「最初の条件なら沢山のやつが力を手に入れられると思うだろうが、そうでもねぇんだ。わざわざ強調してるように、心の底からっていうのがすごく難しい。余程物を大切にすることを刷り込まれているか、誰かに心底恋をするか…。まぁ、狙うならこの最初の条件だ。まぁ自信があるなら最後のも狙えるが……まぁ頑張るんだな。今話した条件は推測だからもちろん正確じゃない。何か違ってるとこがあったら悪いな。まぁ俺も力はまだ持ててない。お互い頑張ろうや。」
「はい、ご親切に話してくださって助かりました。それで、創造主さんっていうのは一体どんな人なんですか?まさかこの世界を、今話した力で作ったとでも……?」
「あぁ、そうか、忘れてた。その認識で間違っちゃぁいねぇ。この世界と、適用されるルールを作ったのは創造主だし、外側から人を招いているのもたぶん創造主だ。そんな凄い力を持っているやつなんて他に聞いたことはないから、こいつだけ異常だと思ってくれればいい。もしお前が帰りたいなら、創造主を探してみればいいかも知れないな。」
「え、創造主さんって人はまだ生きてるんですね……どこに行けば会えるんですか?」
「実は会ったことがあるって話は聞いたことがねえんだ。でも創造主はどうやら、この世界をどの外側の世界よりも住みやすくしたいらしくてな。さっきのカウンターとは反対に、善行を積むとたまに褒美を与えてくれるんだ。突然空から紙が落ちてきてな、そこに願いを書けばある程度のことなら叶えてくれる。俺も叶えて貰ったよ。だから、その紙を手にいれれば会えるんじゃあ無いか?」
「なるほど…ちなみに、どれくらい善行を積んで、どんな願いを叶えて貰ったんですか?よければ、教えてほしいのですが…」
「おう、いいぞ。これも善行に含まれるだろうし俺は損しねぇからな。俺はこうして、外側の人間にここのこと教えてやったり、あとは小さな善行を積み重ねているが……外側の人間70人くらいに教えたときだったかな?ついに俺のところにも来た!って思ってな、これを貰ったんだ。」
そう言って親切なホビットが見せてくれたのは、どうみ見てもスマートフォンだった。
「え、これスマートフォンですか?どうしてそんなものを…」
「おお、兄ちゃんも知ってたか。これはな、比較的進んだ時代の外側のやつに教えて貰ったんだ。便利だよなぁ、この機械。ここの世界のやつは持ってないから連絡つかないが、これを持ってこの世界に来た人間となら連絡とれるからな。その反応だと兄ちゃんも持ってるな?どうだ、連絡先交換しないか?」
まさか異世界に来てまで連絡先を交換することになるとは思わなかった。話を聞く限り電波は不思議な力で通じているようだ。
「少し待ってもらってもいいですか?いろいろ確かめたいことがあって…」
「ん、あぁいいが…お前が元いた世界の人間とは連絡つかないぞ。大抵のやつはそうしていたがな。元いた世界の情報を調べることはできるが、発信はできないらしいぞ。まぁ試してみな。」
それは僕にとっては不幸な知らせだった。一応確かめてみたが、誰と連絡をとっても圏外。一方ネットは自由に使えたものの、掲示板に書き込むことはできなかった。
「本当ですね……すみません、お待たせしました。はい、これ僕の連絡先です。三国和哉っていいます。和哉が名前です。」
「おうおう、ありがとな。俺はベルホルト・ハンデラー。ベルホルトが名前だ。………よし。できた。いつでも困ったことがあったら連絡してこいよ?こっちでできることあったらやってやるからな。」
「はい、ありがとうございます。あの、そのスマートフォンのこと教えてくれたのって…」
なんて国の人ですか?そう聞こうとしたとき、大通りがざわついた。
「な、なにするんですか!やめてください!誰か、誰か助けて!」
「だまって大人しく捕まれ!俺は主人公なんだ!お前みたいな美人は、俺のものになる運命なんだよ!」
そちらを見ると、東南アジア風の顔つきをした男が絶世の美女とも言えそうなエルフを追い回していた。手にはナイフを持っているのを見る限り、話は聞かなそうだ。主人公だといってるからには、外側の、しかも自分が生きていた世界に比較的近い人間のようだ。
「あーあ、あいつはもうダメだな。多分外から来たばかりで何も知らずに浮かれたんだろうが…ほら、頭の上を見てみろ、カウンターは65/100だ。一発でつかまる。」
男の頭の上には妙にデコレーションされたデジタル表示のカウンターがあった。三桁表示できるようになっているそれが示しているのは65で、やたら光っている。
「ほら、来たぞ。自警団だ。あいつはもうお仕舞いだぜ。」
西洋風の鎧に身を包んだ集団がどこからともなく表れ、エルフを逃がした後に男を取り囲んだ。
「おい、お嬢ちゃん!こっちおいで!守ってやる!」
ベルホルトさんはどうやらまた善行を積む気らしく、エルフをこちらに招いた。走ってエルフがこちらに来る間に、自警団に動きがあった。なにやら呪文のようなものを一斉に唱えると、光の輪が男をがんじがらめに拘束したのだ。
「あの光の輪はどんな抵抗も許さない。あの男がどんな力を持ってようと反撃はできないさ。お嬢ちゃん、大変だったなぁ?もう安心だぜ。怪我してないか?」
捕り物騒ぎに夢中になっているうちにエルフはこちらに着いていたようで、荒い呼吸をする彼女からはいい匂いがした。この世で見たどんな人よりも美しい彼女に、僕は思わず見とれてしまっていた。
「は、はい、大丈夫です!ビックリしましたぁ。いきなり人がいっぱい居るところに出たと思ったら、あんな野蛮な人に追いかけられるなんて……」
「ははは、災難だったな。まぁ座りなよ、何か飲むか?金持ってる?」
ベルホルトさんは商売上手な様で、恩を売りつつ商品も売る気らしい。
「あ、はい。そのブドウジュースを下さい。お金はこれで足りますか?」
そういってエルフは綺麗なコインを差し出した。
「おぉ、驚いた……お嬢ちゃんも外側の人間か…」
どうやらこのエルフは僕と同じ外側の人間らしい。驚く僕とベルホルトさんを、彼女は小首を傾げて見つめていた。
「ということは、ここはニーナの住んでいたエルフの森とは随分と離れたところなのですね…」
再び説明モードになったベルホルトさんから話を聞いた彼女は、うつむいてそう言った。名前はニーナ。姓は無く、エルフの森で果物を取りに行った途中、急に辺りが暗くなってここにたどり着いたらしい。
「まぁ嬢ちゃんも故郷に帰りたいだろうが…安心しな。ここは良いところだぜ。生活はちゃんと保証されてるし、娯楽だってある。さっきみたいなやつも普段はいないしな。」
すると彼女は、うつむいていたいた顔を急に上げて、頬を赤くそめつつ楽しそうに口を開いた。
「いや、ニーナはむしろ喜んでいるのですよ!エルフの森はルールが厳しくて、森から外にも外にもろくに出たことがないくらいなんですから!こんなチャンス滅多にないです!それに、エルフは長命なんです。少しの間くらいなんともないんで!」
「あ、そっか…ニーナさんは、何歳なんですか?実はすっごい歳上だったり…?」
「いやいや、ニーナはまだ若輩者なんで!たったの18歳ですよ!カズヤは?」
「僕も18歳です!奇遇ですね!!」
僕の口角は思わず上がってしまった。ニーナさんが来てからテンションが上がっている僕を見て、ニヤリと笑ったベルホルトさんが口を開いた。
「じゃあ同い歳の外側二人で、この町を歩いてみたらどうだ?なにかしら手に入る情報もあるだろうし、話も弾むだろう。ささ、行った行った。ベルホルトさんの店にまた来てくれれば良くするぜ。」
そういってベルホルトさんは強く僕の背中を叩いた。ベルホルトさんなりの気遣いなのだろうが、妙に恥ずかしかった僕は笑って誤魔化すことしかできなかった。もう既にニーナさんは出掛ける気満々らしく、嬉しそうにピョンピョン跳び跳ねている。
「じゃあ、行きましょう!カズヤ!まずはあっちの、人がいっぱいいる方がいいです!」
彼女の輝く笑顔に見とれていた僕は、二つ返事で歩き出した。案外早くに、力が手に入れられそうな気がした。