帰宅したら無職でした   作:あきちゃま

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第8話 勝機

 暗雲立ち込める空の下、激突した2人。仲間たちはそれぞれ彼らを応援した。しかし、激闘は場所さえ破壊し、遂には2人とも戦いながら移動してしまう。

 

『勇者よ!お前は一体何の為に戦う!私は人狼、いや!魔族全ての生存圏を確保する為に戦うぞ!』

 

 激しい攻防が入れ替わりながら彼女は言い放った。魔王である自分には目的があるが、勇者であるお前には何の目的があるのか、そもそも権利はあるのか。魔族を迫害してきた歴史を持つ人間の味方をするのは何故だ。魔王はまさしく王になるべく産まれたかのような女性であった。

 

 誰もが羨む美貌を持ち、誰よりも強く、誰よりも考え、誰よりも先頭に立つ。彼女のような王が人間の中のどこかにいれば、いや、あの皇太子が皇帝となるのがもっと早ければ、この激突は避けられたのやもしれない。

 

 勇者は感じる。

 この人物を殺してはいけないと。

 

 

 

 ◇

 

「立ち上がった!立ち上がっただと……!?」

「痛みを知らせる信号を断ち切った。これで俺は限界を超えられる、超えてみせる」

 

 ヤンは、いつ死んだとしてもおかしくない状態で立ち上がってきたのだ。死線という一つの限界を飛び越えて自らの前に現れた挑戦者である。ならば、勇者である彼が限界を迎えていいのだろうか。人類の希望と()われ、数々の限界を超える希望象徴であった勇者が、こんなところで限界を迎えてしまって良いのだろうか。

 

「我流奥義 大天獄灼眞烈」

 

 勇者が持つ我流の奥義が一つの構えを取る。この奥義は自身が知る全ての武術、流派を繋げる事ができる後の先の極地とも言える奥義の一つである。

 脚は黒き炎を纏い、右腕には可視化されてしまっている程の魔力の渦、左腕にはヤンにすら操る自信のない電力が纏われていた。その姿は勇者ではなく魔王と言っても過言ではないだろう。

 一歩一歩ヤンへと歩み寄るが、ヤンにとっては地獄の閻魔が審判を下さんと歩み寄っているかのように思えた。地獄の番人すら生温いと思えるのだ。

 

 優斗と目が合った瞬間、彼の内に眠る数多の殺気がヤンへと放たれた。1人で放つにしては以上な程濃く、そしてあり得ない程の莫大な殺気である。拳法の達人が数十人集まって殺気を放っていると言われた方が納得のいくようなものなのだ。

 

「これが、勇者」

「そうだ、これが俺の力の一端だ」

 

 

 

 ◇

 

 そこからはただの虐殺のようなものであった。大人と子供が戯れているかのような技の通じなさがあった。音速を超える弾丸でさえ、まるで流水の如く綺麗に受け流されてしまうのだからヤンにとっては打つ手なしとしか言いようがない。

 

 そもそも、ヤンの本来の戦闘スタイルは音速を超える銃弾での牽制から神速を超える抜刀術を炸裂するところにある。その抜刀術が通じなかった時点でヤンの勝機はかなり低いものとなったのだ。

 

 彼がそれでも諦めないのは、殺し屋として数々の殺し合いを制してきた事によるプライドのお陰である。今までの殺しにおいて、格上の相手も策を弄して殺しを実行したり、愚直なまでに真正面からぶつかって殺した事もある。だが、彼にとって初めて勝てないと思わせた人物が優斗なのだ。

 

 だが、この局面において天はヤンに味方する。

 

「優斗さーん!どこですかー!」

 

 山本の声が響く。そう、ここは小さいが森なのだ。殺し屋として本来の動きを十分に発揮できる場所である。

 

 ヤンが声のする方角に向けて銃を構える。そして、勇者である優斗はそれを庇う。だが、銃弾を受け流す事はできても後ろへと流れる銃弾はどうしようもない。一発でも後ろへと流れてしまえば山本に当たる可能性が捨てきれない。

 

 

 

 ◇

 

(チャンスだ、これは俺が手に入る最後の勝機。天は俺に味方した…!)

 

『本当に?』

『こんな勝ち方で良いのか?』

 

(何を言ってるんだ!俺は殺し屋だぞ!どんな殺し方だって殺せば勝ちだ!)

 

『それは本当の声か?』

『本当は勇者と正々堂々と戦いたかっただけだろう?』

『そんな勝利、価値などない』

『勝利とは、相手を圧倒した。超えた時に初めて得られるものだ』

 

 ヤンは葛藤していた。これで勝てる筈なのに自分を止める声が聞こえてくるのだ。いや、その声の主は自分であることも分かりきっていた。

 だが、それでもこの勝機を逃すわけにはいかないと考えていた。

 

 

 

『それとも、正面からは勝てないからこんな手段を取って勝つのか』

 

 

 

 その言葉を、気持ちが爆発しは瞬間、ヤンには耐えられなかった。自分が一番分かっているつもりの気持ちに自分が一番分かっていないのではないかと思ったからだ。

 

「うるせええええええ!!!!ごちゃごちゃうるせえ!俺は俺だ!こんなもの!こんなもの要らねえ!この拳さえありゃこいつ如き殺してやるッ!!!!殺してやるよッッッ!!!!!!」

 

 自分が制御できる最速のスピードで拳を振り抜くヤン。その拳は、不思議な事に構えている優斗に受け流される事なく、優斗の頰に打ち込まれる。

 これで決着はつくとヤンは考えていた。しかし、それは優斗を、勇者をあまりにも甘くみている。彼はその肉体と類い稀なる武術センスによって遂には魔王を討ち倒さんとした人物なのだ。

 

 漆黒の炎を右手に凝縮し、死の気配を纏った勇者がそこにはいた。

 希望の光と呼ばれるにはあまりにも邪悪であり、魔王と呼ぶにはあまりにも狂気に満ち溢れた人物がそこにはいたのだ。

 

「良い一撃だったぜ」

 

 ヤンの記憶に残っているのはそこまでだった。

 

「我流 一滅燈煉」

 

 我流の中でも高い破壊力を持ったこの技は、龍の中でも古来より生き抜いてきた別格の強者を打ち倒す時に編み出した技だ。天真一心流の奥義を理解し、我流へと組み込んだこの技に死角はないと自負している。

 脚に纏っていた漆黒の炎を拳に凝縮する事によって、どんな防御魔術であっても一撃で破壊する事が可能となる。

 

 そして、それを人間相手に使ってしまったのだ。

 

「やっべ!ちょ!死ぬ!ヤンさん死ぬ!」

 

 決着がついたのになんとも言えない雰囲気を生み出す彼は紛れもなく勇者であった。

 

 

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