マスクドライバーエグゼイド! アポロンの獏   作:ホシボシ

7 / 13
ちょっと6話長くなりそうなんで分割します。
とは言っても後半まだできてないんで更新は、たぶん来年になりそうです(´・ω・)


第6話 血まみれのイデオ(前編)

 

 

「はい! じゃあここまでにしましょうか」

 

 

手を叩く絵里。

それを合図に、穂乃果たちは糸が切れた人形にようにへたり込んだ。

 

 

「も、もうらめぇ……!」

 

 

花陽がフニャフニャと唸りながら声を絞り出す。

ココ最近、ミューズの練習量が倍近くにまで増えた。

それはまもなく、ラブライブの本戦に選ばれるチームが選ばれるからであろう。

一応ここでもファン投票は行われ、それが今後にも影響が出るといわれている。だからこそ近々予定されているライブでいつもの倍以上の得点は獲得したい。

 

 

「私達のライブの前日はアライズですからね……!」

 

「まったく、最悪な時に重なったもんね」

 

 

息を切らしながら海未とにこが天を仰ぐ。

絶対王者と呼ばれるアライズのパフォーマンスを経過した人間の目にどう映るのか、それが少し不安だ。

 

 

「大丈夫、わたし達はわたし達のライブをやればいいんだよ! ね?」

 

 

穂乃果がニコリと笑うと、他のメンバーも釣られて笑う。

 

 

「ンナニソレイミワカンナイ! デキマスヨソノクライ! ヴェェエェ! はい、これ真姫ちゃんの真似な」

 

「フン、それくらい俺にもできるさ。マッタクー、ヘンナコトイウカラー」

 

「おれもできるかな? ワタシハベツニ……、ソレワタシノマネデショ」

 

「ウェアァ」「ヴェァァ」「ウェェエ」「ヴェェエェエ」「ヴェェェエエェ」

 

「ちょっと止めてよッッ! ン意味分かんないッ!!」

 

 

真っ赤になって吼える真姫。その視線の先には屋上の隅で固まっている写真部だった。

 

 

「ちょいちょい、しっかり撮ったんでしょーね!」

 

 

にこは汗を拭いながらタイガの前に立つと、持っていたカメラを奪い取る。

そして確認。ミューズがダンスをしている間、タイガたちはそれをバッチリと撮影していた。

スクールアイドルは普段のライブも全て自分が準備をする。その中で最も大切なのはやはりカメラであろう。

今までは穂乃果の友人トリオに手伝ってもらっていたが、向こうにも用事がある。毎回と言うわけにもいくまい。

そんなときのための写真部だ。静止画だけでなく映像を納める技術も、ある程度は身に着けているタイガ指導のもと、エム達も穂乃果達をいかに魅力的に撮影するかを学んだのだ。

 

 

「ん。悪くないわね」

 

「だろ? ま、ライブはオレらに任せておきな。それより――」

 

 

指を鳴らすタイガ。

 

 

「1号、2号、女神達にお茶をお出しして!」

 

「あ、ああ!」

 

「フン!」

 

 

頷くエムと、タイガに使われるのが不満そうなヒイロ。

だが二人は一旦屋上から出て行くと、すぐにクーラーボックスを抱えて戻ってくる。

写真部の活動はもはやマネージャーである。季節的に風は涼しいが、激しく動いたミューズ達は汗だく。

まだ体が熱いのか、皆、頬を上気させている状態。クールダウンのためには、冷たい飲み物の差し入れは必須なのだ。

 

 

「助かったよぉ、もう喉カラカラ!」

 

 

クーラーボックスに群がるメンバー達。

中には冷やされた色とりどりの水筒が。

 

 

「お茶?」

 

「いやッ、ちょっとスポーツドリンクを作ってみたんだ。みんなの口に合うといいんだけど」

 

「会長が作ったんですか? へぇ! 頂きます!」

 

「ああ、水分やミネラルを効率よく摂取できればと思って……」

 

 

もともと喉は渇いていた。一同は勢いよくヒイロ特製のドリンクを流し込む。

すると大きく飛び上がる凛。目がキラキラしてる。

 

 

「わぁ! おいしー!」

 

「ハラショー! 本当! なんだか潤いが直に来るって感じね!」

 

「すごく飲みやすいねぇ。ありがとうございます会長さんっ」

 

 

凛、絵里、ことりだけではなく、他のメンバーからも賞賛の声が次々と上がる。

一方で目を細めて首を振るタイガ。

 

 

「やらしい男……。普通のポカリとか買えばいいのにわざわざ自分で作っちゃって。点数稼ぎかにゃあ?」

 

「お前は黙ってろ!!」

 

 

エムが叫ぶ。まあ確かにそう言われればそうかもしれないが、ヒイロはちゃんと配合を考えて、ちゃんとしたクオリティの高いものを作っている。

それはなによりも、ヒイロとてミューズの役に立ちたいと言う想いの表れだろう。

 

 

「いいんやない? これ、普通に売ってるのより美味しいよ?」

 

「こ、光栄です」

 

 

嬉しそうに笑い、メガネを整えるヒイロ。

一方でカメラを確認していたにこも、立ち上がりクーラーボックスを目指した。

 

 

「どれどれぇ、そんなに美味しいなら私も――って、あれ?」

 

 

クーラーボックスの中は、空。

 

 

「私のが無いじゃない!」

 

 

そういえばと皆は自分が持ってる水筒を見る。

各々を意識したカラーリングだけではなく、ちゃんと名前が掛かれたシールが貼ってあった。

しかしその数は8、つまり最初から一つ水筒は足りなかったのだ。

 

 

「安心しろよ。矢澤、お前には、ホレ……!」

 

「え?」

 

 

振り返るにこ、すると照れくさそうにタイガが笑っている。

その手には水筒があり、それをにこに差し出していた。

 

 

「へへッ、なんつうかよ。この前の詫びっつうか……。オレも作ってきたんだ、特性ドリンク」

 

「タイガ……、なによ、アンタも少しは良いとこあるんじゃない」

 

 

にこはニヤリと笑うと水筒を受け取り、ゴクゴクと喉を鳴らして液体を――。

 

 

「ブゲラァ!!」

 

「にこちゃん!?」

 

「ぎゃああああああああああ!!」

 

 

にこは液体を吐き出すと悲鳴を上げて屋上を走り回る。

 

 

「どうしたの!? アイドルがしちゃいけない顔してるよ!」

 

 

一方でウンウンと頷いているタイガ。

 

 

「矢澤、喜んでもらえてよかったぜ。オレの作った特性ハバネロドリンク」

 

「オラァアア!」

 

「エキサーーーーーーーイッ!!」

 

 

にこは戻ってくるとそのまま地面を蹴ってドロップキックをタイガの腹部にめり込ませた。

地面を転がり、柵に体をぶつけると、タイガはそのまま白目をむいて動かなくなった。

 

 

「全く、あの馬鹿は……! すいません先輩、お茶でよければ、これ、まだ口つけてないんで」

 

「わ、悪いわね……!」

 

 

エムからお茶を受け取り、にこは汗だくでそれを喉に流し込んでいった。

一方でヒイロはさらに大きな『何か』を引きずってくる。

 

 

「あれ、会長、それなんですか?」

 

 

はて、ドリンクは聞いていたが、それは知らない。

エムが問いかけると、ヒイロはその装置の蓋を開ける。

 

 

「ああ、小泉くんが好きと聞いたんでな」

 

「GO☆HA☆N!!」

 

 

ヒイロが持ってきたのは炊飯器だった。

中からは艶やかな白米が姿を現し、湯気がもんわりと立ち込める。

 

 

「か、会長。いくらなんでも差し入れに白米は……」

 

「おかわりくらふぁい!」

 

「食うのかよ!」

 

 

モリモリと白米を貪る花陽。

おかずも無いが、それでいいのだろうか? エムが戸惑っていると、ことりが近くにやって来た。

 

 

「ねえ、エムくんもビデオ撮ってたよね? 見せて見せて!」

 

「ああ、うん。部長よりは下手くそだけど……」

 

「私もいいですか? あ、でも上手いじゃないですか。手ブレも無いですし」

 

 

撮影もエムにとってはゲームみたいなものだ。飲み込みは早かった。

どこで回るか、アップするか、引くか。そしてどのパートで誰を映すのか?

タイガやにこが考えた演出通りにカメラを動かせばいいので、それを覚えるだけである程度は形になる。

 

 

「穂乃果ちゃんも見てみる?」

 

「え? あ……!」

 

 

覗きこむ海未とことり。近くにいた穂乃果も誘うが、穂乃果は引きつった笑みを浮かべて後ろに下がる。

 

 

「わ、わたしはいいよぉ!」

 

「え? どうして?」

 

「い、いやぁ、だってほら……」

 

「どうしたんですか穂乃果?」

 

「汗――ッ、かいてるし……!」

 

「?」

 

 

顔を見合わせる海未とことり。そこでハッとしたようにエムを見る。

 

 

「え? えっ? えッ!?」

 

 

そういう事か?

エムは穂乃果を見る。目が合う。焦ったように赤面して戸惑う二人。

 

 

「思いついた! そうか! 何故そこに気づかなかったんだ! おい矢澤! 今すぐミューズの汗を集めろ! これを売ればきっと巨額の軍資金が手に――」

 

 

にことヒイロの回し蹴りで再び動かなくなるタイガ。

 

 

「………」「………」

 

 

居心地が悪そうに赤面して目を逸らすエムと穂乃果。

それを、少し離れたところで『黒いエグゼイド』が観察していた。

 

 

「………」

 

 

バグヴァイザーと呼ばれる小型のゲームパッドのモニタには、あるグラフが表示されている。

満たされていく数値、解き明かされていくシステム。

悪くない。黒いエグゼイドはノイズに包まれると、その姿を完全に消失させた。

 

 

 

 

翌日。

レバーを握る手に汗が滲むのを感じる。

心臓は激しいリズムを刻んでいるが、それがどこか心地良い。

エムはニヤリと口角を上げて、ボタンを叩く。画面の中ではロボットが激しい動きで相手を翻弄しているが、エムの脳内では冷静に先の動きが予想されていく。

 

 

(相手が覚醒したらおれも覚醒。横格振って、当たったらコンボ。外したらキャンセルダッシュ)

 

 

視点を激しく切り替えつつ、一瞬で状況を判断する。

 

 

(特殊格闘――ッ、いや、バクステでいくか)

 

 

その時、画面外から緑色のレーザーが相手に命中する。

 

 

「ナイス」

 

「んあ」

 

 

淡々とした受け答えだったが、それが決め手になった。

エムの使う赤いロボットが肘うちを繰り出すと、画面が切り替わり特殊演出に変わる。

そして必殺技のエフェクトが放たれ、相手の体力がゼロになる。

同時に歓声。エムとヨッシーくんは椅子から立ち上がるとハイタッチを決めて、ギャラリーに手を振った。

 

 

「決まったー! 西崎ワンダーエリア、第18大会優勝――ッ!」

 

 

司会のお兄さんの言葉を受けてガッツポーズを決めるエム。

また一つの大会で実績を残したようだ。

 

 

「いやぁ、大元帥に付き合ってるおかげで、僕のランクもみるみる上がっていくよ」

 

「ありがとうなヨッシー君。本当に助かるよ」

 

「いいよ。僕も楽しんでるし。また大会あったら呼んでよね」

 

 

ココ最近、調子は良い。

やはり好きなことで勝つのは楽しい。エムは家に帰ってもニヤニヤしながら優勝記念のトロフィーを見つめていた。

今回はそれなりに大きな大会だった。既にネットでも話題になっており、自分のプレイを褒めるコメントが沢山羅列されている。

 

きもちいい。素直にそう思う。

その時ふとテレビに視線を移した。そこにはアポロンTVが映っている。

ミューズのライブの映像が映し出され、エムはしばらくそれを見ていた。

 

きっと彼女達も高揚感を覚えているのだろう。

なんとなく今日の大会で彼女達の気持ちが分かるような気がしてきた。

シャイだった海未だって今や歌って踊って投げキスまで。

 

 

「!」

 

 

そこでコーナーが変わる。

街頭インタビューでミューズの誰が好きなのかを聞いて回る企画だった。そしてそこに『恩恵』の効果が出てくる。

と言うのも、あの社長、リボルの件があったにも関わらずテイパーゲームのシステムを突き通した。

つまりリボルを倒したのはエグゼイドとブレイブ、つまり二年生をピックアップする行為がそれとなく行われているのだ。

 

誰が好き?

そう答える人間は何も知らない者もいれば、アポロンが用意した『サクラ』も多い。

後者は絶対に二年生を好きと答えるのだ。最終的に視聴者の脳には二年生の印象が強く残るように。

 

 

『穂乃果ちゃん良いですよね!』

 

「!」

 

 

ピクリと、エムの耳が反応を示す。

 

 

『お嫁さんにしたいって言うか――』

 

 

これはサクラだ。

そう、サクラ。つまり簡単に言えば嘘なのだ。

 

 

「………」

 

 

待て。本音の可能性もある。

サクラではなく、本当にこの男性は穂乃果が好きなのかもしれない。

お嫁さん。もはや隠す事のない好意である。タイガはアイドルは性を餌にしていると言っていたが、思い切り食いついているではないか。

 

 

「――ッ」

 

 

自分でも良く分からない音が出た。

エムはベッドの上にあった携帯を強く掴みあげると、穂乃果にメールを。

 

 

『今日ね、ゲームの大会あったんだけど。優勝したよ。それなりに大きな大会だったんだけど、勝てて良かった!』

 

 

送信。

しかしそこでハッとする。

何をやっているんだ自分は、なんて。

 

 

(だっせぇ自慢……)

 

 

まあ聡明な皆様ならば既にお分かりかと思うが、男の嫉妬と言うのは女性のソレよりもはるかにドロドロしているものなのだ。

さらに嫉妬や恋慕だけではなく、純粋に自慢したいという気持ちや高揚感。

なによりも一番褒めてほしい相手こそが穂乃果であり、さらに『繋がり』をより感じさせるメールは他の人間よりも穂乃果に近いのだという優越感を感じさせてくれる。

 

とにかく、闇鍋のように様々な感情を混ぜてグツグツ煮立てているような状況なのだ。

まあとは言え、いろいろ言ったが要するに『好きな人を好きといわれて嫉妬しました。褒めて欲しい事があるのでメールします』と言うだけなのだが。

 

 

「!」

 

 

ピロン! と、音が鳴る。

返信が来たんだ! エムはニヤニヤしながらメールボックスを開いた。

 

 

【鋼タイガ】

 

【RE:ヒイロの剣ってさ、変形するときコチーンとか言うよな。

   思ったんだけど、あれ並び替えるとチンコーじゃねww? あいつやべーな】

 

 

「やべぇのはオメーの脳みそだよッッ!!」

 

 

携帯に向けて叫ぶエム。

いかん。いかんぞ、何をやっているんだ。あまりの絶叫に父親が様子を見に来た。ごめん、大丈夫だよ父さん、ちょっと馬鹿に調子を乱されて。

そんな説明をしつつ何とか落ち着きを取り戻したエム。大きなため息をつくと――

 

 

ピロン!

 

 

「!!」

 

 

穂乃果ちゃんだ! エムは表情を輝かせて携帯を確認。

 

 

【羽水ヒイロ】

 

【RE:とんでもない事に気づいてしまった……!

   ガシャコンソードの変形音声って並び替えるとチンコーになってしまう。

   海未くんに嫌われるかな!?】

 

 

「死ねッッ!!」

 

 

携帯を投げるエム。

ボフンと音を立ててベッドに落ちる携帯。エムは頭を掻き毟ると悔しげに呻いている。

するとまたピロン、と言うメール受信音。今度は誰だ? 誰がチンコーなんだ!? 苛立ちから半ばおかしくなりつつエムは携帯を凝視する。

 

 

【穂乃果】

 

【RE:おめでとう! 凄い凄い!リ`・ヮ・) ごめんね、今日は練習で見に行けなくて。

   今度は行きたいから、日にち決まったら教えてね!

   うーん、こういうときなんて言えばいいのかな?

   とにかくおめでとう! これからも応援してるから頑張ってね!

   ファイトファイト! オー!】

 

 

エムは目を輝かせてニヤニヤ笑い始める。

ごめん、会長死ねなんて言って。ごめんタイガ、お前の観察力は凄いよ。

そんな事を思いつつ、穂乃果からのメールを何度も見返すエム。

すると新たなメールが画面に表示され、エムは息を呑む。

 

 

【雷山クロト】

 

【RE:マスクドライバーの諸君。少し話したい事がある。

   申し訳ないが、今すぐ社長室にまで来てくれないか】

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、エムくん」

 

「会長、来てたんですね」

 

「ああ、たった今到着したよ」

 

 

エレベーターの前で二人は合流し、一緒に社長室を目指すことに。

呼び出される理由には心当たりがあった。なにせリボルのことがあった後だ。

社長はすぐに配布した全てのガシャットを回収する手を取った。

 

つまり全てのヴィランを消すという事だ。そうなればマスクドライバーの存在も意味を無くす。

少々、残念ではあるが、自演バトルができなくなった以上、もうエム達に用はないだろう。

いよいよドライバーとガシャットを返す時が来たのかもしれない。

 

それにエムとしては一番の引っかかりであった穂乃果との距離も写真部のおかげで何とかなっている。

そんな事を考えつつ扉を開けると、ソファにどっかりと座っているタイガが見えた。

 

 

「おせーぞカス共」

 

「部長。もう来てたのか」

 

「フン、来客の態度とは思えんな」

 

 

首を振るタイガ。

辺りを見てもクロトや我李奈の姿はない。

 

 

「呼び出しておいて、お茶もねぇとはな。クレームの電話でも入れるか?」

 

 

そう言ってヘラヘラと笑っていると、扉が開いた。

クロトかと思って視線を移すと、そこには知らない人間が。

 

 

「あ……!」

 

「?」

 

 

小柄な少年だった。

明るい髪色で、目に少しかかるほど伸びている。マスクをしており、少年はエムたちの視線に気づいたのか肩を竦めて頭を下げた。

 

 

「一年担当、火馬(ひば)キリヤです。あの、よろしくおねがいします……」

 

「ああ! キミが!」

 

 

火馬キリヤ。

一年生であり、四つ目のドライバー、レーザードライバーと、『爆走バイク』のガシャットを持つ少年だった。

小柄であり、声変わりをしても高い声は、中性的なイメージを持たせる。そして見た目どおり、どうやら気が弱いようだ。

人見知りなのか、居心地が悪そうに斜め下をジッと見ている。

 

 

「なんだか暗いヤローだな! やだねやだね! 部屋に引きこもってグチグチネットで悪口書いてそーだぜ!」

 

「お前がいうな」「お前がいうな」

 

「いっでッッ!!」

 

 

エムとヒイロが同時にタイガの頭を叩く。

 

 

「年上を殴るなよ!」

 

「ならば殴られるような事をするな」

 

 

にらみ合うヒイロとタイガ。エムは二人を放置して、キリヤの前に立つ。

 

 

「はじめまして。おれは二年担当、石神エム。よろしく」

 

「あ、はい! よろしくお願いします」

 

 

深々と頭を下げるキリヤ。

ヒイロとタイガもキリヤのもとに集まる。

 

 

「エムくんと同じ二年担当の羽水ヒイロだ」

 

「生徒会長もマスクドライバーだったんですね。驚きです……!」

 

「まあいろいろあってな。それでコレが――」

 

「おい、コレってなんだよ。オレは鋼タイガ。三年担当だ。ま、よろしくな、こーはい君!」

 

「あっ、あうぅう!」

 

 

タイガは人さし指でつんつくつんつくキリヤを突っつく。

困ったように縮こまるキリヤ。一方ゲラゲラ笑うタイガ。

 

 

「やめろ」「やめろ」

 

「んごッホッ!!」

 

 

エムとヒイロはタイガの背を思い切り叩く。

うめき声を上げてうずくまるタイガを、二人は冷たい目で見つめている。

 

 

「怖がらせるな! ドアホが!」

 

「ごめんなキリヤくん。気にしないでね」

 

「はい……!」

 

 

するとそこで扉が開き、クロトと我李奈が姿を見せた。

 

 

「これはこれは。悪いね。わざわざ」

 

 

いつものように貼り付けた様な笑顔を浮かべながら、クロトは自分の椅子に座る。

 

 

「キリヤくん。インフルエンザはもう良いのかい?」

 

「はいもう平気です。それよりすみません、せっかく選んでもらったのに……」

 

「いやぁ、良いんだよ。こればかりは仕方ないからね。お大事に」

 

 

クロトはそう言いながらモニタにある物を表示させる。

それは化け物の姿だった。二本の脚で立ち、人のシルエットこそしているが、どう見ても人ではない。

当然心当たりがあるとすれば、それはヴィラン。

そう、画面には二体のヴィランが表示されていたのだ。

 

 

「右はモータス。左はコラボス。この二体のガシャットだけは回収できなかった」

 

「ッ、という事はつまり――」

 

「持ち逃げされてしまったという事だよ」

 

 

コラボスの所有者とは連絡がつかず、モータスの所有者からは意図的にガシャットを頂くという挑発的なメッセージを頂いた。

そしてクロトは確信している。この二体にもリボル同様のバグが発生している事に。

 

 

「つまり、現実でヴィランの力を使える!」

 

「ああ。そういう事になる」

 

 

お察しの通り、双方発信機には気づいているのか、既に場所を特定する事は難しい、と。

 

 

「遠隔で機能を止める事はできないのかよ!」

 

「そういう機能もありましたが、既に意味をなくしております」

 

 

そもそも、はじめはガシャットなど、ただゲームエリアを広げてアバターを作るお遊び道具だった。

それが兵器になるなんて考えもしていなかった事だ。日本でも最近はバーチャル体験を売りとした玩具が発売されている。

専用のゴーグルを被ることで仮想世界の体験ができる。ガシャットもその延長線でしかなかった。なのに現実に影響が出始めたのだ。意味が分からないし、お手上げである。

 

 

「よって、キミ達にはこれからもドライバーを所有してもらい、このヴィランの討伐を依頼したい」

 

「ちょっと待ってください。既にこの二人がこの町を離れている可能性は?」

 

「十分にあるだろう。あくまでもキミ達の生活に支障が出ない範囲で構わない。あとは我々がなんとかしよう」

 

「………」

 

 

複雑そうに唸る一同。

その中でヒイロはメガネを整え、一歩前に出る。

 

 

「分かりました。しかし今回の件はとんでもない事態であり、それを巻き起こしてしまったのは貴方達だ」

 

「もちろん、この件が全て解決したときには、我々はしかるべき責任を負おう。けれども今はまだキミ達のサポートに徹したい。そこは分かってくれ」

 

 

理解できる話だ。

テストプレイの間に問題は無かったのか? そこが気になるが、こんな未来的なアイテムの開発などエム達には想像もつかない技術が使われている筈だ。

とは言えさすがにどんなにバグの可能性を考慮しても、まさか現実で使えるなんて――、そんな発想は出てこないだろう。

『ショックが強すぎて人体に影響が出てくる』程度の事ならばまだしも、バーチャル武器が実際に機能するようになるなんてとんだファンタジーだからだ。

だが次にクロトが口にした言葉はさすがに引っかかるものだった。

 

 

「こんな状況でなんだが、やはりまだテイパーゲームは続けてもらう」

 

「まだ言ってんのかよ社長さん。この前の病院の件、知らねぇワケじゃねーだろ」

 

「そうですよ社長。部長がいなかったら、病院は破壊されてましたよ!」

 

「それはあくまでもヴィランの仕業だ。テイパーゲームはサバイバルの形式をメインとする」

 

 

ヴィラン討伐ではなく、ライバー同士の戦いによりミューズに恩恵を与えていくルールをメインに変えると。

アポロンTVの視聴率や番組アンケートの結果を見るに、悪くない結果が出ている。いやむしろ良い結果が出ているらしい。

 

 

「これは世間がそれだけスクールアイドルに、ラブライブに、なによりもミューズに興味を持っている証拠だ」

 

「ッ」

 

「アイドルは日々の苦労や苦悩をステージの上に出すかい? 出さないよなぁ? キミ達も同じように、黒を自覚しながらも裏で戦ってはくれないか?」

 

「………」

 

 

なんとも言えない。まさにコレだろう。

嫌ではないが、何の抵抗も無くイエスとは言えない。

 

 

「社長。どうして貴方はそこまで穂乃果ちゃん達に拘るんですか?」

 

 

クロトの行動の裏には常に『ミューズの為』があるように思えて仕方ない。

 

 

「言っただろ? 私は彼女達の才能を高く評価しているんだ」

 

「……本当にそれだけですか?」

 

「もちろん」

 

 

断言である。

 

 

「愛着もある」

 

 

クロトは社長室の壁にかかっている絵を見る。

そこには黄金の翼を生やし、黄金色をした花の冠をつけた神が立っていた。

 

 

「海外に行った時に買ったんだ。アポロンを描いているらしい」

 

 

アポロン、会社の名前にもなっている。

その由来は神話に出てくる神様である。オリンポス12神の一人にして、芸術を司る神、アポロン。

 

 

「ミューズは、アポロンの侍女だからね」

 

「………」

 

 

話はそれで終わった。

結局、四人はモヤモヤを残したままアポロン社を出て行く事になった。

 

 

「やれやれ」

 

 

ため息をつくエム。

くるるるるるる――。そんな音が聞こえた。

 

 

「ん? なんの音だ?」

 

 

ヒイロが周囲を見回す。すると真っ赤になっているキリヤが見えた。

 

 

「………」「………」「………」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 

おなかを押さえて赤面しているキリヤ。

タイガが顔を上げると、『平日一皿90円』の文字が見えた。

 

 

 

 

 

 

「なんか怪しいヤローだな、クロトって」

 

 

タイガは訝しげな表情でカレーをつついている。

 

 

「怪しいっていうか、よく分からない」

 

 

マグロに醤油をかけるエム。

正直、タイガの言うことは分かる。

なんだかクロト社長は信用できないというか、いつも浮べている笑顔が嘘に見えて仕方ない。

 

 

「案外、ガシャットバグらせたものアイツらだったりしてな」

 

 

タイガはガリをライスに乗せて、カレーと一緒にほお張った。

さらにテーブルの中央にあるポテトに手を伸ばし、モリモリ貪っていく。

 

 

「それは無い筈だ。わざわざそんなリスクを背負う意味がない」

 

 

炙りサーモンに手を伸ばすヒイロ。皿に醤油をたらして、そこにシャリをつけている。

 

 

「クロトがミューズをプロデュースをしたいというのは本当だろう」

 

 

炙りサーモンに手を伸ばすヒイロ。香ばしいサーモンの風味が鼻を抜ける。

 

 

「もちろん、そこにどんな裏があるのかは分からないが」

 

 

炙りサーモンに手を伸ばすヒイロ。

二つをすぐに口に運ぶと、電子モニタで炙りサーモンを注文する。

 

 

「いや、案外ミューズは釣りで、これを兵器運用しようとしてたりな」

 

 

バンバンシューティングのガシャットを取り出すタイガ。

さらに電子パッドでラーメンと茶碗蒸しを注文する。

 

 

「だとしたらもっと裏でやるだろう。わざわざ俺達に託す意味が分からない」

 

 

ヒイロは炙りサーモンを受け取ると、流れてきた炙りサーモンを取る。

 

 

「確かに。社長の言い方じゃ適合者は後から変えられるみたいだし」

 

 

エムはブリを食べると、小声で『うまい』と呟く。

 

 

「研究所にでも篭って使えるようにすればいい筈だしね」

 

 

エムは熱いお茶を飲む。

アポロン側が本当に『ミューズを応援している』ならば、ラブライブが中止になるかもしれない事態は避けたいはず。

世間を混乱に落とすような今回の事態を画策するとは思えなかった。

 

 

「キリヤくんはどう思う?」

 

「ボクですか? う、うーん……」

 

 

キリヤの近くにはたまご、ハンバーグ、プリンが置いてある。

 

 

「考えた事なかったなぁ。優しそうだし、良い人だと思いますけど……」

 

 

どうやらキリヤは本当にクロトの説明が全てだと思っているようだ。

タイガは意地悪な笑みを浮かべると、キリヤが今まさに食べようと思っていた蒸し海老を一つ奪い取る。

 

 

「あぁ! ボクの海老……!」

 

「へへへへ! 世の中嘘ばっかりだぜ? 純粋なのはいいけど、裏切られるのは覚悟しとけよ!」

 

「部長、人の物を取るなよ」

 

「いいじゃねぇか。つうか後輩くん。チョイスがガキなんだよ。もっと大人なモン食え。トロ奢ってやるから!」

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

「タイガ、お前こそ寿司屋に来たんだから寿司を食え」

 

「生魚嫌いなんでね。つうかオメェこそどんだけ炙りサーモン摂取する気だよ!」

 

「そうですよ会長。店のサーモン全部炙らせる気ですか?」

 

「好きな物を好きなだけ食えるのが回転寿司の利点だろう? 俺はサーモン厨なんだ」

 

「自分で言うのかよ。っておい! なんかサーモン新幹線コッチに来るぞ!」

 

「よ、4皿も炙らせるなんて、会長は凄いなぁ」

 

「丁度いい、キリヤくん、一つ食べるか? 美味しいぞ」

 

「え? い、いいんですか? 頂きます!」

 

「おう、つうかよ石神」

 

「ん? なんだよ、部長」

 

「高坂なんで一人で突っ立ってたんだよ」

 

「あぁ、それは……」

 

「俺もそれは気になっていた。海未くんと、ことりくんはキミの傍にいたが?」

 

「いやッ、別に対した事じゃないですよ。おれが撮影した映像を見たいってことりちゃんが――」

 

「ふぅん。それで? あ、ちょっと待てラーメンとトロが来た。あ、ダメだチクショウ、トロがコチコチに凍ってやがる。おい後輩、ちょっと放置させとけ」

 

「え? あ、うん。分かりました」

 

「――それで? 石神、話の続きを聞かせろよ」

 

「あぁ、穂乃果ちゃんも見るって聞いたんだけど……、なんか汗が――、その気になるみたいで」

 

「汗? ハハーッ、なるほどねぇ! つまりなんだ、高坂も乙女だな!」

 

「ん? どういう事だ?」

 

「おいおいヒイロ、マジで言ってんのか? 後輩くんは分かるよなァ?」

 

「え? あぁ。汗の匂いを気にしてるって事ですか……?」

 

「なるほどな。それが良いと言うのに」

 

「……前から思ってたけどコイツってヤバイよな」

 

「馬鹿を言えよ部長。会長はちょっと性癖が歪んでるだけで人間ができてるんだよ」

 

「海未くんのタオルに顔をうずめたい。その状態で頭を撫でてもらいたい」

 

「前言撤回。やっぱコイツやべぇわ」

 

「あ、後輩くん。もうトロがフニャンってなってるから食ってもいいぞ」

 

「いただきます! おいしい!」

 

「食ったな」

 

「え……?」

 

「オレのトロを食ったよな」

 

「いやッ、でもコレ先輩がくれるって……」

 

「火馬キリヤ。小泉、西木野、星空と同じクラス。つい最近転校してきたばかりで、まだ友達らしい友達はいない。社交性もそんなに無いのか、休み時間はもっぱら読書だな?」

 

「!」

 

「調べたのか、部長」

 

「相変わらず趣味の悪い男だ」

 

「まあそういうな。同じ所有者なんだ。気になるのは当然だろ? でだ、後輩くん」

 

「え?」

 

「読書もいいが、やっぱりオレ達は青春の中にいるんだぜ? 青春って言ったらなんだ?」

 

「え、えぇっと……」

 

「部活だよ! ぶ・か・つ! お前帰宅部だろ? オレのトロ食ったろ! はい写真部へようこそ~」

 

「え? え? え!?」

 

「強引過ぎるだろ部長。おれ達はともかく、キリヤくんは――」

 

「星空に会えるぞ」

 

「!」

 

 

キリヤの表情が何ともいえない物に変わった。唇を髪、眉を顰める。

沈黙。『拒否』ではない、沈黙だ。エムとヒイロは訝しげな表情を浮べる。なんだ? どうやら今の言葉がスイッチになったようだが?

 

 

「えっと……」

 

「トロ食ったんだ。入れ入れ」

 

 

その時だった。一同の耳にコール音が聞こえる。

この音は――? 聞き覚えがある。周りの客に見えないようにカバンで腹部を隠しつつ、ドライバーを装備して銀色のボタンを押す。

 

 

『ごきげんよう』

 

(我李奈さん……)

 

『マスクドライバーの皆様にご連絡があります』

 

 

スクールアイドルは大ブームと言うこともあり、とある食堂が期間限定ではあるものの、イメージキャラクターにしてくれると言う話が持ち上がった。

 

 

『ただし、人数は三人』

 

「!」

 

『意味は、分かりますね?』

 

「はいはいはいはい……!」

 

 

タイガはベルトを外すと会計ボタンを押して立ち上がる。

 

 

「ハッ、ノーダメージでクリアしてやるぜ」

 

「丁度いい。食後の運動といくか」

 

 

立ち上がるエムとヒイロ。

その中でキリヤは目を見開いてオロオロとしている。

 

 

「え? え? え?」

 

「分かんだろ後輩くん」

 

 

タイガはガシャットでキリヤの肩を軽く叩いた。

 

 

「テイパーゲームだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「変身ッ!」「変身!」「変身」「へんしんっ!」

 

『アイムア』

『エグゼイド!』『ブレイブ!』『スナイプ!』『レーザー!』

 

 

遊具エリアを抜けて、公園の広場をめがけ走る男達。

その周りに回転するキャラクターアイコンが同時に前に弾かれた。

男達の体がボッテリとしたシルエットに変わる。エグゼイド、ブレイブ、スナイプ。

そして四人目、レーザー。ペンギンのような姿で、手には『フロントアームドユニット』、『リアアームドユニット』と呼ばれるタイヤ型の銃が握られていた。

 

 

「三年は今年で終わりなんだぜ? ならせめて少しでも思い出を作らせてあげるのが優しさなんじゃねぇのかーッ?」

 

 

まず先頭に出たのはスナイプだ。後方へ向けてガシャコンマグナムを連射し、同時に言葉も投げる。

確かに――、と、レーザーは思った。にこ達は今年で卒業なんだ。

だったら少しでも印象に残るようにしてあげるのが良いんじゃないだろうか。

ここで自分が勝って一年生をピックアップさせるのはダメな事なんじゃ――、なんて。

 

 

「うわぁああぁ!」

 

 

だからこそレーザーは弾丸を受けてしまう。

しかし一方でエグゼイドは跳躍で弾丸を回避しており、ブレイブは盾で銃弾を防ぎながら走る。

もちろんタイガの言う事は分かる。とは言え、そういう『気の遣い方』は三年生が最も嫌うものだろう。

それになんと言ってもエグゼイドとブレイブは『二年生の担当』である。その点が揺らぐ事はない。

 

 

「くらえッ!」

 

 

ブレイブが放つ炎の斬撃がスナイプにむかって飛んでいく。

そこでハッとするレーザー。そうだ、あくまでもこれはゲーム。バックボーンは関係ない。

皆が平等になるべきだ。レーザーは頷くと、タイヤの銃をエグゼイド達に向ける。

 

 

「――ッ」

 

 

一つ、レーザーには問題があった。

一つ、たった一つだ。しかしそれはあまりにも大きな『一つ』であった。

 

 

「グッ!」

 

 

レーザーはたとえゲームであったとしても『攻撃』する事に激しい抵抗があった。

つまり、火馬キリヤと言う男は『優しすぎる』のだ。

 

 

「見えてるぜ!」

 

 

地面を叩くエグゼイド。するとレーザーの頭上からレンガブロックが落ちてくる。

ドリフターブロック。戸惑うレーザーが避けられるワケも無く、脳天に衝撃を感じてレーザーはグルグルと目を回しながら幻影のヒヨコを追いかける。

遠くなっていく意識。その隙にエグゼイドたちは乱闘を繰り広げる。発砲音や打撃音が響く中でレーザーはフラフラである。

 

 

『ガッチャーン!』『レベルアーップ!』

 

『マイティジャンプ!』『マイティキック!』

 

『マイティマイティアクション! エーックス!』

 

『タドルメグル・タドルメグル・タドルクエストォー!』

 

『ババンバン! バンババン! バンバンシューティング!」

 

 

吹き飛んだ装甲と、衝撃派がレーザーに届き、回転しながらレーザーは地面にこける。

 

 

「ハッ!」

 

 

意識が戻った時には、既に広場でレベルツーになったエグゼイドたちがバトルを繰り広げている所だった。

これは――、マズイ。確実に置いていかれている。レーザーは武器を握る手に力を込める。ダメだ、戦わないと、頷いて歩き出す。

が、しかし、レーザーはそこで足を止める。

 

 

「………」

 

 

自分は一年生だ。

そして前で戦っているのは二年と三年。

どうなんだ。いいのか。もしも攻撃でもあてれば――。

 

 

『おいおいおい下級生が何調子乗ってんだ?』

 

『あーあー、生徒会長に攻撃をしかけたね。今後、キミの学園生活は茨の道になるだろう』

 

『いててて。うっわ、ココ怪我してる。はい慰謝料』

 

(ひ、ひぃぃいいぃ!!)

 

 

地面に両手をついてレーザーは震え始める。

ダメだ、できない、戦えない。

一方で夜の公園といえど、あくまでも街中、騒ぎを聞きつけたのか、それともアポロン側が用意したのか、ギャラリーたちが公園に集まってきた。

 

 

「おい、あれってテレビでやってたヤツじゃん!」

 

「すっごーい! 本当に戦ってる!」

 

 

広場の周りに集まる人々。さらにどこからともなくアポロンのスタッフが出てきて規制を行っていた。

そう、テイパーゲームは表向きはアポロンTVのワンコーナー。既に何度か放送されているため、一部の人間はその存在を知っていたようだ。

ド派手なカラーリングのエネルギーを撒き散らして戦うエグゼイドたちはエンターテイメントショーとしては上出来だ。観客はすぐに携帯で写真を撮ったり、SNSで呟いたり。

 

 

「おーおー! ギャラリーが集まってきたな! オレ様の魅力を発信するいい機会だぜ」

 

 

旋回しながら手を振るスナイプ。

すると一部の女子高生が黄色い声援をあげた。

どうやら既に固定ファンもいるらしい。その中で注目されるのはレーザーだ。まだ彼はアポロンTVの公式サイトにも姿が載っていない。

 

 

「ペンギンみたいでかわいいー!」

 

 

などど、最初は好意的な意見が聞こえてきたが、いかんせんレーザーは動かない。

すると次第に周りからはブーイングに近い意見が漏れ始める。

 

 

「戦えよー!」「黙ってみてるなんて卑怯だぞ!」「なんかしらけるなぁ」

 

「……!」

 

 

息が詰まりそうになる。

聞こえてる。聞こえてるから。レーザーはうつむいて固まるしかなかった。

具合が――、悪い。人の視線が突き刺さる。気分が悪い。正直逃げ出したかった。

心臓がギューッとしてくる。足が震える。戦わなくては。レーザーは強迫観念に支配されつつエグゼイド達に向かっていく。

 

 

「火馬キリヤくん。彼ほどマスクドライバーに向いていないタイプはないね」

 

 

社長室。戦いをモニタで観察しながらクロトは笑った。

 

 

「争いが嫌いなタイプだ。闘争心がない」

 

 

画面の向こう。レーザーの腹部にアンカーが突き刺さる。

スナイプが発射したものだ。そのままスナイプは腕を大きく振るって、まるで釣り上げるようにしてレーザーを引き寄せる。

 

 

「そのような人間を、なぜ適合者に?」

 

 

我李奈がメガネを整え、問いかけた。

画面の向こう。引き寄せられたレーザーの背後に隠れるスナイプ。

すると正面からエグゼイドとブレイブが発射した斬撃が飛んできた。

 

 

「むいていないからさ」

 

 

悲鳴が聞こえる。スナイプの盾にされたレーザーに次々と降りかかる攻撃。

ゲージが減少し、さらにスナイプが背を撃ってゲージはゼロになってしまう。

ルール『サバイバル』においてゲージがゼロになれば変身制限は設けられないが、フィールドからは除外されて敗北とされる。

ギャラリー達の後ろで、変身が解除されたキリヤが地面を転がる。人々はエグゼイドに夢中のため、誰もキリヤには目もくれない。

 

 

「まだ一年は端役でいいのさ」

 

 

"エネルギーの強い"二年生。まもなく卒業してしまう三年生。

一年生はまだまだ先がある。ゆえにクロトはあえて勝つ可能性が低いキリヤを選び、1年担当とした。

それだけではなく"クセの強い"『レーザー』を与えたのだ。

 

 

「それに、敬語を廃止して距離を縮めたとしてもある程度の年功序列のシステムは大事だろ?」

 

 

ミューズも人間だ。たとえば一年が人気者になれば、三年生の心の中にはきっと小さな黒が宿るはずだ。

格差を作ろうとしているクロトだが、そこら辺の配慮は考えているつもりである。

 

 

「ミューズは女性グループにしては奇跡的に仲がいい。9人も年頃の少女が集まっているのにね」

 

 

しかし所詮人間だ。

人の世に絶対はない。人間の絆なんてものは10年かけて育んだとしても、たった1日。

いや、1時間で完全に壊れる可能性がある。ある程度の格差は切磋琢磨に繋がるとは思うが、それが拗れると面倒な事になりやすい。

 

さらにコレはタイガを抑制する役目もある。

やはり二年担当が二人いると言うのはそれだけ戦力増加につながり、不満も出てくるだろう。

しかし『かませ』のキリヤがいれば、タイガのプライドも守られるだろう。

 

 

「人間は下を見ると安心する。下を作りたいと妄想する」

 

 

タイガが見下せる相手を用意する事で、不公平に対する怒りを発散させるのだ。

 

 

「キリヤくんは気が弱いしね」

 

 

文句や劣等感も全て己の身に内包するだろうと睨んでいる。

たとえばこの役目が他の人間ならば、たとえば抗議したり、自分から辞めたりするだろう。

しかしキリヤは違う。弱いが、責任感はある。優しい性格だ、だがそれはなによりも使いやすい。

 

 

「勝手に己に蓋をしてくれる。壊れるか、限界が来て辞めたいと言ったときにドライバーを返却してくれれば、それでいい」

 

 

画面の中で大爆発が起こった。

手足をバタつかせながら地面に倒れるスナイプ。

やはりタイガVS一人だけならばまだしも、エグゼイドとブレイブはチームだ。真正面から戦っても、厳しいものがあった。

 

光が迸り、スナイプの体が消滅。ギャラリーの群れの中に汗を浮かべたタイガが出現する。

鳴り響くゲームクリアの音声。湧き上がる観客達に手を上げるエグゼイドとブレイブ。

クロトはそれを確認すると、何度か頷いてモニタを消した。

 

 

「ハァ……」

 

 

ガコンッ、と音がして缶ジュースが落ちてくる。

キリヤはため息をつくと、それを取って、肩を落とす。なにもできなかった。

いつもならばそれはただの自己嫌悪で終わるものだが、なにせキリヤの背には一年生の活躍がかかっている。

『凛たちに申し訳ない』、その気持ちは自己嫌悪で齎される『安心する痛み』とは違い、ずっしりと心を抉ってくる。

胃が痛い。キリヤはもう一度ため息をついてトボトボと帰路につく。

 

 

「キリヤくん」

 

「え?」

 

 

ふり返る。そこではエムが笑みを浮かべて手を振っていた。

五分後。河原に並べてあるベンチにエムとキリヤは並んで座っていた。

ジュースをチビチビ飲みながら上を見上げると、既に星がチラホラと見える。

 

 

「ごめんね。気を遣わせたのかな、おれ」

 

「?」

 

「一回も攻撃してこなかったよね? 遠慮してる?」

 

「あぁ……。違うんです。ボク、純粋に喧嘩とか苦手で……」

 

「優しそうだもんね、キリヤくん」

 

「まさか。弱いだけですよ……」

 

 

足元をジッと見つめているキリヤ。

ポツリ、ポツリと弱さを吐露していく。

 

 

「攻撃すると攻撃される。それが怖くて。こういうの向いてないんです」

 

 

攻撃的な正確じゃない。スポーツも嫌いじゃないが、サッカーだとかバスケだとか、他人と戦うものは苦手だった。

 

 

「結局、それで、前の学校じゃ上手くいかなくて……」

 

 

要するにオドオドした性格だ。ソレが鼻につく人間はいるだろう。

なにより背が小さく、華奢な見た目は『弱そう』の一言に尽きる。下になる才能は十分にあった。

 

 

「あ、ごめんなさい。こんな話――」

 

「いやぁ、いいんだよ。人に話すことで紛れる物もあるからな」

 

 

肩を落とすキリヤが気になったのか、エムは話題を変える事に。

 

 

「そう言えばさ、さっき部長が言ってたけど、ミューズ好きなの?」

 

 

それを聞くと、キリヤは頬を染めて小さく頷いた。

 

 

「凛ちゃんが好きなんです。明るくて、元気で、ボクには無い物をいっぱい持ってるから」

 

 

確かに元気な凛は、シャイなキリヤとは対照的とも言える。

まあもちろん、だからと言って凛にも悩みや苦悩がないワケじゃない。過去にはいろいろあったし、今はそれを公言していたりもする。

キリヤはそれを含めて凛のファンなのだ。

 

 

「それに凛ちゃんは、ボクの恩人だから……」

 

「?」

 

「あの――、笑わないで聞いてもらえますか」

 

「ああ。もちろん」

 

 

あまりこういう事は話したくないが、誰かに聞いてもらいたい面もあった。

キリヤはポツポツと昔の話を始める。前の学校の事だ。

なに、別に面白いところがあったり、盛り上がる話じゃない。

ただ暗く、平坦で普通の話だ。学園生活は小さな一つの社会形態だ。

 

当然そこには現実世界同様、ヒエラルキー、階級が存在している。

強い者が支配し、弱い者は攻撃される、それはこの世と何も変わらない。

とは言え、なぜ『人が人をいじめるのか?』などと一つの哲学をいつまでも掘り下げるつもりはない。

ただ運命のダーツはキリヤを示した。それだけだ。

 

殴られる。盗られる。ただそれだけだ。それが日常のサイクルに組み込まれた。

なぜキリヤが標的になったのか? たまたまだ。そして不幸にもキリヤは負を内包する少年だった。

辛い、怖い、悲しい、憎い。蓄積されていく負を相談する事はできない。助けになるべき先生に、親に、キリヤは笑顔で『通常』を装った。

 

プライドもあったのだろう。キリヤも男だ。

アザができれば階段から落ちたといい、お金が減っても好きなものを買う事を我慢して通常を装った。

しかし人間はロボットじゃない。いつまでも負を蓄積できるほど強くはあれない。

ある者はそれをより弱い者へ発散する。しかしキリヤはそれをしなかった。

 

ゲーム、漫画、小説、映画。そう言った事で発散する者もいるが、キリヤはもう遅かった。

己の中にある絶大な負がエンターテイメントを塗りつぶす。何も見ても楽しくなかった。

ドス黒い感情が取り巻き、笑顔になる事すら抵抗を感じさせる。

何を笑っているんだ。何を楽しんでいるんだ。弱いお前が笑顔を浮かべるなど、滑稽にも程がある。

 

 

「毎日が、辛くて……、生きてる意味はあるのかな、とか」

 

 

空気を入れ続けた風船はどうなる?

決まっている。破裂するのだ。それはあまりにも唐突だった。別に前振りがあったわけじゃない。

ある日、キリヤがホームで電車を待っていると、ふいに閃いた。

 

まるで頭上に電球が出現してパッと灯ったようだ。そうか、そうだ、どうしてこんな簡単な事に気づかなかったんだろう?

そうだよ、そうじゃないか、黄色い線の向こうに飛び出せば楽になれるじゃないか。

本当にそれくらいのショックだった。あまりにも簡単なことを忘れていたような衝撃だった。

1+1を忘れていたような感覚。なにをしていたんだ、簡単に楽になれるじゃないか。

キリヤは歪んだ笑みを浮かべて足を前に進めた。

 

 

「!」

 

 

だが気づく。そして体を後ろに引き戻す。

荒い呼吸の中、前を見ると電車が横切っていた。

世界が、スローモーションになった。

キリヤは逃げた。一心不乱に走った。駅を飛び出し、学校を無断で欠席し、家に舞い戻る。

 

両親は共に仕事だ。

孤独は怖い。キリヤは自分の部屋に戻ると、鍵をかけてテレビのスイッチをつけた。

そしてベッドのなかにもぐりこむと、泣きじゃくる。

どうして、なんで、ボクだけがこんな目に……。震える。怖い。辛い。誰か助けてくれ。

虚空に向かって叫ぶ。すると、耳が歌を拾った。

 

 

「?」

 

 

なにげなく体を起こしてテレビを見る。

するとそこには、自分と同い年の女の子がダンスを踊っていた。

 

 

『スクールアイドルミューズは――』

 

 

ニュースのピックアップ。ミューズのライブが紹介されていた。

そこで、キリヤは楽しそうに笑っている星空凛を見た。

 

 

「あ……」

 

 

歪んだ衝撃が全身に走る。

妬み――、なのか? 自分はこんなに苦しんでいるのに、どうして彼女はあんなに綺麗で素敵な笑顔を浮かべられるのか。

笑い方すら忘れそうになっている自分とは全く違う。まさに光と闇だ。

 

 

「………」

 

 

同時に、キリヤはまた当たり前の事を教えられた気がした。

人は、こんなに魅力的な笑顔を浮かべる事ができるのか、と。

そして凛のインタビューが始まる。そこで彼女は過去のコンプレックスを打ちあける。

 

 

『昔、スカート姿をからかわれて――』

 

 

中性的な容姿の自分には女の子らしい格好は似合わない。

けれど憧れはずっとあって、そのコンプレックスは花陽が背中を押してくれたから克服できたと嬉しそうに語っていた。

 

 

「………」

 

 

あんなに楽しそうに踊って歌う子も、悩んだりするんだなぁ。

そんな事を思う。

けれどすぐに負が取り巻く。凛には花陽がいた。もっと言えば他のメンバーがいた。しかしキリヤには誰もいない。何もない。

 

 

『だからッ、リンもそういう人を励ませるようにがんばります! リンがみんなを応援するにゃー!』

 

 

別に特に深い意味があったワケじゃないだろう。

ただのインタビュー。ただの意思表明。それ以上でも以下でもない。しかし、キリヤはその言葉を聞いた瞬間、ボロボロと涙が零れてきた。

まるでキリヤにとっての『花陽』になってくれる。そんな気がしたのだ。

 

それはキリヤの壊れかけた心が生んだ、ただの幻想妄想だ。

しかしそれが確かな『偶像』になった。応援してくれる。助けてくれるのか。夢想する。

そして直後流れた映像を、キリヤは涙を流しながら見つめていた。凛が楽しそうに笑っている。歌をうたっている。はしゃいでいる。

 

大げさに思われるかもしれないが、キリヤにはその時、本当に凛が女神に見えた。

心を奪われたのだ。救いがそこにあると視えた。他のメンバーも映る中、キリヤは凛をジッと見ていた。

凛がアップになる。ソロパートだ。凛が画面の向かって手を伸ばした。手を差し伸べた。

キリヤはバカみたいに手を伸ばした。

 

 

「それで、お父さんとお母さんに相談したんです。そしたら転校してもいいって……」

 

「そっか」

 

 

今にして思えばそれは別に凛じゃなくても良かった。

ただ壊れかけた心が自衛の手段をなんとかして作ろうとしていたとき、凛がそこにいただけにしか過ぎない。

それをキリヤの脳が勝手に脚色して、凛が助けてくれたと妄想させる。

 

だがそれが偶像と言うものだろう?

 

キリヤは凛の姿を見て踏みとどまった。そして思った。凛をもっと見ていたい。凛の歌をもっと聴きたい。凛に、会ってみたい。

そんな縋る心。けれども、それがあったからキリヤは壊れずに済んだ。

そしてキリヤは音乃木坂にやって来たのだ。

 

 

「じゃあ、凛ちゃんに会えたんだ」

 

「う、うん……」

 

 

そもそも一年のクラスは一つしかない。

キリヤは恥ずかしそうに頷いた。人間はそう簡単には変われない。初登校の日、結局緊張してまともに話せなかった。

興味を持って話しかけてくれる人ばかりだったが、当たり障りの無い会話で終わってしまった。

なによりもいじめにあった事がトラウマになっていたのか。視線が怖くて、誰ともまともに目を合わせられなかった。

いけないとは思いつつ、登校初日、河原で今みたいにため息をついていた。

結局、転校したとしても、変わらないんだろうか?

すると、肩を叩く手が。

 

 

「ため息ばっかりついてたら、幸せが逃げちゃうよ?」

 

「!」

 

 

そこにいたのは紛れもない、星空凛の姿であった。

 

 

「えッ? ど、どうしてココに!?」

 

「キリヤくんを見かけたのにゃー!」

 

 

おどけたように笑みを浮かべる凛。

たまたま家が同じ方向だったというだけの話だ。

いつも花陽や真姫と一緒に帰っているが、家の方向の都合、この河原の前で別れるため、凛は一人だった。

凛は真っ赤になって戸惑うキリヤの隣に座ると、ニコリと笑みを向ける。

 

 

「緊張してたでしょ? 今日」

 

「え? あ……! えっと!」

 

「そりゃそうだよね。うんうん、リンも分かるよ」

 

 

割と適当に言っているような気もするが。明るくおどけているのはキリヤのためだ。

 

 

「これから慣れていけばいいよ。みんな良い人だから、安心してね」

 

「ありがとう……」

 

「えへへ、お礼は目を見て言って欲しいな!」

 

「あッ、ごめん……ッ! 気になるよね」

 

「えー? 別に気にしないよー。キリヤくんちょっとかよちんに似てるし!」

 

 

オドオドしているが、何か大きな想いを抑制しているように見える。

すると意を決したのか。キリヤはリンの目を見る。

 

 

「ボクっ、あのッ、ミューズのファンで、凛ちゃんのファンなんだ」

 

「本当? ありがとにゃー!」

 

「だから、あのッ、応援してます!」

 

 

それは今伝える言葉だったのかは分からない。

しかしどうしてもキリヤはそれを伝えたかった。

それはきっと自制だ。自分を律する事。

 

 

「辛いとき、ミューズのライブを見て励まされたんだ。本当にありがとう」

 

「いいよいいよ、アイドルってそういうものだからね!」

 

「もう大丈夫。新しい環境になれるか不安だったけど、頑張ってみるよ!」

 

「うん! キリヤくん、もう元気いっぱいニャ!」

 

「ボクもう帰るね! 本当にありがとう凛ちゃん! 本当に――ッ、元気でたよ!」

 

「うん! バイバイ、キリヤくん。また明日ね!」

 

 

キリヤが離れたのは凛に見られたくなかったからだ。これ以上頬を赤く染めているのは男のプライドに関わる。

ソレに何よりも、これ以上想いが大きくなるのは怖かった。

翌日、学校に行くと――。

 

 

「おはよーにゃあ、キリヤくんッ」

 

 

笑顔で話しかけてくれる彼女を見て、キリヤは確信する。して――、しまう。

 

 

「ボクは凛ちゃんが好きです」

 

「!」

 

 

現在。エムの隣で少し悲しげにキリヤは呟いた。

 

 

「ボクっ、凛ちゃんに恩返ししたくて――ッッ!」

 

 

転校三日目の帰り道でキリヤはクロトに声を掛けられた。

そしてレーザードライバーと爆走バイクのガシャットを受け取ったのだ。そして熱が出て寝込んでしまったわけだが。

とは言え、想像していた未来とはかけ離れた今である。

先程の勝負で痛感した。

 

 

「戦う事は、ゲームであっても怖いです」

 

「……おれも――」

 

「?」

 

「おれも、穂乃果ちゃんが好きだ」

 

「!」

 

「幼馴染なんだ。だから、応援してるし……、たぶん、きっとキミと同じだ」

 

 

ニコリと笑って、エムはキリヤの背を撫でる。

 

 

「大丈夫だよ。会長はちょっと難しいところもあるけど、良い人だし。部長だって根は悪いヤツじゃない。少なくとも、キミを苛めた最低なヤローたちとは全然違うよ」

 

「石神先輩……!」

 

「それに、ほら、おれも色々ある」

 

 

ゲームで勝ったら相手にボコボコにされた時は参ったと笑う。

 

 

「お金も取られたし、ブルブルだよ。トラウマだったねアレは」

 

「そ、そんな事が……」

 

「でも、ほら、やっぱりそうであってもゲームが好きでさ、おれ」

 

 

続けたいんだ。怖くても、辛くても、少しすればまた好きって気持ちが勝ってくる。

 

 

「キリヤくんだってそうだろ? だから今も、所有者なんだ」

 

「それは――……、はい」

 

 

怖いなら、嫌なら、辛いなら、ドライバーを返却している。

まだ持っていると言うことは、当たり前の話、まだ持っていたいんだ。ミューズを支える影でありたいんだ。

 

 

「もし良かったら部活に入らない? 一緒にミューズを盛り上げようよ」

 

「でも、ボクみたいなのが……」

 

「大丈夫大丈夫。もともとまともなヤツなんて一人もいないから。あ、これ会長と部長には絶対内緒ね」

 

 

エムはニヤリと笑うとキリヤに手を差し伸べた。

 

 

「同じミューズファン同士、助け合おうぜ、キリヤくん」

 

「いいんですか……?」

 

「もちろん!」

 

「……!」

 

 

キリヤは目を輝かせて笑うと、エムの手を取った。

 

 

 

 

 

夜。

とある男が椅子に座って一生懸命、『何か』に没頭していた。

赤いモヒカン、白塗りの顔、トゲトゲの肩パッド。嘘みたいな容姿の男が熱中しているのはエアパッキン。

つまり、プチプチを潰していた。

 

 

「プチプチ潰すのたのちぃぃいよぉッ!!」

 

 

なんて。

 

 

「嘘」

 

 

が、嘘。フェイク。

アンド、アンサー。

 

 

「それが嘘。楽しい」

 

 

破壊を感じさせてくれる。

プチ、プチ、プチ、まるで嘘まみれのこの現代で、世界の真理にでもたどり着いたような感覚だった。

破壊は再生へ繋がる。一つの空間を破壊すれば、自分はまるで破壊神。

そうだ、破壊とは神へ至るワンダーゾーン。突破できるか? してみせろ。なぜならば人は皆弱い、だからこそ脆いのだ。脆いものは壊れる。

 

 

ならば――

 

 

壊れる前に、壊してしまえ。

 

それ――

 

 

 

 

即ち――ッ!

 

 

 

 

 

Rock 'n' Roll(ロックンロール)――!

 

 

 

センキュ……。

 

 

貴方に伝えたい。

聞いてください。

俺の、フルソウル。世界に届け、唯一のアンサー。

人は皆、イェーガーだから。

 

 

ニューシングル【プチプチを潰したい20時30分】

 

 

【歌】モリピーモータス

 

【作詞】モリピーモータス

 

【作曲】ファッキン鮫島(モリピーモータス・別名義)

 

 

センキュ……。

 

 

【駆け抜けていく。僕の衝動。甘い(ロック)、甘い(ロック)、お砂糖より甘いぃー】

 

 

住宅街に続く道。街灯に照らされた歩道を親子が歩いていた。

 

 

「あ、今蹴ったよ」

 

「ほんとう?」

 

 

母親と娘は手を繋いで楽しそうに笑っている。

母親は身重らしい。大きくなったお腹を優しく撫でながら、ニコニコと歩いていた。

 

 

「ホナミももうすぐお姉ちゃん!?」

 

「うんお姉ちゃんだよ。しっかりこの子の面倒見てあげてね」

 

「うんっ! 約束!」

 

「本当? フフ。じゃあ帰ったらご飯にしようね」

 

 

【今日もほら、分かり合える。支配者気取りの愚かさかぁ!】

 

【イぇーッ(はちきれんばかりの咆哮)!】

 

【求めてる! 知っている! ぼくが――、ポチッたのはプディングー(プリンじゃないよ! プディングだよ!!) イェイイェイ(歌詞忘れ)!】

 

 

エンジン音が聞こえた。

 

 

【守り続けたのは、ディザイア。理想郷。ファック(唐突なぶっこみ)!】

 

 

バイクが来るね。そうだね。危ないから歩道の端を歩こう。

母親と娘のホナミは笑みを浮かべて横にずれる。

 

 

【見はテーヌ(あえてカタカナ)のはー、唯一つのエデン(楽園かもしれない!)】

 

 

おお、見よ。なんと礼儀正しい親子であろうか。

ホナミちゃんは妊娠しているお母さんのために車道側に立っているじゃないか。

もう見ただけで分かる。優しい子だ。優しい親子だ。幸せだ。

希望だ。希望、光。眩しい。

 

 

サンキュ……。

 

 

【届けられた想いは、見えない夢に包まれてる】

 

 

プチプチ。

それ、即ち――! Rock ‘n’ Roll?

イエス、Rock ‘n’ Roll。

 

 

「ちょいと娘さん借りてくよ!」

 

 

アイムア、Rock ‘n’ Roll。

 

 

【オープン・ザ・ドア】

 

「え?」

 

 

ジャラララララ、と、鎖の音が聞こえる。

黄金色のチェーンはホナミちゃんの体に巻きつくと、直後その小さな体が宙に浮かんだ。

足が地面から離れる。呆気に取られているホナミちゃんとお母さん。直後、ホナミちゃんの背に衝撃が走った。

 

 

【ウォオオオオオオオオオオオオオオ(未来(あした)への焦燥)!】

 

「アァァァァアァァアァ!!」

 

 

言葉にならない叫びが聞こえた。

爆音をあげて、黒煙をマフラーから噴射したバイクはすぐに猛スピード。

一方で鎖に縛られたホナミちゃんはそのまま引きずられる事に。鎖をもった男はバイクに跨りながら尚スピードを上げる。

摩擦熱がホナミちゃんに苦痛を与える。ざらざらの地面はまるで紙やすり。衣服が削れ、皮膚が削がれ、バイクが通った跡にはホナミちゃんの血がこべりつく。

 

 

「ホナミぃいぃッッ!!」

 

 

張り裂けそうな母親の叫び声が聞こえる。

しかし伸ばした手は届かない。

なぜならばバイクは既に走り去っている。爆音が母親の悲鳴をかき消したのだ。

 

 

【ルッツ(適当)! オッス(適当)! あぁ、プーチプチ(ぷちぷち)!】

 

 

一方でバイクで引きずられた(ホナミ)は泣き叫びながら母親に助けを求めている。

既に背中の皮膚は爛れ、削り落とされた。肉が地面に擦られてそぎ落とされる。

一方で構わずバイクのアクセルグリップを捻る男、その名はヴィラン・モータス。

 

オーケー!

 

モリピー・モータス!

 

 

【潰したいのはー、世の中だからぁ(↑) ゆるーし、あわーせてー】

 

 

ゴチンッ! と、音が聞こえた。

良く分からない。何かにぶつかったのだろう、ホナミちゃんが。

道には色々な障害物がある。引きずられていく中で何かにぶつかったのだろう。

 

 

「どうでもいいッス」

 

 

モータス一蹴。

 

センキュ……。

 

 

「世の中? 自分、興味ないんで」

 

 

自分は、自分ッス。ウッス(適当)!

政治とか、世論とか、マジ関係ねぇ。テメェが持つフルソウル。従えよ、パーリーソウル。お前は何がしたいんだ? 叫べ! 吼えろ! 世の中はつめてぇ!

けどなッ! 俺は、生きている! ココにいる! いいんだぜ、来いよ! そろそろ退屈してんだろ? 手を上げろ!!

 

 

俺は――、此処(ここ)にいる!

 

 

それ――!

 

 

即ち!

 

 

【プチプチプチプチプチ! 潰しぃーたイィィィイエエアアアア!!】

 

 

 

 

 

 

 

 

Rock ‘n’ Roll

 

 

 

 

 

 

 

「光が見える」

 

 

橋の上に出た。後ろをチラリと見る。

引きずられているホナミちゃんは頭から血を流してグッタリとしていた。

電柱だの信号だのポールだの、とにかく何かにぶつかったんだろう。対向車線から一台のトラックが走ってきた。

運転手はなんだかつまらなさそうな顔をしている。当然だろう、世の中には刺激はない。拘束時間の長い仕事だ。

 

そんな彼らに、夢を与える者。

それ、即ち――。

 

 

「ロックンロール!」

 

 

やるよ、希望。

くれてやるぜ、煌き。

釣りをするように、モータスは鎖を持っていた手を上に振るう。

 

 

【幼女一本釣り!(唐突なユーモア)】

 

 

センキュ……。

 

 

「うあぁああぁぁあああぁ!」

 

 

トラックの運転手の悲鳴が聞こえる。

当然か、まさかバイクの男が女の子を引きずっているなんて夢にも思っていなかった。

その女の子が目の前に飛び込んでくるなんて欠片も思っていなかった。

 

しかしブレーキを踏んだときにはもう遅い。

思いきりトラックに向かって振るわれた女の子と、それなりにスピードを出して走っていたトラック。

それがぶつかったんだ。フロントガラス一面に広がる赤。

赤黒い液体がベットリと張り付く。

 

 

「―――」

 

 

トラックが停止する。運転手は放心しながら前を見ていた。

赤、黒、ベットリ。意味が分からない。脳が理解を放棄している。

液体だ。前が見えない。混乱する中で手がワイパーを動かす。いつもの水より抵抗感が凄い。

一度じゃ取れない。前はまだ赤。そして液体だけじゃない。ワイパーがぬぐったのはなんだか良く分からない固形物。

 

 

【車は急に止まれないぃ(安全運転よろしく)! それを知ったのはー】

 

「プチプチを潰したい20時30分んんん! (24分違い)」

 

 

終了。センキュ……。

 

 

「うんち(唐突な下ネタ)」

 

 

運転手が聞くのはエンジン音。

 

 

「東京オリンピック大丈夫かな(政治にも興味あります)」

 

 

ヴォン! ウォォンッ! ヴォンヴォンヴォンヴォンヴォン!

 

 

「ま、いいか(ボクは自由だ)」

 

 

ヴォン

 

ヴォンヴォン

 

ヴォンヴォンヴォン

 

ヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォンヴォン!!

 

 

「え? ひき逃げって最低じゃね?」

 

 

自分、曲がった事とか、許せないんで。

それ、即ち――!

 

 

「Rock ‘n’ Roll」

 

 

トラックに突っ込むモータスのバイク。すると大爆発。

トラックは大破し、中に乗っていた運転手がどうなったかは言うまでもない。

モータスは鼻歌を歌いながらバイクを走らせる。戻ってきたのだ。ホナミちゃんの母親が涙を流して震えていた。

 

 

「あのッ、これ、お嬢さん。返します(お慈悲)」

 

「あぁぁぁぁあぁ」

 

 

へたり込む母親の前に、たった一つの眼球がベチャリと落ちた。

 

 

「きたね……ッ(素)」

 

 

手を振るうと、モータスは母親に背を向けてバイクをゆっくり走らせる。

ボボボボボとエンジン音。そこにモータスの声が混じった。

 

 

「お母さん。これ、みて」

 

 

右手を天高く上げるモータス。

その手の甲にバツマークが刻まれていた。

 

 

「ワンピちゃうで(関西弁)」

 

 

ストレート・エッジ。

ロックにおける思想・概念・ライフスタイルである。

正直、モータスは意味が分かってないけどカッコいいからやっていた。

 

 

「そもそもロックってなんや(不思議)?」

 

 

まあ、いいか。

センキュ……。

 

 

「声が聞こえる。神の声? 違うな。コレは俺の声だ!」

 

 

急旋回。モータスは一気にアクセルグリップを捻った。キュルルルとタイヤが地面を擦り、煙が上がる。

 

 

「孤独は怖いだろ? 絶望はしたくない。だったら、希望が必要だ」

 

 

バイク、急発進。前輪を持ち上げてウィリー装甲でモータスは風を切る。

 

 

「ヒャッッハァアアアアアアア!」

 

 

バイクが跳ねた。

 

 

「ロックンロォォオオルッッ!!」(意味不明)

 

 

前輪が母親の顔面を捉えた。

体を轢き倒す。仰向けになった母親の体の上をバイクが走り抜ける。

 

 

「この世界は何も特別じゃない」

 

 

多くのフィクションじゃ子供は死なない。

守られる対象であるべきものがハッキリしている。

だから人は――、夢を見る。世界は夢で覆われていると錯覚してしまう。

見えないフィルターが自分を守ってくれていると馬鹿な事を考えている。

 

 

「違うよなぁ?」

 

 

モータスは旋回し、母親を見た。

 

 

「この世界はリアルだ。嫌になるほどのリアル。感じてるぜ、此処にある現実」

 

 

特別は無い。『夢』など、このリアルの中で見る幻にしか過ぎない。

 

 

「偶像なんてものはないんだ。人はみんな、リアルを崇めるべきだ」

 

 

サンタはいない。人はクリスマスに死ぬ事もある。誕生日に死ぬほど辛い目にあう時もある。

神社に祈っても病気は治らない。両親が子供を愛さない時もある。特撮俳優が犯罪を犯す場合もある。アイドルがタバコを吸う今もある。

永遠などない。絶対はない。白も黒もない。

世界は、究極のグレー。

 

 

「天国も地獄も、全てはこの世界にある」

 

 

母親は手足を広げ、沈黙している。

 

 

「俺が地獄を届けてやるぜ。栄光なる希望のためにな」

 

 

モータスは鼻を鳴らすと再びバイクを走らせた。金と青を基調としたボディ。

バイクエンジンを擬人化したようなヴィランだった。両肩にはエンジンのパイプがある。

専用マシン、『モータスヴァイパー』は、普通のバイクの先に、なにやらオレンジ色の良く分からない化け物の頭部があった。

 

モータスはバイクを走らせ、母親を轢いていく。

バキバキと氷の上を走ったような感覚があった。いろいろなものが壊れていく音がした。

 

 

「フフフフ! フハハハハ……!」

 

 

さらに上空には、『モータスドローン』と呼ばれる小型ドローンがある。

そこにはカメラがついている。そう、つまり、モータスは一連の行動を全て記録していた。

 

 

「Rock ‘n’ Roll」

 

 

センキュ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。朝。

にこの家ではタイガが気だるそうな表情でテレビをボウッと見ていた。

 

 

「こころたん、おかわり……」

 

「はい! 今持ってきますね!」

 

「ちょっとアンタ! 少しは遠慮しなさいよ!」

 

 

タイガと、にこの家は近い。

今日は学校が午前中で終わるので、午後からは撮影の予定が入っている。

その段取りの確認に顔を合わせたのだ。タイガはそこで朝食を取り始めたと言うわけだ。

 

 

「いいじゃねぇか。男はたくさん食べないとな。んな! こたろー!」

 

「んあ。たべる……!」

 

 

タイガに誘発されたのかモリモリご飯を口に運んでいく虎太郎。

ハムスターみたいになっている虎太郎を見ながらタイガは笑っていたが、ふと部屋の隅にある物を見つけて固まる。

 

 

「おい矢澤、なんだよアレ。すげぇ綺麗だな」

 

「ああ、虎太郎が拾ってきたのよ。でも玩具でしょ?」

 

「まあ、そりゃああんな形の宝石あるわけないわな」

 

 

紫色の水晶に囲まれた台座のような玩具に見える。

なんでもベランダの隅に転がっていたらしい。と言うことは落とすとすればマンションの上に住んでいる人間だろうが、一通り聞いてみても『知らない』の声ばかりだ。

 

 

「大きな鳥か何かが運んできたんでしょ?」

 

「ふぅん」

 

 

ふとテレビに視線を送るタイガ。

今日もいろんなニュースがやっている。なになに? パンダのリンランちゃんが立ち上がったらしい。

トラックの運転手が親子連れを轢いてそのまま自分も事故にあい死んだらしい。また美術館で何やら凄いものが盗まれてしまったらしい。

 

 

「お前も盗られないようにしっかり持っておけよ」

 

「うん。もっとく……」

 

 

虎太郎は台座をつかみ取るとギュッと抱きしめてご飯を食べ始める。

 

 

「ちょっと虎太郎、お行儀が悪いですよ!」

 

「まあいいじゃないの。それより矢澤、我李奈からの企画書だ」

 

 

タイガがカバンから出した書類に目を通すにこ。

仮のマネージャーである我李奈はある仕事をミューズに取ってきた。

 

 

「チッ、どうしてこの私がバックなのよ」

 

「仕方ねぇだろ、向こうからの提案なんだから」

 

 

テイパーゲームの賞品だ。食堂のイメージキャラクターにしてくれると言う話が持ち上がった。

その数は三。当然そこには勝ったエグゼイドとスナイプが担当する二年生が入る。

しかし二位のスナイプにも副賞はあった。イメージビデオ、要するにメニューを紹介する動画のナレーションを三年が担当できることになった。

 

 

「あんまり個々の活動はしたくないんだけどね。ミューズは9人で一つなんだから」

 

「まあいいじゃねぇか。一年にもイベントが用意されてるみたいだし」

 

 

さすがに一年だけ何も無しではヘイトも溜まる。

ゲームセンターのイベントが用意されているようだ。まあ言い方は悪いがはるかに『ショボイ』ものなのだが。

 

 

「にしても学校行くのダルいな」

 

「ちょっと!」

 

「クソつまんねぇ授業ばっかじゃねぇか」

 

 

タイガはよく学校を『ダルイ』、『欝だ』、『おなか痛い』と言う理由で休む。

ましてや今日のような中途半端な時間割りは一番嫌いである。授業の単位も大丈夫だし、ましてや内容も音楽だのなんだのと。

タイガは大きなため息をつくと、携帯を取り出して学校へコール。

 

 

「あ、もしもし? おはようございます。実は今日、祖母ちゃんが亡くなりまして……、え? 祖母ちゃんは先週死んだだろって? いやっ、し、親戚の仲が良かった人で、そのあだ名がバーチャンで――、はい、はい、あだ名です。祖母の祖母ちゃんじゃなくて、バーチャン。はい、はい。はい、お願いします」

 

 

電話を切るタイガ。

 

 

「今日で祖母ちゃん30回死んだわ」

 

「アンタって本当最低」

 

「いいじゃねぇの。今日お前、仕事で両親いないんだろ? 虎太郎保育園に送ってってやるから」

 

「じゃあ帰りにたまご買ってきて」

 

「おい! そこまでするとは言ってねぇぞ!」

 

 

朝。一日の始まりだ。

広いリビングではヒイロがフレンチトーストにナイフを入れていた。

 

 

「いや、しかしまさかヒイロがアイドルに興味を持つとはな」

 

「パパ、またその話ですか?」

 

 

呆れた様に母が紅茶に口を付ける。

一方で立派な口ひげを蓄えた男性は笑顔でクロワッサンを齧っていた。

 

 

「それくらい驚いているんだよ」

 

「やっぱり、ダメかな」

 

「いやぁ、そうじゃない。パパは嬉しいんだよ」

 

「嬉しい?」

 

「ああ。最近のヒイロは本当に楽しそうだ。やはり人間趣味を持つのはいいな。父さんも昔はラジコンやチェスを――」

 

「フッ。パパ、その話はもう何度も聞いたよ」

 

「ム、そうか、すまないな」

 

 

しかし考えてみればそうなのかもしれない。

ヒイロはそんな事を考えながら食事を終わらせ、身支度を済ませる。

学校に行く前にはいつもペットのジョンに挨拶を告げるのが日課だ。

 

ゴールデンレトリバーのジョンは嬉しそうに尻尾を振ってヒイロに近づいてくる。

そんな中でヒイロの心の中には『早く学校に行きたい』と言う感情が湧き上がるのを感じる。

それは学校に近づけば近づくほどに大きくなる。

 

 

「おはようヒイロ君!」

 

「山岸さん。おはようございます」

 

 

校庭沿いを掃除していた用務員の山岸を見かけ、ヒイロは立ち止まって頭を下げる。

 

 

「実はこの前アイドルショップに行ったんだけどさ、新作のキーホルダーが出てたんだよ」

 

「それは本当ですか!」

 

「そう、さっそく買ったんだけど箱の中にランダムに入ってるタイプで、結構ダブっちゃったから欲しいのある?」

 

「もちろん――」

 

 

その後、歩いていると声を掛けられる。

 

 

「おはようございます会長」

 

「!!」

 

「おはようございます会長っ」

 

 

心臓が跳ねる感覚。ヒイロが振り返ると、そこには笑顔を浮かべている海未とことりが立っていた。

ヒイロは笑顔を浮かべて挨拶を行う。さらに海未たちの後ろには穂乃果と肩を並べるエムが見えた。

 

 

「次のライブ頑張ってね」

 

「うん! 打倒アライズだからね。壁は高いよ!」

 

 

とは言いつつも、穂乃果はどこか嬉しそうである。

みんなで戦う事が嬉しいのだろう。ライバルも強いほうが燃えてくるタイプなのか。

 

 

一方でキリヤも今日はしっかりと登校していた。

病み上がりの登校で緊張していたが、クラスに入ると、みなは温かく迎えてくれる。

 

 

「キリヤくん。おはよーにゃー!」

 

「おはよ」

 

「おはよう火馬君」

 

 

凛と真姫、少し緊張気味だが花陽も笑顔で挨拶を。

 

 

「う、うん。おはよう」

 

「もう大丈夫?」

 

「うん。ありがとう。もう大丈夫だよ」

 

「うんうん、元気が一番にゃー!」

 

「凛は元気すぎるのよ。朝っぱらから……」

 

 

曖昧な笑みを返しつつキリヤは自分の席に着く。

緊張する。けれど――、うまくやっていけそうだ。

そんな希望を抱いてみる。

 

 

希望、そう、希望……、希望。

 

 

 

希望←→絶望。

 

 

 

絶望、そう、絶望……、絶望。

 

 

光と闇。

 

 

 

センキュ……。

 

 

 

 

 

 

「あ、なんか轢いた」

 

 

ふり返るモータス。

 

 

「さえないオッサン轢いてもうた……」

 

 

大丈夫ですかが言える男になりたい。

近づいてみよう。アクセルグリップを捻る。

 

 

「あ、また轢いてもうた」

 

 

行き過ぎちゃった。

 

 

「てへへ(かわいい)」

 

 

失敗失敗☆

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「―――」

 

「ッて、もう死んどるやないかーいッ! 内臓飛び出とるやんけッ! なんでやねん!」

 

 

自分、バラエティー好きです。

 

 

「でも優しいな」

 

 

世界って優しいな。

こうして倒れてる人に声を掛ける文化って日本じゃね?

なんかジャパンって感じするよね。なんか、こういう優しさ? 大切にしていきたいよね。

 

花を踏んでも。いや違うな。花を踏むかもしれない、人は、弱いから。

けど、信じたいのは、花を育む気持ち。こうして、なんか、世界が優しさになれば、きっとハッピーだから。

自分、優しさッス。だから、なんかこう、世界って優しいなって。

優しくなればいいなって。世界はホットになるべき。みんな、優しさ合おう(名言)。

 

 

「あっついんだからぁー(パクリ)」

 

 

自分、バラエティー好きっす。

 

 

「タイトルはー、『轢いてみた』でいいか」

 

 

モータスはアクセルグリップを捻って走り去った。

 

 

 

 

 

鳴るチャイム。今日は学校が午前中で終わった、

とは言えミューズとしての活動はこれからだ。着替え、学校近くの駐車場に集まるメンバー。そこには機材を入れたカバンを抱えたタイガが。

 

 

「サボリ魔」

 

 

腕を組んで絵里はジットリとタイガを睨む。

 

 

「だって祖母ちゃんが……」

 

「そ、そうなん? それは――」

 

「嘘よ」

 

「え?」

 

「絶対嘘」

 

 

肩を竦めるタイガ。

 

 

「我李奈が車を用意してくれた。二年と三年は乗れ、アシスタントにはオレと1号、2号がつく」

 

 

タイガの言葉でカバンを抱えたエムとヒイロが姿を見せる。

 

 

「よろしくねエムくん!」

 

「うん。任せておいて」

 

「頼りにしてますね会長」

 

「ああ、サポートは任せてくれ」

 

 

そして一年にも車はつくとタイガは言う。

 

 

「一応アシスタントも用意する。まあいらねぇとは思うが……、出てこいV3!」

 

「ぶいすりー?」

 

「新メンバーだ。ほれ、挨拶しな」

 

 

タイガが引きずってきた少年を見て、凛たちが声を上げる。

 

 

「キリヤくん!」

 

「ど、どうも……」

 

「コイツも写真部に入ったんだ。まあ、優しくしてやってくれ」

 

「お、お願いしましゅ……!」

 

 

噛んだが仕方ない。なにせミューズのファンであるキリヤにとって、今目の前に全員が揃っているのだから。

一年生の凛たちならば顔を合わせられるが、絵里たちとは中々。

 

 

「後輩くん。まあ今回は荷物持ちくらいで良いと思うから、しっかりやっておけよ」

 

「は、はい……!」

 

「なんかあったら電話しろ。じゃあな」

 

 

コクコクと頷くキリヤ。

こうして一年は近くのゲームセンターのイベントに向かった。

 

 

 

 

 






『エグゼイド』はモヤモヤした気分で今年を終わらせる。

せやろ?

(´・ω・)センキュ……

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。