オーバーロード〜小話集〜   作:銀の鈴

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ある農民に転生した平凡な男の話です。


農民無双

目覚めると俺は赤ん坊になっていた。

 

なるほど、これが流行りの異世界転生というものか。

 

それが俺が最初に思った感想だった。

 

 

 

 

生まれてから三年が経った。

 

残念ながらただの転生だったようだ。

 

生まれたのは異世界ではなく、ただの農家だった。

 

ただし日本ではなく外国のようだ。

 

周囲の人間の顔は彫りが深く、美男美女だらけだった。

 

農村ですら美形揃いとは外国は凄いものだ。

 

もちろん俺も美形だった。前世では彼女もいなかったが今世では期待できそうだな。

 

 

 

 

生まれてから五年が過ぎた。

 

家の倉庫で刀を見つけた。

 

この時、俺の脳裏に雷光が走った。

 

俺は農民だ。そして刀がある。

 

まさかこれはアレか?

 

ツバメをアレするアレなのか?

 

俺は震える手で刀を掴む。

 

何か運命じみたものを感じた――気がした。

 

俺はこの日から剣を振るうことを日課にした。

 

 

 

 

生まれてから十年が過ぎた。

 

どうやら俺には才能があったようだ。

 

剣は“ふた振り”までは同時に振れるようになった。

 

裏山で素振りをしていると偶に現れるゴブリンも容易く屠れるようになった。

 

ん?

 

ゴブリンだと!?

 

独り言を言ってて初めて気付いたが、ゴブリンって前世ではいなかったよな?

 

今世では余りにも自然にいてるものだから気付くのが遅れてしまったな。

 

どうやら俺は本当に異世界転生をしたようだ。

 

そうなってくると魔法とかも存在するのだろうか?

 

魔法があるならツバメ返しだけだと苦しいな。

 

まずは魔力を自覚できるか訓練してみよう。

 

 

 

 

生まれてから十年と三年が過ぎた。

 

前世の記憶を頼りに“念”の修行方法を応用したら魔力を感じることが出来た。

 

魔力を全身に纏っての身体強化は恐ろしいほどの効果を発揮してくれた。

 

オーク程度なら無双が出来るほどだ。

 

そしてオーク相手に無双していて気付いたが、魔物を倒していると急に魔力量がアップする瞬間がある事に気付いた。

 

これはアレだな。レベルアップというものだろう。

 

ふふ、まるでゲームのようだが便利ではあるな。

 

倒せば倒すほど強くなれるのだからな。

 

よし、レベルアップをしながらツバメ返し以外の技も練習をしよう。

 

俺が自己流でここまで強くなれるのだから、この世界は化け物並の強者で溢れているだろうからな。

 

せめて国の兵士になれる程度の腕は欲しい。

 

安定した仕事に就いて、綺麗で優しい嫁さんが欲しいからな。

 

 

 

 

生まれてから十年と五年が過ぎた。

 

兄貴に嫁さんを貰ったから家を出て行けと言われた。

 

僅かばかりの餞別を手に俺は村を出ることにした。

 

少し期待していたが、村を出る俺を引き留めたり、追いかけてくる娘はいなかった。

 

念のため、幼馴染(金髪碧眼で超可愛い)に声を掛けてみたけど、『都会で成功したら迎えにきてね』と笑顔で返された。

 

ちょっと嬉しかったのが悔しい。

 

 

 

 

俺の生まれた村は凄い田舎らしく、都会までの道程は長かった。

 

途中で襲ってくるモンスターは多かったが、前世では地道な経験値稼ぎが趣味だった俺は、今世でのリアル経験値稼ぎにも励んだお陰でレベルだけは上がっている。フィールドモンスターなどは敵ではなかった。むしろ経験値稼ぎが出来てラッキーだった。

 

それにしても村での修行では魔法は覚えられなかった。

 

というか、覚える方法が分からなかった。

 

前世を思い出して『黄昏よりも昏きもの 血の流れより紅きもの …』などと覚えていた呪文を唱えまくっても無駄だった。

 

その姿を幼馴染(金髪碧眼で超可愛い)に見られて引かれてからは諦めた。

 

その代わり剣技は磨いた。

 

九頭龍閃。天翔龍閃。ツバメ返し。大地斬。海波斬。空裂斬。アバンストラッシュ。などの原作で修行方法が描かれていたものは習得できた。

 

それに気と魔力による身体強化は常に使用している。これは強化した状態を常にする事で身体を慣らすためだ。

 

当然のように内臓の機能も強化しているから解毒能力等もアップしている。

 

…やはり、呪文による強化も必要だろう。

 

都会にでたら魔法を覚えたいが、チャンスはあるだろうか?

 

それだけが心配だな。おっと、トロールの群れが現れた。経験値を稼ぐとしよう。

 

 

 

 

街についた。

 

ここは竜王国というそうだ。

 

門番に兵士になる方法を尋ねたら凄く歓迎された。

 

その日のうちに正規採用されたときは騙されているんじゃないかと疑ったが、単に人手不足だったらしい。

 

次の日からビーストマンとかいうモンスター駆除を担当することになった。

 

このビーストマンというのは強さはそこそこだが、その数が凄かった。

 

うむ、経験値稼ぎに丁度いい。

 

俺は他の奴に経験値を奪われないように率先してビーストマン駆除に務めた。

 

 

 

 

俺が生まれてからニ十年が過ぎた。

 

地道にビーストマン駆除をしていたら真面目な勤務ぶりが認められたようだ。

 

俺は竜王国の将軍になった。

 

ん?

 

将軍だと!?

 

俺は騙されているんじゃないかと思ったが、チビっ子女王が言うには人材不足らしい。

 

このまま是非とも竜王国で務めて欲しいそうだ。

 

そこでふと思い出した俺は、チビっ子女王に魔法を教えて欲しいと頼んでみた。

 

すると国中の高位の魔法使いが集められた。

 

ビックリしたが、効率よく魔法が覚えられた。

 

レベルアップに励んでいたお陰で魔力量などは十分だったみたいだ。

 

竜王国に現存する魔法は全て覚えられた。

 

その魔法を応用しようと試行錯誤していたら威力が大アップした魔法も使えるようになった。

 

チビっ子女王にビーストマンの大群を吹っ飛ばす所を見せてあげたら凄く喜んでくれた。

 

次の日、大将軍になった。

 

騙されているんじゃないかと思ったけど、チビっ子女王が言うには竜王国はもの凄い人材不足らしい。

 

大将軍になって、ふと故郷のことを思い出した。

 

『都会で成功したら迎えにきてね』

 

幼馴染(金髪碧眼で超可愛い)の言葉を思い出した。

 

今の俺は大将軍だ。

 

これは成功したといえるんじゃなかろうか?

 

チビっ子女王に相談してみたら、是非とも結婚して竜王国で家庭を築くべきだと熱弁された。

 

俺が結婚するならチビっ子女王が仲人をしてくれるそうだ。

 

いや、チビっ子が仲人?

 

そう思ったが、チビっ子女王はこれでも王族だから問題はないのだろう。

 

俺は故郷へ向かった。

 

何故か心配だからと、チビっ子女王も付いてきた。

 

 

 

 

「あら、久しぶりね。それでそこのおチビちゃんは貴方の子供かしら?」

 

いつもニコニコしてた幼馴染(金髪碧眼で超可愛い)が、見たこともないほどの醒めた目で俺を出迎えた。

 

こ、怖いです。

 

「ほう、妾の大将軍が惚気ていたとおり可愛らしい娘じゃのう」

 

チビっ子女王は、ブリザードのような雰囲気の幼馴染(金髪碧眼で超可愛い)に対してフレンドリーに接していた。

 

俺は初めてチビっ子女王に尊敬の念を感じた。

 

チビっ子女王の言葉で、幼馴染(金髪碧眼で超可愛い)は初めてチビっ子女王の身なりに気付いて高貴な人間だと察したようだ。

 

慌てて頭を下げる幼馴染(金髪碧眼で超可愛い)を優しく止めると、チビっ子女王は威厳に満ちていて、それでいて親しみを込めた態度でただの農村の村娘でしかない幼馴染(金髪碧眼で超可愛い)に接してくれた。

 

それはきっと俺の幼馴染(金髪碧眼で超可愛い)だからだろう。そして、俺の結婚……チビっ子女王が俺の結婚話も纏めてくれないかな?

 

俺はコソコソとチビっ子女王に小声で頼んでみた。

 

チビっ子女王は呆れた顔になったが、結局は快く請け負ってくれた。

 

その後、プロポーズぐらい自分でしなさい!って、幼馴染(金髪碧眼で超可愛い)に叱られてしまった。

 

 

 

 

俺と幼馴染(金髪碧眼で超可愛い)の結婚式は竜王国を挙げてのお祭り騒ぎになった。

 

結婚式代は幾らになるのだろうと心配になった俺だが、なんと竜王国の国費で賄ってくれるそうだ。

 

俺は騙されているんじゃないかと思ったが、俺は大将軍だから当然らしい。

 

俺の隣では金には厳しい幼馴染(金髪碧眼でいつも超可愛いが、今日はいつもより遥かに超可愛い)がニコニコしているから問題ないのだろう。

 

俺の幼馴染――いや、俺の花嫁(金髪碧眼で超絶可愛い)が俺の耳に顔を寄せてきた。

 

どうしたんだろう、疲れたのかな?

 

 

「貴方は知らなかったでしょうけど、私は子供の頃から貴方のことが大好きだったのよ。一緒に幸せになろうね――ブレイン」

 

 

やっぱり、俺の幼馴染は超可愛い。

 

 

 

 

 

 

 




農民が無双する話のはずが途中で出てきた幼馴染(金髪碧眼で超可愛い)の影響でこうなりました。不思議だね。

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