帰宅したら無職でした   作:あきちゃま

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2017/03/06 追記
活動報告において重大な発表があります。
読者の皆様は是非目を通してください。


第14話 情けない者、容赦ない者

 かつて夢見た事。

 勇者となって世界を救う。

 

 それは、小学生の現実を知らない夢物語だったのかもしれない。だが、なぜか俺には忘れられず、気付けば中学生になっていた。

 現実はとても無情で、英雄という飛び抜けた1人の力があったとしても国が相手ではまるで歯が立たない。そんな事実を歴史から学んだ。

 

 第一次世界大戦。

 セルビア人青年が撃った一発の弾丸が世界を戦火の渦へと巻き込み、総力戦となった。

 国のためにと欧州の若者は立ち上がり、そして散っていった。だが、そこには確かに国を愛するという気持ちが見え隠れしており、とてつもない原動力があったはずだ。

 

 第二次世界大戦。

 アメリカで起きた株価の暴落から始まり、世界を変えんと黒い軍団が地上を軍靴の音で鳴り響かせ、東亜で人々が敵へと特攻していった。

 そして、2つの大きなきのこが誕生した。

 

 人類最強の兵器、核爆弾。

 

 戦争で英雄は誕生するものだが、彼らが1人いたとしても戦争には勝てない。いや、英雄が何人いようがいまいが、その他大勢の数が多い国が勝利を収めるのだ。

 

 そんな非情な事実を知って、勇者を志した俺は死んだ。

 だが、誕生したものもいる。それはきっと───。

 

 

 

 

 ◇

 

 結界へと閉じ込められた優斗たち一行であったが、何かの抑制力があるわけでもなければ、破壊しようと思えば簡単に破壊できてしまえる結界の質の低さに思わず笑ってしまっていた。

 

 長期間争い続け、様々な武力や魔術が成長したあちらの世界とは違い、こちらの世界では魔術を行使する機会など指で数える程しかなかったのだ。

 実戦的な経験のある魔術を行使する魔術師の方が圧倒的に少ないのだ。

 

 だが、そんなことを優斗は知らない。

 魔術師の技量が相対的に低いことをあちらの世界の面々は知らないのだ。

 

「我流 一滅燈煉」

 

 優斗は軽く漆黒の炎を出し、結界を破壊してみせる。

 わざとらしく、結界を強く殴りつけると結界はガラスが割れたかのような音を立てながら崩れ去っていった。

 

「馬鹿な!?工藤一族に伝わる封印術だぞ!?」

 

 青年は明らかに驚愕していた。

 そして、戦場を渡り続けた優斗からしてみればその隙は絶好のチャンスでもあった。

 

「レッスン1、相手に驚きを感じさせるな。それだけで相手は自分が優位だと感じ取る」

 

 優斗が常識の範囲内のスピードで彼に近づいていく。常識の範囲内といっても目で捉えようとすれば見失う可能性すら感じさせるのだが。

 

 優斗の鋭い突きが顔面へとヒットするように見えた。だが、彼も魔術師として鍛錬をしているのだ。人外の領域(優斗ら一行)の動きであれば、為す術もなく殴られていただろう。

 しかし、優斗のスピードはいつもに比べて格段に遅い。人外の領域ではなく、ちょっと早い(達人のスピード)程度であれば魔術を活用すれば追いつけるのだ。

 

 優斗の突きを掴むと同時に投げ技へと技を繋げ、優斗を地面へと叩きつける。彼が幼い頃から教え込まれた武術を駆使する。

 

「レッスン2、技が上手く決まりそうだからといって最後の最後に気を抜いたら、その技は無意味だ」

 

 本人が気付かない次元の力の緩み。

 彼は生身で武術を鍛える事はあったとしても、魔術による強化を使った武術は今まで鍛えた事も、やった事もなかったのだろう。そう感じさせられる技だったのだ。

 しかし、優斗を含む人外の領域にいる者にしか分からない程の小さな緩みである。現に義政は、最初と最後での違いにそこまで大きいものがあるとは思えなかったのだ。

 

 投げられた姿勢から、脚から着地する優斗だった。

 彼の技は、地面が凹むほどの威力を持った技であった。こちらの世界から考えれば十分に強い領域に存在しているのかもしれない。

 だが、今目の前にいるのは世界最強の1人だ。

 

 彼は投げ技をすぐに止め、防御の姿勢を取る。さらにそれだけではなく、封印術を盾にする戦法まで取って自分で守るべき範囲を少なくしているのだ。

 判断能力は十分と言えた。

 

「レッスン3、世の中には防御の上から攻撃を通してくる怪物がわんさかいる。戦いに絶対は存在しない!」

 

 漆黒の炎を纏った右拳が青年の腹へと突きささる。

 結界を破壊するその姿は、勇者より破壊神とでも言うべきであろう。

 

「ふざ……ふざけるなァ!てめぇが!訳もわからねぇてめぇごときが壊していい歴史じゃねぇんだぞ!工藤一族の全ての結晶を易々と破壊しやがって……!殺す!」

 

 吹き飛ばされようが殴り飛ばされようが、工藤一族という誇りある一族の次代が負ける訳にはいかない。

 そんな決意で彼は立ち上がる。

 

「一清くん!もうやめろ!君じゃ彼に勝てない!」

「うるせぇ!勝ち負けじゃねぇんだよ!俺が負けるだけならまだいい。だが、俺には工藤って名前が、責任が乗っかっているんだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「なかなか腰のある坊主じゃのう。じゃが、ここは大人しく寝ておくのが正解じゃ。お主のその覚悟、しかと受け取った」

 

 アジャーニは彼を眠らせる。

 魔術の極意を極めた彼女にしてみれば、他人を眠らせる魔術は楽々と発動できる簡単な魔術かもしれないが、一般にそういった類いの魔術は実現不可能だと言われている。

 義政は改めて目の前にいる人物の出鱈目さを実感したのだ。

 

 

「んじゃ、入るか」

「そうね。2人も沈めちゃったし、自分たちから入るしかないわね」

 

 アルヴィンが老人を肩に乗せ、優斗も同じような体勢で一清を運ぶ。その後ろを女性陣がついていく。

 まるで散歩にでも行くかのような軽さで歩き始めている彼らであるが、この状況で本家へ入っていけば紛争は避けられない。負ける可能性がないにも等しいので問題ないといえば問題ないが、それでは何のために来たのか分からず、本末転倒だ。

 

「全く、君たちはほんとに頼り甲斐があるよ」

 

 義政は呆れながらも彼らに続く。

 

 

 

 

 ◇

 

 工藤一族総出で集まったは良いが、本来ならいなければならない人物が来ていなかった。この状況で、工藤に連なる者たちの苛立ちは正当なものであろう。

 工藤に連なる者を招集するよう当主に願い出たのは、彼の弟にして『多彩のマジシャン』という名で魔術界を騒がした実力者。工藤義政である。彼の名を知らないような者はおらず、苛立ちを隠してすらいないものの、表立ってそれを言葉にするような愚か者もいなかった。

 当たり前だ。誰だって報復は怖い。

 

 そんな状況の中、女中の制止の声が会議をまだかまだかと待つ一族全員に聞こえてくる。

 

「待ってください!今はまだ入らないで……坊っちゃま!坊っちゃまをどうしたんですか!って!待ってください!」

「無理じゃない?優斗がその程度で止まるわけないし、そもそもその子に関しては自分から攻撃してきたからね」

「結界を防御に使うなど、なかなかに良い着眼点じゃったな」

「だが、それに捉われて本当の目的の防御が取れないなら意味がないがな」

「すみません、彼らを通してください」

「通せるわけないですよ!って義政様!?」

 

 部屋の外から丁度待たされていた人物の名前が飛び込み、部屋にいる人物の多くが一気に殺気立つ。

 遅れて登場しておきながら騒ぎ、案内すら無視してやってくるなど工藤一族を舐めているとしか考えられないからだ。

 十数人が魔術をいつでも発揮できるように準備している姿を見て、当主は仕方なく魔力に魔力をぶつけて相殺する。

 

「邪魔するぞ」

 

 優斗が襖を開け、勝手に入っていく。それに続く優斗ら一行。

 しかし、優斗の肩には次期当主である一清の姿。

 その状況で現当主に魔力の相殺を続けろというのは酷な話だろう。

 自身の愛する息子が謎の集団に気絶されている状態で運ばれ、集団の後ろには自身の弟が参列しているのだ。この状況で動揺しない人物の方が圧倒的に少ない。

 

「貴様っ!一清様に何をした!」

「今すぐ返せっ!」

「なんなのだ貴様らは!」

「とっとと消え失せろ!」

「貴様らのような人間が入って良い場所ではないぞ!」

 

 そんな暴言のような要求が飛んできても文句は言えないだろう。普通であれば。

 

「ほう。優斗、彼らはこの青年の命よりも誇りを取るらしい。その誇りを傷付けないように敵討ちの気持ちの欠けらも見えない彼らに返してやろう」

 

 フルボッコであった。

 1000年以上生きているのだから口撃も当然の如く上手である。

 

 そして、優斗はアルヴィンの提案に乗って一清をぶん投げた。そう、ぶん投げたのだ。

 

 次期当主である工藤一清は、魔術師である前に1人の武人でもありその身体は恵まれている。身長で表すならば190cmに届くか否かといった大柄であり、筋肉質な身体なのだ。無論、その重さは見た目から分かるどころか見た目以上の部分も存在する。

 工藤一族の面々は一清を受け止めようとしたが、全員が一清の重さに耐えきれずに体勢を崩した。まあ、無理もないが。

 だが、次期当主を受け止められなかったという行為だけで現当主に憤怒の感情を沸かせるには充分であろう。

 

 

 

 

「義政。いくら弟であるとはいえ、お前でも死ぬ覚悟はあるか?」

 

 

 

 

 ドスの効いた声が部屋へと響き渡る。

 部屋の空気が一気に下がったかのような感覚さえ感じるほどだ。

 工藤に連なる者たちは耐えきれずに身体を震わせている者がいたり、意識が飛びそうになっている者などその多くが情けない姿を晒していた。

 だが、優斗ら一行にそんな情けない姿を晒す人物は存在しない。誰もが戦場を経験し、死を直に感じてきた生粋の武人だらけだ。この程度では動揺すらしない。

 

「兄さん、話を聞いてくれ」

「遺言ぐらいを聞く情けはくれてやる」

 

 一触即発。まさにその時であった。

 

 

 

 

 

「いや、話を聞いてもらおう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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