ソードアート・オンライン ロストオブメモリー 作:myo-n
「はあっ!」
空中に青い軌道を描く短剣。
鋭く動く短剣は大きなイノシシのモンスター、ブレイジングボアを切り裂く。
「ブオオッ!」
ブレイジングボアは、断末魔の叫びを上げると光の粒子となって消える。
それと同時にレベルアップを告げる音が頭上で鳴る。
「よし…目標してたレベルまで上がったな」
左手でメニューを開き、自分のステータスメニューを確認する。
今のレベルは5、ステータスは攻撃3素早さ4防御3の割合で育てている。
俺は短剣使いなので素早さは高めに上げなければならないからこの割合がちょうどいいのだ。
軟すぎず弱すぎず、ちょうどいい感じに育てていきたい。
自分のステータスの育て具合を再度確認したところで、時間を確認する。
このSAOの時間はリアルと同じ時間律で動いているゲームだ。
だから、うっかり熱中していると夜中までやってしまいそうなので時間は常に確認しておかないといけない。
「今の時間は…5時半前か」
腕を組んで一旦ログアウトしようか迷う。
少し考えた末、風呂に入っていない事を思い出したためログアウトする事にした。
少し名残惜しいが、またログインすればいい。
そう思い左手を下ろしメニューを開く。
「さて…ログアウトする―――あれ?」
ログアウトしようとしたところで違和感に気づく。
メニューの一番下…そこにあるはずの物がない。
ログアウトボタン―――このSAOから抜ける為に必要な物。
それが…ない。
もう一度メニューを見直す、しかしログアウトの欄は無い。
「バグか?いや…最新のゲームに限ってそれは考えにくい。だとしたらサイバーテロの類か?いやもしかしたらこれはイベントなのかも…」
様々な可能性が頭に浮かぶがどれも確証は得られない。
しかもこの現象が俺だけに起こっているものなのかそうでないのかすらもわからない。
だってここ圏外だし、更にここは初心者が戦うには少し無理があるだろうと思うレベルのモンスターが湧いてくる場所だ。
一応周りを見渡してみる、が誰も見当たらない。
取り敢えずこのバグがどういう物なのかを確認したいので、急いで町に戻ろうとする。
―――――――ゴーンゴーンゴーン…
町に帰ろうとした時、何処からか鐘の音が聞こえる。
「鐘…?ここら辺に鐘なんてあった―――か?」
疑問を呟いている途中、気がついたら始まりの町の広場にいた。いや、飛ばされたと言うべきか。
「強制転移…!?何で始まりの町の広場に…?」
周りを見渡す。
どうやら飛ばされたのはどうやら俺だけではないらしい。
SAOプレイヤーが大勢いるのがわかる。
事情を知っていそうな奴は…いなさそうだ。
集められているプレイヤーの大半が『何かのイベント?』と喋っているのが聞こえる。
嫌な予感がする、それもとてつもなく悪い予感だ。
そう思った次の瞬間、悪い予感が当たるかのように上空が赤く染まる。
「なんだなんだ?」
「何かのイベント?」
「きゃー怖ーい♪」「大丈夫さ、俺が傍にいるよ」
「おい、どうなってんだ!?」
状況の変化に周りが戸惑う。
しかしそんな戸惑いは注目に変わる。
なんと赤い空からにじみ出るかのようなどろどろとした物が流れ落ちてきたからだ。
流れ落ちてきた物は徐々に形を成していき、大きな人型のローブ姿になった。
「あれは…ゲームマスターか?」
暫くすると、人型のローブは喋りだした。
【プレイヤーの諸君。ようこそ、私の世界へ】
周りは『何だ、ゲームマスターか』と言ったノリで暴言を吐いたりしている。
しかし、一部の奴らはこの時に違和感を覚えたはずだ。
人型のローブはまた喋る。
【私は茅場晶彦、今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ】
「茅場晶彦…何でSAOを創った人間がここに?」
【プレイヤー諸君は、既にメニューからログアウトボタンが消えているのに気づいていると思う。
しかしこれはゲームの不具合ではない。
繰り返す、不具合いではなくソードアート・オンライン本来の仕様である】
「仕様…?」
【諸君は自発的にログアウトする事はできない。
また外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除もありえない。
もしそれが試みられた場合、ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが諸君の脳を破壊し生命活動を停止させる】
「なんだよ、つまんねえ冗談。早く行こうぜ」
「おう、そうだな。うわっ!何だこれっ、出られないぞ!!」
茅場晶彦の話を本当だと思っていないプレイヤーが外に出ようとする。
しかし、謎のバリアに弾かれて出られない。
【残念ながら現時点でプレイヤーの家族、友人などが警告を無視し、ナーヴギアを強制的に解除しようと試みた例が少なからずあり、その結果213名のプレイヤーがアインクラッド及び現実世界からも永久退場をしている】
「嘘だろ…?」
「冗談じゃねえ!!」
「ふざけんな!」
プレイヤーの怒号を無視して茅場晶彦は話を続ける。
【ごらんの通り多数の死者が出た事を含め、この状況をあらゆるメディアが繰り返し報道している。
よって既にナーヴギアが強制的に解除される危険は低くなっていると言ってよかろう、諸君には安心してゲーム攻略に励んで欲しい】
「ふざけやがって…!」
茅場に対して怒りが募る。
しかし怒りが爆発したところでどうかなるわけでもない。
【しかし、十分に留意してもらいたい。
今後、ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。
ヒットポイントが0になった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し同時に……】
【諸君らの脳はナーヴギアによって破壊される】
自分のHPがゼロになった瞬間、そこで人生ごと
ぞっとしない話だ…
【諸君らが解放される条件はただ一つ、このゲームをクリアすればよい。
現在君たちがいるのはアインクラッドの最下層、第一層である。
各フロアの迷宮区を攻略しフロアボスを倒せば上の階に進める。
第百層にいるボスを倒せばクリアだ】
ざわめきが周りに起こる。
【では最後に諸君らのアイテムストレージに私のプレゼントが用意してある。
確認してくれたまえ】
メニューを開き、自分のアイテムストレージを見てみる。
そこには手鏡と表示されたアイテムがあった。
「手鏡?」
オブジェクト化して取り出してみる。
なんてことは無い、普通の手鏡だ。
これは一体?と思っていると、自分の体が青く光る。
「うおお!!?」
全身を覆う光、やがてその光が収まると周りからまたどよめきが訪れる。
何か目線が低くなったような気がする。
何気に、持っていた手鏡をもう一度見る。
「何だよ…これ」
そこにはゲーム内でのアバターの姿ではなく、現実世界での俺の姿が鏡に映されていた。
周りを見る。よく見ると隣の奴の顔が変わっている。
他にも女だった奴が男になってたり見た目より老けていたりしている。
【諸君は今、何故と思っているだろう。
何故ソードアート・オンライン及びナーヴギアの開発者の茅場晶彦はこんな事をするのか…と。
私の目標は既に達せられている。
この世界を創りだし、鑑賞するためにのみ私はソードアート・オンラインを作った。
そして今、全ては達成せしめられている。
以上でソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。
プレイヤー諸君、健闘を祈る】
茅場晶彦はそう言い切ると、ドロドロに溶けて消えてしまった。
赤い空が青い空に戻り、出られるようになる。
しかし回りは動こうとしない。
「………」
『これはゲームであって――――遊びじゃない』
茅場が以前、テレビ番組で言っていた言葉だ。
彼の言葉は真剣そのもの、恐らくこの事も嘘ではないだろう。
HPがゼロになれば…その時点で〝死〟。
現実に帰るにはこのゲームをクリアしなければいけない。
しかし…できるのだろうか、そんなことが。
「……っ!」
気がついたら俺の体は動いていた。
間違いかとも思えるが、これは正解だ。
さっき茅場が言っていたことが事実だとしたら、まずしなければいけないことは自身の強化。
だがこの町で狩り続けていれば他のやつらも参戦してすぐにモンスターがいなくなる。
となると必然的に次の町に移動しなければいけなくなる。
町を出て街道を走る。
目指すは次の町、そこでレベリングを暫くしよう。
「グルルルッ!!」
道の途中でモンスターが沸く。
向こうはこちらに気づいたようで突進してくる。
それを俺は短剣で受け流して、ナイフで体をなぞるように切る。
モンスターは一発で粒子となって消える。
モンスターが消えた所で、立ち止まって叫ぶ。
「こうなったらやってやる!俺はこのデスゲームをクリアしてやる!茅場晶彦!!!」
こうして俺のSAO生活が始まった。