SAVIOUR~無限のソラへ~   作:風羽 鷹音

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申し訳ない放置しすぎました。


03 世界にある狂気

 

 世界というのは清濁を併せ持っていて、そこに生きる人々も清濁を併せ持っている。

 

 いや、人こそが世界の清濁なのだろう。

 

 そんな中で白はいったいどんな色に染まるのだろうか。

 

 願わくば今のまま白く輝いていてほしい。

 

 もしそのために私の力が役に立つのなら、私はこの力を振るおうと思う。

 

 白が白でいることを望むのなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、あー、マイクテスト、マイクテスト。聞こえているかしら?」

 

 

 一夏やセシリアの耳に届いたのは、何処か場違いな台詞。それも何故か無理したような高い声。それを聞いた一夏はすぐにあることに気が付いた。

 

 

「男だ」

 

 

「ですわね」

 

 

 一夏の言葉にセシリアも同意する。

 

 そんな二人の前に降り立ったのは、周囲の少女たち同様、ISスーツの様な物に身を包み体の至る所を装甲で固めた長身の、フルフェイスのたぶん男。男で間違いないはずだった。細身ではあるが、ぴっちりとしたスーツ越しでもわかる筋肉。何より細身とはいっても骨格が女性のそれとは違うのがわかる。

 

 

「そうね。私は男よ。残念なことに体はね」

 

 

 その男は、そう言ってやれやれと言う具合に首を横に振る。

 

 男である以上、纏っているのはISではない。ISは女性には使えない。今の所、例外は一夏だけのはずだ。

 

 

「心は女だけに、とても残念だわ」

 

 

 そう言った男は心底残念そうであった。

 

 その様子に一夏は思わず、かわいそうに、などと思ってしまう。自分とセシリアを囲んでいる少女たちに銃を向けられているにも関わらず。

 

 

「IS学園に、わたくし達に何の用ですか?」

 

 

 セシリアの言葉に反応するように少女たちの一角が、その銃口を観客席に向ける。本来ならISによる戦闘時の流れ弾などを防ぐため、アリーナと観客席の間にはISと同様のシールドが張られているが、どのような理由かはわからないが、今はそのシールドがない。そして今現在、観客席の出入り口には避難しようとしている生徒たちが押し寄せている。

 

 そんな出入り口に向かって銃口が向けられていた。

 

 

「なっ? 先生方は何をしているのですかっ?」

 

 

 明らかに対応が遅い教員たちに、セシリアは驚きの声をあげるが、その疑問に答えたのは、心は女の男だった。

 

 

「無理もないわ。今現在IS学園の全システムは一時的に私たちの制御下。教員たちもISを動かそうにも格納している場所にすらたどり着けていないでしょうね」

 

 

 その言葉にセシリアは思わず「なんてこと」と声を漏らした。

 

 

「それとさっきの質問だけれど、私たちの目的は織斑一夏君。君と君の専用機がほしいのよ」

 

 

 男にそう言われた一夏は苦々しい顔をする。

 

 自分と、その専用機を欲する理由。それはなんとなく理解できる。世界で唯一ISを動かせる男だ。ほしいと思う国や企業、組織等はいくらでもいるだろう。

 

 だがそれをこんな形で見せつけられることになるとは。

 

 

「関係ない皆を傷つけるな。俺は大人しくする。それでいいんだろ?」

 

 

 一夏はハッキリとそう言い雪片弐型を量子化する。しかし、その表情、そして声からは怒りの感情が感じ取れた。

 

 すると男は感心したように、

 

 

「悪くない判断よ。女の子を守る為に。ちゃんと男の子してるのね」

 

 

「あんたに褒められても嬉しくないさ」

 

 

「ふふっ、それはそうでしょうね。それで、そっちの青い子はどうするのかしら?」

 

 

 男の言葉にセシリアは観念したように首を横に振り、

 

 

「わかりましたわ。今は従いましょう」

 

 

 セシリアもそう言いライフルを量子化した。

 

 すると男はやや困ったように、

 

 

「できればISも解除してほしいのだけど?」

 

 

「さすがにそれはできませんわ。なにせ今わたくしたちは銃を向けられているのですから」

 

 

 そう言ってセシリアは男の言葉を断る。

 

 見たところ目の前の男や少女たちが纏っているのはISではない。何かしらの強化服ではあるが、少なくともISを倒せるほどの物ではないはずだ。故に一夏もセシリアも最後の砦としてISだけは解除しなかった。

 

 

(一夏さん、セシリアさん、聞いてください)

 

 

 僅かな膠着状態に陥るかに見られたその時、一夏とセシリアの元にミルアからプライベートチャンネルによる通信が入る。

 

 

(ハイパーセンサーで敵の生体反応の確認を)

 

 

 ミルアのその言葉に二人は従いすぐさまハイパーセンサーによる生体反応の確認を行った。

 

 

(っ! おいミルア、目の前の男以外、生体反応がないぞっ!)

 

 

(まさかロボット……ですか)

 

 

(その、まさかでしょうね)

 

 

 同様の色を見せる一夏やセシリアに、ミルアは、だからどうした、という具合に応える。

 

 

(で、どうするんだ?)

 

 

 いざとなれば容赦なく倒すことができるということがわかっただけでもありがたい話ではあるが、現状はそれだけでは足りない。未だ敵の銃口は避難できていない生徒に向けられていてうかつには動けない状況だ。

 

 

(本来であれば生徒たちの避難が完了してから、という事にしたかったのですが、未だアリーナから外への通路は開かず、おまけに銃口まで向けられる始末。仕方ありません、ならばその銃口を取り除くまでです)

 

 

(取り除くって……どうするつもりですか?)

 

 

 そう言ってミルアに問うセシリアだったが、彼女には嫌な予感しかしなかった。帰ってくる答えが、至極簡単で、なおかつ厄介な事の様な気がした。

 

 

(幸い敵はこちらには気が付いていません。ですので最初の一手で一気に殲滅、あるいは完全にこちらのペースに巻き込みます)

 

 

 帰ってきた答えは酷く簡単で、酷く危険なものだった。もし失敗すれば生徒に被害が出かねないもの。

 

 

(時間がないのでいきます)

 

 

 そう言ってミルアはプライベートチャンネルを切ってしまった。

 

 一夏とセシリアが考える暇もない。

 

 次の瞬間、おびただしいまでの銃声がアリーナに鳴り響く。それに続くのは銃を構えていた少女たちが次々と砕け散る音。砕けた体から金属片と青い火花が散り、少女たちが人でないことがはっきりと目で分かった。

 

 銃声の発生源はミルアだ。両腕に展開された3銃身のガトリング砲から次々と放たれる銃弾が少女の姿をした敵を撃ち砕いてゆき、薬莢がからからと音をたてながらミルアの足元に転がる。

 

 ミルアの動きに合わせて、一夏とセシリアも先ほど量子化した武器を再び実体化し、攻勢に出る。

 

 一夏の雪片弐型が少女の姿をした敵を斬り裂き、セシリアのスターライトmkIIIが撃ち貫いてゆく。

 

 

「おぉぉぉぉっ!」

 

 

 一夏の雄たけびと共に雪片弐型が少女の姿をした敵につきささる。

 

 

「っ!」

 

 

 引き抜こうとした雪片弐型を、少女の姿をした敵は機能停止に陥る寸前に両手で鷲掴みにした。

 

 まずい。そう思った一夏は力を込めて雪片弐型を引き抜こうとする。

 

 そんな彼の後ろに二体の敵が回り込み、その銃口を無防備な一夏の背にむけた。

 

 ISのシールドは優秀だ。例え背後から攻撃されたとしてもなんなく防いでしまうだろう。しかし操縦者に与える恐怖までは軽減してはくれない。それは一夏も例外ではなく、無防備な背中に向けられる銃口に反応して嫌な汗が噴き出した。

 

 

「一夏っ!」

 

 

 一夏の耳に箒の声が届いた。それと同時に一夏に銃口を向けていた敵に銃弾が叩きこまれ、構えていた銃ごと、その体が砕け散る。

 

 見れば、打鉄を身にまといアサルトライフルを構えた箒がピットから飛び出してきた。

 

 

「何をしているっ! 油断するなっ!」

 

 

 箒のその言葉に一夏は頷く。

 

 しかし、そんな一夏の耳にセシリアの悲鳴が届く。

 

 

「きゃぁぁぁあっ!」

 

 

 悲鳴と同時にアリーナの地面に叩き付けられるセシリア。

 

 見ればセシリアの機体には、いくつもの網が絡みついており、おまけに六体もの敵がしがみついていた。周囲から網を撃ち出し、それに絡め取られたセシリアが僅かにバランスを崩した隙をついて、その機体にしがみつき、推力任せに地面に叩き付けたのだ。

 

 シールドの減りこそ軽いものの、叩き付けられた衝撃は確実にセシリア自身にダメージを与えた。現にセシリアは一瞬意識が飛びかけたのだ。

 

 そして、しがみついていた一体の腕の装甲から一本のブレードが突出し、それはそのまま高速で振動しだす。空気を震わせる低い音と共に、それを振り上げ、セシリアの顔めがけて何度も振り下ろす。

 

 無論それはISのシールドに阻まれ、セシリアには傷一つ付かないが、シールドはほんの僅かに減ってゆく。

 

 その上、残りの五体も、銃口をセシリアの顔に向け、容赦なく引き金を引いた。

 

 銃口から散る火花と共にセシリアの悲鳴がアリーナに響く。

 

 ISを纏っている以上、すぐに命の危険があるわけではない。しかし、ISを纏っていようと、いかに訓練を積んでいようと、目の前にいくつもの銃口を突きつけられ、そこから、おびただしいまでの銃弾を浴びせられるというのは恐怖でしかない。

 

 故にセシリアは悲鳴をあげながらも、無我夢中で敵を振り払おうとする。

 

 しかし、機体に絡みついた網は強固でまともに身動きが取れなかった。

 

 

「やめろぉぉぉっ!」

 

 

 雄叫びをあげながら一夏がセシリアの下へ急接近し、雪片弐型を横薙ぎにふり、その一刀のもとに三体を切り伏せた。

 

 そして一夏に合わせるようにミルアもセシリアの下へと急接近し、その勢いのまま残りの二体を蹴り飛ばす。

 

 そのままミルアは、地面の上を勢いよく転がっていく二体に弾丸を叩き込んで撃ち砕いた。

 

 

「あらら、これはちょっとまずいわね」

 

 

 そう言って、少し下がったところで様子を見ていた男は、やれやれと言う具合に首を振り、

 

 

「撤収しようかしら。目的の物は手に入らないようだけど、面白い物を見れたし……」

 

 

「はい、そうですか。と言って帰すとでも思うか?」

 

 

 そう言って箒がアサルトライフルの銃口を男の背に突き付けた。

 

 しかし男はその状況に動じることなく、

 

 

「さりげなく後ろを取ったことは褒めてあげる。けれど……」

 

 

 僅かに首だけで振り返る男に、箒は警戒を強めて、引き金にかかった指に力を込める。

 

 

「そんな物で、生身の人間が撃てるのかしら?」

 

 

 その言葉に一瞬、箒が硬直する。

 

 それと同時に箒の眼前に、男が後ろ手に何かを投げた。

 

 箒がそれを視認した瞬間、それは爆ぜ、強烈な光が箒の視界を奪う。

 

 

「しまったっ! スタングレネードかっ!」

 

 

 ISのハイパーセンサーをも一瞬かく乱する閃光に箒は狼狽えるものの、ハイパーセンサーはすぐに復帰し、男の居場所を箒に伝える。

 

 

「上? 上空かっ! 逃がすものかっ!」

 

 

 空を見上げ、男を確認した箒は、すぐさま追いかける。

 

 男が身に着けているスラスターはISのそれに比べれば性能は劣るらしく、スピードがそれほどでない打鉄でも十分に迫ることができた。

 

 

「よしっ! 追いつけるっ!」

 

 

 箒がそう口にした瞬間、男のはるか前方で何かが光った。

 

 

「なっ? ロックオンされっづあぁっ!」

 

 

 数発のレーザーが箒に直撃し、大きくシールドエネルギーを削るとともに、大きな衝撃が襲う。そのまま墜落しかけるもなんとか持ち直した。

 

 箒はすぐに自分を撃った相手を確認する。

 

 ハイパーセンサーでとらえたのは見たことのないIS。

 

 濃い青色をしたボディに狙撃しようと思われるライフル。大型のバイザーによって素顔は確認できないものの、風になびく真っ赤な髪が見て取れた。

 

 撃ってきたことから敵であることは明白だが、今更現れたISに箒が困惑していると、ハイパーセンサーが、地上にいたセシリアの声を拾い上げる。

 

 

「あ、あれはサイレント・ゼフィルス……どうしてっ!」

 

 

「おいっ! あれを知っているかっ?」

 

 

「馬鹿っ! 箒、敵は前だぞっ!」

 

 

 一瞬、セシリアの方に意識を向けてしまった箒に一夏の怒声が飛ぶも、再度の射撃、それも五発が全弾、箒に直撃した。

 

 今度こそ墜落してゆく箒の下へ一夏が飛翔してゆくも、それよりも早く、ミルアの零式が箒を受け止める。

 

 自分を受け止めた漆黒の打鉄に気が付いた箒は、

 

 

「ミ、ミルアか……すまない……」

 

 

 そう言って箒はミルアを見るも、当のミルアはその視線をサイレント・ゼフィルスに向けていた。

 

 するとサイレント・ゼフィルスはくるりと背を向け海上の方へ撤退を開始する。

 

 

「一夏さん。箒さんをよろしくお願いします」

 

 

 ミルアはそう言って駆けつけた一夏に箒を投げ渡すと、海上のサイレント・ゼフィルスへ向けて加速する。

 

 来させまいとする激しいレーザーの砲火を潜り抜け、ミルアはサイレント・ゼフィルスとの距離を詰めていく。

 

 距離を詰められたサイレント・ゼフィルスはライフルから、小型のレーザーガトリングに切り替え、その銃口をミルアへ向ける。

 

 しかしミルアはその瞬間に、その射線から外れ、サイレント・ゼフィルスを中心に弧を描く様に動きつつ両手のガトリングを撃ちまくった。

 

 サイレント・ゼフィルスも回避行動をとりながら応戦するも、互いの弾丸は精々機体を掠めるのみで決定打にならない。

 

 すると先にミルアのガトリングの弾が切れ、銃身が空回りする。

 

 しめたと思ったのかサイレント・ゼフィルスの操者が、その口元に笑みを受かべた瞬間、眼前にミルアが迫っていた。

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)と呼ばれる、直線限定の急激な加速により、一瞬にして距離を詰めたのだ。

 

 そしてミルアは加速した勢いのまま、弾倉の空になったガトリングをサイレント・ゼフィルスの腹部に叩き付ける。

 

 

「っは!」

 

 

 衝撃に思わず肺の中の息を吐いたサイレント・ゼフィルスの操者は、殴られた勢いで後方へと飛ばされる。

 

 吹っ飛ばした側のミルアは、両腕のガトリングを量子化し、左腕に、腕ほどの大きさのブレードを展開。重量任せに叩き斬る、という具合の重厚なそれは、肘側にマウントされていたが百八十度回転することにより、その刃先を前方に向ける。

 

 次いで腰の両側に三門づつのミサイルポッドが展開され、サイレント・ゼフィルスに対して追い打ちとばかりに全弾、計六発が放たれた。

 

 そして、ミルア自身もミサイルを追う様にしてサイレント・ゼフィルスへと迫る。

 

 一方のサイレント・ゼフィルスは体制を立て直して迫るミサイルと零式を撃ち落そうとライフルを構える。

 

 しかし、ミルアの放ったミサイルは、何度ライフルでとらえようとしても、その射線上から逃れてしまう。距離を離そうとしてもそれぞれがバラバラの軌道で追いかけていく。

 

 何度か引き金を引くもレーザーは空を切り、何度目かの射撃がようやくミサイルの一発を捕らえ爆散させた。

 

 ようやく地上の敵を一掃し海上へと移動してきたセシリアは、その光景を見て、

 

 

「まさか、あのミサイル……私のと同じBT兵器?」

 

 

 セシリアの言うとおりミルアの放ったミサイルはBT兵器同様にその動きを思考制御されていた。しかもセシリアとは違い自分自身が足を止めることなく。

 

 その上、それぞれが意識的に回避行動を取りながら目標に迫っている。

 

 少なくとも今現在のセシリアには不可能な芸当だった。

 

 しばしの間、追いかけっこを続けていたミルアとサイレント・ゼフィルスだったが、六発のミサイルの内の四発が撃ち落とされ、残った二発がサイレント・ゼフィルスに直撃した。

 

 激しい爆発と、爆煙の中から逃れたサイレント・ゼフィルスの頭上から零式が迫り、左腕のブレードを振り下ろす。

 

 サイレント・ゼフィルスは咄嗟にライフルで自身を守るも、そのライフルはブレードに叩き折られ、殺しきれなかった一撃が機体と操者にダメージを与えた。

 

 

「ぐっ!」

 

 

 サイレント・ゼフィルスの操者は、衝撃と、それからくる痛みに口元をゆがめつつも、その腕で零式のブレードを掴んだ。

 

 そしてそのまま体を捻る様にしてミルアを海面へと投げつける。

 

 投げられたミルアは何とか海面ギリギリで踏みとどまるも、その直後レーザーの雨が降り注いだ。

 

 何発かがミルアに直撃、残りは海面に直撃し、激しい衝撃と水しぶきで一時的にミルアは足を止められる。

 

 

「まだ追いつける」

 

 

 水しぶきが収まり、空を見上げるミルアの視線の先に、小さくなってゆくサイレント・ゼフィルスの姿があった。

 

 追撃しようとするミルアに、

 

 

(もういいよ。ご苦労様)

 

 

 束から通信が入る。

 

 

(まだ追いつけます)

 

 

(無理だね。本気で逃げに入ったサイレント・ゼフィルスには追いつけないよ。零式は加速力こそあるけど最大速度は通常の打鉄と変わりないんだから。自分で使ってるんだからそのくらいわかるでしょ)

 

 

 ミルアの追いつけるという言葉に、束は言うだけ言ってぶつりと通信を切ってしまう。 

 

 そして、それに入れ替わる様に千冬から通信が入る、

 

 

「ミルア、追撃の必要はない。学園のシステムも復旧した。戻ってこい」

 

 

「千冬さん。申し訳ありません」

 

 

「織斑先生だ。あと、お前が謝る必要はない。強引な手だったがよくやった」

 

 

 そう言って千冬からの通信が切れ、ミルアは軽く息を吐いて、ようやく肩の力を抜いた。

 

 ふと学園の方を見てみれば箒を抱えた一夏が大きく手を振っている。

 

 ほんの僅かにサイレント・ゼフィルスが逃げた方を見たミルアだったが、やがて一夏たちの下へ向けて飛翔していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、さすがに生身でISに立ち向かうのはスリルがあるわぁ」

 

 

 とある施設の中にIS学園を襲撃した男とサイレント・ゼフィルスがいた。

 

 薄暗い照明に金属質の壁の通路、あまり幅は広くないが照明が暗いせいか通路の先が見えずいやに奥行きを感じる。

 

 通路を歩きながらフルフェイスの男が、それを取ると現れたのは金髪碧眼。三十歳手前と思えるような顔立ちには少し疲れが見える。

 

 一方のサイレント・ゼフィルスが量子化され、現れたのは、長い赤髪に翠の瞳をした女性。こちらはまだ二十歳前後という具合に、猛禽類の様な鋭い目つきをしていた。

 

 

「にして、コロナが来てくれなかったら私、まじで危なかったわ」

 

 

 男がそう言うと、コロナと呼ばれた女性は眉をひそめ、

 

 

「そう言うなら、今度からは私かオータムを連れていけ。『人形』だけでISの相手ができるわけがないだろう。そのうえ未だ量産体制が整っていないのに今回出した『人形』は全滅だ。あぁ幹部らの説教が五月蠅そうだ」

 

 

「あくまで『未だ』でしょ? 目途は立ってるって聞いたわ」

 

 

「そうらしいがだからと言って全部壊していいわけではないだろ」

 

 

「肝に銘じておくわ」

 

 

 そう言って自嘲気味に笑った男だったが、すぐに真剣な表情になりコロナを見る。

 

 その視線に気が付いたコロナは「ん?」と小さく声を出した後、

 

 

「どうした、ウェイブ?」

 

 

「さっきの戦闘だけど大丈夫だったの?」

 

 

 男、ウェイブの問いにコロナは、

 

 

「大丈夫と言いたいが正直冷や汗をかいた。なんだあの小娘は。あの篠ノ之束の使いっぱしりとは聞いていたが予想以上だ。いや正規の軍人相手に暴れたみたいな報告もあったから、あの実力は予想しておくべきだったか」

 

 

 そう言ってからコロナは軽くため息を吐くと、

 

 

「しかし、やはり私にはサイレント・ゼフィルスは使いこなせない。まぁBT兵器の適正がこれっぽっちもないのだから当然と言えば当然だが」

 

 

「で、どうするのサイレント・ゼフィルスは?」

 

 

「Mに譲るさ。あの子の方がISの扱いもBT兵器の適正も、私より上だからな。あの子の活躍が楽しみだ」

 

 

「貴方って本当に後輩想いね。まぁ、あの無愛想なMが懐くだけあるわ」

 

 

「いや、お前の事も嫌ってはいないみたいだぞ。『いい奴だが変な奴だ』とは言ってたが」

 

 

「それ喜んでいいのかしら?」

 

 

 ウェイブはそう言って苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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