【あべこべルソナ3】   作:甲斐太郎

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湊視点(1)

ぽかぽかとした春の太陽のような柔らかな笑みを浮かべながら、慣れた手つきで料理をする男の子の姿が私の住む巌戸台学生分寮の台所にある。トントンとリズムよく包丁が食材を切りながらまな板を叩く音。数々の野菜を煮込んでいる寸銅からは甘い匂いが漂ってくる。カラッと揚げられた肉が黄金色の衣をまといながら高温の油から上げられた。調理をしていた男の子は涎を垂らしながら見ていた私とゆかりの姿を見て微笑むと、食材を追加して私たちのため新たに一品作りはじめた。

 

鳴上総司くん。

 

月光館学園中等科に通う3年生。月光館学園の新聞部が中心に行っている本人公認の学園全体で集計された統計ランキングにおいて【お婿さんにしたい人】部門で編入した当初から名を連ねる、世界に出しても恥ずかしくない日本男児である。

 

私を始めとした女性に対して嫌悪感や忌避感などをまったく抱いておらず、自ら声を掛けてきたり、肩に触れたりするスキンシップもオッケーなので月光館学園でも絶大な人気を誇る男の子である。そんな人気絶頂の男の子の妹という絶対的なステータスを持つのが私と同じ寮に住んでいて、真夜中の影時間と呼ばれる特別な時を共に過ごす仲間でもある鳴上優ちゃんである。

 

優ちゃん曰く、総司くんは貞操観念が一般男性に比べて著しく疎く、実家では肌着をつけないシャツと短パンで過ごすのは当たり前。

 

夏場だとお風呂上りはトランクス一枚だけを付けた半裸状態で首から下げたタオルで濡れた髪を拭く、なんていうレアを通り越して母親と自分の精神を崩壊させるつもりなのではないかという無意識攻撃をしてくるんだそうだ。

 

挙句、寝るときは抱き枕が必須ということで、それが洗濯中の時は自分が抱き枕扱いにされていたと目尻を下げながら溜息をついていたが、「そういうのを世間ではご褒美というのよ」とゆかりが彼女の頬を引っ張っていた。ゆかりの言う通りだ。羨ましいを通り越して、もはや妬ましい。

 

「お待たせしました。本日のメニューはミルフィーユカツと野菜のスープと和風オムライスです。どうぞ、召し上がれ」

 

月光館学園中等科において活動に参加したいと生徒だけでなく教師も列を作る調理部の部長を務める総司くんが作った料理がまずいなんてこともなく、私とゆかりは彼の姿にメロメロになりつつ料理を味わった。総司くんは調理の後片付けをすると、優ちゃんに付き添われて帰って行った。その後に総司くんを来て料理を作っていったことを知った桐条先輩が地団駄を踏んでいたのが印象的だった。

 

 

 

 

双子の妹である優ちゃんは、自分のその立場を十二分に利用している。

 

例えば昼食は総司くんの手作りのお弁当が、部活動の際には調理部で作られたお菓子などが自らやってくるのである。無論、持ってくるのは総司くんだ。おこぼれに預かろうと優ちゃんが所属する剣道部は割と部員が多いと聞いたことがある。

 

そして、私たちもその恩恵を享受できる時間がある。それは毎週金曜日の放課後と土曜日の日中だ。その時間に総司くんが優ちゃんのために料理を作りに来るようになったのである。

 

巌戸台学生分寮には男子がすでに3人住んでいるが、1人は何に対しても無頓着で隙が多いので、私とゆかりは“女としての活動”で大変お世話になっている。それは同じクラスの有里理くん。長い青髪で顔の半分を隠すクール系に属する男の子である。自炊はするけど、自分の分だけ。掃除も得意だけれど、自分の部屋だけ。徹底としている。

 

2人目はこれまた同じクラスの伊織順平だ。学校ではお調子者で通っているが、その実態は女顔の彼氏がいるという同性愛者というオチ。男同士なんて不毛だという意見を言える剛の者は我が寮にはいなかった。

 

そして、最後の1人は真田明彦先輩である。高等科のボクシング部に所属し、寮の自室には筋肉トレーニングするために様々な機材が置かれている。日夜「女には負けない」と言って強くなるためにトレーニングしている先輩である。

 

汗を掻いた姿でプロテインを飲む姿を見る度、私たちはすごく捗っています。ナニがとは言わない。

 

ところで、どうしてそこまで女性に対して嫌悪感を抱いているのかというと、幼いころ親友と一緒に大きなお姉さんにレイプされたらしいのだ。自身の無力を嘆き、以来女性よりも強くなるために重い枷をかけているらしい。その話を聞いたときは真田先輩のようないい男にとんでもないトラウマを刻んでくれた女の風上にもおけない女朗共め、地獄に堕ちろと思った。

 

「聞いてください、桐条先輩!兄さんに痴姦行為を働いた奴がいるみたいなんです」

 

「よし、特徴を言え。グループの力で社会的に抹殺してやろう。代わりに私とお兄さんのお見合いの席を設けてくれ」

 

「あ、遠慮します」

 

「じゃあ、先っぽ。先っぽだけ入れて子種をくれたらいいから。認知してくれなくてもいいから」

 

「警察を呼びますよ!って、今朝電車の中で兄さんに痴姦したの、桐条先輩じゃないですよね!?」

 

優ちゃんが桐条先輩に向かって大好きな主人に近づいてきた見知らぬ人間に対して吠える犬みたいに威嚇している。それにしても男子中学生に痴姦って、ニュースの向こう側の話か、二次創作のエッチな薄い本の話じゃないんだ。

 

「はぁ……はぁ……。総司くん、その痴姦にどこを触られたんだろ?」

 

「……ゆかりは相変わらずオープンスケベだよね」

 

「結婚するまで性癖を隠し通して、初夜にすべてを晒したらドン引きされて、翌日離婚されても仕方ないでしょ?」

 

ゆかりのいうのは通称『初夜離婚』と呼ばれるものである。知り合いに祝福されて結婚したはずなのに、初めての夜でカミングアウトに失敗した女性に待っている地獄。性の不一致は割とシャレにならない。恋愛と同じようにちょっとずつ自分のことや相手のことを知っていく必要が夜の性活にも求められるのだが、基本的に初夜になると女性が暴走してパートナーにドン引きされる傾向が増えてきている。

 

これは男性の貞操観念が以前よりも純粋になっていっていて、女性に対して夢見がちになりつつあるのだとテレビでお偉いコメンテーターの人が言っていた気がする。

 

「岳羽先輩、ちょっといいですか?」

 

「「へ?」」

 

エントランスのソファに座ってバカ話をしていた私たちに声を掛けてきたのは台所で料理していた総司くんだった。ちなみにゆかりの手は自分の股座に突っ込んだままである。あ、公然わいせつ罪という犯罪名が私たちの脳裏に浮かび上がった。

 

「あの……台所から丸見えだったんですけど」

 

「ご、ごめんね。いつも女ばっかりしかいないから、ちょっとやりすぎちゃったんだよ」

 

「変なものを見せてごめんなさい。総司くん、不快だったよね。私、自首してくる」

 

「いやいや、いいですよ。実は、僕って他の同性と違っていて、その……岳羽先輩や結城先輩の身体に興味があるんです。どうですか、今晩?」

 

私とゆかりはその場で思考がフリーズした状態で顔を見合わせた。それぞれの頬に手を伸ばして、左頬を指で抓むとぎゅっと捻り上げる。顔の左側から激痛が伝わり、これが夢でない現実であることが分かった。

 

夜の性活でお世話になってきた同人誌でも滅多にない王子様みたいな男の子から誘われるという夢のような出来事に私たちの手足は無意識に震える。相手は月光館学園でも人気ナンバーワンの日本男児だ。そんな総司くんが実は女性の身体に興味があって、きゃあああああああああ!!

 

「あ、やばい。優になんか怪しまれているっぽいので、今の話はなしで」

 

「「あうっ!?」」

 

総司くんは私たちに向かってウインクすると台所へ戻っていく。それと同時に口をヘの字にした優ちゃんがやってきた。

 

「……兄さんと何の話をしていたんですか?」

 

「優ちゃんが言っていた痴姦の話だよ。気持ち悪くなかったかを聞いていたの」

 

「そうですか……何か、情報があったらお願いします。桐条先輩はちょっと頼りに出来ないみたいですから」

 

「私も結構オープンだけど、さすがに桐条先輩みたいに『子供が欲しいから子種をくれ』とは公言できないよ」

 

「それでも生徒会長になれるくらい人気あるけれどね」

 

「男子の在校生からは、人気はないけどねー」

 

「あ、有里くん。おかえり」

 

「…………」

 

有里くんはエントランスにいた私たちに毒を含んだ一言を述べただけで一瞥することなく、台所で料理をしている総司くんの下へ行き話しかけている。私たちにあまり興味を抱いていないのに、総司くんには積極的に話しかけてコミュニケーションをとる姿はまさしく恋する男児そのもの。その相手が同性というのが問題だけれど。

 

「普通、寮って男女別じゃない?」

 

「うん、そうだね」

 

「男女協同の巌戸台学生分寮に住んでいるってそれだけでステータスなんだけど、住んでいる男子は同性好きが2人と女性にトラウマ持ちが1人ってあんまりじゃない?」

 

「うん、そうだね」

 

「総司くんも有里くんにあんなに密着されて嫌がる素振りを見せないし、……けど私たちに興味あるって言っていたよね」

 

「ねぇ、ゆかり?」

 

「うん、どうしたの?」

 

「有里くんってさ。……本当に男なの?総司くんと接している有里くんから私たちと同じ臭いがするんだけれど」

 

「……確かに。となると……おーい、ちんちくりん!」

 

ゆかりがそう言うと総司くんの背後から抱きついてべったりしていた有里くんがビクリと浮かべていた笑みごと固まってその動きを止めた。総司くんはクエスチョンマークを頭の上に浮かべているかのように首を傾げている。

 

ちなみに「ちんちくりん」とは背が小さくて胸も小さくて幼児体型から抜け出せない女性に対する貶める言葉だ。これに反応するっていうことは……。私とゆかりは一緒のタイミングで有里くん、いや理ちゃんを手招きして呼び寄せる。

 

「くっ、殺せ」

 

「クッコロ、頂きましたー」

 

「いや、なんでまた男装なんてものを……」

 

話を聞いてみると理ちゃんは生まれつき女性の身体に男性器がついていたそうだ。男性器といっても穴はなく、大きな陰核という扱いだったようだが、この月光館学園に入学する際に調に来た人が理ちゃんの身体を見て勘違いした結果、有里理くんという偶像が出来上がってしまった。

 

運がいいことに男子制服を着ても違和感が無かったことから、バレるまでの間、男子として生活してやろうと思ったらしい。女の風上にもおけないなと思いながら私たちは聞いていたのだが、総司くんがぽつりと呟いた。

 

「え、てっきりそういうプレイだと思っていたのに……」

 

総司くんはどうやらもの凄く性に対しても寛容そうです。

 

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