帰宅したら無職でした   作:あきちゃま

4 / 16
第4話 働くとは

 久しぶりの休日だが、休日だからといって怠けていては勇者失格である。

 そこで、久々に大陸鬼ごっこを行おうと思ったが、よく考えてみれば自分についてこれる者がおらず、全く意味がない事に気付いてしまった。つまり、友達がいないのだ。

 

「まあ、普通に走ってくるか」

 

 彼はそう思ってジャージに着替え、運動靴を履く。脳内で戦場での日々を思い出す事によって、緊張感を高めながら運動を行う。

 

 思い出すのはいつかの日の魔王との激突。彼女との戦いにおいて優っている部分は魔術の威力のみであり、その魔術も当たらなければ意味がない。更には、今まで見た事のなかった武術を駆使する、魔術の力ではなく、武術や己の力のみで魔王へと登りつめた人狼との戦い。脚も拳も全てが見切られ、なす術もなく本気で死ぬと感じた数少ない戦いの内の一つだ。

 

「うし、行くか」

 

 父親にいってきますと伝え、玄関を飛び出したら、そこには昨日の全身真っ黒がいた。

 

「やあ、工藤くん。友達にならないか?」

 

 しかも、出会って早々友達にならないかという要求に彼は驚かずにはいられなかった。

 

 

 

 ◇

 

「えーと、つまり山本さんは自分より強い俺に憧れて仕事辞めてまで会いに来た、と」

「ああ、そういうことになるな」

 

 駄目だこの人、自分の社会的立場を投げ捨ててでも行動を起こす人だ。異世界でも一定数いたが、こういう人物は周りが見えないから基本的に最悪の結果を残す事も多い。というより俺が就活中なのを知ってて言ってるのだろうか。そうだとしたらぶっ飛ばす。

 

「働け無職」

 

 すごいブーメランが帰ってきたような気がするが、きっと気の所為という奴だろう。こっちは労働意欲はあるのにどこも雇ってくれないんだ、働く気持ちさえあるなら無職じゃないはずだ。

 

「厳しい。だが、考えてみたまえ。我々魔術師はこの世の頂点に位置する特別な存在だぞ?そんな我々が手を取り合いながら起こす行動は相手が誰であろうと止められない。否、止められては困るのだ!この世界に我々の存在を周知させなければ、自らが世界の頂点にいると思っている盆暗共に我々魔術師の偉大さを骨の髄まで浸透させねばならぬのだ!君ほどの力があれば日本は、いや、私の力も合わされば世界だって手に入るかもしれないぞ!それだけの機会を君は今得ているのだ!共に世界を陥れようじゃないか!友達になろうではないか!」

 

 沈黙。

 勇者である優斗は長い沈黙を貫いていた。まるでこの空間にいることが耐えられないとでも言うかの如く。

 そして、沈黙を貫くのが彼であるのならば、沈黙を破るのも彼である。まさしく唯我独尊である。

 

「あのさ、何か勘違いしてないか?」

 

 

 

 

「魔術師が偉いのか知らんが」

 

 

 

 

「働いてないやつが何言ったって負け犬の遠吠えなんだよ」

 

 

 

 

 絶句した。

 暗殺者として勇者を暗殺しようとした山本は、勇者が力を持ちながらもこの世界の在り方に従う事を良しとしている事に対して驚愕したのだ。

 自分より強く、自分より才能もあり、自分より頂点に相応しい。にも関わらず凡人でいる事を、安寧を求めている優斗に対して驚愕したのだ。そして、次に湧き上がってくる感情がある。それこ、薄汚い感情である嫉妬だ。

 

「ふざけるな。ふざけるなふざけるなふざけるなァ!貴様はこの世界の魔術師じゃないから言えるんだ!貴様のような輩がこの世界を知った気になるなよ!」

 

 思わず山本は自身の影から攻撃を繰り出す。

 だが、影の攻撃は優斗にぶつかる瞬間に全て砕け散っていく。

 

「だからよ、能力も持たずに社会の荒波に立ち向かう人々より俺らが上に立てるわけねぇって言ってんだろうが」

 

 かつて存在したとされる最強の能力、起源『破壊』を扱う最悪の破壊者。魔術を扱う者が一度は聞いた事のある名を今一度思い浮かべる。

 山本は目の前にいる優斗こそ、最悪の破壊者の生まれ変わりだと確信した。狂信するのはこの人しかいないと実感した。

 

 その一挙一動が全て愛おしく感じられ、神々しささえ感じるほどの覇気である。なるほど、覇王とはこの人の事なのか。いつの間にか、そんな言葉を呟いていたのだ。

 

「目を覚ませ」

 

 瞬間、山本は吹き飛ばされる。

 優斗がぶん殴っただけであるのだが、魔術のみの戦いを主とせず、科学の力を主とする現代の魔術師にとって純粋な魔術武闘は対応できるわけがなかった。

 否、世界は広い。よって優斗と渡り合う事が可能な人物も必ずいるだろう。だが、この世界では異世界ほど多くの強者がいると思えなかったのだ。

 

 18世紀にイギリスより始まったとされる産業革命は、人々の生活を豊かにし、凡人であっても世界経済を担い、動かす事さえ考えられる世界を作り上げた。だが、産業革命の影響によって魔術の世界は大幅に衰退してしまった。

 

 異世界と違い、この世界は異端を排除する傾向が強い。その根底に存在しているのは嫉妬ではあるが、持つ者と持たざる者の違いを大きくするには十分過ぎたのだろう。過去には魔女狩りや十字軍などの宗教戦争、プライドのぶつかり合った第一次世界大戦と各々の正義がぶつかり合ったの第二次世界大戦、そして第二次世界大戦による独立戦争。その根底にあるのは全て嫉妬だ。

 

 勇者である優斗にとって、魔術とは魔王を倒すために鍛えただけの"道具"であるが、魔術を基礎とする異世界と科学を基礎とするこの世界のどちらが強力な魔術を使用可能なのかは一目瞭然であった。

 故に、優斗はこれからも危険な目に合う。

 世界中を巻き込む大きな動乱を起こす未来は確定している。だが、どう動くかは彼次第なのだ。

 

 

 

 ◇

 

「ふむ、つまり昨日の退職願は勇者との激突で敗北した事による一時的な感情によるものと?山本くん、そんな意見が通ると思うかい?」

 

 警視総監と呼ばれる、司法の上位に食い込む魔術師は、若い魔術師を相手に常識を叩き込む。

 若き魔術師は、右頬に大きな青痣を作っており、恐らく勇者に殴り飛ばされたのだろうと推測される。

 

 何も言わず、ただひたすら頭を下げ続ける彼を見た警視総監は、一つだけ溜め息をつくのだ。

 

「そういえば誰の退職願か分からないが、珈琲を零してしまってね。人事部へ報告しようにも退職願がないならどうしようもないのだ。一体誰の退職願か分かるかね?山本くん」

 

「きっと、誰のものでもないですよ」

 

 そう言って若き魔術師は微笑む。

 そこそこ整った顔で今までなかった爽やかさを感じる笑顔を作った後、右頬の痣をさすっている。

 警視総監は認めざるを得なかった、彼のこの潔さを。

 

「明日からいつもの職務に戻ってもらう。自分の実力が分かっただろう?これからも精進しなさい」

「仰せのままに」

 

 黒き魔術師は去ってゆく。勇者と呼ばれる男から学んだことを活かしていくために。能力も持たずに社会と戦う一般市民を守る警察の誇りを取り戻すために。

 

 

 

 ◇

 

「彼が戻ってきてくれて本当に助かった。彼がいなくなれば計画が5年は遅れていた可能性がある。いや、もっと遅れていたかもしれないな」

「ははっ、そう言って代わりなんて何人でも用意してるのがあんただろ?犯罪を犯す魔術師を一人残らず牢屋に入れるため、外道へと突き進むあんたならさ」

 

 警視総監は自身の携帯電話である男と電話をしていた。警視総監という立場の人間を相手にしても軽口の叩ける人間である。同じような立場にいるもしくは警視総監程度恐れない強者か。

 

「だが、勇者の強さがイレギュラーだ。あれだけの強さは魔術協会が発表しているランキングの上位にすら食い込むのではないか?」

 

 魔術協会が発表している魔術協会への貢献度を数値化したランキングである。ランキングの指標は、強さだけではなくどれだけ研究に役立つ事が可能かという点に重点を置いている。

 だが、例外的に外されている人物が何人かおり、彼らは皆最強を名乗るに相応しい人物ばかりだという。

 

「まあ、その辺りも問題ないぜ。魔術協会を出汁に最強の殺し屋をぶつけるつもりだ。それでも無理だった時は、一時的に同盟を結ぶ事も考えとけよ」

 

 警視総監はそれだけ聞くと、通話を切ろうとする。

 だが、そこへ最後の一言が聞こえてくる。

 

「勇者を甘くみるなよ、警視総監殿。あれは世界を変える力を持っているぞ」

 

 その警告に何も返事をせずに通話を切る。

 勇者を甘くみていたのは否定できないが、その結果から学んだ事もある。学んだ事によって勇者に対する対策が打てるのだ。

 

「ご忠告どうも」

 

 誰にも聞こえない一言であるが、そう呟いた。

 引き出しから葉巻を取り出し、先端を切り落としてからマッチに火をつける。

 じりじりと燃える葉巻と、落ちていく灰が特徴的であった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。