帰宅したら無職でした   作:あきちゃま

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第7話 激突

 漆黒の世界で思いを明かしあった。最強の勇者と歴戦の仲間たちは何度もぶつかり合い、お互いの主張を通そうとしてきた。

 

 人と魔族の共存。

 

 それは本当に可能なのか、行動を起こすにしても何が必要なのか、誰が主導権を握るべきなのか。何度議論しても勇者が指導していくべきとの結論しかでない。それでは駄目なのを知っている。出る杭は打つ世界を知っているからこその考えなのだ。

 

 勇者と行動を共にした仲間たちは、まるで魔法にでも掛かったかのように勇者のカリスマに縋っていたのだ。その姿はまるで宗教そのものである。

 

 だからこそ、勇者は全てを託した。

 人類と魔族だけではなく、全ての種族を繋ぐ希望として、エルフ族の娘と仲の良かった皇太子らしくない皇太子に対して。

 

 

 

 ◇

 

「いや、余裕っすわ」

 

 本の整理という立ち読みとの格闘を主とする仕事をしていた優斗であるが、勇者となった時に得た身体能力を駆使して仕事をテキパキと片付けていた。

 こちらの世界へと舞い戻った後も自分を鍛え続けるのは、こういった身体能力の維持向上のためだけではなく、精神的な成長を狙っているものだ。

 

 彼の世界では、武術とは己の生きる道である。武術から得られるものではなく、武術を通して何を得るか、何を得られるのかを考察しながら技術を磨くための一種の道具(ツール)のようなものなのだ。

 

「いやー、工藤くん今日も動きが人間じゃないね」

「毎日鍛えてるので」

 

 常連さん達からは、キングオブ人外〜走れ、仕事のために〜という名前をつけられている元勇者であった。だが、彼の動きについてこれるものが異世界では数人いたのは確かな事である。勇者とは何だったのだろうか。

 

 身体能力の向上を目的とした訓練法を考案してくれたギルとは、極限鬼ごっこというものをよくやったものだ。これは普通の鬼ごっこであるが、鬼に捕まりたくなければ何をしても良いというルールがある。時には超破壊級魔術を放った事によって国から指名手配をされかけたり、魔族の軍事拠点で極限鬼ごっこをして拠点を崩壊させたり。無論、死者を出す事はルール以前に人としてタブーなので死者が出ないように気をつけていたものだ。

 

 蛇足になるが数人で行う極限鬼ごっこの場合、死者が出ないようにカバーをする人員も必要である。彼らの仲間が全力を出しながら極限鬼ごっこの被害を食い止めていたのは周知の沙汰である。

 何度か止める側の加減が効かなくなり、極限鬼ごっこを行なっていた優斗たちが数日間、生死を彷徨った事もある程の極限さなのだ。

 ちなみに、一番勝率の高いのは優斗であり、主な理由は開始早々別大陸へと逃走するからであった。

 

 

 

 ◇

 

 バイトの時間が終了し、店長に一言伝えてから優斗は立ち読みを続けるスーツを着た男へと歩み寄る。

 

「終わったぜ」

「そうか、死ぬ準備は万端か?」

「準備必要なの?」

 

 殺し合いはこれからにも関わらず、既に敵意を剥き出しにしている2人である。市街地で戦えば、被害は甚大なものとなり、下手をすれば死傷者も大量に出るだろう。

 

「ついてこい」

 

 殺し屋は店を出てから優斗についてくるよう指示を出す。優斗に一切の拒否はない。そして、人間ではありえないスピードで移動を始める2人であった。

 

「ちょ、優斗さん!早すぎる…!」

 

 山本は2人のスピードに全くと言っていいほどついていけなかった。彼が悪いわけではなく、勇者として活躍していた優斗とその優斗に勝らずとも劣らずといったスピードを出す殺し屋が常軌を逸しているのである。彼らについていける者は、両手の数で数えられる程であろう。

 

「お前早いな」

「予想通りだ、勇者であるお前ならついてこられると思っていたぞ」

 

 2人は、街の外れにある小さな森で移動を止める。

 

「俺の名前を伝えておこう、俺の名前は襄 錫重(ヤン ソクジュン)。殺し屋としてではなく、1人の男として勇者である工藤優斗、お前を倒しに来た」

「俺の名前を知ってるのか。んじゃ、ヤンさん?やるか」

 

 森の中から日本刀が飛んでくる。まるで吸い込まれるかのように日本刀はヤンの手の中へと向かう。

 ヤンが日本刀を掴むと、刀を抜く事なく構えた。

 

 一連の動きを見ていた優斗は、まるで当たり前だと言うかのように納得した顔をしていた。移動中のスピードも優斗にしてみれば納得のいく方法なのだ。真似ができるか否かは別としても。

 

「抜刀術。日本で産まれた俺が運良く習った武術がこれだ。神速の一撃で事を終わらせるこの武術だが、司寸織(しきおり)一族の爺さんには通じない。だが、最強の剣士である爺さん以外はこれで倒してきた。お前はどうだ?工藤優斗!」

 

 瞬間、ヤンの姿が優斗の視界から消える。今まで数多の敵と戦ってきた優斗だが、姿が消える程のスピードを持つ相手とは相対した事がない。つまり、勝負は一瞬で終わると思われた。

 

「我流 天魔雷神覇拳 一の構え」

 

 人間は脳から微力の静電気が流れる事によって身体動かす事ができる。であれば、その微力の静電気を操作すればより早く動けるのではないか?動きを止める事ができるのではないか?そういった考えから編み出された後の先の構えがこの技だ。

 そして、姿は見えなくとも電気の動きははっきりと認知していた。つまり、神速を超えた抜刀術を認知したのだ。神速を超えた抜刀術を避けるため、神速のスピードで動く。

 1秒にも満たないこの瞬間の結果は、優斗の髪が斬られるという結果で終わった。

 

「ッ!!」

 

 だが、ヤンの攻撃が終わったわけではない。

 ヤンがスーツの内ポケットから銃を取り出したからだ。

 轟音を発しながら、数発の銃弾が優斗を襲う。銃弾も通常の銃弾ではあり得ないスピードを持っていた。

 

 だが、我流 天魔雷神覇拳 一の構えは後の先の極み。小さい電気を操り、銃弾の方向を逸れさせる。

 

「やっぱヤンさん、お前電気を操ってるだろ」

「ふっ、1分にも満たないこの時間でそれを悟るか。ああ、お前と同じ電気を操る魔術を俺は使える。だが、俺の魔術はお前の魔術を上回るらしいな!」

 

 銃弾の方向を真逆へと返せなかったのは、優斗の電気を操る魔術が"本来は"使えない魔術だからだ。その為、完璧に使いこなしているヤンの魔術でスピードを上げられた銃弾の方向を逸れさせるのが限界であった。

 

 それを察したヤンは発砲を続ける。その銃弾の数は銃の名手数人分の撃った銃弾の数と同じ程であろう。そして、その一つ一つの銃弾が途轍もないスピードで迫り来るのだ。

 

「我流 一死破壊術」

 

 その技を使った瞬間、優斗が認知する全ての銃弾は停止する。全ての銃弾が優斗の目の前で停止し、先ほどまでのスピードが嘘のように動く様子を見せない。

 

「な…!」

「天真一心流 我流 覇双乱の極み」

 

 次の瞬間、黒い炎を纏った優斗の蹴りがヤンを襲っていた。その蹴りを静電気を操る事によって止めようとしたが、何故か(・・・)魔術が通じなかった。

 魔術を行使しながら防御の構えを取れるのは、ごく一部の魔術師のみだが、ヤンはそのうちの1人だ。きちんと防御を取る事など造作もない。

 

 だが、その蹴りは重みが違った。

 殺し屋として死闘を行なった事も数え切れない程あるヤンだが、今まで貰った攻撃の中で一番重い蹴りを受けたのだ。そして、一瞬意識が飛ぶ。

 

「……ッ!!!」

「落ちろッ!!!」

 

 ほんの一瞬であったが意識が飛び、意識が戻った時には次の蹴りが迫ってきていた。敵は操れず、防御の構えを取ったとしても次の蹴りを耐えられる可能性は高くない。まさに詰みであった。

 

 だが、ヤンは諦めない。

 電気を操る魔術師として、一人の男として、半端な魔術を使う優斗には絶対に負けたくないと思ったのだ。

 

 無理矢理脳からの静電気を操り、右手は神速の一撃を繰り出し、左手は何発も発砲を続けるために構える。

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」

 

 そして、刃が優斗の蹴りとぶつかった瞬間、先ほど操ろうとした電気の魔術の如く、まるで通じなかった。ある魔術師から貰った究極の一振りが木っ端微塵になった。

 だが、代わりに銃弾をお見舞いする。銃弾は優斗の脚を貫通するが、それでも蹴りは止まらない。

 

 そして、優斗の蹴りがヤンに炸裂した。

 

 

 

 ◇

 

 優斗はヤンを蹴り飛ばしたは良いが、その時に貰った銃弾のせいで動けなくなっていた。激痛という激痛を超えて、痛みしか感じられなかったからだ。一瞬にしてズボンは真っ赤に染まってしまった。そう、ヤンの決死の一撃は優斗にも届いていたのだ。

 

「あー、これまじで死ぬ」

 

 右脚を抑えながら、治癒魔術を行使する。だが、治癒魔術といえど死んだ者を蘇らせるような力は持っていない。つまり、このまま意識を失えば、ヤンの治癒ができずにヤンが死んでしまうかもしれない。それだけはなんとか阻止しなければならない。

 

 そう思っていたが、目の前を見ればヤンが立ち上がっていた。なんということだろうか、伝説の生き物を屠ってきた一撃さえ彼は耐えてしまったのだ。

 

 勇者は、自身の未熟さを恨んだ。

 

 

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