SAVIOUR~無限のソラへ~   作:風羽 鷹音

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04 失ったモノ

 知っていたのかもしれない。

 

 けれども今はしらない。

 

 それに関して何かを感じることもない。

 

 かつては感じることができたのかもしれない。

 

 全てが今とは違っていたのかもしれない。

 

 いや、何も違っていなかったのかもしれない。

 

 けれども、今の私にはどうでもいいことだ。

 

 いま目に映る世界。

 

 それが今の私の全て。

 

 過去はいずれ取り戻す。

 

 いずれ必ず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静かな暗がりの中、空間に浮かぶいくつものディスプレイの明かりが奇妙な人物を映し出していた。背後にはいくつもの光の球がぷかぷかと浮かぶ水槽が置いてあり、ディスプレイと水槽の光が部屋の僅かな光源となっている。

 その光源に照らされた人物の頭にはピコピコと動く機械仕掛けのウサギの耳が。

 身にまとうのはゴシックドレス。

 不思議の国のアリスをモチーフにしたようなデザイン。

 そんな変わった格好をした彼女「篠ノ之束」の顔には、意地の悪そうな笑みが浮かんでいる。

 彼女は笑みを浮かべたまま、不意に、

 

「どうかしたのかい、くーちゃん?」

 

 振り返ることなく言うその言葉に、呼応するかのように一人の少女が束の後ろに立つ。

 白い肌に銀色の長い髪。

 くーちゃん、と呼ばれた少女が身にまとうのは、束とは違い黒と白のみで構成されたゴシックドレス。何より特徴的なのはその瞳。

 黒の眼球に金色の瞳。

 クロエ・クロニクルこと「くーちゃん」は空間に浮かんだディスプレイのいくつかに目を移し、

 

「ミルア様は相変わらずお強いですね」

 

 そう言って僅かに笑みを浮かべる。

 彼女の見ているディスプレイにはIS学院が謎の連中に襲撃された際の戦闘記録が映し出されていた。

 

「まぁ、この程度の連中、ちょちょいってやっつけることができないとね。それができないなら、あの子はほんとに出来損ないだよ」

 

 くーちゃん、と呼んだ時は優しげな声色だったのに途端に冷たい雰囲気へと移行する束にクロエは怪訝な表情をした。

 それに気づいているのか、いないのか、束は再び笑みを浮かべると、

 

「それにしても、くーちゃんは本当にあの子が好きなんだね?」

 

「え? それはまぁ、私を助け出してくれた方ですから。普段もよくして貰っています」

 

 クロエは、束の問いに嬉しそうに答える。

 

「でも、私は束様のことも大好きですよ? 私を此処に置いてもらって色々教えてくださいますし」

 

 先ほどと同様に嬉しそうに話すクロエに束は満足そうな笑みを浮かべて、

 

「うんうん。くーちゃんは本当にいい子だね。束さんは嬉しいよ」

 

 そう言ってクロエの頭をなでると、

 

「いい子な、くーちゃんにはご褒美をあげないとね。今回はなんと、あの子の連絡先を教えてあげましょう」

 

 束の言葉に嬉しそうな反応をしめすクロエに、束はうんうんと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、これって第三世代のISですよね?」

 

「武装であるミサイルだけは第三世代といえるがな」

 

 真耶の問いに千冬はそう答える。

 二人が見ていたのは打鉄零式の戦闘記録と零式自身の機体データだった。

 ちなみに二人の後ろにはミルアが黙って控えている。

 

「で、でもさまざまなデータを見るに、第三世代に匹敵しますよ。織斑君の白式やオルコットさんのブルーティアーズにも見劣りしてないですよ」

 

 確かに真耶の言うとおり「零式」などという名前に似合わず、出力を始めとした様々な数値が第二世代機である「打鉄」を凌駕し第三世代機とそん色ない。

 しかし、真耶が一番驚いているのはそこよりも機体の詳細な構成だった。

 

「これ、装甲の色こそ一から塗ってあるみたいですけど、内部は全て既存のパーツのみで構成されてるんですね。いろんな企業のISの寄せ集めとでも言うべきでしょうか。それと細かな微調整」

 

 そこまで言って真耶はごくりと喉を鳴らした。

 打鉄零式の中身は確かに既存のパーツのみでくみ上げられていた。

 ただ単に性能のいいパーツを組み合わせたわけではなく、互いが互いの性能を阻害することなくバランスよく組み上げられている。

 単純に数値だけを見れば零式は第二世代最強と言っても問題はないだろう。

 

「さすが篠ノ之博士ですね。新しいパーツを使わずここまでの物をくみ上げるなんて」

 

 真耶が感心していると、今まで黙っていたミルアが、

 

「例え十全を許されずとも、私は天才なんだよ。だそうです」

 

 以前、束が言っていた言葉を口にした。

 そして、ミルアは千冬を見上げて、

 

「もういいですか? そろそろパーティーの時間なんですが」

 

「パーティー?」

 

「織斑先生、あれですよ。織斑君の一組代表のお祝い」

 

 千冬が疑問を声をあげ真耶がそれに答えると、千冬は「あぁ」と納得したように頷いた。

 本来なら決闘で勝利したセシリアが一組代表をするはずだったのだが、どういうわけか一夏に譲ったのだ。

 本人いわく、

 

「一夏さんには素質がありますわ」

 

 という事なのだが。どういう訳かその後ろでは箒が一夏を睨んでいたことを追記しておく。

 さて、そろそろ。という具合にミルアがパーティーに向かおうとすると、それを千冬が呼び止め、

 

「ミルア。お前にこれを渡しておく」

 

 そういって渡されたのは薄いビニールに包まれたソレ。

 

「制服ですか?」

 

「そうだ。小さいお前の為に完全オーダーの制服だ。校則では多少の改造はありだが、さすがにもったいない。改造してくれるなよ」

 

 千冬の言葉にミルアはこくりと頷く。

 そして、その場を立ち去ろうとして、不意に足を止めると、千冬を見上げ、

 

「織斑先生は出席しないのですか?」

 

「教師が参加してどうする。あいつらが楽しめないだろうが」

 

 千冬の言葉にミルアは、普段から放っているプレッシャーを押さえておけばいいのに、と思う。

 

「何か言いたげだな」

 

「そうですね。教師としてではなく、一夏さんの姉としては?」

 

「そうですよ、織斑先生。そうしたらいいですよ」

 

 ミルアの提案に真耶も同意する。

 しかし千冬は首を横に振った。

 仕方ないとばかりにミルアも首を横に振る。

 家族なのによくわからないな。と、そんな事を考えながらミルアはその場を後にする。

 そんなミルアの背中を見送った真耶は、

 

「織斑先生、せめて、お祝いのメールぐらいしてあげたらどうですか? 織斑君も喜ぶと思いますし」

 

 何処か遠慮しがちにそう提案する真耶に千冬は少し苦い顔をして、

 

「まぁ、そこまで言うのでしたら。考えなくもないですが」

 

 そう言った千冬に対して、真耶は小さく「素直じゃないですね」といって苦笑した。

 しかし次の瞬間「何か?」という具合に千冬に睨み付けられ、小さな悲鳴をあげる。

 

「それで、襲ってきた奴らについて何かわかったことは?」

 

「わからないことが、わかったというところでしょうか……」

 

 真耶はそう言って苦い顔をする。ディスプレイの文字の羅列を見ながら、

 

「材質自体は珍しい合金ではありません。ISを始め広く普及しているものです。その他の装備も特に珍しいものはありません」

 

 そこまで言って真耶は眉をひそめると、

 

「体の構造、そのAI全てが未知の物です。構造は解析できますが、AIに関しては機能停止時に、そのデータの殆どが自壊しています」

 

「記録の類には期待できないな。忌々しい」

 

「襲ってきた連中の背後関係もまったく……」

 

 真耶の言葉に千冬は黙って頷く。

 そして、しばらく何かを考えたのち、

 

「山田先生、ここはお願いします」

 

「え? 織斑先生は?」

 

「私は少し調べておきたいことがあるので」

 

 千冬はそう言うとそのまま部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 寮の自室に戻ったところで千冬は懐から携帯端末を取り出した。

 しばらく端末を片手に何か考えている様子だったが、端末を操作して耳に当てた。

 

「やぁやぁっ! ちーちゃんっ! 天才『篠ノ之束』さんに何か御用かなっ?」

 

 大声が漏れる携帯端末を耳からはなし、僅かに顔をしかめた千冬だったが、直ぐに気を取り直し、

 

「聞きたいことがある」

 

「おーけーおーけーっ! 私に答えれることなら答えちゃうよっ!」

 

「学園を襲った連中に関して何か知っているのではないか?」

 

「むふふ、知っているか? と問われればイエスだね」

 

「何を知っている?」

 

「私の敵ってことだけだよ。連中のAIの自壊っぷりは、そっちでも確認できてるんじゃないかな?」

 

「お前も連中に襲われたのか?」

 

 千冬の質問に束は、くくく、と笑うと、

 

「いやいや、襲われたわけじゃなくて、襲ったんだよ。ちょーっと気に食わない事があってね。まぁ元々、私を探してたみたいだし、あいさつ代わりに、あの子を送り込んだんだよ」

 

「あの子? ミルアの事か?」

 

「そうだよ。いやぁ、連中の施設を派手にぶっ壊してくれてさ。まぁ施設のデータなんかは、やっぱり自壊してたんだけど」

 

「何か情報は手に入ったのか?」

 

「いんや、なんにも。わかったことと言えば連中が、あの『人形』を何処かで量産しようとしていることぐらいかな」

 

 束の言葉に千冬は息をのむ。

 ISには遠く及ばないとはいえ、束が『人形』と呼んだ、あれは兵器としては十分優秀だ。

 機動性、攻撃力、人型故の汎用性。

 歩兵の代わりとなりえるあれらが量産となれば、ISの登場によって変化を余儀なくされた世界が……

 

「世界が再び様変わりするぞ」

 

「結局、世界を変えるのは破壊を振りまく力ってことかな? やだねぇ」

 

 千冬は怒気を含めて、逆に束は呆れを滲ませて、その言葉を吐く。

 

「ふざけるなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「織斑君、一組代表決定おめでとーっ!」

 

 お祝いの言葉と共に、一斉にクラッカーが鳴らされる。

 テーブルの上にはクラスの皆が各自持ち寄った多種多様なお菓子の山。

 寮の食堂で、一夏の代表就任のパーティーが行われていた。

 クラッカーの残骸が降り注ぐ中、一夏はぼそりと

 

「何故、こうなった……」

 

 そうぼやく。

 そんな一夏の隣にミルアが立ち、

 

「何故でしょうね」

 

 一夏のぼやきに同意した。

 

「俺、負けたはずだよな?」

 

 一夏の問いにミルアは頷き、

 

「はい。負けたはずです」

 

 そう言って肯定する。

 すると、そこへセシリアが歩み寄り、僅かに頬を染めながら、

 

「『一夏さん』の素質は直接戦った私が一番理解しているつもりです。大丈夫です、一夏さんなら素晴らしい代表になりますわ」

 

 そう言って満面の笑みを浮かべる。

 

「それでなのですが、よければ今後は代表候補生である私が直接ISの指導を……」

 

「いや、気持ちは嬉しいけど、俺、ミルアに教えてもらってるしなぁ……」

 

 セシリアの申し出に対して一夏が申し訳なさそうに言う。

 すると箒が傍に寄ってきて、

 

「まて一夏。実の所ミルアの指導はかなりいい加減だ。それに指導の経験は皆無だそうだぞ」

 

「え? そうなのか?」

 

 一夏にそう問われたミルアは特に隠す必要もないので、

 

「はい」

 

 と一言で答えた。

 ミルアとしては別に一夏の指導役にこだわりがあるわけではないので、やりたいという人物に譲ることには何の問題もない。

 

「でしたら私に」

 

「待て。一夏の指導は私がやる」

 

「あらIS適正ランクCの篠ノ之さんが?」

 

 セシリアの指摘に箒はぐっとつまる。ちなみにセシリアはA+である。ついでに補足すると一夏がB、ミルアがAである。

 負けじと箒は一歩前に踏みだし、

 

「ランクは関係ない。重要なのは教える側と教わる側の相性だ。教える側がいくら優秀でも、教わる側が吸収できなければ意味がない。その点、私は幼馴染だ。相性は問題ないし、一夏も教わりやすいだろう」

 

「相性と言いますが、ただの馴れ合いでは意味がありませんわ。それに仮に相性がよくとも教える側の実力がそれ相応でなければ本末転倒ですわ」

 

 箒とセシリアは胸の前に腕を組み、今にも互いに額をぶつけんと言わんばかりに詰め寄り、視線で相手を殺すかのごとく睨み合う。

 ミルアはその光景を、何故に、と思いながら見ていた。

 すると目の前の光景に困惑していた一夏が、

 

「な、なぁ、ミルアは誰がいいと思う? 俺は別にミルアの指導でも構わないんだぜ?」

 

 その言葉は一夏なりに妥協点を求めたものだったのだろう。

 箒をとってもセシリアをとっても角が立つ。だったら現状維持を、と。

 しかしミルアはそんな一夏の思いを全く気付かずにスルーし、

 

「セシリアさんの方がいいでしょう? やはり経験豊富ですし」

 

 当然だろうという具合に言う。

 その言葉にセシリアは満足げに頷き、箒は殺気のこもった視線をセシリアからミルアに移す。

 箒の視線に、ミルアが、え? なんで? と思っていると、一夏が話題をそらそうと、

 

「そう言えばミルア、制服に着替えたんだな。うん、似合ってるよ」

 

 そんな一夏の言葉に、ミルアは真っ直ぐに一夏を見上げる。

 そして軽くスカートをつまみあげると僅かに頭を下げ、

 

「ありがとうございます」

 

 そうお礼を口にした。

 テレビで見た光景を少し真似してみただけなのだが、それなりに様になっていたようである。

 一夏も笑みを浮かべて、

 

「いやホント似合ってるよ。すごく、可愛い」

 

 一夏の「可愛い」という台詞の直後に周囲から複数の視線がミルアに突き刺さる。

 特に至近距離にいる箒からの視線、もとい殺気がより強くなった。

 箒の視線に、私が何をした? とミルアは思いつつ、

 

「で、一夏さんは誰に訓練してもらうのですか?」

 

 一夏の思いなんて知らずに話を蒸し返した。

 ミルアの酷な質問に一夏は苦笑しつつ、

 

「いや、もう三人に見てもらった方がいいような……」

 

「なんだっ! その優柔不断な答えはっ!」

 

「そうですわ一夏さんっ! 男らしくありませんわっ!」

 

「一夏さんがそれでいいなら別に私はかまいませんけど」

 

 一夏の答えに三者三様の答え。

 箒とセシリアは一夏に詰め寄り、ミルアはそこから数歩引いたところで一夏達を見ていた。

 これ、収拾つくのかな? そう思いながら一夏達の騒ぎを見ていたミルアだったが、食堂の入口付近に人の気配を感じて、そちらに視線を移した。

 

「薫子さん、取材ですか?」

 

 ミルアは食堂に入ってきた少女、新聞部の黛薫子(まゆずみ かおるこ)にそう声をかけた。

 薫子は二年生で、入学式以前からIS学園にいるミルアとは顔見知りだ。

 手をひらひらと振りながら薫子は、

 

「やぁミルアちゃん。制服似合ってるね」

 

「ありがとうございます。で、取材ですか?」

 

「そうそう。一組代表になった話題の男性操者、織斑一夏の取材に来ましたーっ!」

 

 薫子の背後で花火が上がりそうな勢いである。

 ミルアはなんとなく一歩後ろに下がる。

 

「ではでは織斑君。よろしくねーっ! はい、これ名刺」

 

 薫子の勢いに押され、一夏は素直に名刺を受取る。

 

「あの、黛先輩。取材はいいんですけど、具体的何を?」

 

 名刺を手にしたまま一夏がそう聞くと、薫子はポケットからボイスレコーダーを取りだした。

 そして、それをずずいと一夏に向けると、

 

「簡単簡単、質問に答えてくれるだけでいいから」

 

「はぁ……まぁいいですけど」

 

「ではではっ! クラス代表になった感想をどうぞっ!」

 

「えぇっと……がんばります」

 

 一夏がそう答えると、薫子はがくっとなり、

 

「うわっ……みじか……もっと、ない? こう、俺に触れると火傷するぜっ! みたいな?」

 

「いえ、自分、不器用ですから」

 

「うわっ、前時代的っ!」

 

 薫子の言葉に皆が笑う。

 

「まぁ、いいか適当にかっこいいセリフをねつ造しておくよ」

 

 そんな薫子の発言に、一夏が「え?」と困惑しいると、薫子はその矛先をセシリアに変える。

 突撃インタビューを開始したものの、薫子は長くなりそうなセシリアの演説を早々に切り上げた。

 そして、皆が思い思いにお菓子を食べ、会話を楽しんだ後で薫子により記念撮影で、パーティーは終わりを迎えた。

 

 

 

 

 パーティーが終わり皆が各自の部屋に戻る中、ミルアは単独行動をしていた。

 向かう先は訓練機などが保管してあり、整備なども行えるIS学園の整備棟。

 ミルアは別に整備棟に特別な用事があったわけではない。日が沈み、学生寮の門限が近づく中、学生寮よりも人気が少ないから、という理由で向かったに過ぎない。

 そして整備棟を前に、ミルアは不意に足を止めると、後ろを振り返る。

 軽く周辺を見渡したミルアは、道脇の一本の木に目をとめ、

 

「そんな所でかくれんぼですか? 生徒会長」

 

 何処かあきれたようにミルアがそう言うと、木の陰から出てきたのは一人の少女。

 やや短めの髪が全体的に外へと跳ねている。釣り目がちな瞳と、僅かに笑みを浮かべた口元。その表情はいたずらっ子という感じだった。

 ミルアに生徒会長と呼ばれた少女は、その口元を、閉じた扇子で軽く隠すと、

 

「あれぇ? どうしてわかっちゃったのかな? 結構本気で隠れてたのよ?」

 

 そう言って彼女が開いた扇子には「驚愕」の二文字が描かれている。

 

「せめて熱源を消すぐらいはしてください」

 

 ミルアがそう言うと、生徒会長と呼ばれた少女は、

 

「何それ、何処の狩人? シュ○ちゃん呼ぶ? それともダ○ー?」

 

「シ○ニーでお願いします」

 

「わぉ、夢の対決ね。泥パックで準備は万端?」

 

 そんな感じでどうでもよさげなやり取りが行われた後、

 

「ところでミルアちゃんもIS学園の生徒になったんだから気軽に楯無(たてなし)先輩って呼んでいいのよ?」

 

「では、楯無先輩。何か御用ですか?」

 

 ミルアの問いに、少女、更識楯無(さらしきたてなし)は笑みを浮かべて、

 

「単刀直入に聞くわね? ミルアちゃん、貴方は何者?」

 

 その質問にミルアは首をかしげ、

 

「この学園に来た時に説明した筈ですよ?」

 

「うん、そうね。篠ノ之束博士の使いで、専用機持ち、で年齢は十歳」

 

 楯無の言葉にミルアはこくりと頷く。

 

「でもね、それだけなのよ。貴方が何処の誰で、どうして束博士といたのか、何にもわからないのよ。いくら調べても」

 

 そこまで言うと楯無は、ぱんっと扇子を閉じる。隠していた口元にはにんまりと笑みを浮かべている。

 

「もう一度聞くわね? ミルアちゃん、貴方は何者?」

 

「名前はミルア・ゼロ。これは間違いありません」

 

「年齢は?」

 

「さぁ? ただ束さんが適当に決めました」

 

「決めた? 自分の年齢わからないの?」

 

 楯無がそう言うとミルアはこてんと首をかしげ、

 

「覚えていませんから」

 

 ミルアの言葉に楯無は驚いたような表情をした。

 覚えていない、その言葉の通りミルアは何も覚えていなかった。名前も年齢も、何処で生まれ、何処で生きてきたか、どんな道をたどってきたか、何一つ覚えていなかったのだ。

 

「束さんは、怪我をしていた私を拾ったと言っていました」

 

「自分の事なのに随分とあっさりしてるのね」

 

 楯無がそう言うとミルアは首を横に振り、

 

「記憶がない事、今の私には、それをどう感じればいいのか、わかりませんから」

 

 ミルアの言葉に楯無は僅かに目を伏せる。

 

「ごめんなさいね。辛い事聞いちゃったかしら?」

 

「いえ、辛いとか、よくわかりませんから」

 

 ミルアの言葉に楯無は何処か悲しげな表情をした。

 それが何故なのかミルアにはわからず再び首をかしげる。

 そんなミルアを見て僅かに笑みを浮かべた楯無は、

 

「ねぇミルアちゃん。困ったことがあったら何でも相談してね。先輩として、年上のお姉さんとして力になるから」

 

 その言葉にミルアは「はい」と頷く。

 楯無は、うんうんと頷きながら、

 

「それで学園生活は楽しい? ルームメイトの織斑君とは仲良くしてる?」

 

 ミルアは頷き、

 

「はい。皆さんよくしてくれます。一夏さんも」

 

 そこまで言って、ミルアは「あ」と何かを思い出したように、

 

「最近、一夏さんに注意されました」

 

 ミルアの言葉に楯無は僅かに驚く。

 どうにもミルアが一夏に注意されている光景が思い浮かばなかったのだ。

 

「シャワーを浴びた後、下着姿でうろつかない事。寝るときは服を着る事」

 

 ミルアのその言葉に今度は「え?」と驚きの声をあげる楯無。

 言葉通り、ミルアはシャワーを浴びた後、下着姿でうろつき、寝るときは全裸で寝ていた。服を身につけないほうが、よく眠れる気がする。というのがミルアの理由だ。

 

「それで、今は?」

 

「寝巻を持っていなかったのですが、一夏さんがシャツを貸してくれてます。一夏さんのシャツは大きいので助かります」

 

「それ誰かに見られたり、言ったら駄目よ? 主にミルアちゃんの身の安全という意味で……」

 

 額を押さえ、ややため息交じりにそう言う楯無に、ミルアは不思議そうに首をかしげるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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