麗奈さんは、とても面白い人であった。
行動の至るところに、堅苦しい言葉使いに似合った男らしさが見られる一方で、まるで純真無垢な少女のような反応を示すことが多々あった。たまに何故か睨まれる時があるものの、優しく礼儀のある人だ。僕自身ニーナと少しの間話をしてきたので、女性慣れてきたところもあるのかもしれないが、麗奈さんとは何故か話しやすかった。普段なら言えないような歯の浮くような台詞も躊躇せずに言える。自分の成長を感じ、少し嬉しい。
町に向かう道中では、ニーナと麗奈さんが二人で喋っていることが多かった。といっても、ニーナが高いテンションで話しかけるのを、麗奈さんが疲れた様子で対応しているという形だ。僕はその後ろを追いかける形で歩いていたが、とても不思議な気分だった。
ニーナは色白で、金髪碧眼。少し大きめの胸、細くくびれた腰、まるでランウェイを歩くモデルのようなスタイルである。鈴の音の様な声で溌剌と喋る姿は、日本にいた頃によく見たエルフのイメージそのままで、明るい性格と純粋な笑顔がよく似合っている。まだ若いこともあってか、たまに天然なのもかわいらしい。ニーナと一緒にいると、自然と胸が暖かく感じることが多い。
麗奈さんもまた、ニーナとは異なる美しさを持っていた。顔のパーツはどれも整っていて全体的に淑やかな印象をうけるが、切れ長の目が大人の女性らしい妖艶さを持っている。豊満な胸、細い腰と、ニーナと同じくらい抜群のスタイルである。昔の時代の女性であると思われるのに、身長が高めで165cmくらいだ。自分が175cmあるからあまり気にならないが、ニーナと並んで立つ姿は少し異様ではある。かんざしで纏めてある長い髪は、艶のある黒で美しい。麗奈さんの美しさは、日本人だからか身近に感じられ、思わず見とれてしまうことも多い。
こんな絶世の美女とでも呼べる二人と、平凡な学生である僕が歩いて、喋っている。現実感なんてほとんど無い、この夢のような時間がもう少し続けばいいな、と思っている自分がいることが、不思議でたまらなかった。こんな感覚は今までに味わったことが無いし、なにより純粋な気持ちで人と接する経験なんてほとんど無いのに、親しみを持って話せている。自分でも、理解できない感情が渦巻いている。見知らぬ土地で意味わからない状況の中でも、取り乱さないでいられるのは二人のおかげかもしれなかった。まだ少ししか一緒に過ごしてないものの、今のようにこの二人とは、一緒に歩める気がした。
ようやく町に着いたときには、太陽が真上に登ってきていた。
「ベルホルトさんから返信はまだないけど……一応向かってみよう。何かあったかも知れないし。」
無事に麗奈さんも助けられたし、マンゴスチンを届けるついでに、互いを紹介しようと思っていた。麗奈さんも何か聞きたいことがあるかもしれないし、ベルホルトさんも喜ぶだろう。
ベルホルトさんは普通に店で接客をしていた。話を聞くと、何か問題に巻き込まれていたのではなくただ連絡に気がついていなかったらしい。あんなに嬉しそうにスマホを持ってはいたが、連絡をチェックする習慣がなかったようだ。
「いやぁ、悪かったなぁ。まぁでも、その背の高い姉ちゃんもなんも無かったんだから結果オーライだな。んで、これが報酬。この後はどうするんだ?まだ仕事してくか?」
これからのことは、しっかり相談してから決めなくてはならないだろう。ベルホルトさんの店に着いてからどこか浮かない顔をしている麗奈さんも気になるし…
「もしかしたら、後でお願いするかも知れないです。あと、こちらの麗奈さんにも色々教えてあげてもらえますか?聞きたいこともあると思うので。」
「おうおう、全然いいぞ。ベルホルトさんは心が広いからな。」
ベルホルトさんが笑顔でサムズアップすると、黙っていた麗奈さんが口を開いた。
「実はまだ聞きたいことも纏まっていないのだ。悪いが、相談した後に聞かせて貰う。」
「わかったわかった。でももし今晩この町に泊まるなら早めに宿探しといた方がいいと思うぞ。毎日夜になると飛び込みの客が多いからな。俺はこのあと少し店を開けるが、夕方ならいる。来るなら夕方にしてくれ。」
ベルホルトさんは何やら先約があるようで、かなりウキウキしているように見えた。普通のおじさんがウキウキしている姿は目にも当てられないが、彼がホビットであることが助けとなって、目を背けずには済んだ。
「わかりました。じゃあ、相談がてら町を歩いてきますね。………あ!あと、スマホ使ってた人ってどんな人かわかりますか?」
「あー、スマホ使ってた人なぁ。何人か見たが、皆違っていたよ。砂漠の民の様な浅黒い肌の人もいたし、そっちのニーナちゃんのように白い肌の人もいたな。と特に共通点は無いような気もするが……どうだ?」
「……なるほど、わかりました。ありがとうございます。もし、スマホを持ってて、僕のような肌の色で黒い髪の人が来たら連絡頂くことってできますか?もしかしたら同郷の方かも知れないので。」
「いいぞ。まぁそんな感じの奴は、兄ちゃん以外にあんまり見たことないけどな。」
日本人がベルホルトさんにスマホを見せていたことを期待していたが、そう上手くもいかなかった。でも、自分に近い所から来た人がいるのは確かだし、情報収集の助けになるかもしれない。
ベルホルトさんの店を離れ適当に歩く僕たちは、中央の噴水広場にたどり着くと、座ってこれからについて話すことにした。
「皆さんは、どうしたいんですか?僕は、元の世界でやらなきゃならないことがあるんです。だから、できる限り早くこの世界を創ったっていう方にあって、返してもらえないか聞く予定なんです。皆さんが良ければ、なんですけど………一緒に行動してくれないかな、と思ってて。僕一人より断然心強いし、なにより一緒にいて……その、とても楽しくて……もっと一緒に居たいんです!………だから二人の意見を聞きたいなぁと思ってて…。」
正直そんな素直に言ってしまった自分に驚いていた。言ってしまってから、二人になんて言われるか怖くなって、無意識に奥歯を噛み締めた。出会って一日くらいしかたってない人間に、しかも異性である人物に、そんなことを言われたら嫌な気分になるかもしれない。
しばらく、嫌な沈黙が続いた。
「あの、嫌だったら断ってくださっても……」
自分からそう提案したと時、ニーナが急に手をあげて言った。
「はいはい!ニーナは、一緒に行きますよ!知らない世界をこうして見れてるだけで楽しいですし!それに、ニーナも楽しかったですもん!もっとたくさん、二人のことを知って仲良くなりたいです!だから、どこまででも着いていきますよ!」
ニーナは、輝くような笑顔でそう言った。無理して言ってるのかとも思ったが、そんな様子は見受けられなかった。ほっとして麗奈さんを見ると、何か深刻そうな顔をして俯いていた。
「あの…麗奈さんは、どうですか?」
僕の問いかけに顔をあげると、彼女はゆっくりと口を開いた。
「………あぁ、某も和哉に着いていく。目的が一緒であるからな、一人よりも誰かといた方がいいだろう。色々迷惑をかけるかも知れないが、こんな某であればよろしく頼む。」
ニーナに睨まれても一人称を変えずに、彼女はそう言った。僕は最善の結果に思わず笑顔となった。
「迷惑なんかじゃないですよ!むしろ麗奈さんにお世話になっちゃうと思います。……じゃあこれから二人ともよろしくお願いします。とりあえずは、情報を集めて創造者を探そうと思います。それで、僕とニーナがお金がなくてすぐには旅に出られないので……」
「金なら某が十分持っている。とりあえずは、某が払おう。それから旅先で稼げばいいと思う。少なくとも準備に一日は費やす。某が護衛をしてたときは、どんなときでも大事をとって一日は必ずや休んで、次の日の朝から出ていた。呪いのような理由もあるし、単純に疲れをためないためだが……それでどうだ?」
「ニーナもそれがいいと思います!そろそろ体も清めたいですしね。ここは麗奈さんに甘えて、お金出して貰いましょう!それであとで稼いで返せばいいですよね?」
「じゃあ、そうしましょう。麗奈さんには悪いですけど、お金お願いします。後で絶対返しますので。……じゃあ最初は……」
そこまで言ったところで、麗奈さんが突然口を開いた。
「宿を取りに行こう!」
「え?……あぁ、はい。わかりました。じゃあまずはベルホルトさんに言われた通り宿を取りに行きましょう。」
何故か鬼気迫る表情でそう言った麗奈さんに、僕もニーナも、首を傾げるばかりであった。