SAVIOUR~無限のソラへ~   作:風羽 鷹音

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05 少女たちの一端

 世界は一度変わりました。

 

 人々が望んだものではなく。

 

 変えたいと望んだ者によって。

 

 けれど思うようには変わりませんでした。

 

 そして、今また徐々に変わろうとしています。

 

 こんどは以前とは違う者たちによって。

 

 誰も望んでいない。

 

 何より彼女が望んでいない。

 

 今を否定し、変わろうとする未来も否定して。

 

 何処を目指しているのかはわからないけれど。

 

 私はできる限り彼女について行こうと思います。

 

 例え彼女にとって私が道具であったとしても、これは私の意志だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球上の何処にあるかわからない篠ノ之束の研究室。

 照明器具一つない部屋の中、空中に浮かぶディスプレイと、光の浮かぶ水槽が、部屋の壁が白であることを教えてくれる。

 窓一つなく、明かりも乏しいため扉が何処にあるのかもわからない。

 しかし、数少ない光源であるディスプレイは部屋の主である篠ノ之束を浮かび上がらせるには十分であった。

 束は自らの座るリラックスチェアごと、音もなく、くるくると回転している。

 やがて満足したのか、彼女は、その回転を軽く足で止め、

 

「ビームライフルにビームサーベル、ビームシールド。まぁ悪くはないね。シンプルすぎてセンスがあるとは言えないけど」

 

 そう言った彼女の口元には僅かに笑みが浮かんでいる。

 

「問題はエネルギーの供給元かな。全てをリアクターと直結させたら、さすがに持たないしね。それに比べ、あの子の送ってきた案は、レトロだけど、ある種のロマンだよね。さっそく作っちゃおうかな」

 

 束はディスプレイを見ながら僅かに考え込むが、やがて背もたれに深くもたれ掛る。

 しばらく、深くもたれ掛り、浅くもたれ掛りと、繰り返していたが、

 

「確かに、この私をもってしても状況は悪化している。世界が再び変化しようとしている。でもね、そんなことは絶対にさせない。そんなことになればISはISでいられなくなる」

 

 束はそう言うと椅子を一回転させ、その身を起こし正面のディスプレイを見つめる。

 

「そうだよ。その為に私は多くのモノを利用する。箒ちゃんや、ちーちゃん達でさえ」

 

 そう言って束は目を細める。

 その目にあるのは明確な怒りの感情。

 常に他者より上な態度をとっているような束は、不快感やいら立ちを表に出すことはあっても、怒りの感情を表に出すことはないと言っていい。

 今の束の表情は、親友である千冬も「珍しい」と言うであろうものだった。

 

「この世界は私たちの物だ。余所者にくれてやる気はさらさらないんだよ」

 

 束はそう吐き捨てると椅子から立ち上がり、大股で部屋の端まで歩いていく。

 すると空気の抜けたような音ともに壁の一角がぽっかりと開き、その先には部屋とは別の闇が広がっていた。

 束はそのまま、新たな闇の中へと足を進め、主不在となった部屋は水槽に浮かぶ光を残して、闇と無音の世界へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく……」

 

 ミルアはそう呟くと小さなため息をつく。

 打鉄零式を身にまとったミルアがいるのは第三アリーナ上空。

 何処までも広がる雲一つない青い空がミルアの頭上に広がっている。

 じっと見つめていると、見ているだけで心地のいい青空に吸い込まれそうになる、何処か遠近感が狂うような感覚。

 息を吸えばまだひんやりとした空気が肺を満たした。

 肺の中の空気をふうと吐き出すと、

 

「私の我が儘に付きあわせてしまって、申し訳ありません」

 

 そう言ったのは、ミルアの前方三十メートルほどにいるセシリアだった。当然その身には彼女の専用機であるブルー・ティアーズを纏っている。

 謝罪の言葉を口にはしたが彼女の眼には、そういう物は感じられない。あるのは戦意だけだ。

 何が彼女をそうさせるのか、ミルアにはわかるような、わからないような、複雑な感じだった。

 ふと、周囲に目を向ければ、アリーナの観客席には何人かの生徒が見えた。

 一夏や箒を始めとした一組の生徒たちがちらほらといる。

 

「セッシーもミルミルーも、がんばれー」

 

 なにやらゆっくりとした口調で二人を応援している少女が見える。

 やたらと袖の余る服を着ていて、手を振れば余っている袖がぶんぶんと左右に揺れている。

 そんな彼女にミルアは軽く手を振る。

 すると最初は右手のみを振っていた彼女は今度は両手を振り始めた。

 結果として彼女の左隣にいる一夏に彼女の袖が直撃することになっている。

 

「何と言いますか、緊張感に欠けますわね」

 

「そうですね」

 

 セシリアの言葉にミルアは頷きながら同意を示した。

 するとセシリアは、軽く頭を下げ、

 

「あらためて申し上げます。模擬戦を受けていただいてありがとうございます」

 

 その言葉にミルアは首を横に振り、

 

「いえ、構いません。私に何か不都合があるわけでもありませんから」

 

 事実を素直に言うミルアだったが、セシリアはミルアの言葉に苦笑を返した。

 そんなセシリアの表情にミルアは首を僅かに傾げる。

 

「二人とも準備はいいか?」

 

 唐突に響くのは千冬の声だった。

 アリーナのスピーカーを通して管制室から呼びかけているようだ。

 

「私は問題ありません」

 

 セシリアはそう口にし、ミルアも管制室に向かって頷き返す。

 

「これより、セシリア・オルコットとミルア・ゼロによる模擬戦を開始する。シールドエネルギーの下限値は公式大会の規定に基づいて二割とする」

 

 千冬のその言葉に、先ほどまで賑わいを見せていたアリーナの観客席に緊張が走る。

 僅かな無音の世界。

 セシリアとミルアの視線が交差し、そして……

 

 開戦を知らせるブザー音がアリーナに響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミルアとセシリアの模擬戦が行われる一週間前、ミルア、一夏、箒、セシリアの四名は日曜日を利用して、第一アリーナで自主訓練をしていた。

 日曜日はさすがに他の生徒も休息に使っているのか、他に第一アリーナを利用している生徒はいない。事実上貸切状態だった。

 そして自主訓練の内容は、ミルアが箒を、セシリアが一夏を叩きのめすという物だった。

 クラス代表を決める決闘に置いては、セシリア相手にそれなりに、いい勝負を見せた一夏だったが、二戦目以降はそうもいかず、間合いを詰めることもできずにセシリアに撃ち落とされている。

 箒の方は、間合いをつめてブレードで斬りかかれば、いとも簡単に腕部のブレードで受け止められ、小さな体に見合わない力で思い切り押しのけられて、態勢を崩したところにガトリングによる一斉掃射を浴びて撃墜。

 距離をとってアサルトライフルを撃とうものなら、まるで踊る様に、弾丸の殆どをいとも簡単に回避され、ガトリングによるけん制、瞬時加速での急接近、そして瞬時加速の勢いを乗せたブレードの一撃。更に止めと言わんばかりに瞬時加速を利用して地面に叩き付けられ、シールドエネルギーの多くを残した状態で気絶するという散々な有様だった。

 

「ブレード一本で世界最強になった千冬姉の凄さを改めて実感した……」

 

 一夏はそうぼやいて崩れ落ちている。

 そんな一夏を見ながら、

 

「なぁミルア」

 

「なんですか、箒さん?」

 

「どうして一夏の面倒をセシリアが見ているんだ」

 

「一夏さんの百式はブレード一本しか武器がないですからね。間合いを詰める練習にはセシリアさんが一番適任のような気がして」

 

 ミルアのその言葉に箒は顔をしかめる。

 何せ言葉の最後に「気がして」である。確証があっての事ではないのだから、箒には面白くなかった。

 

「だったらお前でもいいではないか。弾幕という意味ではお前のガトリング二丁の方が圧倒的だろう?」

 

「いえ、セシリアさんが乗り気だったので」

 

 ミルアがそう言うと、箒は「なにっ!」と声を荒げる。

 そんな箒にミルアは首を傾げ、

 

「何か問題でも?」

 

 その言葉に箒は困ったように、

 

「いや、問題というかな……あぁ、どう理解させたらいいのか」

 

 そう言って悩み始めた。

 頭を抱え、あーでもないこーでもないと悩み続ける箒を、ミルアは不思議そうに見ている。

 ミルアには箒が何を悩んでいるのかわからなかった。

 現状、箒にとってセシリアは、一夏をめぐる恋敵だ。故に一夏の面倒をセシリアが見るのが気に食わないのだ。しかもセシリアが乗り気だと聞いてますますもって面白くない。

 箒の中では、恋愛ごとに疎いミルアを利用して、しめしめと笑みを浮かべているセシリアのイメージ映像が浮かんでいる。実にいい笑顔で。

 

「ミルアさん交代しましょうか?」

 

 そう声をかけてきたのはセシリアだった。

 

「一夏さんの方はいいのですか?」

 

 ミルアがそう聞くとセシリアは苦笑して、 

 

「繰り返す訓練に置いて飽きというのは馬鹿にできませんわ。モチベーションが下がってしまえば効率も落ちますし。無論、モチベーションを維持し続ける人もいるでしょうけど、誰も彼もがというわけではありませんから」

 

 そんなセシリアの言葉にミルアは、なるほどと頷く。ミルアは割と延々と同じことを繰り返すことが多いタイプなので、セシリアの意見は貴重だった。

 そしてセシリアの提案を受けたミルアは一夏の前に立つ。

 その一方でセシリアは箒の前に立ち、二人の間に妙な空気が流れる。

 そんな空気に気が付いたのか一夏が二人の方を見ながら、

 

「なぁミルア、あれ放っておいていいのか?」

 

「正直どうしたらいいのかわかりません」

 

 そう言ってミルアは首を横に振る。

 一夏もよくわかっていないらしく「確かに」などとミルアに同意を示していた。

 箒とセシリアが時折険悪なのはお互いに一夏をめぐる恋敵だからなのだが、渦中の一夏は超が付くほどの鈍感。自分への好意は勿論、色恋沙汰そのものが壊滅的に理解できていない。

 そしてミルアは、記憶がないからなのか、そもそも小学生と変わらない見た目から考えられる年齢的に、その手の事を理解できないのか。

 兎にも角にも、この二人には収拾のつけようがなかった。

 

「訓練はじめようか」

 

 諦めの混じった声で一夏はそう言うと上空へと舞い上がる。

 

「ですね」

 

 ミルアもそう言って一夏の後を追う。

 下を見てみれば箒とセシリアは未だ硬直状態。

 セシリアと違って箒の使用する打鉄は学園の訓練機、その使用は常に順番待ちで使える時間も限られているというのにもったいない。そんな事をミルアは思いつつ一夏と対峙する。

 

「それで、どうするんだ?」

 

 一夏の問いにミルアは少し考えるようなそぶりをした後、

 

「そうですね、一夏さんには私の放ったミサイルを掻い潜って、その上で私に一撃入れてください」

 

 さらっと言ってのけるミルアに一夏は硬直する。

 

「えっと……ミサイルってあれだよな、いつか見たBT兵器……」

 

 そう言う一夏の背中を汗が伝う。六発のミサイルがミルアの意思で動き、それに追い掛け回される自分が想像された。

 しかし現実は非情である。

 零式の腰の両側、さらに両足にそれぞれ三発のミサイルポッド。合計十二発のミサイルがそこにあった。

 

「え?」

 

 そう声を漏らした一夏。

 無理もない、彼が想像していたのよりも二倍の数である。

 想像していた六発ですら危ういのに十二発。

 慌てた一夏は、

 

「ちょっと待てミルアっ! いくらなんで――」

 

 一夏が言い切るより早く、十二発のミサイルが一斉に放たれる。

 合図もへったくれもない完全な不意打ち。

 

「うおぉおおっ?」

 

 驚きの声をあげながらも一夏は回避行動に移る。と、言っても後ろに逃げるだけだが。

 無論十二発のミサイルは執拗に一夏を追いかける。

 アリーナ上空には障害物など一切ない。

 ミルアの視界に一夏が捕らえられている以上、一夏にミサイルを振り切るというのは無理な話だ。

 背後から迫ってくるミサイル群に追い立てながらもアリーナの広さを最大限利用して逃げ回る一夏。

 しかしそれでは一向に意味がない。目的はあくまでもミルアに一撃を入れることなのだ。

 しばらく逃げに徹していた一夏だったが、不意にその軌道を変える。

 一直線にミルアに向かってきたのだ。その背後にミサイルを引きつれて。

 何故か、一夏はどや顔。

 そんな一夏に対してミルアは加速。一夏に向かって。

 驚いたのは一夏だ。

 そしてミルアがすれ違う様に一夏の横を抜けていき、一夏がそれを目で追うと、そこにはミルアと入れ替わる様にミサイルが一夏に迫っていた。

 

「うおわっ!」

 

 すぐさま一夏は逃げに入る。

 先ほどと同じ状況下と思われた。

 しかし一夏は先ほどとの違いに気が付いた。

 ハイパーセンサーが捕らえたのは背後に迫るミサイルの数。

 先ほどよりも五発少ない。

 次いで捕らえたのは、一夏を取り囲むように大きく迂回してきたミサイルだった。

 

「くそっ!」

 

 一夏はそう吐き捨てると、正面から来るミサイルを斬り捨て進路を切り開いた。

 更に左から急接近してくるミサイルを横薙ぎに斬り捨てる。

 しかしよかったのは此処までだった。

 右から来たミサイルが一夏に直撃。態勢が崩れ速度が落ちたところへ残りのミサイルが殺到し、一夏は爆音と爆炎に包まれた。

 アリーナに響き渡る爆音に、箒とセシリアが驚いて、音源である上空へと視線を向けた。

 爆煙の中から力なく落ちてゆく一夏の姿が二人の目に映る。幸いなことにISは解除されていない。

 

「一夏っ!」

 

「一夏さんっ!」

 

 箒とセシリアが一夏の下へと行こうとする。

 しかし、そんな二人よりも早くミルアが落ちてゆく一夏を抱きとめた。

 

「自分でやっておいて言うのもアレですが、大丈夫ですか?」

 

「あぁ……なんとか。意識飛びかけたけど」

 

 ミルアの問いに一夏が弱弱しく答えるとミルアは「そうですか」とだけ返した。

 すると一夏は自分の状況に気が付いた。

 お姫様抱っこされている自分に。

 ミルアの身長は百四十にも満たない。平均的な男子高校生よりも高めな身長の一夏をお姫様抱っこするのは通常では不可能だが、現状ミルアはISを身にまとっている。

 それ故にお姫様抱っこが可能なのだが、問題はそこではない。

 一夏にとって問題なのは年下の小さな女の子にお姫様抱っこされているという事実が問題だった。

 要するに実に恥ずかしい。

 恥ずかしいったら恥ずかしいのだ。

 ミルアとは違い、人並みの羞恥心を持ち合わせている一夏にとっては、これはきつかった。

 

「み、ミルア、もう大丈夫だから。自分で飛べるから」

 

 何処か慌てた様子で言う一夏に、ミルアは僅かに首を傾げつつも一夏を離した。

 そして、ふと下からの視線に気が付く。

 視線をそちらに向けると、箒が凄い形相で睨んでいた。

 何故に。

 ミルアは内心でそう吐きながら首を傾げた。

 その一方でセシリアは複雑な表情でミルアを見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、今日はミルミル一人?」

 

 生徒達でにぎわう平日の昼の食堂。

 IS学園の食堂は、様々な国から生徒たちが集まる故に、それぞれの文化や好みに配慮した、ジャンル分けなど不可能なほどの多数のメニューがある。

 食堂の広さも、相当なものだが、やはり女子高生。大小さまざまグループが、あちらこちらに点在しており、それぞれのテーブルには、多国籍な料理が並んでいる。

 多国籍故に彩も香りも様々で、人並み以上に嗅覚の優れるミルアは、まじりあった香りに最初「なにこれ?」と思っていたりした。

 そんな、ある意味カオスな食堂でミルアは一人食事をしていた。

 普段なら一夏や箒、セシリア達と一緒だったりするのだが、今日はたまたま三人ともそれぞれに用事があって、ミルアは一人で食堂に来ていたのだ。

 普段誰かといたからと言って別段さびしいわけではない。何より食堂は賑やかだから問題はなかった。

 そんな中でミルアに声をかけてきた生徒がいた。

 「ミルミル」と呼ばれて、最初ミルアは自分の事だとは思わなかった。

 しかし「おーい。ミルミルー?」と目の前で手を振りながら呼ばれては、さすがに気が付く。

 見れば、やたらと袖の余った制服に髪の一部を左右で束ねた髪型。眠いですと言わんばかりの目。全体的印象を一言で言うなら「トロそう」とミルアは内心で締めくくる。

 そんな彼女にミルアは見覚えがある。クラスメイトで、名前は自己紹介の時に聞いていた。

 

「布仏本音(のほとけ ほんね)さんでしたね。確かに私は今日一人ですよ?」

 

 ミルアが本音にそう答えると、

 

「じゃぁじゃぁ一緒していいかなー? 私も今日は一人なんだー」

 

 そう言う本音に、ミルアは頷き返す。

 ミルアの反応に本音は「えへへー」と言いながらミルアの向かいに座った。

 彼女がテーブルに置いた料理は少量のパスタとサラダ。

 恐らく、健康的でバランスのとれた食事とは言い難い料理に対してミルアは特に何も言わなかった。

 少なすぎるのではないか? という疑問はあるのだが、ミルアが食堂に来ていて学んだことがある。

 女子高生は接種カロリーを抑える傾向にあるらしい。ということ。

 無論すべての生徒が、というわけではないが、多くの生徒がそうであった。

 ミルアは気にもしないし、気づいてもいないが、IS装着時のスーツは、セパレートの水着と見た目が大差ない。故に食べ過ぎて、お腹ポッコリや、ましてやそれが脂肪に還元でもされたら自殺物である。何せISの実習の度に、そのお腹を晒さなければならないのだから。

 彼女たちの体系管理に対する執念は、通常の学校に通う女子高生以上である。

 もっとも本音の場合、それ以外の理由があるのだが、それをミルアはまだ知らない。

 

「前から思ってたんだけど、ミルミルってすんごい食べるよねー」

 

 本音の言葉に他のテーブルにいた生徒たちも、うんうんと頷く。

 ミルアの前には既に空になった皿や椀が幾つも積み重なっている。どう見ても五人分以上は平らげていた。

 恐らく本音の疑問は他の生徒たちも持っていたものだろう。

 

「何処にそれだけの量が入るのー?」

 

「お腹に」

 

「どうしてそんなに食べるのー?」

 

「お腹がすくので」

 

 本音とミルアのやり取りは、何とも言えないもので、生徒たちの疑問を完全に解消するものではなかった。

 理由自体は当然すぎることなのだが、結果としての量が尋常ではないのだから仕方ないと言えば仕方ない。

 そんなに気になることなのだろうか? とミルアは僅かに首を傾げた後、

 

「そう言えば、先ほどのミルミルというのは?」

 

 ミルアがそう尋ねると本音はフォークを片手に、

 

「ミルミルはミルミルの呼び名だよー? 嫌かなー?」

 

 そう本音に返されるとミルアは首を横に振り、

 

「いえ別に、少し懐かしいような気がしただけです」

 

 そう言ってミルアは食事を続ける。

 

「ねぇ、ミルミルは好きなお菓子とかあるー?」

 

 そう言う本音のパスタやサラダは全然減っていない。

 

「好きなお菓子ですか? そうですね、グミとか好きです」

 

「そっかー、グミかー。どんなのが好きー?」

 

「果○グミ」

 

「鉄板だねー」

 

 本音は、にへらと笑みを浮かべた後、余った袖の中から果○グミ「ぶどう」を取り出した。

 そして、それをミルアの前に置き、

 

「お近づきの印に―」

 

 そう言った本音に対してミルアは無言で本音の袖口を見る。

 その視線に気が付いた本音は、

 

「これもどうぞー」

 

 そう言って、今度は「温州みかん」をミルアの目の前に置く。

 しかしミルアは催促したわけではない。

 

「どうして服の中に大量のお菓子を忍ばせてるんですか?」

 

「お菓子とかよく食べるしー」

 

「ご飯は?」

 

「ほどほどにー」

 

 そう答える本音に、ミルアは内心で「逆では?」と思う。

 そんなやり取りを行っていると、

 

「ミルアさん。よろしいですか?」

 

 そう話しかけてきたのはセシリアだった。

 話しかけられたミルアは、口の中の食べ物を飲み込む。

 

「何ですか?」

 

 そう言ってミルアは首をかしげる。

 見ればセシリアの表情は何処か思いつめたような感じ。

 ミルアの問いにセシリアは少し、言いづらそうにしていたが、

 

「私と模擬戦をしていただけませんか?」

 

「何故?」

 

「貴方に興味が」

 

 セシリアのいう事がミルアはいまいち理解できなかった。

 模擬戦を行う事に特に問題はない。

 けれども何故なのか。

 少し考えてみると、思い当たる節があった。

 ミルアが使うBT兵器のミサイル。

 TS(束スペシャル)-03と名付けられた物だ。

 でも、それだけかな?

 ミルアはそう思い、セシリアを見てみる。

 セシリアの目を見てミルアは、気が付く。

 そこにあったのは単純な興味だ。自分と相手との力量の差に対する興味。戦ってみたいという意思。

 見覚えがある目。これは、何処までも食らいついてくる。そう思ったミルアは、セシリアの目を真っ直ぐに見たまま、

 

「模擬戦、受けて立ちます」

 

 そう言って、ほんの僅かに口の端で笑みを浮かべる。

 そんな笑みに気が付いたのは一人を除いて他には誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※シールドエネルギーの下限値は公式大会の規定に基づいて二割

 上記の千冬の発言に関しては、オリジナル設定になります。
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