SAVIOUR~無限のソラへ~   作:風羽 鷹音

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06 力の兆候

「戦う」という行為は好きでもないが、かといって嫌いというわけでもない。

 

ただそれを楽しいと感じるのは私自身の存在意義の為なのかよくわからない。

 

楽しいと感じることが良い事なのか悪い事なのか、それもわからない。

 

わからないことがたくさんある。私自身にも、この世界にも。

 

もしかしたら、わからないでいいのかもしれない。

 

それこそが私自身の答えでいいのかもしれない。

 

わからないまま歩き続けるのが私のあり方なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最初から全力で行きますわっ!」

 

 管制室に届くセシリアのその声と同時にアリーナを移すモニター内で四基のビットが同時に展開され、それぞれが別の軌道でミルアへと迫り、セシリア自身もライフルを構える。以前の様なビットの制御時に自分が動けないという欠点は少なからず解消している様だった。

 対するミルアは右腕にアサルトライフル、左腕に物理シールドを展開する。

 ミルアが展開したアサルトライフルも物理シールドも束が一から作り上げた物。長方形の箱に銃口とマガジン、グリップやトリガーをつけただけの様な、シンプルなデザインのアサルトライフルだが、射撃精度、連射速度、反動などが高レベルでまとめられている。長方形の箱の様な物理シールドは十分な厚みがあり強度は十分で、先端には打撃武器としても使えるような爪が二つ付いている。これと言って大きな特徴がない武装ではあるが、どれも既存の武装を上回る性能を持っている。

 セシリアのブルーティアーズは遠距離射撃型、対するミルアの現在の武装は中距離から近距離。

 必然的にミルアはセシリアとの距離を詰めようとするが、無論セシリアはそうさせまいとビットによる射撃でミルアの進路を妨害し、セシリア自身もミルアとの距離を一定に保ちながら射撃を加えていた。

 模擬戦が始まってから既に五分以上が経過しているがミルアは一方的に攻撃されている。

 

「あいつ……まさか……」

 

 管制室で千冬と一緒に観戦していた真耶は、千冬の呟きを耳にした。

 真耶は目線を千冬に向けると、

 

「あの、織斑先生、どうかしましたか?」

 

「山田先生、気づいていますか? あいつがほとんど被弾していないことに」

 

「えぇ……ミルアちゃん凄い回避技術だなぁ、と……」

 

 真耶の言うとおり、ミルアはセシリアに一歩的に攻撃されていながらも、その殆どを回避していた。セシリアの攻撃の一割も命中はしていない。おまけにその一割は左腕の物理シールドで完全に防がれてしまっている。

 そこでふと、真耶はあることに気が付いた。それはミルアの回避方法だった。

 セシリアのBT兵器であるビットによる周囲からの攻撃をミルアはほとんどその場から動かずに回避している。ある時は体を僅かに傾け、ある時は空中で逆立ち状態になり、さらにそのまま体を捻り。そしてそれでは回避しきれない物を左腕に装備したシールドで防ぐ。

 

 死角がない

 

 今のミルアにはまさしく死角がない。あらゆる方向からの攻撃に反応できている。

 そして、それに千冬は気づいており、真耶も気が付いた。

 

「まさか、ハイパーセンサーのダイレクトリンク? そんな、あれはっ!」

 

 ダイレクトリンク。

 ハイパーセンサーからの情報に一切の制限をかけることなく、膨大な情報を操縦者へと伝える行為。通常では初期設定の段階である程度の制御がかかっていて、操縦者の負担になるほどの情報は伝えられることはない。しかしミルアはその制御を意図的に行っていないようだった。

 真耶の叫びに千冬は頷き、

 

「ハイパーセンサーには文字通り死角は存在しない。だが人間の脳は、その情報処理になれていない。あたりまえだ、普段の人間の視野なんて限られているからな」

 

「織斑先生で何分ですか?」

 

「連続使用で精々五、六分と、いったところか……それ以上となると頭痛なんて物じゃないですよ」

 

 経験があるのだろうか千冬はそう言って自嘲気味に笑う。

 戦闘が始まってから既に十分近くが立っており、千冬の限界時間をはるかに超えている。

 しかし管制室でモニターできるミルアのバイタルにはなんの異常も認められない。

 

「す、すごいですねミルアちゃん。オルコットさんが攻撃を当てるには……」

 

「ミルアの隙を作り出して、その隙をつくか、あるいは反応できても対応が追いつかないほどの濃密な攻撃か……」

 

 千冬はそう呟くも現状では無理だろうと結論付ける。

 なぜなら、ビットと機体の同時制御を行っている為かセシリアのビット制御に、以前ほどキレがないからだ。そして、それはセシリア自身も自覚しているようで、その顔には焦りがはっきりと見て取れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、どうして……」

 

 機体とビットの同時制御がうまくいかないことにセシリアは焦っていた。模擬戦開始してすぐにビットの制御に違和感を感じていた。一人で練習していた時はもっとうまくできていたのに、という気持ちが余計に焦りを大きくさせてしまう。

 おちつけ、と何度も自分に言い聞かせビット制御に意識を裂いても、何処かブレのような物が生じてしまう。

 そんな時、一瞬だがミルアと視線がぶつかった。

 まずい。

 セシリアは本能的にそう感じライフルを自身を守る盾の様に構える。

 次の瞬間ミルアのアサルトライフルの弾丸がセシリアを襲い、衝撃が全身を激しく揺らす。

 

「しまったっ!」

 

 セシリアはそう吐き捨て自分の選択が誤りだったと嘆く。

 防御行為が隙となり、ミルアが周囲のビットを振り切り一瞬にしてセシリアに接近していた。

 振り上げたシールドは、ガンッという音を立ててセシリアのライフルを上へと弾き飛ばす。次いでその場で左に一回転。勢いをつけた左足でセシリアは蹴り飛ばされる。

 

「っ!」

 

 悲鳴こそあげなかったものの、蹴り飛ばされたセシリアに無数の弾丸が襲い掛かる。セシリアの制御を離れ、滞空していただけのビットは既にミサイルで全機が撃墜され、セシリアには既に打つ手が無くなっていた。

 一瞬にして形勢は逆転され、もう終わりか、そうセシリアがそう思った時、

 

「がんばれっセシリアっ!」

 

 ハイパーセンサーは一夏の声援を拾い上げた。よく聞いてみれば一夏だけではない。見物に来ていた多くの生徒達からの声援も聞こえる。

 周囲からの声援、そして何よりセシリアの中で想い人となった一夏からの声援は、諦め、膝を屈していたセシリアをもう一度立ち上がらせた。

 

「まだですわっ!」

 

 そうまだだ。まだ手はある。

 

「インターセプターっ!」

 

 近接戦闘が苦手なセシリアは、なりふり構わず、音声認識で近接武器であるショートブレードを呼び出す。

 次の瞬間ミルアに向かって一気に加速する。

 セシリア自身が近接戦闘が苦手で、機体のブルーティアーズも機動性では近接型の百式には劣るものの、代表候補生として研鑽してきた時間があり、それによる実力がある。

 アサルトライフルによる弾幕を半ば強引に、だが最低限の被弾で潜り抜けたセシリアはショートブレードを振るう。

 一振り目はすんでの所でかわされ、二振り目も虚しく空を斬る。

 

「このっ!」

 

 諦めないセシリアの三振り目は、ミルアに回避という手段ではなく、シールドによる防御を選択させる。

 ミルアはそのままシールドでセシリアを押しのけ、距離を強引に作り、アサルトライフルの銃口をセシリアに向ける。

 

「させませんっ!」

 

 セシリアはそう声をあげると同時にショートブレードを投擲。

 ショートブレードは見事にアサルトライフルに直撃し、弾き飛ばさないまでも、その銃口を明後日の方向へとそらした。

 そしてミルアが再び狙いをさだめるよりも先にセシリアは体当たりを強行し、二機の間で激しい火花が散る。セシリアはミルアをしっかりとつかむと、体当たりの勢いのまま押し込み、そのまま急降下。自身諸共、ミルアをアリーナの地面に叩き付ける。衝撃で砂埃が舞い二機の姿を覆い隠す。観客席の生徒たちが一瞬息を飲むも、次の瞬間、砂埃の中からセシリアが飛出し、

 

「これでっ!」

 

 ブルーティアーズのからミサイルであるビットの五番機六番機が放たれ砂埃の中へと突入。激しい爆発が再び砂埃を舞い上げ、アリーナ内に広がる。

 一連の攻撃でミルアとセシリアのシールドの損耗率は逆転し、セシリアが優勢となる。

 しかし無手となったセシリアは、砂埃に覆われたミルアを警戒しつつも、投擲したショートブレードを拾おうと地面へと降下した。

 無事にショートブレードの下までたどり着き拾い上げようとした瞬間、砂埃を穿ち、一発の弾丸がセシリアに直撃する。

 一発にも関わらず、ソレはブルーティアーズのシールドを大きく削り、そのすさまじい衝撃がセシリアを転倒させる。

 

「なにがっ?」

 

 突然の事に驚きつつも立ち上がろうとするセシリアを二発目、三発目が襲う。

 セシリアは立ち上がることも許されず、弾丸に叩き飛ばされ地面を転がってゆく。

 四発目、五発目もセシリアに直撃し、観客席からは短い悲鳴があがる。それほどまでに直撃した際の音がアリーナに響き渡るのだ。

 砂埃が晴れていき中にいたミルアの姿があらわになる。その右手にはシールドを装備したまま、左腕には大型のリボルバーカノンが腕と一体となる形で装着されていた。

 ガコンという音と共にリボルバーカノンが途中で折れ、シリンダーから五つの空薬莢が排莢される。ガタンガタンと音を立てながら地面に薬莢が落ちる中、空になったシリンダーに光の粒子が集まり、次の瞬間には新たな五発の弾丸が装てんされていた。

 大きな音を立てながら、折れていたリボルバーカノンが元に戻り、ミルアは無言で、未だに倒れ動かないセシリアに銃口を向ける。

 しかし、発砲することなく、ミルアは管制室に視線を向ける。

 するとアリーナのスピーカーから千冬の声が響き渡る。

 

「そこまでっ! ブルーティアーズのシールドエネルギーは残るもののセシリア・オルコットの意識喪失により、模擬戦の勝者はミルア・ゼロとする」

 

 何とも言えない終局に観客席からは声も上がらない。

 そんな中、ミルアは武装を量子化し、セシリアの下へ歩み寄り、その体を抱きあげる。そして観客席を見渡し一礼すると言葉なくピットへと戻っていく。

 そんなミルアへ、遅れたように多くの拍手が観客席から送られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……?」

 

 医務室のベッドの上で、意識を取り戻したセシリアの視界いっぱいに映ったのは、ミルアの顔だった。

 

「大丈夫ですか?」

 

 ミルアの表情はいつもの無表情だが、その声は僅かにトーンが落ちている。

 セシリアは笑みを浮かべて、

 

「大丈夫ですわ」

 

 そう答えた。

 

「そっかよかった」

 

 そう声が聞こえ、セシリアはそちらに視線をむける。そこには、胸をなでおろしたように安心する一夏がおり、その隣には一夏と同様の箒がいた。

 

「ご心配には及びませんわ。そんなに軟な鍛え方はしてませんから」

 

 セシリアのその言葉に一夏は苦笑し、

 

「だよな。やっぱ代表候補生って凄いんだな」

 

 その一夏の言葉にセシリアは嬉しくて僅かに頬を染める。この際、一夏の隣で憮然としている箒は無視する。

 するとミルアがセシリアにぺこりと頭を下げて、

 

「途中からムキになりました。申し訳ありません」

 

 そんなミルアにセシリアは首を横に振り、

 

「謝る必要はありませんわ。模擬戦とはいえ真剣勝負。ムキになってもらわなくては困ります」

 

 セシリアの言葉に「そうなんですか?」とミルアが疑問の声をあげるとセシリアは笑みを浮かべて「そうなんですよ」と口にする。セシリアは「それに」と続け、

 

「わたくしの全力は貴方をムキにさせるほどだったということでしょう?」

 

 セシリアがそう言うとミルアは僅かに考え込んで、

 

「そうですね」

 

 と短く答えた。

 その言葉にセシリアは満足そうに頷く。

 

「さて、長居してセシリアを休ませないわけにもいかないし、俺たちは寮に戻るよ」

 

 一夏の言葉にセシリアは名残惜しそうに、

 

「そうですね。今はゆっくり休ませてもらいますわ。すぐに復帰しますので待っていてください」

 

 セシリアがそう言うと一夏は笑みを浮かべて手をあげ、ミルア共々そのまま医務室を後にする。

 しかし箒だけがドアの前で立ち止まる。

 セシリアが不思議に思い、箒の背中に視線を向けていると、不意に箒は振り返り、

 

「最後の方で、お前がミルアに近接戦闘を挑んだ時、あの時のお前の姿、かっこよかった」

 

 箒は何処か照れくさそうに、そう口にする。

 そんな箒にセシリアはキョトンとしていると、

 

「あの場にいた誰もが抱いた感情だと思う。それに誰かの戦う姿に憧れを感じたのは千冬さん以来だったよ。さすがイギリスの代表候補生セシリア・オルコットだな」

 

 箒はそう言うと足早に医務室を出ていく。

 しばらく閉じたドアを不思議そうに見ていたセシリアだったが天井を見上げる。

 その頬を涙がつたい、

 

「悔しいのか、嬉しいのか……よくわかりませんわ」

 

 そう言ったセシリアの顔には確かに笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ座れ」

 

 千冬にそう言われ、ミルアは千冬の向かいに座る。

 場所は生徒指導室。千冬に呼び出されたミルアは寮に戻らず、そこに来ていた。

 何の用だろうとミルアが思っていると、

 

「ハイパーセンサーのダイレクトリンクを行っていたようだが、体に不調はないか?」

 

 千冬にそう尋ねられたミルアは小さく頷いた。

 そんなミルアを見た千冬は小さく息を吐き、

 

「束の奴からお前がダイレクトリンクできることなんかを聞いていたが、ここまでやるとはな」

 

 そう言ってやれやれと言わんばかりに首を横に振る。

 

「まずかったですか?」

 

 ミルアがそう尋ねると、

 

「いや、別にそんなことないさ。それに傍から見ていてわかるような物でもないしな」

 

 千冬はそう言ってから「ただ……」と続け、

 

「体の負担になるようなことはするな。それを見た馬鹿どもが真似をしても困る」

 

 そう言ってミルアを軽く睨む。

 ミルアはそれを特に気にするふうでもなく、

 

「具体的には?」

 

「そうだな、わかりやすいので言えば、瞬時加速の連続使用、特に連続使用による急激な方向転換だな。骨が砕けて自滅する」

 

 千冬のその言葉にミルアは無言を通す。

 そんなミルアを千冬は訝しげに見て、

 

「お前、やったことがあるのか?」

 

「あるのか? と聞かれれば答えはイエスです。付け加えるなら問題なく行えます」

 

「まったく、どういう体の構造をしているんだお前は」

 

「そういう体です」

 

 千冬の言葉にミルアは淡々と返す。

 しかし不意に首をかしげ、

 

「束さんからはどれほど聞いているのですか?」

 

「色々だよ。お前ができる事とか……あぁそう言えば最後にわけのわからないことを言っていたな」

 

 千冬がそう言うとミルアは再び首を傾げる。

 思い出すように千冬は、

 

「お前の事を『過去を無くした哀れな魔法少女』なんて言ってたぞ」

 

 そう言って千冬は「わかるか?」とミルアに尋ねるもミルアは首を横に振り「いいえ」と答えた。

 そんなミルアに千冬は苦笑し、

 

「あいつのいう事は基本わけがわからないからな。どこまで素直にとっていいのか正直わからん」

 

「そうですね」

 

「お前も苦労したか」

 

「人使いが荒い人ですから」

 

 ミルアの言葉に千冬は声を殺して笑う。そして何処か優しげな笑みを浮かべて、

 

「とにかく、さっきも言ったが体の負担になるようなことはするなよ。お前の体はまだまだ成長していくんだ。体に負担をかけて成長の妨げになっては困るからな」

 

 千冬の言葉にミルアは素直に「わかりました」と答えた。

 

 

 

 

 

 もし束がこの場にいたら二人の会話に笑い声をあげたであろう。

 

 

 

 

 

 そんな心配は人形には無用なのにね、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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