モータス関係はたまに自分でも何書いてるのかわかんなくなります( ;´・ω・`)
タイガが言ったとおり、既に我李奈がゲームセンター側と話をつけてくれていたのか、到着からイベントまではとてもスムーズに進行した。
一つ問題があるとすれば荷物持ちだろうか? ステージ衣装くらいとナメていたが、意外や意外、まあまあ重いのだ。
「うぅぉ……!」
カバンを持ってフラフラ歩くキリヤ。
肩が千切れる。冷や汗を浮べていると、腕がフワリと軽くなった。
「キリヤくん、大丈夫? リンが持つよ?」
「凛ちゃん……!」
「ごめんね、重かったよねー」
その時、さらに軽くなった。
見ると花陽が笑っていた。その手には当然カバンが。
「私達、なんだか荷物を持たせるのってガラじゃないしね」
さらに軽く。真姫が鼻を鳴らしている。
「フラフラだったでしょ? なんだか、はじめてのおつかいみたいで危なっかしいのよね」
「うッ、はじめての……!」
少しショックだが、事実だから仕方ない。
ここは三人の優しさに甘えるとしよう。そもそも、予備の衣装もあるので重いのは当然だ。
自分の衣装はミューズが自分で持ち、予備の衣装をキリヤが持つ事に。
こうしてスタッフルームに案内されるキリヤたち。
アポロン側のスタッフもチラホラと見かけ、それぞれは軽い挨拶を行う。そしてゲームセンター側と凛たちの打ち合わせが始まった。
今日のイベントはどうやら稼動したゲームが一周年を迎えたイベントらしい。そのゲームを凛達が少しプレイして、それから大会が始まるというもの。
まあにぎやかしと言うやつだ。別に歌は歌わないし、ダンスも踊らない。
キリヤはスタッフルームの端で椅子に座りながら話を聞いていた。
大変だな、頑張ってるな、そんな事をボウっと思っていると、キリヤは別室に呼ばれることに。
なんだろうか? 首をかしげてスタッフについていくと、一つのタブレット端末を渡される。そこに表示されたのは我李奈だ。
「ど、どうしたんですか?」
『キリヤ様に一つお願いが』
「?」
『実は――』
「じゃあそれでは、大乱闘スマッシュブラザーズ、アーケード版の一周年記念イベントをはじめまーす!」
こうして、イベントが始まる。
中高生に人気のアーケードゲームだ。
そもそもスクールアイドルのターゲットもティーンエイジャーであり、ターゲット層としては重なっているのである。
さらに言えばゲームをやる層とスクールアイドルを応援する層もそれなりには被っていた。
ゆえに、一年生が登場するとゲームセンターには歓声があがり、凛たちは笑顔で手を振る。
「えー、さらに今日は特別ゲストが来てくれています!」
司会のお姉さんが手で指した方向。そこに立っていたのはレーザー、レベルワン。
笑い声や歓声が上がる。レーザーはヨタヨタと歩きながら観客達に手を振っていた。
どうやら我李奈はアポロンTVの盛り上がりに合わせてマスクドライバー達をミューズのマスコットキャラクターにしようとしているようだ。
「レーザーくんはミューズを応援しにきてくれたんだよね」
「あ……、あの――、はぃ」
「わぁ! レーザーくんは喋れるんだね!」
「ま、まあままままままあ、しょうですねぇ……!」
レーザードライバーがキリヤの声を変化させているため、凛達に正体がバレる心配は無い。
無いが――、今のレーザーにとってそんな事はどうでも良かった。
キリヤは前に出るタイプの人間ではない。多くの観衆の視線を集めるのは、それだけ緊張感を与えていくのだ。
鎧の裏で汗だくになりながらキリヤは思う。
(みんな、なんて凄いんだ……)
正直、花陽は自分と同じタイプだと思っていたが、笑顔でコチラを見ているじゃないか。
そこに緊張感は無い。とてもリラックスしているように見える。
「緊張してるのかなー? ミューズのみんなに一言応援メッセージよろしく!」
「あ、あぁぁぁあけましてメリークリシュマシュで頑張っておくれりゃすしゅ!」
「は?」
白目をむいて後ろに下がっていくレーザー。
後にネットで『コミュ障ペンギン』とあだ名がつくのだが、それはまあ今は置いておこう。
とにかくと、こうして始まったイベントだが、問題なく進んでいった。
凛達がゲームをやると、その様子は中継され、ラブライブの動画コーナーにリアルタイムでアップされる。
「えいッ、えいっ!」
ガチャプレイで良く分かっていない真姫も、その姿がどこか可愛らしく、人気は出てくる。
「うぉー! 凄いにゃー! 早いにゃー!」
青いハリネズミのキャラクターを操作して凛は楽しそうに笑っている。
「………」
一方でメガネを光らせて巧みにレバーを操る花陽。
元々なのか、それとも『ガチ』で練習したのかは知らないが、コメントを見ると『あれ? この娘、今回の参加者より強いんじゃね?』などと言ったコメントがチラホラと。
無言でひたすらにキャラクターを操る花陽。少しは話した方が良いんじゃないだろうかと思いつつ、そこでレーザーはハッとする。
そうか、これでいいのか。
周りを見てみるが花陽の態度に疑問を持つ者は誰もいない。それは花陽が『そういう子』であると分かっているからだ。
なるほど、これがアイドルの力――、もっと言えばエンターテイナーの力なのか。
要するにメディアの目に触れる人々は、時に内面的なコンプレックスを武器にできる。
或いはお笑い芸人であればマイナスのイメージを与える容姿ですら武器に――、憧れの対象に変える事ができるのだ。
極端な話、花陽は恥ずかしがりやな性格だが、花陽が人気になれば『恥ずかしがりや』な性格がプラスに見えてくる。
恋は盲目。あばたもえくぼ。オドオドしていても可愛いと映ったり。
先程の芸人の話に戻そうか。
容姿面で言えば本来敬遠されがちな『ハゲ』であったり『デブ』であったりも、笑いに変える事ができればそれはプラスになる。
さらにはそれを見ている同じようなコンプレックスを持つ者に勇気を与えられるかもしれない。
現に今も自分に近い花陽を見ていると『そうか、もしかしたらボクはこれでいいのかもしれない』と思ってくる。
もしかしたら本当に人気者になれば『花陽』になりたいと思う人間が出てきて、あえて恥ずかしがりやを装うようになるかもしれない。
かつて人気ドラマの主人公と同じジャケットだの髪型だのを合わせたように。
そして或いは、その反対に惹かれる。
活発にはしゃぐ凛をレーザーはボウっと見つめていた。無い物を求めるのもまた人間だ。先程の事が同じように言える。
しかしそこで気づく。はて? ではそこに至るにはどうすればいいのだろう?
つまり『憧れるほど好きになってもらう』にはどうすれば良いのだろうか?
分からない。よく分からない。
どうして他人は花陽を好きになるのだろう? 真姫を好きになるのだろう? 凛を好きに――、なるのだろうか?
もちろんそこに大きい小さいあるだろう。ファンも一口にいろいろな種類があるのは知っている。
だが所謂『信者』とまで言われるようになるには一体何がスイッチに……?
「あ」
そんな事を考えていると試合が終わった。
結果はもちろん花陽の圧勝。専用のトロフィーを嬉しそうに受け取っている。
周りからは歓声。どうやらエキシビジョンマッチとしては成功のようだ。
「それではミューズの一年生メンバーのみなさんと、レーザーくんでした~」
「ありがとうございました!」
凛達の声が重なる。
イベントが終われば凛達はお仕事終了だ。
スクールアイドルであるため謝礼は出ないが、ゲームセンター側がご厚意で凛達にお礼のお土産をくれた。
それを持って凛たちは帰路につく。帰りは歩きで。
「たのしかったね」
「ちょっと花陽。あんなにガチだなんて聞いてないんだけど」
「え、えへへ。あのゲーム、好きで……!」
「いいじゃんいいじゃん? アミーボもらえたし!」
ハリネズミのキャラクター、ソニックのアミーボを嬉しそうに覗きこむ凛。
アミーボとは専用の機械に読み込む事で様々な効果がもたらされる人形である。どうやら凛はソニックが好きらしい。
「ずっと欲しかったんだよね、リン!」
「よかったね凛ちゃん」
「うん! かよちんが強かったおかげだよ!」
「えへへ、そんな事よ……!」
「こんな人形のどこがいいのよ?」
「えー、かわいいじゃん。だったら真姫ちゃんそれ頂戴?」
「うえぇ? い、いやよ!」
「どうして?」「どうしてニャ?」
花陽も凛も気づいたのか、ピカチュウのアミーボをギュッと握り締めている真姫をニヤニヤと見つめる。
「ねえ真姫ちゃんどうして?」
「おしえてほしいなー」
「うんうん、教えて教えて」
「聞きたいニャー」
「ヴぁああ! もうッ! かわいいからよッ!」
「………」
楽しそうだなぁ。三人の背中を見つめながらキリヤはカバンを持って歩く。
邪魔しちゃ悪いからと黙ってはいたが、本当に忘れられているのではないかとヒヤヒヤしてくる。
しかしそんな中でふと思う。先程ゲームセンターで打ち合わせをしている凛を見ていたのだが、そこでは彼女はスタッフ達には『敬語』を使っていた。
正直、凛のイメージは常に『にゃーにゃー』言っていると思っていたが、どうやらそういう訳でもないらしい。
今も友人に囲まれてリラックスしているのか、テンションが上がった時や少しふざけている時だけ語尾にニャーをつけているように見える。
もちろんどの凛も本物であろう。しかし、その猫をイメージさせる語尾を使うときに『偶像』の欠片を見た気がした。
「ねえねえ、リンおなかすいちゃった」
「時間も時間だしね。何か食べてく?」
「私は別に……。どっちでもいいけど?」
どうやら三人は食事に行くようだ。そういえば意外と良い時間か。
となればココまでだろう。キリヤは前に出ると三人の横に並ぶ。
「あッ、じゃあボクはこれで――」
「んもー、何言ってるのキリヤくん!」
「え?」
「キリヤくんも一緒に行くの!」
「え? えッ?」
「一緒に食べよ? ね、かよちんも真姫ちゃんもいいでしょ?」
「もちろん! 一緒に食べようよ火馬くん!」
「ン、私はどっちでもいいけど?」
「じゃあ決まり! ね、キリヤくん!」
「で、でもボク――ッ、邪魔じゃない?」
「何言ってるの? ほら、ほらほらほらぁ!」
「ちょ、ちょっと押さないでぇえ……!」
「行こッ! リンの好きなとこ連れてってあげるから!」
こうして半ば強制的にキリヤは凛に連れて行かれる事になるのだった。
「……!」
目の前においしそうに湯気を立てる丼が置かれた。
「おいしそうだね! キラキラしてるね!」
「もう待ちきれないニャー! いッただっきまーす!」
目を輝かせる花陽と凛。
割り箸を割るとさっそくズゾゾゾゾゾと音を立てて面を啜り始める。
「ふぅふぅ」
一方で真姫は『こういう場所が』珍しいのか、周りをキョロキョロ見回しながらチロチロと面を啜っていた。
凛が皆を連れてきたのはラーメンの屋台である。
それなりに人気なのか、近くに置いたテーブルにもチラホラと人は見え、カウンターには右からキリヤ、凛、花陽、真姫が並んで座っている。
「今日もありがとうねぇ、凛ちゃん」
店主が顔を見せる。
高齢のおばあちゃんだ。なのにトラックを運転して、店も一人で回しているように見える。しかもそれだけじゃなくて、美味しい。
「おばあちゃんのラーメン最ッ高にゃー!」
どうやら凛は顔なじみ――、と言うより昔からの常連らしい。
元々この屋台は店主・
しかし病で亡くなってしまい、それから文江が受け継ぐ形になったのだ。
「昔から来てくれてた凛ちゃんのためにも、辞められないって思ってね」
「え? じゃあ屋台を続けるのを決めたのって、凛ちゃんのおかげ?」
花陽が首を傾げると、文江は優しげに微笑んだ。
「ふふっ、そうそう。凛ちゃん本当においしそうに食べてくれるから」
「照れるニャー!」
嬉しそうにラーメンを啜る凛。
もちろん凛だけではなく、多くの客から続けて欲しいと言う声もあったからこそだが。
「凛ちゃんラーメン大好きだもんね……!」
花陽の言葉に、ふと真姫は顔を上げる。
「そういえば、コラボもしてなかった?」
「え……?」
一瞬だけ凛の手が止まる。
しかし笑顔でラーメンを啜り始める凛。
「えぇっと、確か、たまねぎ、ニラ……シール……? だよね?」
凛、笑顔でラーメンを啜る。
「凛ちゃん?」
「………」
「凛ちゃん……?」
「………」
「り――ッ、凛ちゃんッッッ!?」
笑顔でラーメンを啜る凛。どうやらなかった事にしたい話もあるらしい。
すると今度は文江は笑顔で凛以外のメンバーを見る。
「花陽ちゃんに真姫ちゃん。いつも話してくれるお友達でしょう? こっちの男の子は?」
「あぁ、前に話したキリヤくん! リンの新しいお友達!」
「えッ!?」
頬を赤くして凛を見るキリヤ。友達、確かにそう言ってくれた。
「そう。ふふっ、じゃあサービスしちゃおうかな。男の子はいっぱい食べないとね」
「あッ、ありがとうございます」
たまごとチャーシューをもらい、嬉しそうにキリヤは頭を下げる。
文江は本当にニコニコと嬉しそうだった。
凛は幼いときから両親に連れられてこの屋台に来ている。つまりそれだけ顔なじみであると言うことだ。
ずっと見ていた子がアイドルになっている。それはやはり周りにとってはとても嬉しいのだろうと、キリヤは思った。
「ごちそうさまでした」
「美味しかったです!」
「また来るね~!」
「たまごと、チャーシュー、ありがとうございました」
食事が終わり、一同は文江に別れを告げて帰路につく。
さて、このまま帰ってもいいのだが、凛は寄り道がしたいと。
そうやってやって来たのは屋台から近くの神社だった。そこは別名『猫神社』。
近所の野良猫が沢山集まってきており、人にも慣れているのか、すぐに猫達は花陽や真姫に鳴き声をあげて近づいてくる。
「はぁぁあぁあぁ! かわいぃ!」
「へぇ、人に慣れてるのね」
ナァナァミャーミャーゴロゴロ。
「ねえ見て見て真姫ちゃん! この猫ちゃん、ちょっと真姫ちゃんに似てない?」
「え? どこが? そんな事言ったらこの子ちょっと花陽に似てる!」
猫もまた多種多様の十人十色。
花陽と真姫はそれぞれ見つけた猫を見せ合い楽しそうに笑っている。
そしてその光景を、離れた所で凛が微笑みながら見ていた。凛の周りに猫はいない。キリヤは首をかしげて凛の隣に座る。
「猫ちゃん、触らないの?」
「うん。リン、猫アレルギーなんだ」
「えッ、そうなの!?」
「そう。最悪だよぉ、猫ちゃん大好きなのにぃ」
残念そうに笑う凛。だからこそ、こうして他人が触れ合っているのを見るしかない。
後は――、一つ。真姫や花陽が楽しく笑っている間、こうしてキリヤと会話できるから。
「ねえ、一つ聞いてもいーい?」
「?」
「キリヤくんはさぁ……」
少し切なげな表情を浮べる凛。
河原で話を聞いたとき、キリヤは『辛いとき、ミューズのライブを見て励まされたんだ』という言葉が引っかかっていたようだ。
「どこを見て……、キリヤ君は励まされたの?」
「え?」
「あ、ごめんね変なこと聞いて。別に変な意味はないんだよ? でも――、ちょっと……」
少し、気になった。
凛は、たとえば海未あたりと同じく、はじめこそはアイドル像にモワモワしたイメージを持っていた。
漠然とした憧れであり、凛自身もどこか偶像を抱きながら、抱えながら歌って踊る。
しかし独自にアイドル像を持っているにこや花陽と共にいる事で少しはアイドルを理解してきたつもりだ。
けれども、やはり凛は凛。自分は自分、変わっていないと思う。
しかし周りは自分のファンになってくれる人がいるわけで。そういう人が自分のどんな所を見て好きになってくれるのかは分からない。
心なしか、『にゃー』の回数を増やした――、つもり。
決して無理をしているつもりはないが、それで皆が喜んでいるなら全然大丈夫。
けれどもふとした時に思ってしまう。それはあまりにも小さな不安とでも言えばいいのか?
「もし、もしね、いつか凛が凛じゃなくなったら――」
そう思い始めたのは、やはりメタトロン騒動。凛も正直裏では良い想いはしていなかった。
タイガの事情は知ってるし、今はもうタイガを責めようなんて欠片も思わない。
けれどメタトロンがただの『一端』である事もまた事実。アイドルを叩く人間はいるし、叩くというのはたいていがその人間性を攻撃するものだ。
凛は凛のつもり、けれど正直叩かれたくは無い、もしも普通にしていて
「らしくないかなー? 不安になるなんてぇ」
「そんな事――」
「あ、かよちんと真姫ちゃんには内緒ね。心配かけたくないから」
それに本当に小さな悩みだ。
けれど、ふとした時、ふと過ぎる。凛は自分の事をできた人間とは思っていない。
自己嫌悪――と言うほどではないが、スタイルは他のメンバーよりも悪いと思っているし、かわいさだって真姫や花陽の方がずっと可愛いと思っている。
もちろん最初よりはコンプレックスは消えたものの、それは今も心の中にある想いにはかわりない。
けれども――、所謂『凛ファン』はいて、これからも生まれていく。
ありがたいが、そこまで好かれる理由が分からないと、少し気持ちが悪い。
普通にしているんだ。じゃあそれが壊れたら、どうすればいい?
「リンは……、いつまでアイドルでいられるんだろ?」
キリヤにファンと言われたとき、凛はこう返した。
『いいよいいよ、アイドルってそういうものだからね!』
そういうもの、そうは言ったが……。ふむ、分からない。
「―――ァ」
キリヤは喉を鳴らし、震える手を押さえて凛を見る。
青ざめる。話したくない。話したくないが――、凛のために、言わなければならない。
「そんなに特別な理由なんて無いのかもしれないよ」
「え?」
「ボクはただ――、凛ちゃんの姿を見て……、もう一度頑張ろうって思えたんだ」
端的な説明を。学校で嫌な事があったが、コンプレックスに立ち向かう凛の姿を見て励まされた。
なに、難しい事はない。ただそれだけだ。
人が人を好きになるスイッチは、きっと単純な衝撃で押せるものなのだ。
「……そっか。ごめんね。辛いこと、思い出させて」
「いいよ。ファンってたぶん、そういうものだから」
「あははっ、そっか!」
凛は伸びを行うと、勢いよく立ち上がる。
「そっか、うん。じゃあリンはまだリンでいいんだね!」
「うん。そう思うよ」
「ありがとニャー! かよちーん! 真姫ちゃんそろそろ帰ろーッ!」
四人はそれぞれ帰路につく。
「じゃあまた明日!」
「ばいばい」
道の関係上、花陽と真姫は別れ、今は河原の道をキリヤと凛が歩いていた。
「今日は楽しかったねー。穂乃果ちゃんの方はどうだったのかなぁ?」
「あッ、さっき石神先輩からメールが来てたような」
「本当? 見せて見せてー」
すると足を止めるキリヤ。
なんだろう? エンジン音が聞こえて来た。
これは――、バイク?
「ッ」
うるさいエンジン音。
改造バイクか? ふり返るキリヤ。凛も近づいてくる音に気づいたのか同じ方向を見る。
するとギョッとする二人。なにせ見えたのは当然バイクだが、それはとても『普通』とは言いがたいものだったからだ。
「なッ、なんだあれ!」
「えっ! えッ!? 嘘でしょ!?」
オレンジ色をした化け物の顔がついたバイクの上にいるのは、これまた良く分からない金色と青の化け物。
目を見開くキリヤ。見覚えがある。そうだ、社長室で見た化け物と同じ。
つまり――、ヴィラン。モータス。
「ここで一句」
驚くべき事にモータスはバイクに跨っていない。
腕を組み、シートの上に直立していた。
そしてモータスは仁王立ちしながら呟く。一句。
聞いてください。魂の俳句。
「Rock ‘n’ Roll(字足らず)」
残念ながら字足らず。
あと僅かに字足らず――ッ!
でもいいんだ。5・7・5? ファック(世の中への反論)
従わねぇ。従えねぇ。だって俺は牙を持っているから。
お前らだってそうだろ? つまんねぇ社会。つまねぇ毎日。誰かに従うなんて俺はまっぴらゴメンだ。
だって俺達には牙がある。自らで己の世界を切り開く武器がある。
だったら手を上げろよ! 思い切り叫べよ。このままじゃイヤだって!
それ!
即ち――ッッ!!
Rock ‘n’ Roll
「俺の名前はパラディン斉藤(適当)」
嘘です。本当はモータスです。
センキュ……。
「聞いてください。青春二人組み轢殺バラード」
「ッッ!」
【ダダダダダダダダ(いきなりのロックリズム)】
本能が告げる殺意の波動。
【ダダダダダダダダダ(バラード概念の破壊)!】
それは反射だった。
キリヤは凛の手を引くと、思い切り体を横にズラして土手を転がっていく。
「きゃあ!」
抱き合う形で転がっていく二人。
【ダダダダダダダダダダ(適当)】
するとつい先程まで二人が立っていた場所にモータスヴァイパーが通り抜ける。
「ッ! ごめん、凛ちゃん!」
「う、ううん。え? でもッ!」
凛も違和感に気づいたようだ。
そう、今、確実にモータスは自分達を轢こうとしたのだから。
「あれッ、これアポロンTV……ッ?」
しかし近くに撮影クルーは見当たらない。
【ダーッダダダダダ! ダダダーダダダダダ(これサビです)!】
一方で全ての事情を知っているキリヤ。
社長は言っていた。モータスはガシャットを持ち逃げし、かつその機能を現実にリンクさせている。
つまりあのバイクで轢かれれば――
『死』
思わず体がブルッと震える。吐きそうになる。
【ダダダダダー(終了&革命。センキュ……)】
最悪なのは、向こうに明らかな殺意があることだ。キリヤは凛の手を取ると全速力で走り出す。
一方で旋回するモータス、タイヤがキュルルルと音を鳴らし、道路にはタイヤ痕が刻まれる。
「は? 避けんなよ(素)」
テテンッ!!
突然ですが、モータスクイズのお時間です。
今逃げ出した二人の男女。殺そうと思うのですが、その前にRock ‘n’ Rollクイズを出します。
そこで貴方が見事、正解する事ができれば、私はですねッ、彼らを逃がしたいと! えー、はい! 思っております!
それでは、いきますよ~。
【問題】
1985年。2月2日。ピザの上に鰹節が日本の俳優で豚のエメラルドが光線はなに!?
『A』・Rock ‘n’ Roll
『B』・Rock ‘n’ Roll
『C』・Rock ‘n’ Roll
さあ、どれ!?
「チクタクチクタクチクタクゥー!」
アリさんの巣を見つけました。
みなさんが答えを考えている間、僕はアリさんを一匹ずつ殺していくので、その間に十分考えてくださいねー☆(かわいい)
「ふーんふふーん」(プチプチ)
はい! そこまで!
「答えはDのファ●ク(暴言失礼。隠します)でした! はいお前ら不正解。あの二人は殺します(無慈悲)!」
肩のパイプから爆弾一個を取り出すモータス。それをアリさんのお家に詰め込むと、指を鳴らす。
「パンプキンボム(適当)」
爆弾は爆発し、アリさんのお家とアリさんがぶっ飛ぶ。
一方でモータスは地面を蹴って跳躍。前宙でモータスヴァイパーに飛び乗ると、アクセルグリップを捻ってマシンを発進させる。
「ん? ちょっと待てよ……?」
走ったからか、それなりに遠くに見えるキリヤと凛。
その中でモータスは凛の姿を見てバイクを止める。
直後、衝撃。
「アバババババババババッッ!?」
間違いない。モータスは体を震わせると、走る二人の背中を指差す。
「凛ちゃんやんけッ!」
何を隠そう、このモリピーモータス、ミューズファンなんです(照)。
その中でもやっぱり凛ちゃんですよね。秋空凛(にわか)、元気で可愛いですよね。
なんか三味線で戦うじゃないですか彼女って(にわか)。そういう姿にマジリスペクト感じてたって言うか……。
って言うかそもそも、ガシャットもらう時って、ミューズファンかどうか聞かれるんですよ。
それで、なんか、好きって言えば好感度上げるために協力してくれって言われるんですよ。
嘘つく人とかもいたらしいんですけど(酷いね)。俺はマジで、ミューズファンなんで。
やっぱミューズって6人のバランスが良いっていうか(にわか)?
その中でもやっぱり、凛ちゃんって孤高なんで、俺好きなんですよね。
――したらぁ、そうだな、今日はサインもらって帰ろうかな!
「凛ちゃん待ってワン(にわか)! 俺ファンだワーン(にわか)!」
「凛ちゃん走って!」
「う、うんッ!」
「ん? んん? んんん!?」
おいおいおいおい、ちょっと待てよ。
何だあれ? 誰だあの少年は。
なんだよ、なんで凛ちゃんと手を繋いでんだよ。
「Oh? There is boyfriend idly, isn't it impossible?(流暢)」
Rock 'n' Roll? YES! Rock 'n' Roll。
「Isn't a fan boyfriend for an idol?
No, moreover isn't boyfriend IKEMEN in plenty?
Do you say the pretty system?
That's useless as expected, isn't it?
It can never be permitted, can't it? Isn't it a rule violation?
Boyfriend isn't permitted, is he? Because it's idle, do(エキサイト翻訳)」
やべぇ、思わず出ちゃったわ流暢な英語。ありがとうスピードラーニング。
つまり、マジ許せねぇ。アイドルが人を好きになるなんて罪だろ。ファンより幸せになるなんて犯罪だろ。
死刑だろ?
「ころそ」
殺意に、センキュ……。
「俺を裏切りやがって、凛ちゃん、許さないぞ(激おこ)!」
一方で河原を抜けたキリヤと凛。
それなりに建物も見えるが、人気は少ない。ましてや人がいた所で意味はない。
「凛ちゃんはココに隠れてて。ボクッ、助けを呼んでくるから」
「え? でもッ!」
「いいから! ボクを信じて!」
キリヤは路地裏に凛を隠すと、肩を持って強く叫ぶ。
状況に混乱し、大声に怯んだのか凛は何も言わずに固まるだけだった。
その隙に飛び出すキリヤ。大声を出し、手を振ってモータスに自らの姿をアピールする。
「来いヴィラン! コッチだ!!」
「Rock ‘n’ Roll(わかりました)」
それなりに狭い路地ではあるが、モータスはまるでバイクを体の一部のように巧みに動かしてキリヤを追いかける。
凛から離れるようにキリヤは逃げるとクリーム色をベースにし、オレンジ色のレバーがついている『レーザードライバー』を装備する。
そしてすぐにアリアドネを発動。我李奈に事情を説明する。
『分かりました。逃げられますか?』
「いえッ! すぐ後ろにヴィランが! 戦います……ッ!」『爆走バイク!』
ガシャットを起動させるとゲームエリアが展開。
タイトル画面からトロフィーが発射されて各地に設置される。
「!」
バイクを停止させるモータス。
「お前……、まさか」
「へ、へ――ッ」
恐怖で唇が震える。
なんとか音声認識をクリアさせ、キリヤはガシャットをドライバーにセットした。
『レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッチャネーム!?』
足が震える。キリヤはなんとかレーザーのアイコンを弾こうとするが緊張して回転するアイコンを捉えられない。
『エラー!』『エラー!』
間違えてエグゼイドやスナイプをタッチしてしまう。
「なるほどねぇ」
バイクから飛び降りるモータス。
一方でなんとかレーザーのアイコンを捉える事ができたキリヤ。
セレクトの文字と共に全身が光で包まれ、直後、そこにはレーザーレベルワンが。
「マスクドライバー! ひゃっはー! こりゃいい! 最高にロックな流れだ!」
モータスとてヴィラン。自らの本来の役割は分かっている。
それはマスクドライバーにやられる、かませ犬だ。しかし今の自分は違う。力がある! ルールを突破できるだけの力が!
それ、即ち――ッ!
「ロックンロォオオオオルッッ!!」
聞いてください。俺の魂のソウル。
ニューシングル【アイドルにさようなら】
【歌】モリピーモータス
【作詞】モリピーモータス
【作曲】ファッキン鮫島(モリピーモータス・別名義)
「ハァア!」
走り出すモータス。
【なあ知ってるか?(なになに?)】
レーザーは二つの銃を構えて対峙する。しかし震える手。撃ちたい、撃ちたいのだが――、撃てない。
【アイドルは幸せになっちゃいけないんだ(えっ、ほんとう?)】
撃っていいのか? 撃ったらどうなる?
【いや少し違う。ファンより幸せになっちゃいけないのさ(どうしてどうして?)】
死ぬ? まさか。大丈夫だ。撃て。敵が来る。ダメだ? どうして?
だって、怖い。
ああ、ああ、やっぱりレーザーは――
【憧れは満たされてないから求めるものさ。持ってるヤツは上にいる。下に憧れは抱かない】
マスクドライバーに向いてない。
「ヒャッホウッ!」
【ラブが足りない】
「!」
モータスは飛び回し蹴りでレーザーの右手に持っていた銃を弾き飛ばす。
【世界はラブに飢えている】
すぐに左の銃にあるタイヤを回転させて接近戦に挑もうとするレーザーだが、モータ素は急旋回、背中のパイプから黒煙を一気に噴射する。
「うあぁあぁ!」
前が見えない。視界がブラックアウト。
【だからアイドルは絶対にラブを満たしちゃいけない(みんな持ってないからね!)】
さらにパイプから無数のボール型の爆弾が発射される。
爆弾は次々にレーザーに直撃して爆発していく。ダメだ、いけない、爆炎がダメージを齎し、さらにはここは狭い住宅街。
こんな場所で戦い続ければ被害は明らかだ。
【幸せになるな。幸せになるな。幸せになるなぁー!】
レーザーはうめき声を上げながら逃走。人のいない場所を目指そうと全速力で走る。
「ロックンロール!」
バク宙でモータスはバイクに搭乗。
【一生俺達を楽しませろォオオォォォ!】
ロケットスタートでレーザーを追いかける。
あっと言う間にほら眼前、モータスは容赦なくレーザーの背中を轢き飛ばす。
「がッ、グ――ッッ!!」
息が止まる。
背中がミシミシと嫌な音を立てる。
【恋人がいる!? いいかみんな! 叩く準備はできたか!?】
痛い、痛い、痛い、怖い――ッ!
【理由を用意しろ! 見つからないように付き合えだとか! こんな不細工を選ぶなだとか! ウォーウォー!】
レーザーの心を恐怖が塗りつぶしていく。さらに全身に巻かれる鎖。
そのままモータスが腕を振るうと、レーザーの体が浮き上がり、近くの建物のシャッターに突っ込む。
「うぅうッ!」
シャッターを破壊して中を転がるレーザー。
【俺以下で、ほどほどに幸せになってぇええ!】
どうやら木材を加工する場所らしい。
中には雇われたのか異国の人間がチラホラ見かけたが、皆レーザーとモータスを見て悲鳴を上げながら逃げていった。
【センキュ(終了)!】
「おいおいおい! もっとエキサイトさせてくれよ!」
鎖が飛んでくる。もう一つの銃が絡め取られた。
モータスは奪った銃を投げ捨てると、地面を蹴ってレーザーに距離を詰める。
ダメだ、レーザーが体を覆うように縮こまる。ご明察、そこに次々と飛んでくる拳と蹴り。
「いいか! これは俺が殺した女の子の分ッ!(理不尽)」
「ウアァアア!」
モータスの拳がレーザーの頭部を抉る。
「母親の分(理不尽)ッ!」
「ガァアア!」
モータスの膝がレーザーの顔面を捉える。
「アリさん達の分だァアアアアア!!」
「うあぁあああ!」
パイプからの爆弾がレーザーの全身を撃つ。
機械を巻き込み吹き飛ぶレーザー。詰んであった木材が落下し、次々にレーザーの上に降りかかる。
「センキュ……!」
拳を天に突き上げ、ストレートエッジを見せ付けるモータス。
一方で体を震わせてレーザーはなんとか立ち上がった。
ダメだ、怖い、殺される。モータスから流れ出る異常なるまでの殺意が、レーザーの心を確実に蝕んでいく。
「フフ! フフフフ!」
「ッ?」
「そう、そうだぜ! これが答えさ」
モータスは許す。凛を赦す。
男の子と仲良くしても良い。なぜならば、モータスは凛のファン『だった』からだ。
ファンの根本は憧れ。しかしもはや凛に憧れる意味はない。なぜならば、虫けらを好きになる理由など欠片も無いからだ。
「俺は既に、ミューズを超えている」
「何を言って……!」
「凛ちゃんはもう、いらない」
「!」
その時、物音が聞こえた。
最悪のタイミングだった。壊れたシャッターの向こうで凛が恐る恐る顔を出しているのが見えた。
「凛ちゃん!?」
「お! お! お!」
キリヤを心配して様子を見に来た凛。
なぜだか携帯が繋がらないものだから(ゲームエリアの影響)、キリヤを自分の足で探しにきたのだが、最悪なタイミングで鉢合わせてしまったものだ。
「え、えぇっと……」
凛は困惑している。
既に我李奈からこの手のドッキリはもうしないと言われていた。
しかし目の前にある光景は穂乃果達が体験したとされている化け物との会合ではないか。これはどういう事なんだ? 撮影なのか? ドッキリなのか? 凛はまだ分かってない。
一方で全てを知っているレーザーは心臓が止まりそうだった。
ヤバイ! そうは思うが既にモータスは走っていた。拳を握り締め、凛に殴りかかろうとしている。
「Rock 'n' Roll!」
「ッ」
凛は目を見開く。モータスに明らかな敵意を感じる。
ドッキリ? 本気? だったら逃げないと。そう思ったときには既にモータスは飛びかかっていた。
「殴り殺す(そのまま)!」
「き、きゃあ!」
目を閉じ、頭を抑える凛。
すると直後、爆発音が聞こえた。
「結構痛いッッ!(素)」
真横に飛んでいくモータス。
なんだ? 思わず身を乗り出すレーザー。自分じゃない。何か光弾が横から飛んで――
「!?」
石神先輩? そう言いかけてレーザーは口を閉じた。
そこにいたのは『エグゼイド』だった。一瞬エムが助けに来てくれたのかと期待する。
しかし違う。エグゼイドじゃない。なぜならばそのカラーリングが禍々しい黒色をベースにしているからだ。
黒、紫、そして赤い目。手には光弾を発射したゲームパッド、ヴァグヴァイザーが装備されている。
ドライバーは黒を基調とし、紫のレバーが見えるもの。少なくともレーザーは知らない。そして社長は確かにマスクドライバーは四人と言っていた。
エグゼイド、ブレイブ、スナイプ、そしてレーザー。それで終わりの筈なのに。
「逃げろ、星空凛」
濁った声がする。男や女、老人や子供、いろいろな人間の声を重ね合わせたような声だった。
「は、はい!」
凛は戸惑いつつも言われたままに距離を空ける。
一方で立ち上がるモータス。現われた黒いエグゼイドを見て、大きな舌打ちを零した。
「誰だ? テメェは!」
「ミューズは世界にとって必要な鍵だ。それを奪う事は、誰にもできない」『ギュ・イーン!』
バグヴァイザーを付け替える黒いエグゼイド。
するとエンジン音が鳴り響き、ブレードが回転を始める。
チェーンソーだ、そのまま黒いエグゼイドは走り出し、モータスに接近戦を挑む。
「シャアアア!」
「………」
対抗するために鎖を束ね、短鞭のように変えて振るうモータス。
しかし黒いエグゼイドは刃を振るい、簡単に鎖を切断してみせる。
「やばい(やばい)!」
モータスはすぐにフックや蹴りを仕掛けていくが、まるで動きが分かっているといわんばかりに黒いエグゼイドは回避してみせる。
そして殴りかかってきた腕を掴むと、そのままカウンターとして震える刃をモータスの胴体へ押し当てた。
「イデデデデデデ!!」
刃が装甲を削る。
「こりゃいかん(ビビってます)!」
危機を察したモータスは、脱兎の如く黒いエグゼイドから逃走、そのままバイクに飛び乗ると、エンジンを吹かして走り出す。
「………」
逃げ出したモータスの背中をジッと見つめる黒いエグゼイド。
「あ、あの、ありがとうございます……!」
レーザーはヨタヨタと黒いエグゼイドを目指す。
しかしその時だった。黒いエグゼイドはバグヴァイザーを付け替える。
『チュ・ドーン!』
そして、光弾をレーザーの胴体に向けて発射した。
「うあぁああ!」
火花が散り、レーザーは地面に倒れる。
「マスクドライバーの使命はミューズを守ることだ」
黒いエグゼイドは倒れるレーザーを強制的に立ち上がらせると、回し蹴りで再びダウンを奪う。
そして倒れたところへ光弾を発射。レーザーの悲鳴が響く中、黒いエグゼイドは淡々と言葉を投げる。
「姫を守れない弱いナイトに、存在価値など無い」『ギュ・イーン!』
逃げだそうとするレーザーだが、その背中に次々と刃が振るわれる。
「いっ! いだいッ! やめてッッ!」
「恐怖しろレーザー。今のお前は、世界にとって不要な存在だ」
「ッッ!」
その言葉が重くレーザーに圧し掛かる。
もしも黒いエグゼイドが現われなければ凛はどうなっていた?
これは――、バツなのか? 凛を守れなかった弱い自分が受ける、罰。
「キリヤくんッ!」『マイティマイティアクション! エーックス!』
窓ガラスが割れ、そこからエグゼイドが飛び出してくる。
ワケも分からぬままレーザーの前に割り入ると、切りかかってきた黒いエグゼイドの一撃をガシャコンブレイカーの刃で受け止める。
「ッ! お前は!!」
「………」
一瞬の対峙。回転する刃が放つ大量の火花。
黒いエグゼイドはバックステップでエグゼイドと距離をとると、ヴァグバイザーを付け替えて光弾を地面に連射する。
「!」
無数の火花が黒いエグゼイドの姿を隠す。
そして火花が散り終わると、そこに黒いエグゼイドの姿は無かった。
(ッ、逃げた……!?)
一応走り、周囲を確認するエグゼイド。しかし既に気配はない。
「やっぱり見間違いじゃなかったのか……! でもッ、だったらアレは――?」
いや、今はレーザーの安全が先だ。
エグゼイドはレーザーを支え、怪我が無いかを確認する。
「石神先輩……ッ! 来てくれたんですね……!」
「ああ。我李奈さんから連絡もらって」
「ボクはいいですから、凛ちゃんを――ッ!」
「凛ちゃん? あ、ああ、分かった!」
エグゼイドは変身を解除すると建物を出て凛を探す。
するとすぐに困ったようにウロウロしている凛を見つける。
「凛ちゃん!」
「あッ! 石神先輩!」
「大丈夫? キリヤくんから話は聞いたけど」
「リンは大丈夫だけどッ、キリヤくんは!?」
不安げに肩を震わせている凛。
すると曲がり角からヨロヨロとキリヤが歩いてくる。
一見すれば怪我もないように見えるが、辛そうに表情をゆがめており、先程バグヴァイザーで切られた部分を手で抑えている。
さらに上着の袖から見える手首には僅かに血が垂れているのが確認できた。しかしキリヤはそれをすぐに拭い、凛の前では平然を装う。
「凛ちゃん……!」
「キリヤくん! 大丈夫だった!?」
「うん――ッ、平気」
凛はこれがアポロンの催しだと思っているらしい。
もちろん『何も知らない筈』のエムたちに語れる事など何もない。
「とにかく――ッ、今日はおれとキリヤくんが送るよ」
「は、はぃ。ありがとうございます……」
凛を落ち着かせ、とりあえずは家まで送る。
違う。これはドッキリではない。リボルの時とは違う。もちろんそんな事は言えない。だから『嘘』にするしかない。
エムとキリヤは焦る心を胸に、すぐにアポロン社を目指した。
ロビーに行くと丁度そこで我李奈から連絡を受けたのか、ヒイロとタイガも合流してくる。
「二人とも。話は聞いた。キリヤ君、大丈夫か?」
「はい……、なんとか。怪我も少しだけなので大丈夫です……」
「石神。黒いエグゼイドが出たって聞いたぞ」
「ああ。だけど、おれには全く分からない」
そうしている内に四人は社長室へ。
クロトは椅子に座っており、部屋の隅では、真っ黒なスーツを来た我李奈がタブレットを抱えて立っていた。
「よく来てくれたね。マスクドライバーの諸君」
「ごちゃごちゃした話は良い。さっさと本題に行くぞ」
来客用のソファにどっかりと座り込むタイガ。
「モータスが出たって聞いたぜ。あとは黒いエグゼイドだ」
「話は聞いている。コチラとしても驚きを隠せない」
「は?」
クロトは貼り付けたような笑みを浮かべたまま、一同を見る。
「あれは、私も把握していない存在だ」
「なッ!」
つまり、マスクドライバーを用意したはずのクロトすら把握していない存在。それが『黒いエグゼイド』だというのだ。
当然エムたちからしてみれば信じられない話である。しかし逆にそこがポイントだと我李奈は説いた。
「我々はドライバーやガシャットを提案し、設計図を製作、資金提供を行いました」
しかし逆を言えばそこまでだ。なぜならばクロト達はあくまでも『テレビ局』の人間だ。当然ドライバーを作ったのは専用の『スタッフ』である。
設計図通りに作る開発者が存在し、クロトや我李奈もなるべく視察をくり返してはいるものの、24時間はりついたまま――、とはいかない。
「つまり、製作者の中に、ドライバーの技術を盗んだ者がいると?」
「我々はそう考えておりますわ。その中の人間が独自に黒いエグゼイドを開発していたのではないかと……」
「まさか、ガシャットの暴走は?」
「黒いエグゼイドが絡んでいるのは間違いないだろうね」
とにかく黒いエグゼイドに関してはまだ何も分からないというのがアポロン側の説明であった。
「気になる事が一つあるんです」
「?」
「黒いエグゼイドはボクを攻撃してきましたが、凛ちゃんの事を守ってたんです」
悪意から人を守る戦士。それは他のマスクドライバーと変わらないとも言える。
しかしレーザーの事はは確かに攻撃してきた。不思議な話である。
「敵か味方か分からないって事か」
自分のガシャットを見つめるエム。エグゼイドと対峙した際、黒いエグゼイドはすぐに逃げた。
つまり戦う意思はなかった……?
とにかく答えを知っている者がいないのだ。これ以上、話していても仕方ない。
そうなると気になるのはモータスのほうだ。
「ウチの後輩くんを可愛がってくれたみたいだな」
モータスはガシャット回収の呼びかけに『否定』で返してきたという。
つまり意図的にガシャットを持ち逃げしたという事だ。そしてキリヤと凛が感じた殺意。紛れも無く、モータスは黒に染まっている。
我李奈はメガネを整えながらタブレットを操作する。すると大きなモニタに一人の男が映し出された。
なんだか『普通』の男性だ。黒髪で、髪型はとくに名前も無いような普通のショートカット。
顔立ちも目立った特徴も無く、カッコよくも悪くもないと言った印象である。
「
名前も普通である。
「ちなみに書いてある住所はデタラメでした」
しかし『普通』はここまでだった。我李奈は一つ、前置きを。
「次に映し出される写真は少しショッキングなものですわ。気をつけてください」
「え?」
画面が切り替わる。
そこにあったのは血まみれの『物体』だった。赤黒い液体に塗れている『ソレ』を、誰も理解できない。
しかし二枚目に切り替わったとき、それが人の『死体』だと適合者たちは察する。
三枚目の写真を見たとき、キリヤは口を押さえてうずくまった。
「こちらをどうぞ」
近くにあったゴミ箱を蹴る我李奈。
ゴミ箱は床をスライドしてキリヤの前に。キリヤはそこに、胃の中にあったものをぶちまけていった。
しかし無理もない。エム達もみな言葉を失い、青ざめている。
口を押さえて不快感を抑え込むタイガ。エムはその写真に写っている物があまりにも現実離れしているため、まるで映画の小道具の一部かと思った。
そして医者を目指しているだけはあるのか、ヒイロは平気そうだった。
とは言え、その異常性に汗を浮かべてはいるが。
「なんだコレは……!」
「見ての通り、死体でございます」
つい最近のものだ。
報道ではトラックの運転手が親子を轢いたあと、自分も事故を起こして死んだとされている。
しかし現実は全く違う。娘は殺され、運転手は殺され、母親も殺された。
「マスコミも馬鹿じゃない。ヴィランの存在は公表すれば世界的なパニックになるからね。コチラのお願いを聞いてもらったよ」
つまり、報道規制。
「この写真は妊娠していた母親のものです」
死体は右と左の『二つ』であった。中央には、タイヤ痕。
「一度轢いた後にもう一度戻って轢いていますね。これを繰り返し、肉体を切断しています」
「まさか……」
信じられないと言う表情で、エムたちは我李奈を見る。
「これをモータスが?」
「はい。彼は既に8人の人間を殺しています」
8人。それを聞いてエムたちは言葉を失った。
ガシャットの暴走により現実世界でもヴィランの力が使えるというのは、リボルのときから分かっていた事だ。
しかしリボル戦では犠牲者はおらず、病院も無事に守れた。それがどこか、『甘え』を生んだのかもしれない。
どうにかなる、なんとなる、そんな想いを破壊するほどの衝撃が写真にはあった。
「さらに彼は、自分の殺人の様子を撮影し、自分のサイトにアップしていますわ」
映像を切り替える我李奈。
先程の母親の死体が作られる工程が映像でモニタに映し出されており、エムたちはより一層の恐怖を体験する事になる。
スナッフフィルム、モータスが視聴者に提供する殺人娯楽である。
「この人、妊娠してるんですよね……?」
震える指で、エムは映像を示す。
「ええ」
「赤ちゃんは――?」
我李奈は首を傾げる。
何を言っているんだ? そんな様子であった。
そして映像では母親がモータスに轢き殺されるシーンが映し出される。我李奈はそれを指差し、あっけらかんと答えた。
「死んでるに決まっているでしょう?」
「―――」
エムは崩れ落ちるように膝を床につき、手を地面につけた。
「どうして――」
「?」
「どうしてこんな酷い事ができるんだッ! 同じ人間なのにッッ!!」
青ざめながらエムは吼える。
その問いかけに答えたのはヒイロだった。
これもまた、当たり前のように、呟くように。
「ヤツは人間じゃない……!」
既に8人殺しているといった。
常人ならば、そんな事は絶対にしない。であるならば、人の中にいる『人の皮を被ったなにか』に他ならない。
「怪人、だね」
クロトはそう称す。
「今現在、サイトは管理人であるモータス以外がアクセスするとパスワードによるロックが掛かるように、我々が設定しました」
つまり、一般人には見られないようにしていると言うことだ。
モータスは自分のIDでアクセスすればすぐに管理画面に飛べるため、いつ気づくのかは微妙なラインである。
とは言え、一般人の目に触れれば大混乱は必須である。
「なんとしても、早急にヤツを倒し、ガシャットを破壊してもらいたい」
沈黙であった。誰もがハイとはすぐに返せない。
それはそうだ。これだけの殺意と狂気を目の当たりにしたんだ。
エムたちはこの前まで普通の学生だった。そんな人間に大量殺人鬼を倒せなどと……。
「気持ちは分かる。しかし、事態は深刻だ」
クロトが指を鳴らすと、我李奈が画面を切り替える。
リアルタイム中継。画面が分割し、四人の男性が映りこむ。その制服を見て、ヒイロはアッと声を上げた。
さらに我李奈がメンバーを紹介していく。警視総監を初めとし、自衛隊のトップ、さらには大物政治家、そして最後はなんと内閣総理大臣であった。
「はじめまして、適合者のみなさん」
「――ッ」
総理の言葉に、ますます言葉を失うエムたち。
そして内容もまた同じくして驚くべきものだった。
要するに、警察や自衛隊、マスコミは今ヴィランの存在を把握している。
しかしだからと言って対策は難しい。ヴィランは警官が持つ銃では死なない。
自衛隊が持つ兵器や殺傷力がワンランク上の銃ならば話は変わってくるが、そんなものを街中でぶっ放すワケにはいかないのだ。
なるべく人の目につかず、最悪『責任が取りやすい』のは何か? 答えは明らかだ。
「幸いなのはヴィランの力が現実世界に適応しても、ヴィランである事には変わりないと言う点だ」
ゆえに、警察は、自衛隊は、政府は、適合者達に頭を下げた。
マスクドライバーの力は、ヴィランによく通る。
「世界の混乱を救えるのは、キミ達だ。どうか力を貸してほしい」
「………」
なんだか、気分が悪い。
いろいろな意味で。
「クソが! いずれにせよ、アレは放置できねぇ!」
タイガもまた汗を浮かべている。焦り、恐怖、しかし今の言葉どおり、シャレになれない事態が起こっている事は確かだ。
続いてヒイロとエムも頷く。モータスを放置するという事は、当然より多くの犠牲者を生み出してしまうかもしれないという事だ。それだけは絶対に避けなくてはいけない。
「モータスはレーザーの力があれば、より有利になるんだけれど……」
クロトの視線の先にはうな垂れて震えているキリヤが見えた。
どうやら死体の画像で完全に心が折れてしまったらしい。するとヒイロがキリヤを守るように前に立つ。
「こうなるのも仕方ないでしょう。戦いたくない、戦えないと言う意見はあって当然だ」
「それはもちろん」
「俺達だけで、モータスを潰す」
「それもいいね。ただ、適合者を変えるのは面倒だし時間も掛かる。レーザードライバーはしばらくキミに預けておくよ、キリヤくん」
「………」
一同は複雑な表情のまま社長室を出て行く。
キリヤはエムに支えられてフラフラと退室していった。その背を見ながら、クロトは小さく笑う。
そして完全に適合者達が部屋を出て行くと、クロトは手を叩いた。
「ごくろうさん」
総理大臣達が映っていたモニタが消える。
それを見て、我李奈もまた笑みを浮かべた。
「フッ」
部屋の中でギターをかき鳴らす。
テンションが上がっていく。気分がいい。うるさいと注意してくる隣人はこの前殺したので何の問題もない。
一度諦めた趣味だった。しかしまた初めてみればコレだ。
夢はドラッグみたいなものだ。人を崩壊させるが、最高に気持ちよくもしてくれる。
山田太郎。エム達が見た彼はどこにもいない。
髪を伸ばし、赤く染め、服装もパンクなイメージを爆発させてロック力を高めた(意味不明)。
全ては、そう。
それ即ち――ッ!
Rock ‘n’ Roll。
「うぅぅううッ!」
しかし癇癪を起こして地団太を踏む。
山田太郎は不服だった。不満だった。納得がいっていなかった。
自分は偉大なるロックを起こした。なのに世間は上の空。誰も彼もがモリピーモータスを讃えない。いやそればかりか、報道すらされない。
「なぜマスコミは俺様を取り上げない……!」
ギターを壁にかけ、山田太郎は壁を殴りつける。
そしてふと、テレビをつけた。どうでもいい話題が続き、山田の怒りはますます膨れ上がる。
サイトに上げたスナッフフィルムも再生数は驚くべきほど低い。(これはサイトにロックがされているからだが、山田は気づいていない)。
「だが――、それでもいいんだ」
センキュ……。
闇が見えないのは、それだけ光が輝いているからだ。
全てが白なら、黒は見えない。
けれども、白一面であれば、人はやがて、白の価値を忘れるだろう。相反する二つの存在が相互関係にあり、お互いの価値を高めあっていく。
「俺が世界を、変えてやる」『ヴィラン・モータス!』
お前ら。世界がつまらないと思ってないか?
分かる。分かるよ。俺もそうだった。でも違うんだ。つまらないのは、結局、俺達なんだよ。
自分が自分であると。そんな証明、お前らにできるか? できねぇよな?
でも俺はココにいる。手を伸ばせ。ほら、自分に向かって手を伸ばすんだ。俺は叫ぶぜ。俺は今、ここにいる!
アイムア、モリピーモータス!
「聞いてください! 俺の魂の声」
ニューシングル【血まみれのイデオ】
【歌】モリピーモータス
【作詞】モリピーモータス
【作曲】ファッキン鮫島(モリピーモータス・別名義)
センキュ……。
【壊れた夢と、求めた夢の中で――】
「お義母さん。今日も行くんですか?」
「ええ、ええ。麺とスープが無くならないなら、21時くらいまでは行ってくるよ」
【縛られる運命はぁー、フォアデスティニー(うーんめーい!)】
「でも最近寒くなってきたし……」
「フフフ、大丈夫大丈夫。あんまり年寄り扱いしないでちょうだいな」
【強く手を伸ばすよ、ホライズン】
「はぁ、すみません」
「それにね、やっぱり、凛ちゃんがおなかを空かせてくるかもしれないから」
「お義母さんは本当に凛ちゃんが好きなんですね。愛華もあれくらい素直だったらよかったんですけど」
【引き金に手をかけた境界線】
と言う会話。
おばあちゃん、ラーメンカートでお家を出発。YOYOYO。
このババア、殺します(ネタバレ)
「ロックンロォオオル!!」
パラリラパラリラ! ブォンブォンブォン!
【気づいたんだ! 俺は特別な男】
パラリラパラリラ! ブォンブォンブォン!
【気づいてくれ! 俺は特別な男】
パラリラパラリラ! ブォンブォンブォン!
【教えてくれ! 誰が特別なのかぁー!】
夜の道、モータスヴァイパーは前方のトラックを煽る煽る。
【適当に歌ってー】
蛇行運転を繰り返し、車間をギリギリに詰め、時に真横に並んで中指をおっ立てる。
【適当に褒められてー!】
「ババアは恐怖でブルブル! 俺のプリンはプルプル(糞ラップ)!」
トラックは屋台だった。運転手の老婆は怯えているのか、なんとかバイクから逃げようと人気の無い道路を選んで逃げていく。
【だったら、俺も褒めてくれーッ!】
しかしそれはモータスの作戦だった。
「俺おばあちゃんっ子だったんで。言います。お婆ちゃん逃げてぇえええええ(だったら煽るな)!」
追突。ナンバープレートが地面に落ちる。
【イデオ! オォ、イデオォオオ!】
屋台は空き地に停車し、店主の文江がオロオロとした様子でトラックから降りてくる。
「大丈夫ですかお婆ちゃん!」
モータスは文江の肩を掴むと思い切り背負い投げで投げ飛ばす。
「死ねよババア(矛盾)」
でも許せねぇ。お婆ちゃんを苦しめるなんて(再び矛盾)。
【俺が俺であるためにー!】
だから潰す。
イエス、それが俺の――
Rock ‘n’ Roll。
センキュ……。
「オラッ! オラッ! オラァア!」
【オウ! イデオー!】
モータスは屋台のトラックに蹴りを入れ始める。
【ほらイデオー!】
「お前がお婆ちゃんをやったのか(お前だよ)! 許せねぇ(お前だよ)! 待ってなばーちゃん! 俺が今ッ! コイツを倒してやるからな(お前だよ)!!」
チェーンを取り出して窓ガラスを粉砕していくモータス。
【血に塗れた愚かなイデオロギー!】
すると声。文江がうめき声を上げてモータスに接近。足を掴むと、そのまま涙を流しながら土下座を行う。
「か――ッ、堪忍してください。どうか堪忍してください」
「は?」
【イェアアアアアアアアアアアアア(終了)!!】
「この屋台はお爺さんのものなんです。亡くなった主人のものなんです……!」
「マジッスか!?(聞いてない)」
「お金は払いますからこのトラックだけは堪忍してください」
「分かりました(聞いてない)!」
モータスは肩のパイプから爆弾を発射すると文江の屋台を粉々にしてみせる。
「あぁあぁぁあぁ」
泣き崩れる文江を見ながらモータスは声を上げて笑う。
「この前は獲物を逃がしたからなァ! コッチはイライラしてんだよッ!」
モータスは跳躍。バク宙でモータスヴァイパーに飛び乗ると、エンジンを思い切り吹かした。
「ババア! 覚悟しろよ(お年寄りには優しくね!)」
アクセルグリップを捻るモータス。
「ひッ、ひぃいい!」
逃げ出した文江だが、もう遅い。
既に、モータスは、そこにいる。
「YOYO! 年金貪る哀れな老害(老人はみんな害だと思っている)を轢☆殺ッ!」
「ァァアァアァアアァア!!」
バイクが文江を弾き飛ばし、さらにその上を通過していく。
バキベキと骨が砕ける音が聞こえる。頭蓋骨を粉砕し、モータスはさらにパイプから爆弾を連射した。
爆発。文江は爆炎に揉まれて文字通り消し飛んだ。
「イヤッフゥウウウウ! イッツァRock 'n' Roll!!」
止まらねぇ! 俺は止まらないぜ!
さあ走り出そうぜ。無限大の未来へ(適当)!
「加速しろ! 俺の想いッ! 漲れ殺意――ッ!」
凛たちと出会った付近を疾走。
あわよくば取り逃がしたキリヤにリベンジを仕掛けたかったが、姿は見えない。
だがモータスはそれで良かった。いないなら、作る。新しい獲物は周りにいくらでもいるからだ。
「みーちゅけた!」
袋に詰め込むのは『生』。
そのままチェーンで縛り、身動きができないようにして、『それら』を道に並べていく。
「デスロードにようこそ!」
長い道に並べられたのは大量の『猫』だった。
そう、凛たちが行った猫神社にモータスも顔を見せ、そこにいた猫を拉致して道に並べたのだ。
なんのために? 決まっている。
「ヒャッハァアアアアアアアアア!!」
一列に並べられた猫達は皆チェーンで体を縛られており、身動きが取れない。
その上を、モータスは――
「ロックンロォォオォオォオルゥウウウッッ!!」
モータスは血しぶきを上げながら猫の上を走り抜ける。
あっと言う間にモータスが走った痕には大量の猫の死骸と、血まみれの道路。
それでもモータスは止まらない。もっとだ、一つ命を奪うたびにもう一つ奪わないと気がすまなくなる。そしてそれを撮影する事。そこに意義がある。
そうだ、俺を視ろ!
俺を見てくれ! 俺は今、凄い事をしているんだ! 誰にもマネできない!
世界よ、世間よ、もっと俺に注目しろ!
今でも思い出せる。
あのつまらなかった日常。死すら考えた悪意の日々。その中で見かけたスクールアイドルの輝き。
想ったんだ。コイツが持て囃されるなら――、俺だってッ!
「轢殺ッ!」
適当に見つけた女子中学生轢殺!
「轢殺ッッ!」
サラリーマンのおじさん轢殺!
「轢殺ウゥウッッッ!!」
自転車に乗っているジジイを轢殺!
「チェーンボム!」
鎖の輪の中に小型爆弾を埋め込むモータス。
そのまま前を歩いていたカップルの男の方にそれを巻きつける。
「なッ! なんだこれ! 動けない!」
ピピピピピピ!
「ヒッ! とっ、取ってぇ! これ取って!!」
「え? ちょ、まっ!」
「ここで一句!」
彼女さん。
彼氏を救えず――。
まとめ死ぬ。
モリピーモータス
「ロックンロォオオオオオオオオオオオオオオオオオルッッ!!」
後方で爆発が見えた。
殺意に、サンキュ。
俺に、センキュ。
おまえらに、Thank You。
「いたぃッ!(素)」
その時だった。丁度昨日キリヤ達に襲い掛かった河原。
そこでモータスの肩から火花が上がる。衝撃でモータスヴァイパーから転げ落ちたモータス、坂を転がっていき、土手に落ちる。
「モータスゥウウウッッ!!」
現われたのはスナイプだった。既にレベルツーに変わっており、ガシャコンマグナムをライフルモードからハンドガンモードに変えてモータスに突っ込んでいく。
「オレだ! モータスを見つけた!」
今までのデータからモータスが夜中に殺人を犯すことを知っていたアポロン。
犯行現場は転々としており、規則性は無いがように思えるが、一定の範囲内で行われている。
エグゼイドたちはそこに散らばり、モータスを探していた。そして今、スナイプがエンカウントしたという訳だ。
スナイプはアリアドネを発動し、散らばっているだろう他のメンバーに声を掛ける。
さらに近づいていく際に銃弾を連射。無数の弾丸がモータスに直撃し、次々と火花を上げていく。
「ブッ殺す!」
「いっづッッ! 誰だよテメェエ(素)!」
パイプから炎を吹き出し、スラスターのように加速するモータス。
一瞬でスナイプの前に迫ると、フックを仕掛けた。
「ぐッ!」
「見えてるか! 俺の
ふいうちを通してしまうスナイプ。
頭部に衝撃が走るが、歯を食いしばりバックステップ。
銃弾を連射するが、モータスもまた地面を蹴って跳躍、チェーンを伸ばして道路にあったモータスヴァイパーを絡め取ると、鎖を引き寄せてバイクを自分の眼前に着陸させる。
バイクは銃弾を防ぐ盾になるほど頑丈だ。
さらにモータスは側宙でバイクに乗り込むと、一気に発進させてスナイプを目指した。
「チッ!」【B】
スナイプは銃弾をマシンガンへ変更。近づいてくるモータスへ無数の光弾を向かわせる。
「ロック&ジャンプ!」
しかしモータスはスケートボードの如くシートの上に乗ると、文字通りバイクでキックフリップを行う。
モータス本人は空中に跳躍して銃弾を回避。一方でバイクは回転しながらスナイプに迫る。
スナイプは銃弾をバイクに打ち込むが、バイクは銃弾を弾き飛ばしながら迫り続ける。
「チッ!」
地面を転がり、なんとかバイクを回避するスナイプだが、その時だった。空中にいるモータスがサムズダウンを行ったのは。
「Rock ‘n’ Roll(特に意味は無い)」
するとバイクが独りでに急旋回。
一気に加速するとスナイプに直撃する。どうやらバイクは自動で動けるらしい。
「ぐあぁああ!」
衝撃で一気に後方へ吹き飛ぶスナイプ。
さらに吹き飛んだ事で、スナイプはモータスの背後につく。
そこまで計算していたのか、モータスはパイプから爆弾を大量に発射。
次々とスナイプの頭上から爆弾が降り注ぎ、土手に次々と爆発が起きる。
「ガアアアアァアア!!」
爆炎に揉まれ、さらに吹き飛んでいくスナイプ。
川に墜落し、大きな水しぶきが上がる。
「アンコール!」
スナイプに向けて走っていくモータス。
だがそこで光が迸り、エグゼイドとブレイブが、共にレベルツーの姿で参上する。
エナジーアイテム『召集』により、スナイプのもとにワープした二人。
一瞬で状況を把握すると、ガシャコンブレイカーの刃とガシャコンソードの刃で走ってきたモータスの胴体を切り抜ける。
「ぎゃあああ!」
バイクから滑り落ちるように土手に倒れるモータス。
一方で操縦者を失ったバイクはそのままフラフラと走っていく。
自動操縦はモータスの意思にリンクするらしく、モータスがバイクを動かせるだけの余裕がない場合は、自動操縦は無効化される。
そして、スナイプの前に光が迸る。現れたのはレーザーだった。
「だ、だ、大丈夫ですか……ッ?」
「後輩くん……!」
ふとスナイプは見てしまう。
レベルワンのレーザーはブルブル震えていた。当然か、
恐怖しない方がおかしい。
「大丈夫だ。お前は隠れてろ!」
スナイプはレーザーの肩を持つと前に出て迫るバイクを横から蹴り飛ばした。
倒れるバイク、スナイプはそこへありったけの銃弾を撃ち込んでいく。その結果、バイクは爆発し大破。
「ッ! 俺のモータスヴァイパーが!」
立ち上がり、前のめりになるモータス。
一方でエグゼイドとブレイブは並び立ち、武器を構える。
「山田太郎! 今すぐガシャットの使用をやめて警察へ行けッ!」
吼えるエグゼイドだが、モータスはポカンとした様子で首を傾げる。
「はみゅ(かわいい)? なーんで(にゃんでー?)?」
「うるさい! お前は自分がやっている事の重さが分かってんのかッ!?」
「しらねーよ(素)。殺したいヤツを殺して、何が悪いんだ?」
「貴様ァッッ!!」『コ・チーン!』
氷の剣に変えて走り出すブレイブ。
しかしその時だった。モータスが叫ぶ。
「Rock 'n' Rollッッ!!」
空間が歪み、ノイズが掛かる。
するとそこにモータスヴァイパーが出現した。
「なッ!」
そう、モータスヴァイパーは、モータスの力の一部でしかない。
つまり、何度破壊しようが、モータスが存在する以上、無限に出現するのだ。
「センキュ……!」
「グゥゥウウッッ!」
バイクに乗ったモータスは一気に加速。ブレイブに突撃すると、競り合いを始める。
なんとか盾でバイクを受け止めたブレイブ。左手に持っていた剣を右手に持ち変えると、バイクの上にいるモータスを狙う。
「ファッキックフォー! アンサープリーズベンベン(理解不能)!」
「がッ!」
だがそれよりも早くモータスは蹴りを繰り出していた。
ブレイブの頭部に入る蹴り。頭はほとんどの動物の弱点だ。それをモータスは理解しているのだろう。ブレイブの動きが鈍り、バイクを受け止める力が弱まる。
いける、と、モータス。
やばい、と、ブレイブ。きっとお互いはこう思っただろう。
だがブレイブは一人ではない。
「ワイドスラッシュ!」
エグゼイドはブレイブを飛び越えると、モータスの背中を思い切り斬りつけ――
「ファッ●」
「グハッ!」
しかし刃が届こうという所でモータスは背中のパイプから爆弾を発射。
それらはエグゼイドに直撃し、エグゼイドは爆炎に揉まれて吹き飛んでいく。
そしてモータスはアクセルグリップを強く捻った。それだけバイクの力が上がり、ブレイブは轢き倒される。
「グゥウウゥッッ!!」
自分の上をバイクが通過するのは始めての経験だった。凄まじい重量が圧し掛かり、骨と言う骨が悲鳴を上げる。
さらにタイヤが通った痕から火花が吹き出る。苦痛の声を上げるブレイブと、笑い声を放つモータス。
「ハハハ! どうした? その程度なのか!? その程度でこのモリピーモータスを倒そうとしてたのか! ナメてんじゃねぇよ糞ガキ共」
バイクが跳ねた。呆気に取られているレーザーに直撃し、はるか後方へ吹き飛ばす。
モータスは笑う。笑い、笑い、そしてバイクを旋回させて倒れているエグゼイド達を見下す。
「弱すぎるぜ、お前ら」
ゥオオン! と、バイクを吹かす。
「ナメやがって! ぶっ殺してやるッ! 石神、羽水! 囲むぞ!」
「ああッ! アイツ、ゆるさねぇ!!」
「グ……ッ! 了解した!」
地面を蹴って周囲に散る三人のマスクドライバー。
しかしバイクを発進させるモータス。やはり注目するべきはそのスピードだ。
エグゼイドとブレイブの攻撃は接近しなければ意味がない。一方、高速で、さらに小回りのきくバイクを手足のように動かすモータスは二人の接近を一切許さない。
モータスはガシャコンブレイカーやガシャコンソードのリーチ外に一瞬で移動し、自身は爆弾やチェーンを使って遠方からエグゼイド達を攻撃する。
一方で当然エグゼイドたちは飛び道具を使う。もちろんそれを主とするスナイプもだ。
しかし走行中のモータスヴァイパーは衝撃波を纏っており、並の銃弾ならば触れても逆に消滅させるようになっている。
エグゼイドとブレイブの飛び道具では歯が立たず、スナイプも攻撃を通用させるにはライフルモードを使うしかない。
しかし狙撃するには対象が早すぎる。当然ドラッグショットに切り替えるが、普通に撃てばモータスは跳躍し銃弾を回避。上を撃てばモータスは身を屈めて回避。
それだけではなく、自動操縦を駆使してスケートボードの様に巧みにバイクを動かして次々に銃弾を回避するか、受け止めてみせる。
仮に盾として使っているバイクが破壊されても、僅かな時間で復活できるので問題はないのだろう。
「もちつくす(特に意味はない)」
モータスはライフルの弾丸を簡単に回避してみせる。
連射はできぬゆえ、次の銃弾を撃つまでに少し時間が掛かる。
その間にモータスはスナイプを轢き飛ばした。
さらに空中へ舞い上がったスナイプを、モータスはチェーンでからめとり、地面に叩きつける。
「ぶっ飛ばすぜぇ! 振り落とされんなよッ!」
全力疾走。スナイプは猛スピードで引きずられ、背中からは火花が散っていった。
「ぐあぁああッ! クソガァアア!」
銃を構えるスナイプ。しかしその目に大量の爆弾が見えた。
悲鳴が聞こえる。スナイプに次々と命中していく爆弾。銃を撃ってみるが、爆弾に当たり、爆風が広がる。
「部長!」「タイガ!」
追いつけないエグゼイドたちには助ける術が無い。
エグゼイドは試しにドリフターブロックで壁を作ってみるが、モータスは構わず壁に突っ込み、レンガブロックを簡単に破壊してみせる。
ブレイブは氷の力でモータスを止めようと思ったが、モータスは冷気よりも早く動くので意味は無い。
「Rock 'n' Rollッッ!!」
「ぐあぁああ!」
スナイプを投げ飛ばし、エグゼイドにぶつける。
「ソニックブーム!」
バイクを急旋回させると、衝撃波が発生し、エグゼイド、ブレイブ、スナイプの体から火花を散らせ、吹き飛ばす。
手も足も出ないとはこの事だった。
かつてない程の悔しさが所有者達に宿る。正直言って、レベルツーであれば余裕だと思っていたが、全く動きを捉える事ができない。
許せない殺人鬼に負けている。それがエグゼイド達の心に重く圧し掛かる。
「ハハハハ! 素晴らしい力だぜ、やっぱりこれは!」
モータスは自分の体を触り、笑い声を上げる。
「まさに神の力だ! Rock 'n' Rollだぜ!」
山田太郎と言う男は弱かった。
モータスは自分の事を語っていく。かつての山田は普通に生きていた。いや――、少し違うか。
普通にしか生きられなかった。夢も無い、ただ日々を盲目的に生きていくだけだ。部活も補欠、成績は可もなく不可もなく。
特技は無い。趣味は才能がないと諦めた。
そして社会に出れば所謂ブラック企業に就職してしまう。
パワハラだのモラハラだのは日常茶飯事。休みもないし、恋人も出来ない。
「俺は弱かった! 弱者として生きていた!」
だが今は違うと、吼える。
「これは俺の才能だ! 紛れもない俺を俺たらしめる力!」
世界はモータスを讃えるだろう。
「黙れ! あんな酷い事をして、お前は何を言ってるんだッッ!!」
「酷い? 何が!?」
「人を傷つける事に決まってるだろ!!」
「そこだよ! そこそこそこそこォオ! そこが分かってないんだよ!」
モータスは両手を広げて自分の存在をアピールする。
「俺はもはや、人の器には縛られない!」
「ッ! なんだと……?」
「俺は人よりも優れた存在なんだよ! カスみたいな人間じゃねぇ! イエス! アイムア、モリピーモータス!」
人を超越した力を持つことの意味。
それは人の器を脱する事だ。経験した事のない高揚感。自らが人間であることを忘れさせてくれるが故のリアル。
そして、モータスはエグゼイド達を強く、強く、指差した。
「偽善者ぶるのは止めようぜ? この力はお前らと同じだろうに!」
「ッ!?」
「そう、そうさ! 俺の力はお前らと同質だろうがァ!」
光が迸る。
モータスは変身を解除した。
赤いモヒカンに棘付きの肩パッド。
山田太郎は白塗りにした顔で、黒に染めた唇でニヤリと笑う。
「あれは!」
ブレイブが一番初めに見つける。
モータスが掲げたガシャット。つまりヴィランのガシャットの絵柄は見たことのあるものだったからだ。
「!!」
一番の衝撃を受けたのはフラフラと立ち上がったレーザーだった。
そう、山田が持っていたのは爆走バイクのガシャットである。イラストは白黒だが、それは紛れもない『レーザー』と同質の力である事を証明している。
「ドライバーを使えば、マスクドライバーに。そのまま使えば、ヴィランに。ガシャットの違いはそれだけ。アーユーRock 'n' Roll?」
何も違わない。
見た目だけ。力の本質は同じ。力の性質は同じ。
つまり、憎悪を込めれば、エグゼイドたちもまた……。
「なあ、お前らもコッチに来いよ? 一緒にRock 'n' Rollしようぜ?」
「……!」
「いや、違う。いずれお前らもコッチに来るんだ。俺だって最初はお前らみたいに『普通』の思考だったぜ」
人を殺す事はよくない事だ。
人の世に、人が定めたルールに従う事こそが正しいのだと。
「だが気づいた。そんな糞みたいなルールに縛られる器じゃねーんだよ、俺達は」
簡単に思い出せる。
下げたくもない頭を下げ、お上の悪口にも必死に耐えてきた。
しかし気づいた。テレビ見たあのアイドルたち。はじめはファンだったが、ふと気づく。
彼女達は笑って遊んでいるような仕事で、自分よりもはるかに多いお金をもらえる。
不公平――、とは思わない。向こうにもいろいろ事情があるんだろう。苦労があるんだろう。
だが気づいた、思った、これならば、俺のほうが魅力的なんじゃないか?
世界は俺を、愛してくれるべきなんじゃないか?
そうだ、俺ならただ飯を食って金をもらってるだけのアイツ等よりもはるかに派手な事ができる。
俺は何を狭い世界で苦しんでいるんだ?
「人間はフリーダムな生き方に憧れるものさ。殺したいヤツは殺したい。野生の本能さ」
だから殺す。だから謳う。そうやって人々はやがてモータスを讃えるだろう。
モータス様のように生きたいと崇めることになるだろう。
なぜか? それが人の本質だからだ。それが仮面を外した『人』の中身だからだ。
なぜ? アイドル達はアイドルとして形成されるのか?
それは即ち、その生き方に無いものを欲する事、憧れを抱く事によるものだ。
であれば、いずれ人はモータスの信者になる。
なぜならばこの世界には逆らえない秩序があるからだ。そして人は日々、平等を訴える。
これは矛盾していないか? 憧れと平等は共存できない。ゆえに、いつか一つが崩れる。
モータスは、山田は既に察したのだ。だからこそ力を持つ自分が先に世界の形態をつくる。
「それが俺様の、
センキュ……。
「それに俺は弱者の事も考えている。まだ弱い世界に閉じ込められている者達を敬っている」
それこそがこの殺人連鎖。
「いいか! ヴィランの役割は、ミューズを応援する事だ」
だからこそ殺す。
なぜならば、ミューズは視聴者に希望を与える存在だからだ。
「アイドルが希望をくれるなら、相応の絶望があってこそ成り立つものだろ?」
相互関係。助け合いの精神。
闇があるから光はより綺麗に見える。世界中の石が全てダイアモンドなら、ダイアに価値はなくなる。
世界中が希望で染まれば、希望の価値はなくなるのだ。
「それはいけねぇ。俺はアイドルが好きだった。だからこそ、優しくしてあげるのさ」
ミューズを応援するという事。それがモータスの使命である事にはかわりない。
その応援こそが人を殺す事。世界が悲しみで満たされれば、その悲しみをごまかしてくれる偶像はより大きな存在へと昇華する。
そしてやがて人はその絶望が絶望ではなく、本能の行く先である事を察するだろう。
この世はフェイクに囲まれている。アイドルこそがその最もたる存在なのだから、これは皮肉が利いている筈だ。
「俺は世界から見たらまだバグってんだろ?」
だが違う。分かる。特に、モータスと『同じ』マスクドライバーならば。
「俺はバグったスターだ。人にショックを与え、希望を膨れ上げる救世主ッッ!」
Yes! I'm a Perfect SHOCKER(パクリ)
「僕ァ、
殺す事でミューズを応援する。そしてやがてその行為に憧れる信者が現われるだろう。
そしてふとモータスが口にした『僕』と言う一人称。
そこに一瞬だけ、かつてのモータスを見た。
「俺を殺してみろ、マスクドライバー共!」
「違う……」
誰もが仮面の奥で青ざめる中、一番最初に口を開いたのは今まで怯え震えていたレーザーだった。
無理もないか。爆走バイク。自分と同じも同じなのだから。
「ボクは――ッ! ボクは!!」『ガッチャーン!』『レベルアーップ!』
装甲が弾け飛んだ。
今回は状況が状況だ。我李奈の手によって既にロックは解除されている。
『バクソウ!』
『ドクソウ!』
『ゲキソウ!』
『ボウソウ!』
『爆走バァイク!』
再び目を疑う一同。
現われたのは人ではなく、『バイク』だった。
「マジかよ……!」
マスクドライバーレーザー、レベルツー。それはバイクになる事である。
しかしよく見ればバイクの先、所謂ライトがある場所には顔がついており、さらには独りでに動く事ができるのか、エンジン音をかき鳴らしてレーザーはモータスに向かう。
「ヒャッハーッ! 面白れぇ! ついてきな、このピーナッツボーイ!」
モータスヴァイパーを走らせるモータス。
「ッ! おい止めろ後輩ッ!」
スナイプはアンカーとチェーンを発射。レーザーのハンドルに設置するとすぐに引き寄せるようにして跳んだ。
そしてシートの上に座ると、レーザーを止めようとハンドルを握った。
だがしかし、アクセルグリップがビクリともしない。ましてやブレーキも、ハンドルも、全てが固定されているように硬かった。
「ボクは――、ボクは……!」
「おいッ! 後輩!」
どうやら聞こえていないようだ。
焦り、恐怖、焦燥。レーザーは自らの意思で『搭乗者』を拒む事ができる。
それを今、無意識に行っているのだろう。ハンドルをロックし、シートを震わせてスナイプを振り落とす。
そもそもレーザーにはスナイプを乗せていると言う感覚すらなかった。
あるのはただ――、絶大な恐怖だけ。
「――ッ」
追いつけない。どれだけスピードを上げようとレーザーはモータスの背中を見るだけ。
そしてその背中から次々に爆弾が発射された。レーザーは避けようとするが、無理だ。次々に爆風が体を焦がし、爆弾も直撃していく。
その中で記憶が、光景がフラッシュバックしていく。まるで走馬灯だ。そして思い出されるのは、クロトから爆走バイクのガシャットを受け取った日の夜。
『………』
あの夜。キリヤは思った。
思ってしまった。
『この力があれば――……!』
きっと、ニヤリと笑っていたはずだ。
一瞬、それは妄想だった。妄想でよかった。
だが思ってしまったのだ。もしもこの力が現実で使えれば、ボクを苛めていた奴らに復讐できるのではないか――、と。
「―――」
気づけば、レーザーは地面に倒れていた。
そしてレーザーを踏みつけるモータス。チェーンを何度も打ちつけ、なんども踏みつける。
「雑魚ッ! 雑魚ッ!! 雑魚ガァアアアアアアッ!!」
ゲージがゼロに近づく。
もしも変身が解除されれば、レーザーは、キリヤは、殺されるだろう。
だが、それでもいいと、どこかで思ってしまった。だって、生き残るということは――。
「キリヤくんッ!!」
その時だった。黄色い光に包まれたエグゼイドがモータスをタックルで吹き飛ばす。
「おぉ!? よく追いついたな!」
吹き飛んだモータスはそのまま鎖を伸ばし、バイクを掴むと、そのまま引き寄せてシートに座る。
「モータス……ッ!」
確かに、普通ならばエグゼイドにレーザー達を追いかける術は無かった。
しかしエナジーアイテム『スピードアップ』を使えば別だ。スピードが上がったエグゼイドは全力疾走で二人に追いついたという訳だ。
「来いよ! エグゼイド! フハハッ! フハハハハハ!!」
走るモータス。走るエグゼイド。
しかし追いつけない。スピードアップではモータスヴァイパーのフルスピードに届かない。
負けるのか。レベルツーですら勝てないのか。エグゼイドは仮面の奥で歯を食いしばる。
待てよ。
逃げるのか。
人を殺したんだろう?
なのに逃げるのか?
待てよ。
おい、待てったら。
待てよ。おいッ、モータス――ッ、お前――ッッ!
殺すぞ
「あ」
スピードアップの効果が消える。
モータスの背中がより離れていく。だがそこで、モータスの背ではなく腹が、顔が見えた。
「じゃあな、糞ザコが!」
モータスは旋回し、一気にスピードアップ。
気づいた時にはもう遅い。エグゼイドは戻って来たモータスに轢き飛ばされ、きりもみ状に吹き飛ぶ。
視界が二転三転し、エグゼイドは地面に叩きつけられる。
意識が朦朧とする。かろうじてライダーゲージが残っているため、変身は解除されないが、モータスは既に走り去り、背中は小さい。
「モータスカメラ! カモンヌ!」
ドローンがモータスヴァイパーについて来る。
モータスはそこにあるカメラを指差し、一つ、宣言する。
「ラブライブ。アライズは消えろ」
知ってるぜ。あまりにも大きなダイヤがあれば、他のダイヤの価値は消えてしまう。
そう、世の奥様が涎を垂らして欲しがるダイヤですら、大小が存在すれば比較と優劣が生まれる。
そうすれば、小さいダイヤはただの石ころになる可能性があるのだ。
「もしもアライズがこのままラブライブに存在し続けるのなら、一日10人殺す」
希望にも下克上が必要だ。
私達でも上を目指せるかもしれない。それが、『アイドル』を見る者が得る感情の本質だろう?
そうすればより希望は大きくなる。
そして、与えなければならない絶望もまた、それだけ。
「君の名は(唐突)」
間違えました。
「シン・ゴジラ(意味無し)」
ノンノン。アイム、Rock 'n' Roll。
「カモンッ! 俺の名は、モリピーモータスッッ!!」
センキュ……
翌日の事だった。
絶対王者と呼ばれていたアライズが、ラブライブを棄権すると言う発表を出したのは。
【……See you Next game】
【次回予告】
次回、マスクドライバーエグゼイドは!
【暴走する悪意】
「離せよ――」「殺すぞ」
「悪意が膨れていくのが……、分かる――ッ」
「その内に見るもの全てを消し去りたくなるんじゃないかと、怖くなる……!」
「星空凛を殺す。それが俺の、Rock 'n' Rollだ」
【偶像が得る希望とは何か?】
「アイドルが人を幸せにしてくれるなら――」
「アンタのせいでお祖母ちゃんが死んだんだよッ!!」
「リンは……、嫌いな人のために頑張らないといけないの?」
「するわよ。ライブ。それが私達の戦いよ」
「ありがとうございます。良い歌詞が浮かんできました」
「なんかッ、降りてきたかも! メロディ!」
【正義の価値は――!?】
「まだ終わってない。まだ終わってないよな?」
「変わりたいッ! 弱いままなんて――ッ! イヤだッッ!」
「おれを――ッ! おれ達を信じろ!!」
「ウイニングランを決めるのは!」「ボク達だッッ!」
【次回 第7話・ライバーライダーによろしく!】