私が望むのは   作:華原蓮

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どうも、華原蓮と申します。
TSキャラが出てくるのは少し後程になりますが、ぜひ楽しんで読んでいただけたら幸いです。


1:訪れ

カーテンから差し込む太陽の光で、また憂鬱な一日が始まったことを知った。--夏は嫌いだ。日本独特の湿気でじめる暑さの中では何もする気が起きない。夏休みが始まってしまえば少しは楽になるのだろうか、学校の授業を受けに行くのを拒み動かない体を無理矢理動かして朝の準備をする。

 

「おはよう。朝ご飯できてるからね。」

 

すでに食卓で朝ご飯を食べてる妹と母は朝に弱いらしく、髪の毛はボサボサで目は虚ろだ。時計代わりにニュースを付けると、朝に見るには濃い顔の人気キャスターが注目ニュースをピックアップしていた。

 

「---新しく内閣総理大臣となった神前総理の支持率が93%を記録しました。歴史的快挙です。今日は7:50分の街角インタビューのコーナーで、神前総理への印象について特集します。」

 

「昨夜静岡県浜松市で発生した強盗殺人の犯人が、今朝自首しました。一連の罪を認めてはいるようですが言動に異常が見られ、警察は精神鑑定を行う予定とのことです。」

 

「日本発信の世界的ロックバンド、The regenerationが全国ツアー中に行方不明となったまま5日が経過しました。警察は依然捜索中で、ファンからは心配の声が多く聞こえます。」

 

「難病を克服し闘うボクサー、アンデルセン選手がついに、アメリカ時間で27日の21時から世界チャンピオンに挑みます!ここまで無敗で勝ち上がってきた彼の秘訣に、8:20分からのスポーツコーナーでせまります。」

 

「CMで人気の天才猫、ニャイルくんのルービックキューブ動画が再生数1億を超え---」

 

重要度かが低くなったニュースを聞き流し食卓につくと 、対面の妹が苦手なパセリをこちらの皿に放り込みながら話しかけてきた。

 

「兄貴の好きな---なんだっけ、りじぇね?まだ見つからないんだね。兄貴も心配してる?」

 

「たしかに心配はしてるけど、どうせひょこっと戻ってくるとは思うよ。リジェネはファンを大事にしているし、何より音楽が大好きだから。何かに巻き込まれてでもいない限り平気だろ。それより話を逸らしたつもりかもしれないが、パセリくらいちゃんと食べろよな。もう高校生だろ?」

 

「ぶー。ばれないと思ったんだけどなぁ。わかりましたよー、食べますよーだ。」

 

妹は高校生になったのに、パセリが食べられない。もちろんパセリに限らず野菜は苦手でいつものけてくるのに、なぜか健やかに成長している。幼い頃より僕は処理係であるからして、なんでもおいしく食べることができるのは僕のささやかな自慢だ。

 

10周年全国ツアー中の---もちろん受験間近でなければ見に行ったのだが---リジェネが姿を消したのは、ファンの間では大変騒がれている。ファンを愛し音楽を愛する彼らがツアーを投げ出すなんて到底考えられない。何かに巻き込まれたのではないか。ネットではこう言われているが、僕は何故か不安には思わなかった。どんな状況に巻き込まれても彼らなら絶対帰ってきてくれる、そう心のどこかで思っているのかもしれない。

 

仕度を済ませ家を出ると、学校までゆっくり歩いた。制服のポケットにいれたゲームや携帯は貼りついてうざいし、早く冷房のついた教室にいきたいのは山々であったが、急ぐと汗が出て不快であるし、それに---

 

「よう、今日も元気かぁ?朝から浮かない顔してると幸運が逃げてくぞー!」

 

暑さにやられてうだる僕とは対照的に、同じクラスの倉林は元気一杯の様相。彼は各分野における天才が集まるうちのクラスにおいても特に優秀な人間で、得意とする勉強はもちろんのこと、スポーツ、芸術、何においても才能を発揮するような、ザ・天才である。速いスピードで通りすぎて行く彼に挨拶だけ交わし、ふと見上げた空が雲ひとつない快晴であるのを知り僕は深いため息をついた。

「今日の空は暑苦しいな。」

 

 

 

 

 

クラスはいつも明るい声で溢れている。始業前ギリギリに入る僕は必然的に皆から声をかけられるが、テンションについていけない日は多々ある。僕が六年間過ごすこのクラスに未だ不満を覚えるのにはいくつか理由はあるが、それは彼らのせいでは無い。学年のなかで有能な生徒が集められているこのクラスでは、僕は劣等感を感じることが多かった。特別彼らが自慢してくることや蔑んでくることは無いが、それがさらに僕の自尊心を傷つける。一流の進学校であるこの学校に入るまでの自分を捨てきれない。

 

他人に負けるのが嫌いで幼い頃からくだらないことにでも努力を重ねた。僕自身に才能があるわけではなかったため、母に無理を言って、 サッカー・水泳・ピアノ・空手などを習わせてもらった。凄く裕福な家庭というわけではなかったため、負担は大きかったと思う。どの習い事でも僕よりうまい人は大抵いたが、そこまで気にならなかった。小学校ではいつも活躍できたし、勉強やゲームでは誰にも負けなかったから。勉強は楽しい。自分が成長しているのが感じられるし、知識を生かすことができると幸せを覚えるからだ。ゲームも沢山やった。小学校が終わる頃には習い事はすべて止めてしまったが、勉強とゲームは続けた。一番誇れるものは止められないのだ。

 

このクラスでは僕より勉強やゲームができる友人がいる。そのことが真綿となり僕の首を絞めていったし、遊びであるゲームですら上には上がいた。皆が皆勉強に特化しているわけではないが、そういう友人は誰にも負けない他の才能がある。それが、ひどくうらやましく思えるのだ。

 

「---これでショートホームルームを終えるが、何か連絡があるやつはいるかー?なんでもいいぞー?」

 

「はいはい!ついにアイドルとして公式にデビューが決まりました!みんな、優希

ゆうき

のこと応援してね!明後日放送の音楽番組ぜったいみろよ!」

 

彼女の宣伝でクラスに歓声が広がる。大手事務所主催、倍率1200倍のアイドルオーディションに合格したのだから当然のことだ。クラスの一員として僕も素直に嬉しく思う。

 

このクラスの人間は運もいい。僕も悪い方ではないが、他の皆は自分に有利となるチャンスを掴みとることが多かった。オリンピックに出場が決まった山下も、今年奇跡的にサーフィンが新しく種目となったため、最年少オリンピックサーファーとして脚光を浴びた。芸人を目指す貫田は、投稿した動画が海外のアーティストによって宣伝され素人ながら、いまやバラエティに引っ張りだこである。運も実力のうちとは、こういうことを言うのだろう。

 

 

 

 

今日はあまり勉強する気が起きない。小学校の頃は塾にいけば必然的に勉強をすることになったが、高校生になって自分で勉強するようになってからは、伸び悩むことも多いし今日のようにサボる日も増えた。帰りがけに格ゲーでもしよう、そう思ってゲーセンにむ向かうここ数年格ゲーをプレイする人は減ったようでいつもなら対人戦にはならないのだが、今日は向かい側に先客がいたようだ。心が踊った。ひさびさに誰かを打ち負かしてスッキリしようと思ったのだが…惜しくも敗北。相手が対戦中にどんどん強くなっていくのは、悔しかった。弱いふりでおびきだされのだ。相手の顔を見てやりたかったがそこには野良猫だけ。いちゃもんつけられるのが怖くて逃げてしまったのだろうか。

 

ゲーセンの前で担任の能登に会った。あまり得意ではない。誰にでも等しく接し、適格なアドバイスをする能登先生になにもかもを、自分の心の奥底まで見抜かれている気がしてならないのだ。

 

「お、いたいた、三国。勉強はどうだ?いつもがんばってるし、たまには息抜きも必要ってな。」

 

「はは、そうですね。まぁもう帰って勉強しますよ。先生はなぜここに?」

 

「そうだそうだ、大事なことを忘れてた。三国に伝えることがあったんだよ。それで倉林にお前の居場所を教えてもらったんだ。」

 

「僕に、ですか?わざわざすみません。何事でしょう?」

 

「お前が申し込んでた医療現場体験、見事当選してたぞ。面接でかなりポイントになる今回の、通ってよかったな。おめでとう。」

 

降ってわいた幸せに僕は言葉が出ない。国立医学部を目指す僕が、勉強以外で優位に立つにはこの現場体験が必要だったのだ。その志望大学主催の現場体験は、面接でかなりポイント高いと有名なものであった。公表はされてないが倍率30~40倍と聞く。

 

「ありがとう、ございます。先生のお陰です。」

 

そういうのが精一杯であったが、先生はにこやかな顔で書類を渡して去っていった。思いもよらず、いつも通り不幸であると思っていた今日は、近頃で一番幸運な日へと変わった。

 

「アイスでも買ってってやるかな。」

 

母には抹茶、妹には苺のアイスを買った。いつもならチョコレート味だが、僕は安っぽいソーダ味のアイスを買って帰った。

 

 

 

 

勉強は比較的はかどり、どうにも苦手な古典や日本史も進んだ。教科書のコラムに載っている、2万の敵軍に単身乗り込んで敵将を討ち取った武将、という眉唾物な逸話も笑いながら読む余裕があった。劣等感は影を潜めていて気分がよかったし、部屋中に響き渡る音でリジェネの曲をかけていると、母が部屋に入ってきた。

 

「ノックしたんだけど、返事ないから入ったよ。さっきの現場体験の書類、担任の先生の印鑑が必要みたいだから、お礼も兼ねて今学校行ってきちゃいなさい。今日はついてるんだから、帰りに郵便局に出してくれば一石二鳥だしね。お菓子持たせるから、先生にちゃんと渡すんだよ。」

 

母も妹も当選を喜び書類を眺め、アイスを頬張っているのを尻目に制服に着替えて家を出た。

 

お中元で届いていた少し高級な和菓子をお礼として渡すのもなんだか気が引けたが、先生に連絡し学校でしっかり渡した。先生は自分のことのように喜んでくれたが、和菓子は小分けのうち1つしか貰ってくれなかった。ダイエット中なのだそうだが、腹筋が六つに割れているのを考えると、遠慮だったのであろう。

 

郵便局に書類を提出した後、余ってしまった和菓子を食べながら歩いていると、ずっと遠くに虹が見えた。向こうではゲリラ豪雨でも降っていたのだろうかと思いつつも、その虹を写真におさめたくなりカメラを起動。今朝と変わらぬ暑苦しい空に綺麗にかかる虹をシャッターにおさめ満足して歩き始めたが、虹に気をとられ過ぎていたのか、気がつくと見知らぬ路地に迷い込んでしまっていた。

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