ポケモンでホラーやってみたかった   作:歩く好奇心

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始まりの3人

 

 

 ある森の中、一人の女性が道を歩く。

 

 

女性「何なんですのよッ。

  全くッ。

  ホントにッ。

 

  なにが家名に恥を欠かせるなですかッ。

  片腹痛いッ」

 

 

 その足取りに迷いはなく、

 ずんずんといった歩調で突き進んでいた。

 

 しかし、靴はヒールである。

 草木の生い茂った道を歩くには適していなかった。

 

 

女性「全く、父上も母様上も身勝手極まりありませんわッ。

 

   恥を知らない腰巾着がわたくしに説教だなんてッ」

 

緑色の生物「……ダネダネ」  

 

 

 怒る彼女を宥めているのか。

 相槌をうったような声が彼女の隣から発せられる。

 

 一匹の四足の生物が彼女の隣を歩いていた。

 

 フシギダネと呼ばれる生物である。

 

 小さな体躯であり、その背中には緑色の蕾を背負っている。

 また、皮膚は緑色で、その体皮はトカゲのような鱗であった。

 

 

女性「フシギダネッ。貴方もそう思いませんこと?

 

  貴族たる気品が微塵も見受けられないあの降るまいはどうでしょう。

 

  我が父のことでありますが嘆かわしいことですわ」

 

フシギダネ「……ダネー」

 

女性「そうでしょうッ?

 

 賢い貴方なら必ずやわたくしの気持ちに同意すると

 信じておりましたわ。

 

 フシギダネ。

 貴方もわたくしのポケモンであるなら、貴族たるわたくしに相応しい、余裕ある態度が求められまして

 よ?」

 

 

 そして、彼女は目を怒らせては身内の不満を口にだす。

 

 脳裏に過るのは、へこへこと頭を下げては相手の機嫌を伺う父の姿。

 

 彼女の顔は憤懣やる方ないといった感じに熱が集まっていた。

 

 

 加えて、父とは別に一人の男の顔が浮かんだ。

 

 

女性「あんな肥え太って畜生がわたくしの婿方だなんてッ。

 

 

   あり得ませんッ。

 

   わたくしの伴侶にはもっと高貴で上品で、そして凛々しい殿方でなくてはなりませんわ。」

 

フシギダネ「ダネー」

 

 

 鮮明に浮かぶ男の顔。

 

 ブクブクと脂肪を頬に張り付けては、

 伝染病にでもかかったのかと疑いたくなるブツブツ皮膚を顔に覆ったような容貌である。

 

 彼は彼女のお見合い相手であった。

 

 つい先ほどまでは、机を挟んで紅茶をすずっていた人物。

 タコができるほど鬱陶しい自慢話がメロディーとして耳に残っている。

 

 

女性「……~~~~~ッ!

 

   あぁぁぁぁぁぁぁ、もう!!!!!!」

 

フシギダネ「……ダ、ダネ~………」

 

 

 思いの丈を吐き出すかのように黒色の肩まで伸びるその髪をかきむしった。

 

 髪が乱れ、ハァハァと肩を動かし粗い呼吸が続く。

 

 

 虫酸が走る。

 見合いの男。親。縁談。

 思考に浮かぶ単語はそれらばかり。

 

 胸中にはどうしようもない程の苛立ちが募った。

 

 顔を上げると顎先から玉のような汗粒が垂れた。

 

 その不快な感触を払うように森の散歩には全く適さない黒を基調としたドレスを翻す。

 

 

女性「うぅ、暑い……

  焼けたオーブンにでも歩いてるのでしょうか。

 

  ……この時季に黒のドレスは失敗しましたわね。

 

  汗で張り付いて全身が痒くて仕方ないですわ。」

 

 

 季節は夏。

 

 ゴスロリ調なフリフリした飾りが目立つその服装において、その内側では滝のような汗が流れている。

 

 ギラギラと照りつける太陽が煩わしくて仕方がない。

 

 

女性「焼けてお肌に染みになったらどうしてくれますのよッ。

 

   雪のようなお肌が台無しじゃないですの。

 

 

   ……ハァッ。

 

   何故こんなにもわたくしの身の回りには、わたくしを苛立たせるものばかりあるのでしょうか」

 

 

 絵本では大概、気のいいおじさんの笑顔ように表現される太陽だが、

 今はその笑顔がこちらを見下しては偉ぶる高利貸しのように感じる。

 

 

女性「……こんな森の中にまで来てしまいましたが、わたくし、どうしましょうか。」

 

 

 町に戻るという選択肢はない。無性に戻りたくない気持ちで一杯であった。

 

 親の都合で選ばれた婿方の顔が目に浮かぶ。

 

 今再び彼に会えば、縁談の話が進んでしまいそうな気がした。

 

 

女性「……………」

 

フシギダネ「ダネダネ」

 

 

 フシギダネが何か言っていた。

 

 どうしたのだろうか。

 

 フシギダネの呼び掛けに応えるよう、虚ろな瞳を前に向けた。

 

 道の奥を見る。

 

 道は一応整備された様子である。

 

 しかし、木製の柵が道なりに張られているだけ。

 加えて、何年も手がつけられていないのか、かなり老朽化している。

 

 

女性「……あら?」

 

 

 目を擦ってはもう一度目を凝らす。

 

 目に捉えたのは荷車の後ろ姿。彼女からずいぶん離れた所にあるが確かに荷車である。

 

 その荷車は動く様子はない。

 

 彼女は何故か不審に思い、その荷車へと近寄った。

 

 そして、荷車の側面が、前面が目に入る。

 

 

 

 

 

 

女性「……な、何なんのですのよ………これ……」

 

 

 

 

 顔面から血の気がひく。

 

 瞳が捉えた光景に、背筋には北風がふぶいたような悪寒が走った。

 

 

 

 

 眼前には不自然な荷車が一つ。

 

 人もいなければ、荷車を引っ張る生物すらいない。

 

 

 そして、

 

 荷車は荷車としての機能を果していなかった。

 

 何をしたらこうなるのか。

 凄まじい力でえぐりとられたように荷車は潰されている。

 

 何か残っていないのかと探して見れば、残っているのは荷物であったでろう調度品や金目の割れ物。

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

 

 かつて人間であったであろうと察せられる、血塗れで散乱した肉塊のみであったのだ。

 

 

 

 

 

…………………

 

 

 二人の男女が森へ続く。

 彼らは調査隊隊員である。

 とある目的のためこの森の地形や生態調査を行っていた。

 

 

女性2「ねぇ、トツカ。

 

 何だか森が随分静かな気がするんだけど」

 

トツカ「そうだな。

 

 かぁかぁとうるさいオニスズメ一匹見当たらない」

 

 

 ミノオの森。

 

 森という名がつけられているが、もはや樹海といっても過言ではない。

 樹木がそびえ立ち、幾重にも枝や葉が重なって空は薄暗い闇に覆われていた。

 

 そして、生物の気配が彼の耳にはまるで聞こえてこなかった。

 

 以前の調査で立ち入った際は、このようなことはなかった。

 隣を歩く彼女のいう通り、トツカもまた得体の知れない違和感を感じていた。

 

 

女性2「……それって、例のアレと関係あるの?」

 

トツカ「どうだかな。

 

 これまでの調査報告じゃ、そんな予兆があるだなんて聞いたことがない」

 

女2「でも、この静けさは少しおかしくない?

 

 例のアレが上位個体の仕業だとしたらさ、この異変も

 合点がいくと思うんだけど」

 

トツカ「……確かにそうだな。

 

 強力な個体がいるのかもしれない。

 

 あいつらもそいつに襲われた可能性だってありうる」

 

 

 調査隊員の総数は7人。

 その内の5人とは今現在、連絡が途絶えている状態であった。

 

女2「ちょ、ちょっと止めてよッ。

 そんな不吉なこと言わないでよね。

 もしホントにそうなったらどうすんのよッ」

 

 

 トツカの前方にはブラッキーと呼ばれる生物が先導している。

 

 ウサギのような耳に犬のような体躯をした生物。

 黒を基調とした体毛に、大きな黄色の輪っか模様が点々とついていた。

 

 ポケットモンスター。通称ポケモン。

 

 ブラッキーはその生物に枠組みされる。

 先のフシギダネも同様である。

 

 ポケモンとは総称であり、またその中でも様々な種族がある。

 

 モンスターボールと呼ばれる人間の開発した道具により、従順に支配されることからこのような名前がつけられた。

 

 

 そして、ブラッキーはトツカを主として付き従っていた。

 

 ブラッキーはクンクンと地面を嗅ぎ、辺りいったいを索敵する。

 

 

ブラッキー「この辺りに害敵のいる気配はしないブラ。」

 

 ポケモンは知能指数が高い。

 知能において個体差は大きく、人語を解するものもいれば、いないものもいる。

 

 現在のところ、人と共存するポケモンは高い確率で人語を話すようになることが確認されていた。

 

 

女性2「……そ、そっか」

 

 

 ブラッキーの言葉にホッと安堵する女性2。

 

 よかった。

 

 彼女はそう口にしようとした。

 

 しかし。

 

 続いて発せられたブラッキーの言葉により途中で区切られる形となる。

 

ブラッキー「でも、遠くからおびただしい血の匂いがす

      るブラ」

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

ブラッキー「コヨミ?

     

     だ、大丈夫かブラ?」

 

 

 ブラッキーの気遣わしげな声がコヨミと呼ばれた女性の耳に届く。

 

 しかし、彼女は反応しなかった。

 

 

 

 ブラッキーの物騒な発言から数刻が経ち、トツカと女性2の2人は森の奥へと進んでいた。

 

 

 そして。

 

 トツカと共に森の調査を続け、コヨミと呼ばれた女性2は目の前の光景に愕然としていた。

 

 

コヨミ「な……何なのよッ……これ」

 

 

 頭が真っ白になる。

 予期しない出来事に何をどうしたらいいかわからない。

 

 コヨミは何かを求めるように視線を横に向けた。

 隣にはトツカがいる。

 

 しかしトツカは一言も発することがなかった。

 

 そして彼は前に歩を進めるとしゃがみ、黙々と何かを調べている。

 

 

コヨミ「た、トツカ!? アンタ何してんのよ!!」

 

タケル「見て判らないか。

    

   調査に決まっているだろう」

 

 

コヨミ「ちょ、調査ってアンタ……」

 

 

 トツカの無感情な声質に驚きを隠せなかった。

 背筋から込み上げる震えを誤魔化すように声を荒げた。

 

コヨミ「盗賊みたく仲間の死体を漁ることが調査って言

   うのッ!?」

 

 

 トツカの手にはめた手袋は赤く染まっている。

 

 コヨミの瞳が捉えたのは5つの死体であった。

 

 凄まじい血臭。

 

 そして季節が夏であることも手伝ってか、腐敗も進んでおり強烈な死臭も発散している。

 

 

 

 場の淀んだ空気に当てられる。

 

 コヨミは正気を保っていられる自信がなかった。

 

 

トツカ「死体の状況を調べなければ状況把握ができない。

 

 それに見たところポケモンに襲われた可能性が高いとみえる。

 

 ポケモンは基本的に危険な害的生物であることはわかりきっているはずだ。

 

 これは特段珍しいことではないはずだが」

 

 

コヨミ「私はそんなこと言ってるんじゃないわよ‼

 

 仲間がッ、友達が殺されたのよ!?

 皆殺されたのよ!?

 こんな時に死体漁りなんてやめなさいよ‼」

 

 

 埒があかないとばかりにトツカはため息をついた。

 コヨミのヒステリックな声を無視し、死体の調査を続行する。

 

 

 5つの死体は全て虫食い状態であった。

 頭部も含めて全身が多数食い千切られている。

 ぱっと見では判別がつかない状態だ。

 

 

 しかし、すぐにわかることがあった。

 

 

 

トツカ「おい……」

 

コヨミ「何よッ。うるさいわね…… 

 

 友達が殺されたってのに澄ました顔しちゃってさッ」

 

 

 コヨミはトツカを皮肉げに睨むが、トツカは静かにそれを見返すだけ。

 

 コヨミは鼻を鳴らした。

 

 

コヨミ「……ハッ……何だってのよ。

 

 ……アンタそれでかっこつけてるつもりなの?」

 

 

タケル「俺は責務を果たしているだけだ。

 

   お前もさっさと勤めを果たせ」

 

 

コヨミ「ハッ。何よそれ。

 

 アンタってさ、前々から周りから冷静で落ち着いてる

 とか、有能とか言われてたけど、

 実際何も生産的なこと言わないよね」

 

 

 コヨミは大袈裟に肩を竦めてため息をはいて見せる。

 

 

コヨミ「あーあ……何か幻滅。

 

 ……何かさ、ただの根暗な男っつうか。

 

 こんな時でもヤなことしか言えない口しか持ってないみたいだし。

 

 暗い男とか気持ち悪いだけなんだけど」

 

 

トツカ「俺はお前の評価など聞いていない」

 

 

 険悪な空気が場に漂った。

 

 コヨミはただひたすらにトツカの瞳を凝視する。

 

 その瞳の色はトツカに対する敵意で染まっていた。

 

 

 

ブラッキー「ま、まあまあ2人とも。

 

     ここは一旦落ち着くブラ…」

 

 

 ピリピリした険のある雰囲気に居たたまれなくなったブラッキーは宥めるように声をかけた。

 

 

 しかし。

 

 

コヨミ「アンタは黙っててよッ」

 

ブラッキー「ひ、ひぃッ」

 

 

 その宥めるような声がコヨミは気に入らなかった。 

 

 荒げた声で叱りつけると、ブラッキーはすっかりすく

み上がり、下を俯いた。

 

 

 そんなブラッキーをコヨミはフンッと鼻を鳴らして視界の外に置き、再びトツカへとにらみつける。

 

 

 脳に燻る苛立ちのままに、罵詈雑言を叩きつけてやろうか。

 

 コヨミは口を開いた。

 

 

 その時。

 

 

 

 

トツカ「死んだと思われた調査員浜田アケミ及び石田ショウコはまだ生存している可能性がある」

 

 

 

 トツカのその一言にコヨミは声を失った。

 

 

 浜田アケミ、石田ショウコ。

 

 その二人はコヨミの同僚であり友人である。

 

 

コヨミ「ど、どういうことッ!?

 だって、皆、そこに、死んでッ……」

 

 

 眼前に転がる5つの死体。

 現在、消息不明の仲間の数に一致している。

 

 そして、見慣れた顔触れも地面に横たわっていた。

 

 損傷が激しいが確かにそこに転がっている死体はかつての仲間であった。

 

 

トツカ「確かに仲間は殺されている。

   

   しかし全員ではない。

 

   グループメンバーである田中ユウジ、八幡ケン

   タ、園崎ユウコの死体は確認できる。

 

   しかし、浜田アケミ、石田ショウコの死体は確認

   できない。

 

   モンスターによる捕食と腐敗による損傷が激しく

   てわかりづらいが、

   内2人はどうやら村人の女のようだ」

 

 

コヨミ「村の女!?

   な、何で村の人がここにいんのよ」

 

 

トツカ「恐らく案内人であろう。

 

    調査内容にもあったとおり、被害状況を確認す

    るためにも、村人の協力は必要不可欠だから

    な」

 

 

コヨミ「……普通そういうのって男がやるもんじゃない

    の?

 

    こんな危険な場所を女の子に案内させるとか。

    ……マジあり得ないんだけど」

 

 

トツカ「さあな」

 

 

 コヨミは不満を口にするのも束の間。

 友達がまだ生きていると知った。

 もはや居ても立ってもいられない。

 

 

コヨミ「だ、だったらこんなところで道草くってる場合じゃないじゃない‼

 

 早くアケミ達探さないと殺されちゃうよ‼」

 

 

トツカ「そんなことはわかっている。

 だが、こいつらを襲ったモンスターは強力な個体と予測される。

 

 今の俺たちのパーティで無闇に探し回るのは危険だ」

 

コヨミ「だからッ、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないって言ってるでしょう!

 

 アケミ達の命が掛かってッ……」

 

 

 

???「ひッ人殺しィィィィィィ」

 

 

 

 

 え?

 

 

 コヨミは突如聞こえた悲鳴に言葉が詰まった。

 

 声のした方を見れば、遠方へと走っていく人影が目に入った。

 

 

 人殺し?

 

 え?え?と突如降ってわいた事態に挙動不審になるコヨミ。

 

 

トツカ「追いかけるぞ」

 

 

 傍にいたトツカは短くそう言って、ブラッキーとともに人影をとらえるべく走り出した。

 

 

コヨミ「は、はあ!?

 な、何でよッ、アケミ達はッ!?

 アケミ達の方が優先じゃないの!?」

 

トツカ「その浜田アケミ達は今どこにいる?」

 

 

 振り替えってそう静かに返すとトツカは走り去っていってしまった。

 

 

 ぽつんと取り残されるコヨミ。

 

 

 もやもやした感情が胸中に疼く。

 そして、彼を追おうと足を踏み出す。

 

 しかし。

 

 アケミ達は?

 

 コヨミの踏み出した足が止まる。

 

 

コヨミ「~~~ッ。

 

   あ"ぁぁぁぁぁぁッ、もう!!

 

 アケミッ、ショウコッ……私は……」

 

 

 コヨミは頭をかきむしって天を仰いだ。

 

 茶髪の肩までのびるツインテールが振り乱れる。

 

 

 しかし、取り乱すも束の間。

 

 揺れ動くコヨミの視界に異物が入った。

 

 

 

コヨミ「えっ」

 

 

 視線が絡み合う。

 

 天を仰いだコヨミの視線のはるか先。

 

 そびえ立つ樹木から派生する枝の間。

 

 そこには絡み合う視線の主がいた。

 

 

 

 アリアドス。

 

 

 蜘蛛に類似した形態を持ち、赤を基調とした警戒色を彩っている。

 

 その生物は蜘蛛の巣状に張った網に四本の鋭い足を絡ませ、不気味な視線でこちらを睨んでいた。

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

 ブラッキーは標的を捕らえるべく、トツカを先行するように地を駆け抜ける。

 

 標的は速いどころかのろまと言っていい速度である。

 

 

 すぐに追い付くであろう。

 

 そう思っていた。

 

 

 しかし。

 

 

 

???「フシギダネッ。ヤドリギのタネを撒きなさいッ。

 

  あの賊供を近づけてはなりませんわよッ」

 

 

フシギダネ「ダネッ」

 

 

 前方を走る人影の隣を走行していたフシギダネ。

 

 突如前足をこちらへと方向を転換。

 

 そして背に背負う大きな蕾をこちらに向けて数発の種を射出した。

 

 

ブラッキー「ブラッ!?」

 

 

 でこぼこな地面から突如に大量のツルが伸びだし、駆け抜けようとするブラッキーの足を絡めとった。

 

 とっさの出来事にブラッキーの思考が混乱する。

 

 しかしそんなことは関係ないとばかりにツルはどんどん複雑に絡み合い、伸びだし続ける。

 

 これは不味い。

 

 ブラッキーは高速移動による脚力に任せ、ツルを引きちぎる。

 

 

ブラッキー「うわッ」

 

 

 全力を絞るも多少引きちぎった程度で終わる。

 

 更なるツルが次次とブラッキーを絡めとった。

 

 

トツカ「ブラッキー、静まれッ」

 

 

 主の声に動きをピタリと止める。

 

 そしてトツカが後方から駆け寄ると、手持ちのナイフでブラッキーの体に絡み付くツルを削ぎ落とした。

 

 

ブラッキー「まさか、ヤドリギのタネをあんな使い方をするとは。

 

 草系生物お得意のただ飯食らいの技だと思ってたブラよ」

 

 

トツカ「あのツルの成長速度は恐ろしいものだ」

 

 

 

 再び追跡を続行するトツカとブラッキー。

 

 

 途中の足止めによりかなりの距離を稼がれたと思いきや、標的の逃げた先は行き止まりであった。

 

 正確には、地に盛り上がった木々の巨大な根が複雑に絡み合い、袋小路のようになっていた。

 

 よじ登って通ることは可能であろう。

 

 しかし、標的はゴスロリ調なドレスにヒールといった運動には全く適さない服装であった。

 また、体つきからしても鍛えられた様子はなく、見える手足は細い。

 

 運動が得意という訳ではなさそうだ。

 

 

 しかし。

 

 

???「フシギダネ、はっぱカッター!!」

 

 

フシギダネ「ダネフシャーッ」

 

 

 圧のこもった命令に呼応するように、フシギダネの蕾から数多の葉っぱが射出された。

 

 それを避けるべく、ブラッキーは地から盛り上がる根の影に隠れた。

 

 カカッと音が鳴った。

 

 盾となる根に切れ味のもった葉が当たったのである。

 

 

トツカ「キミ。少し落ち着いてもらえないか?

 

 私達はキミに危害を加えるつもりはない。

 

 ただ話が聞きたいんだ」

 

 

 トツカは調査員の立場として口調を改めて声をかける。

 

 しかし、標的は興奮が冷めないのか。警戒色の厳しい声音が発せられる。

 

 

???「お黙りなさいッ。山賊が。

 

 落ち着いた口調で話せばわかってもらえるとお思いですか?

 浅ましい浅知恵ですわね。

 

 殺した獲物から物色する様子はしかとこの目に焼き付けましてよッ」

 

 

トツカ「いえ。あそこで殺された者は内の同僚達でして。

 

 事件解明のため、調査していたのです」

 

 

???「ハッ。つまり金品を巡っての仲間割れですか。

 

  何処まで愚かしいですわね、賊というものは。

 

  そのような出任せでこの私が言いくるめられるとでも!?

 

  嘗めないでくださいなッ。

 

  無抵抗でおめおめと俗物に屈するわたくしではありませんのよッ」

 

 

ブラッキー「……聞く耳持たないブラね」

 

 

 そう言って苦笑いするブラッキーは、横目でトツカの様子を伺った。

 

 舌打ちし、その表情は不快を示していた。

 

 想像通りの反応にブラッキーは「……ハハハ」と乾いた笑いを漏らした。

 

 

 

 自分達は調査員である。

 

 危険地帯に迷いこんだ者を保護することはあるが、義務というわけではなかった。

 

 コヨミがいれば「もうほっとこうよ」と投げ出すだろう。

 トツカもそうしたいはずだ。

 

 

 

 しかし。

 

 目の前の彼女は、自分達の依頼内容に関わる重要な手掛かりを残している可能性がある。

 

 ここでみすみす逃す訳にはいかなかった。

 

 

 また、その身にまとう服装からしても彼女は貴族階級の者。

 貴族にも大小様々な階級があるため、その階級がわからない以上は下手な扱いはできないという現状でもあった。

 

 

 

ブラッキー「どうするブラか?

 

 さっきのはっぱカッターを見る限りそこまで強くはないと見るブラ。

 

 早いとこ気絶でもさせて決着つけるブラ?」

 

 

トツカ「ああ、そうだな。

 

  これ以上は時間の無駄だ。

 

  電光石火で速攻で決めろ」

 

 

 トツカの命令に呼応するかのように、ブラッキーは瞬時に地を駆け出す。

 

 

 

 

 

???「誰の断りを得て近づくことを許したのですッ。

 

 フシギダネ、どくの粉を吹きかけなさいッ」

 

 

フシギダネ「フシャーッ」

 

 

 ブラッキーの接近を察したのか、即座に近づけしまいと命令を下す標的。

 

 

 フシギダネの蕾から毒々しい怪しい色の伴うりん粉が射出された。

 

 

ブラッキー「いいッ!?」

 

 

 多量のりん粉が振りかかる直前。

 直ぐ様危険を察知してブレーキをかけたブラッキーは、元の根の影へと駆け戻った。

 

 

トツカ「どういった種類の毒素かはわからんが、もうじきここも危ないだろうな」

 

 

ブラッキー「た、たしかにそうだけどッ。

 

     あの子不味くないかブラ!?

 

     こんな袋小路のところで毒を振り撒いたらあの子もやられるブラよッ」

 

 

トツカ「わかっている。

   

   そもそも傍で毒を発生させること事態危険な行為だ。

 

 一応こちらに向けて射出してるが、あまり意味がない。

 

 すぐにでも向こうにも粉が漂っていくだろうな」

 

 

 ブラッキーはトツカの言葉を聞くうちに冷や汗を流し始めた。

 

 相手は貴族。

 

 ここで下手に死なれたら、ポケモンである自分も後々どうなるかがわからない。

 

 長年、人間社会で育ったブラッキーは、貴族という立場がどういう意味をもつものなのか、身に染めて理解していた。

 

 

 

トツカ「あの高飛車女も自分の悪運にかけることだな」

 

 

 トツカはブラッキーに木の実を食べさせた。

 

 

トツカ「いいか。これは賭けだ。

 

 今お前は毒消し薬の元となる実を食った。

 

 抗体を先に取り込んでおいたから、毒の効果はある程度押さえられるはずだ。

 

 それにまだフシギダネだ。大して強くないだろう。

 

 やつを背負って戻ってこい」

 

 

 トツカがそう命令を発するや否や、ブラッキーは標的に向けて走り出した。

 毒素しい霧のなか、彼女はすぐに見つかった。

 相当毒を吸い込んだのか、嘔吐している彼女に、フシギダネはオロオロとしたいた。

 

 ブラッキーはフシギダネに呼び掛け、手伝うように促すと、フシギダネは二の句を継げずに同意を示した。

 

 

 何とかこの子を助けだせそうだ。

 

 彼女がしっかり背に乗ったことを確認すると、ブラッキーはそう安堵した。

 

 

 

 

???「……シャァァァァ」

 

 

 

 

 ───!?

 

 

 

 突如近づく得体の知るない気配に総毛が立った。

 

 

 察知した方向に顔を向けると、瞳に映ったのは面妖な模様。

 

 

 霧が晴れ、より鮮明に得体の知れないものの全貌が映った。

 

 

 

 

 大蛇。

 

 

 見上げて見るその姿は、その一言に尽きた。

 

  

 紫色を基調とした長大な形態。

 コブラのような一部広がりのある胸には、見るものをすくませるような模様がはいっている。

 

 

 アーボック。

 

 

 

 現在、ミノオの森において確認される、全モンスター中の頂点に位置する上位個体であった。

 

 

 

 

 

 

ブラッキー「……ハハ……万事休すブラ」

 

 

 

 

 

 

 

 




まだ序盤も序盤ですね。面白みはまだわからないと思いますが、感想待ってます。
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