今日も仕事を終え、家に帰る。
週末になるとどっと疲れが押し寄せてくる。
早く寝たい、疲れをとりたい、などと思いながら駅へ向かう。
時間も遅いからだろう、ホームには酔っぱらいの姿が多い。俺も飲んで帰りたかったがそれよりも疲れが勝り無理だった。明日は休みだしゆっくり寝て、読書でもしたい。
「2番線に電車が参ります、ご注意ください」
ドンッ!
俺は宙を舞った。後ろを振り返ってみると酔っぱらいがふらついていた。おそらくそれで俺とぶつかったんだろう。横を見てみると目の前には電車。
「これは死んだな」
死ぬ間際だというのに冷静でいられる自分に驚く。人は死を悟ると冷静になるのかもしれない、なんて考える程落ち着いていられた。
バンッ!!!
衝撃と共に俺の意識はなくなった。
暖かい温もりを感じ目を開けてみると、黒髪の女性と茶髪の男性が俺を覗き込んでいた。
知らない人だ、と思いながらここはどこか尋ねようと口を開く
「アー、ウー!」
上手く言葉が発せない。不思議に思っていると
「あらあら、元気な子ね。あなたの名前はハヤト、よろしくね。」
まさかと思い手を見ると、小さな赤ちゃんの手だった。
俺は死んだんじゃなかったのか。突然のことに頭が真っ白になり泣き出してしまう。
「どうしたんだ、ハヤト。」
茶髪の男が聞いてくるがそれどころじゃない。
すると黒髪の女が俺を抱き上げ背中をあやすように叩いた。
不思議と安心でき、俺は眠った。
物音が聞こえ、意識がゆっくりと浮上してくる。
動きにくい体をどうにか動かしてみるとそこにはさっきの二人ともう一人女の子がいた。
「あら、起こしちゃったかしら、ごめんね。」
女性は俺のことを抱き上げ、隣にいる少女にそっと渡した
その子は俺へ笑顔を向け
「私はマキノ、あなたのお姉ちゃんよ」
そう言った。俺としてはまだ自分の状況もよく理解できていなかったがこれだけはわかった。
転生したんだな。
それでもまだ、「はい、そうですか」と受け入れるのは無理だ。
幸い俺は今は赤ん坊なんだから時間はたくさんある。その時間を使って受け入れていこうと思う。
それにしてもなんでこんな30の男が転生なんてしたんだか、俺のイメージだと10代とか若い奴らだったんだが。
まあそれも今は気にしても無駄か、今はこうして笑顔を振りまいてくれる新しい家族との時間を大切にしよう。
「ねえ、ママ。この子笑ってるよ」
「ホントね、私たちの新しい家族よ、大切にしましょうね。」
「うん、私立派なお姉ちゃんになる。」