機竜使いの異世界訪問記 作:水や氷系統が好きな人
「授業を始める前に、クラス代表戦に出場する代表者を決めなければならん。クラス代表者というのは簡単に言えばクラス長のことだ。一度決めたら一年間変えられないからそのつもりでな」
千冬は授業が始まるなりそう切り出すと、クラス中がざわめきたつ。
ルクスにとってはクラス長の仕事をこなすことなど今までしてきた雑用の仕事などに比べたらたいしたことでもないのだが、いかんせんルクスとフィルフィはこの世界の調査や幻神獣の討伐任務を行わないといけないため、できたら遠慮しておきたいところだったのだが。
「自薦他薦は問わないがどうだ?」
ルクスは嫌な予感に襲われた。
この女子校でそんなことを言っちゃったら…
「はい!私は織斑君を推薦します!」
「私も織斑くんがいいと思います!」
「私はルクスくんがいいです!」
「うん、私もルクスくんに投票します!」
千冬の言葉に応じるように何人ものクラスの女の子たちが一夏とルクスの二人を次々に推薦した。
「もういないか?それではクラス代表者の候補者は、織斑一夏とルクス・アーカディアの2名でいいな?」
ルクスはこの必然ともいえる流れに天をあおいだ。
そして、一歩遅れて…
「って俺!?」
一夏が自分も推薦されていたのを認識したのか、驚いたかのように立ち上がった。
「馬鹿者、候補者はお前とアーカディアの二人だ。そして、立つな、邪魔だ」
「いや、そういうことじゃなくて!俺はやらないぞ!」
「自薦他薦は問わないと言った。推薦されたものに拒否権はないから覚悟しろ」
「い、いやでも… ルクスはどう…」
「待ってください、納得がいきませんわ!」
ルクスに助けを求めようとしていた一夏の声を、甲高い少女の声がさえぎった。一夏やルクスがその人物に目を向けると、休み時間の時に話しかけてきたセシリアという少女だった。
「そのような選出は認められませんわ!大体物珍しいからといって男がクラス代表になるなんていい恥さらしで、このわたくし、セシリア・オルコットにとって、とてつもない屈辱ですわ!」
「おい、ちょっ…」
「大体、クラス代表者は実力で選ばれるべきで、そうなればこのわたくしが選ばれるのが当然ですわ!それなのに、入試で教官を倒した織斑先生の弟さんはまだましな方としても、そこの男性がなるなんて信じられませんわ!」
ルクスはセシリアの態度を見てると、かつての旧帝国での男尊女卑の風潮に染まりきっていたルクスの父である皇帝陛下や、幼いフィルフィに罪を擦り付けようとしていた兄の姿と、目の前にいるセシリアが重なるような気がした。束やクロエからこのような人物でこの世界が溢れかえっていることは聞いてはいたが、実際に目にするとまた違ったように感じられた。
「ルーちゃんは、弱くなんかないよ。ルーちゃんは、あなたよりもずっと強くて、優しいよ」
ルクスが言葉を発する前に、隣に座っていたフィルフィが立ち上がって淡々と、いつもの口調でセシリアに話しかけていた。
「なっ、なんですの?あなたの幼馴染みを庇うのはかまいせんですけれども、入試で教官を倒せてもいない彼が私よりも強いというのはありえませんわ!」
「ルーちゃん、今日の朝、あの人に勝ってたよ?」
フィルフィはセシリアに応えるかのように、千冬を見ながらいった。フィルフィの発した言葉と、フィルフィの目線をみて、生徒たちは驚きのあまり固まってしまった。フィルフィは今、公式戦で無敗の世界最強である織斑千冬を、今日の朝『二番目の男性IS操縦者』であるルクスが倒したと言っており、フィルフィやその他大勢のクラスの生徒達の目線の先にいる千冬もそれを否定する素振りを見せていないからだ。
「ちょっ!フィーちゃん!?今、それを言っちゃダメだって!というか、なんで疑問系!?」
誰も話していないシンと静まり返った教室のなかで、ルクスのフィルフィへ問いかける小さな声が教室にいるすべての人の耳に届いた。
「途中で寝ちゃったから」
議論終了。
ルクスはフィルフィのフィルフィらしい理由に沈黙した。
「えーと、フィルフィさん?それって嘘よね…?」
「そうよ、千冬様が負けるはずないわ!」
「きっと、千冬様が手加減なさったのよ」
ルクスが沈黙してからはこの教室にいる者は誰もしゃべらなくなった。一夏もセシリアも口をポカンと開けてルクスを見つめている。その空気に耐えかねたのか一人の女子生徒が言葉を発すると、次の瞬間次々に生徒達はしゃべりはじめた。
「静かにしろ。アーカディアが今日の朝、アーカディアの入試代わりの模擬戦で私に勝ったのは本当だ。最もアーカディアは専用の機体を、私はこの学園に配備されている機体を使っていたがな。ついでに言うと、私のことを『あの人』と呼んだアイングラムも、そこにいる山田先生と戦って勝っている」
そう。ルクス達が今日の入学式に参加していなかったのは、今日の朝クロエに付き添われながらこの学園にやって来たルクスとフィルフィは、入学式が行われている時間帯にルクスは防御重視に改造してある汎用機竜《ワイバーン》で『打鉄』を纏った千冬と、フィルフィは神装機竜《テュポーン》で『ラファール・リヴァイヴ』を纏った山田先生とそれぞれ交代でアリーナを使って、入試代わりの模擬戦という名の、ISと装甲機竜の比較のための模擬戦を行っていたからなのだ。模擬戦の結果はそれぞれ僅差でルクスが、圧倒的な差でフィルフィが勝利をおさめた。
結果、互いに最高級の操縦者が操縦していた場合
神装機竜>>>汎用機竜>量産型IS
といった具合の性能差になることが分かった。
最も、七竜騎聖の隊長マギアルカや、副隊長シングレンといったルクス達の世界の異次元クラスの人物が扱えばこの結果はどうなるかは分からないのだが。
千冬の言葉が終わると、ルクスやフィルフィに感心する者、いまだに驚きから立ち直れない者、千冬が負けたことに対して絶望している千冬信者など、なかなかカオスな状況ができあがった。
そんな中、
「納得できませんわ!こんなに顔が子供っぽくて、幼馴染みの少女に頭の上がらない男の人が織斑先生に勝っただなんて!そんな冗談は要りませんわ!」
セシリア・オルコットが黙っていなかった。おそらく、彼女のプライドが、理想の男性像がルクスが世界最強の女性、織斑千冬に勝ったという事実を認めたくなかったのだろう。
「ちょっ!子供っぽいって!人が気にしていることをっ…!」
クルルシファーさんと最初に会ったときにも子供、子供って言われたんだけどっ!
ルクスは、セシリアの言葉に昔の古傷を抉られたかのような気持ちがした。
「おい!セシリアだったっけ?千冬姉もルクスに負けたって認めてんのに、嫉妬かなんか知らねぇけど、お前がいちいち言うことじゃねぇだろ。しかもルクスの実力と顔が子供っぽいとか関係ねぇだろ」
一夏のセシリアへの言葉に、この時ルクスは初めての男友達に今までで一番の感謝をした。一夏の次の言葉が発せられるまでは…
「まぁ、確かにルクスは幼く見えなくもないけどな」
「フォローされてから落とされたっ!?」
ルクスは悟った。どの世界においても自分の顔が子供っぽいと言われるのは避けられないことだと…
「あなた達ねぇ!こうなったら決闘ですわ!わたくしがあなた方二人とアイングラムさんの三人を倒して、このクラスで最も実力が高いことを証明してみせますわ!」
「おお、いいぜ。ハンデはどのくらいつける?」
「あら、さっそくお願いですの?」
「いや、そうじゃなくて。俺がどんくらいハンデをつければいいのかなって…」
一夏の言葉と共にいろんな声が巻き起こった。
「織斑君、それ本気でいってるの?」
「やめときなよ。男が女より強かったの十年位前までの話だよ」
「そうよ。そもそもセシリアさんは代表候補生なんだから、素人が敵うわけないって」
「でもルクスくんは千冬様に勝ったのよ。だから、千冬様の弟さんの織斑くんなら…」
「ええ、もしかしたらセシリアさんなんて10秒も持たない内に倒してしまうんじゃないかしら」
クラスの女子生徒たちも今までISが登場してから創られてきた常識と、ルクスという『織斑千冬を倒した』天才IS男性操縦者の登場によってISの男性操縦者のレベルがどのくらいの物なのか分からず、意見が分かれているようだった。
「もう、結構ですわ!ハンデがあった、なかったでわたくしの勝利に口を出されたくはありませんわ。この決闘ハンデなしの全力の勝負でいたしましょう。もちろん、あなたもそこのお二人もわざと負けたりしたらわたくしの小間使い、いえ奴隷にしますわ!」
「おう、いいぜ。その方が分かりやすいしな」
「あの~、僕とフィルフィってその決闘参加しないといけないの?」
セシリアと一夏によって決闘のルールが決まったとき、置いていかれていたルクスが熱くなっている二人に質問をした。
「当たり前ですわ!あなたとアイングラムさんを倒さない限り、わたくしの気がすみませんわ!」
「俺は、ルクスの戦いを見てみたいしな」
ルクスの決闘に出たくないという希望は、熱くなっている二人によって即座に却下された。そして、一夏の言葉に大勢のクラスメイトが賛同した。
これもしかして不可避ってやつなのかな…?
ルクスが困りつつ隣のフィルフィを見ると、「ルーちゃんなら大丈夫だよ」と言ってくれた。
「よし、話はまとまったな。一週間後の月曜の放課後、第3アリーナで模擬戦を行う。各自しっかりと準備をするように。その時までにこちらで組み合わせは決めておくからそのつもりで」