男が起きてきた後、すぐにでもここを出ようと思っていたがそうもいかなかった。ニーナだけに事情を話している形であったため、再び説明するのに時間がかかってしまった。
「じゃあ改めて、だ。見ず知らずの某を助けてくれたこと、感謝している。ニーナにもカズヤにもそのうちお礼はさせてもらおう。」
「いえいえ、当然の事をしたまでですよ!ムナカタさん!気にしないでください!」
「そうですよ、誰かを助けるなんて当たり前しじゃないですか。ニーナも僕も、お礼を貰おうとして助けた訳じゃないですし。」
二人にはこう言われたが、お礼はするつもりである。どのように役に立てるかはわからないが、命を救ってくれたことをしっかりお礼しない限りは、自分が後悔するであろう。
「こうして同郷の人間に出会えたことも何かの縁だ。これから何かあったら、すぐに頼ってくれて構わない。」
「ありがたいです。宗方さんも僕たちを頼ってくださいね。」
裏の無い笑顔でそういう彼は、なんと未来の日本から来たそうではないか。いつしかお互いに故郷の話を聞かせあってみたいものである。
「そういえば、ムナカタさんってあんまり女性らしくないですよね。名前もカッコいい感じだし!」
「ニーナ、それは少し失礼だよ。それに、ムナカタは名前じゃなくて、名字だよ。」
「あ、失礼しました!悪気はなかったんです!名前じゃないんですね…エルフには名字が無いので間違えちゃいました。あの、お名前はなんて言うんですか?」
少し厄介な流れになってしまった。確かにこんな堅苦しい喋り方では、いずれこうなるのではと思ってはいたが…
「こ、これはだな……そうだ、長い期間武士として戦ってきたから……男勝りになってしまったとでもいうか………」
しどろもどろになりながらもそう答えると、その様子を見た二人が突然笑った。
「なんだ、本当のムナカタさんは女の子然としているんですね。そっちの方が自然で素敵だと思いますよ?」
「そーですよ!もうここはもといた場所じゃないんですし、それに凄くかわいいじゃないですか!女の子らしく喋ったほうが、絶対いいですよ!はい、約束ですよ!女の子らしく喋ってくださいね!」
女の子然、とはなんだ。この二人より長い間男として生きているのに、無意識に出た言葉について女らしいなどと言われ、ひどく腹が立つし情けなかった。
「すまない、こればかりは直せない。別に某の喋り方なんて、どうでもいいではないか。そんなことよりも町に早く帰ったほうがいい。」
「良くないです!それに、某ってなんですか!聞いたこと無いですよ、そんな一人称!」
「そうですよ、どうせなら一人称も変えましょう?あ、名前も教えてください!」
「………麗奈だ。宗方麗奈。」
これ以上とやかく言われたくはなかったし、反応出来なくても困るだろうから、麗奈の名を借りた。
「素敵な名前ですね!麗奈さんは美人さんですし、全然戦う人には見えないですよ!だから、女性らしく一回してみませんか?」
素敵な名前だとか美人だとかは別にしても、戦えそうにないと言われるのは酷くムカついた。向こうにはこちらが、男らしくなってしまったことを悔いている美女にでも見えてているのだろう。慰めのつもりの言葉が、容赦ない追撃と化していた。
「…儂
わし
。」
「ダメです!」
「…我輩。」
「却下です。」
「俺、愚生
ぐせい
、小生、おい、自分、朕
ちん
、麿
まろ
!」
「ぜんぜんダメです!ダメダメです!なんでそんなのばっかりなんですか!ちゃんとやってますか!?」
「それにそんな男の人のばっかり……あたし、うち、妾とか、むしろ名前呼びとか!」
「あー!それいいですね!ニーナとお揃いです!麗奈って呼びましょう!凄く似合いますよ!素敵な名前ですし!」
あぁ、もしも二人が恩人でなかったなら。今ごろ愛刀が彼らの頭と体を永久の別れに誘っていたのに。
「……名前呼びなんてもっての他だ。……某がだめなら……我、ならどうだ。昔そう喋っていた女性に会ったぞ。」
この提案が却下されたら、いくら恩人と言えども、もう我慢する気は無かった。
「我、ですか……だめです!結局男の人みたいじゃないですか!もう名前呼びで決定です!いぇーい!」
満面の笑みで拍手をしてくる二人をよそに、立ち上がり荷物を背負った。
「ほら、町に向かうぞ。某は先に出ているからな。」
何をいっても無駄。そう思って、二人から逃げるように走って森へ出る。
「あー!!また某って言ったー!許すまじですよ!ちゃんと麗奈って言ってください!それに、そっちは町じゃないですよーーー!!!」
結局、顔を染めつつ二人の元へと戻ることとなった。
「麗奈さんは、特殊な力を持ってるんですか?」
町へ向かう途中に、和哉が突然言い出した。
「……どうしてだ?」
そんなもの簡単に答えるわけがない。こちらの反応を伺ってるようでもない。むしろ、どこか不安そうな顔である。
「いえ、麗奈さんはとても強いみたいですし、なにか力のような物で戦ってきたのかな、と思って……」
「……そう簡単には教えられないな。持っているにしろ持っていないにしろ、情報は命に関わる。会ったばかりの君達には、教えられない。」
反応がほぼ答えになってしまってはいるが、別によかった。この二人を疑う気は元よりない。
「はい!ニーナは、ありますよ!先祖代々の、素敵な力が!」
ニーナが突然手をあげて言った。彼女が力を持っているというのは、初耳である。少し気になりはしたが、こちらから聞くつもりは無かった。情報は命に関わる。なんて言っておいて聞くのは、呆れられるだけだ。
「……どーして反応してくれないんですか!驚いて貰えると思ったのにー……」
頬を膨らまして拗ねている姿は、幼さなさをの残した彼女の魅力を十分に引き出している。もし、麗奈に出会っていなかったら惚れてしまうくらい。……和哉はどうやら惚れているらしい。口を半開きにしながらニーナを見つめていた。
「いやいや、某……れ、麗奈も驚いたよ。ただ、詮索したら悪いな、と思ってな。」
さっきまで拗ねていたのに、名前呼びをしなかったらすぐに睨まれた。思わず直した途端、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ニーナの力は、雨乞いなんです!和哉さんには少し見せましたけど、舞を踊ることで神様に頼んで、天候を操ってもらうんです!それで、麗奈さんを連れて洞窟に向かったあと降るようにしたんですよ!」
「それってさ、ニーナの好きなようにお願いできるの?いつ、どこで、どのくらいの雨をー、とかさ。」
「もちろんです!舞の内容を変えれば、いろんなことができますよ!曇りにするだけとか、雷を落としてもらったりとか!」
「へぇ!それは凄いな。雷なんかが降ってくるようじゃ、勝ち目なんかないな。」
よく家や木が燃えたりしているのを見る限り、雷は相当威力があるのだろう。
「凄いなんてもんじゃないですよ!雷って、直接当たらなくても近くに落ちるだけで、死んじゃうかもしれないんですよ。とてつもなく強い力なんじゃ…」
「んー、でもそんな遠く離れた所には落とせないですし、舞をする関係上時間もかかるし敵とかがいたら使えないですよ。もし襲われたら、ニーナとカズヤは大人しく麗奈さんの後ろに逃げるべきです!」
何故か自慢気にニーナが胸を張った時、開けた道に出た。
「町まで、あと少しですね。頑張りましょう。」
この二人との道中は意外と楽しい。目的が同じであれば、今後も一緒に行動することになりそうだ。麗奈のもとへ少しでも早く戻るために、頑張らなければならない。拳にぐっと力を込めると、どこからか大きな腹の音が響いた。
「麗奈さん、町にいったらお昼をたべましょう。それまで、あと少しの辛抱です!」
「もう、カズヤはデリカシーが無いですよ!女性にそんなこと言うなんて!麗奈さんが恥ずかしがってるじゃないですか!」
「恥ずかしがってなんかいない!」
ニーナの言葉に止めを刺された。簡単に朱に染まった頬を、二人から背けてぎゅっと掴んだ。