「どこだよ……ここ……」
路地裏に迷い込んでからかれこれ30分は歩いていた。先程迷ったと気がついた時に、後ろに引き返したのに何故か元の道につかない。
「こんな歩く筈がないんだ…何かがおかしい…」
まわりを見渡しても建物の壁ばかり見えるだけでうっそうとしていて、恐怖を感じずにはいられなかった。不安感をまぎらわせようとして口からでる言葉には誰も答えてくれない。頼みのスマホも、GPSが機能せず役に立たなかった。異様な静けさに覆われたこの場所から一刻も早く抜け出したくて、僕は走り出した。やがて息があがって立ち止まってしまったものの、僕は何か変化を感じ取ることができた。
「………音だ。音が聞こえる…!」
かすかではあるが人の声が聞こえるのだ。一人二人ではなく、大勢の人間を感じさせる声に向かって、痛む脇腹を押さえつつ走った。終わりが見えないような暗さに包まれていた路地に、急に明るい光が差し込み思わず目を覆う。ゆっくりと目を開けた僕が見たのは、異様な光景であった。
商店街のように栄えた通りを行き交う多くの人々。明るく楽しそうに歩いているが、外国人がとても多い。日本人と見受けられる人はいない。というか、そこはあんまり問題じゃなくて……
「エルフだ………エルフがいる……」
僕の視界には、耳が異様に長い人間、おそらくエルフであろう存在がいた。
「おう兄ちゃん、あんた外側の人間か?外側からきたやつは大抵エルフに驚くよなぁ。そんなに珍しいもんかねぇー?」
今度はどうやら僕の独り言を拾う人物がいたようで、声がする方向に振り向いた。
「……あれ?誰もいない…」
「どこ見てんだ!下だよ下!もっと視点さげて!」
言われた通り下を向くと、そこには小さい大人がいた。
「え、え?今度はドワーフ?」
「ドワーフじゃねぇよ!よく見ろ!ホビットだよ!」
彼はドワーフではなくてホビットらしい。正直見分けかたなんて知らないし、こんなよくわからない出来事の当事者となってから混乱し続けている。暑さで頭がやらてしまったのだろうか。
「あの、ここはどこですか?僕が知る限りじゃ、ホビットやエルフは想像上の存在で………」
「おうおう、とりあえずそこに座れや。外側から来たんだろうし、なんも知らないだろ。この俺が一から説明してやろうではないか。」
えへん。とでも表すのが適切そうなポーズで彼はそう言った後、椅子を差し出してくれた。座って一息つくと、彼はどうやら露店商だということがなんとなくわかった。
「この世界はなぁ、お前が住んでいた所とは全く別の場所だ。俺はもとからここに住んでいるが、よく他の世界--俺達は外側って呼んでいるんだが--から人が迷い込んでくるんだ。外側のやつらの話によると、いろんな時代、いろんな場所から迷い込んでいるそうだ。帰る方法は見つかってない。まぁ、もとより帰ろうとするやつなんてあんまり聞いたことはないんだがな。ざっと言えばこんな感じだ。兄ちゃん、なんか飲むか?暑いだろ?」
開いた口が塞がらないとはまさにこの事だろう。何の因果か僕は、この大事な時期に異世界なんかに迷い込んでしまったのだ。状況は好転したどころか、悪化しているとも言えるかもしれない。思わず頭を抱えた。
「おい、聞いてんのか?なんかいらないの?」
「あ、すみません!僕、ここのお金持ってないんで……」
「あぁ、そりゃ問題ないぞ。どこの時代のどんな通貨だって、渡してくれればこちらの通貨にへ変換されるからな。」
「変換…ですか?」
「そうそう。変換。今俺と兄ちゃんが違和感なく喋れてるのも、言語が変換されているからだしな。外側のやつは大抵信じないもんだが、とりあえず一番やすい金出してみなよ。論より証拠ってやつだ。」
そういえばなんの違和感もなく喋っていたが、普通に会話が成立していた。変換というものがいまいちわからないが、とりあえず10円玉をホビットに差し出した。すると10円玉は一瞬輝いた後、見たこともない硬貨に置き換わっていた。
「な?これが変換だ。通貨は勝手に交換してくれるんだ。言語も同じ。この商品のパンのの値段も、口に出して言えばそちらの通貨価値に変換して聞こえるって訳だ。120円。もってるか?茶は80円。しめて200円だ。それに、この世界では犯罪を犯すことはできない。お俺がお前を騙しているなんてことはないから、とりあえず払って食えよ。」
「パンは、いらないです。今食欲なくて。お茶だけ下さい。いろいろ、質問してもいいですか?」
親切に説明してくれるのは凄くありがたいが、どうにもわからないことが多すぎた。受け取ったお茶を飲むと、麦茶のような味わいだった。
「おう。構わんぞ。何が聞きたい?」
「えと、変換と言うのは魔法ですか?それと、犯罪ができないというのはいったい……」
「魔法なんてものは、存在しないさ。外側のやつらは皆そんなことを言うがね。これは創造主の力のおこぼれだ。この世界を作ったと言われている創造主が、ついでにルールを決めたんだ。皆が暮らしやすいように、外側からやって来たものも不自由なく暮らせるように、ってね。魔法とは違う。確かに外側のやつには使えるやつもいるが、これは力の一種だ。犯罪をできないっていうのも、その力によるルール。犯罪をするとその当人の頭上にカウンターが表示されて、罪の重さに比例して数字が大きくなる。それを自警団に確認されればすぐに捕まるし、周りの奴からも避けられる。余程カウンターの数字が大きいと、即座に自警団に通報されてそ即刻死刑だ。嘘をつくだけじゃあカウントされることはないが、それが詐欺行為だと認められれば数字がつく。嘘はつかない方が良いってことだ。犯罪行為はなにか正当な理由があればカウントされることはない。わかったか?だから皆普通は犯罪ができないんだ。可視化されるからな。」
「仕組みはなんとなくはわかったんですけど……創造主って人は何者なんですか?そんな超人的な力が使えるなんて信じられないんですけど…いや、こうして目で見てしまった以上は認めざるを得ないんですけど………」
「ん?兄ちゃんもしかして、外側の人間なのに力が使えないのか?他人と少し違う特殊な力みたいなの、使ったことないのか?」
「え、使ったことないですけど……」
「それは…ちと残念だな。いやな、ここに来る外側のやつらは大抵何かしらの力を持ってるし、俺達内側もいつかは力を手に入れられる。……まぁ兄ちゃんもいつかは手に入れられるかも知れないんだ。元気だせよ。」
未だ現実感の無い話のなかで、劣等感を感じずにはいられなかった。話を聞く限りでは、ここは力を使える優れた人間だけがこれるような……
「あの、力ってどうすれば手に入るかわかりますか?よければ、教えて欲しいんですが…。」
ここまで親切に話してくれたホビットを、僕はすっかり信じていた。嘘をつかれているかも知れないが、それは諦めるより他無い。僕は情報を貰ってる側なんだ。
「力を使えるやつはいろんな呼ばれかたをするが、一番浸透しているのは使い手って呼び方だ。今まで俺は職業柄たくさんの使い手に会ってきたが、なかなか自分の力について話してくれることは無い。だから少し推測を含むが……」
僕はメモをとらせて貰ったが、力を手にいれるのは意外と簡単そうであった。
1:何か1つの対象に、心の底から愛情を注ぐこと。対象は物でも構わない。
2:何か1つの物事を、限界まで極めること。その物事をより極めた者がいて越せなくても、ある一定ラインまで極めればよい。
3:何かに、心の底から愛されること。この場合、物が能力を持つこともある。