それもそうだ、なぜならば彼女達はなんの力もない人間。ドカンドカンと爆炎上がる戦闘に介入できる訳がない。

ましてや彼女達は巻き込まれた側であり、言ってしまえば『なんの関係もない』存在なのだ。

 

まだ多少なりとも因縁あるエムたちならばともかく、クロトと一切かかわりの無い彼女らに上げられる声といえば文句や嘆きくらいであろう。

砂上の絆、空虚な想い、それは彼女らが被害者たる証明。

 

 

「安心してくれ、穂乃果ちゃん」

 

 

だから、楽しかったとも言わない。

今までありがとうとも言わない。

 

 

「キミ達は、必ず元の世界に帰す」

 

 

ミューズらが自由であれば――

 

 

「おれ達は、それだけでいい」

 

 

理解した。エグゼイドも、ブレイブも、スナイプもレーザーも。

彼女らは何も語らなくていい。何も話さなくていい。何も関わらなくていいと。

空気であれ。ゼロになればいい。ディケイド達が――、『仮面ライダー』が前に出るたびに穂乃果達の存在が薄くなっていくのなら、それでいい。

なぜならばこんな物語、彼女達には欠片も似合わないからだ。自分達のような化け物が彼女達の光に近づけば、それだけ彼女達は汚れてしまう。

 

なにより『戦いの(こんな)物語(セカイ)』に彼女達を留めておくのは何よりも心苦しかった。

 

いくら本物であろうとも、この力の本質は『暴力』だ。

武器を持ち、相手を排除しようとする心。いくら御託を並べても、いくら大義名分を掲げても、傷つけあう事にはかわりない。

穂乃果たちは、スクールアイドルは、人々に笑顔と希望を与える存在だ。

 

そこに、『争い』など欠片もいらない。ラブライブによって流すのは汗や輝かしい涙だ。決して血や、悲しみの涙じゃないんだ。

だから、ミューズをこの仮面ライダーに塗れた世界から追い出す。

それが、エム達の覚悟だった。なによりも彼女達の笑顔を守るために戦う。

エムたちには、それだけでよかった。それがカラッポの男達が最後に視た夢なのだ。

 

 

「行こうぜ! 皆ッ!」

 

 

穂乃果達に全てを忘れてもらう。それが、最期のテイパーゲーム。

 

 

「ああ!」「おお!」「はいッ!」

 

 

ロケットスタートを決める一同。三台のバイクが一勢にスタートした。

風が吹く。穂乃果達の髪が大きく揺れた。かつてない程の無力感や虚無感が溢れ、穂乃果はその場に膝をついた。

 

それは他のメンバーも同じである。悲しいはずだ。しかし、"悲しみきれない"。

今までメンバーのためだったらどんな事でもしてみせる気持ちがあった。

メンバーが苦しめば一緒に苦しみ、泣けば一緒に涙を流す。そして嬉しい事があれば一緒に笑う。

しかしエムたちの場合は――、心にモヤモヤがかかる。

 

悲しいはずだ。しかし、悲しんでいいのか? 分からない。なにも、分かれない。

自分の気持ちさえ分からなかった。ましてや声を上げたところで自分達に何ができる?

超人的な力を持たない自分達に、何が。

 

 

「エムくん……」

 

 

祈ればいいのか? 彼らが勝つように。

勝っても負けても、彼らは消えてしまうのに。

 

 

「え?」

 

 

反射的に顔を上げる穂乃果。それは、あまりにも突然の事だった。

空中に巨大なモニタが出現したのだ。それも、いくつも。

そしてビルの窓ガラスもまた同じだった。それ自体がひとつのモニタになって映像を映し出す。

 

 

「な、なんですかこれは……!」

 

「あれって――」

 

 

モニタを指差すことり。

それは、三つの後姿だった。同時に皆の耳に届く『音』。

揺れる背中、光る紫色のライト。穂乃果にはその音――、音楽に聞き覚えがあった。

 

 

「ショッキング……、パーティ」

 

 

ドン! と、大きな衝撃が走った。

イントロが終わり、声が聞こえた。歌のタイトルが歌詞にあるため、余計に印象に残っていた。

いや、なにより、目を奪われたのはひとつの理由があってこそだ。誰もが目を見開き、釘付けになっているのは、その三人が――

 

優木あんじゅが。

 

統堂英玲奈が。

 

そして綺羅ツバサが眩しいほどの笑顔を浮かべていたからだ。

 

 

「あ、アライズ!?」

 

 

左にあんじゅ、右に英玲奈、中央にツバサ。

同時に腰を曲げて頬杖をつく特徴的なふりつけの後、ツバサは正面を向いてウインク、そして指を開いたり閉じたり。

黒い衣装に身を包み、彼女達は歌い続ける。穂乃果たちがポカンとしている中で、モニタの向こうにいるツバサ達は笑顔で歌い続ける。

 

そして、画面に向かって指をさす。

まるで自分が指されているような気がして、穂乃果はハッと我に返る。

 

 

「どうしてアライズのみんなが……」

 

「これッ、録画……?」

 

 

首を振る花陽。

 

 

「違います。髪の乱れ方が私の知っている映像とは合致しません」

 

 

他のアイドルを日々研究している花陽が言うのだ。間違いない。

それはにこも同意見であった。つまりあの映像は今までの映像を使いまわしているワケではない。

ならば録画か? いや、それも違う。なぜならばアライズの体にはノイズが掛かっていた。ライトで誤魔化しているのだろうが、よく視れば時折体も急に透ける時がある。

 

それは紛れもない。彼女達の体がバグスターウイルスに侵食されている証拠であった。

そうだ、いくら絶対王者と呼ばれるアライズとは言え、所詮はデータ。

にも関わらず、ミューズは心が殴られたような気がした。

ある者は戸惑いを。ある者は敗北感を。そしてある者は――、感動を。

 

 

「どうして……?」

 

 

どうしてこの状況で歌えるの?

根本は、それが全てであった。アライズもまた自分の身に宿る異変に気づかないわけがないだろう。

倦怠感、苦痛、そして周囲が化け物に変わっていく恐怖。等しく受けている筈だ。にも関わらず、普段と全く変わらない笑顔を浮かべて彼女達は踊っていた。歌っていた。

 

 

「これだ……」

 

「え?」

 

 

穂乃果は震えていた。

 

 

「見つけた!!」

 

 

穂乃果は踵を返すと、モニタを見上げているディケイドに駆け寄る。

 

 

「お願いします!」

 

「ん?」

 

「わたし達をあそこに連れて行ってくださいッ!」

 

 

映像から察するにあそこはUTXだろう。

ココからは少し距離がある。

 

 

「ほ、穂乃果ちゃん? どうしたの?」

 

「そうですよ穂乃果。何を突然……」

 

「あるよ、あるんだよ! あったんだよ!!」

 

「な、何が?」

 

「わたし達にもできる事が!」

 

 

それは紛れもない。あの向こうにいるアライズ達と同じだ。

 

 

「歌って踊るの! それが、わたし達スクールアイドルでしょ!?」

 

「で、ですが、穂乃果、この状況ではさすがに……」

 

「でもッ! アライズは歌ってる!」

 

 

そうだ。だから衝撃を受けた。

この状況で歌って何になる? その思い。

なんで辛いはずなのにあそこまで笑顔を浮かべられるんだ。その思い。

そんなものはただの一部だ。もっといろいろな感情や疑問がある。だが穂乃果はその答えに気づいた。だって今、自分自身が思ったことなのだから。

 

 

「わたし、今、忘れてたよ!」

 

 

アライズに全てを持っていかれた。目、耳、そして心。

なんだ? どういう事だ? それもある。そしてやっぱりアライズは凄いな、なんて思い。

それらは今の状況を忘れさせてくれた。だってあまりにもアライズはいつもどおりだったから、"いつもどおりの日々いると錯覚してしまった"。

 

 

「!」

 

 

表情が変わる海未。

思い出すのは聞こえた言葉。宝生永夢が口にした言葉だ。

 

 

「……!」

 

 

意味を理解する一同。

しかしその中で、珍しくネガティブな意見を一番初めににこが口にする。

 

 

「無理よ。こんな状況で……、いつもみたいに歌えるわけ、ないじゃない」

 

「にこちゃん。でも――ッ」

 

「わたしは、無理なのよ」

 

 

にこは、ここあを膝枕にして、頭を優しく撫でていた。

既に意識は無いのか、目を閉じて必死に呼吸しているここあ。

既に限界が近いのか、ノイズが体のいたるところに見て取れる。

 

 

「ステージに上がるくらいなら、せめて一秒でも長くこの子たちと一緒に――」

 

 

その時だった。小さな手がにこの頬に触れる。

 

 

「お姉ちゃん。歌うの……?」

 

「ここあ! ダメよ、喋っちゃ」

 

「わたし――……ね」

 

 

消え入りそうな声だった。

しかしそれでも、ここあは笑っていた。

 

 

「お姉ちゃんが…歌ってるとこ、見たいな……」

 

「!」

 

 

目を見開くにこ。

 

 

「だって、ミューズの、お姉ちゃん、は、世界で一番、かわ、いい、から」

 

「―――」

 

 

ボロボロと涙が溢れてくる。

それを見ると、心配そうにここあは表情を歪める。

 

 

「泣かないで……、お姉ちゃんが泣いてる姿は――」

 

 

似合わないよ。その言葉は聞き取る事ができないほど小さかった。

そして、ここあは胸を抑える。

 

 

「あッ! ぐぅうぁ!」

 

「ッ、ここあ! いやッ! 待って! お願いだから!!」

 

「お、お姉ちゃん……ッ、お願いだから――ッ! お姉ちゃんは、ずっと、笑顔で――」

 

 

そこまでだった。

ここあの顔が歪むと、頭部が変形、バグスターウイルスへと変わる。

 

 

「そんな……ッ」

 

 

口を両手で覆う夏海。聞いていた事とは言え、心が痛む。

さらにバグスターウイルスは一定の範囲内に入った相手を攻撃する特性があった。非力な子供の力だ。

可能かどうかはともかく、元ここあは、にこの目を抉ろうというのか、それとも鼻を折ろうというのか、とにかく手を伸ばしてきた。

 

 

『アタックライド』『クロックアップ!』

 

 

バグスターウイルスがにこの前から消えた。

 

 

「!」

 

 

周囲を見ると、少しはなれた所に赤いカブトムシのような男が元ここあを掴んで立っていた。

カブトと呼ばれる形態だ。ディケイドは元ここあの頭を優しく叩くと、地面に降ろして再び一瞬でにこ達の前に戻ってくる。

子供だからなのか、範囲も狭いらしい。バグスターウイルスは特に動くことはなく、その場でキョロキョロと首を動かしているだけだった。

 

 

「――ゥ、ァァア」

 

 

俯き、歯を食いしばるにこ。

 

 

「にこっち……」

 

「にこ」

 

 

近くにいた希と絵里が肩に手を触れる。

思わず、抱きついて泣きじゃくりたくなる。なるが、にこは唇を噛んだ。

そして勢いよく立ち上がると、立っているディケイドの方へ駆け出していく。

 

 

「お願いッ! お願いよ!」

 

「?」

 

「土下座でもなんでもする! なんでもするから!」

 

 

にこは涙を拭いながら、叫んだ。アライズ達を指差して。

 

 

「お願いだから、あそこに連れて行って!!」

 

「………」

 

 

思い出すのはただひとつ、ここあの願いだ。

本物だった。なにも偽りじゃない。にこにとっては、ここあは本当の妹だったのだ。

 

 

「お願いします! 士さん!」

 

 

穂乃果も頭を下げる。ミューズ達を見回すディケイド。

するとどうだ、皆目に光を宿して頷いているではないか。どうやら彼女達もラブライブを経て成長しているらしい。

このまま何もせずに終わることだけは無いと、心が叫んでいるようだ。

 

 

「でもどうするんですか士くん……、彼女達を運ぶにしてもバイクじゃ無理ですよね」

 

 

話す気力もないから目立っていないが、まだこころに虎太郎、穂乃果の友達のヒフミトリオも地面にへたり込んでいる。

ここに置いておく訳にもいかず、それに衣装とか――。

 

 

「仕方ない」

 

 

ケータッチを取り出すディケイド。

 

 

「ディケイド」

 

 

渡が睨みつける。

 

 

「ちょっとだけだ」

 

 

そう言うと、ケータッチを起動させて、知り合いに連絡を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぇぇえ……」

 

数分後、窓の外を見ながら穂乃果、ことり、海未は思わず驚嘆の声を漏らした。

他世界とはチラホラ聞こえてきたが、まさかこんな夢みたいな光景があるなんて。

自分達は今、空を走っている。しかしそんな事よりももっと驚くべき事があった。チラリと車内を見る穂乃果。

するとそこには、どう見ても人間じゃないモノが喋っていた。見た目は完全な赤鬼さん。

 

 

「おい士ァ、分かってんのかテメェ! 時の列車はタクシーじゃねぇんだぞタクシーじゃ!」

 

「お礼はするって言っただろ」

 

「市販のプッチンプリンじゃねぇか! ナメてんのかテメェは! まあ、いいけどよ」

 

(いいんだ……)

 

 

モモタロスと呼ばれた赤鬼は士から受け取ったプリンをモムモムと勢いよく食べ始める。

 

 

「な、なんだ? あんまり味しねぇなコレ」

 

「データだからな」

 

「……は?」

 

 

小さいプリンだ。すぐにカラッポになる。

モモタロスは口を拭きながら穂乃果を睨んだ。

 

 

「ど、どうもぉ」

 

「おう。でも、だいたい誰だよコイツ等」

 

「ミューズ。スクールアイドルだ」

 

「ハァ? なんだそりゃ。美味いのか?」

 

「食いモンじゃない」

 

「せやで、相変わらずアホやなぁお前は! ミューズっちゅうんは、石鹸の事やろが!」

 

 

モモタロスの頭を叩いたのは金色のクマのような化け物だった。

キンタロスと言うらしい。

 

 

「アホはキミもだよキンちゃん。ミューズ、女神の名前さ」

 

 

キンタロスを叩いたのは青色の亀。ウラタロスと言うらしい。

 

 

「どうぞみなさん。僕以外アホしかいない電車だけど、ぜひゆっくりしていってね!」

 

「誰がアホだ誰が! スケベが偉そうなこと言ってんじゃねぇぞ」

 

「酷いなぁ先輩、僕は女性に優しいだけなんだけど。まあアホには分からないか」

 

「同じようなモンやで。スケベにアホ、やっぱりまともなのはオレしかおらんようやなぁ」

 

「おいおいおい、どうやら頭の悪いカメとクマは鬼さんにシメられねーと立場が理解できないらしいな」

 

「zzzzz……」

 

「寝てんじゃねぇよ!!」

 

 

ボカスカと取っ組み合いを始める三人。

端の方では紫色のドラゴンを模した怪人、リュウタロスがこころ達とお絵かきで遊んでいた。

 

 

「絵がお上手ですねリュウタロスさんは」

 

「ありがとう。ボク、お絵かきが好きなんだ……! えへへ!」

 

 

見たところ、こころや虎太郎は楽そうで、辛そうには見えない。

それもそうだろう。穂乃果達の心を読んだように、端の席でチャーハンを食べていた男性が声をあげた。

 

 

「この列車の中は、時間が止まっている状況ですからねぇ」

 

 

オーナーと言う人らしい。

一方で向かいに座っている渡は複雑そうに表情を歪めていた。

観測者を名乗る彼には文字通りディケイドの動きを見張る役割がある。

 

 

「あまり貴方に動いてほしくはないんですけれど」

 

「その通りだ。ディケイド」

 

「!」

 

 

車内に入ってきたのは帽子にコート、メガネをかけた男性だった。

 

 

「鳴滝……」

 

「貴様のせいで、またライダーがいない世界にライダーが生まれてしまった」

 

 

スプーンを持った鳴滝はオーナーのチャーハンを適当にすくって口に入れると、数回租借した後、中央に乗っていた旗を手で抜く。

 

 

『え? ウソでしょ?』『なにしてんのあの人』『なんのためらいもなく抜きおった……』

 

 

放心するオーナーとザワつくモモタロスを通り抜けて鳴滝は士の隣に立つ。

 

 

「本来ラブライブの世界とライダーの世界は絶対に交わらない存在だった」

 

 

水と油のようなものだ。大きく分ければ液体と言うカテゴリでありながらも決して混ざり合う事はない。

しかし鳴滝が言うにはディケイドと言う存在により、『水』と『油』が消え去り、液体と言う情報だけが残った。だから交じり合ってしまう。

 

 

「だがエムは、それでも望んだんだ。ライダーの力をな」

 

「フン。悪戯に力を生み出すだけだ。シンケンジャーの世界を忘れたわけではあるまい」

 

 

鳴滝は士を通り過ぎると、連結部のドアを開ける。

 

 

「おのれディケイド」

 

 

一言言い残して出て行った。

 

 

『あれ挨拶だったの?』『なんか持ちネタみたいになってない?』

 

 

ザワつくモモタロスの横に、士はため息をつく。

 

 

「渡。アイツはなんなんだ? お前ら側の人間だろ」

 

「僕にも分かりません」

 

 

ふと、そこでモモタロスが呟いた。

 

 

「アイドルか。そういえば、俺達も歌出したっけな」

 

「えッ! そうなんですか!?」

 

「ああ、結構売れたぜ」

 

 

なんか意外だ。目を丸くする穂乃果たち。

 

 

「ど、どうして歌ったんですか?」

 

「あぁ? んなもん、決まってんだろ」

 

「え?」

 

「歌いたかったからだよ」

 

「―――」

 

 

呆気に取られているいる穂乃果。

するとまた扉が開く。現われたのは鳴滝ではない。『着替え』終わったミューズたちだ。

先に着替えていた穂乃果達と目を合わせ、絵里は、希は、にこは、花陽は、凛は、真姫は確かに頷いた。

そして同じくして、時の列車、デンライナーがUTXの前に停車する。

 

 

「お待たせしましたー! コーヒーですよー!」

 

 

腕時計をいっぱい巻いた女の人が気色悪い物体を運んでくるが、穂乃果たちはお断りを。

なぜならば、もう行かなければならないからだ。

 

 

「分かっているとは思いますがぁ、ココから出たら時間が進みます。そしてぇ、ここに留まる事はできません」

 

 

オーナーが釘を刺すようにいった。

にこは両手に妹と弟の手を握り、しっかりと頷く。

 

 

「そしてディケイド、あなたもココまでです」

 

「ッ」

 

「さすがにこれ以上の侵食は許されません。もしもこれ以上貴方が動くというのなら――」

 

 

渡の手にあったのは、小さなコウモリ。

 

 

「消しますよ」

 

「怖い怖い」

 

 

両手を広げる士。了解の意味だろう。

 

 

「小野寺ユウスケも回収します。データだけは残すので、トライゴウラムは継続されます」

 

「ああ、分かった」

 

 

開く扉。

少し遠くに見えるUTXのモニタでは、いまだアライズが歌っている姿が見えた。

 

黒い衣装は白に変わっている。『Private Wars』と言う曲を、普段と変わらないパーフォーマンスで披露しているのだ。

なぜアライズがラブライブにおいてトップに立っていたのか、まさかこんな形で教えられる事になるとは。

 

 

「……ッ」

 

 

しかしためらう穂乃果たち。

なにせUTXに続く道には多くのバグスターウイルスが徘徊していた。

ディケイドたちからしてみれば相手にもならない連中だろうが、穂乃果たちにとっては紛れもない脅威だ。

だが拳を握り締める穂乃果。今も確実に崩壊に近づいている幼馴染の顔が思い浮かんだ。

 

 

「行こ! みんなッ!」

 

 

踏み出す穂乃果。

すると――

 

 

「!?」

 

 

赤い旋風が巻き起こり、UTXの前に群がっていたバグスターウイルス達が吹き飛んで行く。

あっと言う間にできあがった道。穂乃果が後ろを振り向くと、黄金の鎧に赤いマントを翻した騎士が立っていた。

 

 

「……行ってください。あまり時間はありませんよ」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

 

一同は『キバ』に頭を下げると、UTXに向かって走っていく。

 

 

「おい」

 

 

閉まる扉、デンライナーの中で、士は訝しげな瞳でキバを見る。

 

 

「お前はいいのか」

 

「今のは……、観測者としての一撃ではありません――」

 

「?」

 

 

変身を解除する渡。前方にオーロラを出現させる。

 

 

「仮面ライダーとしての一撃です」

 

 

そう言って渡はオーロラの中に消えていった。

追いかけるように小さなコウモリとドラゴンがオーロラに飛び込んでいく。

 

 

「なるほど」

 

 

士もまた頷くと、時の列車に乗って走り去っていった。

 

 

 

 

 

「遅かったじゃない。待ってたのよ」

 

 

追い出されたのか、既に消滅したのか。UTXの中にはバグスターウイルスは存在していなかった。

ステージに辿りつく一同。すると歌っていたアライズの中で、リーダーの綺羅ツバサがステージを飛び降りた。そして穂乃果達に向かって手を伸ばす。

 

 

「ミューズ。あなた達なら来てくれるんじゃないかって思ってたわ」

 

「あのッ、これは……ッ!」

 

「ふふっ、馬鹿みたいよね。世界がこんな状況なのに……」

 

 

自分の手を見るツバサ、気を抜くとすぐに色彩が消滅していく。

それでもツバサは笑みを浮かべて穂乃果達を見ていた。額に滲んだ汗は、踊り歌ったからこそ流れたものと、苦痛を耐えるために滲んだ物が混じっている。

 

 

「でもね、私達にはこれしかないから」

 

「ッ、ツバサさん……!」

 

「不思議よね。人が化け物になっちゃったり、よく分からない。けれどね?」

 

 

ピンクの髪で奇抜な格好をした人が言っていた。世界は今『変』になっている。

どれくらい変になっているかと言うと、このステージから全てのテレビに映像を送れるほどに。

世界を超えたキャラクター。『ポッピーピポパポ』の最後のプレゼント。まもなく消え去る絶対王者がせめて悔い無きように。

 

――なんて事は知らなくてもいい。

とにかく大切なのは、今このステージで行う事は、全てのテレビチャンネルをジャックしている。

いやそれだけじゃない。空には大きなモニタが浮かび、ガラスにもそれが映っている。プロジェクションマッピングのように。

 

 

「ほら、このまま何もしないのって、もったいないじゃない」

 

「だから――、ライブを?」

 

「そう。みんなも協力してくれて」

 

 

限界そうな人は外に出てくれた。限界が来そうな人も外に出て行った。

結果、誰もいなくなってしまったのは寂しい話だ。それでもまだ、人はいる。

世界には沢山の人がいる。

 

 

「それで十分だとは思わない?」

 

「……はい。ここにくるまでに、ある人が言っていました」

 

「?」

 

「歌いたいから歌うって」

 

「フフッ、まさに今の私たちね」

 

「はい……!」

 

 

ツバサも穂乃果達の服装を見れば、何をしに来たのかは分かっている。

さて。いったいぜんたい、今、何人残っているのか、それは分からない。

けれどたった一人でもテレビを見ている人が。自分達を確認している人がいれば十分だ。

今までだってそうやってきた。

 

 

「一緒に歌わない? 他世界の歌を教えてもらったの」

 

「わたしも教えてもらいました。あ、でも音源が……」

 

「念じればいいわ」

 

「え?」

 

「そうできてる」

 

 

ここは、ゲームエリアだ。ポッピーピポパポが生み出した音に溢れた世界。

人のハートを媒介に、人の記憶の媒介にして音楽を生み出す。人に伝えられたのならば、その人間まで遡って音楽を再現できる。

つまり夏美が知っている歌を穂乃果が教えられたのなら、夏海の記憶まで遡って音を再現できる。

 

 

「―――ッ」

 

 

一勢に地面を蹴った。

浮き上がる髪。穂乃果たちはステージに飛び乗ると、素早くフォーメーションを取る。

 

 

「メドレーと行きましょう?」

 

 

ツバサは笑い、釣られるように他の二人も笑う。

 

 

「期待してるわね、ミューズさん?」

 

「共に謳おう。たとえ終わりがそこにあるとしても」

 

 

頷く穂乃果たち。

すると気づく。固定されていたカメラを、フミコ達が持っていた。

 

 

「撮影なら任せて……!」

 

「ふ、フミコ!」

 

「わたしたちも、なにかはしないとね」

 

「ずっと手伝って来たしね。最期も付き合わせてよ」

 

「ヒデコ、ミカ……」

 

 

頷く穂乃果。同時に、音楽が始まった。

一同はポーズを取ると、ゆっくりと深呼吸を行う。

歌詞が脳に流れ込んでくる。メロディが理解できる。

 

 

「Colorless Images!」

 

 

煌びやかな衣装に身を包んだミューズはそれぞれの構えを取った。

そう、彼女達もまた、ステージの上に立ったという事はそういう事だ。

 

 

 

一方でその音を聞くものが。

肩を並べて走る男達は、黄金の雲の割れ目から見える、黄金の空を確認した。

曙光の中、男達はみな、理解する。

 

 

「穂乃果ちゃん……」

 

 

エグゼイド達は街を走っていた。倒れている者、苦しんでいる者、それらを越えていくのはまさに『罪』である。

しかしその罪を背負ってまで、遠くに見えるバクを追いかけなければならなかったのだ。

 

 

「黙ってりゃ終わったのに。馬鹿な奴らだ」

 

 

マントを風に靡かせ、閃光に変わる景色をスナイプは見ていた。

その中で確認できるのはエグゼイドと、ブレイブと、レーザーと、乗り込むマシン。まさにこの世界は今、彼らだけのものだった。

 

 

「同じだろ、穂乃果ちゃん達も、おれ達と」

 

「ああ。黙っているのは、気分が悪い。俺が知っている海未くんや、ことりくん、穂乃果君たちと同じだ」

 

「嬉しいですね。凛ちゃんの声が、花陽ちゃんの声が、真姫ちゃんの声が聞こえます」

 

 

全てを知っても、穂乃果はエム達が知っている『穂乃果』たちであった。

そうであってほしいと思えるミューズの姿であった。特別な力もない彼女達だ、きっと怖いだろう。恐れているだろう。不安だろう。

なのにマイクを持ったのだ。スクールアイドルとして存在する事を望んだのだ。

 

 

「強いよ。やっぱり、穂乃果ちゃんはおれなんかよりも、ずっと」

 

「だから――、選ばれたのかもな」

 

 

スナイプはバイクを撫でた。

 

 

「オレたちも、アンタみたいに強かったら、もっと……」

 

『いや、おれは強くなんてないよ』

 

 

クウガゴウラム――、ユウスケは首を振った。

 

 

『仮面ライダーなんてそんな特別な存在じゃない。仮面の奥はただの人間とそう変わらないのさ。現におれは今まで多くの怪人と戦ってきたけど、何度も負けてきた』

 

 

正直に言おうか。敵を前に変身しなかった事も何度もある。

きっと――、怖かったんだ。負けるのが、戦うのが、傷つくのが。少しおどけてみせたりもしたけれど、戦う事から無意識に逃げてきた。

 

 

『でも、それでも、これだけは言える』

 

 

ユウスケは、クウガは諦めなかった。

たとえ負けたとしても、たとえ殺されかけたとしても、必ず立ち上がってきた。だからこそ今こうしてココにいるんだ。

 

 

『たとえ弱くても、たとえ情けなくても、たとえ何度逃げたとしても、少しでも前に進もうとする勇気があれば、キミ達はもう、立派な仮面ライダーだよ』

 

 

そこでノイズが掛かる。どうやらユウスケはここまでのようだ。

 

 

『ごめん――ッ、後は頑張って』

 

 

そしてクウガゴウラムから声が消えた。

 

 

「ねえ、聞いた?」

 

 

嬉しそうに、声を跳ね上げ、瞳からボロボロと涙を流しながらレーザーは言う。

 

 

「ボクは、仮面ライダーなんだって!」

 

「ああ。そうだな」

 

 

マスクドライバーが偽者なら、仮面ライダーは本物だ。

本物に、なれたんだ。

 

 

「ハハハ!」

 

「フッ!」

 

「クハハハハハ!!」

 

 

レーザーとは対照的に笑い合うエグゼイド、ブレイブ、スナイプ。

すると脳に声が聞こえた。アリアドネだ。発信者は、まだ遠くに見える黄金のバクに乗っている男からだろう。

 

 

『なぜだ』

 

「ッ、ゲンム……!」

 

『なぜお前達は食い下がる。どうして抗う?』

 

 

いや、違う。違う。違う。そうじゃない。もっと、直接的な疑問。

 

 

『どうして、どうして笑っていられる!』

 

 

迫る男達はプライドを乗せて走っていた。

そして笑っていたのだ。

分かっているのか? 馬鹿じゃない。分かっているはずだ。

 

 

『もうすぐお前達は消え去るんだぞ!』

 

 

アポロンを破壊しようが、ゲンムに負けようが、どの道消える運命からは逃れられない。

 

 

『どうして消えると分かっていて、それでもまだ戦う――ッ』

 

「………」

 

 

そうだ、エグゼイド達は笑ったのだ。

まもなく死を迎えるというのに、嬉しそうに笑っているのだ。

 

 

『ミューズのためか? そこまでしてまで守るべき存在なのか?』

 

 

はるか向こうに多くの救済があると言うのに。それを邪魔してまで。どうせ死ねば何もかも無くなるのに。

 

 

『それでも守りたいものなのか?』

 

「違うよ」

 

『ッ』

 

「笑ったのは、生きているからさ」

 

『なに……?』

 

「社長。いや、ドクター! 人は心臓が動いてたら生きてるのか? 違うよな! 悲しいけれど、そうじゃないんだ!」

 

 

クロトはこの世界を現実世界に限りなく近づけた。

だからこそ負を抱える者も生まれれば、人の死を限りなく再現できていた。

 

 

「何もできなきゃ、何にもなれなきゃ、死んでるのと同じなんだよ!」

 

 

エムは思う。夢から目を背けていた時間は、紛れもなく、死であった。

 

ヒイロは思う。やりたい事もなく、ただ機械的に生きていた時間は紛れもなく死であった。

 

タイガは思う。全身をチューブに繋がれ、話しかけても返事はない、ただぼんやりと薄目を開いていた妹は『タイガにとって』既に死んでいたのと変わらなかった。

 

キリヤは思う。辛い事ばかりの日々は、死の果てにある地獄だった。

 

なにより、自分がデータと気づいた時の虚無感は紛れも無い、死そのものだった。

世界は、残酷だ。しかし考えてみれば本当の世界が此処とそう変わらないのなら、世の中には死んでいる人が多いのだろう。

 

 

『人に夢を見るな。お前達はなぜゼロである事を嫌がる?』

 

「死にたくないと思うことが、そんなにおかしいのか?」

 

『とんだバグに育ったな。言っただろう、お前達はデータの塊、最初から生きてなどいない!』

 

「違う! 死ぬのは、命を失うことじゃない。なにもできずに消えていく事だ! それに――」

 

『ッ』

 

「穂乃果ちゃん達は本物だった。そうだろ?」

 

『……ッッ』

 

「このゲーマドライバーは本物なんだろう!? なあ、雷山クロト!」

 

 

バグッたのは、からっぽの心が本当の心に触れたからだ。

 

 

「知ってるか? 穂乃果ちゃんは、毎日おはようって言ってくれるんだ」

 

 

アクセルグリップを捻る。スピードメーターが限界地点で震えている。

加速していく中で、穂乃果の声を拾った。

 

 

「からっぽのおれに、おはようって言ってくれたんだよ」

 

『……ッ』

 

「だからおれは、おはようって返すんだ」

 

 

そのすぐ右に、ブレイブが並んだ。

 

 

「何も無かった男が初めて心から楽しめるものに出会った。まさかそれがアイドルを応援する事だとは、夢にも思わなかったさ」

 

 

はじめこそは些細な自己嫌悪もあったが、それもすぐに消え去った。

なぜか? 決まっている。胸を張って応援できると確信できたからだ。

 

 

「海未くんの努力、ことりくんがくれる癒し、穂乃果くんの元気を見れば心が躍る」

 

『ヒイロ、お前は何を――』

 

「何を言っているのか分からないか? そうだろうな……」

 

 

ブレイブは真っ直ぐにアポロンを睨む。

 

 

「俺の心は、俺だけが知っていれば良い」

 

『馬鹿な――ッ』

 

「そう、馬鹿なんだよ。オレたちは」

 

 

スナイプもまたエグゼイド達にピッタリと張り付く。

少しずつ近づいていくアポロンを見ながら、尚アクセルグリップを捻るのだ。

 

 

「馬鹿には、なれたんだよ」

 

 

馬鹿でも、愚かでも、からっぽよりはずっと良い。

 

 

「クロトさんは知ってる? ボクね、最近ね、休み時間に凛ちゃんたちとお喋りするんだよ」

 

『ッ、それがどうした?』

 

「どんな話をしているか、知らないでしょ?」

 

 

当然だ。いくら管理しているとは言え、そんな細部を知るはずは無い。

が、しかし、細部でも、エム達には本物だった。全てが本当だったんだ。

 

 

「なれるんだよ、本物に。彼女達と関わっている間、おれ達は生きる事ができるんだ」

 

 

そしてなれた。今、まさに。

 

 

「彼女達がッ、おれ達に命を与えてくれたんだよ!」

 

 

生きる理由と死ぬ理由。

後者があるのならば、前者が存在していた証明になる。

 

 

「それに――ッ!」

 

 

そうだ、はじめから、偽者にとっては全て本当だったんだ。

思い出すのはソウタとの事だ。あの出来事があったからエムは前を見る事ができた。再びゲンムに食い下がる勇気をもてた。

 

 

「ソウタは――、ソウタはッッ!!」

 

 

声が震える。

泣いているのだ。エムの心に突き刺さる光景がある。母親を失い、助けを求めた少年はエムにしがみ付いた。

そうだ、何故小さな手で肩を掴んだのか? それは怖かったからだ。それは寂しかったからだ。

 

 

「あの小さな手が俺を掴んだとき、俺は、俺として必要とされたんだ……!」

 

 

恐ろしい世界を終わらせたいから、しがみ付いてきてくれたんだ。

生きたかったから、縋ってくれたんだ。他の誰でもない、石神エムと言う人間に。

 

 

「おれは絶対に負けない。おれは絶対に逃げない! おれは絶対に貴方に勝つ。ソウタの想いを、おれは絶対に偽者にはしない!」

 

 

小さな体を抱きしめたとき、エムは理解した。

 

 

「おれは、おれ達は生きていたんだ! 絶対にウソじゃない、本当に生きていたんだ!」

 

『黙れ! それも全ては幻想! 夢だ!』

 

「でもソウタは――ッ! おれに助けを求めたんだ! おれがそこにいたから、おれに手を伸ばしたんだ! この広くて狭い世界でおれを見つけてくれたんだ!!」

 

 

守れなかったことが、今も心を突き刺す。

この痛みはなんだ? 生きている証拠じゃないのか。

 

 

「おれはまだ終わりじゃない。おれ達はまだゲームオーバーじゃないんだ!」

 

 

でなければ、この身を流れる熱い想いを証明はできない。

 

 

「だって――! 生きてるッ!」

 

『偽りの生だ。お前はただのデータ。初めから死んでいる!』

 

 

それが何故分からないのか。ゲンムは大きな苛立ちに吼えた。

 

 

「だとしても生きていた。おれは、生きていたんだ!!」

 

 

もう戻らない。けれど今までの日々の中で、エムは確かに生きていた。

それはもう良い。それはもう良いんだ。今更取り戻すつもりはない。あれは過去でいい。

 

 

「取り戻せないから過去。後悔を背負うのが人間の証だ!」

 

『……ッ』

 

「嫌なことも辛いことも恥ずかしかったことも、全部なかった事にはできない。それが人間だろ!?」

 

 

人間の証明とでも言おうか。

 

 

「それを放棄したお前はなんだ? 怪人じゃないか!」

 

 

ゲンムの雰囲気が変わった。

ついに焦りと怒りを隠す事はなかった。吼える。何が悪いのか。

エムが言いたいのは、救えなかった事をいつまでも引きずり、ついには世界を巻き込んだゲンムへの批判なのだろう。

 

 

『死を受け入れろと言うのか! 確実に迫ると分かっている苦痛を受け入れろと言うのか!』

 

「他人じゃない! アンタの事だよ!!」

 

『!』

 

 

エムもそうは思わない。救える方法があるなら、それが一番だと分かっている。

だがゲンムの今の方法は何だ? 分かっている。弱いエムだからこそ『同属』の気持ちは理解できる。

 

 

「俺は全てを背負う! 母さんへの後悔ッ、自分の運命も全て背負って見せる!」

 

 

いつまで人を傷つける理由を正当化するつもりだ。

いつまで世界を歪めることを救済と誤魔化すつもりだ。

ゲンムのやろうとしている事は救済じゃない。ただの自己満足だ。救えなかった自分を助けるため、他者を巻き込んで行う慰めなのだ。

 

 

「たとえ俺の全てが明日――、いや、今日まもなく終わるとしても、その時が来るまでおれは未来に向かって進み続ける!」

 

『!』

 

「それが、生きるって事じゃないのか!」

 

 

変化を拒み、永遠の輪廻の中に全ての患者を、ミューズを閉じ込めようとするゲンムの行動は、生きる事の否定ではないか。

苦痛を消すことは確かに医療だ。逆に言えばそれが医療の形だ。

これはなんだ? 他者を巻き込み、幽閉し、そして記憶を植えつける。そんなことは苦痛から目を逸らす事じゃないか。

 

エム達は、この僅かな状況で絶望から希望を見出した。

だがそれは絶望を直視したからだ。それは今までのことからも同じだ。バグが起こり、凶悪なヴィラン達が生まれた。

辛い現実を知った。しかしそれでも立ち向かう穂乃果たちが教えてくれたじゃないか。

 

信じている。

たとえそれがバグだとしても、未来に進む事こそが生きる最大の力になるのだと。

だから彼女達はあんなに輝いていたんじゃないか!

穂乃果たちは、生きていたから輝いていたんだ。

 

 

「生きている限り終わり(ゲームオーバー)はこない! そして、おれは諦めない!!」

 

『グッ! 石神エムッ! お前はッ、お前はァア!!』

 

 

その時、エグゼイド達とアポロンの距離は僅かにまで迫っていた。

エグゼイドは震える声で、強く、強く叫んだ。

手をかざし、指を大きく開いてみせる。

 

 

「さあ! ノーコンテニューでクリアしてやるぜ!!」

 

 

横並びになり、エネルギーオーラを纏いながら前進してくるエグゼイド達。

ついにはその距離は間近となり、操縦席にいるゲンムとバクの背に乗っているグラファイトは息を呑んだ。

危険だ、危険なバグだ。今すぐに排除しなければならない。

 

 

「グラファイト!」

 

「ハッ! お任せを!」

 

 

グラファイトが立っている場所はアポロンのアームを操縦する席であった。レバーを持つと、二本の剣を持つ腕が動き始める。

まず振るったのは炎の剣だ。赤い斬撃が発射され、エグゼイド達に向かっていく。

 

 

「任せろ! ここは引き受ける!!」『ガシャコンソード!!』

 

 

減速するエグゼイドとスナイプ、一方で前に出たのはブレイブだった。

Bボタンを連打しながら剣にたっぷりの炎を纏わせると、恐れずに斬撃に向かって突っ込んでいく。

 

 

「俺の進化について来れるか!」

 

「!」

 

「全てを切裂くッッ!!」

 

 

左手でハンドルを持ち、右手で存分に剣を振るうブレイブ。

ジャキンジャキンジャキンと斬撃音。激しい火花と閃光が迸り、斬撃をズタズタにしながら強引に前に突き進んでいく。

 

 

「ウォオオオオオオオオオオ!!」

 

「くッ!」

 

 

二本の剣を振るうグラファイト。しかし迫る大剣にブレイブは自らの刃を打ち当てた。

その大きさは明らかな差があると言うのに、ブレイブは大剣を弾き返し、炎の斬撃をアポロンに向けて飛ばしていく。

 

 

「な、なんと言う力!!」

 

 

炎を受けてアポロンのハンドルに震動が伝わってくる。

さらにそこで後ろの方、スナイプがバイクを自動操縦にし、自らは大きく前に身を乗り出した。

覗くのはスコープレンズ、伸ばした砲身、ライフルモードによる狙撃攻撃だ。

 

 

「………」

 

 

サーチ音の後にロック音。

スナイプはそれを確認すると引き金を引く。

銃声と共に超スピードの弾丸が放たれ、アポロンのアームの関節部分に命中していく。

衝撃によって大きく弾かれる腕、その隙にブレイブはBボタンをタッチする。

 

 

「ノヴァブラスター!」

 

 

紅蓮の塊となり突進するブレイブ。

着弾と同時に爆発がおき、アポロンはスピンしながら前に吹き飛ぶ。すぐに体勢を整えるが――、焦りはより加速していく。

 

 

(ゲーマドライバーでありながらブレイブドライバーの技を使えるのか――ッ、いや、それよりも!)

 

 

その威力。ゲンムとグラファイトに焦りの感情がわきあがっていく。

管理していたドライバーの力ではアポロンには傷一つつけられない筈だった。

にも関わらず伝わる衝撃は確かなもの。怯まされている、それは、その力が『バグ』、管理できていないデータである証拠。

まさに、ゲーマドライバーの力であった。

 

 

「チィッ! 気に入らない。気に入らないな!!」

 

 

アクセルグリップを思い切り捻るゲンム。

バグが咆哮をあげ、タイヤが勢い良く回転を増し、エグゼイド達から距離を離す。

 

 

「人間はいつもそうだ。感情が理想の邪魔をする!」

 

 

翼を広げるアポロン。すると無数のビームやミサイルが発射されていった。

斬撃を飛ばし抵抗するブレイブ。銃弾を浴びせ相殺していくスナイプ。その中で、エグゼイドは身を低くして加速する。

前からは無数の弾幕、しかしバイクは小回りの利く動きで次々に銃弾をかわしていく。

レーザーだ。その目で真っ直ぐに迫る銃弾を見極め、体を揺らす事でエグゼイドを銃弾から守っていく。

 

 

「ぐッ! 馬鹿な!!」

 

 

思わず言葉が漏れる。

火馬キリヤと言う男はゲンムにとってもグラファイトにとっても最も弱い人間の部類であった。

事実、臆病で、なにもできず、ただ震えているだけしかできないように作った。

 

 

(なのに何故だ。なぜレーザーはこの弾幕の中を突っ込んでこれる!!)

 

 

もちろん無数の銃弾。全てを避けられるわけじゃない。

するとどうだ? レーザーはスピードによって発生したエネルギーだけを鎧にして爆風の中を尚、突き進む。

たとえミサイルが着弾したとしても前を向いて進み続ける。

 

 

「石神先輩!」

 

「ああ! 任せろ!」

 

 

シートを蹴って飛び上がるエグゼイド。

 

 

『ガシャコンブレイカー!』

 

 

叫び、空中を一回転。

そして思い切りハンマーを振り下ろし、眼下にいるグラファイトに一撃をお見舞いする。

 

 

「チィイ!」

 

 

グラファイトは腕をクロスさせハンマーを受け止める。

 

 

「クソガキが!」

 

「うあ゛ッ!」

 

 

そして瞬間、エグゼイドの腹部を蹴ると大きく吹き飛ばした。

高速で動く車体から放られたのだ。エグゼイドは大きくアポロンから離れ、硬い地面に近づいていく。

しかしタイヤが地面を擦る音と煙が上がった。レーザーは猛スピードでエグゼイドの真下に滑り込むと、車体を起こしてシートで受け止める。

 

 

「ありがとう!」

 

「うんッ!」

 

 

そして、すぐに加速するエグゼイドとレーザー。

 

 

「生きている? 前に進み続ける? 未来を目指すゥ?」

 

 

ゲンムは、クロトは仮面の奥で目を見開いた。

 

 

「ざけんじゃねぞデータ共。生きるって事はな、そんな簡単な事じゃねぇんだよ……!」

 

 

アポロンの翼から発射されたのは先ほどの倍はあろうかと言うミサイル群であった。

視界全てが小型ミサイルで埋め尽くされる光景。

が、しかし、それでもエグゼイド達はアクセルグリップを捻り、ただ前を見ていた。

 

 

「―――」

 

 

ミサイルが次々に地面に着弾していき、爆発を起こしていく。

ゲンムの視界が全て爆炎に染まる。淡々と振り返り、アクセルグリップを捻った。

 

 

「グラファイト。時間は?」

 

「オールクリア。完璧ですわ」

 

 

街を通るアポロン。歩く人々はみな、バグスターウイルスだ。

バグヴァイザーを覗き込むゲンム。何故逃げたと思う? 決まっている。エグゼイド達も知っていたと思うが、『時間稼ぎ』だ。

いくらゲーマドライバーを得たと言っても、エム達はアポロンのクリティカルストライクを受けた。

 

つまりバグスターウイルスの剥離からは逃れられない。それは他の人間も同じだ。

 

バグヴァイザーで計算を行った。全ての人間がバグスターウイルスになる時間を。

そしてそれはエム達が消滅する時間と同じである。全ての人間がバグスターウイルスになれば一勢削除を行う。

そしてエムたちもまた全てのデータは消え去り、今度こそ死ぬのだ。

全ての生命データが消え去ったとき、世界は全て崩壊し、新たなるデータを形成する。それがアポロンで設定したルール。

 

 

「時間稼ぎは成功だ。さようならエムくん。さようなら、人類よ」

 

 

その時、エンジン音が聞こえた。

ウォン、ウォオン! うるさいくらいのソレは、重なり合うから生まれる音量だ。

 

 

「――ッ!?」

 

 

背後を振り返るゲンム。

すると爆炎から、三つのシルエットが飛び出してきた。

そう、エグゼイドとレーザー。ブレイブとマシンディエンダー。スナイプとトライゴウラムである。

 

 

「ば、馬鹿なッッ!!」

 

 

三人のライダーはバイクを跳ね上げ、その複眼を光らせて空中を疾走する。

爆煙を纏い、そのまま地面に着地すると、速度を上げてアポロンを追いかける。

 

 

「何故だ! グラファイト!」

 

「わ、私にも――ッ! 計算は完璧です。奴らは既に消えているはずなのに!」

 

 

そこでゲンムはアポロンを減速させ、目を凝らした。

すると気づいた。どうした事だ。オールクリアと結論付けた世界にまだ『人』がいるではないか。

苦しんではいるが、人がいた。並ぶ車の中に人がいた。

 

 

「なぜだ! なぜまだ消えていない!」

 

『未体験ZOONE!!』

 

「!!」

 

 

タイトルコール。

アイドルらしからぬ力強い音楽が聞こえる。

ゲンムが見たのは大きな電光掲示板。そこには、満面の笑みを浮かべている穂乃果とツバサが見えた。

 

 

「――ッ、ミューズ。アライズ……!?」

 

 

衝撃が走る。背後を振り向けば、緑色の光球が次々に飛んでくる。

レーザーのトロフィーからゲットできるエナジーアイテム。レーザーボール・グリーンだ。

舌打ちを行い、スピードを上げるゲンム。だがその時、ゲンムは見た。

人々が、電光掲示板を見上げているのが。

 

 

「まさか――、まさかッッ!」

 

 

なぜこの世界にいる人間が全てバグスターウイルスになっていないのか。

なぜまだエグゼイド達が消滅していないのか。

後者はまだ理解できる。ゲンムにとってゲーマドライバーの力は未知数以外の何ものでもない。

その力がデータやウイルスの剥離を防ぎ、エム達の消滅を防ぐことになっていると考えれば理解できる。

 

しかし、他の人間(データ)は違う。

ゲンムの管理下にあるはずのモブ達が、消滅を免れる事はありえない。

アポロンによって散布された管理できるバグスターウイルスが体内に侵入、そこで活性化し、人間データをバグスターウイルスデータに変え――

 

 

「やはり、そうなのか……ッッ」

 

 

人々が見上げた先にはミューズとアライズがいた。

つまりそれは、バグスターウイルスがウイルスとして機能していない事を意味する。

ゲンムの攻撃によりバラバラにされたウイルス。しかしそれは、離れろという命令を与えたからだ。

ウイルスが死んでしまえば、エム達の体から剥離する事もなく、ましてや人々の体で増殖する事もない。

 

 

(だがどうして! バグスターウイルスが死ぬ条件があったのか!?)

 

 

確かに、ゲンム――、つまり雷山クロトはバグスターウイルスを把握している。

コントロールしている。しかし全てではない。だからこそウイルスが過剰に活性化する条件と、過剰に活動を抑える条件を知らなかった。

エックスレコードにはその肝心な情報が記されていなかった。

 

だからこそ、知らない情報がバグを巻き起こす。

思い出してほしい。このイナンナの鳥篭において一番最初のバグはなんだったろうか?

それはヴィランが現実世界において活動できる様になった事ではないか。

 

リボル、モータス、彼らのバグはガシャットの仕様により体内に流し込まれたバグスターウイルスが過剰に活動したからである。

クロト側はその説明を負の感情にあると分析した。それは間違いじゃない。現にリボルもモータスも胸には強力な殺意を宿していたから。

だがその本質は違う。別のところにある。リボルは病気の娘を抱えてこの先を生きていく事への不安。モータスは世の中に対する強力な不満。

 

 

そこにあるのは――

 

 

強力な、『ストレス』。

 

 

痛みを感じること、死への恐怖、未来への絶望、まもなく終わる世界に生きるという事。それは全て、ストレスを感じることである。

 

 

『早くストレスの原因を見つけて取り除かないとッ! 進行が早まってしまいます!』

 

 

そして穂乃果たちはそこに気づいた。その言葉を聞いていたからだ。

永夢はゲーム病と言っていた。どうやらそういう症状の病が存在しているのだろう。飛彩は似ているが違うと切り捨てたが、『似ている』とは言った。

 

どこまでが似ている? 分からない。

しかし、もし、ストレスで進行が早まる部分が同じだとしたら……?

だから、穂乃果たちはマイクを持った。笑顔を浮かべた。

人々のストレスを、消すために!

 

 

「ありえない!!」

 

 

ゲンムもそこで全てを察した。全てに気づいた。

そうだ、バグスターウイルスは患者のストレスによって活性化していく。逆を言えば、患者のストレスが消えたとき、ウイルスは死ぬのだ。

 

 

「この状況でライブを行い――ッ!」

 

 

周りが化け物になっていく世界は怖い。ストレスを感じざるをえない。

そんなとき、人は何が起こっているのかと恐怖し、情報を得るためにテレビをつける。一方で病院の待合室にもテレビはある。

 

いや、もっと言えばラジオであったり、カーナビ、携帯。『画面』は生活の中に溢れていく。

それらが次々にミューズとアライズを映す。なんだこれは? 人は怯んだであろう。

 

 

「そして、ストレスが消えたと言うのか!?」

 

 

その通りだ。

人はミューズとアライズを見て、今を忘れた。

 

 

「馬鹿な! この状況で! ただのスクールアイドルの歌と踊りにッ、人間が苦痛を忘れたとでも言うのかッ!?」

 

 

正確には少し違う。本当に忘れた者もいるが、そうじゃない者がほとんどだ。

しかしテレビの中にはいつもと変わらない笑顔を浮かべるミューズとアライズ。

それを見て人は、つい、忘れてしまう。あれ? こんな子供達が楽しそうに笑っているんだ。

いつもと変わらない歌声を出しているんだ。こんなに苦しいのは、ウソなんじゃないだろうか?

 

世界中が今、混沌としているのは、ただの『夢』なんじゃないだろうか。ふとそう思ってしまう。

もちろん本当は分かっているのだろう。世界崩壊を誰もが理解している。現に自分の体にはノイズが掛かっているのだから。

色彩も薄れていくのは見れば分かる事なのだ。しかし本物であるミューズは何も辛くないのだから色も濃く、ノイズも走っていない。

アライズも必死に押さえ込み、どうしてもノイズが掛かったり、色が薄くなってくるときはフミコ達がカメラから外して誤魔化している。

 

だから人は思ってしまう。

 

 

『こんな世界は、ウソなんじゃないか。夢なんじゃないか?』

 

 

そんな、現実逃避。

だがそれの何が悪い? それがアイドルの役目なんじゃないのか?

辛いとき、苦しいとき、ふとテレビを見れば笑顔のアイドルがそこにいる。

だから人はそこから元気をもらう、現実を忘れる。アイドルを見る事で少しでも辛さを忘れる。

 

そういうものだ。そういうものだろう?

ミューズファンはミューズが生きている事に安堵し、ファンで無いものはまだしっかりと存在している人間を見て、自分も大丈夫なんじゃないだろうかと妄想する。

あまりにも恐怖しているものは、仮初であり幻想である事を理解しておきながらも現実逃避の道具としてミューズ達を利用する。

 

こんな話を聞いた事はないだろうか?

人はあまりにも強い恐怖を感じると、逆に笑ってしまうのだ。それは脳が恐怖を否定するために行う自己防衛機能。

それと、何も変わらない。それはポジティブなものではない、ネガティブなものかもしれない。しかしそれでも、人は今、恐怖を忘れようとしている。

 

 

「行くよみんなッ!」

 

 

ステージに立つ前、ミューズは円陣を組んだ。

アイドルと言うのは、仮面を被っている。まあ言ってしまえば、特撮ヒーローに良く似ている。

子供達はテレビのなかにいるお兄さんが本当に変身して悪と戦っていると思っているが、まあ実際はそうじゃない。

お兄さんはプライベートでは普通の役者さんであり、子供達に変身を振られたらどうしようかと悩んでいるのだ。

もちろんそれは大人になれば普通に理解できるものなのだ。

 

アイドルも、同じだ。

楽しそうにテレビで笑っている姿が偽者だとは言わないが、『フィクション』が混じっているところもあるだろう。

中には、全て偽りの人間もいる。それに気づいていない者もいれば、気づいている者。気づいた上で楽しんでいるものがいる。

 

 

「世界を騙すわよ!」

 

 

にこは涙を拭い、大きく首を振る。ここから先に進む事は、一切のネガティブを出してはいけない。ただひたすらに笑い、おどけ、はしゃぎ回る。

そうすれば人は苦痛を忘れるだろう。分かっていたとしても、忘れようとするだろう。

自分達(アイドル)は、その言い訳に使ってもらって構わない。

 

 

「偶像で、世界をッ、希望で支配する!」

 

 

できる筈だ。女神の名を冠するのなら。

 

 

「知ってる?」

 

 

希が呟いた。

 

 

「昔の人は道に迷ったとき、星の位置を頼りにしたんやって」

 

 

頷く絵里。自分も知っている情報を口にする。

 

 

「そしてそのスターが一番光り輝くのは破裂するその瞬間よ」

 

 

にこが叫んだ。

 

 

「起こすわよ、これが私達の最後のライブ。これが私達の、超新星(スーパーノヴァ)よ!」

 

 

なによりも、穂乃果がニヤリと笑う。デンライナーの中で、キンタロスが言っていたじゃないか。

 

 

ばい菌(バグスター)を倒すのは、石鹸(ミューズ)の役目だよね?」

 

 

ニヤリと笑う一同。そして声を上げる。

 

 

「イチっ!」

 

 

それは"穂乃果"。

 

 

「にぃ!」

 

 

それは"ことり"。

 

 

「参ッ!」

 

 

それは"海未"。

 

 

「ヨン!」

 

 

それは"真姫"。

 

 

「ごッ!」

 

 

それは"凛"。

 

 

「ろく!」

 

 

それは"花陽"。

 

 

「七!」

 

 

それは"にこ"。

 

 

「ハチッ!」

 

 

それは"希"。

 

 

「9ッ!」

 

 

それは"絵里"。

 

世界は偶像だ。それは分かっている。

しかしそれでも家族と過ごした時間、友人と過ごした時間、そしてなによりラブライブの頂点を目指した時間はウソじゃない。

ましてや、そこで得た絆は、砂上ではない。

 

 

「ミューズッッ!!」

 

 

並んだピース。声が重なる。

 

 

「ミュージック! スタートッッ!!」

 

 

そして、ミューズはステージに上がった。

もちろんそれは救いではない。ウイルスが死んだからと言って取り除かれたわけではないので、ふとした時に現実に引き戻されれば再び活性化が始まり、人はバグスターウイルスになるだろう。

 

だからこれは延命だ。助ける事はできない。

ただそれでも、先程までは恐怖で引きつっていたこころの顔が、今は満面の笑顔になっている事を考えれば、無駄な事じゃないと分かる。

 

幸せな夢を見せるのは、アイドルの仕事だろう?

サビに入る。穂乃果たちはより一層輝く笑顔を浮かべた。暗い顔をしていては、みんなを笑顔にできないからだ。

 

 

「分かっただろうゲンム!」

 

 

叫ぶエグゼイド。ゲンムもアリアドネによって声を拾う。

 

 

「アンタがただの削除作業と割り捨てる今もッ! みんな怖がってる! だから少しでも怖くないようにしてるんだ!!」

 

 

それが、たとえアイドルに逃げることになっても。縋るようになってもだ。

 

 

「ヨッシーくんも、ヒイロも、タイガも、キリヤくんも!」

 

 

カーブに入った。体を倒し、重心を移動させる。

 

 

「山岸さんも、フミコちゃん達も、ヴィランになった人たちも、ミューズ達の家族も!」

 

 

大量のバグスターウイルスを掻き分け、火花を散らしながら進んでいくエグゼイド達。

その時、無数のバグスターウイルスの集団の中で、たった一人だけ振り返った者がいた。

 

 

「おれとソウタは、生きていたんだよ!!」

 

 

小さな小さなバグスターウイルスだ。元は子供だろうか。

大げさに慌てている他のバグスターウイルスとは違い、彼はただジッと立ち尽くし、過ぎ去っていくエグゼイド達の背中を見つめていた。

エグゼイドの背中を見ていた。

 

 

「馬鹿なァア……!!」

 

 

振り返るゲンムも、グラファイトも見ていた。

迫るエグゼイド達。そのオレンジの瞳。その黄色の瞳、その赤い瞳、その青い瞳を。

エグゼイドはガシャコンブレイカーで、ブレイブはガシャコンソードで、スナイプはガシャコンマグナムで迫るミサイルを撃ち落し、再び爆炎を突き抜けて向かってくる。

 

 

「おい、んな事よりそろそろ決めようぜ」

 

 

唐突にスナイプが語る。

 

 

「ああ、アレか」

 

「まだやるんですか?」

 

「あたりめぇだろ、決着はついてなかった」

 

「何度やっても同じだろうけど?」

 

「ざけんな石神。何も決まってなかったろ」

 

「ッ?」

 

 

戸惑うゲンム。急にエグゼイド達の話し声が聞こえてくる。

知らないか。知らないだろうな。エム達が昼休みに食事の場で語った事など、ゲンムが知る筈もない。神も知らない話の内容、それは――

 

 

「ミューズで結婚するなら誰が良い?」

 

「は……!?」

 

 

呆気に取られるゲンムとグラファイト。

 

 

「なに? 結婚――ッ?」

 

 

そう思っていると轟音が聞こえる。

見ればトライゴウラムの角が無人の軽自動車に突き刺さり、持ち上げてみせる。

ユウスケの意識は消滅したが、代わりにスナイプの意思ひとつでトライゴウラムは自由に動かせるらしい。

角を大きく振るうと、持ち上げた自動車を投げ飛ばし、アポロンへ向かわせる。

 

 

「だから何度も言っただろ!」

 

 

その時、四人の声が重なった。

 

 

「穂乃果ちゃんだよ!」「海未くんに決まってるだろう」

 

「凛ちゃん一択」「矢澤なんだよなぁ」

 

 

同時に舌打ち。

 

 

「やっぱ合わないわアンタらとは! 穂乃果ちゃんだろ普通!」

 

「まともな脳みそを持っているなら考えるまでもない。海未くんだ!」

 

 

二手に分かれ、アポロンの左に回るエグゼイド。右に回るブレイブ。

 

 

「にわかだよ。凛ちゃんに決まってるじゃないか!」

 

「やっぱ音乃木坂の生徒ってアホしかいねぇわ! にこにー以外が出るとか●ン●かよお前ら!」

 

 

トロフィーとドラム缶を壊すエグゼイド達。

 

 

「穂乃果ちゃんは漫画やアニメが好きだし! 一緒にいたら絶対楽しいよ!!」

 

 

エナジーアイテムが射出され、エグゼイドは星の形をしたアイテム、『レーザー星』を使用。

 

 

「だが穂乃果くんは少々横着な面がある。妻とは夫を立てるもの。その点で考えれば海未くんは完璧だ!」

 

 

ブレイブはスピードアップのアイテムを使用する。

高速で動き回りながら周囲のブロックやドラム缶を破壊して次々にアイテムをゲットしていった。どうやら狙っているものがあるらしい。

 

 

「帰宅すれば三つ指をついて出迎えてくれるし、健康管理もバッチリしてくれる! かとも思えばその中に恥ずかしがりながらもスキシンップをしてくる様子を想像してみろ! 答えは明白だろうが!」

 

 

虹色に輝き、一定時間無敵になるエグゼイド。

攻撃力も上がっているのか、アポロンの車体に剣を突き入れると、そのまま引き裂くように前進していく。

 

 

「馬鹿な! 黄金の鎧に傷がッ!」

 

「これがゲーマドライバーの力か……!」

 

 

車体をスピンさせエグゼイドを弾き飛ばす。

 

 

「でも海未ちゃんってちょっと厳しい所もあるから。よく叱られそうじゃないですか!?」

 

「そうそう、すぐに園田に管理されて尻にしかれるかもなぁ」

 

 

しかしすぐに張り付いてくるエグゼイド。スナイプも肩を並べる。

 

 

「アホが! それがいいんだろうが!!」

 

 

さらにスピードアップの効果により、アポロンを追い抜いて前に出たブレイブが地面に剣を突き刺し、アポロンが通る道を凍らせる。

 

 

「チィイィ!」

 

 

通常の氷であれば何の問題もないが、ブレイブの力を纏った氷だ。アポロンのタイヤはスリップし、操縦が利かなくなる。

 

 

「海未くんがたまに見せる氷のような表情が忘れられない!」

 

「ちくしょう! また会長の性癖がおかしな方向に行っちまった!!」

 

 

一方で氷のルートから避けるエグゼイド。

 

 

「園田はああ見えて結構ポンコツだからな。その点本当に家庭に向いてるのは矢澤だ。アイツは既に兄妹の世話をしている実績がある! いい嫁になるぜ」

 

 

構わず突き進むスナイプ。トライゴウラムはゴリゴリと氷の道を削りながら進んでいく。

 

 

「つうか部長! アンタは矢沢先輩は好みじゃないって言ってただろ!」

 

「一応推しだからな! それに――ッ!」

 

 

少し言葉を詰まらせるスナイプ。一瞬減速、しかしすぐに目を光らせて加速する。

 

 

「それに、ツインテールさえやめてくれれば全然オッケーだ!」

 

「なんだよそれ! アンタも性癖か!」

 

「ああそうだ! だが――ッ、ツンテールじゃない矢澤は! 矢澤にこなのか!?」

 

 

スナイプはさらにアクセルグリップを捻り、二本の角をアポロンに刺し入れようと試みた。

 

 

「近づくなァ!」

 

 

だがグラファイトが操る腕が振るう剣。

スナイプはブレーキを入れて減速、剣を回避すると、素早くモードチェンジしライフルモードに変えるとスコープを覗く。

 

 

「……まあ、一緒にいられれば、そんなときも見られるんだろうな」

 

 

発砲音と共に空間を切裂くように突き進む弾丸。それはまたも関節部に命中するとアームを大きく弾いてみせる。

 

 

「だいたい会長の考え方は時代錯誤さ! 今や夫婦は助け合いの時代! 穂乃果ちゃんが笑顔で傍にいてくれれば全然いいね! オールオッケー! なんなら俺が死ぬほど働いてニートでいてくれればいい!」

 

 

さあ、隙ができた。エグゼイドはシートを蹴ると、刃を出現させて思い切り振るって見せる。

 

 

「グッ! なんと……ッ!!」

 

 

ライダーアーツ・ワイドスラッシュ。

カラフルな残痕が右アームに刻まれた瞬間、音を立てて崩壊、切断された腕と持っていた炎の剣が地面に落ちた。

一方エグゼイドだが、既に着地地点はレーザーが回りこんでおり、シートでしっかりと受けとめる。

 

 

「キリヤくんはどうだ? 凛ちゃんのどこがいい!?」

 

「………」

 

「キリヤ君?」

 

「かッ、可愛くて優しいところですよ! 好きになるのにそれ以上の理由がいる!?」

 

 

惚れた。それだけ。

 

 

「凛ちゃんのためならなんでもできますよボクはぁ!」

 

「フッ! なるほど、それは確かに」

 

「ハハハ! 言うじゃねぇの後輩くん!」

 

 

確かに、好きになるのはそれでいい。なにも――、『愛するわけ』じゃない。

 

 

「我李奈! 何をやっている!!」

 

「ハッ! おまかせを! すぐに奴らを排除します!!」

 

 

翼を広げるアポロン。するとエグゼイドがガシャットに手をかける。

 

 

「穂乃果ちゃんだって優しいぜ!? いつもニコニコしてて、なんかあったら一緒に悩んでくれる! 一緒に泣いてくれる! こんな良い子が他にいるか!?」

 

「俺は海未くんの中身に惚れたんだ。悩みながらも前に進もうとする強さ。そしてそこにある他者を思いやる優しさ! あれほど素晴らしい子は他にいない!」

 

「はじめてたぜ、もっと早く知り合いたかったって思える人間は。矢澤だけだ!」

 

「凛ちゃんは――、その、あの、とにかく好きだッッ!」

 

 

現在のガシャットはダブルと呼ばれる形態。まさに二つのガシャットが重なった状態だ。

しかしエグゼイドが手をかざすとガシャットが分離し、一方が手元に引き寄せられる。

同じようにしてガシャットを持つブレイブとスナイプ。エグゼイドはさらにレーザーのガシャットも持った。

 

 

「キリヤくん!」「羽水先輩!」「タイガ!」「石神ッ!」

 

 

そして、投げる。ガシャットはそれぞれの手元に吸い寄せられ、キャッチされる。

そして一勢に装填。それぞれ電子音が必殺技の発動を告げた。

エグゼイドはバンバンシューティング。ブレイブは爆走バイク。スナイプはタドルクエスト。レーザーはマイティアクションエックスの力を発動させる。

 

 

「視えてるぜぇ! 勝利のビジョン!!」『キメワザ!』

 

 

スコープレンズで覗くのは今まさに発射された無数のミサイル。

 

 

「ブチ抜くッッ!!」『タドル! クリティカルフィニッシュ!!』

 

 

その全てにロックオンのマークが浮かび、引き金を引くと青い光線が同時に複数発射され、全てのミサイルに着弾していく。

爆散するアポロンの攻撃。いや、それだけじゃない。スナイプの放った光線はまだ死んでいなかった。

ミサイルを突破したそれらはロックオンの通り、次々に翼に着弾していき、爆散させていく。

 

 

「お、おのれッ!」

 

 

ビームを散らすために剣を振るおうとしたグラファイト。

しかし同時に飛び上がったブレイブ。

 

 

「全てを切裂くッ!」『キメワザ!』

 

 

空中をスライドするように、一瞬で移動するブレイブ。

 

 

「俺の(かくご)がお前に視えるか!」『爆走! クリティカルフィニッシュ!!』

 

「くっ! 速いッッ!!」

 

 

後ろには切裂かれ、地面に落ちるアームと大剣。

グラファイトが悔しがるその様を見ながら、ブレイブはアポロンの車体を蹴ると、自動操縦によって引き寄せたマシンディエンダーに飛び乗った。

 

 

「クソッ! なぜだ! 何故だ何故だ何故だァア!!」

 

 

ゲーマドライバーが齎す想像以上の力に、ゲンムは確かに怯えていた。

なによりも、理解が出来ない。

 

 

「なぜそんな話をするお前らが、私の理想の邪魔をする!!」

 

「妄想だからだよ」『キメワザ!』

 

「なに――ッ!?」

 

「妄想でいいんだよ……」『バンバン! クリティカルフィニッシュ!!』

 

 

エグゼイドが振るった刃。巨大な斬撃が発射され、アポロンに直撃した。

ゲンムは知らないのだろうか? 放課後や昼休み、友達と好きなアイドルについてあれやこれやと言い合う下らない時間が、どれだけ楽しいのかを。

誰もが分かっている。それは幻想だと。当たりもしない宝くじが当たったらどうしようかと妄想している時間と同じなのだ。

下らないと思うかもしれない。しかし、ゲンムが救おうとしている人間はこんな下らない妄想で笑い合えるものなのだ。きっと。

現実は――、そこには、いらない。

 

 

「結婚なんて本当にしたいワケじゃないさ」

 

 

ブレイブは固有能力により獲得したエナジーアイテムを使用する。

それは『能力コピー』。対象とするライダーの状態を皆に与えている力があった。

 

 

『マイティ! クリティカルストライク!!』

 

 

ブレイブが選択したのはレーザー。現在レーザーはマイティアクションエックスの力を使い、必殺技発動状態となっている。

それがスナイプとブレイブにも与えられるのだ。

 

 

「そうそう、穂乃果ちゃんの家は和菓子屋だから継がなきゃいけないだろう? そんなの無理無理、おれはプロゲーマー志望だからさ」

 

「アイドルファン敵に回してまで付き合いたい女じゃねぇよ矢澤は。それに楽しいのは新婚だけって言うしな。特に矢澤なんざ子供生んだら絶対強くなるぜ」

 

「………」

 

一気に冷めた態度に変わるエグゼイド達。

 

 

「そうだ、現実はそうさ。だからこそ夢を見せる。永遠に現実の壁に直面する事のない幸福な夢を!」

 

「どうして、焦るんですか」

 

「何ッ!」

 

「穂乃果ちゃん達を巻き込まずとも、方法はあっただろうに……!」

 

 

他世界の超技術があるなら、穂乃果たちの役目も幻想で担う事ができた筈だ。

 

 

「それじゃあ世界は完成しなかった!」

 

「だったら待てばよかった! 全てが幻想で済むシステムを構築すればよかったッ!」

 

「私には――ッ!」『キメワザ!』『マドルシュバイク! クリティカルストライク!!』

 

 

旋回するゲンム。アポロンは咆哮を上げて金色の光を身に纏い、加速する。

 

 

「私には時間がないんだッッ!!」

 

 

そこに向かっていくエグゼイド達もまた、光を纏い加速していく。

その時、スピードメーターはグルグルと限界を突破して高速回転している。

 

 

「だったら、認めるわけにはいかないッ!」

 

 

横並びなるエグゼイド、ブレイブ、スナイプ。

アクセルグリップを限界まで捻り、凄まじい光を纏いながらアポロンに向かう。

 

 

「アンタが言ったんだぜ!!」

 

 

太陽に近づきすぎたイカロスは、その羽が溶けてしまい、地面に落ちて死んだ。

 

 

「いけないんだよ、アイドルの壁を壊しちゃ!」

 

 

ましてや――、そこでエグゼイドは仮面の裏でニヤリと笑う。

ましてや、嫌だろう? 穂乃果達が他の人と恋仲になるのは。

想像しただけで、ほら、吐き気がしてくる。

なんて、話も、あるの"かも"。

 

 

「ウォオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「ォオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

並び、目を見開き、エグゼイドは、ブレイブは、スナイプは、レーザーはスピードを上げた。

一方でそこに向かうアポロン。片方はピンクに水色などなどカラフルな光を纏い、片方は金色の光を纏い、互いの眼前に迫る。

 

 

「――ッ」

 

 

ふと、一瞬。ほんの一瞬だけエグゼイドは視界をズラす。

そこには、笑顔で歌っている穂乃果が見えた。

 

 

「―――」

 

 

笑う。そして、前を見た。

衝撃が走る。エグゼイド達と、アポロンがぶつかり合ったのだ。

大爆発が起こる。その衝撃に周囲のデータが吹き飛ばされ、あたりは一瞬で荒野に変わる。赤茶色の大地、黄金の空の下、地面を転がったのは――

 

 

「グゥゥウ! おのれぇええ!」

 

「ぐはッ! ゥウウ!!」

 

 

グラファイト。そして、ゲンムであった。

 

 

「ウォオッ!」

 

「グッウ!!」

 

 

いや、違う。相殺だ。地面を転がるスナイプとブレイブ。乗っていたバイクは超過ダメージによりデータが消滅。

マシンディエンダーとトライゴウラムはデータの残骸となり消え去った。一方で辺りには黄金の破片が散らばっているのが見える。

 

 

「大丈夫? キリヤくん!?」

 

「うん……! 大丈夫」

 

 

地面に倒れるレーザーと、地面を転がり立ち上がるエグゼイド。

ブレイブとスナイプも並び、四人は再びゲンムたちと視線をぶつけ合う。

 

 

「とにかくコレでアポロンは破壊し――!」

 

「いや、まだですよ会長」

 

「ッ、なに!?」

 

「ラスボスなんだ。第一形態で終わるワケがない」

 

 

思う。アポロンが『コア』であれば、破壊される可能性が視えた時点で撤退を選ぶだろう。

にも関わらず先程ゲンムはエグゼイド達に突進してきた。

それはつまり、今まで乗っていた大きなアポロンはフェイクである証拠。

とは言え、ディエンド達バグの存在を把握していた上で、自分から離れたところに保管しておくとも考えにくい。

何かあればすぐに手にでき、なおかつ一番安全な場所といえば――

 

 

「ガシャットのほうだ」

 

 

その通り。アポロンは二つに分かれている状態であった。

一つは今まで乗っていたマドルシュバイク。そしてもう一つは、ゲンムが装甲としている『アポロンアーマー』。どうやら心臓(コア)はアーマーの方らしい。

 

 

「どの道、アイツを倒さなければならないワケか」

 

「そう、第二ステージだ」

 

「いやッ、これがファイナルステージだ!」

 

「!」

 

 

飛び上がるゲンム。翼を広げると、後ろへ飛翔。すると空間を突き破り、その穴の中に消えていった。

どうやら本当に後がないらしい。エグゼイド達と戦うよりも、撤退を選んだようだ。

 

 

「逃がすか!」

 

 

走り出すエグゼイド達。

しかしここで後ろを見ていたグラファイトが笑い始める。

ゲンムがいなくなったことを確認すると、彼女は苛立ちの咆哮を上げ、地面を蹴る。

 

 

「!」

 

「クソガキがァアア! まさか私がお前達のようなクソデータにコケにされるとはな!!」

 

 

財団Xのプライドが許さない。グラファイトはどうやら『秘書・我李奈』の立場を捨てるらしい。

 

 

「全てを奪ってやる。どうせアイドルなど山ほどといるのだ。クロトも理解はできるだろう!」

 

 

そう言うとグラファイトは光に包まれて消えた。

 

 

「ッ、なんだ? ヤツはどこに――」

 

「おいおい、まさかとは思うけどよ……」

 

「そのまさか――、みたいですね」

 

 

決断は一瞬だった。

 

 

「分かれよう」

 

「人数は?」

 

「おれがゲンムを追う。みんなはグラファイトを頼む」

 

「かっこつけんな石神。普通2・2だろ」

 

「いやッ、向こうの方が『重い』。そうだろ?」

 

「………」

 

 

重い。その意味を理解したのか、スナイプは腕を組んで黙る。

 

 

「分かった。君の言うとおり、俺達がグラファイトを追う」

 

 

頷くブレイブ。レーザーもレベルワンに戻り、体を揺らして頷いた。

 

 

「わかった。死ぬなよ、石神」

 

「もう死んでるよ」

 

 

笑い合う四人。

 

 

「ウソだよ。ウソウソ。そう。おれは、まだ――、生きてる」

 

「ああ。だから、全てが終わったら、また会おう」

 

 

頷きあう一同。

そしてエグゼイドは踵を返し、ゲンムが逃げた穴に飛び込んだ。

そしてブレイブ達はステージセレクトにより、ワープを行う。今はこの世界全てがゲームエリア。

 

知っている場所ならばどこでも自由に移動ができる。

ブレイブ達はグラファイトがどこに飛んだのか、ひとつ、大きな心当たりがあった。

 

 

 

一方で場面を移そう。ミュージックが終わり、次の曲にしようかと言うところだった。

ツバサが地面に膝をつける。

 

 

「ツバサさん!」

 

 

駆け寄ろうとした穂乃果だが、ツバサが無言ながらも『大丈夫』とジェスチャーを送る。

あんじゅと英玲奈がツバサを抱き起こすと、三人は透けた体をジッと見ていた。

 

 

「ごめんなさい。ちょっと休憩してくるわ」

 

「えっ! あ……」

 

「少し長くなると思うから、このステージは譲るわね」

 

 

そのままの意味ではないことは、何となく理解できた。

 

 

「楽しかったわ、あなた達とのライブ」

 

「いい思い出になったよ。ありがとう」

 

 

あんじゅは手を振り、英玲奈は律儀に頭を下げる。

こうしてアライズは涼しげな表情のままステージを出て行った。

もちろん、アライズが帰ってくることは無かった。データである以上、延命の先には当然死が待っている。

しかしそれでも、彼女達は最期までスクールアイドルのトップである事には変わり無かっただろう。

 

これで、残るスクールアイドルは一組となった。

しかしまだ世界には人がいる。今も自分達にチャンネルを合わせてくれる人がいる。

少し前を見ると、カメラを持っているヒフミトリオが辛そうながらも、笑顔でサムズアップを行った。

 

 

「他の世界の歌もいいけど! わたし、ミューズファンだもん! ミューズの歌が聞きたいな!」

 

 

フミコが叫んだ。他の二人も、前の方で見ていたこころたちも頷く。

 

 

「ッ」

 

 

そこで表情を変える穂乃果。

立ち止まり、辺りを見回す。前列以外、誰もいないステージ。強い既視感を覚える。

 

 

「………」

 

 

フラッシュバックしていく光景。

元の世界でも、この世界でも、始まりは一緒だった。誰もいないステージ。

そして皆と出会った記憶があって、はじめは衝突とかもあったけど、仲良くなって、それで――、ラブライブを戦ってきた。

 

 

「本当だったよ。わたしにとっても」

 

 

誰に言うでもなく、穂乃果は口にした。

すると、他の8人も確かに頷いた。

 

 

「本当だったァ? 笑わせてくれますわね」

 

 

声が聞こえた。

穂乃果達が見たのは、体育館に入ってきたグラファイトだ。

ちなみに、現在穂乃果たちは専用のインカムを付け、そこから声をモニタの外に発信しているため、グラファイトの声はテレビの向こうにいる人間には聞こえていない。

 

 

「お前達のせいで人形に心が宿った。まるで付喪神みたいに」

 

 

思い切り壁を殴りつけるグラファイト。大きな穴が開き、穂乃果達は息を呑む。

 

 

「私は負けず嫌いなんですよ。だからね、ほら、このままだと引き下がれなくて」

 

 

剣を取り出すグラファイト。そこに赤い稲妻が走る。

 

 

「もういらないんですよ。貴女達は」

 

 

斜めに振るう。

そして、斜めに。

 

 

「激怒竜牙ッ!!」

 

 

クロスの斬撃が穂乃果達に向けて発射された。

 

 

「死ね。ミューズ!」

 

 

踵を返すグラファイト。

背後で爆発音が聞こえた。消える照明。真っ暗になった体育館をグラファイトは歩く。

小さく笑いながら息を吐いた。これで少しは気分が晴れた、と。

 

 

「!」

 

 

だが、そこで音楽が耳を貫く。

直後、カラフルなライトが体育館を照らした。そう、暗くなったのではない。暗くしたのだ。

そして流れる曲名は――、そう、『START:DASH!!』。かつて、からっぽのステージで穂乃果達が披露した曲であった。

 

 

「なに――ッ?」

 

 

振り返るグラファイト。爆煙がステージを隠している。

そこで終わるイントロ。9人の声が同時に響く。その瞬間、爆煙が吹き飛んだ。

 

 

「ッ! お前達は!!」

 

 

ステージの上で踊り始めるミューズ。

一方でそのステージを守る様にして、前方正面から見て中央にブレイブ、右にスナイプ、左にレーザー・レベルワンが立っていた。

激怒竜牙を防いだのはブレイブの盾。そして爆炎を吹き飛ばしたのはブレイブの剣。

 

 

「我李奈。いやッ、グラファイト! ここに来ると思っていたぞ!」

 

「ブレイブ! スナイプ、レーザー! おのれ……ッ!」

 

「もうミューズを切り捨てる気かよ。勝手な女だなテメェは」

 

 

スナイプは容赦なく引き金をひき、ガシャコンマグナムを一発ぶっ放す。

一方剣を振るい銃弾を弾くグラファイト。読まれた事は腹立たしいが、考えてみればこれはチャンスだ。

 

 

「知ってどうなる? 止めてみるか? この私を!」

 

「!」

 

「お前達の前でミューズを殺してやる!!」

 

 

二本の剣を構えて走り出すグラファイト。止めなければ、同じくして走り出すブレイブたち。

しかしいくらゲーマドライバーの力を得たと言ってもそれは絶対の力ではない。これでもグラファイトと同等くらいの力しかないのだ。

 

まず動いたのはグラファイトだった。

地面を蹴り、飛び膝蹴りではじめに向かってきたレーザーの頭部を打つ。

怯ませた所で剣を左に向けてなぎ払い、レーザーを切裂いて左へ吹き飛ばす。

さらに前進。迫る銃弾を腕でガードしながらグラファイトはあっという間にスナイプの眼前に迫った。

 

 

「クソ女が!」「クソガキが!」

 

 

歌が始まった。

ことりの声が聞こえる中で、回し蹴りを繰り出すスナイプだが、グラファイトは上体を後ろに逸らして回避すると、剣を二本突き出して、スナイプの胴体を捉える。

 

 

「グッ!」

 

 

火花が散り、剣先が僅かに装甲に入った。凛の声が聞こえた。

グラファイトは両手を上に挙げ、スナイプを後方へ投げ飛ばす。そしてさらに走るグラファイト。一方でブレイブが剣を構えて突っ込んでくる。

 

同時に振るわれる剣と剣。

ぶつかり合い激しい火花を散らした両者の刃は互いに弾きあい、大きく仰け反った。

だが踏みとどまったのはグラファイト。弾かれたのは左手。ならばと右手を振るい、もう一方の剣でブレイブの胴を切裂く。

 

 

「遅い!」

 

「チッ!」

 

 

体勢を整えた両者。

グラファイトは左の剣を縦に振り下ろし、ブレイブはそれを盾で受け止める。ならばと右の剣を横に振るうグラファイト。

ブレイブはそれをガシャコンソードで受け止める。

 

だがグラファイトはそこで蹴りを繰り出した。

足裏がブレイブの腹部を打ち、大きく怯ませる。そして続けざまに飛び回し蹴りでブレイブを真横に吹き飛ばした。

きっとその光景は今歌っている海未にバッチリと見えただろう。

 

にも関わらず、海未は、ミューズ達は、まるでブレイブ達などそこにはいないように笑顔を浮かべて歌っている。

その目はブレイブやグラファイトに一切見向きもせず、ただ真っ直ぐに、画面の向こうにいる『あなた』を見ていた。

あなた。貴方。貴女。画面を見てくれている全ての人だ。

 

 

「下らないッ! ああ下らない! アイドルごっこはもうおしまいですわ!」

 

 

希とのハイタッチを終え、歌おうとうする真姫を引き裂こうとステージへ向かうグラファイト。

だが抵抗感。振るおうとした腕に巻きつくワイヤー。

 

 

「あ?」

 

 

花陽のソロ。

グラファイトが後ろを見ると、そこには銃からワイヤーを伸ばすスナイプが。

ワイヤーを引き寄せ、つかみ、グラファイトをステージから引き剥がすように投げ飛ばすスナイプが見えた。

 

 

「ナメるなよォオ!」

 

 

にこのソロ。

倒れたグラファイトはすぐに立ち上がり、すぐ後ろにあった扉を掴むと、引きはがす。

そしてそれを思い切りミューズに。今現在歌っている穂乃果に投げた。大きな扉だ。大きな鉄の塊だ。

仮面ライダーならばともかく、ただの人間に命中すれば致命傷だろう。

 

 

「フンッ!」

 

 

だが飛び上がるブレイブがそれを炎の剣で切裂く。

二つになった扉は轟々と燃え上がり、そのパーツをスナイプが、レーザーが持っていた銃で撃ち弾く。なんのため? 決まっている。ミューズに当たらないためだ。

燃える炎の塊が丁度、穂乃果達の背後に落ちた。丁度その時、声をそろえる9人。爆発がライトとなり、逆光となった9人はシルエットに変わる。

 

ブレイブの炎によって消し飛んだ扉の欠片。

とは言え突如轟々と燃える物体が背後に飛んできたのだから、普通ならばミューズも驚くだろうが、そんな素振りは見せない。

 

それを見て、テレビを見ていたものは『ああ、そういう演出なんだな』と思うだろう。

もしも少しでも怖がってしまえば、それが画面の向こうにも伝わるからだ。

 

ストレスを与える事がアイドルのやることなのか?

 

いや、違う。絶対に違うはずだ。だから彼女達は何の問題も無く、サビを歌い始める。

それにあわせてブレイブは剣を、スナイプとレーザーは銃を使う。すると剣を振ったときに粒子が発生し、銃口からも同じくオレンジ色の粒子が振りまかれた。

直後、用意されていた座席全てにバグスターウイルスが出現していく。

 

バグスターウイルスとは当たり前の話だが、文字通りバグスターウイルスにより構成されるものだ。

であるならばそれで構成されているブレイブ達は、自分の中にあるバグスターウイルスを散布し、人型に形成させる事は難しくなかった。

 

 

「なに……!? なんのつもりだ!」

 

「こんな素晴らしいライブを空席にしては彼女達に申し訳が立たない」

 

 

ブレイブが生み出したバグスターウイルスは皆魔法使いのようなローブを身につけており、スナイプが生み出したものは軍服を。

レーザーが生み出したものはレーシングスーツを身に着けている。共通しているのは全員がケミカルライトやメンバーの応援うちわを持っている点だ。

それを振ることで、ライブを盛り上げている。

 

カメラが一瞬其方を捉えた。

すると人は、本気で思う。あれ? ステージに話題の化け物がいるぞ。

どういう事だ? みんなアイドルのライブを楽しんでいるじゃないか。

これはもしかして怖いことではないのか? もしかして――、これもまた、ドッキリなのだろうか。

 

それを本気で思う。

恐怖する心が脳をバグらせ、一種の洗脳状態に陥る。

それはまるでつり橋効果や、ストックホルム症候群のように。

 

 

「イラつかせるッ!」

 

 

走り出すグラファイト。邪魔なバグスターは剣でなぎ払い消滅させ、地面を蹴ると一気に跳躍。

ステージに飛び乗ると、端の方にいた希の前に立った。

すぐに近くにグラファイトがいるのに、希は其方を見ようともせず笑っている。

さらにカメラも一勢に希を外し、他のメンバーををアップにしてグラファイトの存在を無かったことにしている。

 

コケにされた気分だ。

グラファイトは剣を構えると、希のその真っ直ぐでキラキラした目を潰すために突きを繰り出し――

 

「!?」

 

 

腕が止まる。剣先がもうすぐで希の眼に届くという所で止まった。

凄まじい抵抗感。当然だ。グラファイトの腕を、体を、足を。ブレイブとスナイプとレーザーが掴んでいるのだから。

 

 

「貴様らァアア……ゥッッ!」

 

 

なによりも、そしてなによりも気に入らないのは希だ。

剣を突き出し、眼前にて止まったとき、希は僅かに細め、額に汗を浮かべていた。

当然だ。あと数センチでも剣が前にでれば刃が眼球を潰していたのだから。

 

しかしそれでも、希は笑顔だった。

いや希だけじゃない。すぐ隣でメンバーが攻撃されようと言うのにミューズの面々は一切其方に目を向けない。一切ダンスのキレを潰さない。

 

 

「ウォオオオオオオオ!!」

 

 

三人の仮面ライダーはグラファイトを後ろへ投げ飛ばす。

まだだ! グラファイトは持っていた剣を素早く投擲する。狙うは花陽の頭部。しかし他のメンバーはまた其方を見ない。気にしない。

もちろん花陽も今まさに向かってくる剣を見ようとしない。ちょっとした事で涙を浮べて慌てている彼女のイメージとは全く合致しなかった事だ。

 

 

「!」

 

 

銃声。そして弾かれ地面に落ちる剣。

見れば、スナイプが持つガシャコンマグナム、ライフルモードの銃口から煙が上がっていた。

 

 

「ヒステリーな女は嫌われるぜ? なあ? お・ば・さ・ん」

 

「スナイプ――ッッ」

 

 

ミューズに向かう攻撃をスナイプが撃ち落した。

そう、だからこそミューズは笑顔でいられる。

 

 

「殺すッ!」

 

 

腕を振るうグラファイト、すると新たな剣がその手に現われた。

どうやら無限に出現させる事ができるらしい。しかし一方で左手を振るうブレイブとスナイプ。

するとそこに、もうひとつのガシャコンソードとガシャコンマグナムが現われる。

通常、ガシャコンウエポンはひとつしか出せないが――、今は、二つの力が合わさっているのだ。不思議な話ではない。

 

 

【A】『コ・チーン!』

 

 

左手に氷の剣を逆手に持ち、右手に炎の剣を持ってブレイブはグラファイトに攻撃を仕掛けていく。

スナイプもまた二丁拳銃が火を噴き、レーザーもタイヤの銃で攻撃を仕掛ける。当然そのすぐ後ろで笑顔で歌って踊るミューズ。

前者はまったくカメラに映されず、テレビを見ている人間にはブレイブ達がいる事すら分からない。

 

皆が見ているのはミューズだ。ミューズのみ。それでいい。それを望んだ。

 

攻撃が飛んでくる。

殺意がすぐそこまで迫る。それでもミューズは笑顔を崩さない。

 

攻撃されないと信じている。

ヒーローが目の前にいるからだ。自分達を守ってくれる存在を、信じているからだ。

 

 

それにこれがミューズの戦いである。

 

 

炎の剣を出すことも、狙撃をする事も、バイクになる事なんて絶対にできない。ましてや人を殴る力もない。

 

けれど、殴らなくていい。

 

当たり前だ。自分達は殴られそうになっている人を守ること。笑顔にすること。それを使命としているのだから。

大丈夫、平気だよ、安心してね。その想いが今、少しでも多くの人に届きますように笑顔を浮かべましょう。ダンスを踊りましょう。

届いているでしょうか、この想いは。

 

 

「………」

 

 

いつの間にか、テレビの前にいる人たちは食い入るようにミューズを見ていた。

それは逃げかもしれない。いいんだ。辛い事を忘れてくれるなら今はそれでもいい。

そして外、小さなバグスターがずっとモニタを見ていた。ここあの服を着ていたバグスターウイルスはジッと、にこの笑顔を見上げていた。

 

 

『大丈夫だよ』

 

 

穂乃果はその想いを声に乗せる。

声が掠れても。ふらふらになっても。最後が来るまで、わたしたちは歌いましょう。

それが、ミューズにできる、唯一の戦いなのだから。

 

 

「ッ!? ぐあぁ!」

 

 

レベルアップしたレーザがグラファイトに突撃し、そのまま体育館の外に押し出していく。

 

 

「雑魚が調子にのるなよ!」

 

 

グラファイトは拳や爪でレーザーを滅多打ちにする。

次々と上がる火花。それでもレーザーは怯まず、タイヤを回転させてグラファイトをミューズから引き剥がしていく。

減少していくライダーゲージを自覚しておきながらもレーザーはスピードを一切緩めない。

 

 

「ミューズはッ、ボクが守る!」

 

「下らないプライドだ! 弱いお前が持つものじゃない!」

 

「プライドのために死ねるのが男だろッ!?」

 

 

急ブレーキ。グラファイトは地面を転がり、一方でレーザーも地面に倒れた。

 

 

「命を懸けてでも守りたいと思うものができた。それは男にとって何よりの喜びだ!」

 

 

エナジーアイテム、スピードアップによりブレイブは一瞬でグラファイトのもとへ到達。氷の剣で動きを止め、さらに赤い斬撃を刻みこむ。

 

 

「スカーレットブルー!」

 

 

ライダーアーツを発動。

二本の剣を下から上に振るい上げると、強力な炎を冷気が地面を伝い、グラファイトに直撃する。

しかしすぐにそれらはダブルブレードによって消し飛ばされ、両者は再び激突する。背後で歌声を聞きながらブレイブは無茶苦茶に剣を振るった。

 

 

凍牙(とうが)熱風陣(ねっぷうじん)!!」

 

激怒竜旋(げきどりゅうせん)!!」

 

 

熱波と冷気、赤い雷撃がぶつかり合う。

三度、四度、五度と打ち込んだ時だ。ブレイブの左の剣が弾かれ、右の剣が弾かれる。

 

 

「しま――ッ!」

 

「ハァアア!!」

 

 

赤い雷撃を纏った刃が一撃、ブレイブの肩に入り、装甲を抉り削る。

さらにもう一撃、胴体を削る刃。

 

 

「グぅアくッ! ガァア!!」

 

 

さらに足を切り抜く刃。

ブレイブは膝を突き、煙をあげて沈黙する。

 

 

「フフフ! 愚かな!」

 

 

もう一撃を加えるために剣を振り上げるグラファイト。

しかしそこで銃声。激しい衝撃にグラファイトは後方へ強制的に移動していく。

前方からはレーザーに乗りこんだスナイプが、ライフルモードに変わった銃を両手に構えているのが見えた。

 

 

「交代だ会長さんよ」

 

「ッ、すまん……!」

 

 

シートから降りたスナイプは辺りに散らばるドラム缶を次々に破壊。

目的のエナジーアイテム、『硬質化』をゲットする。

だからこそグラファイトの一振りをスナイプは肩で受けとめる事ができた。そしてグラファイトの腹部に銃口を押し当て、ゼロ距離射撃をお見舞いする。

 

 

「ずっと思ってた」

 

「アァ!?」

 

「エミの代わりにオレが死ぬべきだったと」

 

 

その間にブレイブはレーザーに乗り、地面に落ちた剣を回収していく。

 

 

「だが今、オレは思うぜ」

 

 

銃弾を連射しながら蹴りを、グリップでの打撃をスナイプはグラファイトに打ちこんでいく。

 

 

「オレが生き残ったのは――、間違いじゃなかったんだってな!」

 

「運命とでも仰りたいのですか? ハッ、滑稽な! 笑わせるなよ!」

 

「オレの礎になれ、グラファイト! お前を倒せば、オレはオレになる。オレが生きた意味も、エミが死んだ意味も、全ては本物になる」

 

「無駄だ! お前達は何もできずに死に! ミューズも消える!!」

 

「いやァ、矢澤は生き残るぜ。じゃないと、夢でオレ達を見てもらうことができない」

 

「ロマンチックですわね! もうそんな余裕も無いくせに!!」

 

 

硬質化は仰け反らなくなるが、ダメージを受けないわけじゃない。

現にスナイプのライダーゲージはみるみると減少していく。そしてグラファイトは計算していた。

エナジーアイテムの効果が切れる時間をしっかりと心の中で数えていたのだ。

 

 

「ゼロ」

 

「――あ」

 

 

硬質化が切れたと同時に、グラファイトは渾身の突きを繰り出した。

それはスナイプの胸に突き入ると、装甲を貫通して、肉体をも貫通してみせる。

 

 

「―――」

 

 

断末魔とも取れるスナイプの悲鳴が聞こえる。

そして膝を突き、スナイプは天を仰いだ。

 

 

「あぁ、そうか。データだから心臓が無いんですのね。忘れてました」

 

 

今のスナイプは大我の肉体を使って変身したものの、仮面ライダーの存在は『タイガ』として認識されている。

肉体も同じだ。データの集合体として存在しているため、全てがタイガ依存となる。故に肉体にダメージを受ければ血ではなく、データが飛び散る。

 

 

「――知ってるか?」

 

「は?」

 

 

スナイプは小さく呟く。

 

 

「マンガで見た。人間は、獲物を仕留めたと思ったときに、一番大きな隙ができるらしい」

 

「なに――を゛ッッッ!!」

 

 

ドンッ! と衝撃を感じ、グラファイトは真横に吹き飛んだ。

レーザーでのスピードを味方につけ、ブレイブが跳んだのだ。

そして思い切り剣を突き入れた。スナイプ同様にグラファイトの肉体にもガシャコンソードが突き刺さる。

しかもそれは氷の剣。冷気が体内に侵入していき、グラファイトは完全に凍りついた。

 

 

「――ァ」

 

「ハァ! ハァ! ハァ――ッッ!!」『ガシャット!』『キメワザ!』

 

 

喋る余裕も無いのか、ブレイブはフラフラになりながらも発光する剣を構えて走る。

激しく燃える炎をグラファイトに刻み、さらに突き刺さっている剣を抜くと、其方にもエネルギーが供給される。

強化された炎と氷の剣をクロスに刻みこみ、グラファイトを押し出した。

 

 

「アッ、グアァァ!」

 

 

よろけるグラファイト。

さらに苦痛の声を絞り出しながら、スナイプは剣が刺さったままガシャットをマグナムに装填した。

 

 

『バンバン! クリティカルフィニッシュ!!』

 

 

放たれた弾丸は一瞬でグラファイトの頭部に命中すると、大きく後方へ吹き飛ばした。

 

 

「グアァアアアァアアア!!」

 

 

ヘッドショット、さすがに余裕を見せることができないほどの大きなダメージが入ったらしい。頭を抑え、グラファイトは上ずった叫び声を上げる。

 

 

「おのれェエ――ッ!」

 

 

一瞬、皆止まる。

ブレイブは膝をつき、レーザーは倒れ、スナイプは胸に刺さった剣を引き抜いている。

 

 

「やってくれたなガキ共ッッ!!」

 

 

そして、一番先に動いたのはグラファイトだ。煙が上がる頭を押さえながらも再び走り、体育館に侵入する。

もうこうなれば意地だ。意地でも殺す。再びダブルブレードに雷撃を纏わせ、歌うミューズ達めがけて走っていく。

 

 

「させるかよッッ!!」

 

 

脚にしがみ付くスナイプ。しかしグラファイトはなんの事は無くスナイプを蹴り飛ばし、その背を踏みつけて前に進む。

殺意が近づいてくる。けれど相変わらず笑顔で歌っているミューズ。

当然、恐怖はある。凄まじい恐れがある。しかしそれを全て笑顔の仮面で隠しているのだ。

 

にこはふと前を見た。

小さなバグスターウイルスが二体、前列の席に座っていた。

一瞬目を見開く。しかしそれでも、にこは笑顔を浮かべた。

 

 

「仮面など引き剥がしてやる。激怒――ッ、竜牙ァ!」

 

 

再び赤い斬撃が発射された。

周りに仮面ライダーの姿は無い。今度こそ終わりか。ミューズは一瞬だけ視線を移動させてそれを確認する。だが――、逃げない。

それでもまだ信じているからだ。

 

 

「!!」

 

 

爆発が起こる。ミューズに怪我は――、ない。

爆煙の中から、ボロボロになったブレイブが姿を見せる。盾は既に崩れ落ちていた。

直撃をその身で受けてしまったのだろう。装飾も所々が崩れ落ち、ひび割れた装甲からは煙が上がり、データが粒子となって漏れ出ていた。

なにより、バチバチと帯電している姿は、なんとも痛々しいものであった。

 

 

「………」

 

 

一瞬だけ、皆の――、特に二年の眉がピクリと動く。

だがそれでも、ミューズは歌うのを止めない。言葉を紡ぐのを止めない。

スタートダッシュは、未来に向かう気持ちをメッセージにしているからだ。

間奏に入る。ブレイブはゆっくりと頷いた。そうだ、それでいい。コチラは気にする必要は無い。傷つけあう醜い姿を、人は知る必要がない。

 

 

「フンッ! スピードアップを使ったか! 忌々しい!」

 

 

ならばとグラファイトは再び走り出そうとする。

しかしそこで背に衝撃。アンカーが背中に突き刺さった。

スナイプは銃からワイヤーを伸ばし、グラファイトを捕らえると、レーザーに飛び乗りアクセルグリップを捻る。

発進するレーザー。グラファイトが進もうとする方向とは逆方向に強い力を加える。

 

 

「なるほど――ッ」

 

 

進もうとするグラファイトだが、後ろから引っ張られている状態だ。激しい抵抗感を感じる。

では、それを利用させてもらおうではないか。

 

 

「は?」

 

 

急に抵抗感がなくなった。スナイプが後ろを振り向くと、そこにはグラファイトの肘が見えた。

 

 

「ぐはッッ!!」

 

「馬鹿が! これが狙いですわ!!」

 

 

そう、ミューズはフェイク。

グラファイトは気づいた。ミューズを狙ったとき、ブレイブ達は必ずミューズを守ろうと動くために隙が生まれる事に。

引っ張られている事を利用して一気にスナイプのほうへ移動するグラファイト。

 

肘うちでスナイプをレーザーから引き剥がすと、剣を分離させて二刀流に。

そして反応が遅れたレーザーに向けて右手の一本を突き入れた。

 

 

「―――」

 

 

悲鳴が聞こえる。

竜の牙はレーザーのシートを貫通すると、車体を貫通して床に突き刺さった。

 

 

「キリヤ!!」

 

「待ってろ! 今助ける!!」

 

 

走るブレイブとスナイプ。

しかしグラファイトは笑みを浮かべて持っていた剣を床に突き刺す。

 

 

「激怒竜陣!!」

 

 

突き刺した剣を中心にして円形に広がる赤い雷撃。

地を這う雷撃はすぐに三人のライダーを捉えると、足を伝って激しい電流を全身に流し込んでいく。

 

 

「グアァアアアアアアアアアア!!」

 

 

悲鳴が三つ重なった。

 

 

「遊びは終わりだ!」

 

 

剣を投げるグラファイト。それはブレイブの鳩尾に突き刺さると、肉体を貫通する。

 

 

「が――ッ!」

 

 

さらに麻痺しているスナイプへ激しい肉弾戦を仕掛ける。

殴り、殴り、殴り、マントを掴んで尚、殴る。

膝蹴りで怯ませると、背中を殴り電流が流れる地面に叩きつけると、頭部を掴んで何度も地面に打ちつけた。

 

 

「雑魚が雑魚が雑魚がァア!!」

 

「―――」

 

 

意識が朦朧としてくる。

終わりか――? 三人がそう思ったときだった。

やはり、耳が拾うのは、ミューズの歌声だった。

皮肉にも走馬灯が今までの思い出を。生きた記憶を。皆の笑顔を見せてくれた。

そうか。そうだな。まだ終わりではないのだ。

生きている限り、終わりではないのだ。

 

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

叫び、目を激しく光らせるレーザー。

なんと身に剣が突き刺さったまま前進をはじめた。剣は抜けることなく、驚くべき事にレーザーの身を破るでもなく、レーザーに刺さったまま床を抉りながら進んでいく。

 

 

「ば、馬鹿な! この中を動けるだと!?」

 

 

当たり前だ。存在を燃やしているんだ。これくらい動いてもらわないと困る。全てを削っている。

存在を、データを。もはや1+1すら分からない。けれどそんなものはどうでもいい。最後に残るのは、ミューズを守りたいと言う思い。勝ちたいと言う信念だけでいい。

電流の中を走るレーザーは、そのまま呆気に取られているグラファイトに直撃、大きく吹き飛ばし、激怒竜陣を解除させる。

 

 

「グゥウ!」

 

 

地面を転がるグラファイト。一方で叫ぶブレイブ。するとその全身が炎に包まれ、突き刺さっていた剣が蒸発する。

さくせん、命を懸ける。走り出したブレイブの鬼気迫る迫力に、思わずグラファイトは動きを止めた。

 

 

「ぐはッ!」

 

 

そこで衝撃。スナイプは持っていた銃でグラファイトの顎を撃ち、怯ませると、地面を転がり、持っていた銃をブレイブ向けて投げる。

 

 

「ヒイロ!」「タイガ!!」

 

 

同じく武器を投げるブレイブ。ハンドガンモードのガシャコンマグナムがブレイブに。氷の剣になったガシャコンソードがスナイプの手に渡った。

そして、二人は叫び、武器を振るう。ハンドガンを連射しながらグラファイトを怯ませ、ブレイブは炎の剣を振るう。

一方で氷の剣で動きを止めた後、ライフルの重い一撃を与えるスナイプ。グラファイトは悲鳴と火花を上げて後方へ転がる。

 

しかしグラファイトもやられてばかりではない。

剣を出現させると、ブレイブ達と激しい乱舞を繰り広げる。

火花が散った。データが散った。スナイプの左腕が飛んだ。

それでもまだ、剣を振るう。

 

 

「何故だ――ッ」

 

 

グラファイトは焦った。恐れた。

何故、死を恐怖しないのか。

 

 

「決まっている。心がそれを望んだ」

 

「!」

 

「生きている証だ。俺達が、生きた証拠だ」

 

 

その時、二つの剣がグラファイトの胴を、胸を突いた。

後退していくグラファイト。動くブレイブ、レーザーに駆け寄ると、剣を引き抜き、投げ捨てる。

一方で片腕となったスナイプは右手に持っていた剣を投げ捨てると、ガシャットを抜いて、キメワザスロットホルダーに装填する。

 

 

「終わりだ。なにもかもな!」『ガシャット!』『キメワザ!』

 

 

地面を蹴るスナイプ。

 

 

『バンバン! クリティカルストライク!!』

 

 

吼え、右足を突き出すスナイプ。

すると足裏からマシンガンのように光弾が連射され、グラファイトに着弾していく。

 

 

「グゥウ!」

 

 

腕をクロスさせて防御を取るが、そこに飛び込んでいくスナイプ。

 

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

足裏がグラファイトの腕に直撃した。

衝撃から後ろに大きく仰け反り、踏ん張りが利かなくなる。

 

 

『爆走! クリティカルストライク!!』

 

 

そこでグラファイトが見たのは、すぐそこに迫るレーザーだった。

マフラーから大量の炎を吹き出しながら、レーザーはグラファイトに直撃する。

 

 

「グアァアアァアア!!」

 

 

壁を突き破り外に吹き飛んでいくグラファイト。

何度か空中を回転しながら、何とか勢いを殺すために腕を地面について摩擦でブレーキをかける。

白い煙が上がる中、グラファイトは呼吸が止まるのを感じた。

 

 

(ヤバい――ッ!!)

 

 

予想外だ。ここまでゲーマドライバーの力が驚異になるとは。

視界が濁り、意識が朦朧とする。グラファイトがなんとか上を見ると、そこにブレイブの姿があった。

 

 

「ハァアアアアアアアアアアアアア!!」『タドル! クリティカルストライク!!』

 

「ッ!! アッ、アァ……ッ!!」

 

 

赤く発光するブレイブは、攻撃力アップを使った証。そのまま突き出す両足。

右足に炎の力が、左足に氷の力が宿り、赤と青の軌跡を残しながらグラファイトに飛び込んでいく。

グラファイトはまだ怯んでいる状態。ましてや既にレーザーの攻撃をまともに受けた後だ。このままでは――ッ!

そこで、丁度歌が終わった。

 

 

「ヤァアアアアアアアアアア!!」

 

「グガァアアァアアァアアア!!」

 

 

両足が胴体に突き刺さる。

両手両足をバタつかせながら後方へ吹き飛んでいくグラファイト。着地を決めるブレイブの前で地面に墜落し、エネルギーを撒き散らす。

 

 

「アッ! アァアアア!!」

 

 

エネルギーを抑えようと次々至る所に手を当てるが、暴走を抑えられない。

体の芯から広がっていく激しい熱に、グラファイトは終わりを察する。

 

 

「なッ! 何故だ……! これがゲーマドライバーのッ! いやッッ!!」

 

 

違う。確かにゲーマドライバーは最もたるイレギュラーであった。

が、しかし、それでも戦いの中でブレイブ達の心が砕ける瞬間は何度とあった。にも関わらず彼らは必ず立ち上がり、歯向かってくる。

 

 

「理解できないッ! みゅ、ミューズか!? あぁ! クソッッ!!」

 

 

そう。心が折れかかった時、ミューズの声が聞こえたからブレイブ達は立ち上がった。

そして食い下がる中で、グラファイトの熱量を上回った。それだけの話だ。

 

 

「コッチは遊びでドルオタやってるわけじゃねーんだよ」

 

 

膝をつくグラファイトの前に、ボロボロの三人が並び立つ。

 

 

「好きな人がそこにいるんだ」

 

「格好悪い姿は、見せたくないからな」

 

 

男には、プライドがある。

それを聞くとグラファイトは怒りに吼えた。

 

 

「理解できるかぁアァア! ぐッ! ぐあぁぁあぁぁあぁああ!!」

 

 

大爆発。さらに爆炎から我李奈が吹き飛び、地面を転がる。

そして地面に落ちるバラバラになったメモリ。

 

 

「!?」

 

 

さらに我李奈に異変が起こる。

その体が粒子化をはじめたのだ。

 

 

「な、何故! 拒絶反応(リジェクションだと)!?」

 

 

頭を押さえる我李奈。『空きメモリ』に記憶で作ったグラファイトのデータを入れただけの代物に何故?

 

 

「まさか、クロト!!」

 

 

どうやら、我李奈が腹に一物あるのはバレていたらしい。

だからこそ、裏切られる前に、裏切ったのだろう。隙を見てガイアメモリに仕込まれたか。

 

 

「クッソォォオオオオ!!」

 

 

吼えながら我李奈は消滅した。

虚無となった場所を見つめ、三人のライダーは皮肉に笑った。

 

 

「………」

 

 

スナイプは片腕となった体を見つめる。

痛みは――、あるにはあるが、そもそも『左腕』など所詮幻想にしか過ぎない。

だからか、ブレイブはスナイプの『左腕』を掴んだ。

 

 

「!」

 

 

幻肢痛と言うものがある。

たとえば事故によって足を失った人間が、なぜかつま先に痛みを感じる――、と言ったものだ。それと同じように、手が掴まれる感覚を覚えるスナイプ。

気が付けば、左腕がそこに存在していた。

 

 

「しっかりしろ。そんな姿でミューズの前に出る気か」

 

「……ああ。悪いな」

 

 

掴んだ腕を離すブレイブ。

スナイプは出現した左手をジッと見つめた。紛れも無く、化け物である証ではないか。

 

 

「面白いなコレ。頭を潰しても大丈夫なのか」

 

「当たり前だ。俺達はデータの集合体。脳みそなんてない。あるのはただ――」

 

 

そこでブレイブは自らの胸を抑えた。

心臓ではない。その先にあるものだ。

 

 

「……いこう」

 

「ああ」

 

 

三人は体育館に戻る。

カメラマンは皆、バグスターウイルスになっていた。それでもミューズは歌うのを止めない。既に着替えも終わっており、ステージにならんでいた。

そこで現われた三人に気づいたのか。嬉しそうに微笑んでみせる。

 

ブレイブも手を挙げ、スナイプはサムズアップ、レーザーは手を振ることで勝利を伝えた。

だがミューズは気づいただろう。三人の仮面ライダーもまた、体にノイズが走っているのを。

なにより、そこにはエグゼイドの姿はない。やられてしまったのか? いや違う。ゲンムの姿も無い以上、一同はなんとなく状況を察した。

だから海未は、ことりは、穂乃果の肩に手を置く。

 

 

「ッ」

 

「穂乃果」「穂乃果ちゃん」

 

 

振り返る穂乃果、すると他のメンバーも穂乃果を見て頷いた。

一方で、それをジッと見ているレーザー。

 

 

「どうした? キリヤくん」

 

「あの……、ねえ、ヒイロくん」

 

「?」

 

 

ヒイロくん。レーザー――、キリヤはいつもヒイロを羽水先輩と呼んでいた。

それを、もう、覚えていないのだ。

 

 

「ひとつ聞いてもいいかな?」

 

「ああ。なんでも聞いてくれ」

 

 

レーザーはミューズを見て呟く。

 

 

「凛ちゃんって、どの子?」

 

「――どの子だと思う?」

 

 

スナイプがレーザーの頭に手を乗せて問いかける。

考えるレーザー。『凛』と言うくらいなのだから――、凛としてそうな絵里を指差す。すると笑い出すブレイブとスナイプ。

 

 

「ひ、ひどいよ二人とも……!」

 

「すまない。あの子だよ」

 

 

ブレイブが示したのは、確かに星空凛。

レーザーは言葉はないものの、凛を見ながらゆっくりと頷いた。

 

 

「ボクは――、守れたんだよね?」

 

「ああ。お前がいなきゃ、勝てなかったよ」

 

「そうだ。キミのおかげだ」

 

「そっか……、うん。ありがとう。ブレイブくん。えぇっと」

 

「スナイプだ」

 

「うん。ありがとう。スナイプくん」

 

 

キリヤは一度死に、復元された。

その際に使用されたデータはかき集められたために少ない。

それがジワリジワリと減っていくのだ。ましてや先程の戦いで体に穴を空けられた。

傷口からは大量のデータが流れていったのは自覚している。『こうなる』のは、当然なのだ。

 

 

「ボ――」

 

 

声にノイズが入った。

レーザーは首を振ると、踵を返して体育館から出て行こうと足を進める。

 

 

「待てよ。どこ行くんだ」

 

「―――」

 

 

声が出なかった。

喉と言う概念、声と言うデータが消えたのだ。

 

 

「行こうキリヤくん。ここまで来たんだ。最後に混ぜてもらってもバチは当たらないさ」

 

「―――」

 

 

レーザーの大きな手を握るブレイブ。

すると一瞬。ほんの一瞬だけ装甲が消え。キリヤが見えた。

目に光は無い。声はでない。それでも、キリヤは嬉しそうに微笑み、頷いた。

 

 

「ここでみんなにお知らせがあります」

 

 

ステージの上に立ったにこが、テレビを見ているかもしれない人間に向けてメッセージを送る。

果たしてあと何人いる? 分からない。けれど一人でもいれば、それでいい。

 

 

「うちのリーダーである穂乃果が、ちょっと用事が出来ちゃって、次の曲に参加できません」

 

 

穂乃果はステージを降りて走った。

どうしても、行かなければならない場所があるからだ。穂乃果は走り、走り、ブレイブ達の横を通り抜ける。

 

 

「ありがとう」

 

 

そう言われた。穂乃果は泣いていた。

頷くブレイブ達。その言葉が聞ければ、他には何もいらない。

そしてにこは言葉を続ける。

 

 

「でも代わりに、素敵なゲストが来てくれました!」

 

 

音楽が始まる。『僕らは今の中で』。

その中で、ステージに上がるのは三人のレベルワン。みな手を振りながら歩き、ミューズも笑顔で迎える。

ふと、スナイプがこけた。レベルワンのファンシーな姿では、それも笑いに変わる。

 

 

「レーザー! お母さん! レーザーくんだ!!」

 

 

ある場所。レーザーのぬいぐるみを持った子供が苦しげに寝ている母に駆け寄っていく。

 

 

「………」

 

 

ある場所。ブレイブのお面を被った子供がジッと画面を見つめていた。

 

 

「あぁ……」

 

 

老人が、今となっては存在していない孫が買ったスナイプの人形を握って、天に祈っていた。

そんな中で、歌いはじめるミューズ。レベルワンもまたその背後で踊り始める。

 

以前ミューズと一緒にPVを撮影する企画があった。結局その前にゲンムが動いたため、それが叶うことはなかったが、踊りだけはなんとなく覚えていた。

いや、間違って動いてもレベルワンならばユニークな動きとして受け入れられる。ミューズ達も普段の振り付けとは違い、それぞれの担当ライダーに駆け寄った。

 

サビに入る。

一緒に踊りをあわせる二年とブレイブ。一緒に『にこにーポーズ』をしている三年とスナイプ。笑顔でレーザーを抱きしめる一年。

 

その中で、希がポーズを決める。

それを合図に二年と三年は声のボリュームを上げた。

なぜか? 決まっている。言葉が詰まる一年を助けるためだ。凛も、花陽も、真姫も、笑顔を浮かべるので精一杯だった。

声を出そうとすると、どうしても震えて上手く歌えない。

 

 

ステージの上にいるのは、10人。

 

 

穂乃果が抜けたから。

海未とことりと、凛と花陽と真姫と、にこと絵里と希。

そしてゲストのブレイブとスナイプ。この10人だった。

 

そして客席の多くが空席となる。

レーシングスーツを着ていたバグスターウイルスは全て消え去った。だってそれを生んだコアが消えたのだから。

代わりに、先程まではいなかった男が座っていた。

九条貴利矢は、サングラスを外し、音楽に合わせて肩を揺らしていた。

貴利矢は見る。ミューズを。特に凛をだ。どうしても見ておきたかった。

心の隅に置いておきたかった。『彼』が、命を懸けて守ったものをだ。

 

 

「さて、と」

 

 

聞いていたいのは山々だが、少しやる事がある。貴利矢は席を立つと、体育館を出て行った。

一方で歌は2番に入る。それでもミューズは笑顔を崩さない。崩すわけにはいかない。

まだ彼女達は戦っているのだ。たとえ、その途中、スナイプがステージを降りて、客席の前に倒れてもだ。

 

 

「………」

 

 

体が粒子化を始める。

もう立ち上がる力もないのか、腕を震わせながら地面を這うように移動するスナイプ。少しずつミューズから離れていく。

 

 

「よく――、まあ、持ったほうだろ……!」

 

 

息を荒げ、ふと、スナイプはなんとか体を起こし、後ろを振り向いた。

 

 

「………」

 

 

知らない女の子達が踊っている。

しかし一人だけ、知っている人がいた。

 

 

「エミ」

 

 

世界で一番可愛い女の子が、そこで楽しそうに踊っていた。

 

 

「良かった。なれたんだな。アイドルに……!」

 

 

お兄ちゃん。お前のために頑張ったんだ。たくさん、たくさん、頑張ったんだ。

震える腕を伸ばすスナイプ。

 

 

「!」

 

 

そこで、エミはリボンを取った。

髪をおろし、ストレートになった『にこ』を見て、スナイプはため息をついた。

 

 

「やっぱ、お前は……、酷い女だぜ」

 

 

中指と薬指を曲げて手を振るスナイプ。

にこは手を振った。ニヤリと笑っている。

 

 

(どう? 悔しいでしょ? アンタが最期に見るモノは、この矢澤様なのよ)

 

 

目が語っている。

スナイプはもう一度笑うと、糸が切れた人形のように倒れた。そして目が消える。直後、その存在が弾けて消滅した。

 

 

「………」

 

 

切なげな表情で歌えるパートでよかった。

にこは、絵里は、希はジッとスナイプが消えた場所を見つめながら歌っている。

そんな彼女達を、体育館の入り口で花家大我が観察していた。

 

 

「フン」

 

 

大我は踵を返し、体育館を出る。

しかし、ふと、壁にもたれかかって歌だけを聴いていた。

サビに入る。ミューズ達は手を繋ぎ、己の存在を確かめ合った。

 

今ココにいると言うこと。そしてその先には、ブレイブもいる。

たとえそれが夢だっとしても、それは素敵な明晰夢。この世界で学んだ事、経験した事、忘れてしまうときが来るとしても、少なくとも今は覚えている。

辛いときはある。悲しいときはある。けれどそれを超える事が確かにある。

 

なんだっていい。

美味しい物を食べたり、友達と一緒に遊んだり、それとか、だとか、そう、『好きなことで頑張れる事』だったり。

どの世界であったとしても、素敵な事がある。辛い事を忘れさせてくれるもっと楽しい事がある。

それを伝えたかった。それを教えたかった。みんなで一緒に笑ったこと、みんなで一緒に挑んだ事は忘れないから。

 

 

「ありがとう」

 

 

小さな声が。

ずっと心の中に残っているから。だから、笑おう。笑って、笑って、みんなにもこの笑顔が移るように頑張ろう。

特別な事が言える訳じゃない。だから、それでも歌う。

 

少しでも自分達の姿を見て、誰かが、何かを感じてくれるように。

最後の大サビ。思わず涙が零れてしまう。けれど笑っていれば、その涙はマイナスにはならない。

だから皆笑った。ミューズだけが立っているこのステージで、必死に笑い、踊る。

 

 

「………」

 

 

飛彩は後ろの席で腕を組み、それをジッと見ていた。

音楽が終わる。その最後までミューズは悲しい表情を見せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ! ハァ!」

 

 

穂乃果は息を切らしながら必死に走っていた。

バグスターウイルスの範囲内に入らないように慎重にルートを選びながら少しずつ前に進んでいく。

しかしやはり完璧ではない。ふとした瞬間、真横にバグスターウイルスが迫る。

 

 

「きゃあ!」

 

 

目を閉じる穂乃果。

するとエンジン音が聞こえ、直後バグスターウイルスが吹き飛んだ。

なんだ? 目を開くと、そこにはレーザーレベル2が。

 

 

「ほらほらお嬢ちゃん、乗った乗った」

 

「キリヤくん――?」

 

 

いや違う。キリヤの声じゃない。この声は――

 

 

「貴利矢さん……!」

 

「ここまで来てお嬢ちゃんに死なれると、チビくんの頑張りが無駄になっちまう。そんなの萎えるってレベルじゃないでしょ? だからさ、ほら、はやく」

 

「は、はい! ありがとうございます」

 

 

穂乃果はレーザーに乗ると、目的地を口頭で説明しながら走っていく。

何のためにどこを目指す? 決まっている。全ては、エム――、エグゼイドのためだ。

 

一方でそのエグゼイドとゲンムは病院のロビーで戦っていた。誰もいない空間。

クロトがアポロンの力を使って一番初めに作った、通称『夢の墓場』だ。紫色のライトに照らされた、誰もいない待合室。

薄暗い空間でエグゼイドとゲンムは拳を打ち付けあった。

火花を散らして後方に飛んだのはエグゼイド。並べられていた椅子は撤去され、広い床を転がっていく。

 

 

「人は、上のものに認められる事で快楽を得る」

 

 

踏みとどまったゲンムは語る。

だからヒイロを作った。生徒会長が主人公を褒めるようになる。立てるのだ。

 

 

「生きている実感を得ることは大切だ」

 

 

だからタイガを作った。エミの話を聞けば、生きている素晴らしさを人は理解できるだろう。

 

 

「下を見て安心することにより承認欲求や自尊心は満たされていく」

 

 

だからキリヤを作った。

上を見るよりは下を見たほうが気持ちが楽でいい。

そしてミューズ。愛し、愛される事、全ては完璧だった。

 

 

「なのに……、どこで間違えた?」

 

「医者はデータだけを見てればいいのか?」

 

 

エグゼイドはうめき声を上げながらも立ち上がると、再び全身を叱咤させて走り出す。

 

 

「違うだろ! 患者と面を合わせる事が大事な筈だ! 何のためか、考えてみろよ!!」

 

 

突き出した拳。しかしそれらは面白いようにすり抜けていき、代わりに黄金の拳が次々に体を打っていく。

 

 

「素人が面白いように語る」

 

「グッ!」

 

 

エグゼイドはガシャコンブレイカーを出現させて、ハンマーを振るう。

 

 

「ドラマで見たんだ! アンタが用意したんだろ!!」

 

 

右腕のガントレットでハンマーを受け止める。

さらにここで光が迸った。右腕にあったガントレットが消えて、バグヴァイザーの中に吸い込まれる。

右腕に装備されたバグヴァイザーがアポロンの力を受けて強化されたのだ。現にマシンガンのように放たれる黄金の弾丸はエグゼイドに次々と命中するとはるか後方に押し出していく。

 

 

「ドラマか。この世界にあるエンターテイメントのほとんどは私の世界からコピーペーストしたものだ。私は内容を確認してはいないよ」

 

 

そもそも、ドラマを見る時間なんてなかった。ドラマだけじゃない、映画、漫画、ゲーム、そんなものとは一切無縁の人生だった。

 

 

「――分からないな。楽しいのか? そんな人生」

 

「フッ、そうだな。キミから見ればつまらない人生だろう」

 

 

バグヴァイザーの数値を操作するゲンム。

 

 

「現に私もそう思った。だがそれでも、それが私の生きる道だった」

 

「!」

 

「キミには何かあるか? 夢や信念が」

 

 

意思ひとつでバグヴァイザーが反転する。

震動する刃に黄金のエネルギーオーラが纏わりつき、リーチが伸びる。

黄金の剣を振るうゲンム。エグゼイドは身をひくくして一撃目を回避すると、跳躍で二振り目を回避する。

 

 

「アンタが設定したんだろ! おれは――」

 

 

言葉が詰まる。それが隙となり、エグゼイドのわき腹に刃がめり込む。

 

 

「ガァアアア!!」

 

 

地面を転がるエグゼイド。

痛み――、よりも今は頭を押さえる。

エグゼイドは、自身が追いかけていた『夢』が全く思い出せなかった。

 

 

「キミが相手になってくれて助かった」

 

「ッ! お前! 何をした!!」

 

 

エグゼイドは、過去の記憶が全く思い出せなかった。

あの日、いつか、穂乃果と夢を語り合った筈の日。

 

 

「そんな物は無かったよ」

 

 

データでそう設定しただけ。どうやらそれは、『管理できるデータ』のようだ。

いくらガシャットの力でバグとなろうが、全てが管理できないバグスターウイルスで構成されているワケじゃない。管理できるデータを次々とゲンムは削除していく。

ゲーマドライバーを使おうが、今はエムの力が前に出ている状態。干渉は可能だった。

ましてや面白い事に、管理できる記憶データは過去のものばかり。

 

 

「私はキミに多くの思い出を与えてあげた。穂乃果くんとの距離を繋ぐ橋とするために」

 

 

辺りに出現していくホログラム。それは全て幼き日のエムと穂乃果を映していた。

心霊映像を見て震えていた日、その映像をゲンムは光弾で撃ち砕く。

すると頭を押さえるエグゼイド。脳にノイズが走る感覚。その日の記憶が全く思い出せない。

 

 

「偽りの記憶で一喜一憂するキミ達は――、酷く滑稽だ」

 

 

虫を潰した話や、一緒に映画に行った話、外食した話など、次々にデータが破壊されていく。

ダメだ。エグゼイドは首を振ると、近くにあったブロックを破壊してエナジーアイテムを獲得する。

 

 

「攻撃力アップ!」

 

「私はね、憂えているんだよ」

 

 

頭部のセミの王冠が鳴き声をあげ、羽をはばたかせた。

するとその音波がエナジーアイテムの効果をかき消し、それだけでなく効果をゲンムに移動させる。

 

 

「そ、そんな!」

 

「悪いね。これもまた、私が管理するデータの一部でしかない」

 

 

攻撃力が上がったゲンムはエグゼイドに距離を詰めると、黄金の剣を振るいその身を切裂いていく。

 

 

「グアァアアア!!」

 

 

激しい火花が散り、エグゼイドから悲鳴が上がる。

 

 

「クソッ!!」

 

 

バックステップ、さらにチャージ後に地面を叩くエグゼイド。

ゲンムの足元から階段状のレンガブロックが飛び出し、エグゼイドは跳躍でゲンムの頭を踏みつけた。

 

 

「おっと!」

 

「来た!」

 

 

無限キックが決ま――。

 

 

「スペックが違う」

 

 

ゲンムはなんの事なくバグヴァイザーを真下に向けて銃弾を発射する。

粉々に砕け散るレンガブロック。さらに降って来た足を掴むと、そのまま投げ飛ばして光弾をおまけに一撃。

 

 

「グアァアア!!」

 

 

データが血液のように飛び散り、エグゼイドを構成するモノを次々に破壊していく。

その中でゲンムはダウンしたエグゼイドを掴みあげると、投げ飛ばし、ホログラムに直撃させた。

砕け散る思い出、それは、エグゼイドの記憶からも。

 

 

「ぐッ! あぁあう゛ァ!」『ジャ・キーン!』

 

 

切りかかるエグゼイドだが、その刃を弾き、ゲンムは逆に黄金の一撃を刻み付ける。

 

 

「ゲーマドライバーの力は素晴らしい。しかしそれでもまだ、私のアポロンが先を行っているようだな!!」

 

「グッ! ガハッッ!!」

 

 

振り払う剣が空を切る。

一方でいつの間にかエグゼイドの背後に回っていたゲンム。背中を切りつけると、肩を掴んで引き寄せる。

そして背に銃口を突きつけるとゼロ距離射撃。再び前方に向かってヨロヨロと進むエグゼイドに、黄金の剣を刻み付ける。

 

 

「うッッ!!」

 

 

振り返るエグゼイド。

 

 

「いいか? もう一度言う。キミはデータだ」

 

 

一方で再びバクヴァイザーが回転させるゲンム。銃がメインとなる。

 

 

「穂乃果さんたちとの思い出は全て私が用意しただけにしか過ぎない。そしてミューズとの関わりも同じだ。全て私が望んだものにしかすぎない」

 

 

弓を引くアクション。すると黄金の弓が出現し、手を離すとバグヴァイザーの銃口から黄金の矢が発射された。

それは丁度立ち上がったエグゼイドの胸に突き刺さると、肉体を貫通。そのまま背後にあった壁に突き刺さる。

 

 

「ぐッ! がぁあぁあぁあぁあ!!」

 

「いいか? 人間は心臓を射抜かれれば死ぬ。にも関わらず君はそうじゃない」

 

 

流れ出るのは血液ではなくデータ。人間ではない証だ。

だと言うのにエグゼイド――、エムはまるで心が宿ったかのような立ち振る舞いをする。

穂乃果たちと関わって心が生まれた? まだ生きてる? 生きていれば終わりじゃない?

 

 

「生きてもいないお前達が。人間でもないお前達がさも当然のように人を語る。私はそれが堪らなく腹立たしいんだ」

 

 

肩を貫く矢、膝を貫く矢、掌を貫く矢、そして喉を矢が貫く。

 

 

「ゴフ――ッ」

 

「命を持つ人間は何よりも尊い。ただのデータがそれを語るな!!」

 

 

黄金の剣を振るうゲンム。周囲のホログラムが全て破壊され、エムの記憶データが削除されていく。

 

 

「――ッッ」

 

「アポロンは医療の神だが――、少々残酷な一面も持ち合わせていてね。放った矢から広がる疫病で大量の人間を殺したり、生きたまま全身の皮膚を剥いで殺した事もあった」

 

 

矢に磔にされているエグゼイドの前にゲンムは立つ。

 

 

「皮で包まれた人間は個性に溢れるが、剥がれるとなかなか見分けはつかないものだ」

 

 

個性は大事だ。ゲンムもそれを重要視し、このシステムを構築したのだから。

 

 

「諦めろエグゼイド。負けを認めるなら、お前はお前のまま殺してやる」

 

「……ッ」

 

「もう十分だろう? お前のワガママに私は付き合ってやった」

 

 

データの人間ごっこに付き合い、ここまできたのだから。

 

 

「お前は穂乃果のために戦い、死ねる。それほど幸福な事はないと思うが?」

 

「……でもッ、守れなきゃ意味がない」

 

「………」

 

「他者に認められる事。他者に必要とされる事。最高だ。ああ最高だね! でももっと欲しいものがある」

 

 

エグゼイドは苦痛の中でしっかりと笑った。

 

 

「おれが、おれを欲する事さ。自分が自分を認めること。胸を張ってお前はよくやったって言えること!」

 

 

ここで負ければ、エムは、エムを褒めてはやれない。

 

 

「思い出した。約束――ッ、したんだ」

 

「……ハァ。そういうデータがあったな」

 

 

バグヴァイザーがひとつのホログラムを映しだす。

昔、穂乃果が意地悪されたときに守ってあげた記憶だ。そこでエムは穂乃果を守ると誓った。

もちろんそんな事は、ゲンムが設定したベタベタな記憶でしかない。ゲンムはそれを蹴破ると、破壊してみせる。

キラキラとした思い出の破片が宙に舞う。エグゼイドの頭から、またもごっそりと穂乃果との思い出が消え去った。

 

 

「ァ―――! ヵ」

 

「いいか? 前に言ったが、これらは全て穂乃果に埋め込んだ恋心を継続させるための1パーツにしかすぎない!」

 

 

そして、もはやその恋心さえ穂乃果からはデリートされた。

 

 

「お前はもう誰にも愛されていない! 後はお前だけだ。お前だけが穂乃果への恋慕を持っている」

 

 

それを壊すのは心苦しい。

だからこそココで終わりにさせてやると言っているのだ。穂乃果への恋慕を守ったままで死ねばいい。

そうすればせめて、本物を想いながら消える事ができる。そこには僅かな真実、一寸の『本物』が宿るかもしれない。

しかしこのまま傷を負い続ければエグゼイドは穂乃果を忘れたままで死んでいくだろう。

そうすれば本当にカラッポのまま死んでいくことになる。

 

 

「私は命に対しては寛大だが、ただのデータであるお前ならば迷いなく殺せるぞ」

 

「おれは――ッ、カラッポじゃない!」

 

「?」

 

「おれはッッ、生きてる!!」

 

「皮肉だな。同じ言葉をくり返す。まさにゲームキャラクターそのものだ」

 

 

エグゼイドの頭部を掴むゲンム。

するとバグヴァイザーの銃口をそこへ押し当てた。

 

 

「う゛ッ!!」

 

「記憶を読み取らせてもらう。キミがそこまで固執する理由を見せてくれ」

 

 

脳が、記憶が、思い出がミキサーされる感覚にエグゼイドは悲鳴を上げた。

一方で『輝く』ソレを見つけたゲンム。

 

 

『ねえ、将来の夢とかある?』

 

『んー、わかんない!』

 

『ぼくはあるよ!』

 

「あぁ、これか」

 

 

笑う。そして映像を出すと、思い切り蹴りつける。

 

 

『あ! ???もあっ?よ! しょー??のゆ?!』

 

『え? なに?に? 教?て??いな』

 

『あ?たの????になる!!』

 

『……?ッ、あり??う』

 

『あー! うれ??う?ゃない!!』

 

 

 

映像が、記憶がぶれる。

ゲンムはさらに映像を蹴り、そして、打ち破る。

 

 

「がァアアア!!」

 

 

映像が砂嵐に覆われ、エグゼイドは上ずった叫び声を上げた。

一方で笑い続けるゲンム。我ながら恥ずかしい記憶だと口にする。

 

 

「恋愛ゲームを真似たんだ。なかなかありがちだろう?」

 

「――がッッ、グッッ!!」

 

「あぁ、もう忘れたか。失礼失礼」

 

 

少し距離を空け、直後、ゲンムは無数の光弾をエグゼイドに当てていく。

矢によって壁に磔にされているエグゼイドによける術はない。次々と体が爆発を起こし、エグゼイドの体は火花と爆炎に覆われていく。

 

 

「だが創作でベタとされる事も、現実じゃあそうそうありえない」

 

 

苦痛の悲鳴も、もはや爆音にかき消される。

 

 

「キミは私のベタの中で生きていたからこそ希望が持てた。だが現実はそうじゃない」

 

 

ずっと張り付くような恐怖や不安で溢れている。

モータスのような人間はもはや『バグ』ですらない、当たり前になろうとしている。

人はその中で抵抗する術を持たない。そして病と言う死神に見初められる事もある。

 

 

「死へ通ずる道が世界には多すぎる。だが私に世界を変えるだけの力はなかった」

 

「―――」

 

「キミにその無力感が分かるか?」

 

 

発砲を止める。

爆煙の中からボロボロになったエグゼイドが姿を見せた。銃弾で矢も粉々になったのか、解放されたエグゼイドは煙を纏ったまま地面に倒れる。

ピクリとも動かない。どうやら決着はついたようだ。

 

 

「これでも妥協したほうさ。しかしだからこそ、私は成さなければ――」

 

 

言葉を止める。

前を見るゲンム。煙を纏いながら、フラつきながも立ち上がるエグゼイドを見たのだ。

 

 

「お前……」

 

「お、お、おおおれは――、まだ生きてる」

 

 

声がブレる。言葉が詰まる。それでも、エグゼイドは目を光らせてゲンムを睨んだ。

 

 

「穂乃果――、ちゃん、たちはははは、お、おおおれが守る――ッ!!」

 

「とことんバグに塗れた男だ。お前は」

 

 

走り出すエグゼイドとゲンム。

エグゼイドが突き出した拳を交わすと、ゲンムは裏拳でエグゼイドを打つ。

フラついた所へ浴びせる弾丸。よろけた体に、黄金の刃を刻み付けていった。

 

 

「ガハ……ッ!」

 

 

融解していく自我と記憶に恐怖しながら、それでもエグゼイドは戦い続けた。

もはや何のために戦っているのかさえ分からなくなる。頭の隅にあるブレイブとは誰だ? スナイプとは誰だ? レーザーとは……?

 

 

ダメだ。分からない。

 

 

はて? それよりも先程から脳を頻繁にチラついてくるミューズとはなんだったか。

 

あぁ、いけない。そうだ、穂乃果がいるグループではないか。

ラブライブ。そう、ラブライブだ。ヒイロと、タイガ、キリヤ、ヨッシーくんたちと一緒に応援した――。

 

なんだ? 応援とはなんだ?

何をしたんだ? おれは何をしていたんだ。なにをしているんだ?

 

分からない。

 

おれが必死になってやっていた事はなんだったんだ?

ライブとは別に――、何かをしていた気がするが、それももう思い出せない。

 

 

「グゥウァアア!!」

 

 

地面を転がるエグゼイド。

 

なんだ? なんなんだ?

 

何のために生きていた? 何をしていたんだ?

 

なぜまだ生きている――?

 

 

「………」

 

 

しかし、それでもまだ、エグゼイドは立ち上がった。

朦朧とする意識の中で、しっかりと立ち上がった。

 

 

「愚かな」

 

 

光弾を当てて再びダウンさせる。

決着をつける。武器を構えて、ゲンムは歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございましたぅッ!」

 

「あ、ちょっと!」

 

 

一方、穂乃果はレーザーのシートから飛び降りるように離れると、家の扉を勢い良く開いて中に入る。

ギョッとする穂乃果。自宅に入って一番最初に見えたのが母親の服を着たバグスターウイルスである。

 

穂乃果は唇を噛んで、目を細めると、その横を通り抜けて自室へ向かう。

当然範囲内に入ったことで穂乃果を追いかけようとするバグスターウイルスだが、レベルワンになったレーザーが腕を掴み、制止させる。

 

一方で穂乃果は自室に飛び込むと、そこで一旦足を止める。

そして、フォトフレームのなかにあった写真を指でなぞる。

 

 

「………」

 

 

そして穂乃果はもう一度強く頷くと、目的の物を探し始める。

 

 

(お願い――ッ、あって……!!)

 

 

ずっと大切に持っていたんだ。問題はまだ消滅していないかどうかだけ。

すると手に当たるソレ。良かった、穂乃果は笑みを浮かべると、それを出して軽く服で拭いてみる。

 

 

「ぷふっ!」

 

 

この危機的状況のなかで、穂乃果は吹き出してしまった。

手にしたのは、昔、エムがくれたもの。つまりプレゼントだ。

昔、誕生日にプレゼントを交換し合った。穂乃果があげたのは手作りのゲーム機。

そしてエムがくれたものは、いやはやどうしてこんな物をくれたのやら。

 

 

「エムくん……。わたし、覚えてるよ」

 

 

確かに、恋心は消えてしまった。胸が熱くなる感覚、トキメキや高鳴りは確かに消え去った。

いや、はじめから用意されたものなのだから、存在していなかったといえばそれまでだ。

しかしそれでも、全てが消えたワケじゃない。

穂乃果はしっかりとエムと過ごした日々を記憶していた。

 

 

『ねえ、将来の夢とかある?』

 

『んー、わかんない!』

 

『ぼくはあるよ!』

 

 

夕日に照らされた公園で二人で話し合った日。

夢を語るその笑顔を、穂乃果は今でも覚えている。

そして自分が語った事も、また、しっかりと覚えているのだ。

 

 

「エムくん。知ってる? わたしは――、ほのかはね? あなたの事が好きだったんだよ」

 

 

偽りかもしれない。幻想かもしれない。

夢かもしれない。ウソかもしれない。しかし少なくとも、あの時、あの日、それは本当だった。

ゲンムがそれを消すまでは、本当だったんだ。その想いを胸にして歩んだ日々は、本当だったんだ。

 

穂乃果はエムからのプレゼントを掴むと、窓を開ける。

 

高坂穂乃果と言う人間はなかなか伝えたい事がうまく伝えられない性分なのだ。

現に今までの時間でも何度となくエグゼイドに声を掛けるタイミングはあっただろうに、全く言葉が見つからなかった。

その心には多くの想いが渦巻いていると言うのに。

 

そしてそれは今も同じだ。

とにかくエムに伝えたい気持ちがあるのに、言葉が見つからなかった。

だから行動で示す。今までもそうだった。言葉よりも先に動く。

それが高坂穂乃果であると。

 

 

「エムくん。石神エムくん……!」

 

 

大きく息を吸い込む穂乃果。

そして窓の外に身を乗り出し、穂乃果は思い切りエムがくれた『ソレ』を吹いた。

その音に驚いたのか、白い鳩が空に飛んでいった。

 

 

「!!」

 

「ッ、なんだ……!?」

 

 

足を止めるゲンム。音が響く。

 

 

「なんだこの音は?」

 

「――ッッ」

 

 

直後、ロビーの至る所にホログラムモニタが出現する。

それも、次々と。

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

気づく。それは先程砕け散った思い出の破片が変わったもの。

それは幼いエムと穂乃果を映していた。

 

 

『ねえ、将来の夢とかある?』

 

『んー、わかんない!』

 

『ぼくはあるよ!』

 

「これは――ッ、何故!!」

 

 

すぐにモニタを射撃するゲンム。

砕け散るソレだが、鳴り響く音に呼応するようにして再生した。

 

 

「馬鹿な!!」

 

 

一方でモニタは尚、映像を映し出している。

 

 

『ほのかちゃん。ぼくね、ぷろげーまぁになる!!』

 

 

その時、倒れていたエグゼイドの指がピクリと動いた。

そして爆煙を纏いながらも、エグゼイドは顔を上げる。

 

 

『ん! わたし! ぜーったい、おーえんするね!』

 

『うん。ありがとう!』

 

『あ! わたしもあったよ! しょーらいのゆめ!』

 

『え? なになに? 教えてほしいな』

 

『あなたのお嫁さんになる!!』

 

『……あッ、ありがとう』

 

「クソッ! なぜだ! 何故消えない!!」

 

 

剣でモニタをかき消すが、すぐに再生する。

音声が、穂乃果の笑顔がエグゼイドの視界を埋め尽くす。

 

 

『あー! うれしそうじゃない!! やっぱり、わたしじゃイヤかな……!』

 

『そ、そんなことないよ! とっても嬉しいよ!』

 

『じゃあ、約束ね!』

 

 

小指を交し合うエムと穂乃果。

 

 

『絶対に忘れないでね! わたしも忘れないから!』

 

『うん! 約束だよ――』

 

 

エムは穂乃果に向き合い、誓いを立てる。

 

 

『ぼくが大人になったら、絶対ほのかちゃんにこくはくするからね!』

 

『うん! 待ってる!』

 

『まっててね!』

 

『絶対に絶対だよ、そしたら、わたしお返事にエムくんがくれた――』

 

 

穂乃果は不安げながらも、微笑んだ。

 

 

『エムくんがくれた、らっぱを吹くね!』

 

 

エムがくれたんだから、どうしても吹きたい。何か大切な時に使いたい。

一番の理由は――

 

 

『ら、ラッパを鳴らすのはね……、すきって意味なんだよ?』

 

 

言葉にするのは恥ずかしい。だから、行動で示す。

ラッパを吹く事は、貴方が好きですという意味。

 

 

『あいしてるって事なんだよ。ぜったい覚えておいてね……!』

 

『う、うん!』

 

 

恥ずかしそうにエムは、しっかりと頷いた。

そしてノイズが走る。

成長した穂乃果が立っていた。映像は――、エムの視点だった。

 

 

『わたしが困ってたら助けてね』

 

 

穂乃果はそう言った。

そしてゲンムは理解する。

 

この鳴り響く音色の正体は、ラッパの音であると。

過去、エムが穂乃果に送ったプレゼントであると。

そして、それを鳴らした穂乃果の意図。

 

 

(エムくん……!)

 

 

祈る。

想いが、届くように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「!?」

 

 

肩を震わせるゲンム。

その前には、咆哮をあげて立ち上がったエグゼイド。

 

 

(わたしは――、確かにあなたの事が――ッ)

 

 

ソレは絶対に、ウソじゃなかった。

そしてモニタが粒子となってエグゼイドに収束していく。

その時だった、音を立てて外れるガシャットの『一方』。それはエムが今まで使っていたマイティアクションエックス。

それがエグゼイドの前方、頭上に上がると、粒子が――、記憶の破片が収束されていく。

 

いやそれだけじゃない。

エグゼイドの体からもデータが流れ出ていき、文字通りエムの『全て』がガシャットへ収束されていく。

 

 

「なんだ!?」

 

 

何が起こっている!? ゲンムにすら理解できない光景。

それは全てこのラッパの音が、穂乃果の想いが奏でた音が齎したこと。本物である穂乃果の記憶が、エムに流し込まれていく。

そしてそれを受けた事で、エムは、己の存在を見出した。

 

 

(まさか! 高坂穂乃果が自分の記憶を、ラッパの音を媒介にエムへ伝えたのか――ッ!!)

 

「おれは石神エムッッ!!」

 

 

ガシャットに集った粒子がブロックの形に変わる。

虹色に光るソレは、エムの『全て』で構成されたもの。

エグゼイドは咆哮をあげたまま、飛び上がると、ガシャコンブレイカーでそのブロックを叩き砕いた。

自分で『創られた』ブロックを砕いたのだ。そして精錬された一部を生み出す。

 

 

「おれはッ、人間だッッ!!」

 

 

エムは、仮面ライダーエグゼイドは中から出てきたガシャットをつかみ取ると、着地を決める。

エムは、己の存在をガシャットへ流し込んだ。

己の存在をガシャットに流し込み、そのデータを変質させた。

命を、ガシャットに変えたのだ。

 

 

「決着をつけるぞゲンムッ! おれの全てを持って行けッッ!!」

 

「馬鹿な……! 高坂穂乃果――ッ!」

 

 

今この時、確かに穂乃果がエムの存在を確立させた。

石神エムを、人間に変えたのだ。

 

 

「おれの夢はプロゲーマーだ! ゲンム、お前が設定したんだ。分かるだろ!」

 

「ぐッ!」

 

 

得体の知れない力を感じ、思わず一歩後ろに下がる。

 

 

「でもそこまでだ。このゲームを選んだのは、おれ自身の意思だ!」

 

 

アポロンアーマーと同じだ。エムは自らの本体をガシャットとした。それを今、起動させる。

 

 

「この力は! おれの物だ!!」『ゲキトツ! ルォボッツ!!』

 

 

広がるタイトル画面。

それはいつもエムがプレイしている――、夢を乗せたゲームだ。

ロボット同士が戦うアーケードゲーム。するとタイトル画面からエムがいつも使用している赤いロボットが飛び出し、ゲンムに突進をしかける!

 

 

「なッ! ぐあぁあ!!」

 

 

鉄の塊に吹き飛ばされ、地面を転がるゲンム。

一方でエグゼイドはレバーを戻し、一度ガシャットを見つめる。

 

 

「恐怖も、苦痛も、絶望も、後悔も!」『ガシャット!』

 

 

鳴り響く待機音。

 

 

「勇気も、喜びも、希望も、信頼も!」

 

 

エグゼイドはレバーをしっかりと掴んだ。強く、強く!

 

 

「絆も、愛も! 命も!! 全てはおれのものだ!」『ガッチャーン! レベルアーップ!』

 

 

エグゼイドは戻って来たロボットとハイタッチ。

そしてロボットはまるでエグゼイドを食べるようにして装着される。

 

 

『マイティジャンプ! マイティキック!』

『マイティマイティアクション! エーックス!』

 

 

辛い日も、嬉しいときも、傍にいたのはゲームだった。

ただの娯楽? いいや、夢の欠片だ。

夢は未来に生きるための証。生きる事への活力。希望だ。

 

 

I got you(アガッチャ)!!』

 

 

これだけは、喰わせてなるものかよ。

 

 

『ブットばせぇーッ! 突撃ィ!』

 

『ゲ・キ・ト・ツ・パンチぃーッ!』

 

「おれはッ、穂乃果ちゃんを守る! ミューズを守る!」

 

『ゲ!』

 

「それが」

 

『キッ!』

 

「おれの――ッ!」

 

『トッッ!』

 

「石神エムの!!」

 

『ツッッッ!』

 

「最期のゲームだ!!」『ロボッツ!!!』

 

 

メタリックレッドの装甲がエグゼイドに装備される。額に輝く黄金のV字アンテナ。

一番の変化は左腕だ。大きな強化アーム、ゲキトツスマッシャーが装備され、その腕力を跳ね上げる。

これが、エグゼイドの最期にして最強の姿、レベル3である。

 

 

「おれの夢で、お前を倒す!!」

 

「おのれ……! おのれェエエ!!」

 

 

終末医療のために作ったもので命が生み出されるなど皮肉にもほどがある。

ゲンムは怒りに吼えると、エグゼイドを消去するために走り出した。一方で左の拳を握り締めて走り出すエグゼイド。

バクのガントレットと、機械のアームがぶつかり合った。

 

 

「ォオオ!!」

 

「ハァアア!!」

 

 

双方火花を吹き出して後ろへ吹き飛んでいく。

当然ゲキトツロボッツのガシャットも、ゲーマドライバーの力の恩恵を受けるわけだ。威力は神と互角までに跳ね上がったらしい。

地面に落ちる前に黄金の翼を広げて体勢を整えたゲンム。

地面に落ちる前にブースターから火を噴いて体勢を整えたエグゼイド。

 

 

「!」

 

 

そこでまた音楽が聞こえてきた。

ラッパを置いた穂乃果は、目を閉じて思い出を視る。行動は起こした。

だけどやっぱり想いを言葉にしたいという気持ちだってある。

 

ラッパは幼馴染として、この歌はスクールアイドルとして、エムに伝えたい。

そうしたらどうだ、世界に音楽が溢れたではないか。

 

 

「がんばってぇー♪」

 

 

ポッピーピポパポは、穂むらの上、屋根に腰掛けてプラプラ足を降っていた。

だから穂乃果は溢れていく『Someday of my life』を歌いだす。自分の想いが少しでもエムに届くように。

これが、穂乃果の戦い方だ。

 

 

「ムカツクよ!! どこまで私の計画を邪魔する気だ!!」

 

 

一方病院のロビー。

ゲンムは翼を広げ後ろに飛びながら光弾を連射する。

だが先程とは違い、エグゼイドはそれを回避していく。

当然だ。ロボット同士が戦うゲームにおいて攻撃をかわすのは一番最初に覚える事。

心でレバーを掴み、エグゼイドはブースターを吹かす。全てがゲームと同じ、行動の全てをブーストダッシュでキャンセルできるため、エムは高速で光弾を回避していく。

 

 

「どこまでも! そしてこれで終わりさ!」

 

 

V字アンテナから、V状のビームが発射される。

一発発射、からのキャンセルダッシュ。青い光が背中から噴射する。さらにビームを発射。

とは言えゲンムもそれを回避し、互いに飛び道具を交差させていく。爆発していくロビー。

しかし確実にエグゼイドは距離を詰めていた。そしてビームを撃つ間に、確実に隙を狙っている。

 

 

「アンタには分かるか? コイツは、おれの体の一部!!」

 

 

ただひたすらにプレイし続けた。

ゲンム――、クロトが設定したただの『一部』がエムには『全て』だったときもある。

 

 

「コイツはおれのプライドだ! たとえ神だって、今のおれには勝てないぜ!!」

 

 

見切った。特殊射撃。エムはしっかりとそれを脳内で操作している。

 

 

「それだけの自信がないとプロなんて目指さないもんなァ!!」

 

 

ボタンを押し続けて離す。そのプレイどおりの動きが現実に起こった。

左腕のアームにもブースターがついており、エグゼイドから分離するとゲンムに向かって飛んでいく。

つまり、ロケットパンチ。

 

 

「何ッ!?」

 

 

素早く横に飛ぶが――、そこにはV字型のビームが。

そう、ロケットパンチは囮である。

 

 

「ぐあぁあ!」

 

 

ビームが命中。さらにダッシュキャンセル。

そしてビーム。命中。キャンセル。ビーム。命中。キャンセル。

 

 

「グゥウ!」

 

 

ここでゲンムはダウン。そこで見た。自分の間近に着地するエグゼイドを。

まずい。ゲンムは光弾を発射。しかしエグゼイドはアームでガード。そこで迫られる『択』、はて? どこに逃げるようにして起き上がればいいのか。

 

 

「くっ!」

 

 

地面を転がるゲンム。

しかし立ち上がると、眼前にエグゼイドがいた。

エグゼイドの拳があった。

 

 

「起き攻めは――ッ!」

 

「ガハッ!」

 

 

右のジャブが二発入った。

怯むゲンム。エグゼイドは目を光らせる。

 

 

「対戦ゲームの基本だぜ!!」

 

「ごォオ!?」

 

 

アッパーで空にゲンムを打ち上げる。

そしてブースターを吹かし、飛び上がるエグゼイド。

 

 

「たかがゲームと馬鹿にされ――」

 

 

左アームを突き出すエグゼイド。

前格(パンチ)前格(パンチ)、キャンセルダッシュ、後退していくゲンムにあっと言う間に追いつく。

 

 

「それでも目指したのは!!」

 

「グッ! ガハッ!! チィイイ!!」

 

 

そして横格(回し蹴り)前格(蹴り上げ)、キャンセルダッシュ。

 

 

「一番になれると思ったからさ!!」

 

「馬鹿なッ! 規格外のダメージだ!!」

 

「当たり前だ! おれの全てを賭けてる!!」

 

 

特殊格闘。

 

 

「カイザァアア!!」

 

 

突進でエグゼイドはゲンムを追いかけると、アームで首を掴む。

するとアームを通して流れていくエネルギー。掴まれたゲンムが赤く発光し、直後爆発した。

 

 

「ブレイカァアア!!」

 

「グアァアアアアア!!」

 

 

そして真下に投げ飛ばす。

 

 

「来いよゲンム! お前も全てを賭けてこい! じゃないとおれには勝てないぜ!!」

 

「なんだとォオ……!?」

 

「プライドも、夢も、希望も! 全てはココにある! おれの全てがココにある!」

 

「ッッ」

 

「余裕ぶっこいてるなら、そのツマンねぇ仮面ごと粉砕するぞッ!!」

 

「黙れェエエエ!!」

 

 

ゲンムは吼えると、エグゼイドに向けて飛翔する。

 

 

「そうだ! それでいい! そうじゃねぇとツマンねぇもんなアァアア!!」

 

 

穂乃果に上手いと褒められ、母に上手いと褒められ、友達に上手いと褒められる。

気持ちいいねぇ、最高さ、まさに自分が自分として認められているなによりの瞬間。

生きている事を自覚できる瞬間だった。他のスポーツじゃそうはいかない。

 

だって負けると分かっているから悔しがる事もできない。

自分より凄い人間が山ほどといるからとすぐに逃げられる。

 

でもこれは違う。本気になれるのさ。

本気で笑えるし、本気で悔しいと思える。

そして本気でぶつかり合える。

 

 

「感謝するぜ、こんな最高なモンを趣味として設定してくれたんだもんなァ!!」

 

 

エックスレコードで見た永夢をモデルにした。

名前、そして趣味。性格の質。特に深くは考えていなかったが、まさかこんな形で牙をむくとは。ゲンムも想像にしていなかっただろう。

 

 

「受け取れよ、俺の(こぶし)を」

 

「グッ! ォオ!」

 

 

ビームに紛れて突っ込むエグゼイド。ゲンムと拳を打ち付けあう。

 

 

「一撃一撃を打ち込むたびに、思い出す! コイツで味わったえも言われぬ感覚!」

 

 

石神エムを教えてくれる。最高のツールさ。

ましてや穂乃果との距離が開いたときに落ち込んだときも、ゲームがあるから前を向いて歩けた。

夢を持つこと、趣味を持つこと、友達との過ごし方、なによりも闘争心と自信と希望と――。

 

 

「ゲームは最高だぜッッ!!」

 

「ぐぉおぉおぉおお!!」

 

 

互いの拳が装甲を捉えた。ダメージは同じだ。しかし一方は焦りに震え、一方は歓喜に震えている。

そしてその時、お互いの装甲にヒビが入った。

 

 

「ッッ!」

 

 

マズイ。マズイ、マズイ!! ゲンムは思わず大きく後ろに飛んでエグゼイドから距離を離した。

そして、直後、背中を向けて飛んでいく。逃げるのだ。当然だ。

アポロンアーマーに傷が入った。つまりそれはこのままだと破壊される可能性を示している。

そんな事があってはいけない。これは究極の終末医療を齎す医療道具だ。絶対にこんなところで失うわけにはいかないのだ。

 

 

「分かるかよゲンム! 全ての流れがおれに来ている! たまんねぇ感覚だぜ!!」

 

 

ボタン全押し。そして覚醒。

エグゼイドのカットインが空間に現われ、直後、エグゼイドの体が赤く発光する。

パーフェクトルージュ。大量の残像を残しながら超高速でエグゼイドは飛行。一瞬でゲンムに追いついてみせる。

 

 

「なにぃ! グアァアア!!」

 

 

拳がゲンムを打つ。

斜め下に吹き飛ぶが、既に前にエグゼイドが先回りしていた。

 

 

「一撃を与えるたびに勝利が視える!」

 

「グォオオオ!!」

 

 

ゲンムを掴み、投げ飛ばす。

 

 

「おれの努力が報われる! 踏み出した足が勝利に近づいていく!!」

 

 

既にエグゼイドはゲンムの背後に回っていた。拳がゲンムを捉え、吹き飛んだ先にはやはりエグゼイド。

 

 

「おれが生きた証が刻まれる! 他の誰にも追いつけない! 俺の独壇場だ!!」

 

 

地面に叩きつけられたゲンムはバウンドし、さらにエグゼイドは拳を振るってゲンムを壁に叩き付けた。

 

 

「グゥウァアア! 止めろォォ! 来るなァアアア!!」

 

 

ありったけの光弾を連射していくゲンム。

エグゼイドはそれを避けない。いや、避けられない。

それでいい。装甲で受け止めながら、装甲を傷つけながら、装甲の破片を散らしながら確実にゲンムに迫る。

 

 

「お前は人類の希望を壊す気か!!」

 

「ミューズの絶望になるなら、永遠に粉砕し続けてやるぜ!!」

 

「止めろ!! 止めてくれ!!」

 

「悪いな。悪いなゲンム! おれは罪人だ!!」

 

 

だがその罪を背負う。

ミューズが助かるならば、自由になるならそれでいい。

 

 

「止めろォオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

黄金の弓を連射するゲンム、それを全て装甲に突き刺したままエグゼイドは加速する。

もうダメだ。ゲンムはバグヴァイザーを反転させると、黄金の剣を突き出した。

バキンッ! と音が響く。エグゼイドの装甲に突き刺さる剣。一方で手を伸ばすエグゼイド。

 

その手は、僅かにゲンムには届かなかった。

 

その、左手は。

 

 

「覚醒技だ!!」

 

「ヒッ! ヒィィ!!」

 

 

腕が分離する。握りこぶしのアームがゲンムの顔面を捉えた。

倒れるゲンム。ダメだ、ヤバイ、マズイ。すぐに立ち上がる。すると周囲を確認する前に背中に強烈な違和感を感じた。

背後を見ると、分離したアームが背中の翼を掴んでいた。そのままロケットパンチはゲンムを掴んだままエグゼイドの眼前に戻ってくる。

一方エグゼイドは両腕の拳を握り締めた。赤く発光する拳。そして、眼前に停止したゲンムを連続で無茶苦茶に殴っていく。

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラァアア!!」

 

「ガアガガガガガガガガアガアガガァアア!!」

 

 

アームに掴まれてゲンムは身動きが取れない。そこをタコ殴りにしていくエグゼイド。

ボタンを連打すればそれだけパンチが出てくる。ゲームではそうだった。

 

 

「オッラアアア!!」

 

「ぐあぁああああああ!!」

 

 

両腕の拳を打ち当てる。

後ろへ吹き飛ぶゲンム。焦りが脳内を支配する。アポロンアーマーがビキビキと嫌な音を立てて亀裂を走らせる。

 

 

「ダメだ! 救いは絶対だ!!」『ガッシューン……!』

 

 

ガシャットを抜き取るゲンム。

一方でエグゼイドもまた息を切らす。元々瀕死の状態だったのだ。

テンションで誤魔化しているが、限度はある。さらに消滅していくデータは何も変わらない。気を抜いたとき、肩パーツが音を立てて崩れた。

 

 

「う゛ッッ! ガッ! ――ァ!」

 

 

装甲はエムで出来ていると言っても過言ではない。

それが壊れるという事は、文字通りエムが死んでいくのと同じである。

存在が、情報がごっそりと消えた。

 

あぁ。ダメだ。いろいろ思い出せない。

 

父さん、母さん、すまない。本当にすまない。

もう誰かも分からなかった。分からない。お父さん、お母さん、って、そもそもなんだ?

 

 

「まだだ! まだおれは生きてる!!」『ガッシューン……!』

 

 

生きている限りは、終わりじゃない。

 

 

「ブッ壊す!」『キメワザ! ゲキトツ! クリティカルストライク!!』

 

「アポロンは守って見せる!!」『キメワザ! アポロン! クリティカルストライク!!』

 

 

黄金の炎に包まれるゲンム。球体状に変わり、狼の咆哮と共に熱波が周囲を焼き尽くす。

 

 

「ォオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

エグゼイドはその中でアームを飛ばした。

激しい熱波に焼かれ、衝撃が体を砕き、それでもロケットパンチは前に進んでいく。

 

 

「ウッ! ウアァアア!!」

 

 

熱波を放出しながら飛び逃げるゲンム。

一方でアームはピッタリとホーミングしながらゲンムを追いかけていく。

 

 

「ぐがッッ!!」

 

 

装甲の至るところが弾けて消えていく。

エムの中で、常識が次々に消え去った。

パンとはなんだ? 洋菓子とはなんだ? 病院とはなんだ? ココはどこだ?

 

そういえばヒイロとは誰だったか?

 

タイガとは何者だ?

 

キリヤとはなんの事を言っているのだ?

 

 

仮面ライダーとはなんだ? マスクドライバーなんて言葉は――、知らない。

 

 

「ごめん――ッ、みんな……!」

 

 

なんとなく、分かる。

思い出せないとは、そういう事だ。

エグゼイドは仮面の裏で涙を流した。

歌が聞こえる。いい歌だ。

 

 

「ォオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

「アアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

双方、吼える。

ただ吼える。想いを乗せて、我武者羅に叫ぶ。

全てを超えるために。エムはそこで、穂乃果の笑顔を見た。

 

 

「グアァアアアアアア!!」

 

 

ロケットパンチが全てをぶち抜いた。炎も、光も、衝撃波も、そして、アポロンアーマーもだ。

粉々に粉砕されるアポロン。それは全ての終わりであった。

 

 

「あぐあぁアアアアァアッッ!!」

 

 

そして衝撃に耐えられなかったのか、アームもそこで砕け散った。

いやそれだけじゃない。ゲキトツロボッツの全ての装甲がバラバラになり、地面に落ちる。エグゼイドはその場で立ち尽くし、天を仰ぐ。

目が、消えた。

 

 

「………」

 

 

地面に落ちたゲンムは放心していた。

倒れたままで、向こうに立っているエグゼイドをぼんやりと見ていた。

終わりだった。なにもかも。負けだ。敗北。終わり、終わり。

 

アポロンが砕けた。破壊された。これから世界の崩壊が始まる。

再生は、ない。長い時間をかけて立てた計画も、全ては、ゼロになる。

ああ、あぁ、あぁ。

 

 

「こんな事が……!」

 

 

そして、なにより、もはや立つ力が残っていない。

終わりだった。負けだ。敗北。考えてみれば――、そう、考えれば考えるだけ苛立ちが湧き上がる。

なんだよそれ、なんなんだよそれは。確かに他世界からの干渉があるとは覚悟していたが、次から次に向こうは想像以上の力を振りかざし、それがエムに影響を与えてしまった。

 

断言できる。エム達だけだったら確実に勝っていたと。

なのに、宝生永夢。本物が来てしまった。そして、敵になった。

 

 

(私は――、キミに、憧れていたのに)

 

 

ゲンムは目を閉じた。

死だ。そう、死。知っているだろうか? 雷山クロトと言う男は既に自分の体を実験体としていた。

でなければミューズに何かあると思ったからだ。散々使った。だから、それだけバグスターウイルスも投与した。

 

その結果、どうなるのか?

 

 

「これで、終わりか……」

 

 

おめでとう、石神エムくん。

ゲンムは仮面の奥で目を閉じた。

意識が沈んでいく。

 

 

「ァ」

 

 

夢を見た。

いや、夢じゃないのかもしれない。だが確かにゲンムは――、クロトは過去を視た。

 

 

「うぇええん。苦しいよぉ、辛いよォ」

 

 

男の子が泣いていた。

 

 

「怖いよォ、先生助けてぇ……!」

 

 

人形を握り締めながら男の子は不安げに震えている。

 

 

「大丈夫だ。大丈夫だよ!!」

 

 

クロトは必死に笑っていた。

少しでも不安にさせないように男の子に声を掛けていた。

 

 

「ママに会いたいよォ!! ママはぁ!? お母さんはぁっ?」

 

「もうすぐ! もうすぐ来るよ! 大丈夫だよ、大丈夫だからね! 僕がついてるから!」

 

「うぅぅぅぅううッッ!!」

 

 

男の子は泣きじゃくったかと思うと、痙攣を始めた。泡を吹き始める。

そこで、記憶は跳躍した。

 

 

「………」

 

 

小さな棺がそこにあった。

それを思い出しながらクロトはテレビをつける。

テレビの向こうでは芸人達が楽しそうなことをしていた。チャンネルを変える、ドラマで名医が絶対に助けられないとされている患者を華麗に助けていた。

クロトはテレビを消し、リモコンを思い切り壁に投げつける。

 

 

「命は大切だからね。絶対に無駄にしちゃダメだよ」

 

 

跳躍する記憶。目の前のいる少女は確かに頷いた。

数日後、少女が自ら命を絶ったと連絡が入った。少女の両親が挨拶に来て、一通の手紙を差し出してきた。

どうやらそれはクロトに宛てた遺書らしい。

そこには、こう記されていた。

 

 

先生、ごめんなさい。

先生に言われた通り頑張ってみたけど、やっぱりダメでした。

辛いんです。生きる事が。

 

頑張っても頑張っても報われない。

私はなにもしてないのに、周りは酷い人たちばっかり。

怖いよ、苦しいよ。ごめんなさい。楽になりたいの。私は幸せになりたかったです。

でも、もう、耐えられない。だから、ごめんなさい

 

 

最後に、追伸が。

 

 

『先生みたいな優しい人たちばかりだったら、良かったのにね』

 

 

記憶が、景色が変わる。

淑女が庭園のベンチに座っていた。

 

 

「お願いします。私に切らせてください!」

 

「その話は前にお断りしたでしょう? ココはホスピスでしょう。もうやめて頂戴」

 

「なぜ……! 生きたくはないんですか!?」

 

「フフ。意地悪な事を言うのね。誰だって、死にたいワケがないでしょう?」

 

「だったら!!」

 

「先生。私はね、今までいろいろな事を妥協して生きてきたの。だからせめて最期くらいは自分の意思で生きたいの。だから、手術はしないわ」

 

「……ッ? 矛盾しています!」

 

「そうよ。生きるって事はね、そんなに簡単な事じゃないのよ」

 

「意味が――、分かりません」

 

「それでいいわ。まだ貴方はそれでいいの」

 

「――――」

 

 

分からない。だが淑女が死んだ後に分かった。

どうやら遺族は、介護を点数稼ぎの材料としたかったようだ。

普段は関わらないくせに、終わりにだけ『たかる』ハエのような連中が目についた。

医療ミスではないかとふっかけ、小銭を稼ごうとした連中もそこにはいた。

 

何故、何故だ。なぜ人の命を『使おう』と言う発想になる?

クロトは悪意に心を折られ、病院の屋上で泣きじゃくった。

そして祈ったのだ。アポロンに、太陽に、救いを。

そうしたら、我李奈が、ムネモシュネがやって来た。

 

 

「なるほど、仮想世界における終末医療ですか」

 

「エグゼイドだ。どうしても、完成させたい」

 

「面白い。いいでしょう。財団の力を、お貸しましょう」

 

 

しかしダメだった。世界は不安定で何もできない。

目指す世界が全く形にならない。技術も、先も、未来も、なにも視えない。

 

 

「本物を入れてみては?」

 

 

記憶が世界を作る。我李奈はそう言ったが、そんな事はずっと前から分かっていた。思いつかないワケがなかった。

しかし医療の為に人を巻き込むなど、そんな事は本末転倒ではないか。クロトは首を振った。そして、世界は、今日も不完全。

 

 

「残念ですが、このまま結果にならないものを援助するのは難しいですわ」

 

 

一週間で結果が出せなければ打ち切る。我李奈は当然のように語った。

 

 

「世界は無限の可能性です。貴方に拘る意味はない」

 

 

諦めよう。クロトは思った。

そんなとき、『彼』との会話があった。

 

 

「それは?」

 

「先生知らないの? ミューズだよ」

 

「石鹸?」

 

「本気で言ってる? ラブライブだよラブライブ。聞いたことあるでしょ?」

 

「いや……、全然」

 

「ウソでしょ? 軽く社会現象になってるじゃん。ラブライバーとかさ、聞いた事ない?」

 

「あんまり、世の中の事は……」

 

「手術ばっかしてるからだよ」

 

「はは、そうかもね」

 

 

クロトと、その少年――、『石上』は笑い合う。

 

 

「それはアイドル?」

 

「うん。三次元もやってるみたいだけど、おれは二次元の方がいいね。特にさ、穂乃果ちゃんが可愛いんだ」

 

 

よくお見舞いに来てくれる妄想をして楽しむのだとか。

最高だ。こんな可愛い幼馴染がいれば人生最高に楽しい筈だと石上は語る。

 

 

「あーあー、でも会えないんだよなぁ、次元が違うんだもん」

 

「穂乃果ちゃんみたいな人を探せばいい」

 

「いないよ。それに、いたとしてもどうするのさ」

 

「え?」

 

「こんな体のおれを好きになってくれる人なんていないよ」

 

「……!!」

 

「好きなるのも、好きになってもらうのも辛いよ。おれにはさ、ほら、時間がないじゃないか」

 

 

石上は笑う。

 

 

「だかさ、コレでいいんだ。穂乃果ちゃんの笑顔を視ているだけでいいんだ」

 

 

笑顔ではあるが、それは仮面だった。

 

 

「あーあ、何でおれなんだろうなぁ」

 

 

死ねば転生でもして穂乃果に会えるのだろうか? 石上は笑いながらそう言っていた。

 

 

「……治せばいい」

 

「無理だよ。それに治ったとしてもおれの時間は返って来ない。それに再発に怯えながら生きるのは――」

 

 

声を震わせ、彼は笑っていた。

 

 

「怖いよ」

 

「………」

 

「あーあ! あーあ!」

 

 

叫び、天を仰いだ。

 

 

「幸せになりたかったなぁ!」

 

 

その時、クロトは目を見開いた。

 

 

「……約束するよ」

 

「え?」

 

「約束する」

 

 

石上は一週間後、意識不明となり、五日後、この世を去った。

 

 

「必ず、私は――」

 

 

 

 

 

 

 

「まだだ――……!」

 

 

ゲンムは、立ち上がった。

震える手で地面を抑え、震える足で確かに立ち上がった。まるで生まれたての小鹿だ。なんとまあ無様な姿であろうか。

それでも、ゲンムは立ち上がった。目を光らせ、立ち上がったのだ。

 

 

「私は――ッ、救って見せる……!!」

 

 

アポロンが破壊されたのなら、また作ればいい。

それがダメならば他の方法を考えればいい。

 

 

「世界を救うッ! 私は――ッ、仮面ライダーだ!!」

 

 

仮面ライダーゲンムは立ち上がり、そして叫んだ。

エグゼイドは――、動かない。

 

 

分からない。

 

 

知らない。

 

 

理解できない。

 

 

なにもない。装甲(エム)が砕け散ったのだから。当然だ。

 

 

音乃木坂とはなんだ?

 

学校とはなんだ? ゲームってなんだ? 分からない。

 

ゲキトツロボッツ? 知らない。そんなものがあったなんて……。

 

 

誰か、教えて欲しい。この頭にあるミューズとは何のことだ?

 

園田海未とは誰だ? 南ことりとは何だ?

 

星空凛とは何色だ? 小泉花陽は計算式か? 西木野真姫はどんな記号で表す?

 

矢澤にこはどこだ? 絢瀬絵里とはどこの国旗だったか? 東條希は文字なのか?

 

ミューズとは……。ラブライブ、懐かしいが、ダメだ、思い出せない。

ああ、分からない。分からないという言葉ももう分からない。

 

おれは――、いや、私か?

 

ボク?

 

オレ?

 

あたし。わし。男だったか? 女だったか?

男とはなんだ? 女とはなんだ? あぁ、あぁ、分からない。

 

 

石神エムとは――、うぅん、分からない。

覚えていない。何が? もう、分からない。分からないって、どういう意味――……。

 

 

おれは、なんのために――、いまは、なに?

 

 

生きるって、なんだっけ?

 

高坂穂乃果って、なに?

 

 

「まだだろ?」

 

「!」

 

 

声が聞こえた。

一人の男が我に手を伸ばしている。

だれだ?

 

 

「まだ止まるなよ、まだゲームは終ってない。そうだろ? 仮面ライダー!」

 

「―――」

 

「手をつかめ。お前が言ったんだ。まだ生きてるって」

 

「ァ」

 

「ノーコンテニューでクリアするんだろ!?」

 

「――あ、ああ! ああッ! そうだ! そうだよ、宝生永夢!!」

 

「ああ、そうだ! オレは宝生永夢! じゃあお前は!?」

 

 

ワッチャネーム!?

 

 

「おれは、おれは――ッッ!!」

 

 

エグゼイドは天に向かって手を伸ばした。

砕けた破片がバグスターウイルスとなり、螺旋上に巻き上がる。

そしてエグゼイドを包み込むと、直後、光となってはじけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アイム ア エグゼイド!!』

 

「!!」

 

 

現われたのは、エグゼイド。

しかしその電子音を聞いて、ゲンムは思わず声を上げる。

 

 

「まさか、お前――ッ」

 

 

それは間違いない。

 

 

「おれは……! マスクドライバー・エグゼイドだ!!」

 

 

それが、最初に選んだ道。そして最期に選んだ道だ。

仮面ライダーとしてではない。最期の最期、その燃え尽きる一瞬は、かつて友と、そして想い人とともに歩んだ青春が良かった。

それが、自己を作ったものだから。たとえもう覚えていないとしても、其方が良いと思ったのだ。

 

 

「穂乃果!」

 

「海未ちゃん! みんな!!」

 

 

アポロンの消滅により世界崩壊は加速する。

UTXが消え去った事で、ミューズは穂乃果と合流する。ヒイロは消え、タイガは消え、キリヤは消えた。

しかし一同は理解していた。まだ、エムは残っている。

最期のその時まで戦ってくれているのだろうと。

 

だからミューズは頷いた。

この頭に浮かぶ歌は、きっと彼の為に送るものだ。だからポッピーピポパポはそれを読み取りメロディを奏でる。

ミューズは皆位置に付く。崩壊していく世界の中で、最期の歌を口にした。

 

 

「おれならできる! おれなら――ッ! やってやるさ!!」

 

 

エグゼイドは叫んだ。ロビーに音楽が鳴り響く。

その歌の名前は、『EXCITE』。

 

 

「さあ、ノーダメージでクリアしてやるぜ!!」

 

 

そこにいたのは、マスクドライバーエグゼイドである。

 

 

「エグゼドライバーだとッ!?」

 

「……ッ!」

 

 

ロビーの端で白衣を翻したのは宝生永夢。

その視線の先で、ゲンムとエグゼイドが対峙していた。そう、分離したのだ。エグゼイドは、エムは、己の力で立ち上がった。

 

 

「ゲーマドライバーではなくエグゼドライバーだと!?」

 

 

考察。

アポロンによる物体構成と同じだ。

エムは自らのウイルスを材料とし、記憶を頼りに『エグゼドライバー』を復元して見せた。

だがそれは所詮、ゲンムが管理できる力を操っただけにしか過ぎない。

 

 

「馬鹿なヤツだ! わざわざ偽者を選ぶとは!」

 

 

ゲンムはバグヴァイザーを操作する。

そんなもので勝とうなどとは、まさに夢物語でしかないのだ。

 

 

「消え失せろ!!」『チュ・ドーン!』

 

 

破壊データを込めた弾丸を撃つ。

が、しかし――!

 

 

「ハァア!」『ガシャコンブレイカー!』『バ・コーン!』

 

 

エグゼイドはガシャコンブレイカーを振るうと、銃弾を弾いて見せた。

 

 

「なにッ!?」

 

 

おかしい。マスクドライバーならばすぐに削除できる攻撃だ。

それは当然防御など無効化するだけの威力があった。すぐに解析を始めるゲンム。

するとあったのだ。ひとつだけ『バグ』が。そして一番大きなバグが。

 

 

「これは、なんだ……!」

 

 

エグゼイドの中央、そこにひとつの強大なエネルギー源が確認できた。

それがマスクドライバーの力を極限までに高め、干渉を拒むほどの力を見せている。こんな力は知らない。

 

それは、十字に燃える炎とも思わしきエネルギー。

それを人は時に、魂と呼ぶ。

 

仮面ライダーとは何か――?

ゲーマドライバーで変身すれば、それは仮面ライダーになるのか? ではエグゼドライバーではなれないのか?

ガシャットで変身すれば仮面ライダーなのか? ウイルスの変異で再現すれば、それはライダーではないのか?

 

いや、違う。

全てはその魂だ。何を目指すのか? 何を成そうとするのか?

この戦いを見守る永夢もまた、同じだ。なろうとする中、目指す中で、魂に炎が宿るときがある。

 

 

クロス・オブ・ファイア。

 

 

石神エムの魂は、最期に炎を発したのだ。

尤も、それはライダーに限った事ではない。

歌が下手ならばアイドルにはなれないのか? いや、違う。

背が低ければバレーやバスケの選手にはなれないのか?

絵が下手ならば漫画家になれないのか?

 

違う筈だ。

大切なのはその心では無いか? 努力や信念、それがあるかないかだ。

 

 

「お前は……ッ! どこまでも! どこまでもォオオ!」

 

 

そしてゲンムもまた、その時、魂が炎を放つ。

諦めない。今度は逃げない。ゲンムは全ての思いを叫び、走り出した。

 

 

「世界は、俺が救うッッ!!」『ギュ・イーン!』

 

「ミューズはおれが救うッッ!!」『ジャ・キーン!』

 

 

全速力で走る二人。

二つの刃が交差し、火花を背にして位置が入れ替わる。激しい抵抗感。しかしすぐに刃を打ち付けあい。我武者羅に競り合った。

ミューズ――、とは何か? 分からない。それでも、守らなければならないと言うことだけは分かる。なによりも、高坂穂乃果と言う文字が頭の中にずっとあった。

 

 

「ォオオオオオオオオオオ!!」

 

 

刃が互いの胸に入る。火花が散り、しかしそれでも二人は刃をぶつけ合った。

 

 

「エグゼイドォオオオオオ!!」

 

「ゲンムゥウウウウウウウ!!」

 

 

名を叫ばなければすぐにでも忘れてしまいそうになる。

その中で、ガシャコンブレイカーの刃とバグヴァイザーの刃が同時に砕け散った。

 

 

「死ね! 石神エム!!」『チュ・ドーン!』

 

「勝つのは――ッ! おれだ! 雷山クロト!!」『バ・コーン!』

 

 

光弾を放つゲンム。

それを打ち弾きながら走るエグゼイド。

最後の一発を打ち返したとき、反射された光弾はバグヴァイザーに命中し破壊する。

一方でハンマーも光弾の威力に耐え切れず、打ち返したと同時に砕け散った。

 

 

「――ッ」

 

 

アクションは同時だった。二人は武器を投げ捨てると、拳を構えて走り出す。

クロスする拳。それは互いの胸を撃ち、衝撃を伝え合う。

そしてすぐに次の手が伸びた。ただ我武者羅に、ただ真っ直ぐに、回避など考えずに殴りあう。

歌が響く中、まるで踊るように殴りあう。レーザーライトがロビーを照らす中、二人はその先にある勝利を目指して殴りあう。

 

 

「―――」

 

 

殴りあう中、エグゼイドは走馬灯を視た。

 

 

高坂穂乃果と言う情報だけが視える。

 

 

キミは、誰なんだ?

 

もはや髪の色も、髪型も覚えていない。

 

もはや目の色も、目の形も覚えていない。

 

もはやその声も、身長も、体型も、何も、何も、何も覚えていない。

 

 

ただ。

 

ただ、それでも。

 

キミのことが、好きだったと言うことは分かる。

 

愛なんて、そんな大層なものじゃない。

 

ただ、キミの事が好きだった。

 

好き『だった』んだ。

 

それだけは偽りではないと信じたい。

 

 

「ウォオオオオオオオオオオオ!!」

 

「ガハァッッ!!」

 

 

いや――ッ、おれは、今も……。

 

 

「グゥゥウアァアア――……ッッ!!」

 

 

分かってる。それが無駄な事だって。意味の無いことだって知っている。

 

 

「おれは、生きる、おれは、勝つ――ッ!」『ガッシューン……!』

 

 

それでも、おれは、言いたい。

 

 

「勝つのは……! 私だァ!!」『ガッシューン……!』

 

 

キミの事が、好き『だった』と。

 

 

『キメワザ!』

 

 

共にゲージは100。最大値だ。

 

 

『マイティ! クリティカルストライク!!』

 

【MIGHTY・CRITICAL STRIKE!!】

 

 

目を光らせる両者。同時に地面を蹴ると、右足を突き出して飛び蹴りを仕掛ける。

 

 

まずは右足同士が直撃。衝撃がぶつかり合い、相殺される。

 

 

【HIT!】【HIT!】

 

 

もちろん二人はそれくらいでは怯まない。

勢いをつけるために右へ旋回し、そのまま思い切り足を左に振るい、回し蹴りを命中させる。

 

 

【HIT!】【HIT!】

 

 

ぶつかり合い、弾かれる脚。

だがそれでも二人は咆哮を上げてすぐに攻撃を継続する。

空中で制止しながらグルリと体を回転させ、エグゼイドは上から下へ、ゲンムは下から上に踵を振るった。

 

 

【HIT!】【HIT!】

 

 

互いの踵がぶつかり合う。脚の感覚が消えたのはその時だった。

だが二人は構わない。エグゼイド後ろへバク宙を、ゲンムは前宙を。その際に振るった足でキックを発動。

 

 

【HIT!】【HIT!】

 

 

それもまたぶつかり合い、エネルギーを周囲に散らした。

 

 

「まだだァアアアアアアアアアアッッ!!」『キメワザ!!』

 

「はッ! ハハッ! ハハハハハハ!!」『キメワザ!!』

 

【MIGHTY・CRITICAL STRIKE!!】

 

 

もう一度。エグゼイド達は足をぶつけ合う。

 

 

「石神エムくん、私は今確信したよ! だからこそ、謝らなければならないな!!」

 

 

右足同士がぶつかったとき、エグゼイドの右腕が崩壊した。

 

 

「死への道をより良きものへしようとばかり思っていたが、死に近づけば近づくほど、やりたい事が思い浮かんできやがるな! それも沢山だ!」

 

 

回し蹴りがぶつかり合った時、エグゼイドの左腕が消え去った。

 

 

「これは――、そう、生への果てしない未練と欲望だ。現世でしかできない事もある。愛じゃ埋められねぇなぁ!!」

 

 

踵がぶつかり合った時、エグゼイドの『頭部』が消え去った。それにあわせるように胴体も消滅する。

 

 

「これもまた厄介なバグか……! 結局完成された世界を壊すのはいつも人の心と言う歪なプログラムさ!!」

 

 

左足同士がぶつかる。

 

 

「キミはもはや人間だ! 人間と同じくらい――ッ、面倒な存在だ!!」

 

 

エグゼイドの左脚が消え去った。

ゲンムは確信したのだ。自らの敗北を。だからこそエグゼイドに語りかける。

使命を超えてきた想い。愛か? 友愛か? プライドか?

 

いや、全ての筈だ。

 

でなければ、ただのデータがココまで食い下がるものか。

ゲンムの前にあったのはただの一本足。ただの『右脚』だった。

 

理解できるか? ゲンムには理解できない。

ただの"足"が、ゲンムの積み重ねてきた全てを壊すのだ。これを成しえるのは信念以外に何がある? 『心』以外になにがある!?

それは食い下がるよな。分かる、分かるよ。ゲンムは笑った。同じじゃないか。自分と。

 

 

「お前は人間だ。石神エム! 私が保証してやるッ!!」

 

 

足を通してエネルギーがゲンムに伝わってくる。

ボコボコとバグスターウイルスが沸騰していくのが分かる。

そこでゲンムも気づいた。結局、クロトと言う男もまた、とうの昔に死んでいたようだ。データの塊は同じ。

 

 

「お前は生きている! 石神エム! フハハ! ハハハハ!!」

 

 

人は殺せない。それがゲンムのルールだ。

もはや人でなくなった今も、それを破るつもりはない。たとえ紙一重の差で向こうが死のうが、それは同じである。

 

 

「お前の勝ちだ! ぐッ! グゥゥウ! ウガァアァアアアゥッッ!!!!」

 

 

叫び、爆発するゲンム。

 

 

「―――」

 

 

クロトは、爆炎の中で笑顔を見た。

誰かは、もう分からない。その人は、笑っていた。

 

 

『あなたは優しいから、いいお医者さまになれるよ』

 

 

クロトは――、雷山はそこで柔らかな笑みを浮かべた。

そしてその笑顔に向かって手を伸ばし、粒子となって消え去った。

 

 

『カイシンのイッパツ!!』

 

 

ほんの数秒後、残ったエグゼイドの右脚も消え去った。

 

 

「……ッ」

 

 

これが運命の果てにあるものなのか。

永夢は息を呑み、崩壊するロビーに立ち尽くす。

 

 

「!」

 

 

オレンジ色の粒子が宙に舞っているのが見えた。

 

 

「………」

 

 

ふと、思い出す。エムに話しかけるとき、永夢は転んでしまった。

ころぶ事は、まあ珍しい話じゃない。いつもは自分の足に引っかかったりだが、あの時は『躓いて』転んでしまった。

その躓く原因になったものは確か――

 

 

「変身!」『アイム ア カメンライダー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『スティジ・セレクト!!』

 

「!」

 

 

全てがゲームエリアのこの世界ではステージセレクトはワープも同じだ。

エグゼイドが現われたのは音乃木坂の校庭。そこにはミューズと飛彩達が立っていた。

 

 

「エムく――」

 

 

一瞬笑顔を浮かべる穂乃果だが、すぐに察したようだ、エグゼイドがエムではないことに。

さらにそこで灰色のオーロラが出現する。中から、渡が姿を見せた。

 

 

「お疲れ様でしたエグゼイド。これで世界の脅威がひとつ消滅しました」

 

「……ああ」

 

「帰りましょう。ミューズも僕が責任を持って送り届けます」

 

「ちょッ、ちょっと待ってください!」

 

 

そこで穂乃果が渡の前に立った。

 

 

「エムくんは――ッ、どうなったんですか!?」

 

「………」

 

 

俯く海未達。なにせ彼女達は『どうなったのか』を間近で見ていた。

 

 

「………」

 

 

渡はため息をつくと、ヤレヤレと首を振った。

コレもあれも全ては破壊者が悪いなどとブツブツ呟くと、観念したように穂乃果達を見る。

 

 

「死んでいませんよ。彼らは」

 

「えッ!! ほ、本当ですか!?」

 

「だと思った」

 

 

エグゼイドはココに来る前に『躓いた』原因を手にした。

それは本だ。探偵フィリップが記したこの世界の記録。

時間もなかったため、最初と最後を確認した。

 

 

「石神エム、および他の人間はデータの集合体です。それをデリートする事がクロトの目的でした」

 

 

しかしクロトは負けた。

つまり、デリートまでは行っていない。

 

 

「石神エムたちが消滅したのは、構成されているデータが剥離したからです」

 

 

パズルのようなものだと渡は説く。

一枚の絵、それがエム達だ。クロトがやった事は攻撃によりそのピースを少しずつ外していく事だ。

結果として全てのピースがバラバラになり、絵は絵としての意味を、存在をなくしてしまう。

しかしだからと言ってその全てのピースが消えたわけではない。

 

 

「つまりそのピースを全てまたくっつければ!!」

 

「とは言え、簡単ではありません」

 

 

粒子とも言える大きさのピースだ。それを復元できるとは思えない。

ましてやアポロンは破壊された。このイナンナの鳥篭もまもなく崩壊する。そうすれば全ては消え去る。今度こそエムは死ぬのだ。

 

 

「どうすればいいんですか……!?」

 

 

涙を浮べる穂乃果を見て、渡は再びため息をついた。

どうやら観念したようだ。

 

 

「ディケイドと言う存在がある以上、救済は可能です」

 

「えッ、ほ、本当ですか……?」

 

「ええ。彼の能力は破壊。そして創造にありますからね」

 

 

 

破壊し、繋ぐ。

先程渡はエム達を『パズル』と例えたが、ディケイドの力はそれを『本』つまり物語に変える力を持っている。

 

 

「しかしエム達の存在は微弱なものです。だからこそ観測者が必要になる」

 

「観測者?」

 

「はい。彼らの存在を証明できる、本物の心を持つものですよ」

 

 

以前ディケイドもまた『壊れた』ことがある。

しかし記憶を持つに観測者が存在したため、再び創造された。同じような事をエムでも行う。だがその為には――。

 

 

「――ッ」

 

 

説明を行う渡。

理解するミューズたち。なるほど、確かに、それは……。

 

 

「ですがまずはこの物語を終わらせなければなりません。当然、世界が崩壊する前に」

 

 

今までの情報だけでは、どう考えても物語の終わりは世界が崩壊になるだろう。

それを超えるエンディングを用意するためには――?

 

 

「オレに任せろ」

 

 

エグゼイドはステージをセレクトする。

背景がスライドし、穂乃果たちは移動を終了した。

そこは相変わらず校庭。なのだが、先程とは位置が変わっている。

 

その気配に気づき、穂乃果たちは上を見上げた。

そこには、とても大きな木があった。伝説の木と呼ばれる巨木だ。

木の下で告白すると絶対に幸せになれると言う『設定』がある。当然ソレは穂乃果達の世界、本来の世界には存在しない。

ゲームに疎いクロトが、ありがちな設定を詰め込んだが故の産物だ。

 

そこに、天才ゲーマーは目を付けた。

 

 

「選ぶのは――、分かるよな?」

 

 

エグゼイドに出来ることはもうない。

ここからは全て、穂乃果達の選択だ。

なに、恋愛ゲームと変わらない。表示された選択肢、どちらを選ぶのかは、プレイヤーであるミューズ達の意思だ。

 

 

「………」

 

 

穂乃果は目を閉じた。

ライブと言うのは、終わりの曲を歌っても、だいたい終わらないものだ。

アンコール。だから穂乃果は本当に本当の終わりの歌をうたう。

 

思い出したのか、それとも初めから頭の中にあったのか、ましてや、これか歌うはずの曲なのかは分からない。

しかし今、確かにこの曲が浮かんだ。曲名は――、『愛してるばんざーい!』と言う。

まあなんとも直球なタイトルではないか。さて、なぜ今ココでそれを歌うのか? そして、なぜ崩壊の際に長い時間を取る歌を選ぶのか?

 

背後では音乃木坂の校舎が完全に消滅した。伝説の木が消滅すれば、もうおしまいだ。

しかしそれでも、穂乃果たちは歌い続けた。

その弱さを、どうか理解して欲しい。

 

 

「――ッ」

 

 

穂乃果たちは皆、この仮想世界での事を思っていた。

記憶を一つずつ辿っていく。歌詞に過去を乗せて、思い出をそこに視る。改めて、じっくりと、ゆっくりと。

家族、親友、青春、そして――、『変化』。

気づけば、一人、一人、笑顔になっていく。

そして穂乃果は満面の笑みを浮かべ、大きく叫んだ。

 

 

「わたしはね! エムくんの事が――!!」

 

 

木は、まだそこにあった。

穂乃果は、想いを言葉に乗せて、叫んだ。

 

 

【GAME CLEAR!!】

 

 

ファンファーレが鳴り響く。

腕を組み、訝しげな表情を浮べる飛彩。

 

 

「どういう事だ。研修医、説明しろ」

 

「伝説の木の下で告白したらそりゃクリアだろ。ときメモやった事ないのか? 4は名作だぜ?」

 

 

クロトはこの世界を恋愛ゲームだと言った。

だからクリアした。それだけの話なのだ。

 

 

「終わっていない物語に価値はありません。しかし今、こうして終わらせたことにより、石神エム達が辿った世界が破壊(しゅうりょう)しました。それはひとつの物語(ほん)の完成です」

 

 

しかし――、と、目を細める渡。

誕生は時に残酷だ。生を受けたと思ったときが一番怖い。不安定な命は、そこで潰えるときもあるのだから。

 

 

「もはや、僕達にできる事はなにもありません」

 

 

世界が光に包まれる。帰還する飛彩、大我、貴利矢。ポッピー。

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

ふと我に返る。

穂乃果は花畑に立っていた。なんだか世界の色彩が違う気がすが……。

まあいいだろう。

 

 

「………」

 

 

穏やかな風が吹いた。

色とりどりの花びらが舞い上がり、穂乃果の髪を揺らす。

一瞬、目を閉じて髪を押さえる。

 

そして目を開くと、向こうに大きな木が見えた。

伝説の木だ。けれどもその葉には色とりどりの花が咲いている。

赤、白、青、黄色、まだある。緑、紫、ピンク――などなど。

 

 

「!」

 

 

そしてその木の下に、四人の少年が立っているのが見えた。

穂乃果はパッと、太陽のような笑顔を浮かべて走り出す。

 

 

「やっぱりキミは、凄いね」

 

「!」

 

 

だが踏みとどまる。

少年たちと穂乃果の間には、とても大きな水溜りがあった。

いや、それはもはや『湖』だ。キラキラと青く光る水。水面は驚くべきほど輝いていて、景色を反射している。

 

 

「でもファンに向けるお世辞としては……、出来すぎだね」

 

 

石神エムは呆れた様に笑った。

穂乃果は笑みを浮かべたまま足を止める。

 

 

「キミのその言葉を、キミのファンは待ってる。夢見てる」

 

「妄想の間違いだろ?」

 

 

タイガはヘラヘラと笑った。そうとも言う。

だが、それでいいだろ? そうなるべきだ。

 

 

「アイドルであり続けてくれ、キミ達は自由に羽ばたく鳥だ」

 

 

ヒイロはそう言った。

 

 

「でもわたしは――ッ、わたし達は!!」

 

「高坂先輩」

 

 

キリヤが言葉を挟む。

 

 

「っ、なに?」

 

「凛ちゃんは――、みんなは無事ですか?」

 

「もちろん! ミューズは全員無事だよ! だってッあなた達が――」

 

「だったら、ボク達はもう十分です」

 

「え……?」

 

「ミューズが無事なら、おれ達はそれだけでいいんだよ」

 

 

それは、拒絶である。

 

 

「穂乃果ちゃん。次は、キミ達が夢から覚める番なんだよ」

 

 

風が吹いた。

穂乃果の目に青空が映った。

その下で、四人の男達が誇らしげに笑っていた。

 

羽水ヒイロは小さいながらも自慢げに。

 

鋼タイガは安堵したように。

 

火馬キリヤは少し寂しげに。

 

そして、石神エムは達観したように笑う。そして男達は背を向けた。

一瞬だけ、そこに誇りの鎧が重なる。

 

 

「―――」

 

 

しかし、穂乃果は笑った。

笑い、地面を蹴る。花びらが舞い上がる。そのトンネルを駆け抜けて、穂乃果は地面を蹴った。

そして、水面を下に見る。

 

 

(エムくん。ごめんね。言われた通り、ウソだよ)

 

 

穂乃果はエムを欠片も愛してはいない。

これは本当だ。紛れもない真実だ。

 

 

(でもね、勘違いしてるよ)

 

 

好きになれるかもしれない。

一緒にいれば、愛せるかもしれないじゃないか。

 

 

(それに――)

 

 

強くあり続けるのは、怖い。

そういったら、貴方は幻滅しますか?

言いワケなのかも、結局、わたしは――……。

 

でも、それはいけない事かな? だってお父さんやお母さん、雪穂と離れたくないよ。

わたしにとっては、データとか、分からないでしょ? みんなと過ごした記憶がウソでしたって突然言われてもサッパリだよ。

それはみんなも同じ。それに一番怖かったのは――

 

 

『あの光景はどうだい? 怖いだろう? 辛いだろう?』

 

 

怖かった。今も、思い出したくないよ。

わたしは、ミューズの皆が大好き。だからずっと一緒にいたい。そう思うのは――、いけない事なのかな?

きっと皆も一緒だって思ってる。でもね、怖い、辛い、だってきっといつかミューズは終わっちゃうから。

 

 

「エムくん。一緒に行こうよ」

 

 

共に歩もう。

 

 

「!!」

 

 

声を感じたのだろう。

振り返るエム。その表情を見て穂乃果はニカっと笑った。

 

 

「やっぱり泣いてる」

 

 

知ってるよ。強がってもバレバレだよ。

だってわたしは――

 

 

「あなたの、幼馴染だから」

 

 

強がらないで、弱さを晒して。

わたしも、晒すから。

 

 

「仮面を被るのがアイドル。でもその仮面は必ずしも悪いものじゃないよね?」

 

 

それは、仮面ライダーが教えてくれた。

貴方の前で、この仮面を被りたい。そう思わせてくれて、どうも、ありがとう。

弱さは一緒に隠せばいい。お互いの前なら、ずっと格好つけられるもんね。

 

 

「だから受け入れて欲しいよ……!」

 

 

ねえ、エムくん。

お願いだから――。

 

 

「わたしの、アイドルになって」

 

 

逃げ道を照らし続けてくれる偶像に。

しかし、悟った。湖を飛び越えられない。手を伸ばす穂乃果。

エムは勝ち誇ったように笑う。その後、切なげに笑った。

 

 

「!」

 

 

しかしまた、驚いた顔になる。

それは穂乃果も同じだ。体がフワリと浮いた。掴まれる感覚。そして押される感覚。

後ろを振り向くと、8人の親友が見えた。

 

 

「私達は、ずっと一緒ですよ」

 

「海未ちゃん……!」

 

「行こっ! 穂乃果ちゃん!」

 

「ことりちゃん!」

 

「みんなで文江おばあちゃんのラーメン食べに行ッくニャー!」

 

「凛ちゃん!」

 

「残念ながらコッチのほうがご飯が美味しいという事実……!」

 

「花陽ちゃん!」

 

「私はどっちでもいいんだけど、皆がコッチに行くって言うから――」

 

「うんうん! ありがとう真姫ちゃん!!」

 

「まだラブライブも決着ついてないしね。このまま終わりなんて不完全燃焼もいい所よ」

 

「だよね絵里ちゃん!!」

 

「そうよ! こころ達に私のプリティーな姿を見せないと、姉としてのプライドが許さないわ!」

 

「うん! わたしもだよにこちゃん! 雪穂に会いたいな!!」

 

「それになにより――」

 

 

希は笑顔でカードを取った。

 

 

「ミューズは9人でひとつ。そうやんね?」

 

 

その言葉に8人は頷いた。

そして、呆気に取られているエム達に向かって飛んでいく。

さあ、届くか届かないか、微妙なラインだ。しかし穂乃果はそれでも前に、前に飛んで行く。

 

 

(ねえ、知ってる?)

 

 

エムくんの事が好きだったのは、ゲームが上手いからじゃないよ。

優しかったから、一緒にいたから。思い出があったから。

あなたじゃないと、ダメだったから。

 

そう思ってた"わたし"を、『わたし』は知ってるからね。

 

 

「なるほど――」

 

 

それを遠くで渡が視ていた。

目を細め、直後踵を返す。

 

 

「その選択ですか」

 

「どういう事だ? 渡?」

 

 

隣にいたコウモリが問いかける。

 

 

「世界が確立する」

 

 

そして、オーロラに包まれて消えていく。

 

 

再構築(リ・イマジネーション)の誕生さ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――って夢を見たんだけど」

 

「たッ、たすけてぇええぇぇえぇえ!!」

 

「……いや。ちょっと、なんでそっちがそんなにビビるわけ?」

 

「はわわわわわ! ご、ごめんね。でも想像しただけでビックリしちゃって」

 

 

悪夢を見るのは珍しい話ではない。

しかし悪夢を見た本人が気だるそうに喋り、それを聴いている友人が青ざめて震えていると言うのはおかしな話だ。

だが、それはそれだけ真剣に話を聞いてくれている証拠だろう。

 

西木野(にしきの)真姫(まき)は唇を吊り上げ、目の前で震えている少女、小泉(こいずみ)花陽(はなよ)を見る。

すると教室の扉が開き、元気な声が聞こえてきた。

 

 

「かーよちん! まきちゃーん! おはよーにゃー!」

 

「おはよう凛ちゃん」

 

「ん、おはよ」

 

 

ショートカットでボーイッシュな少女、星空(ほしぞら)(りん)はカバンを自分の席に置くと、すぐさま花陽たちのところへ。

 

 

「なに話してたニャ?」

 

「うん、真姫ちゃんが怖い夢みたんだって」

 

「おーおー、リンがよしよししてあげようかニャ?」

 

「べ、別にッ、たいしたことじゃないわよ!」

 

「遠慮しなくても良いのににゃあ」

 

「してない!」

 

「あ、でもでもリン、前にテレビで見たんだけど、悪い夢を見たから悪い事が起きるとは限らないんだって!」

 

「あ、私も聞いた事ある! むしろ良い事が起こる前ぶれかもしれないんだって!」

 

「だから大丈夫だって。それに――」

 

 

少し――、真姫は微笑んだ。

 

 

「別に怖い夢じゃなかったもの」

 

「そうなの?」

 

「ええ、なんだか、不思議なユメ」

 

 

もうやめよう。

話題を変え、楽しそうに朝のガールズトークに花を咲かせる三人。

 

 

「最近順調よね。いろいろ」

 

「そうだね、ラブライブも順調だし」

 

 

始めは廃校を救う目的だったのに、よくもまあココまでこれたと改めて思う。

 

 

「もしもライブがダメだったらどうなってたのかしらね?」

 

「共学になってたり?」

 

「えぇ! 困るよぉ! は、恥ずかしい……!」

 

「私もちょっと、男の子と一緒は抵抗あるかな……」

 

 

そこでふと、三人は窓の外を見る。

 

 

「穂乃果ちゃんニャ」

 

 

穂乃果はいつもどおり、海未とことりと一緒に学校を目指している。

 

 

「凄く楽しそうに笑ってるね」

 

「どうせ下らない話でしょ。パンがおいしいとか、中身のない内容よ」

 

 

その時、真姫はふと校庭の端に目を移す。

 

 

「あれ?」

 

「どうしたの?」

 

「う、うぅん。ねえ、あそこに大きな木が生えてなかった?」

 

「え? 木?」

 

「生えてないよぉ?」

 

 

ポカンとする花陽と凛。

真姫もそうだったと首を振る。

 

 

「もしかして真姫ちゃん。まだ寝ぼけてるにゃー?」

 

「そんなワケないでしょ! イミワカンナイ!」

 

 

三人はそのまま軽い調子で他愛もない会話を続ける。

ふと、その中で真姫が鼻歌を歌っているのに気づいた。

 

 

「それ新曲?」

 

「あ、ううん。違うの。夢で聞いた曲」

 

「へぇ、なんて曲?」

 

「うん――、えっとね」

 

 

真姫は曲名を口にした。

ネットで調べても出てこなかったので、夢の中だけの曲だったのか。

それとも、遠い世界の曲だったりして。真姫はニヤリと笑いながら言葉を放つ。

 

 

「Who's That Guyって、歌」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※このブログは1年以上更新されていません

 

【ゲームレビュー:ラブラブライブ2】

 

 

はいどうもー!

はじめましての方ははじめまして! おはこんにちこんばんは! マシュマロパンチです。

 

味は三度の飯よりゲーム!

あまりにもゲームが好きすぎて、クソゲーをプレイすると体調を崩す体質ですww

おかげさまで好評のゲームレビューも45作目になりました。

 

我ながらゲームしすぎだろ……! なんつってww

 

 

 

はい、じゃあ早速本題にです。

今回プレイしたのは"ラブラブライブ2"。現在も絶賛活動中であり、ちょっとした社会現象にもなったミューズと恋愛ができるゲームの第二作目と。

 

それではズバリ総評言ってみましょう!

 

 

評価『☆☆☆☆★』

 

 

はい、4点ですね! 今回はかなりオススメです!

前作がやっぱりちょっとアレだっただけに、今回はかなり改善されてていい感じなんじゃないでしょうか。

と言うワケで前作の無印と比較しながらレビューしていきたいと思います。

 

 

・主人公について

 

前作ではやはり名前が固定だったのがモヤモヤしましたが、今作から自由に変更できるようになりました。

やっぱり恋愛ゲームなので名前って大切だと思うんですよ。かくいう私も本名プレイ派ですからねww

さらにハードの進化によって名前を読んでくれる機能つき! まあ用意されたパターンしかないのでイントネーションが違う人はドンマイですww

 

 

・ヒロイン(ミューズ)について。

 

 

前作で一番ファッ●だったのって、やっぱりヒロインの距離感だと思うんですよ。

特に凛ちゃん、海未ちゃん、にこにーは放置しておくと他の男子と仲良くなるのが●ァックでした。

 

逆に穂乃果ちゃんの好感度が上がりやすいんで、なんか結局いつも穂乃果ちゃんルートになっちゃうんですよね。あの笑顔は裏切れない裏切れないww

まあ男サブキャラもいてもいいとは思うんですよ。ただやっぱり放置しておくとメインヒロインと仲良くなるのはね、うーんって感じでした。

 

 

・システムについて

 

 

まあここら辺は特に前作と変わってませんね。

特に悪くもないって感じでしょうか。

 

 

 

・総評

 

 

前作ではファ●クだった所が軒並み修正されていたので、個人的には満足です。

間違いなく勝って損はないゲームだと思いました。(勝ってって何だよ買ってだろ! よよいのよい! ←あ、これ僕が考えたツッコミなんで皆さんも使ってもいいですよ!)

 

はい、話を戻します。

じゃあなんで満点じゃないのかって言うと……。

 

うーん、なんて言ったらいいのかな?

別にシナリオが悪いワケじゃないんですよ。いやむしろ今回の方が良いかもしれません。

 

なんですが――……、うーむ。前作のね、穂乃果ちゃんルートなんですけど、主人公が『生きてる』感じがしたんですよ。

 

あぁ、いや、主人公だけじゃなくて、なんかキャラクター全体が。

 

なんて言ったらいいのかな? まあ僕が感じただけなんで、他の人はどうかは知らないですけどね。

そのエネルギーが今作は感じられなかったので、そこ減点させてもらいました。

ああいや。まあコッチの方が感情移入はしやすいんで、お勧めはやっぱりコッチです。

ミューズは現在も活動中ですからね。ゲームを買って現実でも応援したいと思います!

 

 

 

はい、じゃあ次回は仮面ライダーのゲームをやってみようと思います。

なんかライドゲートって言うのを使うらしくて。

自分、奮発して勝っちゃいました。フィギュアもいっぱい買いました(爆)

ボクね、ライダーも好きなんですよ。だから楽しみだなぁ

 

 

ゲームって、最高ですね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マスクドライバーエグゼイド! アポロンの獏

 

 

 

END

 

 

 

 






どうも、ここまで読んでいただきありがとうございました。

すごいですよね、アイドルってヤツぁ(´・ω・)
ツイッターでもそうです。たとえば誰かが解散だったり卒業するってなったら世界の終わりみたいに悲しんでいる人がいれば、どうでもいいとか言ってる人もいるんですから。

まあ、なんかそんなの見てて、書いたらこんなんになりました。


ただごめんなさい。
一応今回で終わりなんですが、正直もう少し番外編みたいなの続けるかもしれません。
もうちょい書いてみたいヤツがあるんで、なんかしれっとはじめてるかも。
考えてるのが二つくらいあるんで、多分まだ続きます(´・ω・)

でもまあとにかく本編はこれで終わりです。
読んでいただき本当にありがとうございました。
一応この先にエピローグがあるので、よければそちらもどうぞ。
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