SAVIOUR~無限のソラへ~   作:風羽 鷹音

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02 名を零式

 空を舞う力。

 

 敵を倒す力。

 

 その力は世界を変えてゆく。

 

 誰かが望んだことなのか、それとも時の流れか。

 

 それに誘われるように集まる者たち。

 

 まるでそれは燭光にあつまる羽虫のようで。

 

 

 私にはその光景が何処か悲しく思えて仕方ありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パチリと目が覚める。

 

 ここは何処だろう? と一瞬考えたミルアであったが直ぐに頭が覚醒して、自分の部屋のベッドの上だと思いだす。

 

 強い光で顔面を照らされ、やたらと硬い板の上で目を覚ましたのがつい昨日の事のように思い出される。

 

 何の気なしに、自然な動作で頭の左側を抑えたミルアは、すぐに、はっとしたように手を放す。小さなため息をついたミルアは軽く頭を左 右に振ると、

 

 

「なんだか……寂しいな」

 

 

 そう口にしていた。

 

 自らの心情を小さく吐いたミルアは、ふと隣のベッドの見る。

 

 そこには新たな同居人である織斑一夏が、静かな寝息をたてていた。

 

 僅かに首を傾げて何かを考えていたミルアだったが「まぁ、いいか」と口にすると、そのまま一夏のベッドに潜り込む。そして、そのまま 一夏の体にしがみつくと、すぐに小さな寝息をたて始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園の領内、廊下にまだ誰もいない朝早くに、コンコンとミルアと一夏の部屋のドアをセシリアはノックした。その表情は何処かバツが 悪そうである。

 

 ドアをノックするもミルアや一夏が出てくる気配はなく、セシリアは「はぁ」と小さなため息をついた。そして何の気なしにドアノブに手 をかけるとカチリと音がしてドアが僅かに開く。 

 

 

「いくらIS学園が世界で最も安全な場所とはいえ、戸締りをしなければその限りではありませんよ?」

 

 

 セシリアはそうぼやいた。

 

 世界各国から生徒が集まっていることもありIS学園のセキュリティは強固である。しかしそれは外部からに限られている。少なくとも女生 徒が一夏の部屋に突撃、という事態まではカバーしてくれない。

 

 さて、ドアが開いてしまったが、どうしよう……と僅かに考えたセシリアだったが、

 

 

「織斑さん、織斑さん?」

 

 

 ドアを開け廊下から一夏を呼び始めた。と、いっても周囲を気にしてか声は小さめだ。

 

 

「何をしている?」

 

 

 冷たく、そして低いトーンの声に、そう呼びかけられセシリアはびくっとした。それはもう傍から見てもわかるほどに。

 

 セシリアはゆっくりとした動作で後ろを振り返るも心なしか動きがぎこちない。

 

 

「そう怯えられても困るんだがな」

 

 

 セシリアが振り返った先にいた千冬は、やれやれと言う具合に肩をすくめてセシリアを見下ろしていた。腕を組んでいる様がとても絵にな っている。

 

 他の女生徒が憧れるのも頷けるな、なんてセシリアは思いながら、

 

 

「おはようございます。織斑先生」

 

 

 セシリアが何とか笑顔を作ってそう挨拶すると、

 

 

「あぁ、おはよう」

 

 

 千冬がそう返すとセシリアは「それでは」とごく自然な動作でその場を離れようとした。

 

 しかし、そんなセシリアに千冬は、

 

 

「まぁ待てオルコット。お前、あの馬鹿の部屋の前で何をしていた? 昨日あんなに衝突していたくせに」

 

 

 千冬の言葉に、セシリアは「うぅ」と何処か情けない声をあげて立ち止まる。

 

 事は前日に遡る。

 

 一夏の代表推薦に反対したセシリアは、物珍しさで代表に推薦されるなどクラスの恥と言い、代表候補生である自身の優秀さをアピールし た。だが最初こそ良かったものの、自身が見下している一夏に代表の座を譲りたくないと思うばかりに、自分のアピールから、一夏をこき下ろす という方向にずれて行ってしまう。主に日本を侮辱する形で。やれ島国だの(イギリスも島国なのは忘れてる)やれ文化的後進国だの(ほぼ言い がかり)

 

 しかし、そこまで言われて一夏も黙っていなかった。負けるかと言わんばかりに一夏もイギリスの批判を行う。主に飯がまずいと。

 

 だが、最初のその一言が決定打となってしまう。

 

 激昂したセシリアはクラス代表の座をかけて一夏に決闘を申込み、一夏もあっさりそれを受け入れた。そしてクラスの担任である千冬もそ れを了承したのだ。

 

 

「で、なんだってまた織斑の部屋を訪ねた?」

 

 

 千冬がそう尋ねると、セシリアはややうつむき加減に、

 

 

「いえ、その一晩立って冷静に考えてみますと……」

 

 

「さすがに言いすぎた、と?」

 

 

 どこかニヤリとして千冬が尋ねるとセシリアは頷いて、しゅんと小さくなる。

 

 セシリアは小さくなったまま、

 

 

「今でも代表の座は譲りたくないというのは正直な気持ちですし、決闘を取り下げるつもりもありません。ただ昨日、わたくしが言ったこと はあまりにも品がないというか、彼が怒るのも無理がないと言いますか……」

 

 

「まぁ素直に自らの非を認めるのは悪い事とは言わんよ。こと、学校内という閉鎖された空間内での人間関係においてはこじれると厄介だからな」

 

 

 千冬はそう言った後、一夏の部屋のドアを見て、

 

 

「これはお前がこじ開けたのか?」

 

 

 その言葉にセシリアはぶんぶんと首を横に振り、

 

 

「いっ、いえっ! 最初から開いてましたわっ!」

 

 

 あわててそう答えたセシリアの言葉を信じた千冬はドアを開きながら、

 

 

「まったく、あの馬鹿は不用心だな」

 

 

 ミルアがカギを閉め忘れたという可能性を完全にないものとしていた。事実、カギを閉め忘れたのは一夏なのだが。

 

 ずかずかと部屋に入っていく千冬に、セシリアはどうした物かと一瞬悩んだが、周囲を見渡し、だれの目がないことを確認すると、千冬の 後に続いて一夏の部屋へと入っていった。

 

 部屋の中は、急遽入寮することになったためか一夏の荷物はまだ着替えなどの基本的な物しか届いておらず、それもまだ段ボールに入った ままという状態。

 

 ミルアの物といっても服が入っているだろう小さな棚があるだけで、なんというか、なんとも味気ない部屋だった。

 

 少なくともセシリアの部屋などは彼女が持ち込んだ調度品などで飾られていて完全に彼女の色に染められている。ちなみに同居人の意向は 聞いていない。

 

 セシリアはきょろきょろと部屋の中を見渡して、

 

 

「あら? 彼女は何処へ?」

 

 

 そう言ってミルアの姿を探すもベッドの中は空である。

 

 千冬も僅かに部屋を見渡すと、ふと、未だにぐーすか寝ている愚弟に視線を移し、

 

 

「まさかな……」

 

 

 そう言って勢いよく布団を引っぺがした。

 

 するとそこには一夏にしがみついたまま眠っているミルアがいた。

 

 千冬が、頭痛そうに額に片手をやり、セシリアが唖然としているなか、さすがに布団を引っぺがされて目が覚めたミルアは、まだ眠いのか 目を擦りながら、

 

 

「おはようございます? ……何故、千冬さんとセシリアさんが?」

 

 

 ミルアがそう質問すると、千冬は、

 

 

「一応お前も私の生徒になるわけだから織斑先生と呼べ。あと、何故と言うのはこちらのセリフだ。何故お前がこの馬鹿と一緒に寝ている」

 

 

 そう言って千冬は一夏を見る。

 

 そんな千冬にミルアはこてん、と首を傾げ、

 

 

「何か問題でも?」

 

 

 ミルアの答えに千冬は大きくため息をつき、セシリアは唖然としたまま。

 

 するとさすがに一夏も目を覚まし、上体を起こす。そしてすぐに、ミルア自分のベッドに入り込んでいることに気が付いて、

 

 

「え? なんでミルアが俺のベッドに入り込んでるの?」

 

 

 一夏の質問に、ミルアはとぼけるように、

 

 

「さて、何故でしょう?」

 

 

 少なくともミルアには他人に対してそう簡単に自分の弱みを見せる気はなかった。

 

 だからミルアはごまかす様に、ほんの僅かに口の端を歪めて、

 

 

「寝心地はよかったです。またいいですか?」

 

 

 その台詞に狼狽える一夏。

 

 そんな一夏にミルアは満足したようにベッドから降りると千冬たちに視線を移して、

 

 

「そう言えばどうしてお二人は此処に?」

 

 

 ミルアのその言葉に千冬はセシリアに視線を向け、

 

 

「用があったのは私じゃなくてオルコットの方だ」

 

 

 千冬の言葉にミルアは僅かに首を傾げてセシリアを見る。 

 

 するとセシリアは伏し目がちにして、

 

 

「その……昨日はさすがに言いすぎたと思いまして、謝罪をしに……」

 

 

 セシリアのその言葉に、一夏も頭をかきながら、

 

 

「いや、俺も言いすぎた……ちょっと大人げなかったよ……ごめん」

 

 

 一夏はそう言って頭を下げた。

 

 そうしてから、一夏とセシリアは目があい、お互いに気まずそうに苦笑する。

 

 そんな二人をミルアは交互に見てから、

 

 

「それで、決闘はどうするのですか?」

 

 

 ミルアのその質問に答えたのは千冬で、

 

 

「それに関してはオルコットは譲る気はないそうだ。織斑も織斑で引き下がるつもりはないのだろう?」

 

 

 千冬はそう言い、ニヤリと笑みを浮かべて一夏を見る。

 

 すると一夏もニヤリと笑みを浮かべて、

 

 

「勿論。男が一度言い出したことひっこめれるかよ」

 

 

 一夏のその言葉にセシリアがきょとんとする。

 

 何故、そんな表情をするのかと一夏が疑問に思っていると、

 

 

「キメているところを悪いんだがな馬鹿者。お前かなり寝癖が付いているぞ」

 

 

 千冬のその言葉に一夏は「ぬぁっ?」と情けない声をあげて洗面所へと駆けこんだ。鏡を見てみると事実重力を無視している部分などがいくつか見受けられた。

 

 必死に寝癖を直そうとしている一夏に、セシリアはクスクスと笑いながら、

 

 

「一週間後の決闘、楽しみにしていますわ。わたくしは負けるつもりなど無論ありませんが、かといって最初から諦めたような無様な戦い方 はなさらないでくださいね。まぁもっとも、さっきの態度を見るに、それは杞憂に終わりそうですけど」

 

 

 洗面所のドア越しにそう言われた一夏も、

 

 

「無論だ。余裕こいて初心者に足下すくわれないようにな。慢心して敗北なんてよくある話だぜ?」

 

 

「肝に銘じておきます」

 

 

 笑みを浮かべながらセシリアはそう言い、そのまま一夏の部屋を後にする。

 

 そんなセシリアを見送った千冬は「やれやれ、若いな」などと言いながら肩をすくめる。

 

 一夏は、思わず「年よりくさい」という言葉が出そうになるも必死に抑えた。

 

 幸いなことに千冬はそんな一夏に気づくことなく、

 

 

「そうだ織斑。お前には政府から専用機が用意されることになった」

 

 

 千冬の専用機という言葉に洗面所から顔をだした一夏は「へ?」と間抜けな声をあげる。

 

 そんな一夏にミルアはしれっと、

 

 

「要するに専用機あげるからデータ沢山よこせ、という体のいいモルモットですね。まぁ待遇は悪くないとは思いますけど」

 

 

 ミルアの「モルモット」という言葉に一夏は苦い顔をするも少し考えてから「まぁ、いいか」と呟く。そして千冬の方を見て、

 

 

「その専用機はいつ届くんだ?」

 

 

「今、倉持技研が急ピッチで作業を進めているらしい。まぁ来週の決闘までにはギリギリ届くだろう」

 

 

 ギリギリという事はその専用機でならしをする時間はほとんどないと考えた方がいい。

 

 一夏もそれをわかっているのか何処か渋い顔をしていた。

 

 

「ギリギリなら仕方ありませんね。来週までは予定通り、学園の訓練機『打鉄』で練習しましょう」

 

 

 ミルアの言葉に一夏は頷いた。

 

 

「訓練機の使用申請はもう出したのか?」

 

 

 千冬がそう尋ねると一夏は頷く。

 

 一夏に続いてミルアも頷き、

 

 

「決闘が決まった昨日の内に申請書は出しておきました。なにせ一夏さんは完全に初心者ですから」

 

 

「一週間ほどの特訓で勝てると思うか?」

 

 

 ニヤリと笑みを浮かべてそう問うてくる千冬にミルアは、

 

 

「実に分の悪い賭けです。専用機同士、機体性能に致命的な差ができるとは思いませんが、さすがに時間がたりませんから」

 

 

 そう言ったミルアだったが、すぐに「ですが」といい、

 

 

「その賭けに勝てたら実に気持ちいいでしょうね」

 

 

 表情を変えずにそう言い切る。

 

 それを聞いた千冬は「楽しみにしている」とだけ言ってそのまま一夏たちの部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず一夏さん、好きなように飛んでください」

 

 

 純国産で第二世代型の、鎧武者を連想させるIS打鉄に身を包んだ一夏にミルアが指示をだす。

 

 放課後のアリーナで傾きが増した太陽を背にして一夏は何処かおっかなびっくりで空へと舞いあがってゆく。

 

 そんな一夏を下から見上げていたミルアは後ろを振り返り、

 

 

「では、箒さんもどうぞ」

 

 

 そう言われて、一夏と同じように訓練機の使用申請をだしていた箒が、許可の下りた打鉄に身を包み、一夏を追って空へと舞いあがった。

 

 一夏と箒の空の舞は随分とぎこちない。まだまだ初心者なのだから仕方ないと言えば仕方ないのだが、稼働時間が三百時間を超えるセシリ アを相手するには残念すぎる。無論、稼働時間が勝敗を分けるわけではないが、一夏の場合は稼働時間が一時間にも満たないため、いくらなんで も無理ゲーと言う物である。

 

 なるようにしかならないか、とミルアは自身の両腕にISの腕を部分展開させる。それは色こそ漆黒ではあるが、その形状は打鉄の腕と全く同じである。

 

 さらにミルアは拡張領域(パススロット)から大型の狙撃ライフルを取り出す。この拡張領域はISの武装を量子変換し格納できるスペー スの事で、量子変換された武装の質量や性能によって、その領域を占めていくものである。故に領域が許す限り様々な武装を収納でき、ミルアが 取り出した大型の狙撃ライフルもその一つである。

 

 ミルアはゆっくりとした動作でその狙撃ライフルを構えた。狙撃ライフルの全長がミルア身長の倍以上ある為、かなり妙な光景である。

 

 

「二人とも、避け続けてくださいね」

 

 

 ミルアはそれだけ言うと二人の返答は聞かず、問答無用で引き金を引いた。

 

 ドンッ! という空気を大きく震わせるような轟音と共に銃弾が空間を穿ち一瞬にして一夏の横をかすめて行った。

 

 一夏は思わず総毛立つ。

 

 しかし一夏は回避行動をとってない。今の一発は単純にミルアが外したのだ。

 

 

「ISのハイパーセンサーに頼らずに完全に目視で撃つので、狙いは正確とはいきませんよ? その分、どこに跳ぶかわからないというラン ダム性を秘めていますが。要するに、ちゃんと避けてくださいね」

 

 

 ミルアはそう言って続けて引き金を引く。

 

 ISは特殊なシールドにより見た目以上に相当に強固で、今までの既存兵器では傷がつかないほどだ。しかし、だからと言って音や向かっ てくる弾そのものを消せるわけではない。つまり、人の精神面に対する攻撃までは防いでくれないのだ。

 

 よって、一夏と箒は本能に素直に従って慌てて散開しミルアの放つ銃弾から逃げまどい始めた。

 

 セシリアの使うISブルー・ティアーズは狙撃型のIS。

 

 ミルアなりに、撃たれるという事に慣れさせようという配慮があっての事なのだが、そんな説明を受けていない一夏と箒からすれば轟音と 共に放たれる大口径の銃弾は恐怖でしかない。

 

 しかも二人のISはご丁寧にハイパーセンサーで、放たれる銃弾を認識し、二人にしっかりと、その存在を伝えてくるのだからたまったも のではない。逃げなければならない恐怖の対象を常に視界に写してくれるのだ。

 

 空中の一夏は時折「ちょっと」だとか「たんま」などと、のたまっているがミルアはそんな一夏に構うことなく引き金を引き続ける。

 

 その後しばらく一夏たちは避け続けていたのだが、一夏が一発もらうと、そのまま立て続けに被弾し、墜落。

 

 箒もめげずに避け続けていたが、一夏が墜落してから二分後に被弾。一夏同様その後に立て続けに銃弾を浴びあえなく墜落。

 

 その後、アリーナの設備でISのシールドエネルギーを補給後再び同様の訓練を再開。

 

 結局二人は日が沈みきるまで何度も撃ち落とされる羽目になった。

 

 

「今日はここまでにしましょうか」

 

 

 寮の門限まではまだ時間があるものの、一夏と箒の状況をみてミルアは切り上げることにした。

 

 地面に倒れていた二人はふらふらと立ち上がり、箒は「また明日」一夏は「明日もよろしく」と、かろうじてそう口にしてそれぞれ部屋へ と戻っていく。

 

 二人を見送ったミルアは明日の分の訓練機の使用申請書を出すため、一人職員室へ向かった。

 

 

「随分とボコボコにしたのだな」

 

 

 職員室にて、ミルアが申請書と一緒に持ってきた、特訓の様子を記録した映像を見た千冬はそう呟いた。

 

 千冬の呟きに大してミルアは首を僅かにかしげて、

 

 

「なにかまずかったでしょうか?」

 

 

 そう問うミルアに千冬は少し笑って「いや、別に」と答えた。

 

 千冬が何故笑っているのかわからなかったミルアは、そのままその場を後にしようとして千冬に背を向ける。

 

 すると千冬がミルアを引き留めた。

 

 引き留められたミルアは千冬に向き直る。

 

 

「特訓の残りの予定はどうなっている?」

 

 

 千冬にそう問われたミルアは少し考えるようなしぐさを見せた後、

 

 

「取りあえずあとに四日は今日と同じことを続けるつもりです。セシリアさんの専用機は完全な射撃型ですから、とりあえずある程度避けれ るようにならないとあっという間に終わってしまいます」

 

 

「だが、避けるだけじゃ勝てないぞ?」

 

 

「避けれないと間合いが詰めれませんから、一夏さんの専用機は武装がブレード一本ですから」

 

 

 ミルアのその言葉に千冬は険しい表情をした。

 

 一夏に用意される専用機「白式」(びゃくしき)は確かに武装がブレード一本のみであるが、そもそも、そのスペックは一部の関係者しか しらないはずである。それを何故ミルアが、さも当然のごとく知っているのか。

 

 そのことを一瞬考えた千冬だったが、すぐに答えに行きつくと深いため息を吐いて、

 

 

「あの馬鹿が情報源か……」

 

 

 千冬の言葉にミルアは頷き、

 

 

「はい。あの馬鹿……いえ、束さんが情報源です」

 

 

 別段慌てる風でもなく淡々と言い直したミルア。

 

 

「あいつは最近どうしてる?」

 

 

「最近ですか? さぁ、頻繁に連絡を取っているわけでもありませんし。向こうから一方的に用件を告げるだけですから。基本一緒にいた時 からそんな感じです。私自身、特に用があるわけでもありませんし」

 

 

 ミルアのその言葉に千冬は半分納得しつつも半分納得できないでいた。

 

 篠ノ之束が極々身近な身内しか認識していないのは有名な話である。具体的に言えば妹である箒や、幼馴染である千冬や一夏の三名である 。両親に至っては一応両親と言う認識はあるようだが、それ以外となると、どうでもいい、あるいは背景程度にしか思っていないのである。そん な束がしばらくの間、ミルアと言う存在の面倒を見て、専用機まで用意したのだから珍しい話だと千冬は思っていたのだ。

 

 しかしミルアの話を聞くに、どうも扱いが他人と大した差がないように感じられた。

 

 

「よくよく考えてみればお前たちの関係はなんとも妙だな」

 

 

「かもですね」

 

 

 ミルアはそう言うと千冬に対して「また明日」と言うとぺこりと頭を下げてそのまま職員室を後にした。

 

 そんなミルアを見送った千冬はパソコンの画面にミルアの専用機の詳細を呼び出す。それはミルアが学園に送られてきた際に、ミルアから 開示された物だ。

 

 

「既存のISを僅かとはいえ上回る性能……しかもこの構成でか。さすが天才と言ったところか」

 

 

 束お手製の専用気持ちとなれば、その帰属が問題になるところだが、完全中立と言う名目のIS学園なら、多少はその問題を先送りにでき る。ミルアが束の後ろ盾の下、いくつかの国で何かしら行動を起こしていたようだが、表ざたになったという話は聞かない。少なくとも軍とつな がりがある者しか知らない。あまり表ざたにしたくない事なのだろう。それを考えればミルアの身柄を渡せと言う、要求が来る可能性は多少は低 くなる。そもそもミルアが何をしたのか、ミルア自身は誰にも話していなかった。

 

 今年は荒れそうだな。そう思った千冬は、束の関係ですっかり慣れてしまった、大きなため息を吐いた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、結局一週間丸々、回避の特訓に明け暮れたと……」

 

 

「そうですね」

 

 

 アリーナのピット内で、何処か呆れ顔の千冬にミルアが、しれっと答える。

 

 だがミルアとしても、その結果は不本意だった。ミルアの思うとおりに一夏の回避能力が伸びなかったのだ。セシリアの専用機「ブルー・ ティアーズ」にはセシリアの意思で自由自在に飛び回る砲台、自立機動兵器「ブルー・ティアーズ」が搭載されている。要するに正面以外からの 射撃もあるのだ。

 

 せめて正面からの射撃は避けきってもらわないと。ミルアはそう思い、ひたすらに回避訓練を行っていたのだが、そもそも正面からの射撃 を避けきること事態が凄いという事にミルアは気が付けなかった。

 

 結果として一夏は一週間の間、撃たれては墜ち撃たれては墜ちを繰り返す羽目になってしまった。

 

 

「しかし、肝心の専用機が届かないのでは特訓の意味がないではないか」

 

 

 腕を組んだ箒が、ややイラついたかのようにそう口にする。

 

 箒の言うとおり一夏の専用機がまだ届いていなかった。しかも既に決闘の時間は過ぎていて、待たされているセシリアは既にISを身にま とい目を閉じ、アリーナ中央でじっと待機している。

 

 

「待たされた怒りで通常より二割増しで強くなったり、とかありますかね?」

 

 

「それはそれで面白いかもしれんな」

 

 

 などと、相手をする一夏からすればたまったもんじゃない事をさらりといってのけるミルアと千冬。

 

 

「来ましたっ! 来ましたよ、織斑君の専用機がっ!」

 

 

 嬉しそうにそう言いながら駆けこんできたのは真耶だった。

 

 しかし届いたからと言ってすぐに決闘が行えるわけではない。いくら専用機とはいっても、機体を一夏に最適化させなければ訓練機とさし て変わりない。しかもそれには未だに時間を必要としていた。

 

 それ故にミルアはピットとアリーナを行き来する出入り口へと立つと、

 

 

「一夏さんの専用機が届きました。最適化するまでもう少し待ってください」

 

 

 ミルアの言葉にセシリアは目を開きチラリとミルアを見た後で、こくりと頷いた。

 

 さて、こちらはこれでいいか。そう思いながらミルアは後ろを振り返る。その視線の先では専用機「白式」を装着した一夏が軽く深呼吸を している。そして、その間に白式の最適化が自動で行われている。今は無骨なラインの白式の装甲も、いかにも金属と言った鈍いその色も、最適 化が終了すると同時に変化を起こすはずだ。

 

 軽く目を閉じて、その時を待つ一夏。そんな一夏から少し離れたところに箒は立っていて、何処か所在なさげに一夏を見ている。

 

 ミルアは特に何も言わずそんな箒の横に立った。

 

 箒はそれに気が付くも視線を一夏に向けたまま、

 

 

「一夏は、大丈夫だろうか?」

 

 

 箒の呟きにミルアは、僅かに箒を見て、

 

 

「それは一夏さん自身ですか? それとも機体の方ですか?」

 

 

「両方だ」

 

 

 ミルアの問いに箒は短くそう答えた。

 

 箒の答えにミルアは、ふむ、と小さく頷いて、

 

 

「機体の方は問題ないでしょう。表向き倉持技研が作ったことになっていますが、元々倉持技研が欠陥機として放置していた物を、束さんが 勝手に回収して完成させたものです」

 

 

 ミルアの口から白式の簡単な開発経緯を聞かされて箒は驚く。なにより、それに自らの姉が関わっていることに。

 

 

「そうか『あの人』が関わっているなら一応は大丈夫だろうな」

 

 

 箒の言う「あの人」と言う言葉に、やはり違和感を感じつつもミルアは首を横に振ると、

 

 

「ただ、一夏さん自身となるとなんとも」

 

 

「特訓を施したのはミルアではないか」

 

 

「ですが、綿密なプランの下に行ったわけではありません。ただ射撃メインの相手をするわけですから、回避力をあげようと撃ちまくってた だけですし」

 

 

 ミルアのその言葉に箒は「え?」ともらして、今度は視線をミルアに向けた。

 

 

「そもそも私は誰かに戦闘訓練を施したことなんてありません。基本、感覚や勘で戦ってますから、頭で考えて、それを誰かに教えるという のは初めてなはずです。今回のもほとんど思いつきの即席ですし」

 

 

 ミルアの、訓練を施された側からすれば衝撃の告白に、箒は唖然とする。

 

 一夏は絶対に特訓を乞う相手を間違えた。そう確信しつつも、今更どうしようもない、と箒はため息をつく。

 

 何処か歯がゆさを覚えていた箒を余所に、白式の最適化が終了し、一瞬にして白式の装甲が、その形状や色を変化させた。

 

 無骨なラインは流麗なものへと。いかにも金属、といった鈍く光るそれは、光を反射するような、純白に。

 

 

「これが白式。俺の専用機……」

 

 

 そう言って一夏は感慨深げに自らの機体を見る。

 

 

「行って来い一夏」

 

 

 千冬に、苗字ではなく名前で、弟として声をかけられた一夏は、言葉は口にせず静かに頷く。

 

 

「勝ってこい」

 

 

 それだけ口にした箒に一夏は力強く「あぁ」と答え、その視線をミルアに向けた。

 

 一夏の視線に気が付いたミルアは、いつもの無表情で、どうぞ、と言う具合にその片手をアリーナへと向ける。

 

 黙って頷いた一夏は前を見て一気に加速する。白式がピットを飛出し、そのままアリーナへと舞い上がる。

 

 

「やっと来ましたね」

 

 

「あぁ、待たせて悪い」

 

 

 セシリアの言葉に一夏がそう答える。

 

 

「貴方がこの一週間、必死に特訓をしていたのは知っています。それは誰でもそう簡単にできることではないでしょう。ですから貴方の努力 に敬意を示すためにも慢心などはせず、全力でお相手をさせていただきます」

 

 

 そう言ってセシリアは優雅に礼をする。待たされていた事など苦でもないという感じであった。

 

 一夏は「ありがとう」口にすると、その手に唯一の武器である近接ブレード「雪片弐型」を実体化させる。

 

 

「千冬姉ゆずりの、白式唯一の武装『雪片弐型』だ。懐に入られて断ち切られないように注意してくれよ」

 

 

「ブルーティアーズに主武装であるレーザーライフル『スターライトmkIII』ですわ。わたくしに触れることもままならないまま射抜かれぬ ようご注意を」

 

 

 互いに得物を手にして笑みを浮かべあう。

 

 そして決闘の幕はきって落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しそうだな一夏たちは」

 

 

 箒はアリーナ内を飛びまわる一夏とセシリアを見て、何処か不機嫌そうにつぶやいた。

 

 そんな箒にミルアは首を傾げつつ、

 

 

「別に憎み合っての戦いではありませんし、互いに全力でぶつかることを楽しんでもいいのでは?」

 

 

 ミルアの言葉に箒は「まぁ、いいが」とだけつぶやいた。

 

 ミルアの視線の先、アリーナ内の一夏はセシリアとの距離を詰めようとしている。しかしセシリアもそうはさせまいと、銃口を一夏に向け て立て続けに引き金を引く。

 

 銃口を向けられた時点で回避行動をとっていた一夏には当たることはなく、放たれたレーザーは空を切る。

 

 

「レーザー相手に目視で避けるなんてハイパーセンサーをもってしても無理です。ですから直前のエネルギー変動と、何より銃口の動きをみ て回避行動をとってください。少なくとも資料で見る限りブルー・ティアーズの手元は隠れていないので指の動きを見て、引き金を引くのを先読 みして回避と言うのもたぶんできなくはないでしょう」

 

 

 特訓時のミルアの言葉通りに一夏はハイパーセンサーによるエネルギー変動の感知、銃口の向き、引き金にかかった指の動き、それらを観 察し、立て続けに放たれるレーザーを何とか回避できていた。

 

 しかし、そこは素人と玄人の差か、最初こそ回避を許していたセシリアも一夏の動きを読んでフェイントも織り交ぜ、僅かに銃口をそらす などの変化を持たせて確実に一夏にレーザーを直撃させてきた。

 

 シールドバリアーと操縦者の命だけは守る絶対防御。これら二つにより一夏自身は守られているが、白式自身はその装甲を徐々に削られて いき、一夏自身も衝撃などでダメージが蓄積されていく。なによりISでの戦いはシールドエネルギーがつきれば負けである。ちなみに競技とし ての戦いにおいてはシールドエネルギーが一定値を下回れば終了となっていて、この決闘でもそれは同様であった。

 

 そして、戦闘開始から二十分。白式のシールドエネルギーは規定値まで残り五割を切っていた。しかも残念なことにまだ一夏はセシリアに 対してまだ一太刀も入れられていない。

 

 

「わたくし相手にここまで避け続けるとは、特訓の成果ですわね。ですが……」

 

 

 セシリアのその言葉と同時に自立機動兵器「ブルー・ティアーズ」通称ビット、その六機がセシリアから離れ一夏の周りに展開した。

 

 それに対して一夏の行動はセシリアを驚かせることとなる。

 

 死角に入り込もうとしたビットに対して、一夏はその正確な位置を確かめようとせず、尚且つ視線はセシリアに向けたままビットに対して 体当たりを行ったのだ。

 

 白式とビットの質量差は歴然で、体当たりによってよろけるビットに対して、一夏はちらりと視線をむけると素早く雪片弐型を振り下ろし した。それにより完全破壊とまではいかずとも、ビットは地面に強く叩き付けられるようにして落下して、そのまま機能を停止させた。

 

 しかし、セシリアも驚きっぱなしではない。すぐさま残りの五機の内の三機にレーザーを放たせ、一夏のシールドエネルギーを削りにかか る。

 

 ビットの動きに翻弄され、その攻撃で白式のシールドエネルギーが確実に減ってゆく。

 

 落ち着けっ! ビットに弄ばれ続け、白式からのアラートが鳴り止まぬ中、一夏は内心でそう叫んで自らを落ち着かせようとする。ガンガ ン減ってゆくシールドエネルギーに焦りを覚えつつも努めて冷静であろうとした。

 

 

「思考制御されるビットは、一見すごい兵器にも感じられますが、あくまで人の思考で動く実体ある物です。よくわからない幽霊なんかとは 違います。人が動かす以上、その行先は予測可能です。それさえ成功すれば落とせます」

 

 

 ミルアのその言葉を思い出した一夏は必死に考える。セシリアはビットをどう動かすのか。いままでどう動かしていたか。そしてすぐに気 が付く。

 

 最初からビットは自分の死角に入り込もうとしていたことに。現に今もハイパーセンサーでは感知できるもののどうしても反応が遅れてし まう死角からレーザーをもらっている。おかげで背面や側面の装甲がどんどん涼しくなっていっている。

 

 行先さえわかれば。一夏はそう思い、後ろに向かって一気に加速した。無論体はセシリアに向けたままだ。

 

 背面にビットがぶつかった衝撃を覚え、一夏は振り向きざまに雪片弐型を振るう。それにより一機が破壊された。

 

 その光景にセシリアはさすがにうろたえた。ルーキー相手に、と焦る自分を必死になだめ、一夏との距離を一定に保つ。近接型の白式に接 近させなければ負けはしない。焦れば接近を許す隙が生じるかもしれない。だからこそセシリアは一夏同様、冷静であろうと努める。

 

 そしてレーザーライフルの照準を一夏に合わせて引き金を引く。

 

 しかし放たれたレーザーはぎりぎりの所で一夏にかわされてしまう。

 

 そしてかわすことのできた一夏はあることに気が付いた。

 

 それはセシリアが動くときビットがじっと待機していることだった。

 

 セシリアが動くときにビットが待機している理由はいたって簡単だ。セシリアの習熟度がまだ足りなく、自身の制御とビットの制御が同時 に行えないのだ。

 

 一夏もその可能性に気が付き、

 

 

「ビットと自身の同時制御ができないんだな」

 

 

 そう口にして、それを聞いたセシリアの顔に明らかな動揺の色が見えた。

 

 そしてそれはセシリアの集中力を落とすものでもあった。

 

 一夏はその隙を逃さず、近くのビットを斬りおとしにかかる。

 

 しかし雪片弐型がそのビットに直撃した瞬間、そのビットは激しく爆散して一夏はその爆発に巻き込まれてしまった。

 

 

「おあいにく様。ブルー・ティアーズ五号機と六号機はミサイルビットでしてよっ!」

 

 

 セシリアのその言葉と同時に五号機が、爆煙の中から抜け出てきた一夏に向かう。

 

 煙を払いのけた瞬間に目の前に現れた五号機に、一夏は反応しきれず直撃を許してしまう。

 

 激しい衝撃が一夏を襲い、一夏はその衝撃で意識を持って行かれそうになるも、必死にそれを掴み止めた。

 

 しかし次の瞬間無情にも試合終了のブザーがアリーナ内に響き渡る。

 

 それは一夏の敗北を知らせるブザーでもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一太刀も入れられなかった。一夏はそう思いうなだれる。実の所、一夏には一撃で決める自信があった。というのも、白式の単一仕様能力 (ワンオフ・アビリティー)である零落白夜(れいらくびゃくや)と呼ばれる物が理由だ。単一仕様能力とはISと操縦者との相性によって発生 する固有能力で、白式の場合、どういう訳か最初から使用可能だった。その能力は雪片弐型の刀身に自身のシールドエネルギーを纏わせ、相手の シールドバリアーを消滅させたあげく強引に絶対防御を発生させると言う物。絶対防御はシールドエネルギーの消耗がとてつもなく激しく、零落 白夜は一撃必殺となりうる能力なのだ。

 

 だが現実は非情で、一夏はセシリアに一太刀浴びせるどころか、接近もできず雪片弐型を振るってもいない。

 

 

「さすがにこいつは悔しすぎるだろ……」

 

 

 一夏がうつむき加減にそう呟くと、

 

 

「でしたら、諦めず今後とも努力してくださいな。貴方でしたら必ずわたくしに追いつけますわ。無論、わたくしも簡単に追いつかれるつも りはありませんけど」

 

 

 うなだれる一夏の下へセシリアがそう言いながら近寄ってきた。そして右手を一夏に差し出した。

 

 それが握手を求めているものだと気が付いた一夏は自らの右手をセシリアに差し出し、そのまま握手した。

 

 その瞬間、アリーナの観客席から放課後の暇をつぶして観戦に来ていた生徒たちから拍手が巻き起こる。

 

 その拍手に答えるようにセシリアは観客席に手を振り、ちらりと一夏を見てウインクしてみせる。

 

 一夏はセシリアの意図に気が付いて自らも観客席に手を振った。

 

 そんな一夏に黄色い悲鳴が上がる中ピット内では箒が腕を組んだまま、

 

 

「なんだ一夏の顔は。試合直後だというのに緩みきっているではないか」

 

 

「まぁまぁ、いいじゃないですか篠ノ之さん。感動的な光景じゃないですか。先生としても嬉しい限りです」

 

 

 そう言いながら真耶が箒をなだめる。

 

 その一方では千冬がミルアに向かって、

 

 

「どう思う?」

 

 

「善戦した方です。ビットがどういう物か教えましたが落とし方までは教えていませんし、実際にセシリアさんの攻撃を大分避けれていまし たから……化けるんじゃないんですか」

 

 

「人の弟をなんだと思っている。まぁ正直私もあれは化けるとは思うが」

 

 

 千冬はそう言って笑みを浮かべる。

 

 話に聞くブラコンと言うやつか? ミルアはそんな事を考えながら千冬を見ていた。

 

 しかし、次の瞬間―――

 

 

(イレギュラーな事態だ。君の出番だよ)

 

 

 その声はISのコアを通したネットワークによるプライベートチャネルでミルアにだけ届いた。

 

 

(束さん?)

 

 

 ミルアが訝しげにそう問い返すと、

 

 

(こちらとしては想定外の出来事だよ。つまり敵だ。二度も言わせないでくれるかな?)

 

 

 束はそう告げるとぶつりと通信を切った。

 

 千冬はミルアの雰囲気の変化に気が付き、

 

 

「どうした?」

 

 

「敵です……来ます」

 

 

 ミルアの言葉に千冬が「どういう事だ?」と聞き返すよりも先にアリーナ内にけたたましい音が響き渡る。

 

 そして次の瞬間ミルア達がいるピット内にアラート表示が所狭しと現れる。

 

 

「そんなっ! アリーナ内の観客席を含めた全てのシールドバリアーが消滅、再展開できませんっ!」

 

 

 ピット内のコンソールを叩きながら真耶が悲鳴をあげる。

 

 そんな悲鳴を余所に、外部からの侵入がたやすくなったアリーナ内に上空から多数の人影が侵入してきた。

 

 その人影は、体のラインがくっきりと出るISスーツの様な物に身を包み、さらにその上から装甲を付けたような装備を身にまとった女性 、いや顔立ちや体つきから見れば一夏たちと大して変りない少女たちだった。その数五十ほど。

 

 腰の両側や背中に着けたスラスターの様な物で姿勢制御しているのか一夏とセシリアを取り囲むようにふわりと降り立った少女たちは一様 に、見たこともない火器を一夏とセシリアに向けた。

 

 

「生徒たちの避難を最優先に。それと鎮圧のためISを装着した教員たちを急がせろ」

 

 

「は、はいっ!」

 

 

 千冬の指示に真耶が慌てて従う。

 

 

「先生っ! 一夏はっ?」

 

 

 箒が千冬に駆け寄りそう言うと、

 

 

「ISを展開している以上、そうはやられないだろう。少なくとも二人ともじっとしているから相手から攻撃してこない限り大丈夫だ」

 

 

 千冬は口ではそう言うが、その表情は苦々しいものだった。冷静であろうとしているが弟が危険な目に合っているという事態に感情が揺れ ないわけではないのだ。

 

 

「観客席の生徒の避難が完了次第出ます」

 

 

 ミルアのその言葉に千冬はその視線をミルアに移して、

 

 

「束から何か聞いているのか?」

 

 

 千冬がそう言うと、それを聞いていた箒の顔に驚愕の表情が張り付く。

 

 しかしミルアは一切動じることなく淡々と、

 

 

「イレギュラーで敵、としか聞いていません。ですが敵とわかっているならそれで充分です。少なくとも今は」

 

 

 そう言ってミルアの体が光の粒子に包まれ、次の瞬間、ISが完全に展開されていた。

 

 

「それがミルアのISなのか?」

 

 

「はい。そうです」

 

 

 箒の問いにミルアは頷きそう答えた。

 

 

「私の専用機『打鉄零式(うちがねれいしき)』です」

 

 

 漆黒のISに身を包むミルアの白さが、いやに際立って見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どういうことでしょうか?

二話目も一万字超えちゃったんですけど。
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