オーバーロード〜小話集〜   作:銀の鈴
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黄金といえば、彼ですよね。


最強と黄金、そして忠犬

グー。

 

いつもの様に小娘が、ガゼフをお供にして街を練り歩いている時のことだった。

 

妙な音が小娘の耳に届いた。

 

「あら、お腹が空いたのかしら?」

 

「ん? 今のは俺の腹の虫じゃないぞ」

 

ガゼフの腹が鳴ったのかと思った小娘だったが、それは本人によって否定された。

 

それなら誰かしら? と辺りを見渡す小娘。

 

グーキュルキュル。

 

再び鳴った音の方向に目を向けた。

 

そこに居たのは──

 

「汚ったない、仔犬ね」

 

──ズタボロの服を着た少年だった。

 

「こら、子供を仔犬呼ばわりするんじゃない」

 

ガゼフは年長者として口の悪い小娘を嗜めると、道の端で蹲る少年に近づいた。

 

「どうした坊主。親はいないのか?」

 

小娘を王国戦士団のブレーンとして採用したガゼフは、彼女が策定した数々の謀略によって王国に巣食う悪徳貴族達を失脚させていった。

 

敵対勢力が激減したランポッサⅢ世は、王国を健全化させるために数々の革新的な政策を実施していった。(政策顧問:ガゼフ。政策顧問秘書:小娘)

 

その際に行われた政策の一つに国営の孤児院運営があった。

 

スラムにいた孤児達の多くはその孤児院に入ったため、街中で孤児の姿を見ることは少なくなっていた。

 

もしも目の前にいる少年が孤児ならば、彼を孤児院に連れて行こうとガゼフは考えていたのだが。

 

「て、天使様…?」

 

「まあ、私が天使だなんて!──ガゼフ、この仔犬は気に入ったわ。拾って帰りましょう」

 

少年を気遣うように見ていたガゼフ。その隣で拾った棒を手にして少年をツンツンと突いていた小娘。

 

その小娘の姿を目にした少年が思わず呟いた言葉が、彼自身の運命を変えることになる。

 

「こいつが天使様だと? 坊主、お前の目は節穴みたいだな」

 

「そんな事はないわ。この仔犬の目は真理を見抜く賢者の目といえるわね。是非とも王宮で飼育しましょう。ねえ、ちゃんと私が自分でお世話をするから飼ってもいいでしょう?」

 

少年の言葉に呆れていたガゼフに対して、小娘はペットを飼いたいと親に強請る子供のようにガゼフに強請る。

 

そんな小娘の様子に、こいつにはちゃんとした情操教育が必要だな、と考えたガゼフは思いついた。

 

──小動物(仔犬)を飼うのは情操教育にいいんじゃないかな、と。

 

自分ではナイスアイデアだと思えたガゼフは小娘と目を合わせる。

 

なんだ? やんのかこら。といった感じでガゼフを見返す小娘。

 

思えばこの小娘には友達もいなかったな、と今更ながらに小娘の境遇を思いやるガゼフ。

 

母は早くに亡くし、父は頼りなく、二人いる兄はダメンズである。周囲の大人達は頭が良すぎる小娘を気味悪がり敬遠し、同世代の貴族の子供は近づきもしない。

 

こんな状況で子供がまともに育つわけがないとガゼフは思った。

 

そう考えればこの小娘は随分と頑張っているのだろう。

 

頼りない父親の代わりに政策を考えているし、王国戦士団のブレーンも務めている。俺の事務仕事だって下請けをしてくれているのだ。

 

……あれ、小娘に頼りすぎか?

 

ガゼフは少しばかり後ろめたい気持ちになった。

 

まだまだ幼く、遊び盛りの小娘に仕事をさせ過ぎていたことに気づいてしまったからだ。

 

ガゼフと小娘は遠慮のない間柄とはいえ、ガゼフの方が年上には違いない。もう少し彼女の事を気遣ってあげるべきだろう。

 

ガゼフは小娘の頭を優しく撫でる。

 

あら、セクハラかしら? そんな感じの視線を向ける小娘。

 

「ちゃんと最後まで面倒をみれるか?」

 

「ええ、もちろんよ! 私がお嫁にいってもちゃんと連れていくわ!」

 

小娘の返事にガゼフは満足そうに頷く。

 

「そうか。お前が嫁にいけるかどうかは微妙だが、その気持ちがあれば大丈夫だろう。仔犬を飼ってもいいぞ」

 

「本当に!? やったわ、あなたを飼ってもいいって!」

 

仔犬を飼う許可を得た小娘は飛び跳ねて喜んだ。その様子にガゼフは微笑む。仔犬も飼い主になった小娘が嬉しそうにしているのが分かるのだろう。飼い主と同じように喜んでいるのが微笑ましく思えた。

 

その様子を周囲で見ていた国民達は、変わり者の王女と王国戦士長のコンビがトリオになるんだな、という感想を抱いただけだった。

 

王国の民達は知っていたのだ。

 

最近、王国が住みやすい平和な国へと変わったのがこの変わり者コンビのお陰だということを。

 

その成果と比べれば、多少の奇行など気にするほどでもないと民達は大らかな気持ちで受け入れていた。

 

 

 

 

小娘が拾った仔犬は、飼い主にとても忠実だった。

 

飼い主に全幅の信頼を込めた瞳を向ける忠犬に小娘もご満悦である。

 

「うふふ、ほーら取ってこーい!」

 

「はい! ご主人様!」

 

小娘が投げた棒へと忠犬は駆けていく。そして忠犬が棒を咥えてくると小娘はちゃんと頭を撫でて褒めてあげる。褒められた忠犬はとても嬉しそうにしている。

 

そんな微笑ましい主従の姿を王宮の中庭で見つけたガゼフは思った。

 

──何かを間違えた気がする。

 

「……まあ、細かいことはいいか」

 

ガゼフは考える事をやめた。

 

 

 

 

「ラキュース・アルベイン・フィア・アインドラです。ご高名な王国戦士長様にお会いできて光栄ですわ」

 

「え……?」

 

王宮にて吃驚仰天な珍事が起こった。

 

なんとあの小娘に友達が出来たのだ。小娘から友達だと紹介されたガゼフが言葉を無くしても仕方ないだろう。

 

「え、ではありませんわ。何なのですかその態度は? ラキュースに失礼ですわよ」

 

「いえ、殿下。私は気にしておりませんわ。戦士長様もお気になさらないで下さい」

 

小娘に非礼を咎められるガゼフだったが、そのガゼフをラキュースが庇った。どうやら小娘の友達の割には常識人の様だとガゼフは感心した。

 

「いや、俺が礼を失していた。すまない、どうか許して欲しい。そして礼を言わせてくれ。ありがとう! この常識知らずの変人と友達になってくれて! どうか末永くこいつと仲良くして欲しい。人の気持ちがあまり分からない奴ではあるが、俺にとっては娘か妹のような奴なんだよ。きっと根は良い子だと俺は信じている。君にも信じてもらいたい。多少の奇行はあるかも知れないが大らかな気持ちで見逃してやってくれ。人と人は許し合って生きていけると俺は信じているぞ!」

 

「ガゼフッ、いい加減にして! 教育的指導キーック!!」

 

あまりなガゼフの言い草に小娘の見事なキックが炸裂する。

 

「戦士長様っ!?」

 

ラキュースの悲鳴じみた叫び声が聞こえたが、ガゼフはそれどころではなかった。いや、小娘のキックが効いた訳ではない。自分の目から涙が出るのを抑えることが出来なかったのだ。

 

部屋の隅では忠犬も貰い泣きをしていた。

 

「どうして号泣するのよ!! っていうかガゼフが泣いているところなんか初めて見たんだけど!?」

 

「いや、お前に友達が出来ただなんて感無量でな。ああ、俺の育て方は間違っていなかったんだ」

 

「ガゼフに育てられた覚えなんかないんだけど!?」

 

「ぷっ……ククッ…」

 

ガゼフ達のやり取りに堪えきれなくなったのだろう。ラキュースが口元を隠しながらも明らかに笑い声を漏らしていた。

 

「ちょっと! ラキュースに笑われたんだけど!!」

 

「うむ、笑い合える友がいる。素晴らしいことだな」

 

「だから笑い合ってんじゃなくて、笑われてるって言ってんのよ!!」

 

「お前が人を笑わせられるとは……長生きはするもんだな」

 

「だから笑わせてんじゃなくて、笑われているのよ!! それとガゼフは長生きがどうとかいうような歳じゃないでしょうが!!」

 

「フハハハッ、俺はまだまだお兄さんだからな!……なんならお兄ちゃんと呼んでもいいぞ?」

 

「衛兵ー! ここに幼女趣味の変態がいるわよー!」

 

ガゼフは、ラキュースの大きな笑い声を背にしながらその場を逃げ出した。

 

 

 

 

ラキュースは才能の塊だった。

 

周辺国家最強のガゼフからみてもその才能は確かなものだった。

 

「ほう、貴族のお嬢様とは思えん太刀筋だな。いいだろう、時間のあるときはお前の指導をしてやろう」

 

「ありがとうございます、ガゼフ様」

 

ラキュースに剣の指導を請われたガゼフは、彼女の太刀筋を見て指導をする事を決めた。順調に成長すれば己を超える戦士に成長すると見込んだからだ。

 

ちなみに彼女が貴族のお嬢様だという事は気にしなかった。そのため、後日アインドラ家の当主から苦情を受けたが、もちろんガゼフはそれも気にしなかった。

 

「ねえねえ、ラキュースが剣を習うなら私も一緒に習ってあげてもいいわよ」

 

小娘が妙な事を言い出した。

 

「お前が剣だと? まあいいか。試しに相手をしてやろう」

 

「うん、でもガゼフの剣だと私には重すぎるから短剣でいくわね」

 

「ああ、そうだな。お前の場合は敵を倒す為の剣術よりも、護身用の短剣術の方がいいだろう」

 

ガゼフは完全なる考え無しではなかった。少なくとも戦闘分野でなら優れている方に入れるだろう。それゆえ、王族である小娘には短剣術の方がいいと認めた。

 

「じゃあ、いくわよ!」

 

小娘はガゼフの懐に素早く入り込む。その思わぬ速さに一瞬だけ驚くガゼフだったが、すぐさま膝蹴りを繰り出した。

 

その膝蹴りを半身を切り躱した小娘は、ガゼフの脇腹に向けて短剣を突き出した。ガゼフは突き出された短剣の腹を払って方向を逸らす。

 

短剣を払われた小娘は、その力に逆らうことなく身体を回転させながら身を屈めた。

 

ガゼフの死角へと身体を沈めた小娘は、手の中の短剣を逆手に持ち替えてガゼフの膝裏に向けて差し込むが、ガゼフは鞘に入れたままの剣を地面に突き刺してその短剣を止めた。

 

短剣を止められた小娘はすぐさまその場を跳び離れる。

 

距離が離れた二人は視線を交わし合う。

 

ニヤリと小娘の口元が歪んだ。

 

ガゼフはその不敵な笑みを目にすると小娘に向けて言葉を発した。

 

「いや、おかしいだろ。なんでお前がそんなに動けるんだ?」

 

「あら、別に変じゃないわよ。自分の身体能力を正確に把握していれば簡単だわ。それに普段から最高のお手本が目の前にいるもの。逆にこの程度の動きが出来ないようじゃ運痴って言われちゃうわ」

 

「そ、そうか……」

 

暗に褒められたガゼフはそれ以上の言葉を失う。そして、ラキュースからの生暖かい視線が二人に向けられていた。

 

「あのっ! 僕もガゼフ様の御指導を受けたいです!」

 

妙な沈黙に包まれていたその場の空気を破ったのは忠犬だった。

 

「あ、ああ、そうか。それならお前も剣を振ってみろ。相手をしてやろう」

 

王国戦士長であるガゼフが指導するのは、本来なら部下である王国戦士団の者だけだったが、忠犬が空気を破ってくれたことに対して少し助かった思ったガゼフは特別に彼の剣を見ることにした。その結果如何によっては指導をするつもりであった。(小娘の友達であるラキュースは特別待遇である)

 

「はいっ、それでは行きます!!」

 

忠犬は威勢よく掛け声をかけると、ガゼフに向かって突進していき剣を全力で振った。

 

「……うむ」

 

その剣は容易くガゼフに止められた。

 

ドタバタと走ってきて、薪割りの様な大振りな一撃だった。

 

ガゼフは思った。才能の欠片すら無いと。

 

ラキュースは思った。執事でも目指した方がいいわと。

 

飼い主は思った。うちの子、弱可愛い♡と。

 

「どうですか! ガゼフ様!!」

 

忠犬は目を輝かせてガゼフに問いかける。自分の才能は貴方のお眼鏡に叶いましたかと。

 

ガゼフは答えを口にしようとするが、その純粋な目を前にすると言葉が出てこない。

 

いくら空気を読まないガゼフとはいっても純粋な子供には弱かったようだ。

 

「えーと、そうだな。ラキュースはどう見た?」

 

「ええっ!? 私ですか!?」

 

まさかの無茶振りだった。

 

「ああ、ラキュースは俺の個人的な弟子1号だからな。お前の眼力を俺は信じよう。さあ、彼の評価を教えてくれ」

 

「うぅ……そう言われてしまうと断りにくいです」

 

ラキュースは困った。素直な評価を口にすれば、彼は王国戦士長の指導を受けれなくなるだろう。指導を受けれる自分が彼の望みを断つなど優しい彼女には酷な話だ。とは言っても自分を信頼してくれた王国戦士長を裏切るような虚偽の言葉を口にする事は出来ない。

 

「あー、そのー、あれです。うんあれですね……うん、その………そ、そうだ! 殿下はどう思われますか? 殿下は言うならばガゼフ様の個人的な弟子2号ですわ! 私は弟子1号として弟子2号の殿下の観察眼を信頼しております! 忌憚のないご意見をお願いしますわ!」

 

まさかの無茶振り2号だった。

 

「あらあら、私にまで回って来ちゃいました」

 

小娘はにっこりと笑う。

 

その輝かんばかりの天使のような笑顔に忠犬は希望を見出した。もちろん、ガゼフには悪魔の微笑みにしか見えなかった。

 

小娘は希望に満ちた忠犬の視線をしっかりと真正面から受け止める。

 

小娘はこくりと忠犬に頷いてあげた後、天使のような微笑みを浮かべたまま言葉を口にした。

 

「うふふ、まったくの才能無しですわ。生まれ直してから出直して来なさいな」

 

「がーん!?」

 

ショックのあまりその場で蹲る忠犬。

 

ラキュースはそんな忠犬に一生懸命に慰めの言葉をかける。

 

ガゼフは可哀想だが仕方ないと溜息を吐く。

 

そして飼い主は──

 

「うちの子って、ヘタレ可愛いわ!!」

 

──とてもご満悦だった。

 

 

 




中二「暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)!!」
最強「ほう、中々の威力だな」
黄金「そうですわね。私ではとても真似できませんわ」
中二「フフ、我が炎に抱かれて地獄へと滅せよ」
最強「しかし聞いたことのない武技だな」
黄金「言われみればそうですわね。もしかしたらラキュースのオリジナルかしら?」
中二「ククク、穢れし闇の力は我以外では抑えきれぬ。決して過分な想いを抱くではないぞ」
最強「ラキュースみたいな力技はこいつには向かないからな。心配しなくてもこいつも分かっているさ」
黄金「そうね、私の場合ならスッといってサクッて感じかしら?」
中二「闇と混じりし黄金よ。人々の賞賛を浴びながら血に塗れる罪深き咎人よ。我はそなたを誇りに思おう」
最強「そうだな。こいつは意外と頑張り屋さんだからな。随分と強くなったと俺も思うよ」
黄金「……意外とが余計よね」

忠犬「どうして会話が成り立つんだ!?って突っ込んだら負けなのかな?」




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