「へぇーー、じゃあカズヤは故郷に帰りたいんですね!」
「故郷でやらなきゃいけないことがあるんだ。ニーナは外に出てやりたかったことないのか?」
ニーナは敬称をつけて呼ばれることを嫌がり、僕に名前で呼ぶことを強制してきた。恥ずかしくて最初はなれなかったものの、なんとか様になってきた。自分の名前を呼ばれる毎に多少にやけてしまうことに目をつぶれば、だが。
「えーと、とりあえず外に出てみたかったっていうか……エルフの森では見れなかったものを見たいですね。この通りにある屋台の食べ物とかも、どれも見たことない食べ物で、今こうして食べ歩いているのがすごい楽しいですよ!」
「それはよかった。僕もここにある屋台の食べ物は初めて見たなぁ。僕の故郷にも、いっぱい美味しいものがあるよ。」
「え、ほんとですか!じゃあいつか食べに行きたいです!……でもとりあえずここのいっぱい食べましょ!食べるの大好きなんですよ!」
ニーナと食べ歩きをするのはとても楽しい。これほどの美人と歩いたことなんてなかったし、日本とは違う町並みは興味深い。こんなよくわからない異常事態に巻き込まれていても気分が浮かれてくるほど楽しいのだが……楽しいのだが……
「いかんせん財布がなぁ……はぁ…」
ニーナは常に携帯していた分の、少額のお金しか持っていなかった。食べ物をすごく嬉しそうにた食べるニーナを見ると自然と払ってしまい財布は軽くなってしまった。
「あ、そうですよね……ごめんなさい……いつか絶対にお返ししますね!」
思わず漏れ出た言葉を拾われて、少し申し訳ない気持ちになった。せっかく楽しんでいるのに、気分を害してしまったかもしれない。
「いやいや、大丈夫大丈夫。気にしないで。でもすぐに帰れそうにもないし、お金を稼ぐ手段を考えないとか………ニーナは何か得意なこととかある?」
「こう見えても、森の民ですからね。森で何かを探すのは得意ですよ!!カズヤは何かできますか?」
「んー……役立てることそんなないかも知れないなぁ……知識はあるけど、こうしてか金を稼ぐとなるとなにができるか……」
「じゃあ、ニーナがカズヤに教えますよ!頑張って覚えて役に立ってくださいね!!ふふっ」
無邪気に笑う彼女の言葉に、僕は純粋に頑張ろうと思った。
「知らないことは恥ずかしいことじゃないんです!森の民の秘技を今なら教えちゃいますよ!」
「ははっ、秘技は教えちゃダメなんじゃない?」
明るい彼女といると心が晴れてくる。こんなにスッキリとした気持ちは久しぶりだった。
この通りが町のメインストリートな様で、通り中央の広場から円形に町が広がっているようだった。広場は通りに多かった食べ物屋台より、八百屋や金物屋など、より生活感のある店が多い。魚屋があるところを見ると、近くに湖か海があるのかもしれない。中心部には水遊びのできる噴水があって、たくさんの子供たちが楽しそうに遊んでいた。
「なんか素敵なところですね!笑顔で活気があって!」
ニーナの笑顔の方が素敵かな、なんて台詞が頭をよぎり、思わずにやけた頬をつねった。流石に浮かれすぎで、我ながら気持ちが悪い。
「カズヤ!見てくださいこれ!お仕事いっぱいありますよ!」
名前を呼ばれニーナの方を見ると、なにやら掲示板を指さして跳び跳ねている。どうやら、求人広告のようなものらしい。
「あ、すこい。紙に書いてあるお金もたぶん翻訳してくれてるんだ。報酬が円で書いてある………どれかできそうなの、あった?」
真剣な目で眺めているニーナに聞くと、しばらくしてから一枚広告を剥がして見せてくれた。
「これにしましょう!ジュース用の果物採取!報酬もそこそこあるみたいですし、ニーナ大活躍の予感がビンビンです!!」
「どれどれ……マンゴスチン……?なんだそれ……?」
「え、マンゴスチン知らないんですか!美味しいのに!ぜひ取って食べましょう、ね?」
「う、うん。報酬は……なかなか………あれ、これってベルホルトさんの依頼じゃん!」
僕らはこうして、またベルホルトさんのお世話になることとなった。
「よう、二人とも。デートは楽しめたか?………マンゴスチンをとる?……まぁそんなに難しいことでもないしいいか。じゃあ記念すべき初仕事、頑張ってこい。ただ、この季節は動物も多い。一応気を付けていけよ。無事戻ったら、報酬は色つけてやる。ちゃんと帰ってこいよな。」
そんなこんなで僕らはこの地で初仕事をするはめになった。…マンゴスチンとはどんなものだろうか…
通りの端まで歩くと大きな門があった。ベルホルトさんが言うには、この門から真っ直ぐ道沿いに進めば、右手側にマンゴスチンが群生している森が見えてくるらしい。何気ないことを話ながら1時間ほど歩いた頃であろうか、草原の先に見えていた森に到着した。外に出たがっていたとはいえ、やはりニーナは森が好きなようだ。木の根などで歩きにくい森の道を軽やかに進む様は、森の民の名を冠するように魅力的で、ニーナの美しさをいっそう引き立てていた。
「あー!!ありましたよ!マンゴスチン!ニーナが知ってる木よりだいぶ大きいけど……見てください、この美味しそうな実!カズヤは木登りできますか?」
意外とあっさりと見つかったマンゴスチンの木は高めで、僕はサムズアップしてから木を登った。久しぶりにする木登りに少し苦労したが、童心に帰ったようで楽しい。そのあとの木はニーナが登ったが、すごく華麗だった。手をほとんど使わずにてっぺんまで登り、笑顔でこちらに手を振った彼女に、僕は思わず拍手を送った。
何本か木に登り、ベルホルトさんに貸してもらったかごにマンゴスチンをたっぷりつめて、下にいるニーナに渡した後僕はてっぺんまで登った。雲のない空の下、草原の向こうに小さく見える町並みはまるで映像で見たヨーロッパのようで、素敵だった。反対側には森が続いていて、森に沿った整備道には馬車が何台か走っていた。降りようとしたときに、森の少し奥の方から急に沢山のカラフルな鳥が羽ばたき町の方へ飛んでいった。
「なにかあったんですかね。あの鳥たち、結構驚いてた見たいですけど……少し行ってみませんか?」
「え、危険なんじゃないかな?もし肉食動物とかいたら……」
「うーん、動物にあったら逃げればいいですよ!大丈夫です!森の民が着いているんですから!いきましょいきましょー!」
謎理論で無理矢理丸め込まれた僕は、ニーナと収穫したマンゴスチンと、森の奥へ進むこととなった。なにか嫌な予感というか、モヤモヤした感じが僕を渦巻いていた。
鳥が飛んでいった方角に向かうと澄んだ川が流れていて、上流には大きな岩場が見えた。川に沿って下流に向かって行くと急にニーナが静止をかけた。
「ちょっと、静かにしてみてください。向こうの方に、なにかいるみたいです。動物の声か……呻き声のような……なんでしょうか…」
森に来てから初めて見るニーナの真剣な顔に、僕は思わず生唾を飲んだ。
「え、それって大丈夫なの………?どうする?逃げる……?」
「いや、もう少し近づいて見ましょう。足下の乾燥した枝とか、踏むと音が出ちゃうのでニーナの足跡を踏んできてください。」
彼女はそう言うと、前方を警戒しながらも的確に音のならない地面を踏んでいった。感心しつつも用心して、なんとか音をたてないで着いていく。空気が張りつめた様に感じられ、嫌な汗が背中を流れた。ある程度進んだとき、彼女が短く悲鳴を上げた。
「人です!人がいます!倒れてて、血がいっぱい……!」
嫌な予感はあたってしまった。ニーナと共に駆け寄ると、僕にも一面の血の中に倒れ臥した人影が見えた。
「あの人……着物だ…」