帰宅したら無職でした   作:あきちゃま

11 / 16
第11話 殺し屋の決断

 もし過去が変えられるとするなら、どんな過去を変えようとするのか。自分の失敗だろうか、歴史の出来事だろうか。もしかすると身内を助けるために過去を変えようとするかもしれない。

 だが、勇者という(しがらみ)に縛られた彼は何も選ばない。彼は過去の自分を悔いた事もあれば、やり直したいと思う出来事だって存在している。だが、過去を改変した先には何が待っているのだろうか。少なくとも今の自分はそこには立っていないだろう。

 

『その選択は正しい。勇者よ、お前はいつかこの世界を去り元の世界に戻る事ができる。その機会を得たのだ』

『ああ、今の俺は過去の俺がいるからだ。誰かにくれてやるかよ』

 

 遥か未来の魔王。優斗が現れたために概念が誕生し、第29代皇帝ギルアーク・ファルブラヴ・ハーニッヒが主導しながら資金提供をし、 ボリヘドラ・ファルブラヴ・ハーニッヒが僅か一代で大幅に進歩させた技術。それが科学の力であった。

 未来に存在している科学は、魔術と交わる事によって別世界の科学さえも凌駕したのだ。魔銃という魔力によって発砲される武器が誕生したかと思えば、魔弾という魔法陣によって追跡が可能となった銃弾を編み出した。軍事面だけではない。生活面では、漆黒の夜を照らす電力を生み出した。

 

 勇者と皇太子の2人は、歴史を変えた偉人として讃えられていたのだ。

 だが、その事を未来の魔王は伝えない。否、ここで伝えるべきではないと考えた。

 

『元の世界へと戻った後、こちらの世界に帰ってくることはないだろう。いや、本来であれば世界を超えてやってくる事そのものが許されざる行動なのだ。肝に命じておけ』

 

 そう、自分の物語は自分で作っていくものだから。

 

 

 

 ◇

 

「俺は……負けたのか」

 

 ヤンは意識が戻ってきた瞬間、天井が見えたので勇者が自分の家に運んだのだろうとすぐさま辿り着いた。もし、自分が勝ったとしてもあの傷では生きていられたとは到底思えないからだ。目が覚めた瞬間、地獄の閻魔と御対面という状況だけは回避できたので良かっただろう。

 

 ヤンが上体を起こすとそこには2人の男が見えた。1人は優斗であるが、もう1人に関しては今まで見たことのない人物であった。

 ハリウッドで活躍していてもおかしくないと思える程の美青年がいたのだ。白いその肌はまるで死人のようでありながらこちらを誘っているかのような魅力を持っていた。長めの黒髪も、見ていると吸い込まれるような気持ちになるのだ。

 

「何をやってるんだ俺は」

 

 正常な判断ができていない。まるで吸血鬼の魅了に掛かったかのような気持ちになってしまっていた。

 殺し屋として常に殺し殺される世界にいたにも関わらず、緊張感というものがすっぽり抜けてしまった。そんな感覚であった。

 

 部屋を出るために部屋を見渡すと、自分の服が綺麗になって畳まれていた。血だらけだったはずの服をまるで新品のように変えてしまう。魔術師が夢見る絶対に破れない魔術の極み、魔法を目の前で見た気になった。

 勇者であったとしても、魔法の域には到達できないのではないか。それが勇者を知る者たちの結論だ。しかし、その結論を考え直さなければいけないのではないか。

 

 そんな事を考えながら部屋を出ると、下へ行く事ができる階段を見つける。何も考えず、下に行くと誰かが立っていた。

 

「ヤン・ソクジュン……これは偽名だね。いや、ビジネスネームと言った方がいいのか?」

「お前は工藤義政か。かつて魔術協会で活躍した人物とは聞いている」

「活躍した?大袈裟だよ。僕はただ誰かに認められたかっただけさ」

 

『多彩の魔術師』として世界を駆け回った人物が、ここまで自己評価が低いとは思わなかった。電気を操る魔術しか使えない自分と違って、工藤義政はほぼ全ての魔術に対して適性を持っていた。さらに、周りが思いつかない驚くような魔術の使い方もしていたのを知っている。

 

「世話になったみたいだな、礼を言う」

「僕は何もしてないよ、優斗が全部やったさ」

「工藤優斗にも言っておいてくれ」

「それは自分で言ってくれ。それに優斗は君を治癒する時に君の事を多少は知ったみたいだよ。魔術協会の闇にも少しだけだが触れたみたいだ。君の家族の事は知ってる。いや、知ったばかりというべきか」

「別に俺の家族の事を知られようが関係ない」

 

 魔術協会は権力を持つが故に激しい権力争いが相次いで、遂には抗争が起きた事が多々ある。その抗争時にあった出来事について工藤義政は知ったようだ。

 

「へぇ、実験による権威の拡大を狙った魔術師による一家の実験失敗ね。人間って酷い事をするのは変わらずか」

 

 いきなり現れた彼女にヤンは底知れぬ恐怖を感じた。もし、自分が敵対者だった場合、何も抵抗できずに殺されていた可能性があるからだ。殺し屋として、そういった場面を作り上げる側にいたからこそ、気配を全く感じさせないその力量が図れるのだ。

 

「あなたの敵は誰?魔術協会?それとも優斗?」

「魔術協会に決まっているだろう……だが、あいつらを殺すには戦力が足りねぇ。資金も桁違いでそろそろ参ってきたところだったさ」

「なら決まりね。私たちの仲間よ」

「は?」

 

 魔術協会を敵に回すと宣言したようなヤンに対して仲間と言い放つ麻央に対して思わず声が漏れる義政。彼はヤンの治療までは何かしら利益が生まれるため許していたが、仲間になる事については賛同していなかった。

 

「待ってくれ!優斗の事を勝手に決めないでくれ!」

「何を言ってるのかしら、優斗が彼の過去を知って動かないわけないじゃない。彼は自分の力で助けられる人がいるなら全力を出す人よ」

「だが、それでも魔術協会を敵に回すのはやばいんだ。それで何人も死んでいるんだ」

「話してるところ悪いが、別に俺は工藤優斗の力が欲しいわけではない」

 

 彼らの議論は拗れる。何故なら、全ての決定権を持つ筈の優斗を差し置いて物事を決めようとしているからだ。

 

 だが、議論は長くは続かない。

 この場において全てを決める力を持つ男が現れたからだ。

 

「全く、俺抜きで何の話をしているんだか」

「その通りだ。我が主人なしでは仲間かどうかなど決められる筈がなかろう。そうとは思わぬか人狼よ」

「なによ、結局仲間になるんでしょ?」

「それは違うぞ、麻央。俺は仲間に入りたいと思った者しか仲間にしない。例え強力な力を持っていたとしても、信頼してくれる相手しか仲間にしない」

 

 異世界の王国で国王勢力相手に食らいついた勇者勢力。表の世界には決して現れない実力者が、王国を変えようとした革命家が、近衛騎士団団長並びに騎士たちが勇者の思想を受け入れ時を待ち、そして事を起こした。

 優斗の信頼してくれる者しか仲間にしないという自分のルール。それに見合うだけの者になろうとした仲間たちが異世界にはたくさんいた。言ってしまえば帝国すらも勇者勢力と言えよう。

 

 だが、優斗はこの世界で勇者勢力とも言える勢力を作るつもりは一切ない。望んでいるのは極普通の生活なのだ。

 無論、勇者としての宿命が普通の人生を許すはずもないのだが。

 

「工藤優斗、お前は力を貸してくれと言われたのならどうする?」

「俺のできる範囲で力を貸すさ」

「それが殺しにきた俺だとしてもか?」

「ああ、それが殺しにきたお前でもだ」

 

 その言葉を聞いたヤンは考え込む。

 かつて自分はなぜ魔術協会に復讐を誓ったのか。

 なぜ魔術協会の依頼を拒否したのか。

 なぜ足踏みを止めているのか。

 仲間は集めた。しかし足りない。魔術協会を壊滅させるに足る仲間はまだまだ足りないのだ。司寸織(しきおり)の爺さんを妥当する事ができる仲間が、自分と協力してでも倒せるそのたった一コマが今まで足りなかったのだ。

 

 だが、目の前の勇者は、工藤優斗はあの魔術協会最強(司寸織の爺さん)に届くかもしれない一コマなのではないか。

 

「工藤優斗、お前が利用されると分かっていたとしても救われる人物がいるならお前はその人物を助けるか?いや、その行動で家族が危機に晒されるとしてもか?」

「決まってるだろ、そこに助けを求める手があるなら俺はその手を取りにいく。何が何でもだ。それに、俺たちを、父さんを舐めない方がいいぞ」

「『多彩の魔術師』と呼ばれた僕だ、自分の事くらい自分で守れる。それに工藤一族は簡単にやられる程柔じゃない」

 

 そう、工藤一族はその長い歴史故決して弱くはない。いや、むしろ日本政府と事を構える事ができる程の人脈と実力を持った一族なのである。

 そして、魔術協会に加担していない数少ない名家の一つなのだ。

 

 ここで魔術について軽く触れておこう。

 魔術を使う者にとっての目的は魔術を極める事が大多数を占めている。だが、魔術師は何種類かに分けられてしまう。

 魔術を感覚で使っている者。これは魔術の才があるが故に陥ってしまう欠点である。より頂きを目指すのであれば感覚だけではなく魔術の追求が必要なのだ。

 次に、魔法陣が身体のどこかに描かれている為、魔術が使える者だ。先祖代々魔術師である場合によく存在しており、感覚だけで扱う者よりかは自由に使えるが、それでもまだ弱い部分はある。

 最後に、魔術を理解した者である。異世界の体系化された魔術学はまさにこれに当てはまっていた。魔術を行使するだけではなく、魔法陣に魔術を書き記す事も可能となる。つまり、自身の扱える魔術を理解している者が最も弱点が少ないのだ。

 

 しかし、優斗はこれら全てに当てはまらない。魔術を理解しているが感覚で使用している部分もあるため、才能に満ち溢れているのだろう。しかし、その感覚で魔法陣まで完成させてしまうのだ。魔術師にとってこれほどまでの異端は存在しないだろう。

 それだけではない。魔術とは本来、自身が持つ起源のみしか扱えない。工藤一族でいえば『封印』、ヤンでいえば『電気』といった具合に自身の起源しか扱えないのだ。起源を沢山持てば良いという訳ではなく、一つの起源であってもその魔術を極められるか否かという一点に絞られるのだ。だがしかし、優斗は本来、起源を『一つ』しか持ち合わせていない。にも関わらず彼はあらゆる魔術を行使しているのだ。

 もしかすれば、優斗が持つのは魔術の起源ではなくより高度な力なのやもしれない。

 

 

 閑話休題(それは置いておいて)

 

 

 ヤンは全てを決断した。

 全ては2週間後、工藤本家で物語は進む。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。