帰宅したら無職でした   作:あきちゃま

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第5話 魔術協会とは

 一度は辞職した警察官─本名、山本昌治(やまもとまさはる)─との一方的な殴り合いから1ヶ月近く経った。テレビで放送されている天気予報では、梅雨入りしたと報じられているが、天気は真逆の快晴である。

 こちらの世界へと帰還してから一度もかつての友達と会おうとしない俺を父親は心配したりしたが、最近はその心配もあまりされない。というのも、例の警察官が仕事のない時はよくうちに来るからだ。

 

 歳は8歳と離れてはいるが、警察官として培われたコミュニケーション能力のためか、父親と仲良くなるのも異様に早かった気がする。

 

『君は誰かな?優斗に何の用かな?』

『私は警察をやっている優斗さんの友人です。優斗さんは容姿端麗でありながらとても優秀でして、是非とも警察にでもと思い接触をしたのですが、優斗さんの魅力に魅了されてしまいまして、ええ……』

『そうかそうか!君も優斗の魅力が分かる子か!』

『お父様も……?』

『当たり前じゃないか!優斗の為なら会社の一つや二つ辞めたっていいぞ!優斗LOVE!』

『優斗さんは素晴らしい!』

『優斗は世界一!』

『優斗さんは宇宙一!』

 

 コミュニケーション能力……?

 いや、あれも一種のコミュニケーション能力なのだろう。自分の息子を褒められて嬉しくない父親なんているはずないだから。褒めすぎのような気もするがきっと気のせいだろう。

 

「そういえば優斗さんは魔術協会に所属はしてるんですか?」

「魔術…協会…?」

 

 一体何の組織なのだろうか、非常に興味はあるがどうせ碌な組織ではないだろう。というより、秘密結社碌な組織が存在しているのなら教えて欲しいくらいだ。

 

「魔術協会とか、魔術の存在を表の世界から隠しながら魔術をより高みへと昇華させるべく日々活動を続ける秘密組織です」

 

「意外にまとも…?」

 

「主な活動は護衛なども多いですが、暗殺と殺し合い、皆殺しが依頼としてのケースも存在しています」

 

「やっぱ碌な組織じゃねぇな」

 

 優斗は経験からこういった秘密結社や秘密組織は碌な組織が存在しないという事を知っていた。

 というよりも、魔術が公にされていないこの世界では、自身の身を守る為の秘密組織が多数存在していたとしてもおかしくなく、そんな組織があるのであればまともではない組織が存在していてもおかしくはない。

 

「まあ、一般的な感性からすれば魔術協会は碌な組織ではないですね。しかし、世界中の全ての魔術組織が魔術協会の支部であれば問題はまだ簡単なんですけどね」

 

「つまり、魔術協会も一部の組織でしかないと?」

 

「魔術系統の組織の中では一番支配地域が広いのは確かに魔術協会です。主要国家だけではなく、魔術のあまり発展していない国でも魔術協会は存在していますから。ですが、力という点においては魔術協会が魔術系統の組織の頂点に立っているとは完全には言えないですね」

 

 聞いていればかなりの矛盾でもある。

 世界魔術協会と名乗っているにも関わらず魔術組織の頂点となるには実力不足。一体何が不足しているのか気になる話ではある。

 

「抵抗組織でもあるのか?」

 

「抵抗組織とはいえないですが、あるにはあります。まず、魔術協会の本部はかつてオーストリアのウィーンにありました。しかし、時代の流れの中でドイツへと移り、第二次世界大戦の結果フランスへと移されました。つまり、ドイツやオーストリアといった中欧の魔術師は自らこそが本場の魔術師と思っています。言ってしまえば、これこそが魔術協会が世界全てを支配できない一つ目の原因です」

 

 出身地によって魔術師の優劣が決められてしまう。かつてから存在し、未だに解決されていない差別問題の一つであった。

 

「次に十字教の存在なのですが、これは少々歴史について知らなければならないですね」

 

 かつて十字教は権力を握っていた。広大な領土に強大な軍隊を携えた帝国の皇帝を破門し、真冬に門の前で土下座させたという"アレ"だ。教皇の権威が高すぎ、政治の世界に宗教が絡んでいたのだ。だが、その裏にはある人物たちが存在したのだ。

 かつてキリストの弟子であったユダ。彼はイエス・キリストからの使命を理解し使命を全うする為に裏切ったとされる説もあるが、基本的には裏切り者のユダとして有名である。そして、十字教のゴミ処理係として彼らは存在していた。

 

 13番目の弟子、裏切りのユダ。

 

 その名を冠する暗殺者が十字教の裏には存在していた。彼らは魔術をも駆使し、時には魔術師、時には異教徒、時には異端者。十字教の権威を削ぎ落とす可能性のある者は全て排除するといった者たちである。だが、彼らは13代目を作るわけにはいかず12代目で切られ、十字教は腐敗し、権威を失い、分裂した。

 

 だが、20年程前に突如13代目の裏切りのユダを名乗る男が現れた。

 突然の事で十字教すら把握していなかったが、魔術協会はこの男の討伐を決定、すぐさま歴戦の魔術師を集め13代目のユダを名乗る男を討伐するために罠を仕掛けた。結果、魔術師は1人を除いて首だけになり、その1人も片腕を無くしたため第一線から引いていった。

 その首も十字教教皇の前に差し出され、『ユダはあえて教義に反する。異端者は1人残らず駆逐する』という血で書かれたメッセージも書いてあった。

 しかし、この事件には幾つかの謎が存在する。

 まず、誰も裏切りのユダを見た者がいない事。

 誰も見た者がいないにも関わらず男と判明している事。

 それ以降の被害が確認されていない事である。

 

 つまり、魔術協会は十字教、ヴァチカンを酷く敵対視しており、フランスから近いヴァチカンに存在する言わば喉元に突き立てられたナイフを排除できてない事から来るコンプレックスから頂点に立てないわけだ。

 頂点に立てば裏切りのユダが、許されざる13番目のユダが殺しにくるのではないかという死のメッセージが。

 

「まあ、実際にいるかどうかは分からないですが、ローマやヴァチカンだけではなく、十字教そのものと魔術協会の仲が悪すぎて魔術協会が頂点に立とうとすれば十字教との全面戦争になると危惧されているのが二つ目の原因です」

 

「じゃあ、次は?」

 

「次で最後なのですが、これは簡単です。魔術協会は魔術協会が発行する魔術行使許可証が無ければ魔術を行使する事をどこに相談する事なく制定した事ですね。要するに嫌われているんです。イギリス黒魔術協会にも、ローマ十字教にも、その他大勢の魔術組織から嫌われているんです。ああ、日本の陰陽師協会は例外ですね、彼らはむしろ許可制に大賛成でした」

 

「は?え?許可証?」

 

 無論、勇者である優斗にそんなものは存在しない。そもそも彼はこちらの世界に魔術が存在している事を知らなかったのだ。許可証なんて知っているわけがない。

 

「もしかして優斗さん、許可証を持ってないんですか?」

 

「持ってるわけねぇだろ」

 

 山本は空いた口が塞がらなかった。工藤の一族でありながらそんなことがあり得るのか、という意味である。

 だが、許可証がなくても彼を捕まえる事ができる程の人物があまり思いつかない。少なくとも自分は無理だ。であれば、そこまで危惧する事もないのではないか、などと考えていた。

 

「まあ、大丈夫だろ。うし、今日も元気出してトレーニングに行くか!」

 

 優斗は知らない。既に彼を逮捕もしくは抹殺するために魔術協会が動き出している事を。

 

 

 

 ◇

 

 スクリーンに写っているのは優斗と山本の戦いの一瞬。本来であれば魔術師は科学技術を駆使する事には反対なのだが、どこの世界にも例外は存在する。

 

「ふむ、魔術協会も節穴だらけではないということか」

 

「ええ、ボスでなければ恐らく勝てません」

 

「節穴め、俺ですら勝てるか分からん。少なくとも奴には俺の戦い方が通じない可能性がある」

 

 その言葉に多くの人が動揺する。

 裏社会において凄まじい地位を築き上げた殺し屋。彼が率いる殺し屋一家は、彼らだけで国と戦えると称される程である。

 

「魔術協会に今回の依頼だけは受けられないと伝えておけ。それと俺はこいつと会ってくる」

 

 彼は部下からの制止の声を振り切って部屋を出る。

 科学技術を駆使した魔術を使う彼は、魔術師の中では異端中の異端である。だが、異端だからといって弱いわけではない。最強の殺し屋は異世界の勇者を次の標的としたのだ。越えるべき目標として。

 

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